Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

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済まぬ…一枚だけ買ってミニライブに当選してしまって…済まぬ。

さておき、一万字越えです。戦闘シーンないです。どうしてこうなった。

それでは第7話…もとい、8話目です、どうぞー。


RING.7:やるべき事は

「穂乃果、言いましたよね!? 生徒会長に講堂の使用許可を申請する際はライブの件は隠すようにと!!」

 

 生徒会室を後にしてすぐのこと。中庭で海未は穂乃果を咎めていた。理由は言うまでもなく、講堂の使用許可の件を包み隠さず全て言ってしまったからだ。咎められている穂乃果はというと、申し訳なさそうな顔をしながらも、その両手にはランチパックを持っていた。

 

「ご、ごめんね…アハハ。」

 

 短く謝ると、穂乃果は手に持っていたランチパックを開け、食べ始めた。

 

「はあ…またパンですか。」

「いやあ…家、和菓子屋だからさ。和食に飽きてるのは知ってるでしょ?」

「こんな朝早くから食べて…太っても知りませんよ?」

 

 海未の心配も気にせずに、穂乃果はランチパックにかぶりつく。こんなやり取りをしてもどうにもならないと察した海未は、陽人の方に顔を向ける。

 

「大体、陽人君も陽人君です! どうしてさっきは穂乃果を止めなかったのですか?」

 

 陽人を咎める海未だったが、当の本人は「やっちまった」と言わんばかりの表情を見せていた。

 

「いやー、スマン。ぶっちゃけて言うと言い訳考えるの面倒でさ。お前があそこで言葉を詰まらせた時点で、流れに身を任せるしかないなって思った。」

 

 理由を話す陽人の態度は、どこか飄々としたものだった。そして陽人は手元にあったドーナツを食べ始める。まるでリスのように食べる二人に、海未はため息を吐いて呆れていた。

 

「ため息吐いてると、幸せが逃げるよー。海未ちゃん?」

「誰のせいでこんなになっていると…。」

 

 能天気な穂乃果に、さらに呆れを膨らませる海未だったが、陽人が「気にすることねえよ」と言ってきた。

 

「どのみち、ライブをするっていうのは遅かれ早かれ知られちまうだろうからな。結果的にそれが早くなっただけのことだ。」

「それは、そうですが…。あれ? そういえばことりは?」

 

 話している内に、ことりがいない事に気付いた海未が辺りを見回す。

 

「ああ、アイツなら…。」

「おーい、穂乃果―!」

 

 ことりの居所を話そうと陽人が口を開いた矢先だった。陽人の後ろから三人の女子生徒がやってきた。穂乃果達のクラスメイトであるヒデコ・フミコ・ミカだ。

 

「三人とも、聞いたよ!」

「聞いたって…何をですか?」

 

 ヒデコの明るい声に、海未は何の事かを訊ねる。

 

「スクールアイドルやるんでしょ? 掲示板にも貼ってあったよ!」

 

 まさか既に知られているとは思わなかったのか、海未はたちまち顔を赤くさせた。最終的にトマトのように赤くなったのを見た陽人は、面白おかしく眺めていた。

 

「け、掲示板に貼ってあったって…まさか穂乃果!?」

「ことりちゃんが描いた宣伝ポスターを教室前にある掲示板に貼ったの! ちゃんと許可も取ってあるから大丈夫だよ!!」

 

 爽やかな笑顔でサムズアップをする穂乃果だが、さらに海未自身の羞恥心を膨らませたことは言うまでもなかった。

 

「ことりって絵を描くの上手だったんだな。ああいう可愛い絵って、心が癒されるよなぁ。」

「おっ、ハル君解ってるね~! そうだ、確かライブの衣装をデザインもそろそろ完成してる頃じゃないかな?」

「何? アイツ、衣装のデザインも手掛けてるのか…。それじゃあ見に行ってみるか!」

 

 お気楽な調子で、二人は中庭から踵を返し、海未も遅れてついていく。ヒデコ達はそんな三人に「頑張ってねー!」と応援の言葉を贈る。穂乃果は大きく手を振り、陽人は小さく手を上げ、海未は小さな声で「は、はい…」と応えるのだった。

 

 

 

 

 

 教室に戻ると、ことりは何やら真剣な顔つきでスケッチブックと向き合っていた。どうやら、まだ衣装のデザインは完成していないようだ。一分程経過すると、出来栄えに満足したのか、満面の笑みを見せてこくこくと頷いた。

