能力者や魔術師、モンスターの存在する現代。
この世界には『SRC島』と『学園都市』の二つの能力者養成機関が存在していた。
自然発生した『夢干渉能力者』を集めたSRC島。
科学の力で『AIM能力者』を開発する学園都市。
二つの力は人々に恐れられつつ受け入れられた。
この物語は学園都市の『レベル5』の少女と、 SRC島で自警団を率いた一人の女性の、出会いと戦いの物語である。
姫士組ネオユニバース。
SRC島の三つの学園のうちの一つ、R女学園の生徒だけで構成される治安維持生徒会である。
島で最大規模のクルセイド学園騎士団、聖乙女学園の生徒だけで構成され、三年前の事件によってその勢力を弱めた聖乙女学園警備隊と同格の、島を代表する自警団だ。
新選組を模して造られ、「姫」一文字を縫い取った陣羽織をまとう少女たちの自警団は、『害・即・滅』の理念の元に動く、他の二つと比較しても苛烈で攻撃的な性格によって、学園の生徒たちの憧れと恐れの象徴として知られていた。
その姫士組の第十二代姫長は、伊佐美千佳(いさみ・ちか)。
副長にして、かつての第十一代姫長を、十四蔵軌条(としくら・きじょう)といった。
「千佳。もうだいぶ仕事がんばってるし、少し休まないかい? 冷たい麦茶を用意してあるよ。一口どうだい」
「ありがとうございます、トシさん。お言葉に甘えさせていただきます」
姫士組隊舎、姫長執務室。
R女学園を守る自警団の司令部で、二年生の姫長と三年生の副長は、和やかに言葉を交わしていた。
千佳と軌条は、どちらも印象的な少女だ。
千佳は一五〇センチに満たない小柄な少女で、軌条は二メートルを超える巨体を持つ少女だ。一見すると、何かのマンガのキャラクターのようにも見える二人組だ。だが、二人を笑い者にしたり揶揄したりする者はいない。彼女たち二人はどちらも、真摯かつ心優しく、そして勇敢な、姫士組の鑑ともいうべき人物だということを、学園の誰もが理解しているからだ。
カラン、と氷の音を立てて、千佳が麦茶のコップを傾けた。
「ふぅ……冷たくて美味しいですね」
「もうだいぶ暖かくなってきたからね。冷たいものがおいしい時期だよ」
小柄な後輩とそれを気遣う巨体の軌条は、ホッキョクグマの親子のようだった。
「そうそう、学園都市に行ってる来我さんたちから手紙と写真が来てるよ。ホラ見てみ、掃除ロボットだよ。SRC島のテクテックとはだいぶ形が違うね」
「本当ですね。学園都市は外部より科学技術が十数年進んでいるという噂は本当なんですね。交流先の、風紀委員(ジャッジメント)の白井さんともうまくやっているようですね」
姫士組5th隊副隊長の来我さつき(くるが・さつき)は、いま学園都市に短期留学に行っている。
SRC学園と学園都市は、ともに能力開発の名門として、お互いの蓄積するノウハウを生徒の成長に生かすべく頻繁に学生の交換留学を行っていた。
その活動はとくにSRC島の三大自警団と学園都市の風紀委員――それぞれの治安維持組織の間において活発で、両組織は互いに切磋琢磨し、協力しあった。ひとつには、SRC島も学園都市も、必ずしも治安が良いとは言えず、警察の介入も少ないことも関係していた。
学園都市は理事長アレイスターの方針により治安維持を学生や教員の有志によって実行させ、SRC島も警察署がありはするものの、実質的な治安維持活動の権限はSRC島の創設者たる三財閥によって学生の自警団に預けられていた。この場にいる二人の少女たちも、まだ高校生の少女ながら、島の治安を預かる警察組織の指導者でもあったのだ。
「白井さんはまだ中学生ながら、確かな実力と実績のある風紀委員のようだからね。5th隊の副隊長として、来我さんも学ぶことが多いんじゃないかな」
「彼女の力なら足手まといにもならないでしょうしね。手紙にも、武勇伝が書かれています。学園都市との交流も盛んになってきましたが、こうして出先の仲間の様子を知るのも楽しいものですね」
「そうだね。……」
「? どうしましたか、トシさん」
軌条がふいに複雑な顔で黙りこんだのを見て、千佳がいぶかしげに聞いた。
それへ軌条は苦笑を返して、
「ああ。いや、何となく……ね。瀬里奈さんは今、どうしてるかなって思ってね」
「瀬里奈……加茂川瀬里奈(かもがわ・せりな)十代目姫長ですか」
千佳は、軌条が口にした人名を反復した。
