帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

リヴァ生きとっかんかワレェ!


二日遅刻した
許せよブラート



延長戦を斬る! (後半)

リヴァが一命を取り留めたのは奇跡といってもいい

爆発に身を焼かれながら気を強く持ち、流れが穏やかな下流まで敢えて流されることでオールベルグを撒き、追撃を警戒して身を隠していた

いつまで経っても死神のような女が現れないことからリヴァは回復に専念することが出来た

とはいえ、全身の火傷を治すには設備がない

帝都に戻れば治療は容易だ

だが、仕事を完遂していない

主より命じられた仕事を終えるまで帝都におちおち帰れない

その場で応急処置を済ませ、身を隠して少しに仮眠を取った

仮眠のつもりが、睡魔に抗えず日を跨いでいた

情けないと立ち上がる

火傷は痛むが仕事をこなすには十分動ける

標的が村に滞在している可能性が低いことを理解しているが村に向かう

オールベルグが待ち構えていようが、次に敗北はない

迷いのない歩みはやがて止まる

正直こうなる予感は前からあったのだ――――手配書でその名を見たときから

 

※ ※ ※

 

――――予感は当たった

予想と違ったのは身なりくらい

久々に見る元上司は随分ボロい姿になっていた

まるで包帯男のような形相だ

 

「来ると思ってたぜリヴァ将軍」

 

「私はもう将軍ではないぞブラート」

 

「本当なら再会を祝して酒でも飲み交わしたかったんだが……、今は敵同士、斬らせてもらう」

 

「こちらの台詞だ。絶対に任務は完遂する。あの方のために」

 

ブラートはインクルシオを纏う

リヴァは川より引き摺ってきた水の龍を起立させる

 

「水塊弾!」

 

龍を構築する水の一部が槍となり射出される

それはシナズとの戦いの比にならない水量だ

 

「しゃらくせえ!」

 

インクルシオの副武装『ノインテーター』で全弾打ち払う

水塊弾でブラートにダメージを負わせれないことは百も承知だ

次の手の布石に過ぎない

 

「水圧で潰れろブラート!!深淵の蛇!!」

 

ブラートを飲み込み砕かんと迫る水の大蛇

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

圧倒的な水圧の怪物をも、ブラートは正面より斬り裂き捨てる

当然、リヴァは次の手を用意している

 

「全方位からでは止めれまい!濁流槍!!」

 

水塊弾が児戯だったかのような水柱が四方八方よりブラートに突き刺さる

されど、両者は止まらない

 

「水かけられたくらいで……俺の情熱は消えねえ!」

 

ブラートは水柱を耐えきって見せたが、負荷により鎧に傷が出来る

一部は欠けてブラートの肌が露見している

されど、両者は止まるはずがない

 

「分かっているつもりだ。お前とは数々の戦場を共にしてきた。その強さも、勇猛さも、私が一番良く知っている。だからこそ最大最強の奥義を馳走してやる!!」

 

川の水は干乾びた

それほどの水量

それほどの水圧

水の龍は一体でも超級危険種を屠れる

それを十体

大盤振る舞いだ

 

「水龍天征!!」

 

ブラートは熱い魂を持つ漢だ

だからといって敵の奥義をまともに喰らってやる程、愚かではない

ただ、逃げ場はない

 

「インクルシオオオオオ!」

 

ブラートの叫びを掻き消し、水の暴威は大地を飲み込む

水飛沫が霧のように舞う

視界は閉ざされた

ブラートの現状は分からない

 

「やったか?」

 

「そういう台詞を吐くってときはな、たいていやってねえんだよ」

 

ブラートは透明化でリヴァの真正面に近付いていた

水龍天征は正面の一匹を気合いと根性で斬った

ノインテーターの一撃が容赦なくリヴァを捉える

 

「凌いだ……のか……。そうだな……そうではなくてはブラートではない……」

 

斬られ、血飛沫を上げ、倒れゆくリヴァの背後に待機していた最後の水龍が牙を剥く

 

「だが、意地でも道連れにさせてもらう」

 

「俺も信頼してたさ。あんたがただでやられるわけがねぇってな」

 

水龍の牙がブラートに刺さるよりも、展開を読んでいたブラートの一閃が速い

 

「見事」

 

リヴァはブラックマリンの力でここまで運び出して出来た水溜まりに沈む

リヴァはブラートに斬られた傷とは別の出血もあった

帝具の酷使による多大な負荷と、シナズにやられた火傷だ

もう助かるまい

奥の手は温存していた

だが、共にいくつもの戦場を越えてきた友に通用しないことは知れている

せめてインクルシオを削ぐことが出来ていれば結果は変わっただろう

 

