アカメ、エスデスに同族認定される
アカメ「大変、遺憾である」
彼はいつから人の命を研究の材料としか思わないようになったのだろうか
本人も覚えていない
道を踏み外したスタートラインは覚えている
今では黒歴史だが、彼は初めからスタイリッシュな科学者だったわけではない
真面目に面白味もスタイリッシュさもない研究者だった
彼が決定的な転機を迎えたのは、『至高の帝具』の存在を知ってからだ
『至高の帝具』を知ってスタイリッシュは思った
なんてスタイリッシュなの!
こんなものを自分も作ってみたいと欲望を抱いた
たとえ、人の道を外れることになろうと
分を弁えない科学者は夢を見る
これがDr.スタイリッシュの原点
スタイリッシュが道を踏み外した始まりの地点
だから、スタイリッシュは感謝している
『至高の帝具』を見せてくれた侍女長ダスクに
あの女と自分
どちらの方がイカれた狂人だろうか
※ ※ ※
イェーガーズの面々が寝静まった深夜
スタイリッシュの靴の音だけが廊下を木霊する
「!」
スタイリッシュが夜に抜け出すのを始めから分かっていたようにアカメは立っていた
闇夜に紛れて現れるアカメは味方と分かっていても背筋が震える
味方であっても、自分と同じ狂人だからこそアカメは恐ろしい
「どこに行くドクター?」
「どこって、アタシの研究室よ?」
「強化兵を率いてか?」
紅色の目がスタイリッシュを捉えて離さない
見え据えた言い訳をアカメは許さない
ただ、この程度の威圧で怯えるようならマッドサイエンティストなどやっていない
「んもう、分かってるんでしょう?言わせないでよ」
「ーーーナイトレイドのアジト、か。まさかタツミがナイトレイドだったとは……」
「この事はアカメちゃんとアタシだけの秘密よ。“あの事”もあるものね?」
「……わかっている」
「ありがと。アカメちゃんからの依頼は順調に進んでるわよ。今は“前金”の子達に試作品を投与して経過を見てるところ」
「……」
イェーガーズとして同僚になる前からアカメと面識があった
アカメはスポンサーの一人だ
やりたい実験は無限にわいてくる
それに対して死刑囚だけでは数が足りないし、質もよろしくない
困っていたスタイリッシュにアカメの依頼はありがたいものだった
依頼の内容は“暗殺部隊が服用している薬の副作用の無効化”
報酬は“暗殺部隊のメンバー”
歓喜のあまり二つ返事でOKを出してしまった
暗殺部隊のメンバーは粗悪な薬の副作用で体はボロボロだが質はまぁ悪くない
それに妹のために仲間を売るアカメにスタイリッシュを感じたのだ
罪悪感はないわけではないだろうが、後悔も、後戻りするつもりは一切ない目
アカメが男だったならお手付きしていたほどスタイリッシュな在り方だ
「気分がいいから今日は奮発しちゃおうかしら」
スタイリッシュ鼻歌を歌い、歌に合わせて影に潜む
※ ※ ※
スタイリッシュが去り、残されたアカメは月を見て何を思うか
「わかっている。私の手は仲間の血で汚れて切っている。今更、後戻りは出来ない。後戻りするつもりもないんだ」
それでも
流れる涙を止める術をアカメは知らない
いくら罪業を積み重ねようと彼女は止まらない
「お姉ちゃんは優しいなぁ。可愛いなぁ。儚いなぁ。尊いなぁ。傷付いても私だけを想ってくれるんだぁ」
一人、涙する姉を影から見守るクロメは優越感に浸る
人前で姉は弱さを見せない
見ていいのは自分だけ
姉の本心を知るのも自分だけでいい
姉を独占していいのは自分だけなんだ
姉が自分のために仲間を切り捨てるように、クロメは邪魔者が仲間であろうと排除する
※ ※ ※
「おーい!タツミ!こっち来いよー!」
「兄貴……?」
ここはどこだろう……?
兄貴が川の向こうで手を振っている
小屋を出た後、タツミを救出しに来ていたシナズと合流してアジトに帰還したはずだ
それで何があった?
