Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

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気が向いた時に投稿する奴。

第16話です、どうぞー。


RING.16:そうして彼女達は、一歩進む

 

 花陽へのグール襲撃事件から一日が経った。クラスメイトの中で事情を知っている俊平が一緒に登校し、護衛の役割を買って出たことによって、朝にファントムに襲われることはなかった。

 道中、凛からは怪訝とも邪推ともとれる目で見られていたが、俊平は気にしないことにした。

 そうして無事学校まで辿り着き、今は古文の授業の最中。一人の女子生徒が一通り文を読み終えたのを余所に、俊平は昨夜の於母影堂でのやり取りを思い出していた。

 

 

 

 

 

「あんな回りくどい言い方をするくらいなら、ストレートに言ってくれれば良かったのに…。」

「確かに、それはそうかもな…。いや、よく考えたらあの時西木野さんの家にいたんだから、あれでよかったろ?」

 

 そう返されては、流石に俊平も口を閉じるしかない。事情を何も知らない花陽や真姫がいる状況で、迂闊に“ゲート”や“ファントム”といった単語を出すのは、却って不味いと言えよう。陽人の判断は、間違っていなかったという事になる。

 

「それにしても…小泉がゲートか…。」

「まさか音ノ木坂学院の生徒から、二人も見つかるとはな…。」

 

 水乃が、最初に判明したゲートの穂乃果を思い浮かべながら言葉を漏らす。一つの学校の学生から二人も、怪人が狙うターゲットと認定された。こうして考えてみると、世間は狭いというべきか、只の偶然ではない何かがあると見るべきか。

 

「色々と考えたくなるけど、まずは小泉のことを優先しましょう。第一に、アニキはどうして小泉がゲートだって思ったんですか?」

 

 尽きぬ疑問に見つからない答えを絞り出そうとしても仕方がないと思った俊平は、花陽がゲートである話題に戻し、陽人に訊いた。

 

「それなら、まずはこの資料を見てくれ。」

 

 陽人は俊平に、連続強姦殺人の資料を俊平に渡した。流されるままに受け取り、読み始めた俊平だが、陽人の例に漏れず、嫌悪の表情を隠さなかった。

 

「何も全部読まなくてもよかったんだが…。まあいいや、被害者の名前見たか?」

「えっと…『天海花奈』と『小野伊澄』って名前っすけど…それがどうかしたんですか?」

 

 訝しむ俊平に、水乃が「なるほど」と呟き、閃いたような表情を見せた。

 

「どことなく似てるな…その本来のターゲットである『小泉花陽』と。」

「ええ? どこにも似てる要素がないじゃ…。」

 

 反論しようと再度被害者の名前を見る俊平だが、みるみるうちに顔が青褪めていった。恐らく陽人と水乃の推理に、自分も気付いたのだろう。向かい合う二人も自然と頷いていた。

 

「一人一人の名前なら確かに全く似てないけど…二人の名前を合わせるとしたら、それこそ小泉花陽さんに名前が似た風になるだろ?」

「た、確かにそうっすけど…それなら何でこの二人が殺されたんすか!?」

 

 幾ら何でもこじつけが過ぎるのではないか。そう思った俊平の追求に、陽人はまた口を開いた。

 

「あくまでも推測どころか憶測の域にも出てないけど…第一に、これは俺や水乃さんに対する挑戦状の意味合いも含まれていると思う。」

「挑戦状?」

「ああ、実際遺体の写真を見ればわかるけど、メッセージが暗に示されたような痕跡が

残されているだろ?」

 

 陽人に指摘されて、俊平も資料を改めて読み始める。確かに陽人の言う通り、それぞれの遺体には奇妙な点が残されていた。

 

「ダイイングメッセージでもなさそうなのに遺体にこんな奇妙な点を残すって事は、犯人がわざと残して俺達に挑戦してきたとしか思えないだろ?」

「た、確かにそうかも…」

 

 陽人の推測に、俊平は納得した。

 

「今晩はプラモンスターと水乃さんの部下が小泉さんを見張っているから、何かあればこっちに報せが来ると思うし、今日はもう休もうか。」

「そうだなぁ…俺も報告書を書かなくちゃいけねえからさっさと署に戻るか。」

 

 各々ソファから立ち上がり、それぞれが向かう方向へ歩き始めた。遅れて俊平も立ち上がり、陽人についていくのだった。

 

 

 

 

 

「……君? …野君? 鹿野君!!?」

「…んあ?」

 

