Love live is SHOWTIME!! 作:ホームズの弟子見習い
あとなんか急に執筆意欲がわき出したので。
フルーレティが発射した矢は、俊平を殺そうとしていた。
殺意が込められた矢を、俊平は寸でのところでかわすことに成功した。幸いにも、花陽もしゃがんでいたため、矢に撃たれることはなかった。
だが、俊平がかわせたのは神がかり的な偶然としか言いようがない。
「なら、ぶっ刺してやるかぁ!!」
そう言うとフルーレティは、口元から筒を離し、それを大きく振るった。筒の先端は尖り、柄の部分も筒の時とは違い、五十センチ程の長さになっている。
俊平は拳を構える。向こうが槍を持つなら、此方もまた接近戦に応えるだけ。だが、ただの人間である俊平とファントムのフルーレティとでは、余りにも力量差が大き過ぎる。
「死になァ!!」
俊平を殺さんと、フルーレティは槍を突きだす。日頃陽人と手合わせをしていたおかげか、俊平はかわすことが出来た。
「あーチクショ! 旨くいくもんじゃねえか…。」
愚痴をこぼすと、フルーレティは槍の攻撃をまた繰り出すのかと思えば、得物を持つ手をだらりと下げた。
俊平はフルーレティの行動が読めないでいた。一度矢を射撃したかと思えばそれを止め、得物を槍に変えて攻撃すれば、一度かわしただけで攻撃をやめた。
人間態の雰囲気からして、どこかズボラともルーズともとれる性格が、垣間見える。
「やっぱりバケモンってのは…こうでなくちゃなあ!」
フルーレティの突然のノリノリのトーンの声と共に、持っていた槍が大きく振りだされた。
振るったと同時に、目が眩む程の衝撃波が目の前に出てきた。
「…くっ!」
俊平は思わず、目を半目にしながらも防御する。
隙を突かれた――。俊平は舌打ちする。今の状態では、敵がどのような攻撃を仕掛けてくるかわからない。一歩でも間違えれば死と背中合わせの状況で、俊平は完全に後手に回ってしまった。
「さぁーて…こいつがどうなってもいいのかな…?」
「あ…あ…ああ…」
後ろから、フルーレティの声が聞こえてきた。直後に、花陽の怯えた声も。
「小泉っ…!」
声の方向に振り向くと、花陽の背後にフルーレティが位置取り、彼女の首元に筒を添えるようにあてていた。その筒は、吹き矢を発射した時の状態でもなく、槍の形態でもなく、短剣の形状のものになっていた。
しくじった――。俊平は己の浅はかさを恥じた。暗殺する様に一度目の矢が発射された際は、花陽をターゲットにしていたのか、俊平は彼女を庇うことで何とかなった。だが実際に相見えると今度は俊平に標的を変えたのか、攻撃パターンをその都度変えて俊平に攻撃してきた。次の攻撃も自分に目掛けてゆくのだろう。無意識下にそう思ってしまったので、ここで花陽を人質にとるとは思っていなかった。所詮、ファントム。人の醜さを象ったような怪物なのだから、真っ向から挑む方が間違いだったのだ。
「コイツを殺されたくなきゃあ…。あー…そこまで考えてなかったな…。とりあえず、テメエで勝手に死んでくれよ?」
悪趣味なことだ。大方、そうすることで花陽に責任を負わせて絶望を促し、ファントムを生み出す魂胆なのだろう。
「なるほどなるほど…。結構考えてるんだな?」
唐突に、俊平の声でもない、フルーレティの声でもない、第三者の声が聞こえてきた。声の主を知っている俊平は笑みを見せていた。フルーレティは声の聞こえる方に視線を向ける。後ろだ。後ろには、男がフルーレティの右の首元に刃をあてていた。
「だが甘い!!」
