Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

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半年以上も更新してないとかダメダメすぎて

十二話目もとい、第十一話です、どうぞー。


RING.11:迎えた今日

 ピピピ、ピピピ、と小気味良いアラームが鳴り響く。布団の中でもぞもぞと動きながら、ようやく目覚まし時計のアラームを止める。

 ふわあ、と一つ欠伸をして背を伸ばす。ボーっとする頭も、十秒あれば正常な判断が出来るようになっていく。覚め始めた目で、カレンダーを見る。

 

「…とうとう迎えたなぁ。」

 

 一人、呟く。今日は、音ノ木坂学院新入生歓迎会。普段の授業は午前のみ執り行い、午後からは新入生歓迎会を開催する。そして放課後には、μ'sのファーストライブが開かれる予定だ。

 枕元に置いておいた携帯の着信履歴を確認する。まだ水乃刑事からの連絡は来ていない。もう時間がない。せめて今日の昼に解ってくれればと思う。

 

「…朝飯食おう。」

 

 今は考えていてもしょうがない。一日の流れに不可欠な朝食をとって、今日に臨もう。陽人は気持ちを切り替えて、自室から出た。

 

 

 

 

 

「ハル君! おっはよー!」

 

 教室で佇む陽人に背中を叩きながら挨拶する女生徒。無論、穂乃果だ。後ろから、海未とことりが苦笑いを浮かべながら歩いてきていた。

 

「ったく、この元気娘は…おはようさん。」

「おはようございます、陽人君。」

「おはよう、陽人くん。今日だね!」

 

 海未とことりが陽人に朝の挨拶をすませ、陽人もまたことりの言葉に頷く。三人の表情は見事に引き締まったものになっていた。陽人も彼女達の顔を見て、より一層気持ちが引き締まっていくのを感じた。尤も、穂乃果達と陽人とでは理由が違うが、それでも気が緩むという事はない。

 

「そうだな…と、まずは授業をちゃんと取り組まなきゃな。」

「うう…言わないで~…。」

 

 一気に現実に引き戻されるような台詞を言ったためか、穂乃果ががくりと肩を落とす。穂乃果の様子に海未はため息を吐いて呆れ、ことりは相も変わらずにっこりと笑みを浮かべ、陽人は小さく鼻で笑い、窓の外の空を見上げた。清々しいまでの晴れ模様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿野俊平の朝はいつもならば早い。いつもなら朝の五時半に起きて陽人や穂乃果達と神田明神の男坂で走り込み、その後に陽人と手合わせをするのだが、今日はそれがなかった。というのも、今日は陽人がマネージャーとしてサポートしているスクールアイドルグループ“μ's”のファーストライブがあるからだ。

 早朝に走り込みをするのはライブ時の体力を奪いかねないという陽人の判断により、朝練は見送られたのだ。

 

「おはようー…おはようさん。」

 

 教室に入り、クラスメイトそれぞれに朝の挨拶を交わす。お、と俊平は一人自分の席に座る生徒の存在に気が付く。当然、無視はしないのが俊平の流儀というものだ。

 

「よう、おはよう西木野。」

「おはよう、昨夜はよく眠れたかしら?」

「おいおい、俺はライブには無関係だぜ?」

 

 茶化す真姫に、俊平もまた笑って返す。

 

「でもあなたも曲を一緒に作ったじゃない? あながち無関係とは言い切れないけど?」

 

 それを言われては返す言葉もない。俊平は降参と言わんばかりに両手を上げた。

 

「ねえ…今日のライブ、どうなると思う?」

 

 まさかそんなことを訊いてくるとは思わなかった。俊平は思わず目をぱちぱちと二度瞬きした。ふむ、と考え込む。俊平としては二つの意味で考えていた。

 ファントムが襲ってきてライブを妨害する場合。何事もなくライブを開催できた場合。真姫は当然、ファントムのことについては何も知らない。ならば答えるのは後者についての場合だ。

 

「ほんの少しでも来てくれたら、問題ないと思うぜ?」

 

 俊平の回答に、真姫は意外そうな表情を見せた。どうやら満員だろうなんて言うと思われていたのだろう。

 

「意外ね…まさかそこまで冷めた見方をするとは思わなかったわ。」

「昔に馬鹿なことやってると、どうにも冷めた物言いになってな。」

 

