Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

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見てくれている人、そんなにいないかもしれませんが、お久しぶりです。

エグゼイドも続きが気になってしょうがないです。Aqoursの1stライブも近づきつつありますね。

それでは、第9話…もとい、10話目です。どうぞー。


RING.9:正直な気持ちで

 

 陽人は言った。「全力で想いをぶちまける」と。当然、相手は一度作曲を頼み断られた自赤髪の女子生徒、西木野だ。姓の方は知っても、下の名前はよくよく思い返せば知らない現状だった。

 どうすれば、想いは伝わるのか。

 言葉を選ぶ? ナンセンスだ。それでは全力で想いをぶちまけたことにはならない。

 歌で想いを伝える? 却下だ。どう考えても即興で想いを伝える歌が出来るわけがない。出来たらとうの昔に作曲も作詞も終えてダンスの練習に励んでいる。

 

(あ…でも。)

 

 意外と、悪くないんじゃないかと思ってしまった自分がいるのも事実だった。別に歌って想いを伝えるという、遠回りな真似をする訳ではない。

 だが今の自分には、“詞”があった。幼なじみが作ってくれた詞。それが今の自分の手元にある。

 

(伝えるだけ、伝えるのも手だよね。)

「やっほー! 穂乃果! どう、練習は?」

 

 考え耽っていた穂乃果に話しかけるのは、聞き慣れた声だった。振り向くと、そこにはヒデコ、フミコ、ミカがいた。

 

「ライブ、何か手伝えることがあったらよろしくね!」

「照明とかお客さんの案内とか、色々やらなきゃいけないでしょ?」

「え…ホントに? 手伝ってくれるの?」

 

 友人達の言葉に、穂乃果は少しだけ戸惑いながら問う。

 

「うん、希月君に頼まれたのもあるけど、元々手伝う気でいたしね! だって穂乃果達、学院のために頑張ってくれてるんでしょう?」

「クラスの何人かも、応援するって言ってくれてるよ!」

「…そう、なんだ。」

 

 友の励ましが、穂乃果を徐々に元気にさせる。直後の「男子はからかってやろうぜって雰囲気だったけどねえ」というヒデコの言葉には苦笑するしかなかったが。

 

「まあ、とにかく! 頑張ってね!」

 

 三人の激励は、穂乃果に元気を取り戻すには充分過ぎる言葉だった。

 

「ありがとうっ! その時になったらよろしくね! ばいばーい!」

「じゃあねー!」

「また明日ー!」

「バイバーイ!」

 

 いつも通り、穂乃果は大きく手を振る。だが今回は違った。友による激励に救われた穂乃果は、感謝の意味も込めていた。ヒデコ達を見送ると、教室のドアからひょっこりと、陽人が顔を覗かせた。

 

「いいダチを持ったな、穂乃果?」

「うん! そうだ、グループ名、中身入ってるかな?」

 

 ふと思い出すと、設置したユニット名募集箱の中身を確認する。その中身に、穂乃果は歓喜を込めて大きく声を上げた。

 

 

 

 

 

「入ってたよー! 一枚!」

 

 教室に戻り、穂乃果は一枚の四つ折りの紙切れをビシッと天高くかざす。たったの一枚でも、募集箱に入っていた事を考えれば大きな前進と言えるかもしれない。ことりも海未も、喜んだ反応を見せていた。

 おふざけの可能性も無きにしも非ずだが、その可能性は全くと言っていいほど考えていなかった穂乃果は、笑顔で紙を開く。

 

「……ユー、ズ?」

 

 紙に書かれていたのは、見事な達筆での“μ's”という文字だった。確かに一見すればそう読めるかもしれないが、よくよく見れば違っており、海未からも指摘が入る。

 

「いえ、多分これは…μ's(ミューズ)と読むのではないですか?」

「それって、石鹸?」

「そんなわけないでしょう…。」

 

 穂乃果らしい間違いに、海未は思わず呆れながらもツッコミを入れる。ことりも流石に意味までは解らないものの、石鹸の方ではない事は理解していた。

 

「へえ、じゃあ海未はわかるのか?」

 

 陽人の問いに、海未は「当然です!」となぜか誇らしげに答える。

 

「恐らく…神話に出てくる女神から名付けたのだと思います。」

「…へ~。よく知ってるな。普通ならそこまで思いつかないだろうに…?」

 

