Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

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多分今年より来年は投稿ペースが上がる可能性がワンチャン。
まあ楽しみにしてくれる閲覧者がそもそもいればの話ですが!

それでは、12話です。どうぞー。


RING.12:その正体

 きょろきょろと、周囲に誰もいないことを確認し、辺りを見回す。そっと自分のロッカーを開けて、そこにしまってある一枚の紙を取り出し眺める。

 その紙に書かれているのは、音ノ木坂学院に生まれたスクールアイドル“μ's”のファーストライブを開催するという内容のチラシだ。

 チラシを見て、微笑む。自分はアイドルが大好きだ。ただのアイドルだけじゃなく、高校生達の間でブームになっているスクールアイドルも、範疇に収まる。

 それに、母校でスクールアイドルが誕生して、ライブをするなど、見逃すはずも無い。そろそろ時間になると思い、チラシをブレザーのポケットにしまってロッカーを閉じようとした時だった。

 

「しゃー!」

「ひぃっ…!」

 

 幼なじみの悪戯に驚いた女子生徒は、思わず尻餅をついてしまうほど驚いた。

 

「いったずらせいこーう! 相変わらずかよちんは驚き過ぎだにゃ~!」

「もう、凛ちゃんってば…!」

 

 “かよちん”と呼ばれた女子生徒、小泉花陽が自分を驚かせた相手、星空凛に呆れる。

陽人や穂乃果達が幼なじみの関係であったのに対し、この二人もまた、幼なじみという関係だった。故に、このような凛の悪戯は日常茶飯事とも言えるほどによく行われており、これくらいで喧嘩になるような関係をおよそ十年間、伊達に築いていない。

 

「ねえねえ、一緒に陸上部に見に行こうよ!」

「ええっ、陸上部!? う、うう…いや、そのぉ…。」

「かよちん少しは運動したいって言ってたじゃん! 早く行くにゃー!」

 

 そう言って凛は花陽の左手を掴み、引っ張っていく。

 昔から気弱な性格の花陽は、凛に引っ張ってもらうことが多かった。

 しかし、今回ばかりは何とも悪いタイミングになってしまったことに花陽は内心、後悔する。せっかく、彼女達の。μ'sのファーストライブに行くと言った手前、それが叶わなくなりそうな状況に陥ったことになってしまう。

 

「だ…だ…誰かたぁすけてぇーーーーー!!」

 

 今の自分の心境を一言でまとめた嘆きを聴く者はおらず、花陽はそのまま凛に引っ張られて行ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで飛ばした甲斐があったものだ。音ノ木坂学院の駐車場に着いた陽人は左手首に付けた腕時計の時刻を確認しながら思う。

 現在の時間は、午後三時五一分。あと九分でステージの緞帳が広がり、ライブが始まる。

 

「さてと…。生徒会長はいますかねぇっと!」

 

 物をしまう時間さえも惜しいが、とりあえずヘルメットだけはシートの下にしまってから、陽人は校門前まで大急ぎで走っていった。

 

「絢瀬先輩!!」

「き、希月君?」

 

 校門前で佇む絢瀬絵里を見つけると、すぐさま声をかけた。絵里はまさか陽人に呼ばれると思っていなかったのか、少しだけ上擦ったような反応になった。

 

「えっと…これ、どうぞ!」

 

 そう言って、陽人はある物を絵里の手に置く。それは絵里にとって好きな食べ物だった。

 

「…なんで、私にいきなりチョコを?」

 

 陽人が渡したのは、チョコレートだった。無論、絵里からすればそれなりに嬉しいものではある。なんせ、好物を渡されたのだから。しかし多少の面識はあっても、贈り物をするほどの仲ではない。絵里の頭の中には疑問でいっぱいだった。

 

「まあとにかく、食べてみてください。」

「え、ええ…。」

 

 陽人に急かされて、仕方なく食べようと包装紙を開けようとした時だった。絵里は何か、違和感を覚えた。その違和感は、すぐに解った。

 

「ちょっと、これ…本物に見せかけたストラップじゃない!?」

 

 陽人が渡したのは、本物に見せかけたチョコレート型のストラップだった。音ノ木坂学院に戻る道中、絵里の好物がチョコレートだという事を知った陽人が急いで買ってきた物なのだ。

 まんまと一杯食わされた絵里の反応に、陽人はにやりと笑みを浮かべた。

 

「ところで、絢瀬先輩。」

「はあ…今度は何かしら?」

「アイツらのライブ…どれだけ客が入るのか確認しません?」

 

 少しだけ悪い笑みを浮かべながら提案する陽人に、絵里は思案する。

 確かに、ライブに興味もない素振りを見せた状態で終わらせておくには勿体ない。なにより、陽人がわざわざ提案するという事は、余程の自信があるのか、それとも自分の読み通りに客の入りが少ないのか。

 

「いいわ…。貴方の案に乗ってあげる。」

 

 確かめてみる価値はありそうだ―――。

 絵里は、陽人の長髪ともいえる提案に、乗ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スクールアイドル、μ'sファーストライブ、間もなくでーす! ご覧になられる方は、お急ぎくださーい!」