 我に返った俊平が、呆けた声を出す。きょろきょろと辺りを見回す。教壇に立つ先生はどこか怒った顔をしている。どうやら何度も自分を当てていたのに、それに気付かなかったからのようだ。

 

「次、鹿野君ですよ。三十五頁目から読んでください?」

「あ…ああ、スンマセン…。」

 

 どこかしおらしく謝る俊平に、教室内にくすくすと小さく笑いが起こるが、真姫と花陽はそんな彼を怪訝そうな目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 昼休みに入り、俊平は財布と携帯を持って教室を出ようとした矢先だった。

 

「よう。」

 

 希月陽人が、俊平が教室を出るのを待っていたかのように廊下で佇んでいた。俊平は呆れてため息を吐いた。午前最後の授業が終わって昼休みの時間になってからまだ一分経過したかどうか。それなのにこうもタイミング良く待っているという事は、授業をさぼったのだろうかと問い質したくなる。

 

「フケてねえよ。ちょっと頃合いを見計らって抜けてきただけだ。」

 

 それをさぼったというのでは――。何とか唾を飲み込むことで、指摘しそうになっていた言葉も飲み込んだ俊平は、頭をがりがりと掻いた。

 

「場所は?」

「この時間なら屋上が空いてると思うぞ。」

「了解っす。じゃあホットドッグ買うとしますか。」

「あ、ちょっと待て。」

 

 購買部へ向かおうと足を速める俊平を、陽人が呼び止めた。呼び止められた俊平は苛立ちを隠さなかったが、すぐにそれは消えることになった。

 

「奢ってやる。」

 

 その言葉と共に、陽人は予め買ってきていたホットドッグを俊平に放り投げる。ホットドッグをキャッチした俊平は、また呆れた表情を見せた。

 

 

 

 

 

 屋上に着くと、そこには穂乃果達がそれぞれ自らの弁当に舌鼓みしていた。屋上に着いた陽人達に気付いた穂乃果は、二人に大きく手を振った。

 

「おーーい! こっちこっち!」

 

 いくら屋上にいるのが自分を含めた五人のみとはいえ、こうも大声で呼ばれては恥ずかしいものだ。呼ばれた男性陣は苦笑いを浮かべた。

 

「暢気なもんだなぁ…。」

「この明るさが穂乃果らしいといえば、らしいのかもしれませんが…。」

 

 小さく漏らす陽人の言葉に反応したのか、海未が返す。

 

「まあ…そこは同意。とっとと飯食うか。」

 

 早々に手に持っているホットドッグに視線を向け、勢いよくかぶりついた。学校の購買で販売されているものであるためか、一言で言い表すならば“安物の味”といったものだった。

 

「うわあ…如何にも安い味…ってあれ?」

 

 柵の向こう側を見ながら食べていた俊平が感想を漏らした直後、何かを見つけたような声を上げた。

 視線の先に映るのは、中庭の真ん中に植え立っている木…ではなく、その付近にいる三人の女子生徒。あの髪の色とヘアースタイルは見間違いのない。星空凛と小泉花陽。そして西木野真姫の三人だ。

 

「どうした俊平? …ってあれは…。」

 

 俊平の様子に気付いた陽人も、視線を向ける。どうにも花陽の左手を真姫が、反対に右手を凛が掴んでおり、凛と真姫がその掴んだ手の者の間で言い合っているように見える。かと思えば、言い合いが終わったのか今度は二人で花陽を引き摺って歩いていった。

 

「なんだありゃ?」

「…仲が良くて結構じゃないか?」

 

 一瞬、間があったのを俊平はツッコまない。とはいえ、あの三人が気になるのは事実であった。

 

「様子が気になるなら、コイツも一緒に連れて行かせるぞ。」

【GARUDA PLEASE.】

「あっ、ガルちゃん!」

 

 レッドガルーダが起動したことに穂乃果が声を上げて、駆け寄る。此方に向かってくるのに気付いたガルーダは、驚くように「ピィ!」と鳴き声を上げるとすぐさま俊平のブレザーの胸ポケットに入っていった。

 

「うう…ガルちゃん…。」

 

 ことりの落ち込んだような声が屋上に小さく響く。ファーストライブの事件以来、穂乃果達からどんな魔法が使えるのかを訊かれ、そのうちの一つとしてプラモンスターを呼び出したのだが、これがあまりにも大人気になってしまい、毎日のようにプラモンスターを出して欲しいとせがまれるようになったのだ。

 俊平の胸ポケットからガルーダがちょこんと頭部を出しながら、ピイピイと鳴く。それに陽人はうんうんと頷いた。

 

