Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

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初めて一週間おきで投稿できました。

それでは第14話です、どうぞー。


RING.14:標的宣言

「ここ最近、他校の女子生徒が下校中に失踪するという事件が増えています。女子の皆は気を付けて帰ってくださいね。それじゃ、また明日!」

 

 担任からの肝を冷やしそうな注意事項を胸の奥に留め、音ノ木坂学院の一年生は「さようなら」「先生また明日!」と言い、それぞれ鞄に教科書やノートをしまい、教室を出始めた。

 勿論、小泉花陽も例外ではない。身支度を整え、下校しようかというその時だった。

 

「かーよちん! 部活決まった? 今日までに決めるって、昨日言ってたよ?」

 

 幼なじみの、星空凛が話しかけてきた。

 

「そ、そうだっけ…?」

「げっ、部活って必ず入らなきゃいけないのか?」

 

 曖昧に答える花陽の後ろから、男子生徒の声が聞こえる。凛と花陽が声の方向に顔を向けると、そこに立っていたのは鹿野俊平だった。

 

「鹿野君も、まだ部活に入ってないの?」

「あー…というか、そもそも入る気すらなかったんだよなぁ…。」

 

 花陽の問いに、俊平は頭をガリガリと掻きながら答える。それを聞いた凛は不満そうに「えーっ!?」と声を上げた。

 

「駄目だよ鹿野くん!! 部活にはちゃんと入らなきゃ!!」

「せめてなぁ…小回りが利くような部活があればいいんだけどさ…。そういう部活が乏しいからさぁ…絶賛迷い中なんだよ…。」

 

 ため息をつきながら言う俊平の肩が、どこか重たそうに見えたのは気のせいだ。そう信じたい花陽と凛だった。

 

「そういえば星空は何処にするのか決めてるのか?」

「凛は陸上部かなぁ~。」

 

 凛の返答に、俊平は「ほう」と相槌を打つ。確かに、μ'sのライブを開催する直前に花陽を探していた最中、花陽を連れて走っている凛を見つけたのだが、その走力は相当のモノだったと、俊平は断言できる。

 俊平自身、度々陽人と一緒に手合わせをしたりランニングをしたりするので、それなりに体力は自身がある方だった。だが女子がもう一人の女子を連れながらあの速さを維持できた走力となると、話は別だ。現に俊平が二人を見つけて追いかけた時、二〇メートル近く離れており、半分ほどまで距離を縮めることができたが、最終的に大声で二人の名を呼ばなければ止めることは不可能だったというほどだ。

 

「小泉の方はどうなんだ?」

「えっ!? 私? 私は…その…。」

 

 俊平が花陽に話を振ると、花陽は言い淀む。もじもじと自分の答えを返せない花陽に、凛は閃いた。

 

「あっ、もしかして~…スクールアイドルに入ろうと思ってたり?」

「ええっ!? そんなこと…ない…。」

 

 凛が言い当てようとするも花陽は否定し、両手の人差し指をもじもじと合わせ始めた。

 

「なんだ、小泉はスクールアイドルやらないのか?」

「そ、そうだよ…。」

「違うよ鹿野くん。かよちんは嘘をついてるにゃ!」

「そんなこと…!」

 

 再度、花陽は強く反論しようとするが、そんな彼女の唇に、凛の人差し指が当てられた。

 

「ダメだよかよちん! 嘘つく時、すぐ指合わせるからわかっちゃうよ♪」

 

 自分の癖を言われてしまったのであれば、もはや花陽に反論する余地はなく、そのまま小さく俯き黙った。

 

「幼なじみの特権ってヤツか?」

「えへへ~、いいでしょ?」

 

 そう言って胸を張る凛に、どこか微笑ましさを俊平は感じた。

 

「一緒に行ってあげるから、先輩達の所に行こう?」

 

 そう言って凛は花陽を穂乃果達のもとへ連れて行こうとするが、花陽がそれに「え、あ…違うの…! ほんとに…」と待ったをかけた。

 

「私じゃ…アイドルなんて…。」

「かよちん、そんなに可愛いんだよ? 人気出るよー!」

「確かに星空の言う通りだな…。客観的な意見だが、小泉は十分可愛い方だぜ?」

 

