Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

5 / 17
色々あって遅くなりました。

残念ながら今回も戦闘シーンはありません。

それでは第四話です。どうぞー。


RING.4:スタートラインはまだ遠くて

 結局、音ノ木坂学院に着くのはホームルームが始まる十分前になってしまったが、穂乃果からすれば充分な余裕を持って学院に着いたと言えるものだった。陽人自身、学校に入って席に着くのはいつも十分前と相場を決めている。

 そんな二人を叱ろうとした海未だったが、穂乃果が海未の席の机に置いたものに、拍子抜けして説教の気持ちはすっかり忘れた。

 

「あの…これは?」

「スクールアイドルの特集雑誌だよ! これが今一番有名なA-RISEで、こっちは福岡のスクールアイドルでしょ!」

 

 早口で捲し立てる穂乃果を、陽人は宥める。頭を掻いて謝る穂乃果に陽人は呆れながらも、幼なじみに向き直る。改めてスクールアイドルについて説明する穂乃果、穂乃果の話を聞きながら、ことりは雑誌のページを食い入るように眺めていた。と、ここであることに気付いた。

 

「おい、海未がいないぞ。」

 

 陽人の言葉に穂乃果はハッと辺りを見回すと、確かに海未はいなかった。廊下に出てみると、海未がソロソロと静かに歩いていた。

 

「海未ちゃーーーん!」

 

 穂乃果に呼び止められた海未は思わずビクッと肩を上がらせ反応し、ゆっくりと穂乃果の方に振り向く。穂乃果の後を追うように、陽人とことりも二人と合流する。

 

「もー、何でいなくなっちゃうの?」

「そうしたくもなります! どうせ穂乃果の事ですから、一緒にスクールアイドルをやろうとでも言うつもりだったんでしょう!?」

 

 海未に自分の考えている事を言い当てられた穂乃果は、「う、海未ちゃん…エスパー!?」と驚く。だが陽人も穂乃果がスクールアイドルをやろうとことりと海未を誘おうとしているのは、コンビニで雑誌を買うと聞かされた時点で察していた。

 

「それじゃあ話は早いなあ~…海未ちゃんも一緒に…。」

「お断りします!!」

 

 そして穂乃果の誘いをまず断るということも陽人には予測済みだった。猫撫で声で誘う穂乃果をすっぱりと一言で断るのも、ありありと目に浮かぶくらいであった。

 

「えー、どうしてさ!?」

「いいですか! スクールアイドルとは生徒が勉学に励みながら、一般的なアイドルと同じような活動をするものと聞いています!! 仮にスクールアイドルを実行して廃校を阻止できるというのは、あまりにも無謀すぎるのです!!」

 

 海未の畳み掛けるような反論に、穂乃果は「で、でも…」と言葉を続かせようとするが彼女の迫力に圧倒されて何も言えなくなっていた。

 

「はっきり言って、スクールアイドルの案は無しです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~…良い案だと思ったんだけどな…。」

 

 放課後の屋上で、穂乃果は落胆の色を見せる。あそこまできっぱりと海未に否定されるとは思っていなかったためか、授業中も上の空だった。

 

「普通はああいうもんだろ。そもそもあんな博打度高い案なんて、乗る方がおかしいんだよ。」

 

 穂乃果の隣で屋上の鉄柵にもたれかかっていた陽人が、一般論を述べる。それを言われた穂乃果は、ますます顔を暗くさせた。

 

「まあ、当たるも八卦、当たらぬも八卦。俺も賭け事は割と好きな方だから、付き合ってやるつもりだけどな。」

 

 陽人の協力の申し出に、穂乃果は彼の方を振り向く。陽人はどこか意地悪な笑みを浮かべていた。

 

「ハル君…。」

「お前はいつドジを踏むか分からないからな。」

 

 嬉しく思った直後に、陽人のからかいに穂乃果は「もー!」と頬を膨らませる。陽人がそんな穂乃果を軽くあしらっていると、ふと人の気配を感じた。気配は屋上の入り口から感じた。陽人は入り口に視線を向けるが、そこには何もなかった。いや、少しだけ変わったことがある。それはドアがほんの少しだけ開いていたということだ。

 ドアは屋上に入る際に自分が閉めていたと断言できる。ドアを完全に閉めた時になる“ガチャン”という音も聴いているからだ。

 

「ハル君、どうしたの?」

 

 呼びかける穂乃果に目も暮れず、陽人はドアを開ける。開けた先には誰もいなかった。

 

「あれ…?」

「うん、どした?」

 

