帝都に着き、フォーサイトのメンバーに報酬金を払う。二日も道案内させて金貨十枚のクエストとか糞クエストだよなと思いつつもそれぞれに十枚のユグドラシル金貨を渡す。
「それじゃあ、諸君、また会おう! このキャプテン・スワリューシのクルーとしてならいつでも会おう!」
「だれがなるか!」
旅の途中にクルーに誘ったのだがあまり色よい返事はもらえなかった。特にあの
海賊について一番見込みのありそうだったのはアルシェとかいう
それに一瞬だが宝を狙う海賊のような眼をしていた。
祝すべきクルー第一号候補として記憶しておかなくてはならないな。
さて、帝都に来るまでは波乱万丈だった。まず第一の予想外なことは海が真水だったことだ。あまりの衝撃でこんなの海じゃないと叫び水に潜った。
種族:タコのおかげで水の中でも呼吸ができるのだがなんというか息苦しいというか無味乾燥な感じがした。水中での呼吸の感覚をどう表していいのかわからないのだが、いうなれば味や匂いの無い空気というべきだろうか。変な感じだった。
そこから陸へ上がり一路王都へと向かったのだがここでも誤算だった。なぜか捕えられてしまったのだ。しかも詰所に連行とかそういう話ではなく拘留である。何罪だ言ってみろと言ったら公務執行妨害で捕まったことにされたのだ。むかついたので脱獄した後にたまたま近くにあった王城に忍び込みお宝を頂戴しようとしたのだがとんだゴミアイテムしかなかった。
疲労無効やリジェネの効果の付いたアイテムやら多少切れ味がいい程度の剣に何のバフもついていない鎧なんて誰が欲しがるというのだろう。飾ってあった宝物も自分が持っている物以上のものはないように思えた。
美的感覚がもしかするとこの世界の人と違うのかもしれないなと考えつつ、歩いていた兵士に“黄金”のありかを聞くと一つの部屋を快く教えてくれた。
その部屋に忍び込むと、たまたま起きていた人がいたので海賊のスキルである“交渉”を使ったところ予想外に大きな効果を発揮したようで相手は膝をついて頭を垂れながら質問に答えてくれた。
もしかするとあれがあの国の交渉の礼儀か何かだったのかもしれないが、とにかく良いものもなかったのでさっさとおさらばして違う宝物を探しに行くことにしたのだ。
そして最後の困難である。オウムがいくら待っても帰ってこなかったのだ。もしかして何かに巻き込まれたのかと強制送還の呪文を唱えても何の手ごたえもない。俺の管理下からいなくなってしまったような感覚だった。ありえないなとその考えを捨ててどうするか考えているうちに先ほどのフォーサイトのメンバーと知り合ったのだ。
彼らとの話し合いでおぼろげながら世界の実情についてつかめてきたかもしれない。
まず安心できることにどうやらユグドラシルのPCLv100というのは相当な強者であるらしいということが分かった。フォーサイトの面々が戦闘する様子を遠目から観察していたところ、おおよそLv30に届かない程度だろうなということが判明し、
とはいえ、それはこの近辺だけでいわばこの辺りは“はじまりの森”とか“初心者の平原”とかいう場所であるからレベルが低いだけかもしれない。あくまで現状は差し迫った脅威はないということを頭にとどめておくことにする。
さてそうなるとこれからはかなり自由に動くことができる。今までは大事になると動きづらくなるかと考えてこっそりとしていたのだがその必要も特にない。好き勝手動ける。
まずは拠点だ。どこか身を隠すのに良さそうな場所を探す必要がある。墓地とかに地下室とかないだろうか。無いか。そんな都合のいいものそうそうあってたまるものではない。となると帝都の入り組んだ場所とか幽霊屋敷とかあればその辺に秘密基地を作るのもいいかもしれない。
「……なんだかわくわくしてきたな」
口をついて出る言葉は興奮を表していた。この高揚感はリアルで味わうことは不可能だっただろう。
