帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

ちょっぴり切ない?


帝都警備隊を斬る! (前半)

首斬りザンクは帝都警備隊に始末された

と、表向きではそう報じられた

実際はエスデス軍のアカメとクロメに討伐されたのだが、日夜街を走り回り犠牲を出しながら街を守っていた警備隊に花を持たせてやろうという粋な計らいだ

と、大臣は嘯くが真相は定かではない

それよりアカメは大臣が脇に抱えている大きな焼き豚が気になっていた

どこまでも食欲旺盛な女であった

 

「首斬り魔の討伐、実にお見事ですぞ」

 

「うむ、これで一安心だな!」

 

「いえ、陛下。まだ帝都には帝都警備隊長や私の縁者を殺した賊が帝都に潜伏しております。これでは安心して食が進められません」

 

(なら、代わりに私が食べてやろう?)

 

アカメの無言の訴えに気付いたのか焼き豚を抱え込む大臣

器の小さい男だと内心で舌を打つ

 

「コホン、アカメ殿には賊を狩り出し始末するためエスデス将軍を呼び戻してもらいたいのです」

 

「……北の異民族制圧はもういいのか?」

 

「ええ、問題ありません。エスデス将軍は北の制圧を完了していますから」

 

エスデスが帰還するればいよいよアカメとクロメはエスデス軍として仕事を与えられるだろう

ナイトレイド狩りは近い

それはそうと大臣の肉を見ていたら腹が減ったので肉を食べようと思ったアカメだった

 

※ ※ ※

 

タツミは夢を見た

とても切ない夢だ

直後に天然上司で切なさが緩和された

シェーレはアジトで役割がなくタツミを集中して鍛えてくれた

暗殺者養成カリキュラムに記された鍛錬法を片っ端からこなしていった

ザンクの帝具は凄まじくあれだけの性能があるのだ

サヨとイエヤスを生き返らせる帝具があるかもしれない

希望というには余りにも危うい

それをブラートが殴って否定して埋めなければタツミの心に大きな隙が出来た

 

(分かってる。死んだ人間は生き返らねぇ……)

 

未知の帝具に希望を抱いた分、反動は大きかった

もう一度、二人を失ってしまったように感じた

本当にお別れなのだと二人の墓の前で泣いた

泣くタツミをシェーレは優しく抱き込んだ

 

「皆には内緒にしてあげますから今は好きなだけ泣いていいですよ」

 

「……ありがとうシェーレ」

 

湿っぽい空気が流れる

このまま終わればいい話

このまま終わらないのがナイトレイド

この雰囲気をぶち壊す

 

「ダラッシャアアアア!」

 

「マ、マイン!?」

 

野生のマインが茂みから飛び出してきた

マインの不意打ち

タツミはシェーレの膝から落ちた

 

「このケダモノ新人がッ!シェーレが天然お馬鹿なことをいいことにナニするつもりだったか私に言ってみなさいッ!撃ち殺す!」

 

「はああああ!?そんなつもりねぇし!何勘違いしてるんだよマイン!」

 

言いがかりだ

濡れ衣だ

無実を主張するタツミだが、聞く耳持たぬマインは処刑を開始する

裁判は二秒で終わる

ギルティだ

置いてけぼりのシェーレはポカーンと事態の行く末を見守ることしかできない

 

「嫉妬するマインは可愛いと思わない?大好きなシェーレを童貞に取られると思ったのかしら?」

 

「覗き見なんて悪趣味ですわ頭領。堂々と見るべきですのよ?」

 

「泣きたいなら俺が胸を貸してやるぞタツミ!」

 

「うわああああ!?皆いたのかよ!」

 

茂みから拳を強く握ったオールベルグ頭領シナズが顔を出していた

タツミには変な人という印象しかない

ライラはマインと同じく威圧的でお嬢様だ

堂々と姿を見せたライラと兄貴は覗き見をしていたわけではなさそうだがどいつもこいつもタツミの泣き顔を目撃したのだ

というか兄貴の胸を借りるのは身の危険を感じる

 

「安心しなさい。童貞の泣き顔なんて毛ほども興味はないから」

 

「辛辣!」

 

シナズのフォローはタツミの繊細な心を抉ったが、知ったことかとシナズは吐き捨てる

優しくしてほしいなら美少女に生まれ変わって出直せ

そしたらベッドで慰めてやんよと無茶ぶり

その間もマインはタツミを足蹴していた

満足したマインは時間差のツッコミを入れるも

 

「別に嫉妬なんてしてないわよ!アンタ達と一緒にするな!」

 

ライラはマインを一瞥して肩を竦めヤレヤレと首を振ってから

 

「そういうことにしておきますの」

 