 

「うん、こんな感じかな?」

「おおっ、もしかして出来たの?」

「うん、見て見て!」

 

 穂乃果が訊くと、ことりも元気に答えスケッチブックの中身を見せる。スケッチブックに描かれていたのは、可愛く描かれた穂乃果がアイドルのような衣装を着ているものだった。その見事な出来栄えに、穂乃果は「おお!」と感嘆の声を上げ、陽人もその出来に唸っていた。

 

「おおおー! ことりちゃん凄いよ!!」

「こんなに絵が上手いとはなあ…。一体どうしたらこう上手くなれるんだ?」

「えへへ…。」

 

 穂乃果と陽人の賞賛に、ことりは嬉しそうに笑みを零す。陽人は知らなかったが、ことりは服飾に興味を持っており、独学で学んでいるらしい。本人は謙遜しているが、独学で服飾を学ぶというのは並大抵の気持ちで出来るものではないだろう。ことりの腕は立つものと陽人は予想していた。

 そんな中、ことりが手掛けたデザインイラストを見て顔を引き攣らせている人物が一人。堅物気味な考えを持つ、海未だ。

 

「あ、あの…ことり? この…スラーッと伸びているのは…。」

 

 海未が訊きながら指差すのは紛れもなく、脚だ。

 

「脚だよ?」

「脚だね。」

「どう見ても脚だろ。」

 

 当然と言わんばかりに、ことり・穂乃果・陽人の順に答えが返ってくる。三人の返ってきた答えに衝撃を受けたのか、海未はわなわなと身体を震わせた。

 

「…素足で、この短いスカートを?」

「アイドルだもん♪」

 

 答えになっていない様な答えを返すことりだが、そう返すしかないのもまた事実であった。陽人の持つアイドルのイメージは、ことりが描いたようなデザインの衣装を着て、歌って踊る。というのが彼の思い描いたアイドルだ。

 当然、穂乃果もうんうんと強く頷き、陽人もことりの答えに同調した。

 

「駄目です…!」

「え?」

 

 海未の小さな声に、思わず素っ頓狂な声をことりがあげた直後。海未は勢いよくことりに迫った。

 

「何なんですか、このスカートの短さは!? こ、これでは破廉恥すぎます!!」

「で、でも…アイドルやるんだし…。」

「駄目です! 絶対に駄目です! いいですか、せめてスカートの丈の長さは膝下までお願いします!」

 

 有無をも言わさない海未の表情に、ことりは思わず涙目になりながら「は、はいぃ…」と答えるのだった。

 そんな海未を、穂乃果は観察していた。正確に言えば、海未の脚だ。ふむふむとどこか大袈裟に唸りながら、まじまじと眺めている。これが男だったら警察に通報されることだろうと陽人は思った。

 

「大丈夫だよ! 海未ちゃん、そんなに脚太くないよ!」

 

 海未の膝を抑えながら穂乃果は断言する。同性とはいえ自分の脚を眺められていた事に恥ずかしさを感じたのか、「ひ、人のこと言えるのですか!?」と反論した。

 この事に関しては、陽人は無関心を貫こうと思った。女性の脚部に男性が物申せば、一発でセクハラ認定されること間違いなしだからだ。

 

「あーあ…他にもやること沢山あるよねえ…。」

 

 いつの間にか脚の問題について話を終えていたのか、穂乃果が話題を切り替える。「サインでしょ、街歩く時の変装でしょ」と連ねる穂乃果だが、それ以前にやるべきことがあるはずだ。まずはそれを自覚させねばと陽人は口を開く。

 

「そんなのまだ必要ないし、それ以前にやるべきことがあるだろ?」

 

 陽人の言葉に穂乃果と海未は「え?」と反応する。穂乃果と海未だけということは、ことりは一応分かっているようだ。一人はそういうのがいてよかったと陽人は内心安堵する。

 

「お前等のグループ名…何だ?」

 

 一泊置いて訊く陽人に、穂乃果と海未ははっと顔を驚かせるようなものになった。

 穂乃果はまだしも海未がそれを忘れてしまっては元も子もない。陽人は思わず溜め息を吐いた。

 

「…前途多難だな、こりゃ。」

 

 グループ名も決めなければならない。

 ダンスの練習もしなければならない。

 曲も作らなければならない。

 発声練習もしなければならない。

 