 

 フミコのアナウンスが講堂に響き渡る。この報せが、ファーストライブが刻一刻と迫ってきているということを穂乃果は実感した。

 

「いよいよだね…!」

「うん…!」

 

 大きく、ことりは頷く。海未も同じく頷くが、未だに緊張感は抜け切れず、ガチガチに固まっていた。

 

「大丈夫!私たちがついてるから!」

 

 そんな海未の様子を察したのか、穂乃果は緊張をほぐそうと両隣の二人の手を繋ぐ。

 

「穂乃果…。」

 

 不思議なものだと海未は思う。穂乃果がこうしてくれているだけで、緊張が自然と緩やかながら解けていくような感覚になっていた。

 

「でも、こういう時、なんて言えばいいのかな?」

 

 ふと、ライブ前の音頭を決めていなかったことを思い出したことりが、疑問を発する。

 

「μ's、ファイっ、オー!」

「それでは、運動部みたいですよ…?」

 

 一瞬だけ間を置いた穂乃果が、咄嗟の出来映えとも言える音頭を取ったものの、海未のツッコミに「だよね…」と力なく笑った。穂乃果自身、あれはないなと思っていた。

 

「あ、思い出した! 番号を言うんだよ、皆で!」

「それ、面白そう!」

 

 ぽんと思い付いたような案を思い出す穂乃果に、ことりも賛成する。海未も言葉は発していないものの頷き、賛成の意を示した。

 

「よーし、じゃあいくよ…1!」

「2!」

「3!」

 

穂乃果、ことり、海未の順に番号を言い終え、やがて三人の間に笑い声がくすくすと溢れる。それは徐々に大きくなっていった。

 

「μ'sのファーストライブ…最高のライブにしよう!」

「うん!」

「勿論です!」

 

 穂乃果の意気込みに、両隣の二人も同意する。

 直後、ブー、とブザーが鳴り響き、緞帳が緩やかに開き始める。穂乃果は目を閉じ、思い浮かべる。陽人の言う通り、茨の道を証明するほどの結果になるかもしれない。それは重々承知している。だが、どんなに人が少なくても来てくれた人にとっては心に残るライブにしたい。

 そう、考えていた―――。

 

 

 

 

 

 緞帳が開き切り、穂乃果は目を開けた。

 誰も待っていなかった。誰もいなかった。ライブに期待してくれる人は、誰もいなかったのだ。

 あんなに練習したのに。

 あんなに努力したというのに。

 誰も、自分達の成果を示すこのファーストライブを見に来てくれる観客は、誰もいなかった。

 

「ゴメンね…頑張ったんだけど…。」

 

 悔し気に、フミコは言う。

 幾らフミコ達がμ'sの宣伝をしても誰もチラシを取ってくれなかったという。まるでこれが運命であるかのように。

 

「穂乃果ちゃん…。」

「穂乃果…。」

 

 残酷な結果に堪らずことりと海未は隣にいる穂乃果を見やる。穂乃果の顔は俯いていて、表情が図り知れなかった。

 

「そりゃそうだ…! 世の中、そんなに甘くない!」

 

 顔を上げて明るく振る舞う穂乃果だったが、誰が見ても分かる。今の彼女は無理をしているということを。講堂に居た堪れない雰囲気が流れつつある状況の中、一人の足音が響き始めていた。

 

「無様なものね。」

 

 現れたのは、絢瀬絵里だった。その表情は他人を嘲笑うかの如く、まるで生徒の模範として律する生徒会長の顔とは思えないものになっていた。

 

「生徒会長…?」

「散々努力したけど、結局誰も観に来てくれず…。所詮スクールアイドルに興味を持ってくれる人なんてこの学校にはいなかったのよ。」

「なっ…!?」

 

 今まで自分達のスクールアイドルの活動に反対の意を見せてきていた絵里だったが、まさかここまで罵倒するとは思っていなかった。講堂にいる全員は、絵里の言動に驚愕した。

 

「…誰ですか?」

 

 否、一人だけ違う反応を見せていた。穂乃果だ。穂乃果の問いに、視線は彼女に集まる。

 絵里以外の講堂にいる誰もが、穂乃果の発した問いに戸惑いの表情を隠せずにいた。

 

「誰って…、見てわからないのかしら? 音ノ木坂学院生徒会長、絢瀬絵里に見えないの? 貴方は?」

 

 さも当たり前のように答える絵里だったが、穂乃果は感じ取っていた。今、目の前にいる絢瀬絵里は絢瀬絵里ではないと――。

 

「いい加減、正体を現したらどうだ?」

 

 ふと、どこからともなく男の声が聞こえた。この声は穂乃果達にとっては聴き慣れたものだった。

 

「ハル君…。」

 

 声の主、希月陽人がステージに覗き込むように現れた。悠然とステージの上を歩き、陽人はそのまま飛び降りた。飛び降りるといっても、高低差は150センチ程度。一般の男子でも、飛び降りるだけなら多少の度胸を持てば余裕の高さだ。