 そこまで陽人に言われて、海未はハッとした。陽人に視線を向けると、意地悪な笑みをこれ見よがしに浮かべていた。

 要はこの男、海未のからかいのネタを引き摺り出したかったのだ。陽人にまんまとハメられた海未は、たちまち顔を真っ赤にしていった。

 

「まあ実際、海未の言う通りではあるな。ギリシア神話で文芸を司る女神達。そこから名付けられたのは間違いないだろうぜ。」

 

 海未の推察と陽人の解説に、穂乃果とことりは感心する。穂乃果は改めて“μ's”と書かれた紙切れを眺める。何だか、音ノ木坂学院のスクールアイドルに相応しい名だと。そんな風に思った。

 

「良いと思う! わたしは好きだなあ!」

「μ's…。うん、今日から私達は…“μ's”だ!」

 

 ことりの好感度の高い反応に、穂乃果も海未も頷く。陽人も当然、反対する気はなかった。そして穂乃果の一声でユニット名は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後を迎え、各々の生徒たちは帰路についたり、部活動に勤しむ等、様々だった。その内の一人、小泉(こいずみ)花陽(はなよ)もまた帰路に着こうとしていた。

 

「かよちん、帰るにゃ~♪」

 

 小さな頃からの幼なじみ、星空(ほしぞら)(りん)が花陽を呼ぶ。そういえば俊平はどうしているのだろうかと思い彼の方を見てみると、鞄を背負い教室から出た。しかし彼が歩く方向は玄関とは真逆の方向だった。一体どこに行くのだろうと不思議に思ったが、再び凛に呼ばれた事で疑問はすぐに忘れられた。

 

「あれ~…どこにいるんだろう…?」

「いないのか?」

「うん…。」

「にゃ?」

 

 突然の聞き慣れない女生徒男子生徒の声に花陽と凛は反応し、凛は二人の顔を覗き込むように近づいた。その男女二人は、昼休みに来ていた上級生だった。高坂穂乃果と希月陽人。花陽も凛もまだ二人の名前を知らないが、穂乃果を筆頭に数人の二年生がスクールアイドルを活動しているのは小耳に挟んでいた。

 

「ねえ、あの子は?」

「あの子…ですか?」

 

 穂乃果は凛に訊くが、誰の事を言っているのかは凛には解らなかった。しかし、花陽には解った。恐らく彼女のことを指しているのではないかと思った花陽は、おずおずと穂乃果の示す“あの子”の名を口に出す。

 

「西木野…さんですよね? 歌の上手い…。」

「そうそう、西木野さん!」

 

 穂乃果が思い出したように頷く。自分の推測が間違っていなかったことに花陽は内心安堵し、さらに言葉を続ける。

 

「はい、西木野(にしきの)真姫(まき)さん。」

 

 今度はフルネームで答える。穂乃果は下の名前を知らなかったようで、「真姫ちゃんって言うんだ!」と関心を寄せていた。陽人の方も、「そういえば下の名前知らなかったっけ」とぶつぶつ呟きながら思い返していた。

 

「用があったんだけど、もういないってことは家に帰っちゃったみたいだね…ありゃあ。」

「音楽室にいるんじゃないですか?」

 

 凛の出した考えに、穂乃果と陽人が反応する。口には出さないものの、花陽も凛と同じ考えを持っていた。

 

「音楽室?」

「あの子、いつも一人でいる事が多くて皆とそんなに話さないんです。休み時間はいつも図書室にいるし、放課後は音楽室にいるのを見ましたし。」

 

 直後に続く「だよね、かよちん?」という凛の確認に花陽は少し驚いたものの、はっきりと頷いた。

 

「せっかく鹿野君が話しかけてくれてるのに、西木野さんは無視してるんですよねえ…。」

「ほう、奴は健気にアプローチを仕掛けている…と。」

 

 いい事を訊いたと言わんばかりに陽人は腕を組みうんうんと頷く。まるで俊平の事を知っているかのような反応に、彼とは関係のある間柄なのだろうかと、花陽は気になった。

 

「俊平の奴、君達にも積極的に話しかけているんじゃないか?」

「ええっ!? ど、どうしてわかるんですか!?」

 

 驚く凛に、陽人は「やっぱりそうだったか」と呟きながら苦笑する。

 

「仲良くしてやってくれ。アイツは誰彼構わず仲良くしていこうっていう奴だから。」

 

 そう言う陽人に、花陽は小さな声で「は、はい…」と答える。答えが聴けただけでも満足したのか、陽人は小さく微笑んだ。

 

「君も、よろしく頼むな。」

「了解しましたにゃー!」

「にゃ?」

 

