パイレーツ・オブ・ナザリック   作:(^q^)!

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十二話

 ナザリック地下大墳墓。その十階層である玉座の間にアインズ・ウール・ゴウンたるモモンガの姿があった。その傍らには守護者統括であるアルベドが控えており、座して傅く人間を睥睨していた。

 

「面を上げよ」

 

 アインズのその声にビクリと肩を震わせるその人間の名はツアレといった。

 

 本名をツアレニーニャ・ベイロンという彼女。その生い立ちを一冊の本にしたならばその読者は皆一様に同情するだろう。ただでさえ厳しい環境に育ち、その上さらに奪われる。人間であるという人が当たり前にもっているべき尊厳も何もかもが奪われ、壊された彼女。そんなどん底に存在した彼女が救われたのは人ならざる者の手であったのである。

 

 優しげな老人の手であった。しかしその人物が在籍する組織は世にも恐ろしい異形が、生者を恨むアンデッドを頂点として構成されたピラミッドだったのである。周囲から集まる視線にはツアレニーニャに対する温かみなどない。軽蔑、無感情、おおよそにおいて下のヒエラルキーであるということをツアレニーニャは彼女あるいは彼らの雰囲気から明確に感じ取っていた。

 

 誰もかれもが同情するだろう。可哀想だと憐れむかもしれない。しかし、ツアレニーニャはそうとは思わなかった。

 

 誰だって助けてくれなかった。助けを呼んだり悲痛から出た悲鳴は聞く者たちを喜ばせるだけであった。そんな自分の悲鳴を、助けを受け取ってくれたのがこの傍らに立つ老人であったのだ。

 

 底の底。底辺すら突き破った下に堕ちきったツアレニーニャは通常の感性であればだれもがそんな場所での幸せを想像できないだろう。だが彼女にとってはこここそが幸福であり希望であるのだ。

 

 震える声を必至に抑え、震える体を何とか起き上がらせるとそこにあるのは絶対的な支配者を体現したかのようなオーラを背負った骸骨である。髑髏の瞳の奥には赤く仄暗く光るものがある。あれが眼であるのだろうか。笑っているように感じるのは自身の希望的観測であろうか。

ツアレニーニャには何もわからない。しかしそれが自身の手の届くような存在ではなくとても高い場所に、それこそ貴族だとか王族なんてものを飛び越した先に存在しているのだということはわかった。

 

「……似ている」

 

 そうして顔を上げたツアレニーニャの顔を見たアインズはそうつぶやいた。その声はツアレニーニャにこそ届きはしなかったもののアルベドには明確に聞き取れた。

 

「お前、名前は何という」

 

 続いたアインズの言葉に答えようとするツアレニーニャであったが喉が張り付いたかのごとく声を出すことが困難であった。口を何度かぱくぱくとさせるが、声は出ない。泣きそうである。玉座の傍らに立つアルベドが眉を顰め、叱責しようかとしたその時である。

 

 ツアレニーニャの背中に温かいものがふれた。それは薄く覚えているものであった。冷たいあの路地。意識も朦朧として、その時の感情は死にたくないというものだけであった。動きづらい手で何かをつかんだあの時、汚れた自分を抱えてくれた逞しく暖かなあの感触。それがこれである。

 

「アインズ様。恐れながら、御方の威光を前に彼女は身動きが取れない様子でございます。不敬でございますがお力を抑えていただけないでしょうか」

 

 セバスの言葉にアルベドが目を剥く怒るという一幕もあったが、その後アインズがオーラを抑えることで恙なく面会を終えた。

 

 セバスはその後アインズに王都の物資の購入の指示を与えられ、ツアレニーニャはナザリックにてユリ・アルファの教育を受けることとなった。

 

 ツアレニーニャはセバスと離れ離れになることにひどく狼狽したが、数時間する頃には笑顔で送り出すこととなった。そのツアレニーニャの顔がうっすらと赤かったのを見たアインズは風邪かな? なんて感想を抱いたが、サキュバスの種族を持つアルベドにはなんとなく察することができた。

 

 そんな面会も終わり、アインズは自室に戻る。

 

 自室に入り、お供を全員部屋の外に追い出してからベッドの上でコロコロと左右に回転した。

 

「あ゛~、辛い。う゛~、やめたい。お゛~ん、でもやめられない止まらない」

 

