パイレーツ・オブ・ナザリック   作:(^q^)!

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十三話

 この国はもうだめだろうな。そんな思考を持つようになったはいつの頃からだろうか。入ってくる情報をまとめて、いくつかの要素を兼ね合わせると、もう寿命が迫ってきているということはラナーにとって語るまでもない結論である。

 

 権力争い、腐敗、対外戦争の負担。積み重なる要素は王国が建国以来積み上げてきた財があるからこそいまだに国として存在できているに過ぎない。延命もやがては限界を迎える。それは、自分がクライムと一緒に天寿を全うするより早く訪れることだろう。その対策を講じなくてはならない。

 

 だというのに、正体不明のじっとりとした感覚がここ数日の間ラナーを悩ませている。押しつぶされるような圧迫感。危機感。誰かにつけ狙われているかのような、自分が誰かの獲物になったかのような感覚。

普段あるような刺客だとかそういった連中によるものではない。ただの感覚である。友人であるラキュースが来た時にも感じていたそれはしかし彼女では感じ取ることもできないようである。自分の感覚がラキュースより優れているかと言われれば疑問ではある。冒険者として戦闘に身を置く彼女のほうが感覚器官は優れていて当然なのだ。

 

 だが彼女はこの感覚を持っていない。つまりは彼女の埒外にあるものによる感覚なのだろうか。

 

 ラナーは結論を出そうとするが、脳裏によぎるいやな記憶があった。忘れもしない。月の夜。彼女が出会ってしまったのはこの世の暴力であり、理不尽であり、絶対強者である。頭脳で上回っていようともどうすることもできない。ただ純粋に力で敗北した。あの瞬間において確かに自分が下であり、あの侵入者が上であったのだ。

 

 それをどうすることもできない力関係があそこにはあった。その感覚と何となく似ているような……。

 

 優秀な頭脳は本能がやめろと叫んでもその働きを止めることなく動く。あの感覚と一緒。つまりは今この城にあれと同じものがいるのではないか? 推論は感覚を伴ってやがて結論に至る。そういえば今夜は月が出る。あの存在は何と言っていただろうか。月の光は真の姿を暴くとかなんとか。

 

 ラナーはごくりと喉を鳴らした。真の姿。姿とは何だろう。外側である。皮膚だとか、毛髪、服装も姿なのかもしれない。その内側こそが人の真の姿であるのなら、真実の証明は中身をこそ見るべきである。

 

 鏡に映る自分はかつてクライムを手に入れる前からすれば随分と変わっただろう。きっと内側も。であれば、その真実はどう証明したらいいのだ?

 

 ラナーのそんな思考の渦は答えの出ない場所に留まっていたが時間は先へと進む。太陽も落ちて月が上る時間にラナーが出会ったのはやはり人外の存在であった。

 

 利発そうな、紳士然とした彼との邂逅はかつてと同じく突然である。ラナーは心臓が止まってしまうのではないかというほどに驚いたものだがある程度の覚悟があったためにそれを外側に出すことはなかった。

相手はなぜ自分の部屋にわざわざ来たのか。それは彼の雰囲気などからひしひしと感じることが可能だった。彼は、自分が現在の王国の状況を正しく理解しているとわかっているからこそここに来たのだ。そんなラナーの様子を見た相手はニヤリと笑う。

 

「ふむ。やはりあなたは他の人間とは違うようですね」

 

 眼鏡をクイと上げて笑う彼から感じるのは邪悪なもの。彼の背後には長く太い尾がある。それは紛れもない人外の証である。ただ、話が通じそうであるという事実はラナーを内心喜ばせた。

 

「ええと、あなたは人間ではないようですが、何かご用がおありでしょうか」

 

 黄金の名の通りにラナーは挙動を行う。本心からのものではない。ただその挙動をクライムが望んでいるから。それらの事柄がかみ合いラナーは普段からこの黄金の外側を着飾ることができる。

それは内側の思惑だとか思考だとかを隠すのに非常に便利であるはずなのだ。

 

「うん? ああ、いいですよそんな風にしなくても。シンプルに行きましょう。あいにく、それほど多くの時間を割くわけにもいきませんので」

 

