パイレーツ・オブ・ナザリック   作:(^q^)!

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八話

 いったいオウムはどこへ行ったのだろう。召喚されたモンスターは一定時間の経過で消滅するはずである。アイテムで呼び出した存在であるので消えたら再召喚が可能なはずだ。しかしまだ再召喚はできない。その上、強制送還もできない。

 

 法国に行ってから帝国に行ってエ・ランテルに帰ってくるというルートを飛んだはずなのでそのどこかしらにいるはずだ。帝国の守衛にいくつか話を聞くとオウムらしき存在を見たという話を聞けた。とすれば帝国まで来たということである。

エ・ランテルから帝国の間は歩いたのでその近辺に何かあれば気づいたはずなのだが、特に何かあるというわけでもなかった。とすればいったいどこへ?

 

 もしかするとかなり到着が遅れただけでエ・ランテルにいるのかもしれない。そうであったとしても送還などもできないし迂闊にホイホイ移動するのも危ない可能性がある。まあ帝国見てからでもいいだろう。

 

 そんなわけで帝国の牢屋から脱走して一週間が経過した。一週間の間に帝都アーウィンタールをくまなく歩いたのだが隠れ家に向いていそうな場所はあまり無い。低所得者層が住んでいそうな場所は定期的に帝国兵がお掃除しているようで一時的な住処としては適していそうだが、隠れ家としての機能は期待できなさそうだ。

 

 反面、高所得者層の住宅街は隠れるのによさそうだった。閑散としていて人目がなく、住居も空き家が多い。実際に怪しい商人や黒づくめの集団が夜に出入りしており、帝都の闇とかそんな感じの部分はここが中心地だろう。

 

 そんなわけで高級住宅街の空き家を住処とすることにする。当然購入はしないで不法滞在だ。家具も備え付けなのか高級なものが揃っているし、申し分ない。ここを拠点とする。

 

 住居を整えたら次は金である。ユグドラシル金貨は古参プレイヤーらしくまあまあの量を持っているものの、これをいちいち両替するのは面倒くさい。帝国で広く使われている金が必要だ。

 

 大きく金を稼ぐ方法なんてのは決まっている。どこかから持ってくればいい。幸い、先日出会ったアルシェとかいう少女が金稼ぎの方法を示してくれた。

物質的な金についてはいくつかの知識があったので確認してみたところ、この国で流通している貨幣には通し番号がなかったのだ。何人もの財布をスッた上で確認したので間違いない。帝国の貨幣鋳造技術は大したことないのだ。

 

 王国で確認しなかったことが悔やまれる。宝飾品などは換金した時点で足がつくだろうし金貨などは通し番号が振ってあって使った瞬間に捕まると考えていた。あの時確認していればアイテムボックスに入るだけ金貨を盗んだというのに。

 

 いや、あの瞬間ではそもそも贋金がどうこうという発想すらなかった。アルシェの発言はコペルニクス的転回であったのだ。この世界での技術水準を知らなくてはどうしようもなかった。しかし知った今となればどうとでもできる。

 

 まずは隣の家にお邪魔するとしよう。

 

 

 

 

 帝都アーウィンタールはとある噂でもちきりだ。食事処や酒場に行けばほぼ必ず誰かがこの話をしているだろう。

 

「今度はグランブレグ伯爵んとこがやられたってよ」

 

「へへぇ、どんな身分の人だろうとお構いなしだな」

 

「そりゃもう。最初に被害にあったのが公爵様ってのがもう驚きだったじゃねえか。それが立て続けにもう十回目だ! そのうち帝都中のお貴族様は丸裸になっちまうんじゃねえか?」

 

 飲んだくれたちがそう言ってげらげら笑っていると近くの席からドンと大きな音がする。

 

「お勘定」

 

 大きな音を出した男は不愉快気にその酒場を去る。肩を怒らせて出口まで歩いていく様子は新規で店に入ってきた客が震え上がるほどだった。飲んだくれの一人が不思議そうにつぶやく。

 

「なんだってんだ?」

 

 訳知り顔で澄ました顔をしていた飲んだくれにそう尋ねるとくつくつと笑うように話し出す。

 

