Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

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評価バーに色が付いた…ありがとうございます。
仕事の息抜き同然で書いているようなもので不定期更新ですが、これからもよろしくお願いします。

ではクッソガバガバな推理から始まる第13話、どうぞー。


RING.13:灰色の日常

 シックな雰囲気を持つとある喫茶店。外が夜である今には足りない、ぼんやりとした明かりのこの店内の隅の席に、二人の男性が向かい合っていた。

 一人は小汚いコートを身に纏い、気だるげな表情を見せる三十代半ばの男性。向かい合うのは、ブイネックの赤いシャツに黒のレザージャケットを着込んだ、若い男性。年齢は十代後半か、それか二十歳前後と言ったところか。

 

「ひと段落付いた後の珈琲ってのは、どうにも格別だな…。ブラックだろうと砂糖入りだろうと、美味く感じるもんだな。」

 

 コートの男性が日常を噛み締めるかのように言葉を発すると、向かい合う男も「そうですねぇ…」としみじみと呟く。

 

「そういやいいのか?」

「何がっすか?」

 

 ふと、思い出したかのように質問された若い男は、何のことか考える。

 今日は土曜日で、個人的な用事はなかったはずだ。記憶を遡ってみるが、やはり特に予定もない。

 

「彼女さんと待ち合わせしてるんじゃなかったのか、陽人?」

「ああ、穂乃果ならこの後に迎えに行きますよ。後、彼女じゃないんで。」

 

 茶化すコートの男…水乃をあっさりとスルーし、穂乃果との関係をさらっと否定した若い男…陽人は、呆れるように一息吐くともう一口珈琲を飲む。苦味が口の中に広がり、水乃のからかいに辟易していた状態から少しだけ、気持ちを切り替えられた気がした。

 

「それより、折角来たんですから本題に入りましょうよ。ただ平和な日常に浸ろうぜって訳じゃないでしょ?」

「ん、ああ…そうだったな。つってもまあ、単純に理由を訊きたかっただけだけどな?」

 

 わざわざ喫茶店にて男二人が来たのは、勿論それなりに理由がある。とは言っても、理由はごくごく単純。水乃が陽人をこの喫茶店に来いと呼び出してきただけだ。しかし、呼び出したと言っても相応に理由はある。

 ファーストライブの日に、陽人がたてた推測を深く聞けずじまいだったため、この機会に訊いてしまおうと言うのが、水乃が呼び出した理由である。

 

「しかしまあ、ファントムも不逞な事を考えたねぇ…まさかスクールアイドルのライブを狙って、ゲートを絶望させようってんだから…。」

「と言っても、穂乃果がスクールアイドルやろうって言いだせばライブに行き着くのは必然ですよ。無理に反対するのもアレですし…。」

「まあ、そうだな。若い子の意志を大人が潰すのは、夢も希望もあったもんじゃないからな。」

 

 そう締め括る水乃の言葉に、陽人は内心爺臭いなと思ってしまった。

 

「なんだ? 何か変なこと考えてるんじゃねえか?」

 

 睨みを利かせながら、水乃は自身の顔を陽人に迫る。どうしてこう、妙な所だけ勘が鋭いのやら。陽人は呆れながらも、「そんなことはないですよ」と流すように返した。

 

「…と、話がずれるところだった。お前の推測ってどんなだっけ?」

 

 ずれかけた話題を戻し、陽人の立てていた推測の内容を訊く。陽人は珈琲を一口飲んでから一息吐くと、口を開いた。

 

「まず、新川恵久美がファントムの正体だって知った時に、ライブ会場の講堂に何かしら仕掛けてくると思いましたね。」

「観客が来ないような仕掛けの妨害か。」

 

 こくりと、陽人は頷く。実際、陽人が講堂に入ろうとした時に、鍵のない筈の扉が力を入れても全然開かなかった。ただ、俊平達が準備中に講堂に入っていたことから、ライブの開始時間に妨害が作動する、所謂時限式の仕掛けと思っていた。

 

「でも人間ってのは、新しいものに目移りしがちなもの…。なのにいざライブが開催したら観客は誰もいなかったってのは、恐らく宣伝のチラシにも細工が仕掛けてあったのかと。」

 

 さらに周到な仕掛けを施していたと聞かされた水乃は、「はあ~…」と感心の声を上げる。

 

