パイレーツ・オブ・ナザリック   作:(^q^)!

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九話

 おそらく十分なほどの金は手に入った。クルー候補は一人しか見つかっていないがそんなものわざわざ帝都で探す必要もない。となれば次は船だ。船なんて沿岸部に行けばあるだろう。そんなわけで王国の沿岸部まで行くこととする。

 

 歩いて行ってもオウムを見つけることができなかったので今度は空からオウムを探すことにする。とはいえ本命はエ・ランテルで待っているということだ。のんびりと月の光と星の光を眺めながら空をゆく。こんな贅沢誰にだってできることではないだろう。本音を言えば誰かとこの喜びを分かち合いたいのだが、この光景を当たり前に享受しているこの世界の人々と自分では共感できないかもしれない。

 

 ゆっくりと飛んだことでエ・ランテルに到着したのは明け方だった。そこからまた擬態をし、服装は帝国で購入したものを身に着けている。これでどこからどう見てもおかしくない帝国商人の誕生だ。

 

 空から城壁内に侵入し、オウムと待ち合わせる予定だった場所に行ってみる。居なかった。昼時までそこで時間をつぶしていたが来る気配はない。どこへ行ったのだろう。集合場所であるここに居なく、帝国には居た形跡があり、帝国―エ・ランテル間は探したが見つからない。帝国には法国の後に訪れているはずなのでそこにもいないと思われる。

 

 本当に一体どこへ行ったのだろう。とはいえここで考えていても仕方がない。当初の目的通り船を頂戴しに行こう。そうして王都まで向かったのだが道中で面白い話を聞くことができた。

 

「へぇ、漆黒なんて言う冒険者の二人組ねえ」

 

「ああ、なんでも最近はギガントバジリスクだって倒しちまったって言うんだから驚きよ」

 

 話を聞くに相当強いモンスターであるようだ。確かに彼らでは苦戦しそうである。帝国の騎士だってかなりの訓練などをしているようだがLv10前後のようであったし、鍛えられた兵士がそのくらいのレベルであるなら戦うのは厳しいだろう。

 

 漆黒と聞くといつだったか誰かがそのようなことを話していたような。あれはウルベルトさんだったかホワイトブリムさんだったか。

 

 商人と別れるとまた空を飛び、道すがらに人を見つけては降りて話を聞くという旅を続けているといろいろな情報が手に入る。その中で最も多く聞いたのが漆黒に関する話題だった。史上最速のアダマンタイト冒険者だとか最新の英雄なんていういろいろな話を吟遊詩人もかくやと言った様子で話す商人がとても多い。

彼らに雇われている冒険者たちも同じようにまくし立て、その人望の高さや名声の高さがうかがえる。

 

 ナーベにモモンか……。モモン、いやまさかな。なんでわざわざモモンガさんが近接職の真似事をやるというんだ? 理由がない。いや、俺のように盗賊系のスキルがないからお金を稼ぐのに苦労して冒険者をやっているのか? いや、だったらなおさら近接職である必要がないな。魔法使ったほうが効率がいい。

 

 会ってみないことには何とも判断がつかないと思うが、長いことエ・ランテルなどで商売している彼らでさえそうそう会うことができないらしい漆黒に俺が正当な手段で会おうとするのはかなり難易度が高い。かと言って依頼などでいつどこにいるともわからない彼らのためにいちいちエ・ランテルまで引き返すのも面倒である。

 

 また近いうちにエ・ランテルに行けばいいかと考え、話してくれた連中と別れてまた空に飛び上がる。夜の飛行もいいが昼に空を飛ぶのも格別に気持ちがいい。時期なのか強い日差しが暑く感じることもあるがそれにしても気分の良さを盛り上げる効果がある。

 

 空から降りて王都に着く。快晴である。ばれない様に降り立つために特殊能力(スキル)を使う必要があった。そのまま裏路地にひっそりと隠れてアイテムボックスから黒いランプを取り出す。

 

 この召喚アイテムは“知りたがる鳥”ともう一体のモンスターを呼び出すことのできるアイテムである。“知りたがる鳥”は使い道が限定される使いづらいモンスターなのだがもう一体は違う。十位階のまあまあ使えるモンスターだ。とはいえ同じ十位階のモンスター召喚魔法であるならもっと強い最終戦争(アーマゲドン)系列のものがあるのだが、あれはあれで使用条件が厳しいので目をつぶってもらおう。

 

第十位階怪物召喚(サモン・モンスター・10th)

 

 ランプをこすりながらそう唱えると口の部分からモクモクと赤い煙が渦のように吹き出し雷電を伴いながら上空に上がる。

 