 陽人を追ってドアの先を覗き込んだ穂乃果が、ふと何かに気付いたのか耳を済ませ始める。

 

「なんか、歌声が聞こえるような…。」

「歌声?」

 

 陽人も穂乃果に倣い、耳を澄ませる。確かに歌声が聞こえてきた。しかし、聞こえてくる歌声は自分が知らない曲のものだった。ただ単純に自分が聴いたことのない曲なだけか、それとも歌声の主が自分で作った曲なのか。

 

「行ってみるか?」

 

 小声で穂乃果に訊いてみると、彼女は勿論と言わんばかりにサムズアップで応えた。

 

 

 

 

 

 ソロソロと静かに音楽室まで歩みを進める。やがて音楽室前まで近づくと、既に先客がいたようだ。その先客の顔に、陽人は見覚えがあった。

 

「俊平、どうした?」

「あ…アニキ。」

 

 先に来ていたのは、鹿野俊平だった。穂乃果は俊平のことを知らないのか、首を傾げていた。

 

「何でお前がここに…ははぁん?」

「うっ…何なんすか。」

「んー? どれどれ…?」

 

 陽人が音楽室の中を覗き込み、穂乃果もそれに続く。俊平はどこか照れ臭そうに頬をポリポリと掻きだした。

 そこでは、赤髪の女子生徒が備え付けのグランドピアノで弾き語りをしていた。リボンの色が水色だったことから、彼女は俊平と同じ一年生だろうということがわかる。

 余談だが、音ノ木坂学院の制服は、学年ごとに見分けがつくようにリボンとネクタイに色分けがなされている。

 それはさておき、弾き語りをしている女子生徒の歌声は見事、としか言いようのないものであった。透き通るような歌声と、バラード調の曲のテンポ。それらが巧く融合して、音楽室内には誰もいないというのにまるで観客を魅了させるかのような雰囲気を作り出していた。

 曲を弾き終えたのか、女子生徒は一息吐いた。パチパチと拍手の音が聞こえるので彼女は音の聞こえる方に視線を向ける。視線を向けた先、音楽室の扉越しには穂乃果が目を輝かせて拍手をしていた。まさか聴かれているとは思っていなかったためか、女子生徒は思わず「ウエェ!?」と素っ頓狂な驚きの声をあげた。それも穂乃果だけじゃなく、知らない男子生徒にクラスメイトの一人にまで聴かれていたのだから、驚かない方がおかしい。

 

「凄い、凄い! 歌、すっごく上手いね! それに凄い美人!」

「うぇ…そ、そんな事…。」

 

 興奮気味に誉め立てる穂乃果に、女子生徒は圧倒されていた。そんな穂乃果と名も知らぬ女子生徒の二人の様子に、陽人は思わず呆れてしまった。俊平も同様で、陽人にアイコンタクトを送る。

 

(どうにかしないんすか?)

(まあ…ここいらで止めるか。)

 

 そろそろ陽人が穂乃果を止めようとした時だった。穂乃果は女子生徒にある誘いを持ちかけた。

 

「ねえ、あなた! スクールアイドルやってみない!?」

 

 あまりにも突発的な誘いに、音楽室内の空気が一変したように陽人は感じた。それを感じたのは陽人だけではなく、俊平も同じなようだ。彼もどういった反応をすればいいのかわからないと言わんばかりに顔を引き攣らせていた。

 

「何それ…意味わかんない!」

 

 女子生徒は呆れ半分、怒り半分といった風な感情を込めて吐き捨てるように言うと、そのまま音楽室を出て行った。女子生徒が出て行った後の数瞬の沈黙の後、穂乃果は「だよね…。」という呟きを乾いた笑いとともに零した。

 

「アニキ…スクールアイドルってどういう事っすか?」

 

 今現在の状況が把握出来ていない俊平が、陽人に訊ねる。

 

「簡単な話、スクールアイドルで有名になれば廃校阻止出来るんじゃないかってこと。」

「凄いあっさりに纏めましたね…。で、それをあの人が?」

 

俊平の視線は穂乃果に向けられ、陽人は頷く。穂乃果は俊平の視線に気付いたのか、此方に振り向いた。

 

「そういえば、自己紹介してなかったっすね。俺は鹿野俊平。アニキ…希月先輩には色々恩があって、厄介になってます。よろしくっす。」

「よろしくね! 私は高坂穂乃果。ハル君とは昔からの幼なじみってやつなんだ!」

 

 双方、自己紹介を終えたのを確認した陽人は、気になっていたことを俊平に訊くことにした。

 

「んで、なんで覗き見してたんだ?」

「人聞きの悪い事言わないでくれますか!? ただ歌声が聞こえてきたからここに来ただけなんですから…。」

 