 しかし目の前の人外はラナーの変貌をいともたやすく見破った。つまり目の前の奴は力のみならず、頭の分野でも優れていることの証明に他ならない。

シンプルに、彼は何をしたいのだろう。残念なことにラナーの中に目の前の存在がどこの誰でどの組織に所属しているかということがわかるような情報はない。故に、その目的も定かではない。

 

「そうですね。では単刀直入にお聞きしますが、あなたはなんという名前で何を目的にこちらへいらしたのですか?」

 

「おお、これは失礼。私の名前はデミウルゴス。栄えあるナザリック地下大墳墓の第七階層の階層守護者を至高の御方より仰せつかっております。今宵は少々知恵比べでもと思いましてね」

 

 お辞儀と同時に広げられた翼は蝙蝠のようであり、その細さ、薄さからは予想もつかないような力強さが感じられる。悪魔だとラナーの頭脳は告げていたデミウルゴスのダイアモンドの瞳が輝き、さてと言葉が続く。

 

「実を言いますと“知恵比べ”というのはついででして、本題は別に存在するのですよ」

 

 ラナーの周りをゆっくりと歩いて回るデミウルゴスの顔から読み取れる感情は憤怒、そして期待である。いったい何がと戦々恐々とラナーが聞いていると、デミウルゴスはゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「二か月ほど前のことでしょうか。この王都で一羽の鳥が大きな騒動を起こしたらしいですね。そしてその鳥は青い薔薇というアダマンタイト級冒険者チームですら捕えることはできなかった。

本題は、その一週間後のことです。とある一人の人物がこの王都にて囚われ、牢に入れられたそうですね。幸い、拘留のみで不躾な行いはされなかったようではありますが、薄汚い地下の牢獄に犯罪者扱いをして、一晩、とどめようとしたそうですね。我々が探し求めてやまないとても大切な敬愛すべき至高の御方を!」

 

 徐々にご気が荒くヒートアップしたデミウルゴスは怒りを隠すこともなく表情に浮かべてラナーに肉薄した。その迫力はラナーの意識を軽く吹き飛ばすかのようなものである。しかし彼女は意識を手放すわけにはいかなかった。それは彼女の頭脳が彼の怒りは自分に対するものではないということが理解できていたからだった。

 

「……失礼。で、だ。至高の御方はその後、何かをなさった。その結果、近くの牢にいた犯罪者や王城で警備にあたっていた兵士の何人かが発狂し、彼の方はお隠れになった」

 

 ラナーには強い思いあたりがあった。あれは、そうか。この目の前の存在も、あれの仲間であるのか。何故、自分の前にそんな理不尽が現れる。叫びたい気分でいっぱいだったが、ぐっとラナーはこらえた。

 

「あなたは何か知っていることはございませんか?」

 

 その目は確信に満ちていて、どこからか自分が彼に出会ったということを知りえたようであった。ラナーは別に隠し立てする必要がないことと、あの存在が彼あるいは彼らにとってとても大切な人物であるということはその話をすることは会話のアドバンテージを得るきっかけになるのではないかと思い、話すことにした。

 

「はい、あの夜に起きたことは存じております。

ところでお聞きしたいのですが、あなた方の探している方というのは顔から何本かの触手のようなものを生やしておられる方だったりしますか?」

 

 次の瞬間のデミウルゴスの表情はこれほどまでの喜びを表すことができるのかと思える見事な喜悦だった。裂け上がった口に輝く瞳、羽や尻尾はバサバサバタバタと動く。

 

「おぉ、おぉぉぉー! やっと、やっと確証をつかみました! さあ、その話をよく聞かせてください!」

 

 ラナーがデミウルゴスに話した内容は嘘偽りなく真実だけである。途中に挟まれてくる彼がどこへ行ったかという質問はラナーには見当もつかなかったし、空を飛ぶことのできる存在なのだし行動に制限などもないだろう。

 

 そしてそのお礼、というわけでもないだろうが続けて行われた“知恵比べ”はラナーを大変に満足させる結果となった。デミウルゴスとの楽しい企みも、しかし時間に制限が来る。