 自分の予想通りに真姫に思われていた評価に、少し笑いたくなる。

 せめて三、四人。多くても十人来てくれたら高評価だろう。まだ生まれたてのスクールアイドルのファーストライブだ。満員を予想する方がよっぽど博打的だ。

 

「最初の内なんて、多い方が珍しいだろ。そこから段々実力も身につけていくのが普通だからな。」

 

 俊平の言葉に、真姫は「確かに、その通りね」と微笑んだ。真姫の珍しい表情を見た俊平は思わず「おお」と唸っていた。

 

「どうしたのよ…?」

 

 怪訝そうに訊く真姫に、俊平は照れ臭そうに頬を掻く。

 

「いや…笑った顔もいいなって思っただけだよ。」

 

 まさかこんな朝の時間から照れさせるような言葉を貰うとは思わなかった真姫は、思わず顔を赤くさせた。俊平はというと、目を逸らして口笛を吹いていた。

 

「なっ…何言ってるのよ!?」

「いやいや、別に他意はないからな!?」

 

 強引に話を纏めた俊平に真姫は納得できないのか、真姫は頬を膨らませてむうう、と唸った。これまた可愛い所を見せてくれると思った俊平だが、二度も同じ韻を踏んでなるものかと言葉を飲み込む。

 

「ああ、そうだ! これ、もらってけよ!」

 

 そう言って俊平は、真姫の机に一枚の紙を置く。それはμ’sのファーストライブの宣伝チラシだった。

 

「貰っていいの?」

「ああ、景気づけに二枚貰ってるからな。」

 

 そう言って、俊平はもう一枚の宣伝チラシを見せる。真姫は俊平を一瞥すると、差し出されたチラシをじっと眺め始めた。チラシに向ける眼差しに、どこか羨望が混ざったようなものになっていることに俊平は気付き、人知れず隠れて笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これにて、話を終わらせていただきます。各部活、体験入部を行なっておりますので、興味があればどんどん覗いてみてください。」

 

 いつの間にか時が経ち、今は新入生歓迎会が開かれていた。といってもまだ始まったばかりで、最初に講堂で理事長、生徒会長の絵里の順にスピーチが行われ、今しがたに絵里のスピーチが終わったところである。その後は各自自由に部活の体験入部を、十分間の休憩を入れた三十分ごとに行う予定だ。これは放課後でも行われる予定だが、放課後の講堂はどの部活も使わない為、μ’sのライブが開催できるという訳である。

 スピーチを終えた絵里は忽然とした態度で壇上から去り、希も絵里に続く。陽人はというと、欠伸をかみ殺していた。じっとしているのが苦手な性分の陽人には、絵里のスピーチをちゃんとした態度で聴くのは無理があった。その場でじっとしているくらいなら、そのままバク宙でもしていた方がマシなのが希月陽人という男だ。

 

「ハル君、寝ないでね…?」

「ああ、わぁってるよ。」

 

 小声で穂乃果が注意してくる。普段、授業中は寝ていることが多いくせにこういう時に限ってしっかりしている。陽人はぶっきらぼうに返した。

 本当に判っているのでしょうか…という海未の声が聞こえたが、気にしないことにした。周りを見ると、新入生の何人かは立ち上がってどの部活に体験入部をしようかと話し合っているようだ。

 

「よし、俺達も行くか。」

「うん、そうだね!」

 

 四人は立ち上がり講堂から出ると、チラシ配りのチラシを取りに行くために自分達の教室へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ配ろうか!」

「ええ!」

「うん!」

 

 穂乃果に頷く海未、ことりに陽人も続こうとした瞬間だった。

 

『二年一組、希月陽人君。至急、理事長室まで来てください。繰り返します、二年一組、希月陽人君…至急、理事長室まで来てください。』

 

 チャイム音が鳴り、理事長からの呼び出しを陽人はくらった。何か非行に走った記憶はない。陽人は思い返すが、ここでまさかの事態を考え付いた。

 

「お母さん、陽人くん呼び出すなんて何かあったのかな…? …陽人くん?」

「ん、おお…悪いな。一緒にチラシ配りが出来なくなっちまった。代わりに俊平寄越すから、お前らはそのまま配っていてくれ。」

「ですが…それは鹿野君に悪いのでは?」

「そんな事ないっすよ?」

「わひゃっ! か、鹿野君!?」

 

