帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

力なき者よ我を恐れよ
力ある者よ我に挑め


初任務を斬る!

ランとしてはイェーガーズはこの上なく良い職場になるだろうと予感していた

同僚の条件も文句の付けようがない

ウェイブは正義感の強い青年だ

事情を話せば分かってくれる

ボルスは職務は全うするが善良な人間だ

彼に勘づかれないよう秘密裏に事を推し進めるべきだろう

Dr.スタイリッシュは都合がいいから帝国に付いているだけで愛国心など微塵も持っていない

アカメは帝国に叛意を持っている

最愛の妹という枷を外してやれば彼女は帝国を変えるためにその力を振るう筈だ

クロメは厄介だが情報では薬の副作用で長くない

持って一年といったところか

セリューは無力化する手札を持っている

破綻している正義は脆い

最後にエスデス

戦狂いのエスデスはランの目的の為にどうしても邪魔になるだろう

しかし、部下想いの良き隊長だ

彼女の機嫌を損ねないように立ち回れば帝国を内部から変えていくのは難しくない

ああ、自分は恵まれている

ランはほくそ笑む

 

本懐である復讐もきっと上手くいく

 

※ ※ ※

 

「失礼、先程の騒ぎで使用人が相当数が使い物にならなりましたので少し仕事が滞ると思われます。失礼ですが了承ください」

 

「ええ、承服していますよ。部下が大勢倒れて大変でしょうに、態々報告ありがとうございます侍女長」

 

「いえ、仕事ですから。私はこれで仕事に戻ります。失礼」

 

侍女長が大臣の執務室から退室する

その様子を見届け、姿を隠していた羅刹四鬼が現れる

侍女長が羅刹四鬼の存在に勘づいていたのは百も承知だが恰好dけでも付けておくものだ

 

「アンノーンだかアンコウだか知りませんが、"私"の宮殿を土足で踏み荒らすとは許しがたい……!ストレスで食べる量が増えてしまいますよ!」

 

大臣は山盛りのたこ焼きを絶え間なく口に運ぶ

美味である

ストレスがなければもっと美味であったことだろう

全く忌々しい

ブドーとエスデスがいる宮殿に忍び込み、あまつさえ脱出までしてみせるような駒が革命軍にある

これではキョロクに自身の護衛である羅刹四鬼は送れない

さて、どうしたものか

 

「ねー、大臣。なんで使用人なんかの御機嫌窺いしてるの?」

 

羅刹四鬼の一人、褐色色の肌をした少女メズはずっと気になっていたことを大臣に問う

雇い主である大臣に対して敬語ではないのは今更なので注意する気も失せている

そんなことすれば無駄にカロリーを消費して、食べる量が増えてしまう

 

「使用人なんかとはなんですか。彼等のおかげで帝国は続いているのですよ」

 

「なにそれ大袈裟」

 

冗談だと受け取りメズは笑うが、筋肉の鎧でおおわれている男シュテンは大仰に頷く

 

「大袈裟など有り得ん。あれは羅刹四鬼全員でかかっても敵う相手ではない。あれほどの者が何故、使用人をしているのか疑問ではあるな」

 

羅刹四鬼の中で一番若輩であるメズは仕方ないが、他の三人は違う

あの侍女がずっと己等の存在に気付いて、その上で触れてこなかったことを知っている

 

「流石はシュテン殿ですな。侍女長が何故、侍女をしているかは私も知りませんが、どうやら私より遥かに長生きしているそうですぞ」

 

「長生き?私とそう変わらない見た目だったけど」

 

体に生傷を無数に作っている女スズカは侍女長の姿を思い浮かべ言う

本心では侍女長とエスデス将軍に見下されるのならどちらの方が興奮するか真面目に考察する変態である

あれが大臣より歳上とは、大臣は実は二十代だったということか

 

「侍女長は私が幼い頃からあの見た目ですよ」

 

「嘘だー!」

 

「嘘ではありませんよ。実力に関してもあのエスデス将軍に底が見えないと言わせた程です」

 

エスデスは侍女長を一目見て強者を認め、挑んだ

当時、不意打ちを顔色一つ変えず対処してみせた侍女長に驚いたものだ

戦いは拮抗していたようにオネストには見えていたが、戦っていた当人であるエスデスは"遊ばれていた"と悔し気に語った

そんな侍女長はエスデスのことを“まだ伸びる余地がある危険な方”と評価していた

 

「帝国最強にそこまで言わせたのかあの女……惚れちまいそうだぜ」

 

羅刹四鬼の中で一番の実力者イバラが頬を染める

この男、いつもなにかに惚れている

ちなみに羅刹四鬼最強ではあるが実力は僅差である

 

「手出し無用でお願いしますよ。侍女長を敵に回したら私は簡単に殺されてしまうんですから」

 