 

 コンコンコンコンとドアがノックされる。

 

「あなたの愛しの君が来たようですので、そろそろお暇させていただきましょう」

 

「ええ、とても有意義な時間を過ごすことができました」

 

「それでは手筈通りに」

 

 そう言って去っていくデミウルゴスを見た後、再度扉がノックされた。入室を促す。

 

 もしかしてまた幻聴であるのかもしれないという不安はしっかりとクライムがやってきたことで解消された。それは、自分たちの行く末だって同じだった。ラナーは黄金へと変貌し、その内側ではクライムでは想像もつかないような、悪魔的な笑いをするのだった。

 

 それを、薄く見つめる何かがいた。それはもしかするとラナーが鋭敏に感じ取っていた圧迫感の正体であったのかもしれないが、少なくともラナーの心は軽く晴れやかであった。

 

 

 

 朝の風は冷たい。海から吹き付ける風はべったりとした潮の香りとともに肌寒さを感じさせる。海沿いにある町はリ・エスティーゼに海の恵みをもたらす都市として栄えている。漁は朝早くからということで港ではあわただしく人が動き回っている。

 

 そんな中、キャプテン・スワリューシは困惑した。港で船を買おうとしたが駄目だった。金はある。しかし残念なことに船を作ったり買ったり、航海するには国の許可証だなんて物が必要だというのだ。

 

 彼の辞書の、航海に必要なモノの項目に“国の許可証”なんてアイテムは存在しないのだ。そんなものどうやって手に入れたらいいのだ。というかなんでそれがなくては海に出れないのだ。

 

「どう考えたって不自由だろ。海に漕ぎ出すのに許可なんて必要か? そんなの誰にだって禁止できるようなもんじゃない」

 

「だが、規則だ」

 

 そう言う髭もじゃの船大工はふうとため息をついて言った。目の前のこの怪しさの塊みたいな男がこうして直談判に来るのは初めてではない。彼の熱意や放つ言葉は何人もの船乗りを送り出してきた自分としては納得ができるものでもあるのだが、じゃあ造ってやるよとはいかなかった。それをしたら犯罪者だ。さすがにそんな危ない橋を渡るほどに彼に対して共感もしていなければ恩もない。

 

「……じゃあ逆に聞きたいんだが、その許可証ってのはどうやったら手に入るんだ?」

 

 お、と船大工は意外に思った。この男はどこかの船に乗せてもらってから漁から帰ってきて、毎回うだうだと飲んだくれのように管を巻いて同じ話題でゴネてから帰っていくのだが、今回に限ってはより建設的な話になりそうである。

 

「そりゃあ王様が発行するんだし、王城とかじゃねえか?」

 

「王城? それってあれか? ロ、ロ、ロロロ? ……なんつったっけ」

 

「ロ・レンテ城な。なんにしてもまずはリ・エスティーゼまで行かなきゃなんねえ」

 

 そう聞くとそうだったのかとばかりに男は納得した顔になり、おほんと喉の調子を整えてから偉そうに言った。

 

「では、許可証を盗ってくるので船の設計でもしておいてくれたまえよ」

 

「あ? 簡単に貰えるもんじゃないぞ」

 

 そう言った船大工に男は真面目な顔をしながら言う。

 

「あのな、俺はキャプテン・スワリューシ。お分かり?」

 

 少し演技がかった様子でそんなことをのたまう様子は酒場であれば船大工もまあ許容できるのだが、仕事場でしかも素面の奴が言っていると考えると何ともおかしなことだ。何か言ってやろうかと口を開く前にスワリューシはさっさとその場を去ってしまった。

船大工は何か釈然としない気持ちを整えつつ、今日の仕事に取り掛かる。それは奇しくも新しい船の設計である。もちろんあの男に言われたからやっているというわけではなく、何か月か前から依頼されていた仕事だ。

 

 理不尽に釈然としない感情は説明がしがたい。もちろん自分でも理解ができているというわけでもないのでふつふつと炭が燃えるようにいつまでもその感情は燻る。その日の仕事はいつもの半分も進まなかった。

 