 申し訳が立たないように海未が言うが、どこからともなく現れた俊平に珍妙な悲鳴をあげて驚いた。

 

「それよかアニキ、早いとこ理事長室に行っちゃってくださいよ。こっちは俺に任せてください!」

 

 シッシッと追い払う仕草を取る俊平に、陽人はにやりと笑う。

 

「じゃあ、任せたぞ。そういう訳で穂乃果、俊平は思う存分こき使ってやってくれ!」

 

 そう言い残した陽人は軽く手を上げながら、理事長室の方向へ向かって走っていった。余りにも突飛な展開だったせいか、穂乃果は少し唖然とした表情で陽人を見送っていた。が、すぐに気を取り直してチラシ配りにそれぞれ取り掛かり始めた。

 

 

 

 

 

「失礼します。」

「来てくれたのね、希月君。」

 

 理事長室に入ると、朱鳥が神妙な面持ちで陽人を迎え入れた。理事長室にいるのは陽人と朱鳥の二人だけとなった・

 

「手間を取らせるようで悪いけど、神保署まで来るよう水乃刑事からメールが届いたわ。」

 

 わざわざ理事長室に呼び出したのだ。相応の理由があるとは思っていたが、いきなり警察署に行けという通達に、陽人は思わず口角を上げていた。

 どうやら、ようやく真実に辿り着いたようだ。反撃の態勢がやっと整える。

 

「わざわざ呼び出してごめんなさいね…。」

「いえ、気にすることないですよ。あの時戦ったファントムが俺の考えているような奴なら、既にバレているってことですから。」

 

 明るく努めるように、陽人は笑い飛ばす。そんな陽人を見た朱鳥は、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

「それじゃあ行ってきますので、よろしくお願いします。」

「ええ、うまく誤魔化しておくわ。」

 

 二人は会話を終える。陽人はブレザーのポケットから一つのウィザードリングを取り出し付けると、それをハンドオーサーにかざした。

 

【TELEPORT PLEASE.】

 

 陽人の頭上から白い魔法陣が現れ、陽人を覆っていった。覆い切った頃には、既に陽人の姿はなかった。

 

(頼んだわよ…陽人君。)

 

 これから起こるであろう最悪の未来を回避せんと動く希望の戦士に、朱鳥はただ祈りの言葉をかけるしかなかった。

 

 

 

 

 

 陽人がウィザードリング〔テレポート〕を使って移動した場所は、音ノ木坂学院の駐車場だ。普段、バイクで登下校している陽人は今回も、愛車を駆って来ていた。

 

「さてと、行きますか…。」

 

 マシンに乗った陽人はエンジンをつけ、目的地までバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神保署前には、既に水乃が待っていた。陽人に気付いた水乃は此方に向けて、手を振ってきた。

 

「水乃さん、わざわざ待っていてくれたんですか?」

「そりゃな。お前が知りたかった事だ。早いうちが良いだろう?」

 

 そう言って水乃は鞄から、クリアファイルを取り出す。陽人の視線はクリアファイルに移っていた。

 

「音ノ木坂学院の学校関係者且つ柔道部所属、もしくは経験者を絞り出すのは結構に苦労したぜ。」

 

 水乃はクリアファイルを陽人に渡す。受け取った陽人はファイルをぱらぱらと頁を捲った。

 

「確かに、過去十年分のOGや歴代の顧問の先生を調べ上げるのは、苦労したでしょうね。」

「それでも南の理事長様が過去の生徒の一覧を纏めてくれたのを引っぱりだしてくれたからまだスムーズに進んだ方さ。」

 

 確かにウィザードの正体を知っている朱鳥なら、全力で水乃達を支援しただろう。陽人は内心、朱鳥に感謝した。

 

「…ん?」

 

 二十頁ほど捲っていると、ふとある項目に目が留まった。陽人はその頁の項目をじっと見つめていた。

 

「どうした?」

 

 水乃が訊くが、陽人には聞こえていないのか、未だクリアファイルを開き見ていた。

 

「…水乃さん、今年度の音ノ木坂の柔道部って確か…。」

「部員は丁度五人、顧問は荒内夕菜先生…担当教科は数学だな。…もしかしていたのか?」

 

