帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

「ザマーミロ」



一週間経つの早くないですか?
前の話上げてからもう一週間経つとか冗談じゃねぇ
笹食ってる場合じゃねぇ!



三獣士を斬る! (後半)

ミャウは喜んだ

ミャウとて、声が無駄に大きくて、煩くて、暑苦しくかったとしても、仲間(ダイダラ)が殺されれば怒るくらいの人間味はある

仇であるレオーネはとっくに死んで生ゴミになって転がっている

行き場のない怒りを解消しようとレオーネの皮を剥ごうとしたところに、ナイトレイドの新手が現れた

 

(僕ってば、ついてる!)

 

そんなミャウと対照的にリヴァの頬に汗が伝う

 

(勝てない)

 

元将軍のリヴァにとって相手との力量差を図ることなど造作もない

相手が誰であろうと何であろうと、たとえ己が死ぬことになろうとも、主の命は絶対に遂行する

それだけの覚悟と信条を持っているリヴァであるが、思わずに怯んでしまった

新手はエスデスほどではないがリヴァにそう思わせるだけの実力があると感じさせた

咽かえるほど濃厚な殺気に何故、ミャウは気付かないのか不思議でならない

 

(勝つのは無理でも、逃げるくらいならギリギリ可能ではないか……?)

 

リヴァはそう考え、その事実に愕然とし、頭を振りかぶり弱気な己を追い出した

 

(馬鹿な!エスデス様の命令は絶対だ!逃走など許されるはずがない!)

 

覚悟を決める

新手は相当な使い手なのは確かだが、リヴァとて弱兵のつもりはない

相打ちすら叶わぬだろうが一矢報いるくらいは出来る

殺気こそ漏れ出ているが新手は仲間の死体に釘付けでこちらに目もくれない

水の量が心許ないが、殺るなら今の内だ

樽一つ分の水を手繰り寄せ数本の槍を形成する

ミャウはスクリームに口を付けるが、まだ演奏しない

仲間の死を悼んで手を出してこない相手を挑発するのは悪手であると理解している

水で形成された槍は静かにシナズの背後を取り囲む

シナズはレオーネの死を悲しんだ

レオーネは野性味があって逞しく美しい女性

抱く前に殺されてしまうなんて無常ではないか

世界の損失である

これはラバックが呼びに来るのが遅かったせいだ

村で娘をナンパして部屋に連れ込み、楽しんでいるところにラバックが無粋にも入り込んできたので、いい感じに蹴りを決めてしまい失神させたことを棚上げして責任転嫁するシナズであった

レオーネを殺した敵を生かしておくわけにはいかない

そして、(ゴミ)を哀れみ、見下した

それぽっちの水量でオールベルグの頭領を潰せるとでも思ったのか、と

射出された水の槍に虫がまとわり付き、爆ぜた

 

「な……ッ!」

 

リヴァは声を上げて驚いたのは、何も先手を潰されたからではない

水が操作できなくなっていることだ

爆ぜた水はゲル状になり、地面に落ちていた

 

「この()達は少し特殊で、その体液は液体を固体にしてしまうのよ」

 

シナズはリヴァの驚きを見透かしネタばらしをする

ブラックマリンは装着者が触れた()()()()液体を操ることが出来るが、逆に液体でなくなれば操作することが出来なくなるということでもあった

リヴァは何も言わない

シナズは会話のキャッチボールを望んでいるわけでもないので、構わず名乗り始めた

 

「我こそは死神オールベルグの亡霊

無情の影

汝を魂を同胞の手向けとせん」

 

開戦の合図だ

 

※ ※ ※

 

テーブルの下に潜んでいたブラートは聞いていた

インクルシオの透明化と石のようにジッと息を潜めることで完全に気配を消している

盗み聞きした限りだと、ナイトレイドの名を騙っていた容疑者はアカメとクロメ

名前はボスから聞いたことがある

ナイトレイドに勧誘されたという少女の名と、勧誘を蹴る理由になった少女の名だ

確証はないが、この二人が良識派の文官を討っていたらしい

 

(さて、どうするか)

 

ここで動くのは賢明ではない

何故か宮殿ではなく竜船にいる帝都使用人が、帝具使いである姉妹を牽制してくれている

姉妹が強硬手段に出た場合、使用人が率先して止めに入るに違いない

使用人に戦闘力があるのかどうか甚だ疑問だが

 

(この男は強い。だが、俺程じゃないな!)