 

「何故だ…! 何故お前がここにいる!?」

 

 絵里にしては違いすぎる口調を曝け出しながら、彼女は狼狽える。まるでここに陽人が来ないはずと思っていたかのような態度に、陽人は口角を上げて不敵な態度をとる。

 

「結界を張るならさ、ドアだけじゃなくて壁一面に張った方が良かったんじゃないか?」

 

 そう言って、陽人は右手の甲を見せた。正確には、右手の中指に付けられた指輪を陽人は見せたのだ。それを見た絵里は俯き、くっくっと笑い始めた。

 

「成程…“すり抜け”を使ったという訳か…。」

「御明察♪ まあ、仮に壁にも結界を張っていたとしても、何が何でもここに来たけどな。」

 

 二人にしかわからない会話の応酬に、穂乃果はもちろん、海未やことり、ヒデコとフミコとミカさえも状況が把握できずにいた。

 

「全く…。」

 

 絵里はそう呟くと右掌を前に突き出し、そこから光球を陽人に向けて放った。あまりにも突然の事態に、穂乃果達は声を発することも出来なかった。

 

「最初からこうしておけば、プランは誰の邪魔もなく終わったのになぁ…。」

 

 絵里の言葉に、講堂にいる者はぶるりと震えが一気にやってくる感覚にとらわれた。まさか穂乃果の言う通り、本当に彼女が絢瀬絵里とは違うというのか――?

 そうだ、と陽人を見る。今、彼に向けて光の球が発射されたような気がする。あれを喰らったら無事ではいられないのでは。心配になって陽人の方に視線が集まるが、彼はというとけろりと表情を変えることなくその場に立っていた。

 立っていた、というには語弊があるかもしれない。より正確な表現をするならば、彼もまた右手を突き出し、魔法陣を具現化させて光球を防いでいた。

 二人の起こした一連の現象に、穂乃果達は混乱してただ見ているしかできなかった。

 そんな中で、陽人は沈黙を破るように声を発した。

 

「あの時に撤退を決め込んだ時点で、この展開になるのは予測できたはずだぜ? なあ…音ノ木坂学院柔道部員三年、新川(しんかわ)恵久美(めぐみ)さん?」

 

 絵里の姿とは全く別の生徒の名前を呼んだ陽人に、絵里以外の一同は「え?」と思わず声を出していた。

 絵里の姿をした女性は鼻で笑うと、徐々に自身の体を黒煙に纏わせ、変えていった。そうして現れた彼女の本当の姿に、ステージに立っていた三人は驚きを隠せなかった。何故なら彼女の本当の姿に、見覚えがあったからだ。

 

「あ…あなたはこの前の!?」

 

 穂乃果の驚きの声と共に見せた新川恵久美の本当の姿。それは以前にμ'sのライブを見に行くと言っていた三年生の二人組の内の一人だったからだ。変化を終えた恵久美は「ふう」と一息ついた。

 正体を完全に晒した恵久美を見上げ、陽人は語り始める。

 

「アンタのターゲットは高坂穂乃果だ。穂乃果が狙われたのは直接的には二度目。間接的なパターンも含めれば三度目になる。」

 

 どういう事なのか問いかける者は誰もいない。皆、陽人の言葉の続きを待っているかのようだった。

 

「その間接的なパターンとは、海未とことりが灰色の鬼(グール)に襲われた事件だ。」

 

 それを聞いた穂乃果達は驚いた。何故海未とことりの二人が襲われることが間接的に穂乃果を襲うことになるのか。最も、穂乃果自身は別の意味で驚いていた。これまで一度も、海未とことりが襲われていたということを知らなかったからだ。

 

「二人とも…そうだったの!?」

「え、ええ…。鹿野君が穂乃果に迷惑をかけないようにとのことで…。」

「穂乃果ちゃんが知ったら余計に心配をかけさせるだろうからって…。」

 

 事情を知らなかった穂乃果は両隣の二人に訊き、海未とことりは頷き理由も明かす。

 

「長年共に過ごしてきた幼なじみの三人だ。その二人が襲撃されて死亡なんてコトになったら、穂乃果は絶望するのは訳ない。だからこそ俊平は護衛を買って出た。」

 

 幸いにも、海未とことりを襲いかかってきたのはグールだけだった。だからこそ、俊平はウィザードと共に対処できた。

 

「海未達の襲撃も失敗したアンタは機を待つことにした。そして知った…μ'sのファーストライブの情報を。」

 

 努力をする人に一番残酷な結果を突きつけることは、何も変わらない・結果が実らないという証明になる。恵久美はそこを狙ったのだ。

 

「開幕されて現実を知り、そこを煽ればあとはファントム化を待つ…さっきアンタが言ったように、予め俺を殺しておけば計画はスムーズに進んだかもしれないな?」

 

 まあ、俺を殺す余力があればの話だけどな――。

 そう言って陽人はブレザーのボタンを外し、右手の中指に付けていたリングを変え、ベルトのバックルに添えた。

 