 問いかける水乃に、陽人はゆっくりと頷いた。

 陽人が長く見ていた頁に載っていた人物の顔に、彼は見覚えがあった。昨日、穂乃果達に話しかけてきた女生徒。彼女が柔道部に所属していて、かつファントムの正体であるならば。

 

「すいません、俺はもう戻ります!」

「俺達も行った方がいいか!?」

「学校内に入るとなると、混乱を招き兼ねないんで念のため、駐車場で待機していてください!!」

 

 数瞬悩んだが、最大限の譲歩としてはそれくらいが妥当だ。陽人は愛車の元まで走り、水乃もまた自身の乗る愛車まで駆け寄っていった。

 バイクに跨るとすぐさまエンジンをフルスロットルさせる。制限速度なんて気にしていられない。水乃も一緒に来てくれるなら大目に見てくれるだろう。

 前輪をウィリーさせ、一気にバイクを加速させる。水乃の乗車するアテンザも同じく加速させ、二台はあっという間に警察署の駐車場にはいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いしまーす! μ'sファーストライブ、午後四時からの開催です!」

「ぜひ見に来てください!」

 

 時間は遡り、陽人が穂乃果達と離れた頃になる。穂乃果達は懸命にチラシ配りを行なっていたものの、生徒の素通りが多く、いまいちな反応が多かった。俊平も陽人に変わってチラシ配りに尽力しているが、やはり手ごたえを感じるほど配れてはいなかった。

 

「やっほー、穂乃果!」

 

 その最中だった。穂乃果に声をかけた三人の女生徒がやってきた。声のする方を振り向くと、そこにいたのはヒデコ、フミコ、ミカの三人だった。

 

「ヒデコ、フミコ、ミカ! どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ、手伝いに来たの!」

「ライブは一緒に歌えないけど、準備を手伝うくらいなら出来るしね!」

 

 本当に、良い友を持ったと穂乃果はつくづく実感する。ことりと海未も長年共に歩んできた幼なじみではあるが、フミコ達とは違う“特別”なものがある。三人がそれぞれをどこか特別に見ているのに対し、彼女達は真っ新に話し合えるような関係だ。だからこそ、自分達からサポートすると言ってくれた三人には感謝してもしきれない。

 

「ほら、チラシ配りは私たちに任せて!」

「えっ…いいの?」

「リハーサルとかもあるでしょ?」

「穂乃果達にはうまくいってほしいって思ってるからさ!」

 

 そう言って、ミカは穂乃果からチラシの束を強引に奪い取る。

 

「ありがとう…! じゃあ穂乃果は先に控室に行って着替えて来るね!」

「楽しみにしてるよー!」

 

 穂乃果は控室へと向かい、海未とことりからもチラシの束をフミコは受け取った。フミコ達の厚意を快く受け取った二人も、穂乃果の後を追った。

 

「あれ、高坂先輩は…?」

 

 自分の持つチラシが残り一桁を切ったところで、俊平が、穂乃果達がいなくなった事に気付いた。思わず辺りを見回すが、ふと、フミコ達三人がじっと俊平を見つめている事に気が付くと、思わず後ずさりしていた。

 

「キミ、もしかして穂乃果達の手伝いするの?」

「は、はあ…高坂先輩のお友達ですか?」

 

 訝し気に俊平は訊くと、フミコ達は快活に頷いた。三人の反応を見た俊平は少しだけ安心したのか、ほっと息をついた。

 

「それじゃあ私は音響の調整に取り掛かるから、君はそれに付き合って。って言ってもすぐ終わるだろうから…。あ、フミコはステージでのポジショニング確認をお願い! 彼にはそれの確認してもらいましょっか!」 

「了解! 任せて!」

「ミカはそのままチラシ配りをしていてね!」

「分かった!じゃあ先に行ってるね!」

 

 あまりにもてきぱきと着実な指示を出すヒデコに、俊平は驚いた。唖然とする俊平にヒデコが気付くと、「ほら、シャキッとする!」と喝を入れてきた。ころころと転がるように変わる展開に俊平は頭を追いつかせるのに必死になっていた俊平は、言われるがままにヒデコの指示に従うしかなかった。