 消極的な様子の花陽に、凛と俊平は誉め立てる。

 

「か、鹿野君まで…! で、でも待って!」

「ん?」

「あ、あのね…我が儘言っても…いい?」

「しょうがないなぁ、何?」

 

 とりあえず話を聞くことにしたのか、凛は掴んでいた花陽の腕を離し、耳を傾けた。せっかくなので、俊平もちゃっかり話を聞くことにした。

 

「も、もしね? 私がアイドルやるって言ったら…凛ちゃんも一緒にやってくれる?」

「…凛が?」

 

 花陽の照れと緊張が混じった凛への頼みに、彼女は改めて自分の事かと確認する。花陽はそんな凛に「うん…」と返した。

 

「む、無理無理無理! 凛にはアイドルなんて似合わないよ! 女の子っぽくないし、髪もほら、こんなに短いし…。」

「そんなことないと思うけど…。」

「髪が短い女の子なんてこの世にごまんといるぞ?」

 

 花陽は凛の言い分を否定し、俊平も花陽に便乗して口を出す。

 

「それでもほら、凛にはスカートなんて似合わないよ! だってほら…。」

 

 そこで語る凛の話によると、幼い頃のこと。凛はスカートを穿いて花陽と共に登校していた。花陽は可愛いと褒めてくれたのだが、後からやってきた男子児童が凛のスカート姿を揶揄い、それを真に受けた凛が家に戻って態々ズボンに履き替えたという。以来、凛は制服以外でスカートを穿くことが出来ないでいた。

 

「だから凛には…アイドルなんて向いてないよ…。」

 

 そう言って申し訳なさそうに後頭部を掻く凛。その横で、俊平はどこか腑に落ちない表情をしていた。

 凛がアイドルに向いているか否か。それは本人次第で解決する問題だから一旦置いておくとして、俊平が引っ掛かったのは凛の語った昔話だ。

 

(星空の言ってた話…なんか聞き覚えがあるような…。)

 

 自分自身がその現場に立ち会ったわけではない。自分は生まれも育ちも東京ではないと自覚している。となると、他の人物から話を聞いたということになるのだが、如何せん誰がそのような話をしていたのか思い出せないでいた。

 

(まあいっか。どうせ大した問題じゃないし。)

 

 些細なことだと俊平は割り切り、凛の話について考えるのは辞めることにした。

 

 

 

 

 

 その後、凛は陸上部の体験入部に行くようで、そのまま花陽と俊平に別れた「また明日ね」と言い残し、先に教室を出ていった。いつの間にか教室にいるのは俊平と花陽の二人だけだった。流石に好き合っていない男女二人が教室内に二人きりというのは気まずい。

 

「…俺も帰るかな。」

「あ、じゃあ…私も。」

 

 俊平の言葉を皮切りに、花陽も教室を出ていこうとする。が、俊平が廊下に出ると、そのまま突如として立ち止まった。

 

「どうしたの? 鹿野君…。」

「いや、あれ…。」

 

 俊平が小さく指を差した先を見ると、西木野真姫がいた。廊下の教室側の壁に設置されている掲示板を眺めると、その手前に置かれた机の上の箱のチラシを手に取り、見つめる。

 見ているのを勘付かれたら、マズそうだな――。そう思った俊平は身体を教室に戻し、花陽と共に覗き込むように真姫の様子を見ることにした。

 案の定、真姫はチラシを手に取ると、きょろきょろと周囲を見回す。見られていないと思ったのか、真姫はそのまま階段を下りて行った。真姫の姿が見えなくなるのを確認した二人は、彼女がチラシを取った場所まで向かう。いったい何のチラシを見ていたのか。

 

「あれ?」

「どうしたんだ?」

 

 何かに気付いた花陽が、しゃがみ込み、物を拾う。拾った物は、生徒手帳だった。

 

「アイツも抜けてるとこあるなー。」

 