「『今回、俺は俊平と一緒にあの三人の様子を見るために呼ばれたんだ。お前達のためじゃない。』…だそうだ。」

 

 妙にクールな翻訳をした陽人に四人の視線が集まる。視線が此方に集まっているのに気付いた陽人は、「ん?」と首を傾げた。

 

「あの…アニキ? ホントにガルーダ、そう言ってたんすか?」

「いや、最後のは俺が付け足した。」

 

 少々辛辣気味な揶揄いに、「ハル君酷いよー!」と穂乃果が頬を膨らませながら怒る。

 

「しょうがねーだろ。魔力は有限なんだし、一日動かせる程にプラモンスター呼んだら流石に俺もへとへとになるぞ?」

 

 穂乃果の抗議にもあしらうように陽人は説明する。それを聞いた穂乃果はうう、と唸りながらも納得の様子を見せた。

 

「それじゃあ俺は行ってきますんで!」

「おう、三時間ぐらいはガルーダ動かせるようにしたからな!」

 

 駆け足で屋上を出る俊平に、陽人は大声で言い残していった。さて、と陽人は自分のスマートフォンで現在時刻を確認する。昼休み終了までは、後十分を切っていた。

 

「早く飯食おうぜー。昼休み終了まであと十分切ってるしな。」

 

 その言葉を聞いた穂乃果達三人は、急いで自分の昼食に改めて手をつけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、かよちん!! 西木野さん!! 鹿野君!! 行くよ!!」

「…って何で貴方が仕切ってるのよ!」

「ふ…二人とも腕を引っ張らないでぇーーー!」

 

 凛と真姫が花陽の腕を引っ張り、教室を出ていく。それを見た俊平は、ため息を吐きながらも三人の後をついていく。

 昼休みに屋上を出た後、俊平は凛達三人と合流し、放課後にまた会えばいいと説得したのだが、それが今、授業が終わりSHRも正式に終えたことで実行されようとしているのだ。

 

「ああ、わかったわかった。ちょっと待っててくれ!」

 

 俊平も急いで、鞄に教科書や筆記用具を詰め込む。その最中に感じた羨望とも言える視線には、スルーを決め込んだ。

 

「もう! 鹿野君遅いにゃ!」

「そっちがせっかち過ぎるんだよ…はぁ…。」

 

 猫のように素早く行動する凛には、ほとほと呆れるしかない。

 

(あー…でもよくよく考えたらさっさと小泉をμ'sに加入させた方がまだましなのか?)

 

 思い返せば、花陽はいまいち自分に自信の持てない性格だったが、μ’sへ加入しようと勇気を出そうとしている。自分自身にネガティブな感情を持っている時期が、ファントムからすれば一番狙いやすい。そうなれば、ファントム側としても多少は花陽を狙う確率を下げる可能性は大いにあるだろう。

 

「と言っても、焦りは禁物だし。先輩達もメンバーはまだ募集中って言ってたから、ゆっくり歩こうぜ?」

 

 そう言って俊平は、背伸びをしながら歩き出す。俊平のマイペースにつられたのか、花陽も凛と真姫を振りほどき、俊平についていった。そんな二人の背中を見た凛と真姫も、お互いの顔を見合わせて花陽の横を歩き始めた。

 

(両端に星空と西木野が挟む形か…結果的に小泉が見えなくなって狙いづらい状況になってきてるな。)

 

 とはいえ、油断はできない。現在、窓側には真姫がいるが、真姫もろとも花陽を狙う可能性も無いわけではない。遠目から見たとはいえ、昼休みでのやり取りや昨日の西木野邸での会話を察するに、二人はそれなりに距離は縮まっていると思える。だが、そんな二人に対して被害を絶えれば、ゲートである花陽は絶望に陥るに違いない。それは幼なじみである星空凛も、例外ではないだろう。

 

「…ム。」

 

 ふと、俊平が立ち止まる。突然歩みを止めた俊平に、三人は怪訝な表情を見せた。

 

「どうしたのよ一体?」

 

 真姫が問いかけるが、それに対して俊平は無言だった。代わりに、窓に視線を向ける。まるで睨みつけるかのように、俊平は窓に目を向けていた。

 

「なあ、三人とも?」

「どうしたの?」

「今から全速力で屋上まで走るけどいいか?」

「え? どうして…。」

 

 花陽が理由を訊こうとした時には、既にスタンディングスタートの構えを取っていた。このままでは理由を訊く間もなく走ってしまう。三人も慌てながら、スタンディングスタートの姿勢を見せた。