 グダグダと漏れ出すのは鈴木悟の残滓からの悲鳴だろうか。愚痴として出るそれは日々の抑圧から解放された弛緩が原因である。アインズことモモンガは疲れていた。守護者たちからの羨望の眼差しや失敗をしないようにと気を張り続けなければならないそんな日々に疲れていた。先ほどだってうっかりと絶望のオーラを出してしまっていた。ハムスケに使ったきり出していなかったためかLv1のオーラで助かった。もしLv5のオーラを出していたらセバスが連れてきた彼女は死んでしまっていただろう。

 

 もし、ここにスワリューシがいたならば。何か変わっていたのだろうか。

 

「いや、あんまり変わんなさそうだな」

 

 そう口にして小さく笑う。モモンガが擦り切れていないのは希望があるからだ。スワリューシは今でこそナザリックに居ないがこの世界に来ていることはほぼ確実である。彼の耳に我々がいるということが届けば向こうからやってくるということは想像に難くない。

 

 王都での捜索はまだ半日ほどしか経過していないが八割以上の場所を調べつくしたとデミウルゴスから伝言(メッセージ)があった。もう王都にはいないのだろうか。彼のクルーが言っていた通り海のほうに行ってしまったのかもしれない。

 

 そのまま航海に出てしまっていたらどうしよう。いやそれは考えたって仕方ない。八欲王や六大神しかり、そもそも自分よりも前の時間軸に転移した可能性だってあるはずだ。そう考えればこのアインズ・ウール・ゴウンの名を全世界に轟かせるほうが彼に届く可能性は高い。

 

 悩むのはこれきりだとモモンガは決意した。立ち止まって悩むことも大切だが、今はそれをすべき時ではない。

 

 モモンガはキリッとした気持ちに切り替えて伝言(メッセージ)をアルベドに送った。

 

(アルベドよ、聞こえるか)

 

 そうすると帰ってくるのは弾んだ声である。

 

(はい、いかがなさいましたかアインズ様)

 

(宝物殿に行く。お前にも宝物殿の守護者を紹介しておこうと思う。一緒に来てくれ)

 

 アルベドの了承を聞き、服装を簡単に正してから宝物殿に転移した。モモンガが転移するとそこにはすでにアルベドがいる。お待ちしておりましたと頭を下げる彼女を前に内心で良しとガッツポーズをとる。あまり早く行き過ぎて待っているとNPCたちは待たせてしまったとかなんとか言い始めて厄介なことになるのだ。それを回避するために少し時間をかけて転移してきたが、今回はちゃんと後から来ることができたようだ。

 

 いくつものギミックを解除しアルベドと共に奥へと向かう。その道中でアルベドが問いかける。

 

「アインズ様、宝物殿の領域守護者を紹介するためにこちらへといらしたのですか?」

 

「いや、それも目的の一つではあるが主たる目的ではない。……この世界に転移する直前のことを覚えているか?」

 

 そう問いかけたアインズであったがその後に後悔した。アルベドがとても悲しそうな顔をしたからだった。しかしここに来た理由を話すうえでこの話題は避けられそうにない。

 

「はい……。キャプテン・スワリューシ様とアインズ様がお二人で楽しそうにしていらっしゃいました」

 

 そう、楽しかった。全盛期ほどの盛り上がりではなかったが、あの最終日にアインズ・ウール・ゴウンという名前を大きく知ら示すことができたのはとても楽しかったのだ。

 

「ああ、そうだな。あの時は、ッチまた抑制されたか。まあいい。そうか、お前たちはあの日に私たちが何をしていたか知らないのだったな」

 

「はい。アインズ様とキャプテン・スワリューシ様が喜んでいらっしゃったということしか存じ上げておりません」

 

 アルベドが楚々とした様子でそう答えると上機嫌にアインズは当時のことを語った。

 

 アルベドにとってそれはとても痛快で、やっべかっけくふふるのは当然の帰結であった。

 

「実際私とスワリューシさんのスキルコンボは対策も難しい類な上に、あの時は誰もかれもが予想外の一撃だったということもあって成功したのだ。いいかアルベドよ、思いがけない一撃というのは避けるのが難しい。だからこそ、常に警戒することが大事なのだ」

 

「はい」

 

 ウキウキと自分たちの功績を聞かせているうちにはっと我に返ってなんだか恥ずかしくなったアインズは最後のほうをなんとなく訓戒として言い聞かせたが、何よりアルベドの称賛するような視線がくすぐったい。こんな時ばかりは精神抑制がほしくなるのだが、その兆候は全くない。先ほどの楽しい気分は抑制する癖になんと不自由なパッシブスキルだろうか。