 そこから先はとんとん拍子だ。ヒデコの指示によってライブの準備はスムーズに行われた。ステージの立ち位置を標す目印、“バミり”や音響の調整等。バミりの確認は穂乃果達にも立ち会ってもらわなければいけなかったが、音響はというと、元々そういう知識を持っていたのか、俊平が手伝う事もなく準備は八割方終わっていた。

 これでは立つ瀬も無いな―――。そう思っていた俊平のブレザーの内ポケットから、振動を感じた。携帯を取り出し起動させる。振動の正体は、陽人からの着信だった。

 

「はい、もしもし?」

「俊平か、今どこにいる?」

 

 電話に出ると、陽人の声が聞こえた。出た途端に妙なことを聞くものだから少しだけ訝しげになったが、気にすることでもないだろうと思い答える事にした。

 

「今は講堂で準備してるっすけど…?」

「そうか…俊平、頼みがある。」

 

 真剣な声色を発する陽人の雰囲気が鬼気迫るものであると、俊平は電話越しに感じ取った。

 

「生徒会長を探してほしいんだ。俺と水乃さんは少し足止めを喰らっちまったから、そっちに着くには時間がかかるんでな。」

 

 足止めを喰らっている―――。まさかファントムが現れたのか、はたまたグールが幾重にもやってきて陽人の進行を阻止しているのか―――。

 

「どういうことっすか、まさかファントムが!?」

「ファントムに比べればまだ可愛いもんだ。」

 

 つまり直接ファントムが襲撃してきたわけではないという事か。安堵した俊平だが、次に発した陽人の言葉が、自身の安堵を払拭させてしまう。

 

「車三台分か…それくらいの幅の地割れが俺の目の前にある。最早地割れなんてもんじゃないなこりゃ。」

 

 そう言った陽人の調子はいつも通りを装っていたが、俊平にはわかる。内心、陽人は焦っているに違いない。こんな所で足止めなど食っていられるか。電話越しに彼の想いがひしひしと伝わってくる。

 

「まあ車三台分なら、俺もバイクで飛び越えられなくはないかもしれんが…。」

「えっ…色々と大丈夫なんすか?」

 

 俊平が口にした不安は、陽人の今の姿にある。彼は音ノ木坂学院の制服を着た状態で此方に戻っている最中だ。派手に目立つような行動を起こせば、他の音ノ木坂学院の学生もある意味巻き込まれかねない。

 

「大丈夫だよ。細工は流々、仕上げを御覧じろって言うだろ?」

 

 その言葉を聴いて、俊平はほっとした。そういえば、陽人のウィザードリングにはあの種類もあった。それを使えば、音ノ木坂学院の学生であることがバレる事はない。

 

「そうだ、俊平。改めて頼みたいんだけど?」

「はい、なんすか?」

「絢瀬絵里さんを見つけたら保護してきて欲しいんだ。」

 

 どういう事だ。何故生徒会長の名前がここで出てくるのだろうか。思い浮かんだ疑問は、ふと横に目を向けることで全てに合点がいった。

 

「…なるほど、そういう事っすか。」

 

 一人納得した俊平に、陽人は「そういう事だ」と首肯する。

 

「見つけたら、校門前で待っててくれよ。」

「了解っす! こっちはライブの準備も大分終わってるんで、速攻で見つけるっすよ!」

「ああ、任せたぜ!」

 

 そう言い残して、陽人は電話を切る。電話を終えた俊平は携帯の画面を見て、ふう、と一息吐く。これは気を引き締めていかなければならない。

 

「ヒデコ先輩、すいませんけど、ちょっと抜けますね。」

「え、ええ…構わないよ? もう準備も殆ど終わってきているし…。」

 

 許可を得た俊平は早速講堂から出て、思案することにした。まずは絢瀬絵里を見つけなければならない。となると、彼女との連絡手段を持たない今の状況では、闇雲に探すのでは無理が生じる。

 

(となると、東條先輩に頼んでかけてもらうしかないか…。)

 

 そこまで考えた矢先、俊平は重大なことに気付いた。

 

(あれ? …そういえば俺って東條先輩の電話番号知ってたっけ?)