【DRIVER ON PLEASE.】

 

流暢な英語音声が鳴り響いたかと思えば、陽人のベルトは本来の形のウィザードライバーに変化した。そして左手には〔フレイムスタイル〕リングを装着し、フレイムスタイルそっくりの形状にギミックを加え、言い放つ。

 

「変身」

【FLAME PLEASE. Hea…hea…HEA,HEA,HEA!!】

 

 左手を横にかざし、そこから魔法陣が具現化される。魔法陣は陽人の身体をすり抜け、同時に彼を魔法使いへと変身させた。

 

「ハル君…。」

 

 ぽつりと、穂乃果は陽人を呼ぶ。仮面ライダーウィザードに変身した陽人は何も答えずに、ただ眼前の恵久美を見ていた。

 恵久美も自身の身体に変化を促す。その変化は、自分の顔を蜥蜴のように徐々に変えさせる何とも醜いものであった。周囲から、「うぷっ」と吐き気を催したような声が度々聞こえてくる。

 そこに立っていたのは、新川恵久美ではなかった。ファントム・ファフニールが、ウィザードを見下ろしていた。

 

「ようやっと正体を現したな。」

「フン…お互い変身したはいいが、まさかここで倒す気か?」

 

 周囲を見渡し、ファフニールは煽るように問う。講堂でウィザードとファフニールが戦えば、被害が及ぶのは必至だ。

 当然、ウィザードは講堂で戦うつもりなど毛頭ない。

 

「焦らさんな。招かれざる客はさっさと出ていくとしようぜ?」

 

 そう言ってウィザードは右手をパチンと鳴らす。瞬間、閉じていた講堂の扉は勢いよく音を立てて全開された。

 

「な…っ!?」

 

 何時の間に結界を解除したのか―――。ファフニールの表情に焦りが一気に見えた。

隙を見せた。ウィザードはこの瞬間を好機と捉え、一気に懐まで接近した。ファフニールは接近に気付くが、タイミングが遅すぎた。既にウィザードは密着しそうな程に迫っていた。

 

「はあっ!」

 

 接近したウィザードは脳天に踵落としを叩き込む。ファフニールは頭に衝撃を喰らったせいか、身体をふらつかせていた。やはりファントムといえども、頭に重い一撃を貰ったとなれば、後まで続くダメージなのは間違いない。更なる隙を生んだ瞬間をウィザードは見逃さなかった。

 

【TELEPORT PLEASE.】

「穂乃果! 海未! ことり!」

 

 魔法を発動したと同時に、ウィザードは三人に呼び掛ける。返事をする間もなく、ウィザードは言葉を続ける。

 

「そろそろ観客が来る頃だろうから、気を引き締めてけよ!!」

 

 宣言するかの如くウィザードは言い残すと、ファフニールを巻き込んで講堂からいなくなっていた。

 テレポート。空間移動を意味する魔法を使い、ウィザードとファフニールはどこか別の空間へ移動したのだ。

 彼等が何処に行ったのか探そうと一瞬、穂乃果は考えた。だが、講堂から消える直前に言い残した言葉が頭から離れなかった。

 その言葉の真意を、すぐに理解することになった。

 

「はぁ…はぁ…! あ、あれ!? ライブは…?」

 

 どたどたと慌てるかのように一人の女子生徒がやってきた。女子生徒の顔には見覚えがある。一年生の小泉花陽だ。続いて、もう一人男子生徒がばたばたと走りながら講堂に入ってきた。

 

「先輩方! まだライブやってないんすか!? とっとと始めちゃいましょう!!」

 

 鹿野俊平が、息を荒げながら訊く。そうだ。一人でもこのライブが始まるのを待ってくれる人がいるのなら。それに応えないわけにはいかない。

 

「…やろう!」

 

 開催を、宣言する。

 

「歌おう! 全力で!!」

 

―――だって、そのために今日まで頑張ってきたんだから!!

 

 徐々に穂乃果の瞳は、いつもの明るさに満ちたものとなっていく。

 

「うん! やろう!」

「やりましょう! ここで無駄にしたくありません!!」

 

 ことりが同意し、海未もことりに倣う。直後、ステージのライトは消え、三人はそれぞれの所定位置につく。

 数秒と経たない内に、音楽が流れ始めた。

 流れるのは、μ'sの始まりの曲。

 

 

 

 

―――“START:DASH!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィザードがファフニールを巻き込んでテレポートで移動した先は、空だった。

 重力に逆らうことの出来ない空間にテレポートされたファフニールは焦った。

 何とかして自身に優位が立つように行動せねば――。

 

【WATER PLEASE.  Swi ~ swi ~ swi ~ Swi~.】

【LIQUID PLEASE.】

 

 後手の状況から逃れようとするファフニールを、みすみす放っておくわけがない。ウィザードは左手に付けていた〔フレイムスタイル〕リングを〔ウォータースタイル〕リングに付け替え、名を示す通り、水の属性を持つウォータースタイルに変化した。