「石橋を叩いて渡るタイプか…。」

「一度俺が倒した時点で、ファーストライブに狙いを絞るのは簡単に想像できましたよ。」

 

 以前、一度倒したファントムがすぐに再生したがすぐに退散したという話を水乃は思い出す。あの時の陽人の見立てでは、戦いから二、三週間後にファントムが全快すると言っていた。奇しくも、それが当たったという訳だ。

 

「後はライブの時間になって、生徒会長に化けたファントムが穂乃果を絶望させるように誘導する言葉を並べるだけ。穂乃果達と生徒会長はスクールアイドルの有無について対立していましたからね。普通なら効果は抜群でしょうよ。」

「なるほどな…んで、質問なんだが。」

 

 一拍置き、水乃は口を開く。

 

「お前あの時、生徒会長が殺されることはないように言ってたが、どうしてそう確信を持てたんだ?」

 

 水乃の質問に、「ああ」と思い出したようにうんうんと首を縦に小さく振る。その反応を見た水乃は、「覚えてなかったのかよ」とツッコミを入れる。

 

「いや、そういえばそんなこと言ってたなぁと…態々呼び出したのも、この件について訊きたかったからなんでしたね。」

「全くよ…自分の言った事はせめて頭の片隅に留めておけっての。」

 

 水乃の小言に、陽人は笑みを浮かべて受け流す。そんな陽人の様子を見るのは何時ものことだったので、改めて水乃は一口珈琲を飲もうかと思ったが、既に中身は空になっていた。おかわりを頼もうかと思ったが、面倒臭がりな性分が邪魔し、彼に注文を躊躇わせた。

 

「別に大したことじゃないですよ。生徒会長に化けてそのまま活動を続けるとなると、結構リスクがあるのは承知ですよね?」

 

 言い終えると、注文していたショートケーキをフォークで一口サイズに切り、陽人は口に入れる。脳内に糖分が行き渡って疲れた頭をリフレッシュしてくれたような気がする。

 

「確かに、ファントムの宿主が生徒会長でそのまま活動するならともかく…、別人が宿主のファントムが態々生徒会長に化けて二足の草鞋を履くのは無理があるな。」

「あくまでファントムの主な目的は目当てのゲートを絶望させること。無関係の人間をむやみやたらと巻き込むのは、基本的にないと言っていいでしょうから。」

 

 獲物を見つけたら、執拗にその獲物だけを狙うのがファントムと言う怪物だ。ゲートを絶望させる計画に、他の人間を殺害してまでゲートを絶望させることはそうそうない。

 

「うっかり生徒会長に化けたファントムと本物の生徒会長が鉢合わせになったとしても、精々生徒会長のその場での記憶を奪うだけに留めるだろうってか…。」

 

 そう言う水乃に、陽人は「まあ殺害未遂まで行く可能性も無きにしも非ずですけど…」と呟いた。それを聞いた水乃は不愉快な顔を隠さなかった。

 

「んなことしたら、余計に騒ぎが大きくなってファントムが動きづらくなるだけだろ?」

「余程の事例じゃない限りは、確かに水乃さんの言う通りですね。」

 

 初めから計画が、他人を巻きこむ事を前提としたものだったのなら話は別になるかもしれない。だが陽人が知る限りでは、そのようなケースに巡り合った事はなかった。

 

「これから起こんなきゃいいけど…。」

「ん? どした?」

 

 無意識に呟いていたのか、陽人の声が聞こえた水乃はどうしたかと訊く。

 

「ん…いや、別に何でもないっすよ。それよか、ごちそうさんでした。そろそろ俺行ってくるんで。」

「おお、もうこんな時間か。俺もそろそろ出るとしますか。休憩の合間を縫って来たから、戻らねえとどやされそうだ。」

 

 席を立つ陽人についていくように、水乃も同じく席を立つ。会計票を片手にレジに向かい、陽人は外で待つことにした。今のうちにエンジンをかけておくかと思い、キーを入れると水乃がドアを開けて外に出た。そんなに注文している訳ではないからか、割と早い時間だった。

 

「それじゃあ、また機会があれば是非とも協力しますんで。」

「おう、普通はない方がいいんだけどな。」

 