 こんな調子でやることが山積みだと、誰でも先行きに不安をもたらしてしまうものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。陽人は穂乃果達と別行動をとり、於母影堂に帰っていた。穂乃果から、一緒にグループ名を考えようと誘われていたが、陽人は別件があると話を付けて別れることにしたのだ。

 

「ただいま、おっちゃん。」

「おう、お帰り。」

「よう、邪魔してるぜ。」

 

 迎え入れた輪嶋ともう一人。水乃刑事が珈琲(コーヒー)を飲みながら手を軽く上げる。

 

「水乃さん、来てくれてありがとうございます。」

「堅苦しいねぇ。俺はわざわざお前から於母影堂に来てくれって言われたから来ただけなのに。」

 

 礼を言う陽人に、水乃は明るくおちゃらけたように振る舞う。先日もファントムを撃退する時に少ないとはいえ傷を負ったというのに、変わらない調子で接している。陽人は内心、彼のメンタリティとタフさに脱帽した。

 

「んで、何か調べて欲しい事があるんだろ?」

 

 要件を切り出した水乃に、陽人は向かい合って座る。お互い見合う二人の顔つきは、険しいものになっていた。

 

「昨日、ファントムが襲ってきました。それも二回です。」

「…二回、か…。」

 

 歯痒さが出てきたのか、水乃は思わず乱暴気味に頭を掻いた。陽人は別に、ファントムが現れたのにも関わらず警察が出動していなかった事について責めるつもりはない。

 

「別に責めようって訳じゃないですよ。そっちが人員不足なのは承知ですし。あの時は俺と俊平が近くに居たので、何とかなりましたけど。」

「あ? どこで襲撃を受けたんだ?」

「一度目は音ノ木坂学院校門付近で。二度目は帰り道に、本来の標的とは別に俺の昔馴染みがグールに襲われて…てとこです。」

 

 詳細を訊いた水乃は、腕を組み考え込む。彼が何を考えているのか。陽人は何となく、解った気がした。

 

「水乃さん、今どうして学校付近にファントムが現れたんだろうって考えてましたよね?」

「ン…まあな。どのタイミングでファントムが現れたのか、教えてくれよ。」

 

 陽人の指摘に水乃は頷き、更なる詳細を陽人に求める。勿論、それに頷かない陽人ではない。

 

「現れたのは放課後です。」

「放課後って…なんかざっくりしてるな?」

「ええ。俺達は授業を終えてすぐに帰っていません。一時間半程、学院内に留まっていました。」

「そりゃなんでだ?」

「穂乃果が、廃校を阻止するためにスクールアイドルを結成しようと海未とことりに持ち掛けたんです。俺はそのマネージャー担当で。」

「スクールアイドルって言うと、UTXのとこで有名なA-RISEか。確か芸能事務所所属じゃなくて、部活動の一環として活動するアイドル…だったか。」

 

 意外にもスクールアイドルに詳しい一面を見せた水乃に、陽人は唖然とした。直後、気を取り直して「え、ええ…その通りです」と答える。

 

「追っかけでもしてるんですか…?」

「アホ、同僚に詳しい奴がいると自然と感染るものなんだよ。…えっと、どこまで進んだんだっけ?」

 

 話が脱線しかけたところを、水乃が陽人に確認を促し元鞘に納める。

 

「穂乃果が、海未とことりにスクールアイドル結成を持ち掛けたところですね。最初は海未が渋ったけど、なんだかんだで三人とも結成。俺も加わって部活動申請書を持ってきたけど突っぱねられて…仕方なく帰ろうかって矢先に、ファントムだ。」

 

 陽人がファントムの一度目の襲撃の経緯を語り終えると、水乃は依然として腕を組み、唸りながら考え込んだ。

 

「…いくら何でも、タイミングが絶妙過ぎじゃないか?」

「…ですよね?」

 

 水乃が浮かんだ疑問に、陽人も同意する。

 絶妙なタイミング。というのは、いい意味で言っているわけではない。当然だが、ファントムが穂乃果に仕掛けたタイミングだ。

 

「そいつ、前に戦ったメデューサとはまるっきり別個体で…まあ名付けるなら、ファフニールかな。蜥蜴みたいな風貌してて。授業中とか、登校中とかじゃない。放課後…そんないつ帰るか分からないタイミングをピンポイントで狙って当てた。」