 一方、その場を去ったスワリューシはというと船大工の仕事場から出た後、埠頭に腰かけて海を眺めながら一人で何事かをぶつぶつと呟いている。彼の周囲には人がいない。彼と一緒に漁に出た船乗りたちはまあ悪い奴じゃないかななんて印象を抱いているが、そうでない船乗りたちはいつの間にやら仕事場に紛れ込んだ異分子に対して若干の忌避感を抱いでいるからだった。こいつ誰なの? という感想や、新入りなら挨拶しろよなどという各自の思いと、こいつアブないやつなんじゃねーの近よらないようにしておこうという危機回避の観点から彼は避けられていた。

 

「うん? 王都からは出て行ったのか。ってことは帝国だか法国だかって場所でなんかやらかして捕まったかなんかしたのか?」

 

『その可能性が高いでしょうな』

 

 彼の頭の出来などの話はさておき、ぶつぶつとつぶやく言葉は独り言ではなかった。魔法の力によって遠くの何者かと会話をしていたのだ。

 

「そうか……オウムの状態がわかれば予想もたてられるんだけどな。コンソールが出ないせいで召喚したNPCの状態とかその辺が全然わからん」

 

 ため息とともに紡がれた言葉には残念そうな感情が大いに含まれていた。それに呼応するかのように通話先でもあぁと同情するかのような息遣いの後、提案される。

 

『なんと……現在の我々の状態が確認できないのですか?』

 

 しまったとスワリューシは思った。通話先の奴は利益のためには裏切ることを躊躇わない。それでいて、彼の設定は王位簒奪を狙う悪党である。現状で奴はそれをしていないようであるが、どうなるかわかったもんじゃない。

 

 釘を刺しておこうかと思ったその矢先、いや待てよと彼の頭の中に閃くものがあった。

 

「そういやお前、王様になりたいんだよな」

 

『ええ、まあそう設定されましたからな』

 

 何を当たり前のことをと言った様子でそう返す奴に内心にやりと彼は笑った。

 

「頂戴していいぞ、王位」

 

『は? 今なんと?』

 

「王位を貰ってきていいって言ったんだ」

 

 通話先の魔人は小躍りしたい気分だった。まさか、こんな形で夢がかなうなんて。

 

『二言はございませんな?』

 

「うん? ああ大丈夫、予定変更になったら言うから」

 

 あっけからんとそう言う主人に魔人はそうじゃないと言いたい気分だった。




ケル銃作れました
以下番外編




番外編を書いてみたはいいもののこれオバロ二次でやる必要ある?
って思ったのであとがきにでものっけとけっていう無駄な番外編


 ナザリック地下大墳墓は計算されつくした芸術のようなものである。POPするモブやギミック、NPCなどのすべては計算され尽くしたうえで各所に設置されている。

 Lv100NPCも同じである。適切な場所に適切な戦力を配置する。それは勝利のために惜しむべきではない。ユグドラシルで多数である人間種からのヘイトを集めているアインズ・ウール・ゴウンとしてはそうするのはもはや義務であるとさえいえる。

 ただ、そこで少し問題が起こった。どのようなスキル構成にするかなど最低限度のことは頭脳派達が決めたものの、Lv100とキャパシティはそれだけでは埋まらなかった。つまりその余剰部分にロマンだとか設定を差し込む余地ができたのだ。みんなその権利がほしい。しかしその数は十に満たない。

 結果的にそれを決める権利は話し合いやらくじ引きやらでなんやかんやあって決まったのだが、その設定だとかをできなかったメンバーもいた。

 そんなわけでアインズ・ウール・ゴウン内部で配置されたNPCにデータクリスタルを突っ込んで見た目を変更したり設定だけ盛り込んだりするというブームが起こったのだ。その最たる例といえば餡ころもっちもちが創造したエクレア・エクレール・エイクレアーが挙がるだろう。執事助手はもともとちゃんとした人型のバードマンだったのだが、データクリスタルによってイワトビペンギンの見た目になった上にナザリックの簒奪を狙うという設定がなされた。