男がそう言うと同時、刃はフルーレティの首元から背中にかけて切り裂いた。直後、俊平は思い切り踏み込み、ボディブローを喰らわせた。ファントムは人間と違い、並大抵の斬撃や打撃では簡単に死ぬことはないし、ダメージを受けることもない。だが、男の斬撃と俊平の腹部への一撃はそれなりのダメージを与えていた。
だからフルーレティは、花陽の首元に当てていた得物を離してしまった。それを好機と見た俊平は花陽をフルーレティから引き離すことに成功した。取り逃がしたことをフルーレティが自覚したのも束の間、男の放った回し蹴りがフルーレティの顔面に激突した。
「ごぁ…っ!」
蹴りを受けたフルーレティは背中を地に伏せ、倒れてしまった。その間に、男は俊平と花陽のもとに駆け寄った。
「大丈夫か、二人とも?」
「何とか無事っすよ、アニキ!」
「は、はい…希月先輩! ありがとうございます!」
駆けつけたのは、陽人だった。もしもの時のために、俊平は自分の携帯にGPS機能をONにしていたが、これが功を奏した。俊平の位置情報を把握できた陽人は、於母影堂からバイクで走ってここまで来れることができた。
「指輪の魔法使いいぃぃい…!!」
辺りが一気に冷えるような、怒気を孕んだ声が聞こえた。立ち上がったフルーレティが、先程までの気だるげな雰囲気とは違う、真逆のもの。シンプルに殺気だけを放ったよような威圧感が、陽人達に向けられていた。
「二人は下がっててくれ。」
【Shaba Do Be Touch HENSHI-N. Shaba Do Be Touch HENSHI-N.】
ウィザードライバーを現し、そのベルトからラップ調のような英語音声が鳴り響く。俊平は花陽を引っ張り、数歩だけ後ろに下がった。
「変身。」
【FLAME PLEASE. Hea…hea…HEA,HEA,HEA!!】
〔フレイムスタイル〕リングをウィザードライバーのハンドオーサーに添えるようにあて、指輪がはめられた左腕を横に突き出す。そこから具現化されるのは、紅く煌めく魔法陣。それは彼の身体を覆う様にすり抜け、陽人は変身を終えた。
俊平は何度も見てきた。彼が踏む変身プロセスを。
花陽は驚いた。先輩が異形の戦士へと変貌するのを。
フルーレティは忌々し気に見つめる。指輪の魔法使いを。
陽人はフルーレティを睨む。変身を終え、仮面ライダーウィザードとして。
「さあ…ショータイムだ!」
「てめぇだけでやってろぉ!!」
ウィザードの宣言に、フルーレティは憎悪の声を上げながら此方に向かう。武器はお互い持っていない。ウィザードは〔コネクト〕リングで取り寄せることが出来るが、フルーレティがいの一番に突っ込んできたため、そうする暇がなかった。フルーレティは、ウィザードの出現により頭に血が上り、拾い忘れてしまったためである。
ウィザードはフルーレティの左ストレートを受け流す。と同時に、掌底を怪人の腹部に叩き込んだ。その拍子に、フルーレティの身体は少しだけ浮く。そこからさらに、ウィザードの肘打ちが胸部にヒットした。
「ぐおっ…!」
短く、呻き声をあげる。肘打ちはヒットし、フルーレティの身体はさらに浮いた。目測だが、五メートル程だろう。
ウィザードは逃がすまいと飛び上がり、三日月蹴りを放つ。だが蹴りはフルーレティが右腕でガードしたことで、大きなダメージは与えることは出来なかった。
「チィッ…!」
三日月蹴りが失敗したウィザードはすぐさま体勢を整えて、右足で踏み台を踏むようにフルーレティをストンピングし、後ろに飛び降りた。
【CONNECT PLEASE.】
距離が開いたことで、ウィザードは早速ウィザーソードガンを取り出す。取り寄せた武器は銃形態で、ばら撒くように弾丸を放った。