 

姿は見えないがブラートはそう確信する

とことん、ブレない漢である

セレモニーは概ね平和に過ぎていく

 

※ ※ ※

 

「『オールベルグ』。帝国に滅ぼされたと聞いていたがナイトレイドに流れていたか」

 

伝説の暗殺結社の末路をリヴァは聞き及んでいる

オールベルグは、頭領や主力のメンバーは帝国の暗殺チームに倒され、アジトを帝国の帝具使いの占い師が探り出し、帝国の軍勢に乗り込まれ、壊滅した

その際、凄まじい抵抗で軍勢の六割を道連れにしたという

 

「おかげさまで私達(オールベルグ)の生き残りは二人っきり。逢瀬の時間は楽しかったけれど、チェルシー(あの子)、最後まで体を許してくれなかったのが残念ね。今はナイトレイドで建て直し中よ」

 

リヴァは、肩を竦めるシナズを注意深く観察しながら、ミャウに動きがないことを(いぶか)しむ

いつもならスクリームの無気力化の演奏を始めているはずだ

背後にいるミャウに視線を向けるわけにはいかない

その隙にオールベルグはこちらの首を取って見せるだろう

リヴァの心を見透かしたシナズは言う

 

「貴方は毒に耐性があるのね。毒の鱗粉は充分吸い込んでいるはずなのに元気ね」

 

「まさか……」

 

「私はレオーネの亡骸を前にして惚けているほど、優しくないわよ」

 

蛾が飛んでいた

リヴァは悟った

オールベルグがここに来たとき、既に先手を打っていたことを

リヴァは毒に耐性を付けているが、ミャウは特殊な訓練を積んでいない

危険だ

すぐに蛾を打ち落とし、ミャウの解毒をせねば命が危うい

その上に、オールベルグを抑えるか撃退しなければならない

そのためにもブラックマリンで操作する水が要る

水源はある

大きな川だ

そこまで行けば、『深淵の蛇』も『水龍天征』も使えるようになる

しかし、問題は重なる

距離は決して遠くないが、そこに辿り着くまでオールベルグはリヴァとミャウを数回殺してもお釣りが出るほど余裕がある

 

(ここで果てるか……)

 

腹を括って、懐から一本の注射器を取り出す

これは解毒剤ではない

その対極にあるものだ

これを使えば可能性は低いながら、一矢報いれるかもしれない

代償に生存は諦めなければならない

 

ふと、笛の演奏が始まった

 

それは力強い音色だ

ミャウはこの曲のテーマは『不退転』と言っていた

毒に蝕まれたくらいで獣は引かないと知れ

音がそう語っていた

レオーネが好きそうな曲だと思い、シナズは聞き入る

 

「奥の手『鬼神招来』」

 

スクリームは聴いた者の感情を自在に操作する恐ろしい帝具であるが、演奏の間に演奏者が攻撃されては全てが水の泡と帰す弱点がある

自己の強化のみに集中すれば、演奏の時間は短く済む

演奏が終わると、ミャウの小柄な体は筋骨隆々なものへと変じていた

口元から零れる血を拭い、ミャウはリヴァの前まで歩く

普段の残忍な性格から想像も出来ないが、ミャウは本人が思っているより仲間想いだ

彼は、外道だが同時に仲間のために命を張れる漢であった

 

「リヴァ」

 

リヴァは動かない

そんなリヴァに、もう一度呼び掛ける

 