 陽人の反応に気付いたのか、凛は思わず慌てるかのように口を両手で塞ぐ。

 どうやら、彼女の口癖のようだ。可愛らしく感じた陽人は思わずポン、と凛の頭に手を置き、そのまま優しく撫でた。

 

「ふぇっ!?」

「あ、ゴメンね…なんか保護欲的なものが掻き立てられちゃった。」

「ハル君…?」

 

 ぎく、と一瞬にして冷や汗を立てた陽人が自身の後ろを振り向くと、そこには穂乃果がぷっくりと頬を膨らませていた。

 

「殆ど初対面の後輩なのに、いきなり頭を撫でるなんて…凄いねぇ~?」

「は、ハハハ…。」

 

 詰め寄る穂乃果に、陽人は乾いた笑いを零すしかない。何やら修羅場を見てしまったような気持ちに、凛と花陽は陥っていった。

 

「ってか、早いとこ音楽室に行くぞ? さっきは悪かったな!」

「…まあ、いっか。ありがとうね! 二人とも!!」

 

 陽人は凛に軽く謝罪し、穂乃果は花陽に礼を言う。凛はまるで謙遜するように「き、気にしないでください!」と返し、花陽も穂乃果に「ど、どういたしまして…」と続く。早速音楽室に行こうと、穂乃果と陽人が足を進めた時だった。

 

「あ、あの! …頑張って、ください。アイドル…。」

 

 自らの出す精一杯の声で。小泉花陽は高坂穂乃果を応援する。穂乃果にとって、花陽の応援が世辞として捉えられたかどうかは花陽には判らない。

 

「……うん、頑張るっ!」

 

 彼女は大きく、ガッツポーズで応援に応える。穂乃果は嬉しかった。今まで、友達しか応援してくれなかったスクールアイドルの活動。それが初めて、赤の他人に応援された。それが穂乃果には堪らなく嬉しかったのだ。

 ニヒルな調子で笑いながら歩き、言葉を交わす陽人と穂乃果の二人を花陽と凛は見送ると、突然凛が「あれ?」と声を出した。

 

「どうしたの凛ちゃん?」

「先輩達が走って行った方向って、さっき鹿野君も歩いてなかったかにゃ?」

「あれ、そういえば…そうだね…。」

 

 もしかして、俊平は音楽室に向かったのだろうか。少しだけ名残惜しそうに穂乃果が走って行った廊下を眺めながら、そんな事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 音ノ木坂学院に入学してから、西木野真姫は放課後に音楽室に一人でピアノを弾くのが習慣となりつつあった。だが今日はいつもと違った。いつも通り一人でピアノを弾こうとすると、コンコンとドアをノックする音が聞こえたのだ。ドアの方を向くと、一人の男子生徒がいた。鹿野俊平だった。

 

「よう、失礼するぜ?」

「貴方…一体何しに来たの?」

 

 ズケズケと勝手に音楽室に入った俊平に対し、真姫は鬱陶しそうな態度で訊く。真姫からすれば、何の用もなく自分に絡んでくる俊平にはどうも苦手意識があった。

 

「音楽室のドア越しで聴くのは勿体なくってさ。折角だから、直で鑑賞しようと思ったんだ。」

 

 当然のように理由を話す俊平に、真姫は戸惑った。俊平はというと、さらりと恥ずかし気な事を言っていた癖に表情は平静を保っていた。というよりは、クックッと笑いを堪えているようであった。

 

「な、何がおかしいのよ?」

「お前…すげえ顔真っ赤だぞ?」

 

 言われて、頬を触ってみる。火照っているのがわかった。何だかしてやられた気分になった真姫は、今すぐに何か投げつけたくなった。

 

「ホラ、早く聴かせてくれよ?」

 

 未だにむうう、と唸っている真姫に対し、俊平は演奏を催促する。ペースを握られた状態の真姫はむう、と唸るが、やがて諦めたのかため息を吐き、目の前のピアノを奏で始めた。

 俊平にとって、真姫が演奏する曲を聴くのは二度目だった。一度目は、音楽室のドア越しに陽人と穂乃果と聴いた。初めて聴いた時、不思議な気持ちを覚えたものだ。まるでなったばかりの高校生とは思えない彼女の演奏技術。加えて、(よわい)十五歳としては若干大人びた美しい容姿。それらが見事にマッチして、この空間と彼女の奏でるピアノに一種の芸術を見せていた。