加茂川瀬里奈。
その名は、千佳の世代にはすでに遠い名前だが、軌条の世代にとっては、忘れられない名前なのだった。
「トシさんの師匠で……姫士組中興の祖と、最悪の逆賊という相反する評価を持つ徒花……」
「あの人は……ね。複雑な人だったんだ。とても弱く、悲しい心を抱えていてね……」
軌条は瞳に憂いをにじませて、少しうつむいて言った。
「当時まだ中学生だったボクは、それを見抜くことができなかった。できることなら、もう一度会って話をしたいね……」
「縁があれば、そのうち会えるのではないでしょうか。私もトシさんと出会えて、色々なことを教われたことを縁だと思っていますから」
「縁……か。そうだね。瀬里奈さんは今、どんな縁に出会っているのかな――」
そういって軌条は窓の外を見た。
はるか学園都市の方へと、少女は視線を投げかけた。その空の下に、思う人がいるかもしれないと思いながら。
学園都市第六学区。
能力開発を目的とする超近代的都市・学園都市。
二十三に分かれた学区の一つである第六学区は、若者向けのレストランやブティック、それに学園都市の科学力を利用したアミューズメント施設の街として知られる華やかな学区だ。
都市の外からの訪問者や、息抜きに訪れる学生などで常に賑わうこの街は、無防備な観光客を狙ってひったくりや強盗などの犯罪もしばしば起きている。
ゆえに、風紀委員と姫士組留学生の合同巡回チームが、こうして見回るのも自然な成り行きであった。
「それでは来我さん、次はこの学区の見回りですわよ。第六学区はショッピングや観光の名所として知られていますから、揉め事が起きる確率も高いんですのよ」
そう言ったのは、常盤台中学の制服に風紀委員の腕章をつけたツインテールの女子、白井黒子(しらい・くろこ)。
風紀委員・第一七七支部所属に所属する、勤勉で生真面目な、その組織名の通りの風紀委員体質の少女である。
「そうか。ならば念入りに見ておかないとな。観光名所のエリアなら、役得にもなるしな」
そう応じたボーイッシュな雰囲気の少女は、紺色の陣羽織を羽織っていた。陣羽織の背中には「姫」の文字が白く縫い取られ、彼女が姫士組ネオユニバースの隊士であることを示していた。
彼女の名前は来我さつき(くるが・さつき)。
R女学園高等部2年生であり、姫士組ネオユニバース5th隊副隊長だ。
「そうですわね。来我さんも学園都市(ここ)に来てから教習と訓練ばかりで、見物の時間もなかったでしょうしね。こういう機会でもなくては、せっかくの最先端都市をご披露できませんわ」
「学園都市の噂は聞いていたけれど、こうして見るとまさしく未来都市だね。SRC島も色々と珍しいものがあるけれど、科学技術ではさすがに勝てないよ」
「私も、SRC島は一度見てみたいと存じますわ。かの名高い『伝説の樹海』をはじめとして、いろいろと不思議なものであふれているという噂は聞きますもの」
「まあ、確かにモンスターとか魔術師とか色々いるものな。私も樹海で以前、古代ローマの武将のバーベム・フォン・ガーシュタイン卿と会った時には驚いたよ」
「学園都市には、そういう伝説は少ないですわねえ。もっとも、都市のどこかにあるといわれる『虚数学区』の噂などは伝説の樹海にも負けませんけれど」
「世界中のコンピュータを管理しているとも、不老不死の研究をしているともいわれる『始まりの研究所』か……」
さつきは、少し眉をよせた。
「見滝原市の『魔法少女』といい、深陽市の『不気味な泡(ブギーポップ)』といい、不思議な噂は尽きないものだね」
「ええ。私も一度、そんな神秘を目にしてみたいものですわ」
と黒子は言った。
「もっとも私にとっては、愛するお姉様と出会えた運命こそが、まさに最大の神秘……うふふふふ♪」
「思い出すなあ……うちのリズのことを……」
それまでの真面目そうな様子からふいにだらしなく笑み崩れる黒子を、さつきは呆れた目で眺めた。
彼女が、「お姉さま」と呼んでいる彼女のルームメイトにぞっこん惚れていることは、さつきもすでによく知っている。
と、ふいに黒子が、
「おや。噂をすれば、あそこにいるのはお姉様ではありませんの。初春と佐天さんも一緒ですわね。お買い物の途中ですかしら?」
「へえ……あの君と同じ制服の子が?」
さつきも、黒子の指さす方角にいる、三人の少女に目を向けた。