「ありゃあ騎士様だよ。貴族方から警備を厳重にするようにせっつかれて日々辟易としてるんだとさ」

 

 そう言ってぐいと酒をあおる男に飲んだくれは聞いた。

 

「なんでお前はそんなこと知ってんだ?」

 

「さっき出てった奴が一昨日飲んだくれてそう言ってた」

 

 そんな話をしている酒場から去った帝国騎士は悪態をつきながら夜道を歩いていた。

 

「クソっ、たくよぉ、なぁ~にが“給料分の働きはしてくれたまえよ”だ。お前らが雇ってる警備兵が無能なんじゃねえか」

 

 休日であるために帯剣こそしていないがその体つきは鍛え上げられている。腕は道行く女性の太ももほどの太さがあり、首も太い。その体格は戦闘を生業としている者であるということを物語っている。そんな奴が飲んだくれてふらふら歩き、道端に寝転がったとしても帝都民が助けようとすることは無かった。というか近づきたくなかった。

 

「おい、おいあんた、大丈夫か?」

 

 恐る恐るといった風に指でその兵士をつついたのは同じようにお近づきになりたくない感じの風体であった。服装こそ一般的な帝国のものであるが髪や髭にジャラジャラとついているストラップがそれらを台無しにしている。変な仮面やらマスクをつけるよりはよっぽど良いかもしれないという程度の怪しさである。

 

「ん? お、おおう。悪いな」

 

 そんな怪しい男も酔っぱらいの前では関係ないようだった。肩を貸してくれるというだけで騎士は彼に何となく心を開いていた。

 

「そんなに飲んだくれてどうしたってんだあんた」

 

「ああ、それがよう、聞いてくれよ」

 

 そんな風な語り口から始まった騎士の話は貴族の屋敷に入った泥棒の話をはじめとして、それを捕まえられないことを責める貴族の話や、捕まえることを命じられた帝国軍第五軍に対する他の軍の態度の冷たさなど多岐にわたって繰り広げられた。

 

「分かるよ、あんたの言いたいこと。いやー辛いなー」

 

「だろぉ? だから俺は言ってやったんだよそんなに言うならてめえらが捕まえてみろってさあ。そしたらあいつら“それはうちの部隊の任務じゃないから”とか言いやがるんだよ! ふざけんなって話だ」

 

「ほんとお役所対応だよねー」

 

「そうだろ!? いやああんた話が分かるねえ」

 

 いつの間にか話は盛り上がりこれまたいつの間にかどこかの酒場に入っている二人。そんな二人はついに店主に怒鳴られた。

 

「今日はもう店じまいだよ! さっさと帰れこの酔っ払い!」

 

「へーへーわかりゃあしたよ、ごっさんごっさん」

 

「あ、ごちそうさまでーす」

 

 気の大きくなっている騎士は会計を一緒くたに払い、その場を後にした。二人は仲良く肩を組みながら歩いているとその足は自然と高級住宅街のほうへと向かっていった。男はこんな時間にこんなとこ歩いてたら泥棒と勘違いされるんじゃないかと言っていたが騎士は見回りだなんだと言ってぐいぐい歩いて行ってしまう。

 

「こんなんで俺、捕まりたくないんだが」

 

「だぁいじょうぶ、だぁいじょうぶ。俺は騎士だぞ~」

 

 こりゃ駄目だなと男が考えていると唐突に騎士が静かになった。身をかがめて何かを見ようと目を凝らしている。

 

「どうかしたのか?」

 

「静かに、今何か怪しい影が……クソっ酒のせいで目がぼやけやがる」

 

 そう言って目をごしごしとこする騎士に男はポケットから一つのビンを取り出した。それ自体が芸術品か何かのように見えるそのビンの中にはぼんやりと輝く液体が入っている。

 

「酔い覚ましに良い薬なんだが飲むか?」

 

 騎士はいまいち疑心を持っていたが飲んで倒れるのも酔って倒れるのも一緒だと考え、男から受け取ったビンを開けて一息に飲み込んだ。

 