 水乃の軽口に陽人は「違いない」と笑って返すと、そのままエンジンをふかしてバイクを走らせた。水乃は陽人を見送ると、彼とは反対の方向に足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結果論ではありますが、ライブには観客は殆ど来ませんでした。スクールアイドルの活動は、音ノ木坂学院にとっては、マイナスだと思います。」

 

 μ'sのファーストライブ。そして新入生歓迎会を終え、明けた木曜日。音ノ木坂学院は何事もなく、いつもと変わりない日常を送っていた。

 いや、それには語弊があるかもしれない。ごく一部の生徒は、どこかいつもと違う雰囲気を抱いている。その一部の中の者達が、現在理事長室にいる絢瀬絵里、東條希、部屋の主たる理事長の南朱鳥だ。

 彼女達は今、先週末に行われたμ'sのファーストライブについて話をしていた。と言っても、絵里の一方的な報告に近いものではあるが。

 

「学校の事情で生徒の活動を制限するのは、どうかと思うわ。」

 

 絵里の発言が一教師としては受け入れられないものと判断した朱鳥は、一蹴する。

 

「でしたら…! 学院存続のために、生徒会でも独自に活動をさせてください!!」

「…それは駄目よ。」

 

 強く願う絵里に朱鳥は、それを撥ねつける。

 

「何故ですか!?」

「それに、全然人気がないという訳でもなさそうよ?」

「え…?」

 

 どういう事かと絵里は思う。その疑問は朱鳥が見ていたノートパソコンのディスプレイに表示されていたものによって解けていった。

 

「この前のライブの…。」

 

 画面に映されていたのは、スクールアイドルなら皆が登録している、スクールアイドル専用SNSサイトだった。登録されたスクールアイドルの基本的なプロフィールは勿論のこと、ライブ映像、果ては曲の音源までもがこのサイトを軸に発表されている。

 朱鳥が見せたのは、そのサイトに流れている動画だ。動画に映っているのは、先日にファーストライブを行ったμ'sの面々。怪物によって開催が危ぶまれたものの、ある人物のお陰で滞りなく行われたのは記憶に新しい。

 おや、と希はある部分に注目する。注目した箇所は、動画の横にあるコメント欄だ。動画について感想を述べたい場合は、映像下のコメント感想欄に記入し、それが映像横に反映されるようになっている。その感想は新参者であるが故、少ない件数だったが、どれも好意的なものが多かった。

 

『初めて見ましたが、応援しています』

『頑張ってください!』

『衣装が可愛く仕上がってますね』

 

 まだ三件しかコメントは無かったものの、多少なりとも人気が上がるであろうと示唆するものだった。

 

「誰かが撮ってたんやね…。」

 

 そう言って、希はちらりと絵里に視線を向けた。絵里はどこか納得の行かなそうな目で画面を見つめていた。

 直後だった。コンコン、とノックをする音が聞こえた。

 

「失礼します。」

「にこっち…。」

 

 やってきたのは、希達と同じクラスにいた、()(ざわ)にこだった。理事長室に入ったにこは視線をちらちらと変えると、どこか苦い表情を見せた。大方、タイミングの悪い時に入ってしまったと思ってるのだろう。

 

「もしかして…お邪魔でした?」

「いいえ? そんなことないわ。寧ろ矢澤さんを含めた三人に告げたいことがあったから…。」

 

 希の予想通りの言葉をにこが発したが、後に続いた理事長の言葉に、朱鳥以外の三人は疑問を覚える。

 

「いつもの猫被りな態度やないんやね?」

「アンタねぇ…にこだって時と場合くらい考えるわよ?」

 

 どこか緊張した雰囲気が漂ったせいか、希がにこに軽口を叩くが、彼女は軽くあしらう様に正論で返した。これは一本してやられたなと希は思う。と同時に、どうやらにこは理事長がこれから話すことが何となく察しているのかもしれない。希はそう思った。

 

「あの…理事長。それで私達に告げたい事とは?」

 

 痺れを切らしたのか、絵里が口を開く。

 

「μ'sのファーストライブ前に起きた出来事、覚えてるかしら?」

「え、ええ…。」

「流石にあんな事を目の前で見せつけられたら…。」

「嫌でも記憶に残りますよ。」

 

 唐突な朱鳥の質問に、三人はそれぞれ息を合わせるように答える。都市伝説と言われた怪人と、怪人と戦う仮面ライダー。自分達の目の前でそれがあったのだ。忘れるなという方が難しいだろう。

 