 

 アインズがアルベドに当時のことを話しているうちに二人の目の前にとある人物が見えてくる。その人物は敬礼の姿勢をとったままにアインズに向けて敬意を持って挨拶をする。

 

「お待ちしておりましたッ! 私の創造主たるアインズ様!」

 

 よく通る声で高らかにビブラートをきかせてオペラ歌手か何かのように放たれた言葉は演技がかったものであり、そのしぐさや様子からそれらの動作を心の底からかっこいいものだと信じて疑わずに行っているということがありありと分かった。

黒のネクタイや赤のシャツ、金の装飾が施されたその服装はかつてアーコロジー戦争でネオナチが着用していたものを参照したのが見て取れる。上背やガタイの関係で服装は似合ってはいる。

しかし悲しいかな、その顔はハニワであるし卵頭である。これでデミウルゴスが同じ服装であれば映えると思うが、いかんせんハニワ。その見た目もあってかっこいい仕草は完全にピエロとなってしまっていた。

 

 かつては逆にありじゃねとギャップ萌えの波動に飲まれてしまっていたが、改めて冷静に見つめ直すとアインズは思うのだ。

 

(うわー、ださいわー)

 

 三歩後ろをついてきているアルベドの顔を見ることもできない。アインズはかつての自分を殴りたい気持ちになったが、今は先にすべきことがある。

 

「ン″ン″! パンドラズ・アクターよ、敬礼は辞めるように言っただろう」

 

「ハッ! 申し訳ありません!」

 

 ビシィ! と音が鳴りそうなくらいにきっちりと気を付けの姿勢をとったパンドラズ・アクターに若干げんなりとしながら精神の安定化が起こったことを確認したアインズが後ろに控えていたアルベドに対して言う。

 

「アルベドは存在だけは知っているのだったな。こいつはパンドラズ・アクター。私が創造した宝物殿の領域守護者だ。その能力はアインズ・ウール・ゴウンのすべてのメンバーの能力を80%程度であるが引き出すことのできるドッペルゲンガーなのだ。

転移後は鑑定などが得意なメンバーの外装になってもらい、とあるアイテムの解析を頼んでいた」

 

 それを聞いたアルベドははっと息をのむ。鑑定が必要なアイテムと聞いてピンと来るものがある。先ほどのアインズの話でそれらは出てきた。

 

世界級(ワールド)アイテム……!」

 

「その通りだ。我々が奪ったものの中には効果がわからないものもあった。いくつかは私もその効果を知っていたが、中には見たことがないようなものもあった。下手に動かして何があるかわからなかったので、パンドラズ・アクターに頼んでその効果を調べてもらっていたのだ」

 

 アインズがそういった行動を起こしたのはスワリューシのクルーに会いに行ったすぐ後である。彼につながりのあるクルーを見ていて自分の創造したNPCのことが思い浮かんだのだ。

精神衛生上の理由からあまり積極的に会いに行きたい相手ではなかったが、アインズの手元にはスワリューシと一緒に奪った世界級(ワールド)アイテムがあるのだ。

結局はこれを預けに宝物殿に行くことは必定。ならばできるだけ早いほうがいいだろうと思い、ナザリックのギミックなどをすべて覚えているという設定のシズと一緒に宝物殿まで行った。

 

 その時のシズの反応は彼女が自動人形(オートマトン)であるがゆえに感情こそ読めなかったものの、彼女の放つ雰囲気からなんとなく埋まりたい気分になった。

 

世界級(ワールド)アイテムッ! 世界を変えれるッ! 強大な力、至高の御方々の偉大さの証ッッッ! 新たなそれらの数々ッ! 新たな世界級(ワールド)アイテムは解析が非常に困難ではありましたが、至高の御方々の能力を前にしてはそれも丸裸同然ッ! 惜しむらくは我が身の未熟! 至高の御方々であれば仔細まで解析することもできましょうが、私の能力ではおおよその効果がわかる程度でございます! 申し訳ございません、アインズ様ッ!」

 

 やめてくれ。アルベドもそんな顔をしないでくれ。

 

 アインズは切にそう思った。パンドラズ・アクターは一文節ごとに何らかのオーバーなリアクションを取りながら先ほどの言葉を放った。声もやはりビブラートが効きすぎなくらい効いている。もちろんそれらのオーバーなモーションはかつてアインズが設定したものではあるのだが、それが自発的に歌って踊るということのなんとむず痒いことだろう。頭蓋骨の内側をブラシでこすりたいような気分になる。