「ストップ。登場演出はいらないからさっさと人型になれ」

 

 そういうと煙は動きを止めてビデオの巻き戻しのように上空に上がった赤い煙がランプの中に戻り、もう一度小さく煙を吐き出すとそれが人の形へと変貌していく。ひょろりとしている背丈や指はその人物がいかにも狡猾であるかのように思えるだろう。蛇のような瞳や顎鬚、大きく開く口も彼のカルマ値を物語っている。服も偉そうで、手にはコブラを模した金の杖が握られていた。

 

「私をお呼びで? 主人(マスター)?」

 

 魔神と呼ばれるモンスターである。最初のほうのクエストでは願いを叶える役であったり妨害する役であるモンスターだったのだがアップデート等によって召喚モンスターとなった。クエストでの配役から分かるとおりかなり強力なステータスであるのだが、召喚モンスターに搭載されているAIではそこそこ耐える壁という程度の役回りであった。特殊なスキルも何もない純粋に能力だけが高いモンスターである。その能力の高さも超位魔法で呼べるモンスターには全く敵わないという何とも微妙な立ち位置のモンスターだ。

しかし思考するようになった今では違うだろう。その上ここでは周りの基礎能力が大して高くない。であるならば彼はゲームの時以上の活躍をしてくれることだろう。

 

「ああ。魔神、俺は今から船の都合をつけようと思うのでその間にお前はクルーになれそうなやつを探しておいてくれ」

 

「クルー? クルーであれば航海士やその他にもたくさんいるではないですか」

 

 そういう魔神に説明するの面倒くさいなと思いながらも一通り現状の説明をする。すると彼はニヤリと笑いながら顎を撫でさすり笑いながら話しかける。

 

「なるほど、ではこうしてはいかがでしょう。今から王城に忍び込み王やそのほかのことごとくを抹殺し、あなたが王になる。そして船を作るか徴収するかしてあなたは航海に出る。

その間の国の面倒は不肖この私めにお任せいただくというのはいかがでしょうか」

 

「却下だアホ」

 

 そういうと魔神は目を見開く。

 

「何故です? この世界の者どもは一様に弱いのでしょう? なんでしたら私が制圧を担当してまいりましょうか?」

 

 魔神の目は本気だった。設定で悪役のような設定を書いていた覚えがあるのでこうなるのも当然かと思いつつどう説得しようか悩む。正直に言えば国の運営などというものをやる気はまったくもってない。仮に俺が制圧して後始末を魔神に任せるとしてもそんなことをするつもりはない。理由は単純でそれをする必要がないからだ。

 

 したほうがメリットが大きいというのならそれをしてもいいのだが国を征服した時のメリットがまるで無い。せいぜい金の苦労がなくなるという程度だろうか。とはいえ金だって困っていない。

 

「いいかよく聞けよ。国を盗ってもメリットがない。だから盗らない。お分かり?」

 

「む、ぐぅ。了解しました」

 

 そうして黙った魔神のは不満がありありと浮かんでいた。召喚したモンスターは無条件でこちらの意思に従うと考えていたのだがそうでもないようだ。これは設定によるものなのだろうが彼は今俺の言ったことに対して反感を抱いている。それを行動に移せるのかどうかということが境界線であるように思える。それもついでに検証してみることとしよう。

 

「そんじゃ、指示。一つ、クルーに相応しそうなやつらを探しておくこと。二つ、食べ物とかを集めておくこと。三つ、お前の相棒の鳥が今行方不明なので王都にいたら捕まえておくこと。四つ、暴力は襲われたり危険な時以外は使わないこと。以上、オーケー?」

 

「アイアイサー、主人(マスター)

 

 魔神はその場でクルリと一回転し、マントをはためかせる。マントに隠れた体は一回転のうちにたちまち消えてしまう。ボンと小さく地面が爆発して赤い煙を立ち上らせながら魔神は消えた。

 

 まぁいずれかの指示を実行しにいったのだろう。俺も俺で早く船を手に入れないとな。

 

 

 

 

 セバス・チャンはナザリックの家令(ハウススチュワート)であり執事(バトラー)だ。そんな彼は当然栄えあるナザリックの九階層と十階層で主に活動しているのだが、現在は違う。彼は今、王都リ・エスティーゼにあった。

 

 足をくじいていた老婆を助け、魔術師組合本部でめぼしい巻物(スクロール)を購入し、いざ帰路につこうと思ったところふと音が聞こえたのだ。

 

 ――チャラン、チャラン

 