「その仮面ライダーについてのことなんだけど…なるべく音ノ木坂学院で起こったことという点についてはぼかして欲しいの。」

「それは…どうしてですか?」

 

 朱鳥の通達に、絵里が理由を訊ねる。絵里の問いに朱鳥は微笑みながら答える。

 

「大人の事情が色々あるのよ。」

「はぁ…。」

 

 曖昧に答える朱鳥に、どこか納得は出来なかったものの、仕方なく絵里は引き下がることにした。希も納得した訳ではないが、実際に朱鳥の言葉通りに捉えるのが吉だと思い、何も言わないでおくことにした。

 

「あの、ちょっといいですか?」

「どうしたの?」

「にこっち?」

 

 二人が納得しかけたところをにこが手を上げて質問を始めた。にこにしては珍しい。成績が悪いにこは基本的に自分から教師に対して手を上げることはなかった。

 

「幾つか質問なんですけど、学校外で仮面ライダーに遭遇したと誤魔化すのはありですか?」

 

 一つ目の質問に、朱鳥は「そうね…」と考え込むような仕草をとる。十秒もせずに、こくりと頷いた。

 

「ええ、学校外で仮面ライダーと遭遇、もしくは見かけたと言うのは構わないわ。但し、条件があるわ。恐らく二つ目の質問の答えになるでしょう。」

 

 朱鳥が次に紡ぐ言葉に、向かい合う三人はごくりと生唾を飲み込む。

 

「それは変身者を口外してはならないという事よ。」

「なっ…それは彼をそのまま放っておくという事ですか!?」

 

 朱鳥の発言に、意外にも絵里が問い詰める。にこは絵里の事を同じクラスメイト程度としてしか認識していなかったが、このような反応をするとは思わなかった。いや、それは寧ろ希も自分と同じように驚いていた。この学院に入学してすぐに仲良くなった二人だ。絵里の怒りともとれる反応に希が驚かないわけがない。

 

「あんな力を持った彼を野放しにするなんて、私は反対です!」

「エリチ!!」

 

 言い過ぎだと、暗に示すように希は絵里を窘めた。希が呼んだおかげか、絵里はハッとした表情を見せ、すぐに黙った。その表情が渋々であることは言うまでもなかった。

 

「そもそも、何で彼は音ノ木坂学院に編入されたんですか?」

 

 絵里に代わるように、希が朱鳥に質問する。確かにそうだ、と思う。どういう切欠があって希月陽人が音ノ木坂学院の学生として編入されたのか、実を言うと生徒会の二人はよく知らないのだ。勿論、この場に居合わせているにこも、知る由もない。

 

「そうね…一つだけ言えるとすれば…親心みたいなものかしら。」

 

 そう答える理事長の瞳が、どこか寂しそうなものになっていることに、誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、理事長室にて話題に上がった人物はというと。

 

「ヘックシュン!!」

「ハル君、風邪?」

「いや…魔法使いになってからは病気になったことなんて一回もねえよ。」

「へえ~…羨ましいね…。じゃあ誰かがハル君のこと噂してるとか!」

 

 あながち間違いとも言い切れない穂乃果の憶測に、陽人は思わず苦笑いで返した。今頃、理事長がライブ開催時に講堂にいた三年生の三人に話をしている頃だろうから。

 

「それよりも…まずはコイツをどうにかしなくちゃ…。」

 

 そう言って、陽人は視線をことりの方に向ける。そんなことりの様子は、どうもいつもの調子ではなかった。いつもの彼女は周囲に癒しを与えるような雰囲気を醸し出していたが、今は逆にことりの方が癒されているというような状況になっていた。

 

「ふあぁ~…はぁ…。」

 

 それはことりの眼前にいる目の前のとある動物によって、彼女の癒しの原因を作り出していた。

 

「この学院、アルパカなんて飼ってたのか…それも二頭も。」

 

 そのとある動物とは、アルパカである。白い毛のアルパカと、茶色の毛のアルパカが動物小屋…というよりは最早アルパカ専用の小屋にて、ことりは二頭を眺め続けていた。

 

「ことりちゃん、最近よくここに来てるよね?」

「今みたいに休み時間にも来ているそうですよ?」

「相当ツボにハマったんだな…。」

 

 アルパカ小屋に来てから十分近く経過している。未だにアルパカを見つめ続けることりに、陽人達は少し飽きが生じつつあった。

 