 と、同時に、右手に〔リキッド〕リングを付けてハンドオーサーにかざす。直後、ウィザードの身体は液状化された。

 

「逃がす訳ないだろ!」

 

 ウィザードの声と共に彼の身体は、液状化から元の状態に戻る。ただし、ウィザードはファフニールにパイルドライバーを仕掛ける形で液状化から解除していた。

 

「がは…っ!?」

 

 杭を打つかの如く、頭に衝撃を喰らったファフニールはダメージを受けた部分を抑えて、悶えていた。

 対して、ウィザードは数メートル離れて向かい合うように直立するだけ。魔法使いは、ファントムに警戒心を緩めない。それはファントムという種族が、人間の常識で測れる力の範囲を超えているからだ。

 

「全く…柔道に対してプロレス技を仕掛けるなんて…。」

 

 起き上がったファフニールは首をコキコキと鳴らし、周囲を見回す。するとフフ、とどこか艶っぽさを混ぜたような、挑発的な笑みを見せた。

 

「貴様も結局…人間の子だということか?」

 

 問いかけるファフニールに、ウィザードは何も答えない。否定をするつもりもないし、肯定の意思を見せるつもりもなかった。

 ウィザードがファフニールを連れてテレポートした先は、音ノ木坂学院校舎の屋上だった。この時間に屋上に上がる生徒や教師は、誰一人としていない。戦いの場所としては最適ともいえるが、同時にある懸念も抱く。

 何故態々こんな場所にテレポートしたということだ。

 

「戦いを早く終わらせて、ゲート共の元へ戻るためにこの場所に移ったという訳だろうが…。そう簡単に終わると思うなよ?」

「何?」

 

 意味深な物言いをするファフニールにどういうことかと口を開こうとした、その時だった――。

 

「うっ!?」

 

 ウィザードの左の太腿に、激痛が走る。

 まるで巨大な針で刺されたようなこの感覚――。痛みを覚える左足を見てみると、羽根が左太腿に、横に深く刺さっているのが分かった。

 

「この羽根…そういうことかよ。」

 

 羽根の形状に見覚えのあったウィザードは、顔を左に向ける。屋上の柵の向こう側には、カラスのファントムが翼を羽ばたかせてウィザードを睨み付けていた。

 見覚えがある。以前、対峙したファントムと同じ。カミオに違いない。

 

「全くよ…つくづく詰めが甘いったらありゃしないな。」

 

 自嘲するようにウィザードは呟く。形勢は平行線から、一気にファントムに傾き始めた。

だからと言って、このまま悪い意味で終わらせるわけにはいかない。自分が負けてしまえば、現実には容赦なく絶望が人々に襲いかかり、暗く闇に満ちた世界に呑み込まれてしまう。

 

「自分が犯したミスだ、キッチリ落とし前はつけなくちゃな!」

 

 そう言ってウィザードは左脚に刺さった羽根を抜き、ウィザーソードガン・ソードモードを右手に持ち、構えをとる。

 それを見た二体のファントムはウィザードに向かってくる。たかだか一対一から二対一に変わっただけでウィザードが戦う意志をなくすとは思っていない。そうであれば、とうの昔に逃げ出しているはずだ。

 

「さあ…ショータイムと行こうぜ。」

「むぅん!」

 

 魔法使い(ウィザード)の開幕宣言に。柵を越えたカミオが、空中から羽根を掃射する。ウィザードは後ろに飛び、序でと言わんばかりにウィザーソードガンをガンモードに変形させて五発程撃って、掃射された羽根の数本を相殺させた。

 

「はあっ!」

「ちっ!」

 

 カミオに気を取られた隙を利用して、ファフニールがウィザードに接近してくる。気付いた時には数歩分という所まで迫られていたウィザードは、咄嗟に武器を剣状態に変化させて大きく薙ぎ払う。

 しかし、焦りが生んだ攻撃だったせいか。ファフニールはそれをスウェーバックでかわし、その勢いを利用したサマーソルトキックをウィザードに浴びせた。

 

「があっ…!」

 

 蹴り上げられたウィザードは空中で受け身を取るも、風を切る音とともに、ウィザードの横腹に吐きたくなるほどの痛みが走る。カミオが飛行能力を利用した飛び蹴りを放ったのだ。

 ウィザードは地面にもんどりうって倒れるが、痛みを抑えながらも何とか立ち上がる。

 空中からはカミオが攻撃を仕掛け、地上ではファフニールがカミオに気を取られた隙を利用して接近戦へ持ち込む。

 天晴れと言える見事なコンビネーションによって生み出された自分の劣勢ぶりに、内心嘆く。

 

「とはいえ、ここで止まる訳には行かないってことで…。」

 

 幸いというべきか。ファントムは自分達が優位に立っているおかげでゆっくりとこちらに向かって歩みを進めている。

 

「二対一なら、こっちの方が良さそうかな…。」

【HURRICANE PLEASE. Foo foo! foo Foo FOO FOO!!】

 