「何がわくわくするのかね?」
「ん? この帝都を冒険するのが楽しみって話」
「そうかそうか。ちょっとそこまでついてきてくれる?」
ふと横を向く。帽子をかぶったおっさんと武器を構えた若い何人かが俺の周りにいた。
「……あー、うん。君たちの言いたいことはよーくわかっているんだ。
まず俺の推理からいってもいいかな? 君たちは帝都アーウィンタールの警備兵とか守衛とかそんな感じ。どう、当たってる?」
「その通りだ」
「大当たり! やったな兄弟。そんで、次にあんたたちはこう言う。
“お前の名前と出身地。何が目的でこの街に来たか言え”ってな」
「その通りだ。じゃあちょっと一緒に来てもらおうか」
アインズことモモンガがその
漆黒の剣のメンバーが少し目を離した隙にンフィーレアを攫われ、彼のタレントによってズーラーノーンの持っている死の宝珠というインテリジェンスアイテムの真の力を開放することで死の螺旋というものが発動していたらしく、それの対処にまあまあの時間と労力を要したのだ。とは言えまあかなり大規模な事件解決の立役者ということでプレートの階級を一足飛びで上げてくれることになったことが救いだろう。
『アインズ様』
唐突に頭の中に響く声は高く、幼い少女であることに容易に想像がつくだろう。もし製作者である源次郎が聞いたならば思わず“はぁ…エントマちゃんかわゆ…”と心の底からの感想を漏らすことだろう。と言うより彼や他のギルメンはとある一時期からエントマを見かけるたびに同じセリフを言っていたはずだ。
『エントマか? どうした、何かあったのか?』
アインズが夜も気が抜けないなあなんて心の中で思いながら支配者ロールをして返答する。続くエントマの要件は思わずアインズが発光するほどの衝撃的な内容だった。
『はい。キャプテン・スワリューシ様の召喚されたモンスターらしき存在が確認されました』
「なんだって!?」
アインズは目が飛び出るほど驚き、発光した。その声でぐっすり眠っていたナーベラル・ガンマが飛び起きたほどである。
「な、ど、どうかされましたかアインズ様!」
『今から転移で四階層のクルーを連れて十階層に向かう。アルベドに情報をまとめてから十階層に来るように伝えろ』
手早く通信を切ってからナーベラルにも指示を出す。
「私は一度ナザリックに戻る。ナーベラルはここで待機し万が一来客があった場合は後で向かうといってから私に
「ハッ。承りました!」
膝を付くナーベラルをそのままに転移でナザリックの地上部分まで向かう。マーレの魔法によってうまく偽装されていることを確認しつつナザリックの地上部まで近づくとそこには四人のプレアデスが待っており、主を綺麗な礼を以て迎え入れた。
「お帰りなさいませアインズ様」
プレアデスのリーダー的立ち位置である長女のユリ・アルファに続き他の姉妹も同じ言葉を口にする。アインズは鷹揚に頷くと預けておいたリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを受け取り地底湖に転移した。
湖上にある船に向かうと相変わらず船内でどんちゃん騒ぎをしているのがわかる。このNPC達にも何らかの仕事を割り振ったほうがいいのだろうかと考えたことがあったが彼らに何ができるのか考えても特にいい案が思い浮かばなかった。
「航海士! 航海士はいるか!」
先日来たときと同じようなやり取りをした後、相変わらず洒落た服装のオウムが船内から出てきた。
「スワリューシさんの手掛かりが見つかった。あの人の召喚モンスターに詳しい奴に心当たりはあるか?」
そう聞くとオウムはうーむと唸る。
「そうですね。我々について詳しいとなれば彼が最適でしょう」
オウムが口にくわえた葉巻を思い切り吸い込み、口内にたまった煙で何らかの模様を空中に書き出した。硬いはずの嘴が柔らかに動くさまは現実離れしているがまあそういう