侍女長一人でも過剰戦力だというのに部下として『シルバーブレット』という部隊を隠し持っている

殺しのエキスパートで構成されており、噂では『殺戮人形』と呼ばれるほど慈悲がないのだとか

侍女長と執事長では権限は対等でも、武力で侍女長が圧倒的に優位である

そもそも、執事長は侍女長と張り合うつもりなど更々ない

侍女長を敵に回すということは、帝国の上空を守護する危険種の主である執事長も敵に回すことになる

そうなれば、大臣に勝ち目などあるまい

エスデスはこちらに着くであろうが、ブドーは侍女長には強く出れないのだ

侍女長の目的は一貫しており、『帝国の存続』を守る限り、国が腐ろうと、民が貧困に喘ごうと、牙を剥くことはない……筈だ

彼女の機嫌を損ねれば最期、大臣の長生きの夢は潰えるのだから

大臣は侍女長に細心の注意を払って接している

 

※ ※ ※

 

夢を見た

サヤとイエヤスに置いて行かれる夢だ

いくら走ろうと

いくら手を伸ばそうと追いつけない

二人の背中は見えなくなった

姐さん(レオーネ)が立ち止まる自分の肩に手を置く

姐さんはニカッと笑って進む

待ってくれと叫ぶが手をヒラヒラさせて振り返りもしない

老い変えようとしたときには、蜃気楼のように姿を消していた

それでも走り出した

この後、誰が来るか分かっていたから

予想した通り、兄貴(ブラート)が背後から追い抜いていった

諦めるもんかと走るがその背中は遠のいていく

走りながら兄貴は振り向いて何かを言った

しかし、遠すぎてか聞こえない

もう一度言って欲しい

もっと近くで

俺を導いてほしい

だから、

 

「――――待ってくれよ兄貴!」

 

「お、やっと起きたか坊主。あんまりにもぐっすり寝てるもんだから死んでるんじゃねぇかと思ってたぜ」

 

「ハァ……、ハァ……?ここは……俺は……?」

 

タツミは目を覚ました

荒れる呼吸を整えようとして気付く

気を失う直前、自分は死に鉢合わせていたはずだ

ということはここは死後の世界だろうか

天国は古びた小屋で、髪が緑の中年男性が髪だろうか

 

「安心していいぜ坊主。ここは帝都の外だ。おじさんの勘だと追手もねぇさ」

 

男の言葉から自分があの状況から助かった

というか助けられたのだと知った

ここは天国ではなく普通に古びた小屋らしい

……胡散臭い男の言葉を信じればの話だが

 

「アンタが俺を助けてくれたのか?」

 

「その認識で合ってる。坊主は、あそこで終わらせるに惜しい逸材と思ってな。ああ、礼は要らねぇぞ。目的のついでだったからな」

 

「……なんかよく分かんねぇけど、ありがとうございます……えっと?」

 

信じるにしても疑うにしても情報が足りない

それに目の前の男をなんと呼べばいいのか困った

窮していたタツミに気付いた男は助け船を出す

 

「おじさんでいいぜ坊主。それと、礼は要らねぇって言ったろ?」

 

「すいません……」

 

「ここからは自分で帰れるよな?おじさんはここいらでお暇するぜ」

 

「あっ、はい」

 

よっこらせ、とおじさんは立ち上がり、小屋を出ようとする

怪しい男であったが別に留める理由もなし、最後に礼を言おうとするが礼は不要と言われていたので口を噤む

 

「ああ、それとおじさんからのアドバイスだ」

 

思い出したようにおじさんはタツミに振り返り言う

 

「寝言は気を付けろ」

 

全然、死んだように寝てないじゃないか

突っ込む前におじさんは二つ目のアドバイスをタツミに送る

 

「復讐心なんかでお前の魂を曇らせるな。貫き通す覚悟があるなら文句は言わねぇが、坊主はそうじゃねえだろ?」

 

「ッ!」

 

タツミに衝撃が走る

復讐心

ああ、そうだ

兄貴を奪っていったエスデスが憎い

直接的ではなくとも姐さんを奪っていったエスデスが憎い

サヤとイエヤスを奪っていった帝国の腐敗が憎い

ああ、確かに自分の心は憎しみに囚われていた

言いたいことだけ言っておじさんは立ち去った

タツミはおじさんに送られた言葉を噛み砕く事に集中していて、見送ることはなかった

復讐心で魂を穢していたなんて自分はなんて大馬鹿野郎なんだと己を恥じた

自分には兄貴の魂(インクルシオ)を継ぐ資格はない

と思ったところで思い出す

 

「……インクルシオは?」

 

時すでに遅し

おじさんのいた痕跡は跡形もなく消えていた

 

※ ※ ※

 