 ハリケーンスタイルにチェンジしたウィザードは、自らの身体を浮遊させる。スタイルチェンジを見た二体のファントムはウィザードが何をするのか、警戒心を強め始めた。

 そして次に行うウィザードの行動に、ファフニールは驚愕した。

 

「はああああっ!!」

 

 ハリケーンスタイルとなったウィザードは滑空しながら、ファフニールとカミオに向けて、弾丸を何十発も放つ。ある意味特攻染みた攻撃に、ファフニールは奇を衒った。

 既に百発近くは弾丸を撃つウィザードに負けじと、カミオが羽根を再び掃射する。だがカミオの反撃に、ウィザードはマスクの下でニヤリと笑みを浮かべた。

 

【DRILL PLEASE.】

「これを狙っていた!!」

 

 右手のウィザードリングを〔ドリル〕リングに付け替えてハンドオーサーに当てると、ウィザードは両手を広げて、回転しながら直下した。同時に、ウィザードが〔ドリル〕リングによって自らの身体を回転させたことで、一つの副作用が生まれた。

 

「は、羽根が…!」

 

 ハリケーンスタイルとして〔ドリル〕リングを使ったためか、ウィザードを中心に人間大のサイズの竜巻が作り出された。竜巻はウィザードにとって全方向のバリアを作り出し、カミオが放った羽根を巻き込み、逆にカミオに向けて放ち返した。

 

「があああっ!!」

 

 勢いを反動されてそのまま返されたカミオは幾発も自らの羽根によってダメージを受けた。カミオが劣勢に追い込まれたのを見たファフニールは、空中で待機しているウィザードに目掛けてジャンプする。

 ウィザードも、ウィザーソードガンをソードモードに変えて応戦する。しかし、ファフニールの攻撃はまどろっこしさを感じさせるものだった。

 

(左脚ばっかり狙いやがって…!)

 

 弱点となった左脚を執拗に狙いながら、ファフニールはウィザードに攻撃を仕掛けてくる。もちろん、そう易々と左脚に更なるダメージを追う訳にはいかないウィザードは、的確にファフニールの攻撃をいなしていく。

 終わりの見えない一進一退の攻防に終止符を打ったのは、ウィザードだった。

 

「おらっ!」

「うう!」

 

 ウィザードの放った刺突が、ファフニールの背を地に付けるほどに吹き飛ばす。

 元々空中をアドバンテージにしていたウィザードと、何度もジャンプしながら攻撃するファフニールとでは、ウィザードに軍配が上がるのも無理はなかった。

 

【HURRICANE! SLASH STRIKE!!  foo Foo FOO! Foo FOO FOO!!】

「うおおおおおおおっ!!!」

 

 雄たけびと共に、ウィザードはファフニールへ滑空しながら接近する。ファフニールは横に転がることでウィザードから回避するが、ウィザードはファフニールに対して攻撃しなかった。

 まさか――。ファフニールがウィザードの意図に気付き振り向いた時には遅かった。

 

「千切ってやるぜ!」

 

 その声と共に、ウィザードは剣に風を纏わせて、カミオの翼を斬った。これによって、カミオは羽根の掃射が完全に出来なくなった。

 

「くれてやるよ!!」

 

 翼を断ち切られたカミオに、ウィザードの第二撃が繰り出される。翼をすれ違い様に斬ったウィザードは右足を軸足に半回転させ、そのままカミオの背中へ刺した。

 

「あが…っ」

 

 刺した刃先には小さな鎌鼬を作りながら纏わせている。内部からも切り裂かれる感覚を抱いたカミオは、自身の身体に限界が来ることを自覚しだした。

 

「そしてダメ押しのっ!!」

 

 身体を刺していた剣を抜き、さらに横一文字に斬った。それがウィザードのカミオに対するとどめの攻撃であることは、屋上にいる者全員に理解できた。

 ウィザードは勿論、思わず眺めていたファフニールも、攻撃を受けたカミオ自身でさえもが一つの勝負に決着が付いたと思わせた。

 

「うう、ううう…うぐおおおおおおお!!!」

 

 叫び声は断末魔となり、カミオはそのまま爆発した。

 これで一対一になり、戦況は振出しに戻った。

 いや、寧ろウィザードに傾きつつあるかもしれない。その証拠に、ファフニールはカミオが爆散する様を見て未だに呆けていた。

 

【FLAME PLEASE. Hea…hea…HEA,HEA,HEA!!】

 

 基本形態であるフレイムスタイルにチェンジしたウィザードは、突っ立っていたファフニールに向かって走る。ファフニールは寸でのところで気付き、バックステップをとった。

 

「はあっ!!」

 

 右手を前に突き出し、魔力弾を発射するファフニールだったが、ウィザードはそれを上に剣で弾いた。

 

「おりゃ!」

 

 調子を取り戻してきたのか、ウィザードはアクロバティックな動きでファフニールを翻弄し、蹴りと斬撃を与える。トリッキーに戦場を駆けるウィザードに、ファフニールは徐々に成す術が無くなりつつあった。

 

「やっぱり、そういう事か!」

 