 つまり俊平が音楽室前にいたのは自分達より早く着いていたからというだけのことだ。経緯が判明した陽人は、わざとらしくつまらなさそうな表情を見せた。

 

「あからさま過ぎるんすけど…逆にアニキはなんで高坂先輩と一緒にいるんです?」

「手綱引いてるようなもんだ。あと、コイツのスクールアイドル活動をサポートすることにした。」

 

 どこかズレたような陽人の返答だったが、俊平は何となく納得してしまった。俊平の穂乃果に対する第一印象は、元気が有り余る女の子というものだった。実際穂乃果の性格はその通りであるし、周囲の人間を振り回すことなど一度や二度ではない。

 

「しかし先輩のサポートって…大丈夫なんすか? だってアニキ…。」

「俊平、その話はナシだ。」

 

 俊平の言葉を陽人は遮る。自分の秘密を幼なじみとは言え、知られるのはまずいためだ。

 

「なになに? もしかしてハル君、何か隠してる?」

 

 こういう事に関しては地獄耳な穂乃果が、陽人に訊く。陽人は面倒臭げな顔を隠さなかった。

 

「お前には関係のないこと。つか、これからどうするんだ?」

「あっ、そうだった…! う~ん…まずはダンス! アイドルなんだから、ダンスくらいできなくちゃ!」

 

 そう言って、穂乃果はさっそく音楽室を出て行く。まだまだ有り余る元気な姿に、陽人はやれやれと息を吐いた。

 

「なんか、ホントに思った通りの人っすね…。」

「だろ?」

 

 俊平の穂乃果に対する感想に、陽人は大袈裟に笑みを浮かべた。そんな陽人に、俊平は「でも」と言葉を紡いだ。

 

「アニキ…ホントに大丈夫なんすか? いつどこに奴らが現れるか解らないのに…。」

「いいって、基本そっち優先だし。」

 

 ということは適当に誤魔化したりしなければいけない訳である。俊平は気苦労が増えそうだと、陽人に気付かれないようにため息を吐いた。

 

「さて、んじゃ俺も行くかな。これ以上長居してたらアイツが煩くなりそうだし。」

「じゃあ俺は買い物にでも行くっすかね~。輪嶋さんに調味料と酒切れてるから、よろしく頼まれてるんで。」

「オイあのオッサン、未成年に酒買わせようって何考えてるんだよ…。」

「なので酒は酒でも調理酒を買うことにしたっス。」

「ハハ、そっちに行きつくか。」

 

 他愛もない雑談を、生徒玄関に着くまで二人は交わし合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。弓道部に所属している海未は弓道場にて、的を射る練習の最中であった。何も考えず、ただ無心のまま数十m先の的を射抜く。それはとても集中力のいる事であった。

 

『みんなのハート、撃ち抜くぞ~~~!! ばぁん!』

 

 だがその狙い撃ちは、自分がもしアイドルをしていたらという妄想によって大きく外れてしまった。

 

「珍しい! 外しちゃったの?」

「た…たまたまです!」

 

 隣で海未と同じく的を射抜く練習をしていた女子部員が、海未のミスに驚く。海未は慌てて取り繕い、自分の想像を振り払う。そして再度、的に向けて弓を構えるのだが…。

 

『ラブアロー…シュート!』

 

 また自分がアイドルとしてライブをしている事を想像してしまった海未は、またしても的を射抜くことは敵わなかった。そして何度も矢を放つも、全て大きく外れてしまったのだった。

 

「ああっ…駄目です!」

「海未ちゃん。」

 

 妄想に駆られ伏せていると、弓道場の出入口の方からことりが海未を呼んでいた。気を紛らわせるため、海未はことりの呼びかけに応じる事にした。

 

 

 

「海未ちゃん、もしかしてアイドルの事考えてた?」

 

 ことりが訊くと、海未は顔を赤くし俯いた。ことりはそんな海未の様子を見て、自分の予想が当たった事を自覚すると微笑んだ。

 

「穂乃果のせいです! 穂乃果があんなことを言い出すから…。」

「でもアイドルの事考えてたってことは、満更でもなかったってことでしょ?」

 

 ことりの指摘に、海未は「そ、それは…」と言葉を詰まらせる。ことりは海未を見ると、正面を向き、決意を表に出したような顔になった。

 

「それで…海未ちゃんが結局、興味があるの?」

「やっぱり…旨くいくとは思えません。」

 

 もし失敗すればということを考えると、あまりヘタに出たくないのが正直なモノであった。

 

