帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

19 / 22
前回のあらすじ

来い、インクルシオ……!


脱出を斬る!

エスデスの殺害が失敗したタツミの行動は迅速だった

宮殿内を下手に動くのは危険だと承知しているがイェーガーズの面々に嬲り殺されるよりはマシだと脱出を試みる

タツミは最後まで生き残ろうと足掻くことにした

 

「タツミを殺すな!生きたまま捕らえろ!」

 

「「「了解!」」」

 

そして、イェーガーズの動きもまた迅速だった

エスデスに攻撃した瞬間からアカメとクロメ、そしてセリューはタツミにそれぞれの武器を突き立てんと動いていた

タツミはイェーガーズの待機所からも出ることは叶わない

……筈だった

イェーガーズ全員の意識が逃げ出すタツミに向いていた

その中に狙い澄ましたように爆弾が放り込まれた

しかし、イェーガーズの全員が実力者

瞬時に爆弾が投げ込まれたことを察知し、回避行動に移る

それこそ投げ込んだ者の思う壺と理解していながら、タツミから意識を逸らされた

 

エスデス以外は

 

「逃がさんぞタツミ!」

 

爆発した

同時に窓が割れる音がした

 

※ ※ ※

 

ボルスは頭を守るように腕をクロスし、足を踏ん張り衝撃と爆風による熱気に耐えてみせた

セリューはコロを巨大化させることでスタイリッシュと自身の身を守った

ランは帝具『万里飛翔マスティマ』の翼で自身を爆風から守った

アカメはテーブルを盾にするように立てて、テーブルで殺し切れなかった余波をクロメが骸人形のウォールでカバーした

エスデスは見向きもせず、氷の盾を置いた

爆弾如きで負傷するようなメンバーはイェーガーズにはいない

ウェイブが顔面から壁に叩きつけられているがアレはノーカン

丈夫なのだから大事には至るまい

爆発の影響で煙がたち籠もる待機所を颯爽と抜けるイェーガーズの面々

しかし、インクルシオを纏ったタツミの姿がないことに眉を顰める

一瞬、視界から外した間に隠れたのか

否だ

 

「インクルシオには透明化する能力があるようだな」

 

エスデスだけが爆発の最中、タツミを見失わなかった

透明化するところをその目で目撃していた

宮殿内で暴れればブドーが駆けつけるし、宮殿内は罠だらけ

下手に逃亡しようものなら命の保証はない

だが、頑丈な鎧を着こんでいるタツミだ

死にはしないだろう

エスデスが追跡を始めた

 

「クソ……ッ!」

 

エスデスの読み通り、罠などものともしないタツミだが、とても冷静とは言えなかった

イェーガーズが自分を追ってきている気配をひしひしと感じる

そのプレッシャーに悪手を選んでいることに気付けない

罠は足止めにならないが、タツミの居場所を伝えるには十分すぎる働きをしている

罠が作動していることを不審に思いながら透明化しているタツミに近衛兵は気付くことは出来ない

彼等を素通りして最短で宮殿を脱出しようと駆けるタツミ

だが、間が悪かった

 

大将軍と鉢合わせてしまった己の不運を呪え

帝国の守護神の怒りを買った我が身を憎め

 

「――――アドラメレク」

 

「がああああああああ!?」

 

宮殿内の戦闘の空気を感じ取った大将軍ブドーは独りでに作動する罠を見て、即座に雷撃を叩き込んだ

斯くして、姿を消しているタツミに雷神の鉄槌が下る

鎧ごしに高電圧を受け、体の自由を奪われた

 

「嘘……だろ……?」

 

そのたった一撃でインクルシオは解除された

インクルシオの鍵と共にタツミは大の字で転がる

 

「こんなところで……俺は……!」

 

終われない

だが、意志とは裏腹に指一本動かず、意識は薄れていく一方だ

もっと、経験を積んでいたのなら『雷神憤怒アドラメレク』に耐えれたかもしれない

それは"たられば"のナナシでしかない

無常にも、地に伏す少年の前に処刑人が立つ

 

「陛下の宮殿を荒らす者は私の帝具が裁く」

 

「させるものか……!」

 

侵入者にトドメを刺そうと構えるブドー

させまいとタツミを氷壁で守ろうとするエスデス

どちらが早いかでタツミの命運が決す

 

憐れ、囚われの少年の命運は

 

「おっと、今時の若者は随分と物騒じゃねぇか」

 

第三者の手に委ねられた

 

乱入者はタツミを守る氷壁を砕き、ブドーの雷撃を落ちていた(インクルシオの鍵)で叩き落とした

無骨な見た目に反して、余りにも鮮やかな手並み

エスデスも、ブドーも呼吸を忘れた

この男どこから現れた?

