パイレーツ・オブ・ナザリック   作:(^q^)!

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今回の話:牧場体験

デミウルゴス牧場の話なので稚拙な残酷な表現が苦手な方は戻るといいと思います


十四話

 王都リ・エスティーゼの一角にある一軒の屋敷。そこは朝から慌ただしく動いている。その広い屋敷の二階でデミウルゴスがはぁとため息をついた。その様子は普段であれば表情にさえ浮かべないような憂鬱の色をはらんでいる。

 

「全く、度し難い。愚かとはまさにこれであるのでしょうね」

 

 クイとメガネの位置を正して部下に今捕まえた侵入者をニューロニストのところに送っておくように指示する。その後、計画の進捗状況を確認する。この調子であれば予定時刻までに余裕をもって準備を完了することが可能だろう。

 

 デミウルゴスがこの後の予定などを立てているとドアがノックされる。不躾にも力強く、粗暴であり野性的であることの証明であるかのような音だ。ナザリックに属するものであれば間違ってもこのような非文明的なノックの仕方はしないだろう。舌打ちをしてから一階に降りてドアを開ける。

 

「これはこれはようこそいらっしゃいましたヘーウィッシュ様」

 

 へりくだった態度でデミウルゴスが対応した先にいたのは王都の巡回使であるスタッファン・ヘーウィッシュという太った男である。デミウルゴスにとってこの存在は目障りである。デミウルゴスは今日の夜にはこの問題も一挙に片が付くのでさっさとスキルの“支配者の呪言”でお帰りいただこうかと考えたのだが、彼がなぜ今日も来たのかということが気にかかった。

 

 このヘーウィッシュという男の邂逅は昨日の出来事である。王都での使命を果たしているデミウルゴスやセバス、シャルティアとプレアデスの面々が撤収の作業や物資の買い付けを行っているときにやってきた。

 

 サキュロントと名乗る男とともにやってきたヘーウィッシュはアインズが保護を約束したツアレニーニャを明け渡すように要求するだけでは飽き足らず、金銭やプレアデス達の身柄までをも要求し始めるという恥知らずっぷりであった。

 

 当然そんなものを認めるはずがないのでデミウルゴスは“支配の呪言”を用いて追い返し、その後でネチネチとセバスに嫌味を言い、出て行ったセバスが件の娼館を物理的手段を用いてぶち壊すなんて言う非常に頭のいい(・・・・・・・)解決法をやらかしてくれたのでその対応などをいろいろしてから夜にラナー王女となんやかんやと話をして、深夜には八本の指だか六本の腕だかわからないような奴らが侵入していてそいつらの対処を申し訳なく思いながら至高の御方に相談して、撤収の準備をしている最中にまた来たこの男は一体何の用事があってわざわざ来たというのだろうか。

 

 ちなみにセバスはなぜ娼館に突撃したのかを聞いた時に『手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔します。それが嫌なので手を伸ばしました』なんて言い放ったのでデミウルゴスの罵倒が放たれたが誰も止めはしなかった。もしかするとこの男が来たのは昨日のことが原因であるのかもしれない。

 

 昨日来たときは自分たちに請求した代金そのままを自腹で支払うように“支配の呪言”で指示したし、それを疑ったり思い出したりできないようにもしてある。彼が今日訪れるとしたら夜の出来事以外にはないだろう。夜のことを国側がどう受け止めているのかという情報は今のところ持っていない。ついでに今この男からそれを得るのもいいかもしれない。

 

「今日はどのようなご用向きで?」

 

 デミウルゴスがそう水を向けるとヘーウィッシュは申し訳なさそうな顔をしながらも悪辣な笑みを浮かべて慇懃に答えた。

 

「うむ。実はな、昨日言った金額であるが計算ミスをしていたようである。正しくは金貨八百枚であった。申し訳なく思うが、即金で今すぐに貰わねば我々としても君たちを捕えなくてはならない状態となる」

 

 デミウルゴスは失望という言葉でも足りないくらいには、失望した。デミウルゴスという存在はアライメントの割に人間種に対して好意的であるといえる。彼らを塵芥だとか餌程度にしか見ていない異形種が多いナザリックにおいて彼は上から数えたほうが早い程には人間に対して好意的なのだ。