「おいおい、どういう事だい?」

 

 菓子を持ってきた輪嶋が、話に割り込む。事態を把握できずに漏れ出た台詞だ。噛み砕いて説明することにしよう。

 

「ファントムの正体が、学校関係者なんじゃないか…そう言いたいんだろ?」

「…ええ、その通りです。」

「な、なんだって!?」

 

 水乃の推理に陽人は頷き、輪嶋は驚きのあまり、菓子を落としてしまった。

 

「一応、メデューサが教えた可能性もあるけど…。その可能性は低く見ていいと思う。」

「ほう、どうしてだ?」

「穂乃果がメデューサに襲われたのが、春休みの期間だからです。」

 

 成程、と水乃は思った。

 メデューサが穂乃果を襲ったのは、春休み、彼女が海未とことりと遊んだ帰りのことだ。その時の穂乃果の服装は、言うまでもなく私服だ。襲った時に音ノ木坂学院の制服を着ていない限り、穂乃果は一見すればただの“女性”だ。

 

「自分で穂乃果ちゃんの周りを嗅ぎ回れば、目立ってこっちに勘付かれる可能性もある。だけど俺達はまだ憶測でものを言っている状態。それはつまりメデューサが穂乃果ちゃんについて調べていないって事だな。」

「ええ、わざわざ探偵を雇うような真似もするとは思えません。奴らが情報を共有しているとしても、世界中にファントムが潜んでいるこの御時世で、全てのファントムと情報を共有するのは、ネットワークに精通していない限り厳しい。」

 

 陽人の推測に、水乃はうんうんと繰り返し頷く。ファントムは自分自身を、人間より上位種にいると思っているフシがある。そんなファントムが好き好んで徹底して人間として暮らそうとは思えない。

 

「つまり…早い者勝ちってことか。」

 

 端的に言えば、そうなる。水乃が発した結論に、陽人は首を縦に振った。

 

「それと…多分この二、三週間は奴が現れる頻度は少ないと思います。」

「どうしてだよ、陽人?」

 

 陽人の物言いに、輪嶋は疑問をぶつける。

 

「俺はファフニールを一度倒した。けど、すぐに蘇った。どういう事だと思う?」

「蘇生に、全ての魔力を費やさなくちゃならなかった…か?」

「間違いないと思います。あそこで奴が退散してなきゃ、俺はここにはいないですし、二度目にグールだけを寄越してくるなんてしないでしょうし。」

 

 それほどか、と水乃は痛感する。まだまだ陽人は魔法使いとしては発展途上の身だ。一度倒したのに蘇られ、力が有り余っている状態でやられたらどうなっていたか。考えたくない事だ。

 

「それで、水乃さんには調べてもらいたいことがあるんです。」

「調べてもらいたい事だと?」

 

 そこで漸く、水乃は何故於母影堂に招かれたのか察した。今まで陽人の語るファントムについて言葉を交わし合っていたから、目的は情報交換なのかと思っていた。

 

「音ノ木坂学院の関係者で、柔道を経験している人を洗い出してほしいんです。」

「え?」

 

 何を調べて欲しいのかと身構えていたら、突拍子もない事を頼んできたのだ。水乃が腑抜けた声を出すのも無理はなかった。

 

「その…水乃さんって、刑事ですから柔道とか嗜んでますよね?」

「そりゃあな。で、何が言いたいんだ?」

 

 陽人の回りくどい言い回しに、水乃は苛立ちを覚えたのか、先を促す。

 

「ファントムは背負い投げを俺に仕掛けてきたんです。背負い投げって…付け焼き刃で覚えられるものなんですか?」

 

 つまり、陽人はこう言いたいのだ。

 仮にファントムが柔道の技を覚えている経験者であれば、ファントムの正体はぐっと近づくことができるのだと。

 

「完璧に背負い投げを使いこなすなら、まず反復練習しなきゃ話にならない。一朝一夕で覚えようなんざ、到底無理な話だ。」

 

 ニヤリと、笑みを浮かべながら水乃は答える。陽人も「成程…」と小さく呟くと、直後に口角を上げた。

 

「調べてくれますか?」

「ああ、時間はかかるだろうが洗い出してやる。」

 

 話は決まった。これでファフニールの正体を暴くことができる。時間が長引くのは仕方ないが、陽人の予想が正しい事を祈るしかない。

 話を一区切り終わらせた二人は、揃って珈琲を口に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、奴の正体が解ったらメールを送るぜ。」

