パイレーツ・オブ・ナザリック   作:(^q^)!

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七話

 アルベドによるとシャルティアは当初の予定通り犯罪者などのいなくなっても不審に思われない者たちの中で“武技”を使える者を拉致する任務を遂行している途中で血の狂乱によってやや我を失った状態になったらしい。

そしてそのまま続々と現れる冒険者を倒している途中にナザリックのポーションを投げつけられたことで血の酔いから醒め、周囲に放った吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)を殲滅した集団に出会ったらしい。これより先はシャルティアから詳しい話がされるそうだ。

 

 アインズはそこまでの話の中で気にかかったことを聞くことにする。

 

「ナザリックのポーションだと?」

 

 アインズがそう尋ねるとおずおずといった様子でシャルティアが答える。

 

「はい。ブリタという女がエ・ランテルの宿屋で黒い鎧に身を包んだ男に頂いたと言っていました。

申し訳ありません! 私がアインズ様の計画を台無しにしてしまいました!」

 

 そのまま土下座をするシャルティアに対してアインズは冷や汗を流す。

 

(ブリタ……? あ、ああ! そういえば宿屋であった女がそんな名前だったような。まずいぞ。こっちのミスでシャルティアにまで影響が出てしまうなんて……)

 

「ん、ん″ん″。その件は問題ない。その女とポーションはすでにある計画で動いてもらった後だったのだ」

 

「そ、そうでありんしたか……」

 

 ホッと胸を撫でおろすシャルティアはまさに安心したといった様子で、アインズは自分のせいで心労をかけたことを申し訳なく思った。とは言えそれを態度に出してしまうと自身の支配者という立場が脅かされるような気がして後で何か埋め合わせをしようと思うにとどまるのだった。

 

(トップの人が謝らない理由がわかったような気がする……)

 

「それで、続きは?」

 

 アインズがそう促すとシャルティアが言葉を続ける。

 

「はい。その後、吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)を殲滅したと思わしき連中から攻撃を受けたので反撃しようとしたところ、一際強力な気配のようなものを感じました。

大きな盾を持った男とその後ろに隠れる老婆。老婆の体が光ったと思った瞬間、明確な脅威を感じたのです。一瞬ですが頭が真っ白になってぐちゃぐちゃにかき回されるような不快感でした。

そしてその瞬間に赤いオウムが目の前に現れたのです」

 

 シャルティアが脅威を感じるほどの相手ともなると確実にLv100に近いか、それ以上である可能性がある。とすればその存在についての情報がもっとほしい。それに、精神作用無効化があるアンデットのシャルティアの精神をかき乱すというのはユグドラシルではありえないことだ。

 

「その集団はどうしたのだ」

 

「そのオウムが光と私の間に入り込んだことで思考が正常になり、清浄投擲槍を投げつけると盾になっていた人間ごと貫き老婆は死にました。他に残っていた連中も皆殺しにしようとしたのですが、人間の一人が鐘を鳴らすと三体のガーゴイルが出てきたのです。その三体を相手取っているうちに人間どもは撤退してしまいました」

 

 再び頭を下げるシャルティアだが、アインズはしょうがないと感じた。状況がことごとく不利だ。ガーゴイルは高い物理耐性にいくつかの魔法耐性を持っている。

そのガーゴイルを見ないことにはわからないがシャルティアでは対処が難しいかもしれない。その上、探索や探知に向いているモンスターを随伴させていなかったことが一番のミスだろう。すなわち自身の管理ミス。未然に防げたはずのことだった。

 

「ふむ、その集団自体のおおよその強さなどはわかるか?」

 

「はい。一人を除き全員がプレアデスほどの実力を持っており、一人だけLv80前後はあるかという者もおりました」

 

「なんだと?」

 

 Lv80といえばこの世界ではかなり強い存在であるはずだ。少なくともこの世界の常識で言えば化け物と言われてもおかしくないほどだろう。ほかの連中もプレアデスほどに強いとなるとかなりの戦闘力を持った集団ということになる。