 

「どん!」

 

 スタートの掛け声と同時に走り出した時だった。一枚の窓ガラスが大きく割れたのだ。突然の事態に、花陽達は割れた窓ガラスの方に顔を向ける。

 

「見るな!! 屋上まで走れ!!!」

 

 怒号にも似た叫びが、俊平の口から出た。めったに声を荒げない俊平に三人は驚きながらも、俊平に必死についていくことにした。

 

「確認だけど、屋上にいるんだよな!? …オーケーだ!!」

「はあ、はあ…貴方、誰と話してるのよ!」

「屋上に着いたらな!」

 

 真姫の指摘に、俊平はその場凌ぎではぐらかす。やがて屋上へ続くドアまで辿り着いた四人。俊平を先頭に勢いよくドアを開ける。

 

「俊平! 三人は無事か!?」

「あ、アニキ…! 何とか、全員無事っすよ…ゴホゴホ!」

 

 陽人がすぐさま四人のもとに駆け寄り、俊平が咳込みながらも応える。真姫と凛は二人のやり取りと現状に、理解が追いついていなかった。

 

「ねえ、俊平…一体どういうことなの!?」

「それは…こういうことだ!!」

 

 俊平への問いは、彼や陽人は違う別の男の声によって返された。同時に、槍のような光弾が花陽達目掛けて発射されていた。

 だが、それが命中することは無かった。陽人が〔コネクト〕リングでウィザーソードガンを取り寄せ銀の弾丸を放ち、それを相殺させた。

 

「ちぇっ…やっぱり邪魔されるかぁ…。」

 

 気だるげな男の声が聞こえる。声の方角へ振り向くと、そこには花陽と俊平に見覚えのある男が立っていた。

 

「ぁ…ああ…ああぁあ!」

「ど、どうしたのかよちん!?」

 

 尋常じゃない花陽の怯え様に、凛は肩を揺らして訊ねる。一方、真姫もまた恐怖と混乱の入り混じった目で俊平と陽人、そして突如現れた男の三人を見回していた。

 

「ね、ねえ…これって一体どういう事なの?」

 

 男三人の内の誰かに問いかけたわけでもない。ただ必死に、真姫は現在の状況を整理しようとしていた。

 

「わかりやすく言えば、あの男は小泉花陽の命を奪って、小泉から怪人を生み出そうとしていた…ってところだな。」

 

 掻い摘んだものながらも回答したのは俊平だった。口を開いた俊平に、真姫は視線を向けるが、その目はさらに混乱を増しているといっていいものだった。

 

「だからこそ、小泉を守らなくちゃならない。小泉が折角出しかけている勇気を、ここで閉じ込めてはいけない。小泉が見つけた希望を、絶望に変えてはならない。」

【DRIVER ON PLEASE.】

 

 流暢な英語の電子音声が、鳴り響く。どこから鳴っているのかと、凛と真姫は辺りを見回す。

 

「変身。」

【FLAME PLEASE. Hea…hea…HEA,HEA,HEA!!】

「だからこそ、絶望に陥れる悪魔から…魔法使いは最後の希望として戦うんだ。」

 

 電子音声の出処が陽人のベルトからだと気付いたのは、彼が仮面ライダーウィザードに変身した後のことだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや…わざわざ衆目で変身を晒すなんて大胆なこった…。」

 

 醜い笑みを零しながら、中年の男は怪人…フルーレティへと自らの姿を変貌させる。フルーレティの姿を目に焼き付けた真姫と凛は、当然というべきか怯えた目をしていた。

 

「ん~…これはもしかしたら…一挙両得な事態かもしれんなぁ?」

 

 フルーレティの言葉にウィザードは「ハッ」とワザとらしく鼻で笑うと、右手に持っていたウィザーソードガン・ガンモードから銀の弾丸を放った。

 

「その前に、俺を倒してからにしたらどうだ? 倒せればの話だけどな!」

「んじゃあ…そうさせてもらうかぁ!!」

 

 宣言とも言える言葉と共に、フルーレティはウィザードに接近してくる。迎え撃つために、ウィザードはウィザーソードガンをソードモードに変形させた。 

 フルーレティがダッシュと共に右脚蹴りを放つ。ウィザードはそれを左脚で受け止めつつ、自らの武器で斬りつけた。が、その剣もフルーレティの両手で白刃取りされてしまう。

 

「そぉら!」

「うおっ…!?」

 