「でもこういう事って、いつも穂乃果ちゃんが言い出してたよね。」

 

 それを聞いて、海未ははっと目を見開いた。同時に思い浮かべるのは、子供の頃の記憶だった。

 まだ穂乃果達が一緒に遊ぶようになってあまり日も経っていない頃。音ノ木坂公園にある一番の大木に、穂乃果が登ってみようと提案したのだ。ことりと海未は遠慮していたが、陽人が先陣を切って登りだしたことで、全員登ることになったのだ。そして四人とも登り終えると、四人を支えていた枝が重さに耐えきれず折れてしまった。陽人と穂乃果はすんでのところで上の枝に捕まり、ことりと海未は幹に捕まってわんわんと泣いていた。

 だが穂乃果がおお、と感嘆の声を上げると、二人は泣き止んでいた。四人は大木で眺める夕陽に見惚れていた。当時の海未は、この景色を忘れないのだろうと子供心に思っていた。

 

「見て、海未ちゃん。」

 

 いつの間にか生徒の人通りが少ない場所に来ていた二人。ことりはある光景に気付くと、海未にも向けさせる。そこでは、穂乃果が一人でダンスの練習をしていた。陽人が一緒のはずだが、一時的に別行動をとっているのだろうか。いや、問題はそれではない。よく見れば、彼女の制服には所々土埃が付いていた。ダンスの経験も無いのだから、それは当たり前といえば当たり前かもしれない。

 高坂穂乃果は本気でやると決めたのだ。スクールアイドルになって、音ノ木坂学院の統廃合を阻止しようとしているのが、今の光景でひしひしと伝わったのだ。

 

「海未ちゃん。ことりも穂乃果ちゃんと一緒にやってみようと思う。海未ちゃんはどうするの?」

「私は…。」

 

 ことりの問い掛けに、海未の決断は決まっていた。自然と、海未は穂乃果に近付いていた。

 

「いたた…やっぱり難しいもんなんだなぁ。よし、もう一回だ!」

「―――手伝いますよ、穂乃果。」

 

 ダンスの練習に失敗した穂乃果に対して、海未は手を差し伸べた。

 

「一人で練習しても意味がありません。やるなら―――」

「四人でやらないとな。」

 

 海未の言葉を遮った男性の声が響く。ことりと海未が後ろを振り向くと、陽人が缶ジュースを四つ持っていた。

 

「いつもそうだったよな。海未は穂乃果の誘いに一度は断るけど、最終的には乗るんだ。」

 

 昔を懐かしみながら、陽人はそれぞれに缶ジュースを渡す。海未もことりも、懐かしさに耽る陽人に微笑んで同意した。

 

「よーし! じゃあ生徒会長に、部活申請しに行くぞー!」

 

 意気揚々と生徒会室に足を進める穂乃果に、それについていく海未とことりを見て、陽人はふと妙な違和感を覚えた。

 

(あれ…何か忘れているような…気のせいか?)

 

 一瞬だけそう思ったが、思い過ごしだろうと陽人は三人を追って足を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 絢瀬絵里は冷めた目で眼前の書類と、生徒四人を交互に見ていた。書類の内容。それは部活申請書であった。“アイドル部”と書かれたその申請書には、アイドル部を作りたいという事が絵里にはわかった。

 

「…これは?」

「アイドル部新設のための、部活申請書です!」

 

 絵里が訊くと、目の前の生徒…高坂穂乃果が物怖じのない態度で答える。申請書を見ると、メンバーの名前が書かれている。高坂穂乃果。南ことり。園田海未。そして希月陽人。元気な態度の女子三人とは対照的に陽人の方はと言うと、どこか気怠そうな態度で三人の後ろに立っていた。

 

「残念だけど、これは認める訳にはいかないわ。」

「え…ど、どうしてですか!?」

「部活申請する場合、最低でも五人以上いなきゃ申請できないんよ。」

 

 絵里の答えに穂乃果が理由を訊こうとするが、希が代わりに答える。「もちろん、同好会も例外やないで。」と付け加える様に言葉を更に紡いだ。

 

「じゃあ…あと一人だね…。」

「うん、行こう!」

「待ちなさい。」

 

 踵を返そうとした穂乃果達を、絵里が呼び止める。

 

「どうしてこんな時期にアイドル部を作ろうなんて思ったの? 貴方達は二年生でしょう?」

「スクールアイドルになって、廃校を阻止しようと思うんです! スクールアイドルって、今凄く人気なんですよ!! それで…。」

「だったら、例え五人以上揃っても認める訳にはいかないわね。」

「な…何でですか!?」

 