「ええ。学園都市230万人の頂点である七人の超能力者(レベル5)の第三位――常盤台中学の誇る『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴お姉様ですわよ」
そう言ったときの黒子の表情は、単に「お姉さま」に同性愛的な気持ちを向けるのとはまた違った、尊敬する人を紹介する時の、誇らしげな色がにじんでいたのだった。
「うはぁー! 綺麗なペンダント!」
柵川中学1年生の佐天涙子(さてん・るいこ)は、ショーウインドーを見てそう歓声を上げた。
「ほんとですねー! 色といい形といい、すごく素敵!」
そう言った、頭に花飾りをつけた少女は、初春飾利(ういはる・かざり)。佐天の同級生であり、黒子同様、第一七七支部に所属する風紀委員でもあった。
「いやー、女の子ってやっぱアクセサリーとか好きねえ」
そう言ったのは、黒子と同じクリーム色のベストに半袖の制服を着た、気の強そうな短髪の少女。
常盤台中学2年生にして学園都市に7人しかいないレベル5の第三位・『超電磁砲(レールガン)』こと御坂美琴(みさか・みこと)だった。
学園都市230万人の能力者の頂点に君臨し、通常の発電能力者の枠をはるかに超越した力を自在に操る彼女も、こうして友人たちとショッピングに興じている姿は普通の女子中学生そのものだった。
「何言ってるんですか。御坂さんだって女の子じゃないですか。素敵なドレスで着飾ってみたり、王子様とダンスを踊ってみたりとか憧れることはありませんか?」
と初春が言った。
「そ、そうねぇ……あははは」
美琴は笑い声を立ててごまかしながら、
(ゲコ太のレアグッズの方がいい……とは言いにくい……)
と内心で難しい顔をしていた。
彼女は乙女チックな理想を追うよりは、どちらかといえば子供っぽい趣味の持ち主であった。
「うーん……ペンダント欲しいけど値段がなぁ」
佐天がペンダントを眺めながら唸った。
「そうですねぇ……5万円とか、さすがに気安く手を出せる値段じゃないですよね……」
「お小遣いためて買うにしても、その間に買われちゃうかも知れないしねえ……」
『う~ん……』
二人そろって唸り声を出す友人たちの傍らで、美琴は別の理由で内心悩んでいた。
(買えなくはないけど……この値段じゃあ、さすがに友達に『買ってあげる☆』って言ったらイヤミすぎるわよね……。せっかく仲良くなれたのに、鼻持ちならないお嬢様扱いは嫌だし……)
そうやって三人の活発な少女たちが三者三様の悩みをかかえて立っていると、
「何をお困りになっていますの、お姉様?」
と声をかけてきた少女がいた。
美琴のルームメイトである黒子だ。
「あっ、黒子」
「お悩みがありましたら、黒子にご相談下さいまし。お姉様の美しいお顔が憂いに閉ざされるなんて、私耐えられませんわ」
「何を言ってるんだか」
憂い顔でくねくねと身悶える黒子に、美琴は呆れ顔を向けてから、
「そっちの人は? 見慣れない制服と、それに……陣羽織?」
「そうそう、ご紹介が遅れましたわ。この方はSRC島のR女学園高等部2年、来我さつきさんですの。来我さんはR女学園の治安維持系生徒会『姫士組ネオユニバース』で副隊長をされていますのよ」
「へぇ……! 風紀委員の、サブリーダー!?」
美琴が目を見開くと、さつきは苦笑して手を振った。
「いやいや、副隊長といっても5つある分隊の1つの副隊長だよ。姫士組全体の副会長にあたる副長は、トシさん……十四蔵先輩と、同級生の一文字がやっているんだ」
初春も笑顔で、さつきの言葉を引き継いだ。
「私は風紀委員つながりで、来我さんとは何度も訓練で会ってるんですよ。姫士組はSRC島における風紀委員に相当する『個人生徒会』なんです」
「個人生徒会?」
佐天が聞くと、さつきが答えた。
「ああ。SRC島の三学園特有の制度でね。学生個人による同好会や組織の通称で、正式名称は『個人生徒設立同好会』。普通の学校でいう生徒会は『学園生徒会』と呼ばれるんだ。部活とは違う個人的な組織だから、公式の大会とかには出られないけれど、大きな実績を挙げている組織もあるんだよ」
「常盤台でいう『派閥』のようなものですわね。それよりは組織の体裁がより整理されていて、長い歴史を持つ生徒会もあるようですが」
「で、姫士組もそういう個人生徒会の一つなんだ」