煙を上げてから三十秒ほどで異変がある。湖の底からゆっくりと気泡とともに大きな何かが浮かび上がってくる。ビタンと船にくっつく触手は船より大きく、それが幾本もある。船がぐらぐらと立っていられないほどに揺れ動き、揺れがひどくなるごとに触手の数も増える。船体が軋みをあげて壊れてしまうと思ったその時、大きな水柱が上がり雨のような水しぶきを周囲にまき散らした。
「こぉれぇはぁこぉれぇはぁ、もぉもぉんがさぁまぁ、ごぉきぃげぇん、うぅるぅわぁしゅぅうぅ」
その大きさは彼の瞳がアインズの全身の大きさに等しいと言えばどれほどの巨大さかわかるだろうか。巨大であるこのモンスターの名前はクラーケンと言う。クラーケンは普段であればガルガンチュアの運搬や整備を任されているような存在であった。もちろん侵入者が来たときは戦うが、その程度の存在であったはずだ。その彼がなぜアイテムに詳しいのだろう。
「クラーケンが一番、召喚アイテムについて知っているのか?」
アインズがそう疑問をこぼすとオウムは歌うように答える。
「キャプテン・スワリューシ様の冒険を語る上で一番最初に出てくるクルーこそが彼、クラーケンなのでございます」
それは初耳だった。スワリューシが紹介してくれたクルーは基本的に船の中にいる連中ばかりだ。もしかするとそれ以外にもクルーはたくさんいたのかもしれない。
「そうだったのか……。クラーケンよ! スワリューシさんの召喚モンスターらしき存在を発見した! その詳細を知りたいので付いて来――ついてこれる、のか……?」
巨体である。それこそガルガンチュアほどに大きい。王座の間などであれば軟体動物であるし入れるかもしれないのだがその道中はさすがに彼では通れないだろう。
「ああ、それは心配ご無用でございます」
そんなアインズの心配とは裏腹に航海士のオウムはカンカン帽を取るとそこには帽子よりも大きなボトルがあった。
「それは?」
「説明するよりも見てもらったほうが早いかと思われます」
シャカシャカとボトルを上下に振り、留めてあったコルクを抜くとその中から渦のような水流が飛び出しクラーケンに降りかかっていく。そのまま渦がなんとかクラーケンの全身を覆うと、今度は渦が逆流して戻る。クラーケンも当然渦の中に閉じ込められて一緒にボトルの中に入り込む。ボトルネックに近づくほどに縮尺がおかしくなっていく様子はやはり現実離れしており、
吸い込み続けている間にもオウムのシャカシャカというボトルをふるう音はやまない。いや、むしろ大きくなってきている。シャカシャカ、シャンシャン。ドンドコドドン。弦楽器に打楽器、管楽器の音が幾重にも重なり、奏でられる音楽はラテンアメリカ。
「あぁ、これが、サンバだ」
そう言ったオウムの言葉を皮切りにそこらじゅうにあるものがリズムに合わせて跳ねて踊りだす。幻想的な、なんでもどれだけでもありそうなその光景を見た瞬間にアインズは叫んだ。
「ストーップ! すまんが今は急いでいる。また後で守護者と一緒に見に来るのでその時に連れて行ってもらってもいいだろうか」
ピタリと止んだ音楽に、動きを止めた何もかも。航海士のオウムは目をぱちくりさせた後、是非お待ちしておりますと告げてからアインズにボトルを渡した。
その中には巨大だったクラーケンがいくらかデフォルメされたイカになって入っていた。それでもアインズが運ぶにしては少し大きすぎるサイズである。一抱えほどもある上にその中に水やクラーケンまで入っているのだからアインズの筋力で持ち運びするのは大変な労力がかかると思われた。
「まだ大きいですかね」
そういうと航海士は後ろに回した手から大きな緑の木槌を取出しボトルを殴った。するとボトルは800mlほどの通常サイズに縮小した。