簡単にくらうわけにはいかないと、フルーレティは自らの足元に石を一つ投げた。そこから現れたのはグールだった。グールはフルーレティの盾となり、代わりに弾丸を受けた。弾丸をくらったグールは悲鳴を上げる間もなく、そのまま爆発した。
「あー…勿体ねえことしちまったかなぁ…。」
フルーレティがぼやく。その声色は先程俊平達が邂逅した時と同様の気怠さが見える。どうやら、冷静さを取り戻した可能性がある。いや、可能性ではない。実際に取り戻したのだ。でなければ、咄嗟の判断でグールを盾にするなど思いつきもしない。
「まあ指輪の魔法使いがいるんだし、ここは素直に退散しとくべきだったなぁ…。ああ、俺の楽しみを奪いやがって…。」
げんなりとした様子のフルーレティだが、“俺の楽しみ”と言っているため、やはりファントムの言動には狂気が見えている。
「んじゃ、またなぁ…。」
「待て!」
ここで逃がしてはならないと、ウィザードは逃げようとするフルーレティを追いかけようとする。だが、邪魔が入った。
「ゴオオオオオ…」
「ヒィッ…!!」
「わっ、あのヤロー…さっきのグールの時に沢山出してたな!?」
三人を囲むように、数十体のグールがじりじりとにじり寄る。ウィザードはグールの数をざっと数える。少なく見積もって二十体。多くても三十体はいるだろう。
これは少々不味い展開になったかもしれないと、ウィザードは思った。最低でも二十体のグールをこの状況で相手取るには難しい。俊平だけならまだしも、花陽も守らなければならない現状では、普通に相手取るのは難しかった。
「まあ、二人を逃がせば俺的には及第点をつけるな。」
【CONNECT PLEASE.】
再度、〔コネクト〕の魔法を使用し、俊平の足元に魔法陣を具現化させる。俊平は魔法陣とウィザードをそれぞれ一瞥した。彼は下に指をさす。ウィザードの意図を理解した俊平は花陽の手を掴み、勢いに任せて魔法陣に飛び込んだ。
魔法陣を踏み通った先は、グールの囲いから外側だった。確かに花陽を守りながら戦うのは、難しい。だが仮面ライダーウィザードはその名の通り、魔法使いだ。なので、花陽達を逃がすだけならば造作もないことだ。
「ようし、脱出成功! 逃げるぞ、小泉!」
「で、でも…!」
心配そうに、花陽はウィザードを横目に見る。視線に気付いたウィザードは、軽く手を振る。心配するなという意味を込めて手を振ったのだが、花陽には伝わっただろうか。
「ここで残ってたら、寧ろアニキの邪魔になっちまう! 早く行くぞ!!」
「う…うん!!」
意を決した花陽は、俊平に連れられこの場を離れだす。二人を見送ったウィザードは、周りのグールを見渡した。如何せん多勢に無勢といった状況だが、敵は全てグール。一体一体がフルーレティやファフニール、メデューサといった上級格なら一時の油断も許されない状況だが、グールなら多少は気が楽になる。と言っても、油断はできないのは変わりないが。
「ま、ゴチャゴチャと考えるのはやめて…とっとと追い払うか!!」
そう言ってウィザーソードガン・ソードモードを構えたウィザードはグールを掃うために、その足を踏み出した。
●
俊平達は走っていた。ただひたすらに。後ろを見ると、グールの姿は見えなくなってきている。それでもまだ予断は許されない状況だった。
「はぁ、はぁ…も、もう…駄目…。」
体力をだいぶ消費したのか、花陽が膝を手に付け立ち止まる。無理もない。全速力で数百メートル近くは走っているのだ。寧ろよくここまで走れたと褒め称えたいくらいだ。
「大分走ったからな…。どこかに休める場所は…。」
きょろきょろと、急ぎ気味に周囲を見回す。必死に走っていたが、花陽の道案内もあって、いつも彼女が通う通学路と同じルートを使って逃げることが出来た。
