帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

「それはチーフ(ナハシュ)の剣……」
(死にたくない……!)
「正 義 執 行 !!」


褒美を斬る!

ナイトレイドのアジトは帝都から北10kmほど離れた山の中にある

依頼を終え、帰ってきた仲間を迎えるには空気が重かった

まるで御通夜ようではないか

 

「シェーレが……」

 

普段の強気なマインらしくなく暗い表情で頭を垂れる

彼女自身、ヘカトンケイルに両腕を折られて痛ましい姿を晒している

けれど、シェーレに比べれば、この程度のダメージは些細なことだと腕をギュッと強く握る

自罰的に痛みに甘んじる

 

「……ッ!」

 

マインの表情から察し、マインから齎された凶報に、ナイトレイドの皆はやりきれない思いを胸に宿す

ブラートは歯を食いしばり俯く

ラバックは溢れ出る涙を拭う

レオーネは怒りと悔しさに揺れ動く

ナジェンダの表情は見えない

誰も声を上げない

その中で一人だけが、憤怒の形相を露わにしていた

 

「シェーレ。惜しい女の子を亡くしたわ。私が抱く前に死んでしまうなんて、くすん」

 

「私は悪くないですよ?」

 

泣いているが本気なのか演技なのか判断しずらいシナズ

責任を追及されないように先手を打つクビョウ

空気読めとつっこんでくれる者はいない

 

「敵討ちだ!!」

 

シェーレを殺したのは誰だとマインとクビョウに問う怒り狂うタツミ

ボスが窘めるのも聞かず、仲間の仇を討つと喚くタツミにブラートは拳を振りかぶる

血が出るほど強く握っているブラートの拳は重くタツミは吹き飛ばされる

 

「見苦しいぞタツミ!取り乱すな!!」

 

いつ誰が死んでもおかしくない

それを覚悟してナイトレイドに入ったのではないのか、とブラートは熱く叱りつける

拉致って入るか死ぬかの選択肢をタツミに突き付けていたのはナイトレイドだったはず、とクビョウは思い返すが言うと怒られそうなので黙っていた

仲間になってそう長くないのにシェーレに泣くほどの情を持ったタツミを甘く、危ういとクビョウは感じた

仲間は大切だが、死んだら、ただの肉の塊なのに

 

「本当に見てらせませんわー」

 

ナイトレイド一同が盛り上がる中、一人遅れて登場したライラは白けた顔で言う

 

「シェーレ、死んでませんのよー」

 

「「「…………………」」」

 

ライラのつっこみが真実です、はい

全員が冷静になるのにそれなりに時間を要した

結果、マインは「シェーレがやられた」こそ言ったが、一言も「シェーレが死んだ」とは言ってないことに気付く

マインのオーバーリアクションにあたかもシェーレが死んだと思い込んだのだ

それを知っていたクビョウとシナズは勘違いから始まった真面目な空気に付き合ってられなかった

もっとも、シェーレが死の淵を彷徨っていたのは確かだ

一命を取り留めているが目はまだ覚めていない

心配しないでも、いずれ覚めるとライラが太鼓判を押している

 

「ライラさんって貴族みたいなのに医療の心得があるんだな」

 

意外だなー、とタツミは漏らす

さん付けなのは呼び捨てにした際、頭が高いと蹴られたからだ

マインに言われれば生意気な女と怒っていたが、ライラは大人の女という風格と高貴な雰囲気で文句を言う気にならなかった

単純にマインと違って小さくないし、胸もあるから仕方ないね

 

「貴族みたいなではなく貴族でしてよ?元ですけど」

 

「元?貴族様がなんで殺し屋に?」

 

「家族が私以外殺されましたの。だから、生きるために仕方なくここに来ましたの。別にシナズがいたからという訳ではありませんから誤解しないでくださいな!」

 

「は、はぁ」

 

後半の謎の強調にタツミは引き気味だ

シナズさんに付いてきたことが丸わかりなのだが、本人は認めていない

 

「医療の心得については大したものではありませんの。独学ですから、応急処置程度にしかなりませんもの」

 

ライラが医療系の技量を嗜む程度に身に付けているのは不本意の結果だ

彼女の両親に虐待ともいえる愛情を注がれて育った

外に出ることのないライラでも両親の愛情が歪であると理解していた

歪な愛情から逃れる術を持たないライラは生きるために必要だからそういう技術が自然と習得した

手術が成功するかの実験にうってつけのモノはたくさんあったから

けど、焼石に水

いずれ両親の愛に押し潰されるのだと諦めていたライラを引き上げてくれたのはナイトレイドに吸収合併されたオールベルグだった

それだけのこと

 

(わたくし)の治療は本当に応急処置でしかありませんから、革命軍の医者のところに連れていくべきですわ」

 

「感謝する」

 

「礼には及びませんのよ?」

 

ライラは、ナジェンダの礼よりシナズのご褒美の方が嬉しい

クビョウより後に加入したのにオールベルグにライラが一番染まっていっていた

 

それはそうと、帝都からアジトは10kmも距離がある

胸部を撃たれたシェーレが10kmの帰り道に耐えれるほど傷は浅くなかった

移動中の最中にシェーレが死なずに生きていることが不思議なのだ

しかして、シェーレを失うかもしれなかった大事を隠れ蓑に、その違和は流された

 

※ ※ ※

 

ナイトレイドに逃げられた後、アカメは困った

帝都警備隊に混ざってクロメが駆けつけたのだ

まさか、帝都警備隊に配備されている笛の音でアカメがいるとは思うまい

何故、アカメの場所が分かったのか聞いてみた

クロメはさも当然のようにこう言った

 

「だって、お姉ちゃんの臭いがしたもん」

 

「そうか」

 

(今ので、納得した!?)