それは人間種が彼の玩具足りうる程度には面白い(・・・)からであるのだが、今この瞬間に限って言えばデミウルゴスの人間種への対応はアライメント通りのモノであろう。

 

「……なるほど。ちなみに、内約をお聞かせ願えますかな?」

 

「内約? 君にそれを気にする暇などないと思うがね。急がないと警備隊が来てしまうぞ?」

 

 ヘーウィッシュの表情は上位者のそれであり、自分が上で相手が下であるということを疑っていなかった。ニヤニヤと笑うヘーウィッシュはついに続く言葉を言ってしまった。

 

「即金が無理であれば、君たちのご主人を働かせても――」

 

 ヘーウィッシュが言葉を詰まらせたのは本能がその動きを止めたからだった。おぞましい。生物の根幹から震え上がらせるような恐怖。それは目の前の男が放つ異様な雰囲気が原因であり、それが一般的に殺気と呼ばれるものであることをヘーウィッシュは知らない。

 

 ヘーウィッシュがこの屋敷にまた来たのは当然金額の計算漏れなんてことではない。昨日この家の連中からがっぽりと金を巻き上げたはずであるのだが、家に帰るといつの間にかため込んでいた金が減っていた。得た金で今回の依頼主の娼館にでもお世話になろうかと考えていた矢先であっただけにその怒りはおさまりがつかない。その発散と実益を兼ねて今日もまたここへとやってきたのである。

どうせバラされてまずいのはこいつらである。絞れるだけ絞ってやろうと考え、実行するのは正当な権利であるとヘーウィッシュは考えていた。

 

 しかしなんだ、この雰囲気は。まるで自分が下であるかのようではないか。その事実に気が付いた瞬間に憤慨したヘーウィッシュは自身が感じた恐怖だとかそういった感情をねじ伏せて目の前の男を怒鳴りつけた。

 

「き、君たちの主人を早く連れてきたまえ! 一使用人ごときと話し合っていてもらちが明かない!」

 

 そう言えば目の前の男はヘコヘコと頭を下げるに違いないとヘーウィッシュは確信していた。しかし、そうはならなかったのだ。

 

「……はい。申し訳ありませんこのようなことでお時間を取らせてしまって。はい、了解いたしました。では、またお時間になりましたら連絡申し上げます。……なるほど、流石は――」

 

「――貴さm」

 

 自分を無視するのかと激昂しようとしたヘーウィッシュの口は目の前の男の手でガッチリと掴まれて何も言うことができなくなってしまった。ヘーウィッシュは必死にその手をどかせようと足掻くが、びくともしない。ギリギリと強くなっていく締め付けに涙目になりながらバタバタとあがく。

 

 目の前の存在がヘーウィッシュに意識を向けたのはそれから五分ほど経過したからである。その眼は下だとか上だとかそう言った物として見ていることもない。だが優しげであるように思えた。

 

「ああ、君、安心したまえ。おそらく君が生きているうちで最も益のあることができるようになる。そこで生きていくことは君という存在が少しでも至高の御方の役に立つために必要なことだから、健やかにすごして下さいね」

 

 ヘーウィッシュの意識が暗転する。次に彼が目を覚ました時。彼は自由に動くことができなくなっていた。

肘や膝が曲げられたままの状態で固定されているようで自然と獣のような姿勢でいることを余儀なくされる。しかも全裸である。その上、口は円状の何かがはめ込まれているようでうまく言葉を話すことができない。必死に首を振ってあたりを見回すと、そこは狭い小屋のようだった。

 

 いや、小屋というには狭い。ヘーウィッシュがギリギリ寝転がれる程度の広さしかない。それに屋根というか、高さも低い。立ち上がることはできないくらいの低さだろう。光は正面にある扉の小窓から差し込むわずかなもののみであり、それも大きなものではないので全体的には薄暗いと言えるだろう。

 

 荒くなる息と動悸。怒りで頭に血が上る。なんなのだこれは。ヘーウィッシュには自分がこのような状態にあるなど理解不能であった。叫ぼうにも、人を呼ぼうにも漏れ出るのは意味不明の音のみである。悪態もつけない状況に怒りは鎮まることはないがその熱量は下がっていく。するとどうだろう。ヘーウィッシュは自分以外にも誰かの声らしきものが聞こえることに気が付いた。