「あれ…そういえばここって。」
ふと、俊平は思い出す。この辺り一帯の景色に、見覚えがあったのだ。念入りに周囲を見回し、その感覚が確信に変わった。
「小泉、ここで休もうぜ?」
「えっ? …ここで?」
花陽が訝しむのも無理はない。俊平が指し示した先にあるのは、和菓子屋“穂むら”だからだ。だが俊平から言えば、寧ろ最適な休み場所と言える所だった。
「まあまあ、心配いらねえよ!」
そう言って俊平は花陽の背後に回り込み、彼女の背中を押し進める。戸惑いながらも、花陽は店の引き戸を開けることにした。
「あ、いらっしゃいませー! …あれ?」
「高坂先輩…。」
店番として出迎えたのは、制服のブレザーの代わりに、ワイシャツの上に割烹着姿を着込んだ高坂穂乃果だった。
「いらっしゃい! 穂乃果は店番があるから、二人は二階で待っててくれる?」
「は、はい…! お邪魔します…!」
「お邪魔しますっス!」
μ'sのファーストライブを観に来てくれた観客の一人、ということもあってか、穂乃果は花陽と俊平を迎え入れた。俊平は早速靴を脱ぎ踏み入り、花陽も俊平に続く。
二階に上がった二人は手前側と奥側の二つの引き戸を見つけた。
「ありゃ、どっちだったっけか…。」
悩む俊平だったが、ここでうじうじと悩んでいても仕方ない。まずは手前側の引き戸を開けてみることにした。
「ふ、ふんぬぬぬぬぬ…! こ、このくらいになれば…!!」
開けた部屋の中では、穂乃果の妹である雪穂が、顔に美容パックの一環として胡瓜付きのパックを施しながら、バスタオル一枚の姿で胸を横から抑え込んでいた。
見てはいけないものを見てしまった――。二人はそんな思いに駆られながら、素早く雪穂の部屋の引き戸を閉めた。
「ふう…奥か。」
流石に今度は部屋を開けたら奇天烈な事が目の前で起きていないだろう。と思っていたが、穂乃果の部屋から鼻歌が聞こえ始めた。まさか、と俊平と花陽はお互いの顔を見合わせ、少しだけ覗いてみることにした。
「ラーン、ラララーン! ありがとー!!」
そっと閉めた。見なかったことにしよう。海未がおもちゃのマイクを片手に、イメージトレーニングでもしているのかと聞きたくなるばかりに一人で鼻歌を歌いながら踊っているところなんて、見ていない。俊平は己の心に固く誓った。
だがどたどたと聞こえてくる足音が、そう許してはくれなかった。がらりと、穂乃果の部屋から海未が開き、やってきたのだ。
「うわっ!?」
「ひっ!?」
俯きながら引き戸を開けた海未は、宛ら井戸から這いずる幽霊のようだ。二人が驚くのも無理はなかった。そして今度は、雪穂の部屋から、部屋の主が出てきた。先程と変わらない姿で。
前門の虎、後門の狼とは正しくこういうことを言うのかもしれない。二人の迫力に怯える花陽を背に、俊平は思わず溜め息を吐いた。だが一言だけ物申したいことがあった。
「とりあえず雪穂ちゃん…服を着てくれ。」
俊平の指摘に雪穂は自分の身体を見る。途端に恥ずかしさが込み上げてきた雪穂は、そそくさと自分の部屋へ戻った。
「それじゃ、お邪魔しますっす。園田先輩。」
何かを言われるような面倒事は避けたい。俊平は早々に穂乃果の部屋に入ることにした。花陽は入るべきかどうか迷っていたが、俊平が「早く小泉も入れよ」と促されて、おずおずと入った。海未も俊平に物言う気力が削がれたのか、一つ溜め息を吐くと穂乃果の部屋に戻っていった。
「ご、ごめんなさい…。」
頬を赤らめ、恥ずかしいものを見てしまったと言わんばかりに花陽が謝る。今、この部屋にいるのは俊平、花陽、海未、穂乃果の四人だ。四人はテーブルを囲み、花陽と穂乃果、俊平と海未が向かい合う様に座っていた。