 突然、ウィザードが納得したように声を上げる。

 

「最初に穂乃果を殺そうとした時、アンタは念力のような能力を使っていたけど、今は全然使ってない…。何故なら、一度俺が倒した際に使った自身の蘇生能力でもう念力が使えなくなっていたからだ!」

 

 ウィザードの憶測にファフニールは反論しようとしたが、思わず言葉を詰まらせてしまい出来なかった。それはつまり、図星であると同意義だった。

 ウィザードの言う通り、ファフニールが元々使用できていた念力。その能力は一度目の音ノ木坂学院の校門前での戦いでウィザードに敗れて使用した蘇生能力を使ったために、代償として自身の持つ念力が使えなくなってしまったのだ。

 敗れた場合の保険は仕込んでいた。一度目より前に、来夢公園付近でカミオがやられたという情報を小耳に挟んだファフニールは深夜にカミオの発する魔力の残骸を集め、カミオを再び蘇らせたのだ。

 ただし、それでもリスクは残っていた。魔力の残骸を集めて復活させた場合、蘇ったファントムは自立的な意思を持たない。だが命令を受けることで、それを実行することは可能だ。だから穂乃果を絶望の淵に落とす仕掛けには、カミオの魔力を利用した。

 なんてことはない、押せば開く講堂の扉に魔力の鍵をかけるだけ。念には念を入れて、チラシにも魔力を施してライブに来られないよう細工を仕掛けた。勿論、全てのチラシにそんな細工が出来るわけがないので、精々半分くらいが限度だったが。

 

「ボーっとしてんじゃねえぞ!」

 

 そうこうしているうちに、ウィザードがファフニールの身体を掴み、真上に投げ飛ばす。直後に、ウィザードは右手をハンドオーサーにかざし、魔法を繰り出した。

 

【BIND PLEASE.】

 

 上空より四方から現れた魔法陣から伸び出た鎖が、ファフニールの両手両足を拘束する。

 身動きが取れなくなったファフニールは、格好の的となっていた。

 

【CHO-E-NE!! KICK STRIKE!! SAIKO--------!!】

「フィナーレだ。」

 

 右脚に魔力を集中させ、炎を生み出す。同時に、両者の間には赤い魔法陣が遮るように現れた。それを見たウィザードは力強く踏み込み、上空へ跳ぶ。目先にいるのは、四肢を縛られたファフニールだ。

 

「くそおおおおおおお!!!」

「はああああああああっ!!!」

 

 今の自分には悔しさをこみ上げた叫びを出すことしか出来なかった。そんなファフニールにウィザードは今度こそ、強烈な一撃を叩き込む。

 跳躍したウィザードは魔法陣をすり抜け、ファフニールに近づく。懐の近くまで跳んだ魔法使いは、そのまま右脚に炎を纏わせたムーンソルトキックを放つ。蹴りを受けたファフニールは大きな威力に、思わず血を吐いた。

 

「う、うぐうううう…うぐあああああああああああ!!!」

 

 とうとうキックに耐え切れなかったファフニールは、断末魔の叫びと共に爆発した。ウィザードもそれに巻き込まれたはずだが、平然とピンピンしており、そのまま着地した。

 だが、それでも彼は警戒を緩めなかった。

 もし仮にまた蘇生能力が発生すればと思うと、気が気でなかった。

 

(安心しろ。如何やらその心配もなさそうだ。)

 

 不意に、精神世界にいる相棒から安心させる一言が聞こえた。爆発の炎が消えるのを見ると、ファフニールが蘇る気配もない。どうやらあの蘇生能力は、一度きりの使用だったのだろう。

 戦いに決着が付いたのを確認したウィザードは、「ふぃー」と息を吐く。まずはこれで一安心と言ったところか。

 

「さて、講堂に戻りますか。」

 

 そう言ってウィザードは変身を解除し、陽人の姿に戻り屋上を後にした。

 意外にも、戦いが繰り広げられた場所である屋上はいつも通りと殆ど変わりないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 講堂に戻ると、μ'sのライブは既に終わっていた。丁度、戻って入る直前に終わったのだろう、ステージに立つ三人は笑顔を作りながらも、息を切らしていた。

 彼女達の元へ駆け寄ろうか――、陽人がそう考えた矢先、コツコツと足音を立てて歩き進む人物がいた。

 

「生徒会長…。」

 

 静かに呟く穂乃果に、絵里は仏頂面を崩さないまま何も答えない。中段辺りまで歩くと、彼女は周囲に目を流す。

 ライブを観に来てくれた観客は、数えるほどしかいなかった。陽人が予想した通り、鹿野俊平と小泉花陽は勿論来てくれたし、その友達という星空凛も花陽に付き合ってくれた。μ’sの曲を作ってくれた西木野真姫や生徒会副会長の東條希もいた。

 

(あれ…あの人もいたのか。)

 