 

「! おおい(おーい)! おえあほほあー(俺はここだー)! ほほははははひへふへー(ここから出してくれー)!」

 

 しかしその声に応えるものは誰もいない。ヘーウィッシュの怒りのボルテージが上がっていき、呼びかける間隔も短くなり、言葉遣いも荒くなる。

 

おいっ(おいっ)! おえはおうほふほふんはいひはほ(俺は王国の巡回使だぞ!)! ひははは(貴様ら)ほほほへひほんははへひへ(この俺にこんな真似して)ははへふーほほほっへひふほは(ただですむと思っているのか)!」

 

 普段であればそこいらの平民が我先にと自分に近寄ってきて不愉快な思いをさせまいとするはずであるのだが、今日に限ってはそうではなかった。いや、この状況を考えればそれは想定の範囲であるかもしれないがヘーウィッシュは怒りによってその考えに至ることはなかった。

 

 今ここで騒ぐということが一体どのような結果を招くのかを彼は知らなかったのだ。

 

 ガチャガチャと扉から金属の擦れる音がする。それはヘーウィッシュに鍵を開けている、あるいは扉を開けていることを想像させるには十分だった。扉は軋むこともなくスッと開く。こんな状況の説明と謝罪を要求しようかとするヘーウィッシュであるが、四つん這いの状態であることと、先ほどまでの薄暗い光に目が慣れていたこともあって扉から差し込む光がまぶしいこともあってどこのどいつが扉を開けたのかということがわからない。

 

 そうしているうちに奇妙なことにヘーウィッシュは気が付くだろう。先ほどまで聞こえていた自分以外の誰かの声が全くと言っていいほど聞こえなくなっていた。聞こえるのは押し殺したような息遣い程度のものであり、それ以外は意図的に出さないようにしているようだということが感じ取れた。

 

 “何故だ?”という疑問はわかなかった。そんなことを感じるより何よりもさっさとこの狭い家畜小屋のような場所から出せとヘーウィッシュは思っていた。

 

 やがて、やけに大きな手が扉から差し込まれる。その手は力強くヘーウィッシュの平均よりかなり太い腹を両脇からつかんで持ち上げる。

 

ひはい(痛い)! ひはい(痛い)!」

 

 当然、全体重が手との接点にかかることとなり皮が引っ張られて鮮烈な痛みが走ることとなる。涙がにじむがそれよりもやはりヘーウィッシュを突き動かすのは怒りである。憤怒と言ってもいいそれは彼が生まれてから一度たりとも超えたことがない上限を突破しているといってもいい。絶対に、絶対に許さない。どれだけの屈辱と苦痛を感じたことだろう。この首謀者には同じことを百倍にしたって許せるかはわからない。

 

 扉から引っ張り出されたヘーウィッシュはそこが粗末なテントのようなものの中であるということに気が付いた。そこにいくつもの木箱のようなものが並び、自分も今まではその中にいたのだ。これではまるで畜生の扱いではないか。こんな屈辱は初めてだ。自分はその木箱から取り出された後は肩に担がれている。

 

 文句を言おうと、自分を抱える者に目を向けた。

 

 それは全身に紫色の血管が浮かび上がった大男であるようだった。見ていて不安になるほどに長い腕とそれに付随する見たこともないような量の筋肉。顔だとかそういった皮膚の露出しているだろう部分は何かの皮を無理やりに被っているといったほうがいいような感じにみっちりと全身を覆い、先ほどの血管はそれでも抑えられない何かが隆起しているかのようである。

腰からは歩くたびに何か金属のぶつかる音が聞こえる。ちらりと見えるそれは赤黒い何かがこびりついた道具のように見えた。それは大工だとか料理人が使うような器具のようである。なぜそんなものをこいつは腰につけているんだ?