 少々辛口気味な評価をこの場にいない真姫に下した俊平に、花陽は苦笑いでやり過ごす。それに、と言いながら俊平は机に置かれたチラシを取り、描かれた内容を見る。数秒見ると、それを花陽に渡した。

 

「変な所で意地っ張りだしな。」

 

 チラシに描かれていたのは、μ'sのメンバー募集のチラシであった。そういえばと花陽は思い返す。μ'sのファーストライブには自分や凛、俊平は勿論だが、真姫も来ていたような気がする。

 

「なあ、それに西木野ん家の住所って書いてあったか?」

「え? う、うん…。」

 

 戸惑いながらも花陽は答えると、俊平は「なら話は早いな」とどこか一人で勝手に結論付けた。

 

「それ今から届けに行くなら、俺がアイツの家まで案内するぞ?」

「えっ? で、でもだったら…。」

 

 俊平が渡しに行った方が効率的ではないのか――。花陽はそう思ったが、次に出された俊平の言葉に、彼女の言葉は口に出されなかった。

 

「いい機会だからアイツの友達を増やす。あんな性格だから未だにクラスでも俺としか話をしていないしな…。」

「……私も一緒に行くよ。」

 

 花陽の同行宣言に「助かる」と短く言った俊平はホッと胸を撫で下ろすと、意気揚々と階段を下り始めた。

 

「…あっ! ま、待って鹿野君~!」

 

 数秒経って、漸く花陽が遅れて俊平に追いつこうと小走りでついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっちゃん、ただいま。」

「おお、陽人。お帰り。」

「よう、邪魔してるぜ。」

 

 於母影堂に帰ってきた陽人を、輪嶋と水乃の二人が出迎える。水乃が来てからそれほど時間が経っていないのか、彼の目の前に置かれたコーヒーは淹れたての状態と然程変わりないものだった。

 

「おっちゃん、俺もお茶ちょうだい。」

「今から淹れるのか? 面倒臭いな…。」

 

 渋る輪嶋に、「別に市販のやつでいいからさ」と陽人が譲歩すると、彼は「それならまあいいか」と台所へ歩を進めた。

 

「さて…悪いが早速本題に入らせてもらうぞ?」

 

 台所に行った輪嶋を見送ると、水乃は向かい合った陽人に目を向ける。お互いがお互い、真剣な表情をしていた。水乃が陽人に用があって於母影堂にやってきたという事は、陽人が関わる事件が回ってきたという事に他ならない。

 

「お前らがライブに向けて練習をしている間に、ある事件が起こってな。」

 

 そう言いながら、水乃は陽人に大きなサイズの封筒を渡す。中に入っているのは言うまでもなく、事件の資料だ。

 

「と言っても、起こったのはライブの一週間前からだな。そこから二件、同一犯と思われる事件が発生したのさ。」

 

 事件現場や被害者のプロフィールなどが詳細に書かれた資料を陽人は読む。が、直後。彼の表情は嫌気がさしたようなものになった。陽人の表情の変化を見た水乃も、やはりと言わんばかりに息を吐いた。

 

「若い女の子がこんな悲惨な目に遭うとなぁ…居た堪れないねこれは。」

 

 いつの間にか陽人の後ろから資料を覗き込んでいた輪嶋が、悲し気に呟く。陽人も輪嶋の言葉には同じ気持ちだ。ましてやこんな光景など、当事者でなければ見たくもない。

 事件現場の写真には、被害者が写っていた。名前は天海(あまみ)()()。湘蘭高校一年生。死因は槍と思しき物での刺殺。高校に入学して間もない時期に殺されるというのは、被害者は勿論、遺族のやるせなさも計り知れないものだろう。

 そして何よりも、被害者は殺される直前に、辱めを受けていたという事だ。現場の写真を見て陽人が嫌悪感を抱いたのは、それが理由にある。被害者の状態は、全裸だった。それはつまり、強姦されたという証左である。中学を卒業し、進学したての高校生がこんな目に遭うのだ。精神的に絶望してもおかしくはない。

 二人目の被害者である、()()()(ずみ)も同様の状態で発見された。二人が通っている高校は其々違うものの、両者共に帰りの通学路の途中で襲われ、殺されたというのが警察の見解である。