「ううん、良いよ! こっちこそゴメン…。でも海未ちゃんが、ポーズの練習をしてたなんてなぁ~…。」
「ほ、穂乃果が店番でいなくなるからです!!」
「いやいや、それだったら自分の家でやれば済む話なんじゃ…。」
意地悪な笑みを浮かべながら、穂乃果は海未へ視線を向ける。視線を向けられた海未は先程の出来事を思い出したのか、恥ずかし気な表情を見せながらも抗議した。尤も、俊平の正論に海未は図星を指されたのか、そのまま正座でまた座ったのだが。
「あ、あの…!」
「お邪魔しまーす!」
「邪魔するぜ。」
花陽が意を決して口を出そうとした時だった。男女二人の声が、部屋の引き戸を開ける音と共に耳に入った。やってきたのは、花陽達の窮地を救った希月陽人。もう一人はμ’sのメンバーの一人である、南ことりだった。
「お、お邪魔してます…!」
「あれ、アニキ。もう大丈夫なんすか?」
「ああ、片付いたからここに向かう途中でことりとばったり会ってな。」
「あ、貴方は! もしかして、本当にアイドルに!?」
花陽に気付いたことりが、目を輝かせながら訊く。ことりもまた、ぐいぐいと訊いてきたせいか、少々花陽は押され気味だった。
「偶々お店に来たから、御馳走しようと思って。穂むら名物、“穂むら饅頭”! 略して“ほむまん”!! 美味しいよ!」
そう言って、穂乃果は自身の横に置いてあった饅頭が置かれた皿を取り出し、それを花陽にあげた。多少の戸惑いはあったものの、花陽は素直に受け取ることにした。
「穂乃果ちゃん、パソコン持ってきたよ。」
「ありがとー! 肝心な時に限って壊れちゃうんだよねー…。」
ことりが穂乃果の近くまで行き、持ってきたノートパソコンを開く。テーブルの上に置いてある煎餅入りの楕円皿を、邪魔にならないように俊平はどかす。
「あ、わざわざゴメンね、俊平君。」
謝ることりに俊平は「気にしないでくださいっす!」と明るく返す。ことりもそんな俊平に微笑みを返しつつ、パソコンの電源を立ち上げた。
「それで、ありましたか? 動画は…。」
「まだ確かめていないけど、多分ここに…。」
デスクトップ画面に移り、ことりはWebサイトを開いて検索する。検索先は、スクールアイドル専用SNSだ。閲覧自体は誰でも出来るが、登録する場合は学校名とスクールアイドル名を登録しなければならない。
「あ…あった!」
「本当ですか!?」
穂乃果と海未が、横から覗き込む。陽人と俊平も、それぞれ中腰姿勢になったり、ことりの後ろからしゃがみ込んだりしてパソコンの画面を観る。
ことりが開いたのは、μ'sのファーストライブの模様を一通り映像化された動画だ。
「誰が撮ってくれたんだろう…?」
穂乃果が感嘆の声を上げる中、ことりの疑問に答える者は誰もいない。裏方に徹してくれたヒデコ、フミコ、ミカに話を聞いてみたが、三人とも動画をアップロードしていないとのことだ。ならば一体誰が動画を投稿したのか。
実は陽人は、μ'sのライブの動画投稿者に心当たりがないわけではなかった。ただその時は、「何も言わずにμ'sのアカウントのパスワードを教えて欲しい」と言われていたため、相手が相手なら大丈夫だろうと判断して、教えたのだ。勿論、念入りに釘を刺すことを忘れてはいないが。
「凄い再生数ですね…。」
「こんなに観てもらったんだ…!」
海未は驚き、穂乃果は嬉しそうな声を出す。μ’sのファーストライブの動画再生数は、五千回を超えて、既に八千回にまで到達しそうなところまで行っていた。新参者のライブ映像が、これほどまでに再生されるのも中々にない。“μ's”というスクールアイドルグループは、スクールアイドルファンにとって注目株のようだ。