 当然、今回も例に漏れず。真姫の演奏は俊平を感動させるには充分すぎるものだった。演奏を終えた真姫は一息吐き、そんな彼女に俊平は静かに拍手を送る。

 ここで、あれ? と思った。拍手の音が複数聞こえたのだ。はっきりと聞こえるのは、今、俊平自身がしている拍手の音。もう一つは、子供が勢いに任せて叩くような拍手の音。そして、自分と同じく静かに送る拍手の音だ。

 俊平と真姫はお互いに視線を合わせ、音の聞こえる方向に顔を向ける。方向は、音楽室の出入口だ。

 

「うえぇぇぇ!?」

 

 真姫が驚くのも無理はなかった。何故なら、視線の先には穂乃果が一度目に真姫の演奏を聴いた時と同じ表情で拍手を送っていたのだから。その後ろでは、陽人が苦笑いと共に拍手を送っていた。恐らく、穂乃果に呆れているのだろう。

 尤も、俊平としても二人に呆れるしかなかった。

 どうせなら、二人も音楽室に入って直接聴けば良かったのに―――。それ程に、真姫の演奏するピアノは素晴らしかったのだと、俊平は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しつこいですね…。」

「うん、海未ちゃんにいつも言われるんだ~。」

 

 真姫の穂乃果に対する呆れに、穂乃果も自覚しているのか乾いた笑いを漏らす。二人のやりとりを眺めていた俊平は、また穂乃果が真姫に作曲を頼んだのかと理解した。

 

「諦めが悪いのか、それともただただしつこいだけなのか…どっちなんすか?」

 

 堪らなくなった俊平は、思わず陽人に訊ねる。陽人は「両方だろ」と答え、どこか気だるげな様相を呈していた。

 

「私…ああいう曲は一切聴かないから。聴くのはジャズとか、クラシックとか…。」

「へえー、どうして?」

「軽いからよ! 何だか薄っぺらくて、遊んでるみたいで…。」

 

 自分の発言に対する穂乃果の質問に、真姫は声を大にして理由を述べる。確かにアイドルと言う存在に興味の無い者からすれば、そう見えるのも事実であろう。

 

「そうだよねえ、私もそう思ってたんだ。」

「え?」

 

 そして穂乃果もまたその一人だった。あの時、陽人にバイクに乗せてもらってUTX学院の外壁に設置されたモニター映像を観るまでは穂乃果もそう思っていたのだ。

 

「何か、こう…お祭りみたいにバァーッと盛り上がって、楽しく歌っていればいいのかなって…そうすればいいって思ってた。でもね、それが結構大変なの。」

 

 しみじみとした表情で穂乃果は語る。そういえばと、ふと俊平は思い返す。二、三日程前の夕食時に、陽人と雑談を交わしていた時のことだ。

 

 

 

 

 

「そういえば俊平ってアイドルの曲とか聴くか?」

「何すか藪から棒に…。よっぽどじゃない限り、聴く気にはなれないすけど…どうかしたんすか?」

 

 この時、俊平は妙な事を訊くものだなと思っていた。続いて出た陽人の質問も、同様だ。

 

「クラシックやジャズは?」

「聴く機会なかったじゃないすか。精々、“第九”のイントロくらいしか分からないっすよ?」

 

 さも当然のように出た自分の返答に、陽人は「だよなぁ」とひとりごちる。

 

「あの女子生徒の曲はどうだった?」

「女子生徒の曲…。」

 

 陽人が示しているのは、西木野真姫のことだろう。ふむ、と腕を組んでそれっぽく考えてみる。こんな仕草をせずとも、俊平には判り切っていたことだ。

 

「また聴きたいなって思いましたね。」

 

 俊平の答えに陽人は満足したのか微笑み、「俺も同感だ」と続いた。

 

「結局のところ、人によって音楽の魅力は変わっていくものなんだよな。爺さん、婆さんが演歌に夢中になったり、女がアイドルの曲に熱中したり、中学生くらいの男子が背伸びしてバンドの曲に聴き入るようにな。」

 

 あくまで持論だけどな、と陽人は付け足す。

 きっと、穂乃果は心を打たれたのだろう。俊平もそうだったし、陽人も同じだ。彼女の奏でる音楽は、様々な人の心に響かせる。万人受けするかどうかまでは分からないが、心の片隅に残る事は間違いない。

 だからこそ穂乃果はあの時、真姫に衝動的にスクールアイドルの勧誘をしたのだろう。そして思った。真姫が穂乃果達と共にスクールアイドルをしていたら、どんな風になっていたんだろう。想像するだけでも俊平は心が躍る気がした。