「ええ、よろしく頼みます。」

 

 二人は短く言葉を交わす。水乃は愛車に乗り、発進させた。陽人と輪嶋は遠ざかっていく車を見送った。

 角を曲がってすっかり水乃の車が見えなくなった陽人は、携帯を取り出した。

 

「おっ、穂乃果からメールが来てる。今から会議するから家に来てね! …だってさ。」

 

 穂乃果からの受信メールを確認したと同時、レッドガルーダがピイイ、と鳴き声を上げながら帰ってきた。

 

「お帰り、異常はなかったか? …そっか、ならいいよ。俺が今度はそっちに行くから、ゆっくり休んでろ。」

 

 バトンタッチを申し出た陽人に、ガルーダは素直に応じて於母影堂内に入っていった。

 折角だから、穂むらの帰りに身体を動かすか。そう思った陽人は、制服姿からジャージ着に着替えるのだった。

 

 

 

 

 

 穂むらに入ると、穂乃果の母である菜月が店番を担っていた。だが本人は、店の出入口を背にしていた。

 

「あの…どうもっす。」

「ん…んぐっ。あ、あら…陽人君。」

 

 慌てたように取り繕う菜月に、陽人は思わず乾いた笑いを漏らした。

 

「もしかして…食べてました?」

 

 菜月の口元に食べかすがついているのを指摘しながら陽人は訊く。菜月はバツが悪そうな顔を見せると、人差し指を口に当て、「シー」と小さく言う。要は秘密にしてほしいということなのだろう。

 

「穂乃果に呼ばれてきたんですけど、アイツは上ですよね?」

「ええ、ことりちゃんもいるわよ。」

「わかりました。」

 

 階段を上がると、穂乃果とことりによる話し声が聞こえてきた。ドアを開けると、二人は団子や饅頭を食べながら雑談に興じていた。

 

「あ、ハル君!」

「さっきぶりだね!」

 

 暢気な態度の二人に、陽人は内心呆れた。しかし咎める気もなかった。自らの本能が、糖分を求めているのだ。

 

「俺の分はある?」

「まだまだあるよ~!」

 

 陽人が訊くと、穂乃果がズイッと陽人の目の前に団子が載せられた皿を差し出す。陽人は一本だけ手に取ると、そのまま食べ始めた。

 久しぶりに甘いものを食べた気がすると陽人は思った。食べたのは二日ぶりではあったが、その一日後、つまり昨日はファントムとの戦闘があったために、余計に糖分を欲していた。

 

「しかしお前等、こんなに雑談に興じていて大丈夫か? 海未が怖いぞ?」

 

 陽人の何となしに発した言葉に、女子二人は固まる。が、気にすることもなくまた団子を頬張り始めた。

 

「大丈夫だよ、穂乃果達そこまで太ってないし!」

「…まあ、そこまで自信ありげに言うなら俺ももう言わないけど。」

 

 穂乃果のあまりに呑気な言葉に、陽人も口出ししないことにした。辺りを見回すと、やはり穂乃果も女の子だということを自覚させられる部屋だった。海未もいつもなら居るのだろうが、生憎今は弓道部の練習に時間を割いているため、ここにはいない。

 

「そういえば、俺がいない放課後は何かあったか?」

 

 あくまで状況を把握しておきたかったために出た質問なのだが、穂乃果とことりの二人は食べようとしていた団子を口に入れず、そのまま固まってしまった。

 

「…正直に話した方が身のためだぞ?」

 

 目を細くさせ、答えを促す。正直に答えた方がいいと悟ったのか、二人は顔を沈ませた。

 

「あの後、結局グループ名思い浮かばなくて…。」

 

 順を追って穂乃果は説明する。

 放課後に陽人と別れた穂乃果達三人は、図書室でグループ名を考案したが、結局決まらず、ライブの宣伝ポスターの下にグループ名を募集する箱を設置することで、一応解決した。

 

「それって、言うなれば丸投げだよな…。」

 

 陽人の鋭い指摘に穂乃果は「言わないでぇ~」と嘆くが、すぐさま気を取り直し、続きを話す。

 その後は練習場所を確保するために学校中を散策したのだが、空き教室は鍵がかかっていて開いておらず、担任の山田先生に空き教室を使えないか訊いてみたところ、正式な部活動でなければ無理とのことだった。