 

 ぞくりと悪寒を感じながら、俊平は携帯の電話帳を開く。ゆっくりと、慌てずにスライドさせる。スライドさせ終えた俊平は、ますます顔を青くさせた。

 

「な、ない…。やっぱり闇雲に探すしか…。」

「あれ、どうしたん? こんな所で落ち込んで…。」

 

 もう駄目か―――。そう思った時に聞こえた声に、俊平は覚えがあった。顔を上げてみると、彼の目には探していた人物。即ち、東條希がいたのだ。

 

「おお…! 副会長さん!! 丁度いいところに!!」

 

 まさに奇跡の様だ。俊平は感動せずにはいられず、思わず希の両手を握っていた。

 

「お、大袈裟やん…。ところで、ウチになんか用でもあるん?」

 

 希に問われ、「おっとと、そうだった」と気を取り直した俊平はひとつ咳払いをする。

 

「ちょっと、頼みがあるんですけど…。」

 

 

 

 

 

「さてと…。それじゃあ行って来ますね。」

 

 フルフェイスのヘルメットを被った陽人はバイザーを上げて、水乃に言い残す。水乃はというと、悔しげな表情を見せて陽人を見つめていた。

 

「まさかここで俺が立ち止まるとはなぁ…。準備は抜かりないのか?」

「ええ…多少の対策は学院に着いてからでも立てられますよ。尤も…彼女の身を確保できなければ意味はないですけどね?」

 

 苦笑いで終える陽人の台詞に、水乃は却って不安が大きくなった。自分の計画のためならば、ターゲットに関係ない人物を殺し、その者に成り済ますことさえ厭わない。それがファントムだ。もしかしたらこの時点で既に件の人物、絢瀬絵里が殺害されている可能性だってあるのだ。

 

「不安そうな顔をしてますけど、多分水乃さんが考えているような事態にはならないと思いますよ。」

 

 水乃の胸中を見抜いたのか、陽人が言葉をかける。自身の胸の内を当てられた水乃驚いた。何故最悪の事態にならないと陽人が断言したのか、こんな余裕のない状況なのに気になってしまった。

 

「どういうことだ? 何故そう断言できる?」

「この件が解決したら教えますよ。あ、今度何か奢ってくださいね?」

 

 不敵に笑うと、陽人はさっさとバイザーを下ろして愛車と共に横道に移動した。距離を取って一気に加速させるためである。

 今の彼の姿は、音ノ木坂学院の学生服ではない。

 

「あっさりと次の約束取り付けやがる…。」

 

 それは、自分が生きて帰って来るという自信の表れでもあった。

 そうしなければ、希月陽人を保てないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコンと、ドアをノックする。ドア越しから聴こえる数人の女性のはしゃぎ声は鳴らしたノックによって途切れ、ドアに近づいて来る足音が代わりに聞こえた。

 

「俊平っす。入っても大丈夫っすか?」

「あ、俊平君? いいよいいよー! 私達ももう着替え終わってるからね!」

 

 穂乃果の返事に俊平は「んじゃ、失礼します」と言いながら更衣室に入る。ドアを開ける最中、海未の慌てるような声が聞こえたが気のせいだろう。そのまま入ることにした。

 

「じゃーん、どう、どう?」

 

 くるりとターンをしながら、その場でポーズを決めてみせる穂乃果。衣装はワンピースをベースにしたもので、穂乃果はピンク色の、ことりは薄い緑色の生地を使用したものを着ていた。

 

「お二人とも、なかなか似合ってるっすね!」

 

 俊平から良い評価を得られたことで、穂乃果とことりは照れ臭そうに微笑む。そこで気付く。そういえば、海未がいない。俊平は二人の後ろをキョロキョロと見、一つ、カーテンが閉まっている箇所を見つけた。入る時に海未の慌てるような声が聞こえたが、もしかしたら恥ずかしがっているのかもしれない。

 

「園田先輩ってもしかして…。」

 

 そこまで俊平が言いかけたところで、穂乃果とことりは背後のカーテンが閉まっている箇所に視線を向ける。

 

「もう、海未ちゃんてば…。いつまで恥ずかしがってるの?」

「だ、駄目です…! こ、こんなの恥ずかしすぎます!!」

 

 未だに羞恥心を捨てきれず、隅に閉じこもる海未に、俊平は思わず顔を引き攣らせた。

 

「相当恥ずかしがり屋なんすね…園田先輩って。」

「あ、あはは…。」

 

引っ張りだそうとする穂乃果と、それに堪える海未に呆れる俊平にことりは苦笑いをするしかなかった。やがて堪え切れなくなった海未が出て、彼女が着ているライブ衣装は漸く俊平の目に収められることになった。