「もう、ことりちゃん! チラシ配るよー!」

「あとちょっとー…♪」

「五人にして部として認めてもらわなくては、正式に活動できないんですよ?」

「そうだよねぇ~…。」

 

 穂乃果の呼びかけや海未の言葉にも聞く耳を持たずと言ったところか。ことりは未だに目の前のアルパカに呆けていた。

 

「大丈夫かこれ…。確かにまあ、可愛いかもしれんが…。」

「ええ…そう? 可愛い…かなぁ?」

 

 茶色のアルパカに向けて感想を口に出す穂乃果に、アルパカが思い切り威嚇する様に鳴き声をあげた。まさか反応を返されるとは思っていなかったのか、穂乃果と海未はびくっと肩を震わせて驚く。

 

「ええ~? 可愛いと思うけどなぁ。毛もふさふさしてるし、お目目もくりくりしているし!」

 

 そう言ってことりはまたアルパカを見つめ、更には撫で始めた。結構スキンシップを取っているが、良いのだろうか。

 

「ふあぁ~…幸せぇ…。」

「ことりちゃん危ないよ!」

「そ、そうですよ!」

 

 満面の笑みでアルパカにスキンシップをとることりを、穂乃果と海未は止めようとするが、当の本人は「大丈夫だよ~」と暢気に返した。

 そう言った矢先、白いアルパカはことりの顔をペロリと舐めた。あまりにも突然だったせいか、思わずことりは仰け反り、穂乃果と海未は一連の流れに慌てだした。

 

「ああ…どうすれば! そ、そうです、ここはひとつ弓で…!!」

「いやいや、駄目だぞ!? 学校で飼ってるんだからなこのアルパカ!」

 

 幾ら何でもそのような対処はあんまりである。不測の事態に弱い海未に、陽人がツッコミを入れるのも無理はない。

 

「とりあえずことり。ハンカチだ。これで顔拭いておけ。」

「ありがとぉ~、陽人くん…。」

 

 ブレザーの右ポケットからハンカチを取り出し、ことりに渡す。ハンカチを受け取ったことりはアルパカに舐められた左頬を優しく吹き始めた。

 

「よ~しよし、大丈夫だよ。」

 

 そんな時だった。横から、アルパカを優しく宥める女子生徒の声が聞こえた。声のする方に振り向くと、学校指定のジャージとTシャツを着た眼鏡の女子生徒がアルパカを撫で、持ってきていたトタンのバケツを足元に置いた。彼女の顔には見覚えがある。確か、俊平のクラスメイトの、小泉花陽だ。

 

「あれ、小泉さんじゃん。」

「おお…おお! ホントだ!! 花陽ちゃんだぁ!!」

「ああ、あの時俊平君と来てくれた!」

「あの時は正直、色々と救われました…。」

 

 ライブ以来、また会えた事に、穂乃果が喜びの声を上げる。ことりと海未も例外ではなく、嬉々として話しかけていた。

 

「あっ…こ、こんにちわ。」

 

 陽人達の存在に気付いた花陽が、挨拶をする。

 

「アルパカを結構手懐けてたけど、もしかして飼育係なのか?」

 

 陽人の質問に、花陽は「は、はい…」と小さな声で答える。

 

「君がライブに来てくれて、本当に助かったよ。誰も来てくれなかったら、穂乃果の奴、色々と危なかったから。」

「は、はあ…。」

 

 多少意味を含めた物言いに、花陽はどこか反応に困る返しをするしかなかった。その直後だった。

 

「ねえ、貴方!!」

「はっ、はい!?」

 

 いきなり穂乃果が花陽の手を置き、話しかけだした。見ると、どこか企みを浮かべたような表情で花陽に迫っている。

 

「アイドル、やりませんか!?」

「まさかの勧誘とは…。」

「穂乃果ちゃん、いきなり過ぎじゃないかな…?」

 

 相変わらずの突発的な勧誘に、陽人は呆れ、ことりも苦笑いで指摘する。

 

「君は光っている。大丈夫、悪いようにはしないよ!!」

「どこの悪徳プロデューサーだお前は…。」

「完全に悪役のそれですよね…。」

 

 陽人のツッコミに、海未が同調する。仕方ないと思う。誰だってこんな誘い文句を聞けば、そう言いたくなるのも無理はないのだ。

 