 

 この世界はまだまだ隠された真実がある。冒険者としてある程度知れた気でいたが、まだまだ不十分だ。

 

 かくなる上は、宝物殿のあいつも外に出したほうがいいのかもしれない。

 

「ふむ。シャルティアよ」

 

「は、はい! アインズ様!」

 

 アインズがいくつかの思考を終えて話しかけるとシャルティアはこれ以上ないほどに姿勢を正して続く言葉を待った。

 

「今回のことは」

 

 そこで言葉を切るアインズ。言ってしまってからなんと声をかけるか迷っているのだ。正直に言えばツイて無かったと言ったところだろうか。この世界でも実力的に上位であると推測される連中と鉢合わせしてしまうなんて誰が考えるだろうか。

与えた指示だって犯罪者を拉致するという強者とは全く関わりのなさそうなものだったしそれ以上に今回の件は編成の問題が一番大きいだろう。偵察や隠密のできる盗賊(シーフ)役がいないで任務を与えるということが大きな問題だ。シャルティアはそういう意味では失敗するべくして失敗したといってもいいのかもしれない。

 

「不問とする」

 

 長いこと言葉を待ったシャルティアはそれを言われたとたんに緊張の糸が途切れたようにへたり込んだ。

 

「しかしアインズ様、それでは示しがつきません」

 

 アルベドがそう提言するとアインズは手で制し、よいのだアルベドと言う。

 

「今回の件は不測の事態が多すぎた。武技を持った犯罪者の拉致というだけの任務のはずが、冒険者や謎の集団との遭遇など、想定の範囲を大きく超えたことが失敗の原因だろう。それに、何も失敗ばかりではないぞ」

 

 アインズの言葉に目を輝かせるシャルティアと曇らせるアルベド。アルベドは不満そうに羽をバサバサとさせるのだった。

 

「先に手を出してきたのは向こうである上に、人間の女を助けたのだろう? ということは万が一我々に対し何か言われたとしても、正当性はこちらにあるということだ」

 

 文句をつけられてもこちらに分があるというのはいいことだ。むしろその集団のほうが正義の行いを邪魔した連中とすることもできるだろう。そう続けようとしたその時、アインズのもとにナーベラルからの伝言(メッセージ)が届いた。

 

『アインズ様、失礼いたします』

 

 アルベドとシャルティアに断りを入れてから話を聞くとどうやら冒険者組合から呼び出しがかかったようだ。昨夜の件かと思ったがそうであるなら明日でいいはずだ。

別件かと思い至り何の用で呼んでいるのか詳しく聞くと、吸血鬼(ヴァンパイア)に関することで早急に集まってほしいとのことだった。

 

『近くに組合からの使者が来ております。どのように伝えますか?』

 

 十中八九、シャルティアが逃したという冒険者が原因だろう。もう報告されてしまっているということはいまさら揉み消すことは無駄な労力を使いそうである。一先ずは組合のほうの話を聞いておいたほうがいいかもしれない。

 

『では準備を終えたら向かうと伝えておいてくれ。私は少しした後にそちらに向かう』

 

『畏まりました』

 

 ナーベラルとの伝言(メッセージ)が切れ、意識を二人へと戻すとなぜか取っ組み合っていた。

 

 にらみ合う様子は竜虎相打つといった様子で入りがたい気配があったが少し時間がない。手を打ち合わせて自分に注目を戻すと二人は目にもとまらぬ速さでちゃんとした姿勢をとった。さすが前衛職は素早いなと思いながら指示を出す。

 

「どうやら冒険者組合のほうに吸血鬼(ヴァンパイア)の目撃証言が入ったようだ。私はこれから仔細を聞きに組合のほうに向かう。アルベドとシャルティアはこのクラーケンに出会ったというオウムの特徴を話し、その情報をまとめてから報告してくれ。また一度戻ってくる予定なのでその時でいい」

 

 そういってアインズは転移門で玉座を去った。そこに残るのはシャルティアとアルベドとビン詰めのイカである。

 

