帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

リヴァは筋肉痛です
姉妹は絶好調なのにね


首斬りを斬る! (前編)

夜の帝都で女は彼とデートしていたはずだった

それなのに彼は死に彼を殺した男に首を掴まれ持ち上げられている

こんな理不尽な目に合わねばならぬのか

死の恐怖と己の不運に涙を流す

死にたくない一心で女は乞う

 

「お願い助けて!なんでもするぅ!」

 

「ほんと?俺お喋りだけど話し相手になってくれる?」

 

「うん!なる!なるから!」

 

だから助けてと言おうとして、言葉が続かなかった

 

「首と胴が離れるってどんな気分?ちょっぴり切ない?」

 

「……え……?」

 

女が気付いたときには胴体は崩れ落ちていた

男は死んだ女の表情を堪能し手に持った首を投げ捨てる

 

「んーっ、愉快愉快」

 

男は口元を三日月に歪めて嗤う

 

「やめられないな♡」

 

※ ※ ※

 

暗殺部隊から引き抜かれエスデス軍に配属されたアカメとクロメを待っていたのは『これより北方異民族の制圧へ向かう。私達が帰還するまで英気を養っておけ』というリヴァの書置きだった

異動して早々に仕事も教えられずに放置された

エスデス将軍とはいえ北方異民族の制圧に一年はかかると言われており実質一年の休暇を与えられたアカメとクロメは立ち尽くしクロメのお菓子を貪る音だけが虚しく木霊した

アカメは人を斬るのが趣味というわけではないので素直に喜ぶことにした

無駄な殺生は望むところではない

妹との鍛練は忘れない

クロメは退屈だと嘆いた

日夜、処刑や拷問で殺された死体を人形のように組み替えて遊んでいる

姉との鍛練は忘れない

せめて妹の悪趣味をどうにか出来ないかとアカメは大いに頭を悩ませる

姉に悪い虫が付かないようクロメは目を光らせている

宮殿に移ってからよくチェルシーに会うようになった

飴をよくくれるいい友人だ

餌付けされてると言うことなかれ

クロメは物陰からジーッとチェルシーを観察している

当然、クロメの視線に気付いているチェルシーだが触れるべきか放っておくべきか冷や汗を流している

どちらにしても嫌な予感しかしない

それとなく遠回しにクロメの視線についてアカメに聞くとアカメは妹自慢を始める

そしたらクロメは気分を良くして去ってくれるがアカメの妹自慢が終わる頃にはチェルシーの精根が尽きている

捨て身の策だねとチェルシーは乾いた笑いを漏らす

昼だったのに日が暮れてるやと遠い目になる

アカメは仕事をしないで大丈夫なのかと尋ねたところチェルシーは皇帝付きの侍女で割と仕事が少ないらしい

本当のところは皇帝付きの侍女である宮殿の侍女長が一人で殆どの仕事をこなすためチェルシーに仕事が残っていないだけの話である

そんなチェルシーの主な仕事といえば伝言役だ

アカメに大臣より招集がかかった

帝都を留守にしているエスデスの代わりにアカメとクロメに仕事があるとのことだ

国を腐らせている張本人の大臣と顔を合わせる

知らず知らずのうちにアカメが村雨を強く握っていたのをチェルシーは見逃さなかった

 

(アカメの帝具は厄介だしオールベルグの仇だけど……良い子だし――――なによりうまくすれば利用できる)

 

友人(チェルシー)が毒となりアカメを蝕むことになるのはそう遠くないのかもしれない

 

※ ※ ※

 

「うむ、表を上げよ」

 

アカメは大臣に呼び出されたのに皇帝に謁見していた

普通は大臣の執務室とかに呼ばれるものではなかろうか

 

「ヌフフ、暗殺部隊の帝具使い。噂はこの耳まで届いておりますよ。裏切り者(ロクドウ将軍)の時はお世話になりましたな」

 

「………」

 

アカメが大臣を見た第一印象は豚が人の言葉を発しているという驚愕だった

失礼と思うか

だが、それだけ丸いのだ油がたっぷり乗っているのだ

実は太っているようで割りと筋肉質だがアカメの知るところではない

大体、皇帝の御前でハムを共食いしているとは何事だろう

皇帝も周りの文官も何も感じていないところあれが平常運転と見える

大臣は人の皮を被った豚ということで納得しておこう

 

「まずは憎っきナイトレイドに警備隊長のオーガが殺されたのを御存じですかな?」

 

「知っている」

 

アカメは敬語が苦手だ

というか敬語を使わない

不敬と切り捨てられかねないが敬語を使えないのだから仕方ないと開き直っている

馬鹿なのかふてぶてしいのか

おそらく両方だ

だから偉い人と会うときはカイリなどが出張る

アカメをお偉いさんに会わせるなとは暗殺部隊の暗黙の了解である

しかし、アカメの口調に大臣は気分を悪くした様子はない

 

「オーガが死んでからというもの帝都の治安は悪化する一方です。悲しさのあまり食べるハムが一枚増えてしまいます!」

 

治安を悪くしている元凶はお前だろう

とまでは流石のアカメも言わない

帝都警備隊隊長オーガ

その剣の腕は鬼と評され犯罪者から恐怖の対象とされていた

その一方で賄賂を受け取り犯罪に目を瞑る、無実の者に罪を擦り付けるなど権力を笠に好き放題していた屑

屑ではあるが犯罪者への抑止力になっていた

犯罪者であるオーガが死んでから犯罪者の活動が活発になったとは正義を成すナイトレイドにはさぞや皮肉なことだろう

 