「でもほら、少しくらいは強引に行かないと!」

 

 穂乃果はそう言うが、せめて人とタイミングは選んだ方が良いのではないかと思う。確かに見るからに花陽の雰囲気は、どこか気の弱そうな女の子といった感じだが、今は昼休みの時間である。タイミングとしてはどうにも間が悪いような気がする。

 

「あ…あの…西木野さんが…。」

「えっと、ゴメン。もう一回いい?」

 

 か細い声で返したからか、穂乃果には聞こえなかったようで、耳を澄ませてもう一度訊く。ちなみに陽人には聞こえていたのだが、敢えて口を出さないことにした。

 

「に、西木野さんがいいと思います…。」

「西木野さんかぁ! 穂乃果も好きなんだよねー、あの歌声!!」

 

 小声で真姫へのスカウトを提案する花陽に、穂乃果が同調する。陽人としても、真姫の歌唱は一度か二度聴いただけであったが、それでも彼女の歌声は魅力的だと思う。そういえばあの作曲の件以来、俊平と真姫がまともに絡んでいるところを見ていないような気がするなと思い当たる。

 

「だったら誘えばよかったじゃないですか…。」

「誘ったよー! でも断固拒否されちゃったの!!」

 

 穂乃果と海未の会話に、そういえばやっていたなと思い出した。しかし、あの時はあまりにも誘いが突発的過ぎた。スカウトする場合、もう少しタイミングを見ていかないと上手くいかないかもしれない。

 

「えっ、あ…すみません…私、余計な事言っちゃいましたね…。」

「いいよ別に。君が気にすることじゃないよ。どうせあの性格の奴なら、どっかの馬鹿がなんとかしてくれるさ。」

「え…? はぁ…。」

「おーーい! かーよちーーん!」

 

 戸惑いながらも花陽が陽人に返事すると、遠くからもう一人の女子生徒の声が花陽を呼んだ。確か花陽と幼なじみの星空凛だったはずだ。

 

「あ、じゃあ私はこれで…。」

「うん、じゃあねー!」

 

 そそくさと凛のもとに行く花陽に、穂乃果も別れの挨拶をかけていった。凛と花陽が校庭に行くのを見送り終えると、海未が「そろそろ戻りましょう。もう昼休みも終わりそうです」と言い、校内へ足を向けた。

 もうそんな時間だったかと陽人はスマートフォンを起動して時計を見ると、確かに海未の言う通りだった。後五分という所で午後の授業が始まろうとしている。早いうちに戻ろうかと、スマートフォンをポケットにしまおうとした時だった。

 

【Mytay action X!!】

 

 着信音が鳴り、穂乃果達が一斉に陽人に振り向いた。

 

「あ、スマン。メールが来た。」

「メール? 誰から?」

 

 穂乃果が訊くが、あまり期待していいものではないと思う。メールフォルダを開くと、送信先は水乃だった。

 

「水乃刑事からだ。」

「水乃刑事って…陽人君が世話になっていると言ってた…。」

「じゃあもしかして…。」

 

 ことりが訝しむ中、陽人は水乃のメールを読む。

 

『放課後あたりに於母影堂に行く。事件の調査協力を願いたい。』

 

 いたってシンプルな文面を読み終えた陽人は返信のメールを打ち、送信すると、改めてスマートフォンをポケットにしまった。

 

「よし、じゃあ早く教室に戻ろうぜ? あと三分くらいしかないぞ。」

「え? でも…。」

「放課後に用があるから今行く必要はねえよ。」

 

 そう言って陽人は、小走りで教室へと向かっていった。遅れて穂乃果達も陽人について行った。

 

 

 

 

 

「ヘクシュン!!」

「ちょっと、汚いわよ…。風邪?」

「大丈夫、大丈夫。身体が頑丈なのが俺の取り柄だから!」

「ならいいけど…仮に風邪だとしても周りに移すのはやめてよ?」

 

 

 




次回、Love live is SHOWTIME!!


「若い女の子がこんな悲惨な目に遭うとなぁ…居た堪れないねこれは。」

「やりたいならやればいいじゃない。そしたら…少しは応援してあげるから。」

「もしもし、俊平か? 今お前、どこにいるんだ?」

「なんだァ? 男と一緒かよぉ…。」



叶え、私たちの夢―――!
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