 椅子に隠れるようにステージに覗き込む、黒髪のツインテールの女子生徒もいた。陽人には何となく見覚えがあった。確かUTX学園の外壁に設置された巨大モニターで初めてA-RISEを見た時に隣にいたような気がする。あの人も音ノ木坂学院の生徒だったのかと、陽人は少しだけ驚いた。

 

「どうするつもり?」

 

 冷たい態度のまま、絵里は訊く。これだけしか観客が来ていないのに、まだスクールアイドルを続けるのか――。絵里の真意を悟った陽人は、穂乃果が答えをどう返すか待つ。

 

「続けます!」

 

 短く、きっぱりと、答えた。穂乃果の答えに、陽人は思わず息を小さく吐いた。これで辞めるなんて言ったら、穂乃果じゃない。

 

「何故? これ以上続けていても、意味があるように思えないけど?」

「やりたいからです!!」

 

 軽く手を広げながら、絵里は今の状況を示す。それでも、穂乃果は揺るがなかった。単純な理由だった。“やりたいから”という、シンプルなもの。

 

「もっともっと歌いたいし、踊りたい…! こんな気持ち、初めてなんです!! きっと隣にいる二人も、穂乃果とおんなじ気持ちだから…!! やって良かったって本気で思えた!!」

 

 ありったけの今の気持ちを、そのまま言葉にする。ここまで言ってくれると、戦い抜いた甲斐があるというものだ。陽人は笑みを零す。ふと、穂乃果と目が合った。穂乃果は此方に、頷きを送った。

 

「このまま誰も見向きもしてくれない…、応援なんて全然貰えないかもしれない!! でも一生懸命頑張って、私達がとにかく頑張ってこの想いを届けたい!!! 今噛み締めている、この気持ちを!!!」

 

 だから――。そこまで言って、穂乃果はごくりと唾を飲み込む。そして、吐き出すように宣言する。

 

「いつか私達…必ず、ここを満員にしてみせます!!!」

 

 陽人は思わずくっくっと笑う。ああ、そうだ。これでこそ高坂穂乃果だ。いつも人を引っ掻き回して、それでいて引っ掻き回した奴らでさえも楽しませてくれるエンターテイナーのような女。

 

「穂乃果!!」

 

 気付いた時には、思わず叫んでいた。名前を呼ばれた穂乃果は陽人の方へ顔を向ける。つられて、海未もことりも此方に顔を向ける。

 

「俺の青春、お前等に預けるぞ!!」

 

 拳を突き出し、三人に誓う。もう味わえないと思っていた。一般人なら当たり前にある六年間の青春に、陽人は途中で打ち切られた。

 だけど思う。もしかしたら、穂乃果達なら自分の青春を賭けて預けることが出来るかもしれない。友と困難にぶつかり、衝突し合い、同じ目標へ走っていけるかもしれない。

 希月陽人は、高坂穂乃果に託すことにしたのだ。自分の青春を。

 

「…うん!! 預かるよ!!!」

 

 返すように、穂乃果も自分の拳を陽人に向けて突き出す。陽人が仮面ライダーだろうと何だろうと、構わない。陽人が彼自身の青春を自分達に預けると言ってくれたのだ。ならば、それに応えないわけにはいかない。

 

 

 

 

 彼と彼女達の物語に、新たな頁が刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チキチキ、チキチキ。

 チキチキ、チキチキ。

 

 限界まで、ゼンマイを回す。回し終えたゼンマイから指を離すと、音楽が鳴り響いた。

 イントロを奏でるのは、ピアノの旋律。テンポは徐々に上がっていき、やがて歌声が流れる。

 

―――I say!!

 

「…フフ。」

 

 短く、笑みを零す。何故自分は笑ったのだろう。

 目の前のオルゴールをうまく回せたから?

 思い出し笑い?

 

「まあ、どれもこれも違うんだけどね?」

 

 誰がいるわけでもないのに、自問を否定する。笑みを零したのは安心感だ。

 例えて言うなら、パズルのピースが上手くはまった時のような。

 今、目の前にあるオルゴールが流す歌声とくるくる回る九体の人形に、自分はこれ以上にない安心感と高揚感を胸に込めていた。

 

「嬉しいなあ…ようやく一緒に走るんだね…。」

 

 オルゴールに向ける視線にあるのは、愛情。つい最近、最後のピースがはまって、漸く動き出した。

 

「どんな風に壊れるのか、楽しみだなぁ!」

 

 だがその愛情は時として、酷く歪なものになる。

 元々こういう性格だったかと訊かれれば、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。

 だが、昔の話を引っ張り出すことなど、些細なものに過ぎない。

 

「早く追いついてよね? じゃないと黒く塗り潰しちゃうからね?」

 

 

 

 

 ――希望の光が、見えなくなるくらい!!!

 

 

 

 

 一人きりの狭い部屋に、“私”の声が大きく響いた。

 

 

 

 




次回、Love live is SHOWTIME!!


「誰かが撮ってたんやね…。」

「親心みたいなものかしら。」

「それよりも…まずはコイツをどうにかしなくちゃ…。」

「よ~しよし、大丈夫だよ。」


叶え、私たちの夢―――!

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