 

「ったく…思春期真っ只中の青少年に、こんなもの見せて欲しくないですけど…。」

「ああ、問題はそこじゃない。というよりは、寧ろ被害者のそばにあるものに注目してほしいんだ。」

 

 そう言って、水乃は天海が写された写真の隣にあるもう一枚の写真を指差した。そこに写されているのは、彼女の手元に添えるように置かれた蒲公英(タンポポ)の花だった。

 

「なんで蒲公英の花が…。」

「そうだ、問題はそこだ。」

 

 被害者が襲われた公園には蒲公英の花は咲いておらず、被害者が道中に蒲公英を持ち去ったとも考えにくい。つまりこれは、犯人がわざと置いたということになる。

 

「でもこれだけで、水乃さんのトコにまで資料が行き渡るんですか?」

「確かに一人目の被害状況だけなら、ただの強姦殺人で終わっていたろうさ。二人目の資料、ちゃんと見てみろよ?」

 

 促されるままに、陽人は二人目の被害者である小野伊澄の資料を読む。文を読み進めるうち、陽人の表情は徐々に強張っていった。

 

 ―――死因は頭部に複数の傷が見受けられており、撲殺に近い方法で殺されたと思われていたが、更に深く頭部の傷を調べたところ、数センチ間隔で傷を負っていることが判明。傷の深さは脳にまで達していることが更に明かされた。これにより直接的死因は、頭部を複数箇所、脳に達するほどに傷つけられたためであると決定。

 被害者の背中には三十センチ程の穴が開かれており、死後に作られた可能性が高いと思われる。

 

「三十センチの穴を被害者の背中に開けるなんて、人間業じゃない。ファントムかどうかまでは解りませんが…確実に怪人の仕業だ。」

 

 資料を読み終えた陽人の結論に、水乃も「だろうな」と短く同意する。少なくとも、一人目の被害者と二人目の被害者に対する殺害手法は違えども、僅か三日で女子高生が連続して被害に遭うのはあまりにも物騒過ぎる。同一犯の可能性があるとみて、間違いないだろう。

 

「しかし、何でわざわざ二人目の被害者の背中に穴を開けたんだ?」

「簡単な事です。」

 

 何故かと疑問を発する輪嶋に、水乃は答える。陽人も水乃の答えが解っているのか、こくりと頷いた。

 

「犯人は俺達警察をなめている。捕まえられるものなら捕まえてみろ。そうそう簡単に辿り着けるかな? …てな具合にな。」

「少なくとも、自己顕示欲が強いのは確かでしょうね…。」

 

 挑戦状。明智小五郎と怪人二十面相のように、知能犯の如く警察に挑むように犯罪を実行するのは、現代で御目にかかれないが、こんな形で見たくは無かったというのが三人の心境であった。思わず揃って、ため息を吐いてしまうほどだ。

 

「しかし、不謹慎かもしれないが…二人目の被害者の背中の穴。綺麗に真円で開けられてるね。」

 

 背中の写真を見た輪嶋が、感心したように呟く。確かに人の身体に穴を開けること自体、簡単ではない。例えば銃弾が身体を貫いたとしても、それが綺麗に穴を作るかといえば、答えは殆ど“NO”だ。撃たれた側がマネキンの如くがちがちに動かない状態で撃たれ、かつ、銃弾が貫通する際にも直立不動でいられたらまだ可能性はあるが、それは最早ゼロに等しい確率だ。痛みを伴う以上、撃たれた側は動いてしまうのが普通なのだから。

 ところが写真に写された被害者の背中の穴は、死後のものとはいえ綺麗に開き過ぎている。まるで被害者に開けられた穴そのものに、意味があるかのようだ。

 

「そういえば、被害者の口の中に妙なものがあったな…。」

「妙なもの?」

 

 思い出したように言葉を発した水乃に、陽人は訊く。

 

「ああ、梅干しの種だ。帰り道の最中に梅干しを食うような子じゃないって、被害者の両親は言ってたし、俺も普通そうだよなって変に感じたんだ。」

 