 それ以外にも沢山のNPCが見た目を通常のものとかけ離れたものとなる。とはいえそれは種族レベルの許す範囲での変化なのでLv100NPCほどの自由度はないが、その分は設定や装備品などにつぎ込むことで満足したのだった。

 スワリューシもそんなメンバーの一人であった。彼の場合は自身のペットモンスター、通称クルーに対してその欲求の発散を行っていたのだが、ペットモンスターは数に限りがある。あるいは種族に偏りがあるなど、あまり自由にいろいろといじくることができなかったのだ。

 そういうわけでナザリックのNPCに対してデータクリスタルをつぎ込んで見た目を変えたり設定を盛り込んだりということは盛んにおこなわれており、転移後のナザリックにもそれは反映されていた。

 ナザリック内のNPCやモブモンスターは全員が至高の四十一人に仕える仲間であるが、その中でもある程度の派閥のようなものがある。例えばそれはアインズの正妻は誰になるかなどの派閥であったり、あるいはかつて至高の四十一人が血みどろの戦いを繰り広げたシチューにご飯は有りか無しかという料理人同士の話でもあるかもしれない。

 ただ、そういった意見の派閥とは別に存在する派閥というか仲間意識というものがある。それは“どの至高の御方によって創造されたか、見た目を作られたか”という部分である。創造された者にとってみればとても大切な部分であり、それが共有するということはそれだけで断金の交わりがあることを示している。

 そんな存在同士での話し合い、プレアデス達の言い方を変えるならば“お茶会”をするのはよくあることである。もちろん毎日のようにするというものではないが、組織の長であるモモンガが働いてはならない日というものを制定した結果、調整などをしてその日は“お茶会”をするという風になっていた。

 “お茶会”には会場が必要である。それはウルベルト・アレイン・オードルに設定された者であれば第七階層であるだろうし、アインズ・ウール・ゴウン女子組に設定された者であれば第六階層など、各プレイヤーに縁のある場所にて行われる。

 であれば、キャプテン・スワリューシによって設定された者は第四階層の船でお茶会が行われる。今日はそんなお茶会の日。
第五階層の雪女郎(フロストヴァージン)の二人はゆっくりとした足取りで船まで向かっていた。五階層からは一階層分しか離れていないのでそこまで疲れないが、これがロイヤルスイートだとかの場所に仕える人たちだと遠くて面倒かもしれないなんて思うが、至高の御方のために働くこともできない事のほうが辛いし別にそうでもないかと思い直した。

 ゆっくりと歩く彼女達の後ろから慌ただしく走る音が聞こえる。

「あぁーっ! 大変大変! 遅刻しそうだ!」

 そういって走り去っていくちょっと太り気味のウサギの後をついていくのはイノシシとその頭の上でくつろいでいる小動物。

「遅刻だってよどうする?」

「大丈夫だって、俺たちの合言葉あるだろ? 悩まずに生きることさ、ちょっとくらい遅れたって平気平気」

「それもそうだな!」

 お気楽な様子で歩いていく二人組を見ると若干の羨ましさを覚える。自身の創造主であるキャプテン・スワリューシ様のお創りになったNPCの設定はおおよそ三つに分類される。陽気か、陰気か、思慮深いか。彼らはもちろん陽気な連中である。自分は、まあ陰気な部類だろう。どちらかといえば自分も陽気な風で居たかったと思う事は不敬なんだろうか。いや、そう考えることも設定されたうちでの事であるのだし、そうでもないだろう。

 ちらりと隣を見ると自分の同僚でもある雪女郎(フロズトヴァージン)が歩いている。彼女は思慮深いほうでいいのだろうか。自分と比べると幾分かしっかりとした印象を抱きそうな大人っぽい見た目をしている。キャプテン・スワリューシ様の被造物では彼女と第六階層のもう一人以外はコミカルな見た目をしている。彼女たち二人は特別ということなのだろうか。

 もしかするとあれだろうか。最近よく噂されてるアインズ様の正妻がどうこうっていう話のように、キャプテン・スワリューシ様の奥方の有力候補ももしかするとこの二人のどっちかってこと!?