 

 当然、アインズは精神の安定化が行われる感覚を味わうことになる。どうにか取り乱さずに済んだアインズは咳ばらいをした後にパンドラズ・アクターに世界級(ワールド)アイテムの説明を求めた。

パンドラズ・アクターは先ほどまでの興奮した様子を抑えて説明を始める。とはいえ彼はマジック・アイテム・フェチであるという設定があるので話しているうちに若干息が荒くなるのだが、先ほどよりは落ち着いていた。

 

「えー、そうですね。この“深海の契約書”はアインズ様のお役にたつのではないかと思います」

 

「ほう? 聞いたことがないアイテムだ」

 

 アインズがしげしげと見るとそれは古ぼけた羊皮紙のようにしか見えなかった。名前の通りであればそれは契約書であるのだろう。だが何のどのような契約であるのかがわからない。

 

「この契約書にできることは失ったレベルと同じ分のレベルを得ることです。ただし時間制限がございまして、最大で三日間、また使用した後は同じだけの時間を置かなければ再使用できないという制限もございます。

ただ、職業レベルなどは前提条件をクリアしていなければ採れないものがあるなど、いくつかの制限があるようです」

 

 アインズは世界級(ワールド)アイテムにしては大人しいなと思ったが、すべての能力が明らかになったわけではないということを思い出した。隠し要素のようなものがあるかもしれない。だがそれを今確認しようにも簡単にできることではない。

 

「使いようによってはかなり有用だろうな。だが、まだ判明していないデメリットなどがあるかもしれん。そのアイテムは召喚した下僕などで実験をしてから活用したほうがいいかもしれんな」

 

 わかりましたと敬礼しかけたパンドラズ・アクターはわたわたと気を付けをしてからそう返答した。そこへアルベドが問いかけた。

 

「その“得るレベル”というのは種族レベルも含まれるのかしら」

 

「そのようですね。ただこちらも同じく前提条件などをクリアしていなければ採れない種族レベルなどもございますね」

 

 そう、とつぶやいたアルベドは次いで鬼気迫るような迫真の面持ちで問いかけた。

 

「仮の話なのだけれど、種族レベルを全て職業レベルに変換したりなんてことはできるのかしら」

 

「そうですね、そういったことも可能だとは思いますが私の能力ではそこまで解析できなかったので今後実験していかないといけませんね」

 

「種族レベルを失うと()()()()かというのも大事なことね。報告の際には私にもお願いできるかしら」

 

 アルベドの言葉にパンドラズ・アクターはちらりとアインズのほうを見た。アインズはそれに頷き返すことで、ようやくパンドラズ・アクターは了承を返したのだった。

 

「まあそのあたりは追々やっていくことにしよう。ところで、その他のアイテムはどうだ?」

 

 アインズの言葉があり、パンドラズ・アクターはいくつもの世界級(ワールド)アイテムの説明をする。それらはなるほど破格の能力であるがその全容がわかるものではないので使い道に困るものばかりであった。

 

「何か十全にわかるものはないのか?」

 

「一つございます」

 

 そう言ってばさりと一枚の布を取り外した先にあるのは石壁にはめ込んである鏡であった。鏡の周りには十二の各星座をモチーフにしたと思しき意匠があり、中の鏡には何も映らない。鏡には透明度があり、鏡であるということは明確に分かるがしかしそれは反射の機能がなかった。

 

「これは“真実の鏡”。その効果は、いかなる質問にも答えることができるというものであります」




無駄な設定
スキル
・ユグドラシルのシステムがそのまま現実になった証そのもの
・例えば料理スキルがないとろくに料理すらできない
・現地勢がナザリック勢に勝るのはその辺の自由度くらいかもしれないあるいはそこに勝機があるのかもしれないが俺は全く思いつかない
・この小説では判明しているスキルは効果量の増減なくそのままテキスト通りの効果が発揮される
・だからまあレベル差とかでめっちゃ怖かっただろうけどアインズの絶望のオーラLv1ではツアレニーニャは恐怖するだけで死んだりはしない
・まあ心が弱かったらショック死してたかもしれないけどそれはなんか娼館とかで鍛えられたとかそんな感じ
・設定ではPOW18とかそんな感じ
・セバスがそばにいるときは+5してもいいかなってくらいの設定
・でもツアレニーニャにダイスロールする必要性とかあんまり感じないので完全にフレーバー


P5、ポケモン、FF15
明日はラストガーディアン
今年の秋は目白押しで忙しい

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