「あ、ここ! ここの流れ、上手くできたよね!!」
「何度も練習したところだから、ガッツポーズしそうになっちゃった!」
「…あ、ごめん花陽ちゃん! そこからじゃ、見づらいよね? もっと近くに来てもいいよ?」
喜び合う穂乃果とことりを余所に、花陽は動画に見入っていた。そんな花陽の様子に気付いた穂乃果が声をかけるが、声をかけられた本人は気付きもせずに、真剣に動画を観ていた。
「小泉さん!」
「はっ、はい!!」
海未のやや大きな声で呼ばれた花陽は、上擦りながらも反応する。
「スクールアイドル、本気でやってみない?」
「…えっ!? で、でも…私、向いてないですから…。」
自分が勧誘されたという事実に、花陽は一拍置き驚くが、断ろうとする。
「私だって、人前に出るのは苦手です。向いているとは思いません。」
「私も歌を忘れちゃったりするし、運動も苦手なんだ。」
「穂乃果は凄くおっちょこちょいだよ!!」
「誇らしげに言う事じゃ無くね?」
海未、ことり、穂乃果がそれぞれ自分の欠点を挙げるが、余りにも堂々と欠点を述べる穂乃果には、流石に陽人はツッコミを入れざるをえない。
「でも…。」
「プロのアイドルならこいつらは駄目過ぎて即刻アウトだけど、あくまでもこいつ等はスクールアイドルだ。」
「そう! スクールアイドルなら、やりたいって気持ちを持って、目標を持って、やってみる事は出来る!」
渋る花陽だが、陽人とことりの言葉が、自分の心を動かしたような、突き刺したような気がした。
「それが、スクールアイドルだと思います!」
「やりたいって気持ちがあるなら、やってみようよ!!」
「もっとも、練習は厳しいですが!」
「海未ちゃん…。」
「安心しなよ。仮に入るなら、まずは肩慣らしからだから、走り込みだけだと思うよ。」
いいムードで終わりそうなところを、海未の厳しい言葉が入った。すかさず入った陽人のフォローに、穏やかな雰囲気は戻った。
「ゆっくり考えて、答えを聞かせて?」
「私達は、いつでも待ってるから!」
今はまだ、勇気を出す時ではないのかもしれない。そう判断したμ'sの三人は、待つことにしたのだ。
きっと誰かが、花陽の勇気を後押ししてくれる人がいる。そう信じて待つと決めたのだ。
●
あの後、花陽は陽人が送ることになった。花陽は遠慮しようとしたが、「さっきみたいに襲われたいならいいぞ」という俊平の脅しが効いたおかげか、すぐさま素直に従うことにした。
ことりと海未には、俊平が付き添うことになった。二人を送り届けるのに俊平では役不足かもしれないが、現状二人がファントムに狙われている訳でもないので、そのまま俊平は二人に付き添い、陽人と花陽の二人と別れた。
「じゃあまた明日な、小泉!」
「う、うん…またね。」
元気に手を振りながら海未とことりの横を歩く俊平に、花陽もまた小さく手を振り、それぞれの護衛相手の帰路へ向かった。
「今日は色々あったなぁ…悪いね、あんな事に巻き込ませちゃって。」
「いっ、いえ…! そんな、先輩が謝ることじゃ…!!」
フランクに話しかけながらも謝る陽人に、花陽は慌てて取り繕う。「それでも、だ」と陽人は譲らなかった。
「俺が事前にファントムを倒していれば、こんな事にはならなかったかもしれないし…。」
「それは…。」
言いあぐねる花陽に、陽人はフッと微笑みだした。
「なんて、辛気臭い話はやめにするか! なんか聞きたいことなるなら、じゃんじゃん聞いてくれよ?」
努めるように雰囲気を変えた陽人に、花陽は少しだけ有難く感じた。折角なので、陽人の厚意に甘えさせてもらうことにした。
「えっと…じゃあ…。」
「なんだい?」