 いやんいやんと身体と左右に揺らす雪女郎(フロストヴァージン)をもう一人の雪女郎(フロストヴァージン)はなんだこいつという目で見ていたが彼女は気づくこともなかった。

 彼女たちが四階層に到着すると既にお茶会というか飲み会は始まっている様子だった。遠くからでも船の上の陽気な音楽が聞こえる。今はジャズが聞こえる。ということは、いつものワニがトランペットを吹いているのだろう。
船の上では怪しげな魔術師が音楽に合わせて踊り、彼の影もゆらゆらと踊っているのが見える。その近くでは白い卵のような自動人形(オートマトン)と少しボロな自動人形(オートマトン)がブースターで飛びながら楽しそうに笑い合い、赤いマスクをつけた怪しげな男の合図でドレスを着た女が扇情的とも思えるダンスを踊っている。それを見た彼のクルーや被造物が歓声を上げる。

 ニューオリンズの歌の後はヨーデルだ。でかいパンツの男がギター片手に見事な歌声で歌い上げるリズムに乗って各々がダンスを踊る。

 船の甲板ではそんなパーティーが行われているが、船内はもう少し落ち着いていた。

 ゆっくりと立ち込める煙はランプの光をさえぎって船内の影を不定形に変える。グラスの中の飲み物をこぼれるほどに打ち付ける音が一番大きな音で、それ以外では小さな笑い声とひそひそ話が漏れ聞こえる程度だ。

「いやしかしキャプテンはどこ行ったんだろうねほんと」

 そういったクルーに対してピクリと反応するのは少しばかり薄汚れた黒猫だった。

「キャプテン・スワリューシ様でしょ。ちゃんと敬称つけなさいよ」

「いやでもそんなのきっとキャプテン嫌がるぜ?」

 クルーは機械で出来た左手のギミックうまく使って料理をしていた。黒猫はやれやれといった様子で出来上がった料理を尻尾に乗せて各テーブルに運んでいく。

「はいチーズのチーズサンドおまちどうさま」

 黒猫が運んだ先では二匹のリスと二匹のネズミがいた。彼らはしきりに何か秘密の作戦について話しているようであるが、二匹のネズミのうち一匹がチーズのにおいに誘われて皿に突っ込んできた。

「あんたのチーズ好きは知ってるけどネズミがネコに突っ込んでこないでよ」

「あはは、すいません」

 ちょっとひきつった笑いで謝るハツカネズミに気にしないでと言って黒猫は立ち去ってまた料理を受け取って次のテーブルへ。

「仕事で休む暇もないっていうのも嫌だって話だけど、仕事がないほうがよっぽど嫌だね。一応設定では俺って冥界の番人というか管理者とかやってるって話だけどそんな仕事無いじゃない。というかここで死ぬやつなんていないじゃん」

「……」

「ああそういえばあんたも魂とかそういうの燃やしたり集めたりするみたいな感じのやつだった。俺あんたのいるあの山結構いけてると思うよ」

「……」

「わかる? やっぱりあんた見る目あるよ。どう? 一緒にゼウスとかあの辺滅ぼs」

「おまちどうさま」

「お、ありがと猫ちゃん。で、さっきの話に戻るんだけど――」

 黒猫がその場を去るとバインと何かにぶつかってコロコロと転がった。

「スイマセン。大丈夫 デスカ?」

 白いマシュマロの赤ん坊みたいな形状の自動人形(オートマトン)にぶつかったのだと理解した黒猫はダメージを負っていないことを確認する。

「大丈夫よ。そうだ、あなたも給仕手伝ってくれない? 結構忙しくて」

 それを聞くと自動人形(オートマトン)はキュインという駆動音を鳴らしてからビシッと敬礼の姿勢をとって黒猫に答えた。

「了解 シマシタ。次ノ“大丈夫だよ”ト 言ウ コマンド ガ 入力 サレルマデ 給仕 ヲ シマス」

 そう言うと滑らかに動く自動人形(オートマトン)を見てこれで楽ができるかしらと黒猫は考えて、ぐいっと伸びをした。



 ナザリックでは、スワリューシに創られた者が一番彼を心配していないのかもしれなかった。

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