 

「園田先輩も似合ってるじゃないですか。恥ずかしがることないのに…。」

「う、うう…。」

 

 俊平が褒めても、海未の照れ臭さを通り越した恥ずかしげな表情は変わる事はなかった。

 

「海未ちゃん、三人でこうやって並んじゃえばさ…恥ずかしくないでしょ?」

 

 穂乃果が海未の右隣に立ち、ことりも続いて穂乃果の隣に立つ。穂乃果は二人の手を握っていた。

 

「…そうですね。確かにこうしていると…。」

 

 ほんの少しだけ、恥じらいが無くなったのか海未の声色が安定してきた。こうして手を繋ぎ合っている三人を見ていると、アイドルらしさは増々大きくなっている気がした。

 

「よし、じゃあ最後に位置取りと通しの確認しよっか!」

 

 奮起の色を見せる穂乃果の声に、ことりと海未も頷く。どうやら、海未の緊張もほぐれたようだ。俊平は安心して笑みを浮かべた。

 

「ああ、そうだ! アニキから伝言を預かってたんでした!」

 

 さも今思い出したかのように、俊平は更衣室に来た理由を口に出す。正確には、三人の和やかな雰囲気に包まれて、言いにくかっただけだが。

 

「えっ、ハル君から?」

 

 即座に穂乃果が反応する。

 

「ええ、一字一句逃さず聞いてきたんで、よくその身に焼き付けてくださいね?」

 

 少々大袈裟な言い回しだっただろうか。俊平は恥ずかしさを紛らわせるように、オホンとひとつ咳払いをして、陽人からの伝言を告げる。

 

「『自分を信じろ』。」

 

 たった六文字。あまりにも簡素過ぎる陽人の伝言に、数秒程の沈黙が更衣室に流れる。

 

「えっと…それだけですか?」

「あっ、後は『スマン、野暮用があってライブにはギリギリ間に合うかわからない』とも言ってたっす。」

 

 陽人の二つ目の伝言に、穂乃果達は少なからず落胆の色を見せる。一応これで陽人からの伝言は、全て伝えたが正直、俊平にとって伝言は最初の一言だけで良いのではないかと思っていた。

 しかし陽人曰く、「全部伝えなきゃ後が怖い」と言うのだ。

 

「ねえ、俊平君?」

「はい?」

 

 突然穂乃果に呼ばれた俊平は、思わず気の抜けた返事をしてしまう。穂乃果が見せる表情は笑顔だったが、気のせいかどこか迫力があるように思えた。

 

「ハル君の伝言は、これでおしまいだよね?」

 

 いつも見せる天真爛漫な雰囲気は何処に行ったかと言わんばかりの凄みで、穂乃果は俊平に訊く。普段とは違う穂乃果の雰囲気に圧倒されながらも、俊平は首を縦に振る。

 

「全部伝えなきゃ、後が怖いって言ってたんで…。」

「ふぅん…ならいっか!」

 

 そう言うと穂乃果はあっけらかんと凄みを失くし、笑顔に戻る。穂乃果の背後にいた海未とことりを見ると、視線を逸らしながら苦い表情を浮かべている。二人の気まずそうな顔を見て、俊平は陽人の言葉の意味を何となく察した。

 

「…と、俺も時間がないんでここらでお暇しますね! まだ色々と準備も控えてるんで!」

「あ、うん! ありがとねー!」

「ありがとうございます。ライブの感想、お願いしますね?」

「じゃあまたね、俊平君!」

 

 ライブまでの時間がないとはいえ、観客を呼び寄せなければならない。だが闇雲にチラシ配りをしているだけでは客は入らないだろう。だから俊平の目当ては、自分と同じクラスにいる一人の同級生に絞っている。

 

(アイツさえ連れてくれば…!)

 

 ファントムに対して一筋の光を照らすことができるかもしれない。

 敵の計画を潰す鍵を握るクラスメイトの顔を浮かべながら。

 

 

 

 




次回、Love live is SHOWTIME!!


「μ'sのファーストライブ…最高のライブにしよう!」

「誰かたぁすけてぇーーーーー!!」

「これ以上続けていても、意味があるように思えないけど?」

「変身。」


さあ、ショータイムだ!
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