 白刃取りされた勢いを利用して、そのままウィザードは地に転がされてしまう。それを隙と見たフルーレティは自らの武器を槍に変え、飛びながら突き刺そうとした。

 

【BIND PLEASE.】

 

 しかし、逆に飛び込んだことでフルーレティにも攻撃される機会が生まれてしまっていた。

 すかさず〔バインド〕リングを使ってフルーレティを空中で拘束することが出来たウィザードは、そのまま弾丸を撃ち込む。銀の弾丸を十発はくらったフルーレティはバインドの拘束が解除されると、そのまま地に伏せた。

 

「もう一発行くぜ…!?」

 

 更なる追撃を図ろうとウィザードが再び身体を動かそうとした時だった。

 

「あれ…? 先輩、微動だにしていないにゃ…。」

 

 凛から心配そうな声があがり、俊平も真姫も花陽も固唾を飲んで光景を見守る。確かにウィザードの体勢は、これから走り始めるということを示さんばかりのものだが、それがどうにも一切動かないものだから、俊平は目を凝らして観察する。

 

「…! オイオイ、そういうことかよ…!」

 

 事態を重く見た俊平は、思わず歯軋りをする。

 ウィザードは今、全く動いていない。そう、走り始めようとした状態から指先一つ身体を動かせない状態になっていたのだ。

 その理由は、ウィザードの影に刺さっていた槍が原因であるためだ。

 刺された槍は勿論、フルーレティのものだ。拘束から撃たれた直後、咄嗟に投げたのである。

 

「くそっ…影縫いってヤツか!」

「まあ、そんなところかな…? 人によっちゃ“シャドウブレイク”なんて言うらしいけどな?」

 

 自らの動かない身体の原因をすぐに悟ったウィザードに、フルーレティは解答を出す。洒落た技名に、ウィザードは仮面の下でハッ、と笑った。

 

「小洒落た名前じゃねえか…さぞかしこれから繰り出す技も、カッコいいモノなんだろうなぁ…。」

「…よくもまあ軽口を叩けるもんだこと。」

「何?」

 

 気怠さの中に悪意の入り混じった言葉を放つフルーレティに、ウィザードは疑問を持つ。それが氷解されるのはすぐのことだった。

 

「きゃああああああ!!」

「なっ! 今の声…!!」

 

 悲鳴のあがった方に視線を向けると、そこには穂乃果達がグールに取り囲まれていた。最悪ともいえるこの状況に、俊平は舌打ちをする。

 穂乃果達を助けに行けば、花陽達を守れるものはいなくなりファントムの餌食となるのは確実。かと言って穂乃果達を見捨てるという事は、穂乃果からファントムを生み出すも同然なので、黙って見過ごすわけにもいかない。

 

「これで、チェックメイトってやつじゃねえか?」

 

 不敵に笑うフルーレティに、ウィザードは沈黙を通す。

 

「だんまりか…まあいいや。やれ。」

 

 フルーレティの指示を受けたグールが、穂乃果達に一気に接近を仕掛けるその時だった。

 

「甘く見てると、痛い目見るぜ?」

 

 ウィザードのその言葉と共に、グールの一体が数度の衝撃によって倒れていた。フルーレティは思わず顔をしかめる。ウィザードは未だに影縫いから解除されていないため、違う。俊平は得物を持っていないため却下。では一体誰の仕業なのか。

 

「ふう…人使いの荒いことで。」

 

 男の声が、どこからか聞こえる。声のする方は、貯水タンクの方からだった。

 そこに立っていたのは、陽人の協力者の一人である刑事、水乃であった。

 

「水乃のオッサン…!」

「コラ!!  誰がオッサンだ誰が!!」

 

 喜色を混ぜて声を上げる俊平に、水乃はツッコミを入れる。そんなやり取りを行いながら、水乃は手持ちのライフルでグールを撃ち込んでいく。弾丸はグールの身体に当たり、怯んでいった。直後、水乃は穂乃果達を囲んでいたグールの一体の懐に潜り込む。同時にその勢いを利用して、ボディーブローを叩き込んだ。腹部に一撃を貰ったグールは短く呻き声をあげると、そのまま倒れ伏した。

 

「さて、お一つ貰うよ…っと。」

 

 倒れた拍子にグールの持っていた槍が落とされ、それを拾う水乃。自分達が死にかねないであろう得物を持たれたグールは、一斉に水乃に近づいていった。

 

「おいおい、お巡りさんなめんなよ?」

 