 

 

 

 

 

「ねえ、腕立て伏せ出来る?」

「はあ!?」

 

 唐突に、穂乃果は真姫に訊ねてきた。この場にいるのは穂乃果と真姫の他に、陽人と俊平の二人だけ。たった四人だ。真姫が戸惑いの声をあげるが、それは陽人も俊平も同じだった。ただ、口に出さなかっただけマシかもしれない。

 

「あれ~? 出来ないんだぁ~?」

「な…っ! で、出来ますよ! それくらい!」

 

 穂乃果のわざとらしい挑発に真姫はカチンと来たのか、声を荒げて彼女の挑発に乗ってしまっていた。

 

「アイツ…将来、詐欺に引っ掛かりそうで俺、心配になってきたっス。」

「安心しろ、俺も同じ気持ちだ。」

 

 どこを安心すればいいのやら。そう言いたくなったが、言うのも面倒くさい気になった。

 そうこうしている内に、真姫は腕立て伏せを始めた。形はそれなりに様になっており、穂乃果も「おお!」と感嘆の声を上げた。

 

「凄い! 穂乃果よりも出来てる!」

「当たり前でしょ…、私はこう見えても…!」

「ねえ、今度は笑いながら腕立て伏せをしてみて?」

「え、何で…?」

「いいから!」

 

 何か言いかけたところを、穂乃果が遮ったせいか。真姫には少々不満を残した表情を見せた。それでも笑いながら腕立て伏せを行なおうとするあたり、何だかんだ言って律儀な性格をしているものだと、陽人と俊平は思った。

 結果はというと、当初よりぎこちないものになった。笑顔はどこか引き攣っており、腕立て伏せの方も先程と違いきつそうなものになっていた。やがて五回も経たずに真姫の腕立て伏せは終わり、地に伏せてしまった。

 

「ね、アイドルって大変でしょ?」

「何のことよ!」

「はい、歌詞! 一度読んでみてよ!」

 

 そう言って穂乃果は歌詞が綴られた四つ折りの紙切れを渡す。まさかダメもとで依頼する気なのか。一度断られたのに、また頼むとは無謀過ぎる。俊平は思った。

 

「だから私は…!」

「読むだけならいいでしょ? 今度訊きに来るから。…その時に駄目だって言われたら、すっぱり諦めるよ。」

 

 穂乃果の言葉に俊平は、彼女の熱意を感じ取った。一世一代の大博打とも言える勝負に、俊平は内心ハラハラした。そういえばと、今まで殆ど喋っていなかった陽人に目を向けると、彼の表情は楽しげに笑みを浮かべていた。

 

「答えが変わる事はないと思いますけど…。」

 

 真姫はそう言いながらも歌詞を受け取る。だが一度目と比べれば、幾分か態度が柔らかくなっているように俊平は見えた。

 

「だったらそれでもいいよ、そしたら…また歌を聴かせてよ。」

「え…。」

「私ね、西木野さんの歌声大好きなんだ! あの歌と演奏を聴いて感動したから、西木野さんに作曲をお願いしたいなって思ったんだ!」

「おお、やっぱり高坂先輩もそう思ったんすか!」

 

 言って、俊平は思わずハッとした。余計に口を挟んだかと思ったが、陽人の「二人もそう思っていたか」という援護に、胸を撫で下ろしたい気分になった。真姫の方は、みるみる顔を赤くさせていった。

 

「さっきも言ったけど、俺が二度目に聴きに来たのは勿体なかったんだ。お前の奏でる歌声と音楽は、最初に聴いてから、直接聴いていたいって思ったから。少なくとも俺も含めて、ここにいる三人は、西木野の音楽に惹かれているよ。」

 

 説得を後押しする、という訳ではない。ただ言いたかったのだ。こんなに綺麗に心が洗われるのはいつぶりだろうかと勝手に感動したくらいに、俊平は想いを伝えたかった。

 

「俺はあまり音楽を聴く暇なんてなかったけど、この前初めて聴いた時、なんか心がスッキリした。君の音楽は、誇れるものだよ。」

 

 三人が堂々と真姫を褒め称えるせいか、真姫はどこか照れ臭そうな表情になっていた。そんな真姫を見た俊平は、少しだけ笑みを漏らす。

 

「毎日、朝と放課後の夕方には神田明神の階段で練習しているから! よかったら見に来てね!」

 