 仕方ないので、自由解放されている屋上を練習場所に選び、早速歌の練習を始めようとした矢先だった。

 

「そういえば、まだ曲作ってなかったな…。伝え忘れていた、悪い。」

「う、ううん! 陽人くんが謝る必要はないよ! こういうのは自分達で気付かなくちゃ、ね!」

 

 ことりの精一杯のフォローに、陽人は少し申し訳なさが出てくる。

 閑話休題。

 そういう訳で、まずは曲作りから進める事になった三人は、穂乃果の家にて会議を開くことにしたのであった。

 

「成程な…。」

 

 一連の流れを理解した陽人が、うんうんと頷く。

 

「それで、作詞と作曲はどうするんだ?」

「作曲の方は、穂乃果ちゃんにアテがあるから穂乃果ちゃんに任せるけど、作詞の方は、海未ちゃんに担当してもらおうと思うんだ!」

 

 明るく答えることりに、陽人は驚いた。別に、ことりの元気のよさに驚いているわけではない。何故そこで作詞に海未が出てくるのかという所に驚いたのだ。

 

「何で海未が出て来るんだ?」

「海未ちゃん、中学の頃ノートにポエム書いてたの! 時々見せてもらったりもしたよ!」

 

 まさかの過去に、陽人は思わず飲んでいた緑茶を漫画のように飛沫をあげて吹いた。陽人の行為に、二人は素早く後ずさりをした。

 

「ケホッケホッ…。わ、悪いな…。しかし…あの海未がポエムを書くとはな…。」

 

 近くのティッシュを数枚取り、それでテーブルを拭く。そんな陽人にことりと穂乃果は苦笑いをした。

 

「中学二年の頃からなんだよね…海未ちゃんがポエムを書き始めたのって。」

「中学…二年からだと?」

 

 穂乃果の記憶を辿る言葉に、陽人は思わずピクリと反応を示した。

 つまりその頃の海未は所謂、“厨二病”を抱えていた時期になるのだろうか。自分もそういう時期が無かったわけではないが、まさか海未も拗らせていたとは思いもしなかった。いや、寧ろ真面目気質故にこういう事をしていたのかもしれない。誰だって本当の自分を曝け出したい事は考えたくなる。海未もそういう類なのだろうと納得した。

 

「確か、ここに…あ、あったよ!」

 

 ごそごそと机の引き出しの中を穂乃果が漁ると、目的の物を見つけたのか一冊のノートを取り出した。陽人から見てみれば、そのノートはただのノートにしか見えなかった。

 

「もしかして、それって海未の?」

「うん、海未ちゃんが書いてたポエム集だよ!」

 

 陽人が訊くと、元気よく穂乃果が答える。穂乃果が言うには、中学時代に遊びに来ていた時に置き忘れていたものだとのことだ。そんな物を忘れるとは海未も迂闊な一面があったのかと陽人は思った。

 試しに穂乃果の持っているポエム集を借り、読んでみることにした。開いてすぐに海未のポエムが表れた。

 

「…まあ、中々のものなんじゃないか?」

 

 数秒で読むのを止めた。“この道”を進んだことのある男子には、(いささ)か恥ずかしくて耐えられたものではない。勢いよくポエム集を閉じた陽人に、穂乃果は「何で読むの止めるのー!」と頬を膨らませるが、逆によく恥ずかしげもなく読めるものだと陽人は思う。

 

「作曲者は誰にするんだ?」

「作曲は、音楽室でピアノを弾いてたあの子に頼もうと思うの! あの子なら良い曲が作れそうだしね!」

 

 穂乃果の答えに陽人が思い浮かんだ顔は、恐らく俊平のクラスメイトであろう赤髪にツリ目の女子生徒だった。なるほど、彼女なら了承さえしてくれれば良い曲を作ってくれそうだ。あくまでも、作ってくれればの話だが。

 そこまで考えたところで、部屋の外からギシッギシッと階段の軋む音が聞こえてきた。海未が弓道部の練習を終えて穂むらにやってきたのだろうと陽人は察した。同時に、今自分を除いた二人の状況を見て、これから起こり得るだろう事態を予測した。とは言え、今すぐに片付けてもどうせばれるのがオチであるため、陽人は開き直って団子を頬張った。

 