 向かってきた数体のグールに対し、不敵に微笑む。そこからの水乃とグールの戦いは、一方的なものだった。人数の差としては水乃が不利であるのだが、彼はそれをものともせず、流れるようにグールを次々と倒していったのだ。

 

「す、凄いです…!」

「まるで映画でも観てるみたいだにゃ!」

「そうね…こんなに怪物にうまく立ち回れるなんて…。」

 

 三者三様、一年生が感想を漏らす。そんな一年生の一歩前で、俊平は誇らしげに笑みを浮かべていた。

 水乃は刑事である。今でこそ今回のような特殊な事件でしか関われないが、新人の頃は複数犯を相手に対峙したり、格闘技術の高い犯人をそれこそアクション映画のように戦い、その末に逮捕したこともある。十年以上活動してきた刑事としての積み重ねがあるため、グールにも臆することなく戦えるのだ。

 

「ちっ…だけどまあ、テメエを殺せばいいだけの話だ。」

 

 水乃という伏兵に驚きはしたものの、然程気にするものでもないとして、ゆっくりとウィザードに向けて歩き始める。

 ウィザードの今の状況は最悪と言ってもいい。自身の影に槍がささってしまっているために、金縛り同然の状態に遭っている。

 

「くそっ、なら…!」

 

 グールを倒し終えた水乃が、ウィザードの元に向かおうとする。が、走り始めた途端にフルーレティが水乃に向けて光弾を放った。

 咄嗟に得物で弾くことに成功はしたものの、その得物は使い物にならなくなっていた。

 

「さて、これで邪魔が入らなくなったな…ゆっくりいたぶってやるから覚悟しとけよ?」

「悪いけど、そんな覚悟の仕方はやりたくねえな…!」

 

 軽口を返すウィザードだが、それが強がりであることは明らかである。だが今のウィザードに反撃をすることはできない。万事休すか――。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 だがそう簡単に事が運ばないのが常だ。俊平が雄叫びをあげながら、フルーレティに向かって突進を仕掛けてきたのだ。

 しかし相手はファントム。流すように俊平の突進を躱すと、そのまま蹴りをくらわせ俊平を吹き飛ばした。

 

「俊平!」

「さてさて、これで邪魔者は…。」

「まだいるんだなぁこれが!!」

 

 その言葉と共に、水乃がライフル銃をフルーレティに向けて撃ち込む。ファントムを相手取っているため、事前に魔力でコーティングされた弾丸を使っている。これを使えば、多少なりともファントムにダメージを与えることが出来るはずだ。

 

「ぐおおっ!」

 

 短く悲鳴を上げる。銃弾は無事効いたようだ。しかし、問題はまだ解決していない。俊平は蹴り飛ばされているため、すぐには動けない。ウィザードはまだ金縛りの状態から解放されていないので、代わりに水乃が応戦するしかない。

 

「くそ…こ、小泉!」

「え…ええ!?」

 

 まさか自分が呼ばれるとは思っていなかった花陽は、思わず素っ頓狂な声を上げた。

 

「小泉…!お前がアニキを金縛りから解放するんだ!!」

「え…ええええっ!? ど、どうやって…!?」

「アニキの影に刺さっている槍を抜くんだ! 恐らくそうすれば…ガハッ!?」

 

 俊平がそこまで言いかけたところで、彼の身体はフルーレティに踏まれた。フルーレティの表情は、どこか苛立っているように見えた。

 

「おいおい、何勝手なこと言ってくれちゃってんの…?」

「くっ…俊平!」

 

 怪人のもとへ駆けつけようと水乃が走りだすが、一歩目で立ち止まってしまった。二、三体と先程よりは数は少ないものの、グールが目の前に阻む様に立っていたのだ。

 

「クソッタレ…おい、眼鏡の嬢ちゃん!」

「ピャアッ! は、はい…?」

「俊平の言う通り、嬢ちゃんが槍を引っこ抜くんだ! 俺はこいつ等の相手しなきゃならんからな…!」

「そ、そんな…む、無理です! 私にそんなこと…。」

 

 水乃から頼まれてもなお、花陽の目には怯えや恐怖のような感情が入り混じっていた。果たして自分に出来るのか―――。不安が自然と顔に出ていた。

 

「小泉…一つ、いいこと教えてやるぜ…。」

 

 足蹴にされながらも、俊平は言葉を紡ぎ出す。必要なのは、彼女の踏み出す勇気の一歩だ。それを伝えるためなら、こんな痛みは耐えられる。

 

「怖ければ怖いほど、そこに飛び込めばいいんだよ…。自分一人だけじゃねえ、どうせなら周りの奴らも巻き添えにしちまえよ!!」

 