「こんなもんでリタイアかリヴァ将軍」

 

「もう将軍ではないと言っているだろ。重体の老骨には荷が重かっただけのことだ。万全の状態であれば相討ちくらい持ち込めたというのに」

 

「ははっ、変わらねぇな。負け惜しみを言う癖」

 

負け惜しみのつもりはないとリヴァは言う

それが負け惜しみなんだよとリヴァは言う

久方ぶりに二人は声を出して笑い合った

これで酒があれば文句なしだ

 

「ブラート。一つだけ言っておく……。私がエスデス様に仕えていた真の理由は……」

 

謂れなき罪で投獄され、牢屋の中で腐っていたリヴァ

その手を引いて立たせてくれた主の姿は何より輝いて見えた

 

「あの御方を慕っていた……それだけだ」

 

「リヴァ……」

 

「分かってくれとは言わん。お前はこんな上司を持ってしまった――――許せよブラート」

 

「……ッ」

 

これを聞くのは二度目だ

だが、立派だと言ってやれない

道は分かたれてしまっている

ブラートは民の味方なのだから

リヴァはもう、何も言わない

 

 

「あまりにも遅いから迎えにきてみれば……逝ったかリヴァ」

 

 

声が聞こえた

気温が下がる

聞くだけで生存本能が悲鳴を上げる美しい声だった

 

※ ※ ※

 

ブラートとリヴァの戦い

その一部始終をエスデスは観戦していた

その死を見送った

エスデスとて血の通った人間だ

自分を慕う部下が死ねば悲しむくらいの感情はある

上手い甘味処を見つけたから三人に奢ってやろうと思っていたのに、これでは一人でいくことになる

アカメとクロメは駄目だ

甘味処の在庫がなくなるまで食う

リヴァとダイダラは甘いものが苦手だった

敢えて墓には甘いものを供えてやろう

森には首を落とされたダイダラと何か食い殺されたミャウがいた

これ以上、死体が損傷しないように、腐敗が進まぬように、氷漬けにしておいた

たった今、最後の三獣士も死んだ

助けることは出来たが、助けに入るのは不粋と思ったから見送った

三獣士は戦士としてその命を全うした

悪いのは弱かった三獣士だ

 

「仕方ない奴等だ。仕方ないから私が仇を討ってやろう」

 

ブラートは疲労も忘れて化け物(エスデス)に魅入られていた

美貌にではなく強者であるオーラに

男はいくつになっても少年の心を忘れない

自分より強い敵が現れたのなら

 

(燃え上がるじゃなぇか……!)

 

帝国最強と連戦

圧倒的不利

だからどうしたというのか

この程度の逆境は、熱い魂で乗り切ればいいだけのこと

ブラートの膨れ上がる闘志に呼応するように、エスデスの足元の水溜まりが音を立てて凍り出す

 

「さて、延長戦だナイトレイド。私を愉しませて見せろ!」

 

「参る!」

 

自分より強大な敵を前にブラートのとった手段は吶喊

悪手であり、勇敢である

エスデスは歩みを止めることなく、二人は接触した

ノインテーターがエスデスに届くより早く、エスデスと手がノインテーターに絡みつく

 

「凍れ」

 

「おおおおおお!!」

 

エスデスに触れられたノインテーターから氷結が始まり、インクルシオを覆い隠す

悪趣味なオブジェクトが出来上がった

 

「憤ッ!」

 

呆気なく終わる

否、否、ブラートは終わらない

氷漬けがなんのその

砕いて出れば問題ない

脳筋は侮れない

 

「ほぅ、氷を砕くか!面白い!」

 

「そんな柔な氷じゃ俺の熱い魂は止められないぜ!」

 

氷像からの復帰の代償はインクルシオの解除

インクルシオのおかげで一度だけゲームオーバーは免れたが、次はない

次に触れられれば死ぬ

だからといって、ブラートが止まる理由にはならない

 

「インクルシオを解かれて尚、向かってくる気概!大いに結構!私をもっと楽しませてくれ!」

 

インクルシオの鍵である剣を持ち、やはり吶喊するブラート

小手先だけの小細工などエスデスの前に如何ほどの意味を持つというのか

戦闘はそれほど続かなかった

短い時間だったが、濃い時間でもあった

仇討ちのつもりがすっかり楽しんだエスデスは敵に問う

 

「名前を聞こうか?」

 