アインズはここは楽しいが感覚がおかしくなりそうだと感じながらボトルを手に取り、礼を言って去る。
『すいません。彼らはそうあることを定められているので誰がいたとしても誘おうとしてしまうのです』
ボトルの中からややくぐもった声でそう言われる。その声は歳を重ねた者の声である。深く響く声にアインズはなんとなく背骨を伸ばしてしまう。
「わかっている。スワリューシさんと地底湖に訪れた時もたいてい同じようなことになっていた。
ところで、お前がスワリューシさんの最初のクルーだという話は本当か?」
道すがらアインズがそう問うとクラーケンは照れたように触手で胴体をかきながら答える。
『ええ。お恥ずかしながら。そうですね。あれはまだ私が名もないメンダコだったころの話です』
そうして話される内容はまさに大冒険と言ったものなのだがさすがに十階層に着くまでに全てを聞くことはできなかった。話の続きを聞きたいのも山々なのだが何はともあれ今はスワリューシを確保することが先決である。
十階層に着き、玉座の間に入るとそこにはアルベドと縮こまって震えるシャルティアがいた。
「ん? なぜシャルティアが? 何かあったのか?」
アインズが言うとさらに小さくなったシャルティアに代わってアルベドが口を開く。
「はい、アインズ様。そもそも召喚モンスターを見つけたのはシャルティアなのです」
「何? その時の状況を詳しく話せ」
アルベドがまとめただろう紙を読み上げる。
シャルティアは心の底から反省している様子で小さくしぼんでいた。
無駄な設定/本編で触れないだろう設定
・召喚モンスター
・戦闘能力はない
・彼らの歌や音楽、踊りなどの見世物は見事なものでそれを見る者を魅了する
・実際ユグドラシル時代でも彼らの芸は侵入者達も足を止めて見る者たちが多かった
・あまり長い時間足を止めていると航海士から質問を受けることになるだろう
・「ねぇ、君、○○へ行ったことがあるかい?」
・そこは現代では存在しない場所である
・行ったことがないと言えば彼はこう言うだろう――じゃあ行こう!一度行けば、きっと帰りたくなくなるよ!
・深い人の眠りの世界であるドリームランドへと連れて行かれた者たちは意識を失うだろう
・すると湖の底から戦闘能力を持ったクルーがやってきてとどめを刺す
・湖上の彼らは餌であるのだ
追記:ドリームランドについて
・アミューズメント施設ではなくクトゥルフ神話に登場する世界の一つ
・人の夢っぽい平行世界っぽい場所で行くとたいがい発狂する
・ユグドラシルではいろいろな行き方があるが夢の世界であるので特定種族以外は眠る必要がある
・強制的につれてこられた場合は特定種族以外は強制的に睡眠状態になる
・ナザリックの地底湖にはどこへでも行ける船がある
・航海士は一時的なクルーを増やすことができる
・ユグドラシルにあり転移後の世界にも存在する魔法である
・とはいえゲームであるユグドラシル時代のこの魔法の立ち位置を考えると、位階魔法とかそういうものではなくてどちらかといえば通信などのシステム的な機能であり、世界観を壊さないために魔法という立ち位置にしたものなんじゃないかと推測
・だってこんなゴミ魔法で制限ある魔法記憶のキャパ埋めるとかマジ無い
・転移後の世界で考えるとこれはもちろん通信手段として使えるはずであるがそうなると送信側と受信側でいろいろと問題がありそうである
・たとえば名前を知っていれば
・そんなわけで転移後の世界では“一度以上会っていて、お互いの名前を知っている相手”に通信できるというほうがまあいいんじゃないかなって感じ
・あとはプレイヤーが転移した状況を考えると一度会っただのなんだのってのはリセットされてたほうが自然じゃないかなと思った
・メタ的に言うと最初から通信手段とれてたらキャプテンが冒険できないしまあモモンガによろしくって感じ