「リヴァ」

 

聞こえている

分かっている

ミャウの意図が理解出来る

ここに二人残ったところで無駄死にだ

リヴァは目を伏せて振り返った

 

「……また、会おう」

 

去っていくリヴァに、ミャウは振り返らない

 

「あれ?追いかけなくて良かったの?」

 

「おかしなこと言うのね?貴方を殺してゆっくり追いかければいいだけでしょ」

 

シナズは、クルクルと日傘を回して遊ぶ

ミャウを見るその目は底冷えするほど、冷たかった

 

※ ※ ※

 

セレモニーは無事終わった

蚊帳の外にいるタツミは船旅に疲かれた体を伸ばしている

けれど、気を緩めることなく互いに互いを監視する者等がいた

アカメとクロメ、フランオスとメヌイ

そして、インクルシオの透明化の制限時間故に、一旦生身になっているブラートだ

仕事はまだ終わっていない

しかし、クロメは心底楽しそうに笑うのだ

 

(お姉ちゃんとのデート楽しかったなぁ)

 

何しに来たのか覚えているのか不安になりそうなものだが、任務のことは忘れていない

ただ、最愛の姉との(そこそこ)ロマンティックな船旅デートの思い出に浸るくらい許されよう

クロメはとてもとてもご機嫌だった

だから

 

(皆殺しは勘弁してあげるね!)

 

悪魔(シスコン)天使(美少女)の顔して微笑む

 

※ ※ ※

 

リヴァは森を駆ける駆ける

ミャウはもういないだろう

仲間の命と引き換えに手にした時間を無駄にはしない

死神が追い縋るより早く、川の水に触れる

水に触れさえすれば大技が使えるし、水を固める虫も圧倒的水量の前では無意味になる

森を抜け、水の音が近くなってきた

これで報われる

リヴァは背後を警戒していたあまりに気付けなかった

否、気付いた時には遅かった

川に沿って蟻の群があった

その蟻は巨大で腹部が歪に膨張していた

否、否、膨張を始めていた

やがて破裂した

リヴァは避けること叶わず、直撃した

足元から衝撃が叩きつけられ、爆炎がリヴァの皮膚を舐めるように焼く

 

「近くに水場があれば駆け込むと思ってたわ」

 

そこに罠を張れば容易く仕留めれる

予定通りに事が運んだと、シナズはほくそ笑む

しかし、多少、予想外のことが起きた

リヴァは爆発の衝撃を受けて尚、肉を焼かれて尚、前進を続けた

結果、川に飛び込んだ

水の中に飛び込んだ

ブラックマリンの本領を発揮出来るだけの、液体に触れた

シナズは警戒する

依然としてシナズの優位は揺るがないが、圧倒的な水量を相手取るのは骨が折れる

持久戦になる

沈黙が過ぎる

待てど暮らせど、リヴァは川から上がってこない

 

「逃げた?違うわね。気を失って流されたかしら」

 

まだ川の中に潜んでいる可能性もあるので警戒は続ける

川は思いの外、勢いが強い

流されたのなら追いかけるのは面倒だ

ナイトレイドには帝具を回収するサブミッションがあるが、シナズとしてはどうでもいい

革命軍に付いているのはオールベルグが傭兵として雇われていた過去があるのと、ナジェンダに義理があるからに過ぎない

オールベルグとしては革命はさして興味がない

というかそれほど乗り気ではない

リヴァのことは既に頭から追い出し、シナズはレオーネを早く弔ってやろうと来た道を引き返した

 

三獣士はこの日、終わった

 




はいはーい!
勝手にオリジナル設定を付け加えました
スクリームの奥の手『鬼人招来』の発動時間が短いとかね
自己強化そんな強くなくね?
せめて発動時間短いくらいのメリットないと奥の手足り得なくね?
と思い付け加えました
異論は受け付けましょう
聞き入れるとは言ってな(殴

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