 穂乃果はそう言うと、「それじゃあね!」と別れを告げ、音楽室を去り、陽人も「じゃあまた、会う機会があれば」と言い残し、穂乃果に続いていった。そして音楽室内に残ったのは、俊平と真姫の二人だけだった。俊平が真姫の方を一瞥すると、真姫は穂乃果から受け取った歌詞カードを眺めていた。

 

「それ、良い歌詞だろ?」

「ウェっ…何よいきなり。」

 

 突然話しかけられた事に真姫は驚き、俊平に半目で睨みつける。横から歌詞カードを見る俊平を余所に、真姫は改めて歌詞カードを見直す。

 

「それで…どうするんだ、作曲?」

「どうするって…。」

 

 俊平の問いに、真姫は直ぐに答えられなかった。断るに決まってるでしょ。口に出せばいいだけの筈なのに、それがどうしても真姫は出来なかった。答えが詰まった真姫に俊平は「気になるのか?」と訊く。

 

「べ、別にそんなんじゃ…。」

「素直じゃないんだな?」

 ニヤリと意地悪な笑みを浮かべる俊平に、真姫は少しだけ腹が立った気がした。そんな真姫の態度に俊平は気にもせずに、口をさらに開く。

 

「もしお前があの人達の力になるっていうなら、俺はお前の力になるぜ。作曲は出来ても、編曲が出来なきゃ意味ないしな。」

「あなた…編曲できるの?」

「いんや、知識はあっても触れるのはさっぱりだな!」

 

 あまりにもスパッと言うものだから、真姫は思わず絶句してしまった。それでも俊平は自分の力になると言った。どうして自分に構うのか、その理由を知りたくなった。

 

「あなた…どうして私に構うのよ?」

 

 俊平に質問をぶつけると、回答者の彼は考え込む。ううん、とわざとらしく腕を組みながら考える仕草をとる俊平に、真姫はそこまで悩むのかと思った。

 答えが出たのか俊平は腕組みを解くと、「なんていうか、うまくは言えないけどさ」と前置きし、口を開いた。

 

「放っとけない感じがしたんだよなー…今のお前を例えるなら、コインがずっと回り続けて表裏が見えたり見えなかったり…みたいな…ああー! 何言ってるんだろ俺…。」

 

 自分の語彙力の無さに嘆いている俊平に、真姫はぽかんとした。でも、言いたい事は何となくわかる気がした。

 それほどまでに見えているのだろうか。今の自分の本心は。

 

「あ、そうだったそうだった!」

 

 突如何か思いついたのか、俊平が拳を掌に叩く。

 

「もしお前が作曲してくれるなら、俺も手伝うからな! さっきも言ったけど、知識はある方だし! それに…。」

「…それに、何よ?」

 

 途中で止まった俊平の言葉を、真姫は促す。促されたことに観念したのか俊平は、ひとつ咳払いをしてからまた口を開く。

 

「好きな事をやれるのなんて、今のうちだけだから…さ。青春なんて、およそ百年近くの人生の中じゃほんの一瞬だし…。」

 

 ずきん、と真姫の胸に突き刺さった気がした。最初とは打って変わってどこか物悲しげな雰囲気で放つ俊平の言葉だからなのか。それとも、自分の今の心を見透かされたと錯覚するくらいに的を射ていたのか。言うまでもなく、後者に該当するだろう。そう真姫は思った。

 

「んじゃ、俺は帰るぞ! 最近物騒だから、日が暮れない内にお前も帰れよ!!」

 

 暗い雰囲気を察したのか、俊平は早口で捲し立てると、そのまま走って音楽室を出て行った。

 残ったのは、真姫ただ一人となる。彼女の心中は、様々な色が混ざり合うように言い表せないものになりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、真姫は神田明神まで来ていた。行きたい気持ちと、行きたくない気持ちの両方があったが、結局来ていた。ここに来れば、今の自分がやりたい事が何となくでも分かるような気がした。そして過ぎるのは、俊平が自身に投げかけたあの言葉。

 

―――好きな事をやれるのなんて、今のうちだけだから…さ。

 

 思い返しても、苛立つ。まるで自分の心を見透かされたようで。でも同時に思った。本当に何がしたいのかを。それを確かめるためにここに来たのだ。

 

「うう…もぉダメぇー…!」

「もう…足が、動かないよ…。」

 

 息も絶え絶えに、 ことりと穂乃果が嘆く。それを陽人は、何処か呆れた様子で見ていた。

 