「う、ん? お、おお。すげえ、一気に酔いから覚めた」

 

「そうだろうそうだろう。こないだ飲んだやつもそんな感じのこと言ってた」

 

 この薬を売ってくれという思いも強くあったがそれはさておき今は影を追うことが先決だ。

 

 酔いから覚めた騎士は足音を立てないようにこそこそと歩き、時に壁や柱の陰に身を隠しながら影を追った。時折見失いそうになるも、男がこっちに行ったんじゃないかなどという方向に行ってみると見事追いつけたりしてついにその影の集団が入っていく家にたどり着くことができた。

 

「ここは……」

 

 着いた場所は高級住宅街の一角。かつて貴族であった者の家だ。

 

「どうかしたのか?」

 

 男がそう聞くと騎士は迷うように考え、言った。

 

「ここは、かつて貴族の住んでいた家だ」

 

「かつて? 今は空き家なのか?」

 

「いや、そうではない。今も人は住んでいる。そいつらはかつて貴族だったのだ」

 

 つまりは廃嫡された貴族の家ってことだなと男が言うが騎士の耳には素通りした。

 

 こんな夜更けに来客というのは非常に考えづらい。新月であるために今宵は月が出ていないが普段であれば月も中天を過ぎる頃だろう。そんな夜更けの客がこの家に……。

 

 騎士の灰色の脳細胞は冴えわたっていた。吟遊詩人が歌うような知恵ものにでもなったような気分であった。

 

「おいあんた、帝国騎士の詰所の場所わかるか!?」

 

「え? あ、ああうん。たぶん」

 

 そう聞くと騎士は懐から取り出した紙に何か書き記すと男に押し付けるように渡す。

 

「これを詰所に持って行ってくれ! 俺はここを見張っている。頼む」

 

 騎士は真剣なまなざしで男に告げる。男は素っ頓狂な顔をしていたが何かに納得したようで騎士の頼みを受け入れた。

 

 男が走り去り、どれくらいの時間が過ぎたことだろう。じっと待つ騎士にはわからないがそれは唐突に訪れた。先ほど入ってきた連中が出てきたのだ。館の執事らしきものに見送られつつ出てきたその連中は何事か執事に言いつけているようだが距離が遠くて聞き取ることができない。ぺこりと一礼した執事をしり目に大股歩きで去っていく影。彼らは二人組だった。

 

 一人はさほど大きくは無いが鍛えられているように見え、もう一人は大きいがさして鍛えられている風ではない。決まったと思い騎士は飛び出す。

 

「そこのお二人さん、ちょっと話を聞きてえんだが、いいだろう?」

 

 二人は後ろからかかった声に一瞬驚くように肩を跳ねさせるが、振り返った先にいたのが一人であることを確認すると途端に強い口調で話し始める。

 

「あぁ? なんでてめえについて行かなきゃならねえんだよ」

 

 大きいほうがそう言う。もう一人はその背後から何かをしているようだ。

 

「俺は、帝国騎士だ。お前たちに話が聞きたい」

 

「帝国騎士だぁ? 嘘つくんじゃねえよ。なんで帝国の鎧着てねえんだよてめえ」

 

 いわれてみればその通りだった。騎士は今の今まで普段通りの装いだと思い込んでいたのだが、今日は休日ということで剣もぶら下げずに飲み歩いていたのだった。騎士は途端に弱気になったが、心を奮い立たせる。

 

 男に渡した紙にはここの住所と、怪しい連中がいるから来てくれという応援の頼みを書いておいた。ちゃんと届いていればもうすぐ来るはずだ。

 

(届いていなかったら?)