「貴女には妹君と共に街の巡回してほしいのです。つまり、警備ですな」

 

「それだけか?」

 

「えぇ、それだけです。しかし、近頃の帝都は物騒でして、殺し屋や首斬りが出没するそうです。なんでも帝具使いらしいですよ。出来ればこれ等の討伐してほしいところですね」

 

「了解した」

 

大臣からの依頼はナイトレイド及び首斬りの討伐

あわよくばその帝具の回収

 

「期待しておるぞ!」

 

何も知らない操り人形(皇帝)の激励にアカメは頭を下げた

幼くとも皇帝

カリスマ性に溢れている

それを腐らせている原因は悪逆非道の大臣を無条件に信頼している愚昧さ

皇帝の威光は二度と輝きを得ることはあるまい

 

※ ※ ※

 

タツミはナイトレイドに入って以来、結構な数度である命の危機に瀕していた

標的『首斬りザンク』を探し出して倒そうと夜の帝都を巡回する帝都警備隊に見つからないようにシェーレと担当した区画を練り歩いた

休憩中に用を足そうと一人になったところを狙ったようなタイミングで死んだはずのサヨが現れた

何故か逃げるサヨを追って追って追い付いて抱き締めたところサヨは怪しいおっさんになってしまった

正体は標的のザンクだった

帝具『五視万能スペクテッド』の能力一つ『洞視』により思考を読まれ圧倒された

ザンクはタツミを敢えて殺さず弄び命乞いをしろと抜かした

全てを懸けた一撃でザンクに一矢報いた

ザンクは予測を超えた斬撃とタツミの悪態に憤り勝負を着けようとした

そこに鋏の一閃が走った

 

「探しましたよタツミ」

 

援軍だ

エクスタスを見たザンクは愉快愉快と口元を釣り上げコートを脱ぎ捨てる

倒れるタツミを見てシェーレの雰囲気から隙が消えた

 

(『透視』!結果。内腿に包丁を所持している。よく注意しなくちゃな)

 

「気に付けろシェーレ。あの目で心を覗いてくるぞ」

 

「そうですか。なら……」

 

ザンクとシェーレが激突する

帝具使い同士の殺し合いが幕を上げた

シェーレの持つ鋏の形をした帝具『万物両断エクスタス』

この世に両断出来ぬもののない切れ味はザンクに防御を許さない

エクスタスの刃を受けないように回避に専念する

その上、心を読まれると知ったシェーレは無心になり体に染みついた技術でザンクと渡り合っていた

 

「凄いな!『未来視』がなければ今頃真っ二つになっているところだ!」

 

ザンクはスペクテッド筋肉の機微でシェーレの次の行動が視えている

 

「…………」

 

シェーレは何も考えずに鋏を振るう

一見して実力は拮抗しているように見えるがシェーレは掠り傷が増えていく

だがザンクとて無傷ではない

武器で防御すれば武器ごと腕を切り落とされる

回避はザンクの体力を容赦なく削り疲労はザンクの動きを鈍らせる

一方、シェーレに呼吸の乱れはなくザンクに確実に届こうとしている

証拠にザンクの首筋に血が伝っている

首斬りが首を斬られそうになったのだ

無心になっているシェーレの動きには癖があるがザンクは戦士ではなく処刑人

見切られる前にザンクは死ぬ

 

「愉快愉快♪このままじゃジリ貧だ。だから――――状況を変えるとしよう!」

 

スペクテッドの能力一つ『幻視』

その者にとって一番大切な者が目の前に浮かび上げる

タツミが死んだサヨに見えたのはザンクが見せた幻影だったのだ

対象は一人だが催眠効果は絶大

自分が何より大切だと言う自己愛者には自分自身が見える

自分が二人など幻覚と簡単に分かる状態であっても幻影こそが『自分』であると思い込まされ気味悪がって自害するほどの効力

抗うことは出来ない

 

「どんな手練れでも最愛の者を手にかけることなど不可能!」

 

――――だが、シェーレは止まらなかった

エクスタスはザンクの首を捉える

『未来視』で視ていたザンクは不格好だが後ろに転ぶことで間一髪死を免れた

追撃が来なかった幻視が全く効いていなかったわけではないらしい

 

「コイツ……容赦なく……」

 

「……あっ、すいませんマイン。うっかり斬ってしまいました」

 

この発言にザンクとタツミも思わず思考を放棄した

数秒の沈黙を破ったのはザンク

お喋りは趣味だがこれは言わずにはいられない

幻影が解けようが言わないわけにはいかない

 

「うっかりで大切な者を殺しかける暗殺者がいるかああああ!」

 

(エクスタス)!」

 

マインの幻影を殺しかけたのはシェーレの天然だが、偶然生まれたザンクの大きな隙をすかさず利用するシェーレの逞しさには脱帽するしかあるまい

アドリブで状況を打破するのはシェーレの強みで十八番だ

 

「しまった……ッ!」

 

目潰しをまともに食らったザンクは腕を交差する

だが、あの鋏は防御事両断する

ザンクは片腕を持っていかれる覚悟をした

 

「……?」

 

いつまでたっても痛みが襲ってこない

ザンクはおそるおそる目を開く

そこにはナイトレイドの二人の姿がなくなっていた

地面には血痕がザンクから離れるように続いている

逃げられたと悟ったザンクは肩を震わせる

ナイトレイドは鬼ごっこをご所望らしい

 

「愉快愉快♪」

 

 

 

 

 




原作ならサクッと破られる幻視
この作品ではうっかりで破られるザンクさんドンマイ!
でもシェーレは撤退
後半に続く


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