 梅干しの種も、犯人が被害者の死後に口に含ませたものとみて間違いない。しかし、何故梅干しの種なのか――。

 

「梅干しの種で学生って言ったら、日の丸弁当だな。被害者が殺害された日の弁当の中身は何だったんです?」

「それがその日は、母親が朝寝坊して弁当を作ってないそうで…。」

「日の丸弁当…。」

 

 大人二人の会話に陽人が耳を傾けると。何かが引っ掛かっている。日の丸弁当。白いご飯の真ん中にポツンと梅干しが置かれた、日本の国旗である日の丸をイメージさせた弁当。

 日の丸で思いつくのは、太陽。かつての旭日旗が堂々と太陽を彷彿とさせるものだったが、軍旗のイメージが根付いた現在は、中心に赤い丸が置かれただけのシンプルな国旗になっている。

 

(太陽…。)

 

 そういえば、と陽人は思い出す。太陽を想起させる花を言うとすれば、まず向日葵が真っ先に名を上げるだろう。

 

(次いで、蒲公英…。)

 

 一人目の被害者の傍に添えるように置かれた蒲公英の花と、二人目の被害者の背中に日の丸のように開けられた穴。

 まるで、何かを暗に示しているようだ―――。

 そこまで思った時、陽人の肌に鳥肌が立つのを感じた。慌てて、捜査資料を見直す。

 

「おい、どうした…?」

 

 水乃が呼びかけるが、陽人には聞こえなかったのか、黙々と捜査資料を読み直している。こうなってしまった以上、陽人が反応することは調べ終わらないとないだろう。仕方なく水乃は、お茶菓子に舌鼓を打つことにした。

 しかし、それはすぐに一分も経たずに終わった。捜査資料を読み終えた陽人はそれを乱暴にテーブルに置くと、長い息を吐いた。吐き終えると、陽人はポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかけ始めた。焦る気持ちが出ているのか、無自覚に貧乏ゆすりをしていた。

 

「もしもし、俊平か? 今お前、どこにいるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅええ…!? 西木野さんってお金持ちなの!?」

「確かに、初見なら驚くこと間違いなし! だよなぁ…。」

 

 花陽は、眼前の真姫の自宅に(おのの)いた。真姫の家は、見てくれは豪邸と言っても差し支えない程の絢爛さを醸し出しており、何度かお邪魔させてもらった俊平も、未だに緊張してしまうことがある。

 しかし、ここで立ち往生してもどうにもならない。俊平は早速インターホンを押した。

 

『はい?』

「真姫さんのお友達の鹿野俊平でーす。今日は他の友達連れて遊びに来ましたー!」

『あら! 俊平君なの? ちょっと待っててね…。』

 

 女性の声がインターホン越しに聞こえると、俊平はこなれた様子で会話をやり取りする。会話を終え、一息つく俊平を、花陽は唖然と眺めていた。

 

「か、鹿野君って…ここに来たことあるの?」

「ん…ああ、まあ何回か。」

 

 花陽の質問に俊平は濁すように答えると、西木野家の門と玄関口が開いた。そこにいたのは、一見すると真姫の姉と見間違えるほど、真姫にそっくりな女性だった。

 

「いらっしゃい、俊平君。そちらの子は?」

「あっ…は、はい! ま、真姫さんと同じクラスメイトの…小泉花陽です…!」

「小泉さんね、よろしくね! 真姫の母です。今、真姫は病院の方に顔を出してるから…お茶出すから、待っててくれる?」

「病院…ですか?」

「ああ、ウチ病院を経営していて…あの子が継ぐことになってるの。今はこっちに入れ込まなくてもいいのにね…。」

 

 どこか困ったような笑みを浮かべながら、真姫の母は先導し、二人をリビングルームまで案内した。リビングに入ると、花陽はまた驚いた。部屋にはトロフィーや盾などがところせましと置かれており、それが却って花陽に緊張感を増すことになった。俊平はというと、ソファに座り、出された紅茶を悠々自適に飲み始めていた。何度も来たことがあるからなのか、それとも神経が図太いだけなのか。彼がここまで堂々としていられるのは、彼のみぞ知ると言ったところだ。