 俊平の鼓舞に、花陽ははっと大きく驚いたような表情になった。そして、ごくりと唾を飲み込む。視線は、両隣の凛と真姫に向けられた。

 

「凛ちゃん、真姫ちゃん! 手伝ってくれる!?」

「もちろんだにゃ!」

「ちょっとはマシな顔つきになったんじゃない?」

 

 花陽の頼みに、凛も真姫もそれぞれ“らしい”対応を見せ、三人共に影に刺さった槍のもとへ駆け出す。だが、そう簡単には行かないのが世の常だ。

 

「そう簡単に行かせると思うなよ…?」

 

 静かにドスの効いた声が、響き渡る。フルーレティが、踏みつけていた俊平から離れ花陽達へ歩を進めようとしていた。

 

「そうは問屋が卸さないってなぁ!」

 

 だがそれも、水乃によって阻まれた。すでに彼の手によってグールは倒されて、フルーレティの邪魔へと行動を起こしたのだ。

 

「お、オッサン…!」

「だからオッサンって言うなよ…! 嬢ちゃん達、任せたぜ!」

「は、はいっ! いくよ二人とも…!そぉーれっ!!」

「うにゃっ!?」

「きゃあっ!?」

「あうっ!?」

 

 三人で力を合わせて槍を引っこ抜いたことで、勢い余って思わず尻餅をつく。と同時に、ウィザードが「おっとっと…と。」とよろめく。それは俊平の推測が当たったことを意味していた。

 

「ふぃー…ありがとな、小泉さん達。さあ、反撃開始と行きますか!!」

「あーあ…こんなガキどもに予定狂わされるなんてな…どうしてくれるんだか…!」

 

 身体を動かせるようになったウィザードはぶんぶんと肩を振り回し、気だるげな表情とは裏腹に怒りを見せるフルーレティと向かい合う。

 しかし、動けるようになったとはいえ、まだ状況は大きく変わった訳ではない。精々が、マイナスからゼロの状態に戻った程度と言っていいくらいだ。

 

「夜まで待つのも癪だからな…これならどうとでもなるだろ!」

【WATER PLEASE.  Swi~ swi~ swi~ Swi~.】

 

 そう言ってウィザードは、フレイムスタイルからウォータースタイルへ変化する。おそらくフルーレティの影縫いに対策を思いついたのだろう、続けて右手中指に、新たにウィザードリングを取り付けた。

 

【LIQUID PLEASE.】

 

 〔リキッド〕リング。ウォータースタイルのウィザードに、一定時間液状化能力を与えるものだ。早速ウィザードは自らの身体を液状化させ、フルーレティに接近した。

 虚を突かれたフルーレティは一瞬、動くことを躊躇った。だがそれが、ウィザードにとって隙を突く形となった。

 

「があっ!? うぐぉ!」

 

 液状化状態から解除すれば斬撃を繰り広げ、再度液状化することでフルーレティの攻撃を躱し、そしてまた再び液状化から身体を戻すと銃撃を浴びせる。これがウィザードの影縫いの対策だった。

 影縫いをされることで身体の動きを封じられるのであれば、対象相手の身体をなくせばいい。それが〔リキッド〕リングによる液状化だ。液状化をすることで、自分の身体も影も無くすことでフルーレティは影縫いが出来なくなる。フルーレティには成す術がなくなっていた。

 

「さてと…フィナーレといこうか。」

【WATER SHOOTING STRIKE. Swi swi SWI! Swi swi SWI!】

 

 ウィザーソードガン・ガンモードのハンドオーサーを展開させ、〔ウォーター〕ウィザードリングが付けられた左手と合わせる。銃口には水を模した魔力が充填されていき、ウィザードはとどめを刺そうとウィザーソードガンをフルーレティに向ける。フルーレティはウィザードの液状化を使ったトリッキーな攻撃に翻弄されたのか、満身創痍の状態となっていた。

 

「ハァッ!!」

 

 短い掛け声とともに、魔力で精製された水の弾丸が、一気に五発発射された。弾丸は全てフルーレティにヒットし、そのままうつぶせに倒れこんだ。

 

「ば、馬鹿な…こんな…こんな、ことがああああ!!」

 

 自らの敗北を認められない断末魔とともに、フルーレティは爆散した。即ち、魔法使いの勝利が決まったということだ。

 決着が付いたウィザードは変身を解除し、希月陽人の姿へと戻った。穂乃果達は陽人のもとへ駆け寄り、遅れて俊平も歩を進める。水乃は壁にもたれかかり、腕を組みながら微笑んでいた。