 絵里の認められないという言葉に、思わず穂乃果は声を荒げる。

 

「部活は生徒を集めるためにやるものじゃない。思いつきで行動したところで、状況は簡単に変えられないわ。残りの二年間を自分のために何をすべきか。よく考えるべきよ。」

 

 そう言って絵里は申請書を突き返す。その行動は、もう二度と提出するな。という意味が込められているように見えた。

 

「自分自身のために何をすべきか選んだから、ここに居るんじゃないですか?」

 

 そう言ったのは、穂乃果や海未、ことりでもない。三人の後ろにいた陽人だった。陽人は穂乃果達を除けて前に出て、絵里を見つめる。絵里もまた、忽然とした態度で陽人と向かい合っていた。

 

「何が言いたいの?」

「人生なんて選択肢の連続。それはどんなに些細な事だったり、受験勉強や就活みたいに自分の未来を決める途轍もなくデカいものだったり。それは最終的に決めるのは自分自身です。」

 

 陽人のどこか達観した言い回しに、穂乃果達は唖然としてしまう。高校二年生とは思えない陽人の雰囲気には、絵里だけではなく希も少々圧されていた。

 

「まあ要するに、ここから先は俺達でやらせてもらうって事で。こんな道を選択したんだ、茨の道だってことはこいつ等も承知してるはずですよ。」

 

 陽人はそう言うと、後ろにいる穂乃果達を一瞥する。陽人の視線に気付いた穂乃果達はそれぞれ力強く頷いた。彼女達の反応に、陽人は満足気に口角をあげた。

 

「とはいえ、俺達のやることに反対する気持ちは大いに曝け出して結構ですよ。人間、ストレスは吐き出さなきゃ仕事にも影響が出るって言いますしね。」

 

 そこまで言うと、陽人は「んじゃ、帰ろうぜ」と穂乃果達とともに踵を返す。いきなり生徒会室を出て行こうとする陽人に反応が遅れた穂乃果達は慌てて「失礼しました」とそれぞれ言い残し、生徒会室からいなくなっていった。

 生徒会室から出て行く四人を絵里は眉間にしわを寄せて見送っていたが、希はくすくすと穏やかに笑っていた。

 

「まさかあそこまで掴みどころのない人とは思わなかったなぁ…。」

「…確かにそうね。希ともまた違うタイプね。」

「あれ? ウチってどんな風に見えるん?」

「さあ?」

 

 はぐらかす絵里に、希は呆れるように小さくため息を吐く。そんな希を見た絵里は、窓の外を見る。どこか忌々し気に送る視線の先は、校内から出ていた陽人達四人に向けられていた。

 

(…おっ。これはこれは。)

 

 絵里が窓の外に目を向けているのを余所に、希は自身の趣味であるタロットカードを見つめていた。シャッフルして引いたカード、それは魔術師の正位置だった。魔術師の正位置が意味するのは、<起源>・<可能性>・<機会>・<チャンス>・<感覚><創造>。また、“アーサー・エドワード・ウェイト”という人物のタロット図解の解説では<意志・手腕・外交>の意味もあるとされている。

 さらにもう一枚引いてみると、今度は愚者の正位置が表れた。こちらの正位置の意味は<自由>・<型にはまらない>・<無邪気>・<純粋>・<天真爛漫>・<可能性>・<発想力>・<天才>。あの発起人と思しき少女、高坂穂乃果にピッタリだと希は感じた。となれば、正位置の魔術師に当てはめるなら絵里に反論したあの少年…希月陽人だろうか。

 

(魔術師か…。)

 

 度々希を知らない者からは、掴めない女のように言われているが、彼は彼で腹の内が読めない男である気がする。飄々とした態度から突然コロッと態度を変えたり。よく飄々とした人物はどんな者か把握しづらいというが、むしろ態度を状況によって変える人の方が人となりを理解できない場合もあるのだ。

 

「面白くなりそうやん…。」

 

 しかし、希は逆にそれさえも面白く感じてしまう。希月陽人という男、そして高坂穂乃果をきっかけとして結成された名も無きスクールアイドルグループ。生徒会副会長という今の自分の立場故に、彼女達に大きく肩入れ出来ないが、陰ながら応援したくなる。希は学院の生徒玄関から出た四人を、窓越しに覗き込んだ。

 

 

 

 




次回、Love live is SHOWTIME!!


「これからどうするか…問題は山積みだな?」

「キッチリ、落とし前はつけなくちゃな?」

「襲われたって事は、その子はゲートっていう訳だな。」

「変身。」

…さあ、ショータイムと行こうぜ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。