「おいおい、徐々にペースを増やしてくつもりだってのに、まだまだ終わるのは早いぞ?」

「そ、そんなこと言っても…。」

「ちなみに、あと一往復走りきったらジュースを奢るぞ。…海未が。」

「ちょっ…陽人君!? 何を言ってるんですか!?」

「わーい! ことりちゃん、もう少し頑張ろう!」

「ま、待ってよ穂乃果ちゃぁ~ん…!」

「えげつねえ…アニキ、えげつねえ!」

 

 真姫の位置が男坂門の麓。対して、四人は階段を駆け上がった最上段の辺りで会話を繰り広げているためか、真姫には四人の会話の内容は聞こえてこなかった。だが、彼らの雰囲気は楽しげなものを感じさせていた。

 いつも一人でいれば十分だった。そう思っていたのに、あんな光景を見せられると、どうにも羨ましく思えてしまう。

 悶々とした想いを抱える中、真姫は背後から近づく人物に気付くことはなかった。気付いた時には、既に遅し。そのまま背後から歩み寄る人物に、ダイレクトに胸を揉まれてしまった。

 

「キャアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 悲鳴が聞こえた時、陽人と俊平の二人は口よりも先に身体が動いていた。穂乃果達が呼ぼうとするが、それよりも早く二人は階段を駆け下りていた。

 

「何があった!」

「大丈…夫…っすか?」

 

 陽人と俊平が呼びかけるが、俊平の言葉が徐々に間抜けなトーンになっていくのも仕方ないものだった。

 何故なら目の前で見られる光景は、巫女が女子高生の胸を揉むという、どういった反応をすればいいのか解らないものだからだ。ちらりと横目で陽人を見てみると、口をあんぐりと開けて呆然としていた。次いで、巫女と女子高生の二人に視線を向ける。

 女子高生の方は先程も俊平と会話を交わした少女、西木野真姫だった。後ろにいる巫女の正体はというと、音ノ木坂学院生徒会副会長の、東條希だった。夕方と朝方はこの神田明神でアルバイトをしているとのことだが、何がどうなってこんなことをしているのだろうか。

 

「…………ッ!! いつまで見ているのよ、バカ!!」

 

 直後、陽人と俊平の男二人の頬に真っ赤な紅葉が出来上がった。

 

 

 

 

 

 陽人は思っていた。この気まずい雰囲気はどうにかならないのか。どうにか希や俊平に目でどうにかしろと意図を伝えているものの、俊平は無理だと言わんばかりに目を逸らし、希はくすくすと笑みを浮かべるだけで、彼女の真意が読み取れない状態であった。

 

「まだまだ発展途上…と言ったところやね♪」

 

 突然、希が口を開く。突拍子もない言葉に真姫は思わず「はぁ!?」と素っ頓狂な反応を見せた。

 

「何言ってるのよ!?」

「でもまだ望みは捨てなくても大丈夫。大きくなる可能性はある。」

 

 その言葉で陽人達は察してしまった。早いとこずらかりたい。早く階段を上がって穂乃果達と合流したい、そう思ってしまった。

 

「いざとなったら、そこの彼等に渡すなりこっそり…という手段もあるしなあ。」

 

 そう言って、希は陽人達に視線を向ける。希の真意がどういうことかようやく解った陽人は、笑みを浮かべ一息ついた。

 徐々に柔らかくなりつつある雰囲気に耐えられなくなったのか、真姫は一気に俊平に近づいた。

 

「ど、どうした…?」

「あなた、確か編曲の知識だけはあるって言ってたわよね…?」

「お、おう…そうだけど…。」

 

 二人の問答に、そういえばそうだったなと陽人は思い返す。昔、気晴らしに曲でも聴いておけと促されて聴いた曲に、俊平は感化されたのか、音楽鑑賞が趣味になっていた。そこからどういう訳か、曲がどうやって作られるのかということに興味を持ち、聴いたことのある曲を自分でコピーする所謂“耳コピ”に趣味の時間を費やすことがあった。それでも、趣味に費やす時間なんて高が知れるほどのものくらいだったが。

 

「じゃあ今すぐ私に付き合いなさいよ! ホラ、グズグズしない!!」

「えぇ!? ちょっ…おい引っ張るなってぇ~!」

 

 突然真姫に手首を掴まれた俊平は、そのまま連れられこの場を離れていった。思わず陽人に助けを求めようとしたが、当の本人は笑顔で手を振っていた。

 