エスデスはキョガン湖の高所より"狩り"を観察していた

狩り人はイェーガーズの面々

獲物はギョガン湖周辺に巣を張る犯罪者共

噂では革命軍と繋がりがあるらしい

真偽は兎も角、賊に変わりはない

弱者は淘汰されるのが世の常

碌に情報を持っていないと判断し、皆殺しと命じた

セリューは悪人を有無を言わさず殺せると喜んだ

ボルスは誰かがやらねばならない汚れ仕事と受け入れた

アカメとクロメはただ命令を実行するのみと言った

ウェイブは恩人に報いるために命も張る覚悟を持っている

ランは出世のために手柄をどんどん立てるとやる気を見せた

スタイリッシュはよく分からん

だが、皆迷いがなくて大変結構

これはイェーガーズ初の大仕事だが、展開は一方的の一言に尽きる

イェーガーズが悪党共の駆け込み寺の殲滅に取った作戦は"正義は堂々と正面から"

数という点だけ見れば少数であるイェーガーズが不利だが、皆揃って精鋭

策を用いるまでもないということだ

まずはセリューがわらわらと出てきた雑兵を蹴散らし、門を破る突破力を見せた

見事な殲滅力だ

セリューの兵装はスタイリッシュの手製らしい

破った門からアカメとクロメが先行

粛々と命を刈り取る

ウェイブが二人に遅れて付いていく

ボルスは飛んでくる矢ごと賊を燃やす

火炎放射器の帝具『煉獄招致ルビカンテ』の炎は相手を燃やし尽くすまで消えることはない

ランは翼の帝具『万里飛翔マスティマ』で逃走を始める賊を上空から羽を飛ばし漏れなく殺す

 

一方的に繰り広げられる蹂躙を見下ろし、エスデスは部下の実力を評価する

 

ウェイブは師に恵まれたようだ

あの若さでその強さは完成されていた

しかし、完成されていてこれ以上、手を出すことはできない

 

セリューは逸材だ

教育のしがいがありそうだ

 

クロメはアカメと同等の実力があるようだが、それは薬で無理矢理ドーピングをしているだけだ

底が見えなかったのは薬を使っていなかったからか

薬を使ったクロメは底どころ末まで晒している

エスデスは薬は好まない

クロメも真っ当に訓練していれば、アカメと同じ屈強な戦士になっていたに違いない

可能性を殺すとは、帝国の上層部は惜しいことをしてくれたものだ

大臣に文句を言っておくとしよう

 

アカメのキリングスコアがトップだ

帝具の性能に頼ることなく、確実に致命傷を与えて殺している

アカメはイェーガーズで一番の実力だと見ている

その上、まだ伸びしろがある

それにアカメはきっと自分の同族だ

万が一敵対することがあれば――――

 

「――――逃げたか」

 

エスデスはあらぬ方向に視線を向ける

そこから二つの気配が消えていた

 

※ ※ ※

 

革命軍の密偵である女二人が全速力で森を横断していた

女性一人を抱き抱えて尚、帝具『韋駄天足ソニックロード』によりその速度は亜音速に達している

抱かれている方の、半目の女エンプティは気怠そうに声を出す

 

「はぁ……、思ってた……使い方とは……違ったけど……結果おーらい……」

 

ギョガン湖に小悪党共のアジトを築かせたのは他でもない

革命軍だ

帝都近郊の小悪党共を集めて統率するのは革命軍の工作員

革命軍が山賊などの屑を一ヶ所に集めて飼っているのは、使い潰しても良心が痛まない捨て駒が欲しかったからだ

帝国はギョガン湖のアジトを見逃すと踏んでいた

山賊共の吹き溜まりを労して潰しても旨みはない

帝国のために損しようとする物好きはいまいとカタを括っていた――――帝国の兵士がギョガン湖を嗅ぎまわり始めるまでは

工作員は帝都で最近結成された特殊警察イェーガーズが駆り出されるのでは、と当たりを付けていた

ドンピシャだ

イェーガーズは革命軍のナイトレイドと同じく、全員が帝具使いとの噂がある

向こうから来てくれるのだ

山賊で威力偵察をするほかあるまい

最悪全滅しても失うものは少ない

 

「それで私達はこれから何をすればいいんっすか先輩!?奇襲っすか!?」

 

涼しい顔で走り続ける少女ラビは大声でこれからの方針を問う

 

「五月蠅い……、眠い……、手出し無用……。私達は……密偵チームだし……」

 

そもそも、エスデスは遠くから覗き見していたエンプティとラビの存在に気付いていた

気付いて見過ごしていた

そんな化け物に奇襲など無意味も甚だしい

二秒で返り討ちに会う

 

「で!どこに行くっすか!?」

 

「はぁ……、本部……、ナジェが……来てるみたいだし……」

 

エンプティはイェーガーズと戦うことになるナイトレイドに情報を売るべきだと考える

あと、自分に代わり報告してくれたら面倒が減って嬉しい

 

戻って確認するまでもなく、キョガン湖周辺の悪党共は一人残らずイェーガーズに狩り尽くされた

 

 


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