 

 やがて、テントから外に出る。外は快晴であった。しかしそれよりなにより、ヘーウィッシュは驚愕に目を見開いた。周囲を歩くのはモンスターばかりであったのだ。虫が二足歩行しているようなものだとか、この世に非ざる悪魔のような存在など様々であるが、それらは一まとめにモンスターと言って差し支えないだろう。

 

 やがて新しいテントに近づく。近づくにつれて嫌でも聞こえてくる。人の絶叫だ。ヘーウィッシュは王都の娼館で何度かこのような悲鳴を聞いたことがあったが、それよりも数段、その悲鳴は必死さだとか懸命さがあるように思えた。

その声は老若男女関係なく聞こえる。これは自分へのもてなしだろうかなんて言う考えもふと浮かんだが、だとしたらなぜこのように不自由な格好であるのだという思いが首をもたげる。

 

 さっさとこの拘束具だとかを外せと暴れるが、自分を抱えるこの大男はまるでびくともしない。

 

 ヘーウィッシュの頭に嫌な考えがよぎる。まさかとは思うが、この大男も先ほどテントの外にいたモンスターと同類であるのではないだろうか。

 

 ありえない。その愚かな考えをヘーウィッシュは切り捨てる。モンスターであれば人間をわざわざ生かしてとらえるだなんてことはしないだろう。ましてや、テントを立てたりあのような木箱を作るなど文化的な行動ができるとも思えない。

 

 テントに入る。そこは嫌なにおいがした。

 

 血の匂いだ。ヘーウィッシュは何度も嗅いだことのある匂いだ。しかし、あまりにも濃い。血の海の中にいるのではないかと思うほどにその匂いは染みついている。そしてそこで行われているあまりにも凄惨な光景をヘーウィッシュは直接見てしまった。

 

 自分を抱えている大男と全く同じ見た目をしている(・・・・・・・・・・・・)大男が、台座の上にいる自分と全く同じ格好をしている(・・・・・・・・・・・・・・)固定された女の皮膚を見覚えのある器具を使って丁寧に剥がしている。

 

「……()おい(おい)ははは(まさか)ほへほっ(これをっ)ほえひはふはへははいほは(俺にやるわけないよな)

 

 空いている台座にゆっくりとした足取りで近づいていく。その足取りは一定である。ヘーウィッシュには近づいてくる台座が死刑台と同じであるように思えた。

 

()ひはは(嫌だ)!」

 

 ヘーウィッシュは力の限り暴れるがやはりまるでびくともしない。台座に先ほどの女と同じように固定される。まずは何か筆記用具のようなもので自分にマークを付けているようである。それは見る人が見れば効率よく解体するための線引きであるということがわかるだろう。

 

 それも終わったのか大男は腰にさしてある刃物を取出し、台座の脇に置いてある砥石でシャコシャコと刃を研ぐ。ヘーウィッシュはそれを見るしかなかった。シャッシャと音が鳴る。周りではそれ以上の悲鳴だとかの人の声があるはずだが、刃を研ぐ音以外は次第に耳から離れていく。刃物を研ぎ終わったのか、確かめるように眺めた大男は頷くと、ヘーウィッシュの右脇に立った。

 

 グっと背中が抑えられる。

 

「ひゃ、はゃへ」

 

 熱い。背中のまっすぐな骨に沿って鋭い痛みが走った。

 

 ヘーウィッシュという男の皮がちゃんとスクロールの役割を果たすことができたのかどうか。彼はどれだけの期間生きることができたのか。わかりはしない。

 

 リ・エスティーゼ王国では、彼は王都で起きた多くの人が死んだ事件。それに巻き込まれたものとして取り扱われている。




オイラはハデスマン!

無駄な設定
デミウルゴス牧場
・ナザリックでおそらく一番仕事してる上に有能だろうデミえもんの経営する完璧で幸福な牧場です。
・そこにいる生命は全てが完璧で幸福です。
・そこに勤めるデミウルゴスの配下達も完璧な仕事を幸福にこなし、そこで管理される家畜もまた完璧で幸福であるように努めています。
・誰もが幸福であることは全て、偉大であり完璧であり究極な支配者である至高の御方によってもたらされています。
・なので今までが完璧で幸福でなくともそこに行くことでそれらの諸問題はすべて完璧に解決することでしょう。

・将来的にこの場所はパラノイア的であるとする

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