 

「ただいまー、誰か来てるの?」

 

 そうこうしているうちに、真姫の声が聞こえてきた。どうやら、帰ってきたようだ。

 

「よ! 邪魔してるぜ!」

「お、お邪魔してます…。」

 

 明るくなんてことのないように挨拶する俊平と、遠慮がちに苦笑い気味な花陽。対照的な二人の調子に、真姫は呆れた表情を隠さなかった。

 

「ご、ごめんなさい…急に…。」

「何の用? まあどうせ、そこの馬鹿が嗾けたんでしょうけど?」

「えー、それは酷くないか?」

 

 真姫の辛辣な言葉に、俊平は「ぶーぶー」とブーイングを出す。強ち間違いとも言い切れないため、花陽は苦笑いで受け流すことにした。

 

「これ、落ちてたから…。西木野さんの…だよね?」

 

 そう言って花陽はブレザーのポケットから、真姫の生徒手帳を取り出し、それを渡す。

 

「何で貴方が…?」

「ご、ごめんなさい…。」

「何で謝るのよ…。あ、ありがとう…。」

「いつもこれくらい正直なら俺も苦労しないんだけどなぁ…。」

「茶化すなら帰りなさい?」

「すいません、もう少しだけ居させてもらいます。」

 

 漫才めいた俊平と真姫のやり取りに、花陽は唖然として二人を交互に見やる。学校内では俊平から絡んで、真姫が鬱陶しそうにあしらう光景を度々見かけるが、それでも真姫は俊平の事を本気で嫌っている訳ではないようだ。“喧嘩するほど仲が良い”というのではないかもしれないが、それに近いものを花陽は感じた。

 

「そ、そういえば…私の生徒手帳、どこに落ちてたの?」

 

 俊平の相手をするのが面倒になったのか、真姫は花陽に顔を向けて訊く。一体いつ生徒手帳を落としたのだろうか。真姫自身には覚えがなかった。

 

「それなんだけど…μ'sのポスター…見てたよね?」

「わ、私が!? 違うわよ、人違いじゃないの?」

 

 花陽の指摘に真姫は図星を指されて恥ずかしくなったのか、照れ臭そうに否定する。だがそうは問屋が卸さなかった。

 

「西木野…お前の生徒手帳が落ちてた場所って、小泉が言ってたμ'sのポスターがあった所なんだよ。」

「ち、違うの! それは…!」

 

 俊平がトドメと言わんばかりの補足を真姫に言うと、思わず彼女は立ち上がりまた否定しようとする。が、勢い余って膝をテーブルの角にぶつけてしまう。

 

「痛っ…たああぁ~っ!?」

 

 膝の激痛に悶えて片足立ちになっていると、やがてバランスが取れなくなったのか真姫は後ろに椅子と共に倒れこんだ。

 

「だ、大丈夫!?」

「派手に転んじまったな…。」

 

 花陽と俊平が、心配そうに転倒した真姫を見る。幸いにも、ソファがクッション代わりになって大きな怪我はないようだ。

 

「へ、平気よ…! 全く、貴方達が変な事言うから!」

 

 転倒した状態で言いがかりをつける真姫に対し、思わず俊平と花陽はプッと吹き出し、堪えきれずに笑い出した。

 

「もう…笑わないでよ!」

 

 真姫がそう言っても、意外な一面を見せた彼女に対する笑いは、二人には止まらなかった。

 

 

 

 

 

「私が、スクールアイドルに?」

 

 スクールアイドルにならないのか―――。花陽に訊かれた真姫は、思わず訊き返す。花陽はそれに「うん」と答えた。

 

「私…放課後いつも、音楽室の近くまで来てるんだ。西木野さんの歌…聴きたくて。」

「私の?」

「うん…。ずっと聴いていたいくらい好きで…だから…。」

「私ね…?」

 

 ―――どうかな? とまで言おうとした花陽の言葉は、直後の真姫の言葉によって遮られた。

 

「大学は医学部って決まってるの。」

「そうなんだ…。」

 

 暗にその誘いには乗れないと返した真姫に、花陽は残念そうに返す。

 