「あ…アニキの裏切り者ぉ~~~~~!!!」

 

 俊平の嘆きにも似た悲鳴が、神田明神に木霊した。

 希と陽人は苦笑いで、真姫に連れられて行く俊平を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、あの後の練習は軽く済ませるだけに留めて、それぞれ帰路についた。そのまま何事もなく、三日が過ぎた。精々変わった事と言えば、俊平が放課後は於母影堂に真っすぐ帰らずに、どこかに寄っているということくらいだ。とは言え、陽人からすれば俊平の行き先が何処なのか見当はついていた。この三日間は、必ずと言っていい程ぐったりとした表情で俊平は帰ってきている。あの様子では相当扱かれているのだろう。陽人は俊平に少し労いをかけたくなった。

 

「ハル君、ハル君!! 大変だよーーー!!」

 

 そんなことを考えている時、穂乃果が大声を出しながらやってきた。今は朝の時間、場所は学院の廊下だ。あまり大声を出すのは感心しないが、そんな余裕は穂乃果にないのだろう。

 

「おはようさん、穂乃果。朝っぱらから元気なことで…。」

「おはようハル君! 大変だよ、大変だよ!!」

「落ち着け落ち着け…。深呼吸、深呼吸。」

 

 促されるままに穂乃果は深呼吸をする。興奮を抑えるためか、既に数回は繰り返していた。

 

「それで、何が大変なんだ?」

「あ、そうそう! 朗報だよ、朗報!」

 

 いつもなら勿体ぶる物言いなのだが、陽人がそのようなことを嫌う性質なのか、穂乃果はすぐに口を開いた。

 

「私たちの曲が、出来たんだよ!!」

 

 

 

 

 CDを受け取ったという穂乃果は早速、海未とことりにも連絡を入れ、学院の屋上で、穂乃果が持って来ていたノートパソコンを使い、CDの内容を聴くこととなった。流れるのはピアノの旋律と、透き通ったような聴いたことのある歌声だった。

 陽人は作曲をしてくれた真姫と、彼女と共に曲作りに携わった俊平に内心感謝した。

 

「これが、私たちの曲…。」

「本当に、歌になってる…!」

 

 曲というのは、メロディと詞がマッチングして初めて成り立つものだ。海未の書いた詞と真姫の天才的な作曲センスが、それぞれ発揮された曲は見事と言うには足りない程素晴らしいものだった。

 

「あっ…!」

 

 穂乃果が何かに気付いた。ディスプレイを見ると、ホームページに掲載されたμ'sのランクが上がっていたのだ。

 スクールアイドルは全国区で広まっているため、数千ものスクールアイドルがホームページに登録されている。そしてファンが入れてくれる票によってランクも上がるようになっている。穂乃果達も陽人の協力によって、スクールアイドル“μ's”の登録を済ませていた。

 そして今、μ'sは初めて票が入った。

 それも一票ではなく、二票も入っていたのだ。

 

「これで始まったな…スクールアイドル、“μ's”が。」

 

 陽人の言葉に、穂乃果達三人は頷く。

 最初は右も左も分からなかったスクールアイドル活動。それが今では曲を完成させ、ダンスのステップも覚え、初めてのライブまで見据えられるようになった。

 そして今するべき事は決まっている。

 

「よし…穂乃果。これからどうする?」

「勿論、練習だよ!!」

 

 穂乃果は大きな笑顔で返してみせた。舞台が整いつつあるこの状況に、陽人も微笑んだ。

 

 

 

 

 

 同時刻。穂乃果達がいる屋上の裏側にて、二人の少年少女がそれぞれのスマートフォンを持って空を眺めていた。

 

「俺達がμ'sのファン第一号か…こういうの俺、好きなんだよな。何だか歴史的瞬間に立ち会えたみたいでさ。」

「それは流石に大袈裟な気もするけど…気持ちはわかるわ。それに…。」

 

 そこまで言うと、少女は少年の方を見る。視線に気付いた少年は、見つめてくる少女の目を見つめた。

 

「それになんだよ?」

「な、何でもないわよ!」

 

 ぷいっと顔を逸らす少女に、少年はなんなんだと困惑する。が、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

 




次回、Love live is SHOWTIME!!


「やっぱり無理ですぅ…。」

「…だって、絶対に成功させたいんだもん。」

「俺が今思っているのは、お前等に“青春”を託したいって事だな。」

「流石は指輪の魔法使い…。私の魔力にすぐ気がついちゃったか。」


さあ、ショータイムだ!
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