と美琴が言うと、さつきは頷いた。
「姫士組はR女学園開校以来の伝統のある生徒会でね。今の姫長である伊佐美は、12代目の姫長になる。治安維持系の生徒会としてはクルセイド学園の『クルセイド学園騎士団』、聖乙女学園の『聖乙女学園警備隊』と並んでいる感じかな」
「そういえば聞いたことがありますね。ネットとかでもクルセイド騎士団や姫士組の話を聞くことはありますし。有名どころでは、騎士団の初代隊長の白銀渚(しろがね・なぎさ)さんが警察の大物として、よく新聞に出ますね」
「姫士組では2代目姫長の八凪厳江(やなぎ・よしえ)さんが剣術の道場主として活躍しているな。長い歴史のある生徒会では、結構有名人が出てることもあるみたいだよ」
「すごいですね。私も何か、派閥とか入ってみようかしら」
美琴が言うと、さつきが苦笑した。
「おいおい、君はそのままでも超有名人じゃないか。常盤台中学の第三位、御坂美琴といえば、SRC島でも有名だよ?」
その言葉に、美琴も苦笑を浮かべた。
「いやー……私としては、あんまり有名になりたくないんですけどね。変にお嬢様扱いされてるみたいだけど、本当は私、がさつな人間だし……」
「面白いな。SRC島のお嬢様学校の生徒会長である、朱雀院飛鳥(すざくいん・あすか)も豪快なことで有名なんだ。表面だけ見てお嬢様だと思っても、なかなか本質はわからないものだよね」
「ですよね! 来我さんが話のわかる人で良かったです」
美琴は明るい顔で言った。
「どうです、これから一緒に見物でも? 私と初春さんや佐天さんも、ちょっと散歩の途中なんですよ」
「お姉様、私たち見回りの途中ですのよ」
「まあまあ。そろそろ昼休みの時間だし、一緒に食事も悪くないだろう」
さつきの言葉に、佐天が大声で答えた。
「賛成! 私も来我さんからSRC島のこと、色々聞いてみたいですしね。あの島も変わった噂がたくさんあるそうじゃないですか。人の肉を売る肉屋とか、神業の下着ドロとか」
「相変わらず悪趣味な噂話が好きですね、佐天さん……」
初春が呆れ顔で言うのへ、美琴が快活に言った。
「まあまあ、初春さん。私もたまには年頃の女の子らしく、噂話に花を咲かせるのも悪くないと思うわ。せっかくのいい天気なんだし、学園都市のことも色々教えちゃいますよ!」
そして五人の少女たちは歩き出した。
明るい陽の下、笑いさざめきながら繁華街を歩く彼女たちの姿は、見るからに活気と希望に満ちあふれていた。
その彼女たちを眺める、視線がひとつ。
「――――?」
その女性は、薄手の黒いコートの裾をひるがえし、すらりとした長身の身を、背筋を伸ばしてまっすぐに立って、美琴たちを見ていた。
コートの下は、黒いスーツに黒いストッキングの、艶やかな黒髪と合った、黒一色の不吉な装いだ。足に履いているのはパンプスやハイヒールではなく、重厚ながら機能的で動きやすい黒い革靴だ。
それだけなら、まだしも普通の背の高い女性で通っただろう。その凛とした美貌に、思わず目をひかれる通行人はさぞかし多いことだろうが。だがそれよりも、彼女のイメージを決定づけている要素が一つあった。それは姫士組の来我さつきとある意味で共通していて、しかし同時に決定的に違う要素だった。
彼女のコートの背にも、白い文字が縫い取られていた。しかしその文字は、「姫」ではない。この長身に長い黒髪の女性の背を飾る文字は「閻」――閻魔大王の、閻一文字だ。
「お待たせしました。瀬里奈さん」
黒服の女性のもとへ、いくらか年下に見えるセミロングの髪の女性が歩み寄り、丁重な口調で言った。
「買ったものはホテルに送るよう言っておきました。どうですか、仕事までお茶でも……? どうかしましたか?」
女性は、いぶかしげに黒服の女性の見ている方角を見た。
「何を見てるんですか、瀬里奈さん? あの女学生たちが、何か……?」
「――あの娘」
彼女は、ぽつりと言った。
「貴方も見覚えがないかしら? 若菜」
無表情な中に、ほのかに険しいものの混じった口調。
そんな口調を涼やかな声に乗せて、瀬里奈と呼ばれた彼女――元R女学園高等部所属、元姫士組ネオユニバース10代目姫長にして『閻王』と呼ばれた加茂川瀬里奈(かもがわ・せりな)は、そう言った。
「あの……娘ですか? ! あれは……!」
そう言って目を剥いたのは、岸本若菜(きしもと・わかな)。