「だから、私の音楽はもう終わってるって訳。」

「だからってお前…そんな早いうちから勉強ばかりなのもどうかと思うけどなぁ…。」

 

 俊平も真姫の言いたい事を理解したのか、意見を物申す。だがそれでも真姫は頑なに譲らなかった。

 

「いいのよ別に。元々ここに入りたかった訳じゃないから…。」

「…そうか。」

 

 これ以上根掘り葉掘り訊くのは野暮な真似だと思った俊平は、話を区切ることにした。

 

「それより貴方…アイドル、やりたいんでしょ?」

「え?」

「この前のライブの時、夢中で観てたじゃない?」

「え、西木野さんもいたんだ?」

 

 まさか自分に話を振られるとは思っていなかった花陽だが、それよりも意外に思ったのは、真姫があのライブを観に来ていたということだ。

 

「いや…私はたまたま通りかかっただけだけど。」

 

 あくまで否定する真姫に、俊平は思わず俯いて笑いを堪える。そんな俊平の様子を見た真姫は、後日説教でもしようかと思った。だが今は、花陽の方を優先だ。

 

「やりたいならやればいいじゃない。そしたら…少しは応援してあげるから。」

「俺も西木野に同意するぜ。いつまでもやりたい事をやれなかったら、残るのは後悔だけなんだしな。もし、あと一歩の勇気が出せないっていうなら、俺が…いや、俺達がその勇気を後押しして出させるからさ。」

 

 俊平と真姫の励ましに心が温かくなった花陽は、笑みを浮かべると「ありがとう」と礼を言う。礼を言われた二人はお互いの視線を合わせると、微笑んで返した。

 その直後、ピリリリリ、という着信音が鳴り響いた。

 

「あ、悪い…俺だ。早めに終わらせるから、小泉は待っててくれ。」

「え、うん…。」

「…仲がいいのね?」

 

 どこか羨ましげな真姫に、花陽は「うーん、最近物騒だからじゃない?」となんてことのないように返した。俊平は二人の様子に気にすることなく、電話に応対する。相手は陽人だった。

 

「もしもし、俊平か? 今お前、どこにいるんだ?」

「アニキ? 今は西木野の家にお邪魔してるトコっすけど…。」

「はあ? なんでまた?」

「何でって…西木野が生徒手帳を学校に落として、それを小泉と一緒に届けに来たからなんですけど…。」

 

 陽人から呆れたような声が返ってくるが、それに対する返答に陽人は「ん? 今小泉さんも一緒にいるのか?」と気を引き締めたかのように訊き返した。

 

「ええ、それが…?」

「…なあ、俊平。小泉さんの下の名前って分かるか? 読みだけじゃなくて、ちゃんと漢字の方も。」

 

 訊かれた俊平は、思わず唸る。そう言われると、花陽の名前はいつも担任が朝のホームルームでクラスメイトの名前を呼んでいるため分かるが、どういう漢字があてられているのかと言われたら、俊平には自信が無かった。

 

「ちょっと聞いてみますね…。なあ、小泉?」

「ピャアっ!? い、いきなりどうしたの鹿野君?」

 

 「キャア」とか「ヒャア」とかじゃないのか――。一風変わった悲鳴を聞いた俊平は戸惑いながらも、訊いてみることにした。

 

「お前の下の名前って、“はなよ”だよな?」

「う、うん…そうだけど…?」

「漢字って何あててるの?」

「え…? 花弁の“花”に、太陽の“陽”だけど…それがどうかしたの?」

「いや、何でもないよ…だそうですけど?」

 

 電話に戻った俊平に、陽人は「そうか、わかった」と一言だけで済ませた。

 

「俊平、小泉さんをちゃんと家まで送ってやれよ?」

「え、はあ…って切れたし。何だ一体?」

 

 まあ陽人が念入りにそう言うという事は、何かしら危険な状況に足を踏み入れつつあるのかもしれない。俊平自身は勿論の事、知らない内に花陽も。

 

「…よしっ!」

 

 気合を入れた一声。気を引き締めた俊平は、帰る準備をすることにした。

 