 小さな金属のぶつけ合うような音である。取るに足らない、小さな金属音。しかしセバスにはなぜか懐かしい気がした。音の方向へと進んでいくとだんだんと王都の中心地から外れて行っているように思える。最初は歩きで。次は速足。最後には駆け足でその音を追うと数十メートル先に見慣れた三つ編みがあった。

 

 その服装は普段のそれでは無いし、武器の類も持っていない。そしてただの後ろ姿である。確証はない。しかし感じ取っていた。その気配は紛れもない。

 

「――スワリューシ様!?」

 

 セバスの必至な叫び声はぎりぎりに届かないようで、振り返りつつあった目の前の存在は幻のように消え去った。しかしそのふと見えた横顔は確かに彼のものであったのだ。

 

 しばし呆然と立ち尽くすセバスは消えたあたりを調べてみることにする。特に何もない。両脇は壁であり、一本道。上に行ったとすれば自分が目で追えないはずがない。転移か何かの魔法だろうか。いずれにせよ、掻き消えた。

 

 報告の必要があるだろうか。そう考え引き返すこと数分。重そうな鉄の扉が開かれズタ袋のようなものが投げ出された。

 

 セバスが厄介ごとに遭遇したころ、ソリュシャンは持ち前の探索能力で王都に大きな存在が現れたことを感じ取っていた。自分よりも強い。しかしセバスほどではない。そんな存在が唐突に表れた。

 

 何か探りたいのはやまやまであるが自分がいま動くことは与えられた指示の上で不利に働くことだろう。影に潜ませている下僕を使うかどうかも自分だけの判断で動かせるものではない。

 

 そんなわけでセバスの帰りを待っていたソリュシャンは彼が大荷物を持ってきたときにはそんな場合ではないと叫びたい気持ちでいっぱいだった。しかし上位者として指示されてしまえばそれに従うほかない。イラつきながらもちゃんと治療を施し、その症状や状態をセバスに告げて拾ってきた大荷物であるツアレが眠っている部屋の前で待つ。

 

「報告がございます。できる限り、お早くお願いいたします」

 

「こちらも報告があります。わかりました。少々お待ちください」

 

 時間にして数分だろうか。確かに短い時間であるかもしれないのだが、ソリュシャンにとってその時間は数十倍に感じられた。重要な使命を遂行するにあたって問題が生じた可能性があるのになぜそんな下等生物を待たなくてはならないんだろう。貴重な時間を無駄にしなくてはならないんだろう。ソリュシャンは自身の劇毒が高まるのを感じたが、何とか飲み込んで抑える。

 

「お待たせいたしました」

 

「さっそく私から。先ほど、強力なモンスターの存在を感知いたしました。強さでいえば私より上、セバス様より下といった程度です」

 

「そうですか……。実は私も、街でキャプテン・スワリューシ様らしき人影を発見したのです」

 

 完璧なメイドであるはずのソリュシャンは体勢を崩すことを我慢できなかった。スライムの体が沸騰しそうなほどに熱くなったのを感じる。

 

「……セバス様。至高の御方の情報がありながら、あの人間の治療を優先させたのですか?」

 

 レベル差はあれどその怒りは明確に感じ取ることができただろう。しかしセバスはしっかりとした口調で返答した。

 

「言い方が悪かったかもしれません。正確には幻影と言いましょうか。よくわからないのです」

 

 続きを促すとセバスはその話をこまかに話してくれた。それを聞いたソリュシャンは右手を額に当てながら困惑する。

 

「何かわかりますか?」

 

「はい。それは盗賊系のスキルである隠し身(ハイディング)に分身系のスキルを組み合わせて使ったものと思われます」

 

 とだけ、ソリュシャンは言った。それ以上は言えなかった。どうして至高の御方がそのようにして隠れたのかわからなかったからだ。心の奥底では一つの可能性に突き当たっているがどうかあたってほしくないという思考も手伝いそれ以上に何かを言うことはできなかった。これほどまでにいろいろな出来事があったのだ。自らの主人に連絡をしなくてはならないだろう。

 

「……アインズ様になんと連絡したらよろしいやら」

 

 それに対するセバスの答えは沈黙だった。押し黙るように何かを考え、結論を出そうと考えている様子である。

 

「ソリュシャン」

 

「はい」

 

「まずは私たちでもう一度調べましょう。不確定な情報でアインズ様のお手を煩わせるのは申し訳ないです。

今夜、王都中を調べ上げた後に報告いたします」

 

 かしこまりましたと頭を下げたソリュシャンは心の奥で葛藤する。すぐに知らせなくていいのか? 時間をかけると余計に不利なことになるのではないか?

 

 考えても答えが出ることはない。今は割り振られた仕事を全力でこなしたほうがいいと結論付けて、いくつものスキルを発動させた。


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