R女学園高等部3年生に籍だけは置いている、元姫士組ネオユニバース隊士。
そう、「元」である。
「あいつ、5th隊の副隊長じゃないですか! あの原のクソアマについてるやつですよ」
かつての戦友であったはずの少女のことを、若菜は忌々しげに吐き捨てた。
「あのガキ、学園都市なんかに何の用事で……瀬里奈さん、シメてやりますかね!」
「落ち着きなさい。――そっちじゃないわ」
瀬里奈は淡々と言った。
「来我さんのことは私も知ってるけれど、それは別に本題じゃないの。……短めの髪をした、彼女よ。よく見かけないかしら、あの顔……?」
「あの生意気そうな顔したガキですか。えぇと……」
若菜はいぶかしげな顔で、そちらを見た。
瀬里奈が注視している五人の少女の横顔――そのうちのひとつの、常盤台の制服を着た短髪の少女を。
「……『超電磁砲』御坂美琴」
瀬里奈がぽつりと言った。
その言葉は、若菜に驚愕という影響をもたらした。
「!! 御坂って……この学園都市の第三位ですか!?」
「そう。……低能力者(レベル1)から学園都市230万人の頂点に上り詰めた常盤台中学の電撃姫。レベル5らしからぬ庶民的な人柄だと聞いたけど。……噂通りみたいね」
気さくそうな様子で友人たちと談笑する様子を眺めながら、瀬里奈が言った。
実際、その姿は230万人の頂点などというだいそれた肩書きの似合わない、ごく平凡で元気な女子中学生としか見えなかった。
若菜が毒づいた。
「ふン……あんなガキ、瀬里奈さんに比べれば大したことないですよ。いくらもてはやされようと、しょせんは中坊じゃないですか」
「どうかしらね……聖乙女学園の闇を司る永遠之道雀夜(とわのみち・さくや)は8歳の子供よ?」
瀬里奈が出した人名に、若菜は露骨にひるみを見せた。
その聞きなれない、どこかまがまがしさを感じさせる名前に――神の視点から瀬里奈と若菜を見ている我々は、覚えがある。
危険で邪悪な人間としての姿を目にしていた覚えが。
「あ、あんなバケモノは例外じゃないですか。あの御坂とかいうガキなんか、まるっきりただの中学生ですよ」
「……そうね。貴方の目には、彼女はその程度に見えるかもしれない」
瀬里奈は言ったが、その目は若菜を見ていない。ただじっと、くいいるように美琴を見ていた。
「でもね、私には見えるの。彼女から立ち上る電磁波が……それとともに立ち上る『王者』の気のゆらぎが。軌条や千佳と同じ、人の上に立つ器……しかも彼女は、自分の持つ可能性の大きさに気付いてすらいない。うふ、ふふ……あぁ、いい。そそる。そそるわね……」
「……っ、瀬里奈さん」
若菜が怯えたように言った。
物静かで沈着そうだった瀬里奈の面と口調に、徐々に興奮が宿ってきていた。
その美しい白い頬は紅潮し、かたちのよい唇にはぞっとするような残忍な笑みがきざまれた。その声にもまた、マグマのような狂熱がゆるやかに立ち昇ってきていた。
「……予定が変わったわ。若菜」
高熱をほのかにはらんだ声で、瀬里奈が宣言した。
「集会所に行くわよ。『彼女』のことだから、もうすでに来ていることでしょうし、ね――」
そう言い捨てて、瀬里奈は革靴の踵を返した。
瀬里奈さん、と叫びながら若菜があわててついて行った。
あとには、一瞬の異物の痕跡を残すことのない、繁華街の喧噪が、そこにあるばかりだ。
今回のSRC学園登場キャラクター
伊佐美千佳(いさみ・ちか)…………凪波様
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加茂川瀬里奈(かもがわ・せりな)…………philo
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岸本若菜(きしもと・わかな)…………もぐら様
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来我さつき(くるが・さつき)…………深影一輝様
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十四蔵軌条(としくら・きじょう)…………MAX与太郎様
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