いつ剣を拾い、いつ割り込んだ?

 

「おじさんも混ぜてくれや」

 

エスデスもブドーも感じていた

新手の男は強者である

ブドーは最大限の警戒を、エスデスは最大限の歓喜を持って、侵入者と相対する

 

※ ※ ※

 

「憤ッ!」

 

「遅ぇ遅ぇ。本調子じゃねぇなお前?出直してこい」

 

雷撃を纏った拳を掻い潜り男はブドーに掌底を叩き込む

 

「凍れ!」

 

「温ぃ!」

 

足元の冷気をインクルシオの鍵で捩じ伏せる

ブドーは体勢を立て直し拳を振り下ろす

一歩下がり、足元の剣を蹴り上げ、男は無理な体勢からブドーの拳を受け流す

 

「アドラメレクッ!」

 

交わった剣にすかさず、電流を流し込む

仕留めきれるとは思っていない

剣を伝って電流が男の動きを鈍らせれば、それでよい

 

「これをどう止める!?」

 

エスデスの氷塊が侵入者の頭を砕かんと迫る

 

「こうやってだ!」

 

獰猛な笑みで男は逆に頭突きで氷塊を割る

しかし、氷塊は目眩まし

エスデスの本命の回し蹴りがくる

男はそれを見てから、対処した

ブドーの拳を受け流した剣の腹をエスデスの蹴りに合わせて受ける

受けるだけに留まらず、蹴り込む勢いを利用して後方に下がる

その際、足元に転がるタツミの回収も済ませていた

帝国最強である二人を相手にここまで立ち回って見せる相手がいるとは

ブドーは表情を厳しく、エスデスはより愉しげになっていく

 

「やっぱ、拾った剣(インクルシオの鍵)じゃ駄目だな。命預けるなら使い慣れた得物じゃねぇとな。滅茶苦茶痺れたぜ」

 

イェーガーズの面々は突発的に起きた戦いに着いていくことが出来なかった

下手に手を出せば足を引っ張ることになりかねない

爆撃から復帰したウェイブは生唾を飲んで見ていることしかできなかった

この三人は明らかに格が違う

 

「さて、デモンストレーションはこれくらいでいいだろう」

 

男は突然、構えを解いた

エスデスとブドーは怪訝な顔で男の真意を探る

 

「よぉ、聞いて驚け!俺の名はアンノーン!知る人ぞ知る御伽噺の大悪党様だ!」

 

男は高らかに名乗りを上げると、懐から取り出した球体を地面に叩きつける

衝撃で球体は割れ、途端に煙が宮殿に広がる

 

「煙幕?逃げる気か」

 

愉しい闘争を途中で放棄されたことで興を削がれたエスデスはつまらなそうに吐き捨てる

当然、逃がすつもりはない

ブドーは煙幕に紛れての奇襲を警戒して――――痺れを感じた

これはただの煙ではない

エスデスは軽い痺れを感じる程度で済んでいるがブドーはそうでもないらしく、膝をついていた

耐性がないのに膝をつく程度で済ませているのは大将軍だから成せる力技か

 

「貴様ぁ!神聖な宮殿で毒ガスを使ったなッ!!」

 

「おいおい!おじさんは大悪党だぞ?それくらい当然だろうが」

 

戦闘音を聞きつけ、何事かと集まっていた野次馬が次々と倒れていく

この程度の毒に倒れる弱者など知ったことではないとエスデスは男を追おうとして違和感を覚える

先ほどまで戦っていた男の顔が思い出せないのだ

 