「シャルティア」

 

 アルベドが話しかける。その声はやや冷たく、真面目な雰囲気をまとっていたのでシャルティアはおとなしく待った。

 

「今回はアインズ様の優しさで許されたけど、次は無いと思いなさい」

 

「……わかっていんす」

 

 小さくつぶやいたシャルティアはこぶしを強く握りしめていた。守護者である自分は、たとえ想定外の事態が起ころうとなんでろうと、至高の御方から下された指示は何としてもやり遂げなくてはならなかったはずだ。使命といってもいいかもしれない。

それを失敗した挙句に現在主人がその尻拭いをしているのだと思うと忸怩たる思いを抱かずにはいられなかった。

 

「ただまあ、今回はツイてたわね」

 

「何がでありんすか?」

 

 ツイてなかったから邪魔者が押し寄せたんじゃないのかと怪訝な顔で聞くシャルティアに、やっぱりこいつ馬鹿なんだなあといった表情で溜息をついたアルベド。シャルティアの白い顔が赤く染まり額には青筋が浮かぶ。

 

「今回は、価値のある情報が色々と手に入ったからこその温情だったのよ。それでも失敗した事実は変わらないのだから肝に銘じておいてね。

後はそうね、今アインズ様が向かった先でももう一つメリットが生まれるころかしら」

 

 シャルティアにはさっぱりわからなかったがとりあえずは失望されるということがなくて一安心だった。自分が失敗して、それを失望されて見限られるなんてことになればどうなるだろうか。

考えたくもなかった。もう一度あの感覚を味わうだなんてことは考えるだけでもぞっとした。

 

「わかりんした。とくと、肝に銘じんす」

 

「ならいいわ。さて、それであなたがスワリューシ様のアイテムについてよく知っているNPC?」

 

 話をいったん切ってアインズからの指示を遂行しようとしたアルベドはボトルの中のイカに声をかけた。

 

『はい。クラーケンでございます。早速、特徴をお教え願えますか?』

 

 イカに詳しく話すシャルティアと、その情報を補強するように話を促すアルベド。アルベドのナビゲーションによって十分な情報を得たイカは一つの結論を出した。

 

『それはほぼ間違いなくスワリューシ様の召喚モンスターである“知りたがる鳥”でしょう』

 

「ということはスワリューシ様もこの地にいるのね!」

 

 シャルティアもアルベドも泣きそうになるのをこらえるのが精いっぱいだった。モモンガとスワリューシは至高の御方達の中で最後までナザリックに残っていてくれた二人だ。

そのうちの一人であるスワリューシが玉座の間から消えたあの瞬間の喪失感をアルベドは強く覚えているし、シャルティアは彼が消えたと聞いた時の悲しみを今でも思い出すことがある。

 

 ナザリックにいる全てのモノはあの日を忘れないだろう。モモンガがスワリューシもナザリックと同じようにどこかへ転移した可能性があるとは言っていたものの、だれもが他の至高の御方のように去ってしまったのではないかという思いを消すことができないでいたのだ。

 

 しかし彼はいる。この世界のどこかにいるのだ。必ず、探し出して見せると思いを新たにする。

 

「まずはこの事実をアインズ様に伝えましょう。そしてほかの階層守護者とメイドたちにも。探索部隊の設立も考えなくてはならないわね」

 

「わっ私は何かできることがありんすか!?」

 

 連絡や調整なんかのこまごまとしたいろいろなことはアルベドの仕事だ。この状況でできそうなことはなんだと聞いたシャルティアにアルベドはにっこりと笑った。

 

「クラーケンを四階層に戻してきて。今度は失敗しないでね」

 

「ぶっ殺すぞこのもりもりゴリラ!」

 

 

 

 

 法国。人類の防波堤であり守護者である彼らは今てんやわんやの大騒ぎだった。

 

「蘇生だ! そのための神官とアイテムを今すぐに用意しろ!」

 

「すぐには無理だ! 急ぐから少し待っていろ!」

 