 

セリューを介抱していた兵士はクロメの姉への偏愛に引き、姉の妹至上主義に大層驚いた

 

「アカメさん、申し訳ありません!アカメさんの手を借りながら賊を一人も狩れませんでした……ッ!」

 

「は?あなた誰?なんでお姉ちゃんに馴れ馴れしくしてるの?」

 

姉妹の会話に割って入ったセリューの存在に初めて気付いたクロメから狂気が漏れ出る

帝都警備隊は身を僅かに引く

体が危険信号を出している

セリューは、けれど気にしなかった

引かなかった

セリューはクロメに負けず劣らず、歪んでいるのだから

正義は悪に屈しない

自分以外の正義にも屈しないのだ

狂気(正義)狂気(独占欲)は譲ることなく睨みあう

一発即発の空気

ヘカトンケイルは奥の手の代償で動かない

両腕をエクスタスに落とされ、セリューは疲労困憊にある

セリューは一瞬で殺される

そんなビジョンを想像した帝都警備隊だったが、そうはならなかった

 

「クロメ」

 

「なぁーにお姉ちゃん?」

 

鶴の一声で、狂気が嘘のように引き、陽気な声でクロメはアカメに振り返る

安堵で胸を撫で下ろす帝都警備隊

 

「一緒に帰ろうか」

 

アカメはクロメに手を差し出す

 

「うん!」

 

当たり前のようにアカメの手を取るクロメ

美しき姉妹愛に帝都警備隊は何も言わず見送った

事情聴衆はセリューにすればいい

姉妹の間に割って入るのは後が怖いから勘弁してほしいのが本音だ

セリューの意識は、もうない

死んでませんよ?

 

※ ※ ※

 

帝都に帰還したエスデスは皇帝に謁見した

そこで皇帝は褒美として黄金を与え、次の仕事を言い渡す

幼き皇帝は大臣に命じられた通りに命令を下しているに過ぎないが、やはり操り人形でも皇帝のカリスマは揺らがない

とはいえ、エスデスにとって実力の伴わないカリスマなど無用の長物

力無き者は淘汰される

それがエスデスの価値観だ

皇帝よりナイトレイドの一掃を命じられたエスデスは一つ願いを申し上げる

帝具使いには帝具使いをぶつけるのが有効

帝具使いを五人用意してほしいと要求した

それに恋もしてみたいとか

ただでさえ数の少ない帝具使いを求めてきたことより、あのエスデス将軍の口から恋などという単語が出てきた方が衝撃的だった

エスデスが退室した謁見の間で大臣と皇帝はエスデスの要求してきた男のタイプとやらに目を通す

恋など似合わないエスデスの意外過ぎる言動に大臣は穴が開くほどに紙を凝視する

 

1.何よりも将来の可能性を重視します。将軍級の器を自分で鍛えたい

2.肝が据わっており、現状でも共に危険種の狩りが出来る者

3.自分と同じく、帝都ではなく辺境で育った者

4.私が支配するので年下をのぞみます

5.無垢な笑顔が出来る者がいいです

 

以上の五つの条件が丁寧に、箇条書きされていた

大臣はギリギリ二つ目に掠っているだけでその他はアウトだ

 

(なるほど、恋の条件もドSですな)

 

将軍ではなく将軍の器というのがネックだ

大臣に人の眠れる才能を見つけ出すなどと芸当は出来ない

協力してやりたいのは山々だが難しいと寿司を食う

大臣は側に控えている二人組に声をかける

 

「どう思われますか執事長、侍女長?」

 

「そうですね。将軍級の器というのがどうにも……」

 

先に答えた男、執事長カゲロウは如何にも不健康そうな青白い顔をしていた

宮殿ではそのうち過労死するのではないかと噂されている

 

「失礼。私が統轄管理している部下の中に無垢な笑顔をする者がおりません」

 

侍女長ダスクはエスデスの無茶ぶりに顔色を変えず、やはり、無理であるという

その染み一つない陶器のような肌により強く作り物じみた美しさを強調されていた

 

(最後以外、当てはまる人がいるんですか……!)

 

カゲロウは自分の知らないところで宮殿使用人の平均戦闘力が上がっていることに胃がキリキリ痛む

彼の顔色が悪いのは帝国の腐敗だけが理由ではないだろう

 

「そちらではなく帝具使いのことだったのですが……、いいでしょう」

 

帝具使いの使()()()の引き抜きは厳しいらしい

適当なところから見繕うとしよう

エスデス将軍のせいで仕事が増えるので、代わりにエスデス将軍に仕事を減らしてもらおう

 

 




シェーレもセリューもクビョウも(ここでは)死ななかったね!
彼女達の活躍はこれからも続く!

サブタイは思いつかなかった
今は反省している
寝たら忘れる
三獣士の出番はなかった
深く反省している
寝たら忘れ(

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