「それじゃあ俺もう帰るわ。小泉、送ってくぞ?」

「え、いいの? じゃあ…お言葉に甘えて。」

 

 控えめな調子ながら俊平に甘えることにした花陽は、俊平の分の鞄も取ってそれを渡す。受け取った俊平は、真姫に視線を向けた。

 

「それじゃあ西木野、また明日な。念のために言っておくけど、最近は物騒になってきてるらしいからさ。先生も言ってたし、気を付けろよ!」

「その台詞、そっくりそのまま返すわよ?」

 

 とうの昔に気心の知れた間柄と見せんばかりの二人の会話に、花陽は微笑んだ。

 

「二人とも、仲いいね。」

「そりゃあ、俺とコイツの仲だからな!」

「そういう言い方やめてくれる? 虫唾が走るわ…。」

 

 真姫の辛辣な言葉に俊平は「酷いっ!?」と大袈裟なリアクションを取る。それがまた、花陽には面白く感じた。

 

「じゃあまた明日、西木野さん。」

「おっと、じゃあまた明日な!」

「ええ、またね。」

 

 真姫の家を出た俊平と花陽は、花陽の家まで歩き始めた。空は夕暮れで、そろそろ日の入時になりそうな頃合いだった。

 

「…色々、あるんだなぁ。」

 

 歩きながらぽつりと、花陽が呟く。俊平も小さく「そうだな」と呟き同意した。

 

「自分の生き方は自分でしか決められないからな。俺なんて昔は札付きの悪だったしな!」

「えええ…とてもそうは見えないけど…。」

「いやいや、俺はこう見えて…」

 

 じろじろと花陽が俊平を眺めるのをよそに、彼は昔話を語ろうとした矢先だった。

 一陣の矢が、花陽を目掛けて射抜こうとしていた。

 

「危ねえっ!!」

 

 咄嗟に俊平は花陽を庇い、自身と彼女の身を伏せた。いきなり身を伏せられた花陽には、当然ながら状況を理解できていなかった。理解しようとする前に、声が響いてきた。

 

「あーあ…失敗しちまったぁ…。」

 

 気だるげな、ハイバリトンの声色。それとは裏腹に、威圧感を与える何かが男の声にはあった。

 やがて、男の姿が見える。中年太りの腹を隠さない、五十代の男性。背広はよれよれ、髪はぼさぼさ。サラリーマンの格好としては不格好過ぎた。

 だがそれでも、男が放つプレッシャーは、俊平達の空気を重くさせた。

 

「なんだァ? 男と一緒かよぉ…。じゃあ…標的宣言だ。」

 

 男はそう言うと、口を裂けるほどに大きく開き、肌の色を変化させた。肌は黒いが、その顔はまるで動物で言うなら豹。しかし、人間ではない。では何と形容すれば良いのか。答えは一つだ。

 

「か…怪物…。」

 

 怯えた声で、花陽は眼前の怪人を評する。悪評を聞かされたはずの男は、醜悪の笑みを浮かべくっくっく、と笑い始めた。

 

「嬉しいねぇ…そう言ってくれるなんて。そりゃあ俺達…いや、俺だけか? まあ少なくとも…このフルーレティ、増々君を絶望させたくなる。」

 

 フルーレティ。そう名乗った怪物は、二〇センチ程の極細の筒を取り出した。

 目の前にいるのは、ファントムだ―――。俊平はそう確信できた。

 何としてでも花陽を守らなければ。でなければ、花陽が絶望してファントムを生み出してしまう。

 

「それじゃあ…リア充爆発しろぃ!」

 

 気だるげなフルーレティの宣言とともに、ファントムの口にあてた筒から、矢が発射された。

 

 

 

 




次回、Love live is SHOWTIME!!


「やっぱりバケモンってのは…こうでなくちゃなあ!」

「スクールアイドルなら、やりたいって気持ちを持って、目標を持って、やってみる事は出来る!」

「魔法使いで仮面ライダー…という事は! 仮面ライダー“ウィザード”ですね!!」

「俺が最後の希望になってあげるよ。」


さあ、ショータイムだ!
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