体が勝手に川を渡り始める
何か忘れている
確か……
「……ミ。……なさいタツミ。起きろっての馬鹿!」
「……ハッ!」
「良かった……タツミが生き返りました」
マインのビンタでタツミは目を覚ます
それと同時に記憶が甦った
自分は死にかけていた
仲間の料理に殺されかけていたのだ
「だから、シェーレとライラを台所に立たせるべきじゃなかったんだ……」
二人が料理を作ることに反対していたクビョウは料理に手を出さず、文句を垂れていた
「失礼ですわね。わたくしが間違うとでも?致死量ギリギリですのよ」
毒を入れるのがまず間違えである
ライラは顔色一つ変えず致死量ギリギリの毒入りシチューを口に運んでいた
「すいません。間違えて洗剤を入れてしまって」
シェーレマジやばくね
確信犯ではなく天然の方が質が悪い
「毒が入っていようと洗剤が入っていようと女の子の手料理を残すのは女の恥よ」
シナズは料理を残さない
顔色が悪いのは毒や洗剤のせいか
単純に料理が不味いからか
タツミは最近、「この人、実は馬鹿なんじゃないか」と思い始めている
「ていうかライラとシェーレの合作料理を食べて、アンタよく戻ってこれたわね」
二人の料理を食べて戻ってこれない人がいるみたいな言い方だが分かってて仲間にそんなものを食べさせたのだろうかこの天才(笑)は
「まぁな。故郷で
サヨの料理は毒も洗剤も入っていなかったが独特だった
危険種の脳味噌ショートケーキってなんだ
スパイスは愛情とのたまうサヨの笑顔が懐かしい
危険種よりサヨが笑顔で料理を持ってくる方が死を身近に感じたものだ
その度にイエヤスとサヨの料理をどちらが食べるかと争った
結局、二人してサヨに料理は食わされて死線を漂うまでがワンセット
もうサヨの
それでも、食いたいとは思わないけど
「そういや、ラバは?」
「えっ?」
ラバは暗黒物質を口に含み死にかけていた
「ラバアアアア!!」
「ラバは犠牲になったのよ。折角、シェーレが作ってくれたのを残すわけにいかなかったし」
犯人はマイン
「……ッ!」
茶番を見かねたのかクビョウがいきなり席を立つ
「ど、どうしたんだよクビョウ?」
タツミの声は届いていないのか
クビョウの目はどこか遠くを見ているようだった
「何ボサッとしんのよタツミ!敵襲よ!」
「は?どういうことだよ!」
「クビョウは警報器のような機能を持ってるんですよ」
凄いですよねと呑気にシェーレは言う
正確にはクビョウは自身の生命の危機を察知するのであって、相手にならない格下や、クビョウに関心を示さない危険種などには気づけない
「ぐずぐずしてないで動く!」
「ちょ!引っ張るなって!」
マインに手を引かれ、死にかけのラバがシェーレのビンタで強制的に蘇生される中、タツミは見た
「つけられていた?痕跡は消していたのに?
爪を噛んでぶつぶつと独り言を漏らすシナズと、能面のような表情で飛び出していったクビョウがやたらと印象的だった
オールベルグの三人組の中でライラだけが変わった様子なく迎撃の準備をしていた
※ ※ ※
「どうやら気付かれたようです」
『耳』がナイトレイドに気取られたことを改造された耳で聞き取りスタイリッシュに報告する
「あら、まだ結構な距離があるのに……やるわね」
気付かれないよう襲撃を仕掛けようとしていたスタイリッシュは悩ましげに腕を組む
「先行したトローマはどうしますか?」
「んー?トローマが気付かれていない可能性はなくもないし、そのまま潜伏させておきなさい。でも、チャンスがあればスタイリッシュに行動するように伝えて」
『歩』の一体が伝令として隊を離れる
「我々はどうしますか?」
「決まってるじゃない。スタイリッシュに侵攻開始よ!」
『
ポージングを忘れないのがとってもスタイリッシュ