 

 いや、いやいやと悪い考えを振り払う。大丈夫と言い聞かせ、時間稼ぎをする方向に考えをシフトする。

 

「鎧を着ていない理由を聞きたいのか?」

 

「ん? ああ聞きたいねえ」

 

「鎧を着ていない理由、それは……」

 

「それは?」

 

「それはだな」

 

「てめえ、時間稼ぎするつもりだな?」

 

 後ろに隠れていた男がそう言う。ピクリと騎士の眉が跳ね上がり、大柄な男はそれを見逃しはしなかった。

 

「それはどういうことだ?」

 

「ああ、周りに人はいない。こいつは一人でノコノコここまで来た。ということはだ、時間稼ぎする必要なんて一つしかないだろう。応援を呼んだんだ」

 

 それを言われた大柄な男は一瞬焦る様子を見せたがすぐに収まった。

 

「ああ、なら安心だ」

 

「何がだ?」

 

 騎士がそう聞くとにやりと顔を歪めた男が楽しそうに言う。

 

「お前、俺たちが不用心に二人っきりでこんなとこに来たと本気で思ってんのか? ここから詰所までは何人かが見張ってるに決まってんだろ。今頃、お前が助けを呼ぶように走らせた奴も捕まって、ボッコボコだろうよ。よかったな、お揃いだ」

 

 そういってげらげらと笑う二人に騎士は真っ青になった。自身が走らせた男は何のことはない一般人だ。彼らのような裏の人たちが相手ではひとたまりもないだろう。

 

 唐突に、拳が迫ってくる。騎士は身をかがめて避けるがさらに蹴りが迫ってきていた。腕でガードしたはいいものの衝撃を殺し切ることもできずにゴロゴロと石畳の上を転がる。

 

「さっすが騎士様。鍛えてるゥ~」

 

 寝転がった騎士にまたけりが迫る。笑いながら蹴り続ける男の足をつかみ、起き上がろうとしたところで背後から後頭部を思い切りけり上げられた。ちかちかとする視界の中振り返ると大柄な男がいた。

 

「おいおい、どこみてんだよ」

 

 続く攻撃は上からの肘鉄だったもろに背骨に直撃し、耐え難い痛みが通る。騎士が痛みに転げまわるさまを男二人は笑いながら見物している。

 

「なんだ、帝国騎士っつったってこんなもんかよ」

 

「これなら王国との戦闘もガチでぶち当たれば負けちまうかもな」

 

 と笑う二人に騎士は何も言えなかった。いくらなんでも助けが遅すぎる。これ本当に彼らの言う通り、捕まってしまったんだろう。目の奥から熱いものがこみ上げる。自分のふがいなさが悔しかった。これがかの四騎士であったならば無手でも制圧できたのだろう。しかし自分はたかが騎士。特別な階級も役職を担っているわけでもない騎士である。そんな自分が、手柄を立てようなんて思ってしまったのが間違いだった。

 

「さて、見つかんねえうちに始末するか。おい、俺が片付けとくから伝言(メッセージ)で支部に運び人を用意するように伝えといてくれ」

 

「あいよ」

 

 ナイフを持った男が迫る。振り上げた手の行く末を騎士が見ることは無かった。

 

 ――後日。一つの家に強制捜査が入ったらしいという噂で町はもちきりだった。どうにもその家はかつて貴族の位を剥奪された家であるにもかかわらず、高級な美術品や宝飾品が幾つもあったらしい。しかも当主は麻薬で頭がパッパラパーだったらしい。収入がないのにどうやってそんな高級品を買ったり消費したりしたのかと人々は口々に噂し、やがてそれは一つの結論に至った。

 

 あの家の持ち主が犯人なのではないか?

 

 事実、かの家を見張っていた騎士が何者かに殺された瞬間を、駆け付けた騎士たちが目撃したという。殺人犯は逮捕され、彼らを洗った結果“八本指”とかいう組織の存在が明るみに出たらしい。これを機に鮮血帝ジルクニフは帝都の一斉捜査を下した。

 

 その結果は帝都中の人々の知るところであろう。晒された首のもとには幾つもの罪状が書かれている。特に大きく書かれているのは黒粉の販売に従事していた罪という文字である。

 

 その後、貴族の家への泥棒もなくなった。きっとそれもこれも八本指とかいう犯罪組織がやったことだったんだろう。人々はそう考え、もう泥棒におびえることはないんだと安心したのだった。

 

 彼らの記憶の中に、一人の殉職した騎士の名前はまるで残っていない。それは行動を共にした怪しい男の記録が残っていないのと同じようにそうである。

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