「あの…あの姿って何なんですか?」
花陽の言う“あの姿”とは、言うまでもなく陽人の変身した姿の事を指しているのだろう。目の前で変身したからには、素直に答えた方が得策だと陽人は判断し、返答する。
「あれは魔法使いになってるんだ。一応、仮面ライダーに分類されているらしいぜ?」
「ええっ…!? あ、あ、あの仮面ライダーですか!?」
“仮面ライダー”という単語が陽人の口から出た直後、花陽の目はいきなり輝きだした。もしかしたらアイドルだけではなく仮面ライダーにも詳しいのかもしれない。
「魔法使いで仮面ライダー…という事は! 仮面ライダー“ウィザード”ですね!!」
「あ、ああ…一応俺もそう名乗っているけど…仮面ライダーも好きなのか?」
興奮気味に詰め寄られた花陽に少々気圧されながらも、陽人は訊く。我に返った花陽は萎んだ風船のように小さく縮こまった。
「は、はい…偶々、ネットで都市伝説の特集ページを開いて…それ以来すっかり…。」
「ああ、確かに都市伝説にはなるよな…。日本各地に留まらず、世界各国で話題に上るくらいだもんな。」
実際、公園付近で戦ったカミオとの戦闘もいつの間にか写真撮影されていたのか、数時間後にはすぐにネットニュースとして流れていた。仮面を被った戦士が、バイクに乗り颯爽と現れる。だから人は彼らを“仮面ライダー”と呼んだ。
「でも…疲れないんですか?」
興奮から醒めたのか、花陽が静かに訊く。
疲れないのか――。今まで、考えたこともなかった。あの時からずっと、ずっと追い求めながら我武者羅に戦ってきた。友の理解、恩人の支え、相棒とも言える少年との出会い。それらを得てしても、陽人は目もくれずに悪夢の体現者をひたすらに追い続けてきた。今はファントムが東京での活動を活発化してきているという情報が入ってからは追うのを一時中断しているが、却ってそれが陽人の心に余裕を与えたのは気のせいではないだろう。
「そうだな…今は大分取れてきたかな。」
「今は…ですか?」
訝し気に訊き返す花陽に、陽人は首を縦に振る。
「穂乃果達とは幼なじみなんだけどさ、六年ぶりに再会してもあいつ等は変わらないんだなって思ったんだ。三人の笑顔を見てたら、疲れなんてどこ吹く風なんてね。」
ちょっとクサかったかな――。そう付け足す陽人の顔は何処か照れ臭さが混じっていたが、その言葉に嘘偽りはないと感じさせるものだった。
「話変えるけど、小泉さんは自分がアイドルに向いていないと思っているんだっけ?」
「あ…えっと…はい…。」
陽人が振った話題に、花陽は尻すぼみながら返事する。話題変更に失敗したかと陽人は一瞬思ったが、気にせずに続けることにした。
「そこまで俯瞰的になることはないけどね。あいつ等も言ってたけど、スクールアイドルならやりたいって気持ちがあればやれるんだから。」
「それはそうですけど…。」
「もしも、小泉さんが勇気を出してスクールアイドルをやろうとして…それでも駄目になりそうな時はさ。」
そう言いながら、陽人はポケットから一つのウィザードリングを取り出し、それを花陽の掌に置いた。
「俺が最後の希望になってあげるよ。」
そう宣言する陽人の表情は、いつになく真剣で、力強さを感じさせるものだった。花陽にはそれが嬉しさと有難さを感じさせた。
「…はい! ありがとうございます!!」
「さあ、かよちん!! 西木野さん!! 鹿野君!! 行くよ!!」
「おやおや…わざわざ衆目で変身を晒すなんて大胆なこった…。」
「だからこそ、絶望に陥れる悪魔から…魔法使いは最後の希望として戦うんだ。」
「大丈夫だよ、凛ちゃん、西木野さん。私の気持ちはたった一つ。」
さあ、ショータイムだ!