「ちょっと、パンプキン取ってくるからそこで待ってなさい」

 

青筋を立てたマインは全速力でアジトに戻っていった

シェーレは一人微笑む

『お前の頭のネジは外れている』と馬鹿にされ続けた

悲しかった

唯一無二の親友がいた

でも、彼女に二度と会うことはない

それだけのことをした

それだけがシェーレに出来ることであった

ナイトレイドにスカウトされて、やっと、シェーレは誰かの役に立つことが出来るようになった

ゴミを掃除して社会に貢献することが出来た

ナイトレイド

私の居場所

いつか報いを受けなければならないことをシェーレは理解している

それでもナイトレイドは心地良く楽しいと胸を張ってシェーレは誇る

一つとして誇るもののなかった自分はもういない

 

※ ※ ※

 

スラムはいい

肉が安い

沢山食べれる

何の肉を使っているかは分からないが食べれるのなら何の問題はありはしない

富裕層は肉の量が少なく無駄に高くていけない

アカメの食いっぷりに泣きながら勘弁してくれと懇願してくる脆弱な店ばかり

その点、スラムはアカメが肉をガンガン食べても怒らない

それどころか店主が挑戦的な笑みを浮かべて頼んでもいないのに肉の追加を持ってきてくれる

外野はアカメが店の肉の在庫を食い尽くせるか酒を飲みながら賭ける

活気がある

彼等の暮らしは裕福でもなければ恵まれてもいない

されど、悲観はなく、前向きで強かだ

こういう場所がアカメの肌に合う

 

「いたぞっ!レオーネだ!!」

 

「溜まったツケを払ってくれ!」

 

「博打で負けた金、清算しろ!!」

 

「兄貴からちょろまかした金返せゴラァ!!」

 

いい走りっぷりで、女が笑いながら借金取りに追いかけられているが逞しいことはいいことだ

ガイなど遊郭にいってはツケを踏み倒して逃げていたものだと懐古の念に駆られる

あの頃に戻れるなら……

 

「おやおや、アナタはアカメさんではないですか?」

 

「誰だ……?」

 

アカメが肉を食べる手を止めていると声を掛けられた

隣に敬礼する帝都警備隊の女が立っていた

野次馬というわけではないと思うが、しかし、記憶にない

 

「これは失礼しました!帝都警備隊セリュー・ユビキタス!正義の味方です!」

 

「ユビキタス……」

 

セリューという名前に聞き覚えはないがユビキタスの方には覚えがある

一卒の兵でありながら帝国の闇を暴こうと一人で奔走した正義漢の名だ

男は娘に恥じぬ正義(大人)であろうと帝国の闇を嗅ぎ回り、気付かれた

帝国は、大臣は、彼個人を驚異と認め暗殺部隊を派遣した

それがアカメだった

アカメは特に感じ入ることなく男を殺した

大臣は脅威というが上司は羽虫を踏み潰す程度の仕事としか考えなかったのだろう

アカメも個人で帝国を変えれるとは思わなかった

男は床に沈みながらもアカメに正義の心はないのかと問うた

アカメが答える前に男は村雨の呪詛が心臓に至り息を引き取った

その事実は曲げられ、ユビキタスは賊の凶刃に掛かり殉職したことにされた

セリュー・ユビキタスはその嘘を信じている

 

「はい!首斬り魔を倒したアカメさんにお会いできて光栄です!」

 

「……」

 

目前で、かつて自分が殺した男の娘が自分に尊敬の眼差しを向けている

それがアカメには複雑な気分だった

 

(私はお前に恨まれるべきなのにな)

 

セリューは父親の仇であるアカメに正義は何かと熱く語っている

物欲しげにアカメの肉を見つめる謎の白い生き物はセリューの帝具『魔獣変化ヘカトンケイル』だという

生物型の帝具は村雨の効果が効かないので要注意だ

正義を語り終えたセリューは汗を拭う

しかし、アカメは正義語りを殆ど聞いていなかった

そのしっぺ返しがくることになる

 

「……というわけで、アカメさん!共に悪を探しだして殲滅しましょう!」

 

「えっ」

 

セリューからのデート(パトロール)のお誘いに素っ頓狂な声が出る

目を輝かせる正義馬鹿はアカメの首根っこを掴む

抵抗するアカメは食事中だと必死にアピールする

セリューは二度三度頷き、

 

「確かに正義を執行するためにはエネルギー補充は大切です。しかし、食べ過ぎはよくないですよ。いざというとき動けなければ本末転倒です!」

 

聞く耳持ちやしない

ドナドナされる子牛のごとくアカメは引き摺られていく

肉がまだ残っているのにアカメの目尻に涙が見える

その日、セリュー・ユビキタスによって店主は初めてアカメから黒星を勝ち取った

まさかの番狂わせに野次馬が沸く

今日は祝宴だ

 