 喧々囂々の理由は人類の矛たる漆黒聖典の面々が重傷あるいは死亡した状態での帰国であったからだ。彼らの話では全く恐ろしい吸血鬼のバケモノに遭遇し、戦闘。その結果がこれであるという。

 

「今すぐに追加で部隊を送るべきだ!」

 

「敵を知らずにか!? まずは調べないといけないからその部隊を編成してからだろ!」

 

 彼らは騒がしい。漆黒聖典がほぼ全滅するほどの強さの敵が出たというのだから一大事であるのはその通りだ。しかし瞳には希望があった。

 

 待ちに待った、“ぷれいやー”の降臨。その知らせが届いたのは一週間ほど前の出来事だ。

 

 クワイエッセの妹であり叡者の額冠を盗んだ大罪人であるクレマンティーヌが返ってきたのだ。すぐさまに法国の守備隊に囲まれ、ちょうどそのとき残っていた漆黒聖典の一員であるクワイエッセが彼女に対応したのだ。

 

「何の用で戻ってきた」

 

 彼の向ける言葉は実の妹に向けているとは全く思えないほど冷たく、硬い。そんな兄をにやにやとした表情で眺めるのがクレマンティーヌだ。

 

「あっれー? そんな口調でいいわけー?」

 

「話にならん。殺せ」

 

 一斉に構えられた槍と杖の目の前にクレマンティーヌは指で一枚の金貨をはじいた。それはまっすぐに飛び、クワイエッセの額を打ち据える。

 

「ッ」

 

 金とは比重が重い。金貨程度の大きさとはいえ、それが高速で飛び、当たるということはかなりの衝撃である。目に涙をにじませながら落ちた金貨に目を向ける。

 

「な!? お、お前、これをどこで!?」

 

 目を見開いたクワイエッセは金貨を拾い、クレマンティーヌをにらみつける。彼が手に取った金貨の名前は新ユグドラシル金貨というもので、“ぷれいやー”たちがいたユグドラシルという場所で広く使われていたという純度100%のありえざるものである。

 

 かつて法国にいたプレイヤーが残した金貨は今もなお現存しているが純金は劣化しにくいとはいえ六百年も前のものであるから当然ある程度のくすみなどがある。

しかしクワイエッセが今持っているこの金貨は全くの新品のように思えた。

 

「うーん、怖い人たちに囲まれてるとー怖くて怖くて、忘れちゃいそう」

 

 笑いながらそう答えるクレマンティーヌをクワイエッセは憎々しげに見た。目の前のこいつは身体能力でいえば自分よりはるかに勝る。

今ここに帰ってきたとはいえこいつは裏切り者だ。叡者の額冠を盗み去ったこいつを信用できるかといえばまったくの否である。

 

 しかし、自分の予想が正しければこいつに聞かなくてまならないことがある。それは、我々が今まで耐え忍んできたことの報われるときである可能性が非常に高いのだ。

 

「……皆の者、武器を下せ」

 

 その言葉に困惑しつつも武器を下げる守衛たち。クレマンティーヌは笑みをより深いものにした。

 

「こっちだ。ついてこい」

 

 そういってクワイエッセは議場のほうへと歩き出す。しかしクレマンティーヌは動かなかった。

 

「……ついてこい。早くしろ」

 

お願いします(プリーズ)、人にお願いするときにはちゃんとした言葉遣いをしなさいってママに教わらなかったのー?」

 

 奥歯が砕け散るんじゃないかというほどに噛み、手のひらから指が突き出るんじゃないかというほどにこぶしを握りしめたクワイエッセは何とかクレマンティーヌを連れて行くことに成功した。

 

 その後、クレマンティーヌは漆黒聖典に復帰という扱いになり、“ぷれいやー”をちゃんと法国まで連れてくる任務に就くこととなった。




無駄な設定
・設定したはいいものの、本編に関わりの無さそうなこと
・無駄な設定が無ければ書かれることはない

・なんか妙に人気、ひょっとすると本編より人気

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