 

「ふぃー…ようやっと終わったぜ。」

「お疲れ様、ハル君!!」

 

 言いながら、穂乃果が陽人に抱きつく。いつもなら抱きつく彼女を何とかどかそうとするのだが、生憎今の陽人にはそんな余裕はなかった。がやがやと騒ぎ立てる穂乃果達に俊平も思わず、満面の笑みを浮かべた。

 

「…あ、そういえば小泉が用事あったんだった。」

 

 ふと、何故ここまでやってきたのか思い出した俊平がぽつりと呟く。それを聞いた凛と真姫はそうだったと言わんばかりに思い出したような表情を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、メンバーになるっていうこと…?」

 

 ことりが、花陽を見ながら訊ねる。

 

「はい! かよちん、ずっとずっと前からアイドルをやってみたいと思っていたんです!!」

「そんなことはどうでもよくて、この子結構歌唱力あるんです!!」

「ちょっと!どうでもいいってどういう事!?」

 

 当事者をよそに言い争いを始める凛と真姫に、花陽は困ったような笑みを浮かべた。どうにかならないかと、俊平に視線を向けると、首を横に振った。自分では収まりそうにないということだろう。

 

「あ、あの…二人とも?」

「もう、いつまで迷ってるの! 絶対やった方が良いの!!」

「それには賛成。やってみたい気持ちがあるなら、やった方が良いわ!」

 

 二人の言い争いを止めようと口を出した花陽だったが、どうやらまだ迷っていると思われたのか、妙な所で息ぴったりに説得されてしまった。

 ただ、自分の気持ちはもう決まっている。彼女達と一緒に、彼女達を誘ってスクールアイドルをやりたい―――。そんなひとつの思いが、自分の胸の内にあった。

 

「大丈夫だよ、凛ちゃん、西木野さん。私の気持ちはたった一つ。」

 

 その言葉とともに、花陽は一歩前へ歩き出した。穂乃果達に、思いの丈を伝える為に。

 

「私…小泉花陽、一年生です。背も小さくて、声も小さくて、人見知りで、得意なものは何もないかもしれない…でも、アイドルへの思いだけは、誰にも負けないつもりです!!」

 

 その先の言葉はまだ出てこない。だが大丈夫だと、俊平も陽人も信じていた。

 

「だから…だから! ―――私と、凛ちゃんと真姫ちゃんをμ'sに入れさせてください!」

「え…? ええええええええ!?」

 

 まさかここで自分達も巻き込んで加入すると思っていなかった凛と真姫は、思わず同時に驚きの叫び声をあげてしまった。

 

「ちょ、ちょっとかよちん! 凛たちも一緒ってこと!?」

「そ、そんな話聞いてないわよ!!」

「だって、決めてたんだもん!」

 

 慌てふためく凛と真姫に、花陽は忽然と返す。

 

「スクールアイドルをやるなら、どうせなら友達も巻き込む勢いでやろうって…そう思ったんだ! それに、凛ちゃんと西木野さんと私の三人で力を合わせて槍を抜いて、希月先輩の戦いに貢献できた…。その時に思ったの。三人一緒なら勇気を出せる。どんなことがあっても乗り越えられるんじゃないかって。」

 

 ダメかな? と問いかける花陽に、凛は唸り声をあげると、「にゃあーーーーっ!!」と大きく雄叫びを轟かせた。真姫も態度は静かなものの、その小さな笑みは隠しきれていなかった。

 

「わかったよ、かよちん! かよちんがそこまで言ってくれるなら、凛も一緒に入るにゃ!!」

「そうね…。友達に頼まれたら、とても断れないわ。」

「凛ちゃん…西木野さん…!」

 

 二人から了承を貰った花陽は喜びの表情を見せ、改めて穂乃果達と向かい合う。

 

「なので私達を…μ'sのメンバーに入れさせてください!」

 

 そうして、花陽は手を差し出す。穂乃果の気持ちは、既に決まっていた。あんな思いを聞かされてはこちらが情けないようなものだ。

 

「こちらこそ! 三人ともよろしくね!!」

 

 花陽の差し出した手を握り、握手しあう。そんな六人の醸し出す雰囲気に、陽人達男性陣は微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 翌朝、朝練のために凛達が神田明神に着くと、そこには新しい自分に変わるためにということで、眼鏡からコンタクトレンズに変えた花陽が一人、準備運動をしていたとのことだった―――。

 

 

 

 

 

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