※ ※ ※

 

「チブルって標的。用心深いにも程があったわ……」

 

「ああいうのカラクリ屋敷っていうんですかね?」

 

「本当に用心深いなら暗殺者に標的にされるようなヘマなんてしないと思いますけど……」

 

クビョウはナイトレイドが苦手だった

暗殺者の癖に果敢で臆病さが足りない

ブラートほどの実力者ならそれも許されよう

しかし、スナイパーのマインとネジが抜けているシェーレが引き際を弁えていないのは問題だろう

この間、ザンクから逃げてきたのでシェーレは成長したのかもしれない

可能性は低いが希望がなくはない

頭領はクビョウを逃げ腰が過ぎると評するが決して責めているわけではない

臆病さの足りない暗殺者は未熟とクビョウに教えたのは他ならぬ頭領だ

その教えにクビョウは救われた

昔のオールベルグは知らないが、今のオールベルグでは勝てないと悟ったら逃げ帰ってもいいのだ

昔いたところは『逃亡は許さぬ。死んでも戦え』なんて無茶を要求してきた

だから、死ぬのだ

クビョウは臆病者だ

自分を怯えさせる脅威は排除する

それが上司であっても帝国の将軍であってもだ

ライラは言う

『クビョウは臆病ですけれど、攻撃的な臆病さですのよ?』

そんなことはないとクビョウは否定する

殺した方が安全だと思ったから殺すだけで生かしておいても脅威にならないなら素直に逃げるとも

戦った方が安全な事態など早々に起きない

その早々が訪れるなんて今日はなんて厄日だとクビョウは嘆く

 

「やっと、やっっっっっと、巡り合えたなナイトレイド!!帝都警備隊、セリュー・ユビキタス!絶対正義の名の下に悪をここで断罪する!!」

 

クビョウはセリュー・ユビキタスがただの帝都警備隊ではないと感じ取った

おそらく帝具使い

一瞬でクビョウの思考は逃走を選択する

マインとシェーレがセリューに相対する中、一人だけ身を翻した

逃げようとした先に――――アカメがいた

先輩であるチェルシーからエスデス軍に新たに配属されたアカメとクロメの情報は齎されていた

しかし、実際に会ってその重圧を知った

何が利用出来るだ

導火線に火を付けたダイナマイトを抱きかかえるつもりかと文句を言いたい

まぁ、怖くてチェルシーの前では絶対に言わないのだが

 

「ナイトレイド、遭遇した以上は――――葬る」

 

ゾワッ……!

クビョウの全身に悪寒が駆け巡る

スイッチを切り替えたアカメは研ぎ澄まされた刃そのものであった

だが、クビョウはその雰囲気に呑まれ恐怖したのではない

アカメの持つ村雨の禍々しい殺意に、だ

あれは世界を呪う刀だ

あんなものが在るというだけで恐ろしい

故に、壊さなくては

クビョウは怯えながらアカメの、村雨の破壊に意識が向く

ライラはチェルシーよりクビョウの方が恐ろしいと評価した

それはクビョウが恐怖の余り、対象を手段を選ばず排除しようとするからだ

クビョウは逃げ道などない戦場に身を置いていたのだ

逃げることが不可能ならば殺す他、道はない

それが身に染み付いている

逃亡を許された今でもクビョウは臆病で臆病でオールベルグの中で一番、危険な戦士だ

 

「怖いから死んでください」

 

妄信する正義の為にセリューはナイトレイドを処刑する

敵対するなら標的でなくとも排除は止む無し、マインとシェーレは応戦する

顔が割れているクビョウはここでセリューと争う意味はない

けれど、精神の安静の為にクビョウはアカメを葬ろう

 

「――――我こそは死神オールベルグの恐怖

無情の畏

汝の骸を静寂の慰めにせん」

 

 




原作と違いを出してタツミとセリューが出会うものではなくアカメとセリューが出会うものに変えてみました
セリューと夜遅くまで(強制的に)デート(とは名ばかりの全力疾走パトロール)に付き合わされるアカメ
セリューの奴、話を聞かねぇ
で、運悪くか運良くかナイトレイドにエンカウント
相手がアカメ、セリュー、コロの二人と一体じゃ、不公平だよね?
オリキャラ、クビョウをおまけしとくよ
彼女はオールベルグが帝国に壊滅された後に加入したメンバーです

早くイェーガーズ出したい
そして、クロメのヤンデレ快進撃を書きたい
アカメ無双(戦闘ではない)を書きたい
でも、まだ三獣士がスタンバってる……!

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