「ナイトレイドのブラート。ハンサムって呼んでくれていいぜ」

 

完膚なきまでの敗北を得たのは初めてだったかもしれない

ブラートは最期の攻撃に挑む

 

※ ※ ※

 

ビマクはナイトレイドを名乗る青年(ラバック)に警告されたことを思い返していた

お前を守るためにナイトレイドの一人が死んだ

その死を無駄にしないために尻尾を巻いて、逃げて、隠れていろ、と言われた

それは出来ない相談だ

ナイトレイドのやり方にビマクは賛同できない

しかし、彼等は彼等のやり方で帝国を正しい形に戻そうとしている同胞だ

彼等にとって自分が餌だったに過ぎないことはわかる

それでも、志を同じくした誰かが死んだのならやるべきことは

 

「弔い合戦だろう」

 

村から離れた地点で騒ぎが起きた

そのときが来たのだと、ビマクは腹を括って自ら赴いた

自分の命を狙う刺客がエスデス将軍ということに少なからず驚いた

だが、アレは帝国の未来に必要のないものだ

命を賭してでも排除しなければならない

部下達も士気は充分

 

「さて、征くぞ」

 

「メインディッシュの後に、デザートまで出てくるとは気が利くじゃないか」

 

文官(ターゲット)が向こうからやってきたことにエスデスの口角が吊り上がる

大臣の頼みで始末するのはつまらない小物ばかりだが

 

(こいつは少しは骨がありそうだ)

 

像に蟻が群がる

ただで潰されてなるものかと必死に食らいつく蟻の姿を、誰が笑うことが出来ようか

(エスデス)は誠意を以て、蟻を踏み潰していく

蹂躙されていく強者達

その散り様に美しさを感じずにはいられない

踊れ踊れ

その命潰えるまで

 

「私を愉しませろ!」

 

※ ※ ※

 

結論だけ言えば、ビマク達の奮闘はエスデスに傷一つ負わせれない惨敗だ

彼等の戦いは無価値だった

否、それはエスデスが否定する

彼等は弱かった

だが、最期まで戦い抜く姿勢は評価に値する

文官の癖に剣を両手に持って吶喊してくる

その目に敗北はなかった

エスデスは心底愉しめた

アレは決して弱者を蹂躙したのではない

戦士の戦であったとエスデスは高らかに謳う

ひとしきり戦いの余韻に浸るエスデスだったが、ふと違和感を得た

背を晒しているとはいえ、小動物がエスデスの前に身を晒すことはない

奴等は臆病なのだ

エスデスのような絶対強者に近付こうなどしない

だというのに、戦闘中におそらくリスのようなものがエスデスの近くを走っていったのを感じた

小動物だからと捨て置いたが、今考えるとおかしな話だ

そこまで考えてエスデスは考えを改める

次からは小動物が不自然に近付いてきたら仕留めよう

リヴァの手から指輪が消えていた

この日、村の周辺の小動物が一匹残らず狩り尽くされることになる

 

※ ※ ※

 

エスデスに気付かれていたとは露知らず、小動物(リス)だった者はホクホク顔で帝都まで帰還しようとしていた

チェルシーだ

ブラックマリン

危険な任務に見合った成果

チェルシーは既に帝具を持っているから無用の長物だが、革命軍全体の利益になる

オールベルグの他の三人と違って世直しを望むチェルシーはおおよそ革命軍に協力的だ

本当はブラートからインクルシオも回収したかったが、リスに変身していた身では些か荷が重かった

(インクルシオの鍵)を担いでいれば気付かれない訳がない

それでなくても気付かれていたのだが、知らぬが仏というやつだ

暗殺者としてブラートは失格だと思うが、人間的には嫌いではなかった

レオーネとブラート

二人の犠牲で三獣士の壊滅

高い買い物だったが、帝国の力を少なからず削いだ

明日は仕事終わりにアカメを誘ってケーキでも食べに行こう




ブラートが死んだ!この戦闘狂!
後、特に意味もなくビマクも死んだね
いやぁ、ノリって怖い
原作との違いはインクルシオの鍵をタツミが受け継がないってこと
兄貴分のブラートと姉貴分のレオーネを同時に失って闇墜ち待って無し
この話、テンションだけで書いたから粗だらけなんで指摘してくださると助かります
いやぁ、高速展開申し訳ないっす


長かった序章は終わりを告げ、イェーガーズの出番が回ってきた
それはそうと、次は息抜き
それほど姉妹百合ではないけど百合だと思うの

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