「力なき者よ我を恐れよ。力ある者よ我に挑め」

 

その言葉を最後に男の声は聞こえなくなった

 

「どうなっている……?」

 

煙を払ったところで追いかけるべき男の姿とタツミの姿はなく、インクルシオの鍵が地面に突き付けられているだけだった

 

※ ※ ※

 

正体不明の男(アンノーン)が逃げ去った後、スタイリッシュが倒れている人間を診た

意識を奪う神経ガスで命に別状はないとのことだった

ただ、しばらくは寝たままらしい

賊の侵入を許しただけではなく、見逃したといっては流石のブドーも黙っていられないのか

警備の強化と賊の討伐に向かった

対して、エスデスは思考に耽る

インクルシオの鍵を置いて去ったのは何故だ

賊が危険を冒してまで市民であるタツミを連れ去ったのは何故だ

賊の顔を思出せないのは何故だ

タツミが帝具を纏った途端に襲ってきたのは何故か

 

「分からんことが多いな」

 

※ ※ ※

 

一方、イェーガーズの待機所に爆弾を投げ込んだと思われる男を発見したが既に事切れていた

生きていたとしても大した情報を持っていなかったに違いないが

その男は体の内側から虫に食われて絶命していた

この手口をアカメは知っている

 

「オールベルグ」

 

これで確定

タツミは革命軍の一員だ

救出までが異様に早かったが、それだけタツミは重要な役割を担っているのか

考えても仕方ない事だ

次に会えば敵同士

男の体から這い出た虫を死体事、ボルスの帝具『ルビカンテ』の火炎放射が焼き殺す光景を見ながら思い出す

かつてアカメに帝国の闇を教えた敵オールベルグの頭領メラ

あの女も強かったが、エスデスとブドーの前に現れた男は文字通り次元が違った

まともにやり合えば勝てない相手だった

革命軍との戦いが激化していくことを感じ取った

 

※ ※ ※

 

オールベルグの女、チェルシーもまた予期せぬ事態に混乱していた

宮殿に出入りしている適当な男を捕まえて虫を埋め込み、脅し、爆弾を待たせたシナズ

オールベルグとしてタツミの脱出の手助けは捨て駒を使ってイェーガーズの待機所に爆弾を放り込む

それだけだった

深く介入するとチェルシーの潜入が明るみに出る危険性があった

手助けはしたが、タツミは再び囚われるとチェルシーは踏んでいた

しかし、結果はどうだ

顔も知らぬ男が、帝国最強の双璧をいなして逃げおおせたのだ

想定外だが喜ばしいことだ

タツミを助けたのが味方であれば、だ

タツミを助けた男、アンノーンと大声で名乗っていたか

その男の顔が全く思い出せない

インパクトのない顔だったというわけではない

記憶に靄がかかったような感じだ

どういう手品かアンノーンは自分の顔を相手の記憶に残さないらしい

 

「でも、アンノーンか。御伽話の大悪党じゃん」

 

帝国に伝わる御伽話の一つに登場する大悪党アンノーン

"悪さをするとアンノーンが食べにくるよ"

悪さする子供を嗜めるのによく使われる言葉だ

チェルシーも詳しい話は知らないがアンノーンは大昔に帝国で暴れた実在した人物だという

曰く、その姿は女だったり、老人だったり、狼だったり、腕が六本ある化け物だったり、山くらいある巨人だったりと伝える姿はバラついていて統一性がない

帝国を恐怖のどん底に叩き落とした正体不明の殺人鬼アンノーン

漠然と神出鬼没の悪い殺人鬼だというくらいしか分からない

だが、彼が生前に残した言葉がある

"力なき者よ我を恐れよ力ある者よ我に挑め"

あの男が逃げる前に残した言葉と一致していた

 

「アンノーンに憧れる変人か」

 

敵か味方かはっきりしない手合いが一番面倒だとチェルシーは知っている

 




新キャラ、アンノーン
滅茶苦茶大物感出してますねおっさん
実際、大物
ただし、エスデスとブドー相手に余裕だぜ?はハッタリ
エスデスが本気だったり、ブドーが本調子だったら負けてますからねこのおっさん


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。