「あ、海未ちゃんおかえりー!」

「お団子とお饅頭あるけど、どっち食べる? 両方でもいいよ?」

「お帰り海未。」

 

 マイペースな態度を変わらずに見せる三人に、海未は呆れてしまったようだ。

 

「貴方達…ダイエットは!?」

 

 海未の静かな怒りの声が、穂乃果とことりの気を引き締めさせたのは言うまでもなかった。

 

「陽人君も、なぜ何も言わなかったのですか!?」

「スマン、最近甘いもの食ってなかったからな。」

 

 悪びれもなく答える陽人に、海未は脱力したのかへなへなと崩れ落ちた。陽人は崩れ落ちた海未を余所に、のんびりと緑茶を啜った。

 

 

 

 

 

「お断りします!」

「ええっ、そんなあ!!」

 

 海未の拒絶の言葉に、穂乃果が嘆く。海未の台詞の少し前。海未にも作詞と作曲の件について話した後、穂乃果とことりが意地悪いような笑みで海未に作詞を頼み込んできたのだ。

 じりじりと追い詰める二人から逃げようとしたものの、陽人に結局立ち塞がられてしまい、海未は観念するしかなかったわけだ。

 

「絶対に嫌です! 中学の時だって、思い出したくないくらい恥ずかしいんですよ!?」

「だったらなんで穂乃果達に読ませたんだよ…。」

 

 陽人の呆れた声に、海未が反応する。彼女の顔は、酷く青ざめていた。

 

「ま、まさか陽人君…読んだのですか!?」

「まあ…一冊、穂乃果ん家に置き忘れてたみたいだから、それ読ませてもらった。」

 

 陽人の言葉に、海未はがっくりと項垂れる。項垂れる海未の口からは小さく呟く声が聞こえた。

 

「一冊どこかに失くしていたのかと思っていたら…そんなところにあったのですね…。」

 

 海未の様子がまるで推理漫画で観念する犯人のようだと陽人は思った。しかしいつまでもこんな様子を見るつもりは無い。早々に話題を戻すことにした。

 

「頼むよ海未。ことりは衣装作りで忙しいし、穂乃果は文章力が壊滅的だからお前しか頼めないんだ。俺も手伝うからさ。」

「お願い! 海未ちゃん!」

「で、ですが…。」

 

 陽人と穂乃果が頭を下げて頼み込むも、海未はそれでも答えを濁すばかりであった。するとことりが、自身の左手で胸元をぎゅっと掴んだ。

 

「海未ちゃん…。」

 

 直後に名前を呼ぶその声は甘く、聴いている者には精神にダメージを与えることを予見させるようなものだった。

 

「おねがぁい!!」

 

 ことりによる懇願に、海未は思わずたじろいでしまった。寧ろお願いされていない立場の陽人でさえ、知らず知らずの内に「ううっ!」と呻き声を上げる程に、ことりの“お願い”は彼の精神にインパクトを与えた。

 

「も…もう…。ずるいですよ、ことり…。」

 

 その言葉は、海未が作詞を担当すると決まったも同然だった。海未の言葉に穂乃果とことりはハイタッチをするが、直後の海未の引き締まった声が部屋の雰囲気を一変させた。

 

「ただし! ライブまでの練習メニューは私が作ります!」

「練習メニュー?」

 

 二人のきょとんとした表情と声が、部屋に残った。

 当然ではあるが、ライブをする場合、それなりの体力が要ることは必然ともいえる。海未の言葉の直後、陽人達は穂乃果のパソコンでA-RISEのライブ映像を視聴しているが、画面の中の彼女達は激しく踊っているというのに、その疲れを感じさせず歌っている。それどころか、まだ余裕さえ残しているのではないかと邪推してしまうほどだ。

 

「穂乃果、腕立て伏せしてもらえますか?」

「え? いいけど…。」

 

 海未に言われるがままに、穂乃果は腕立て伏せの態勢に入る。五、六回ほどやって穂乃果は一度止めた。普通に実行するだけなら何とかなりそうではある。

 

「では、今度は笑顔でやってみてください。」

 

 笑顔を作りながら腕立て伏せをしようとする穂乃果だが、その笑顔はどこかぎこちないものになっていた。そのまま腕立て伏せをしようとするも、その回数は先程よりも少なく、最終的に顔面が床とキスする破目になった。

 

「ううう~、痛いよぉ~!」

 

 鼻を抑えてのたうち回る穂乃果は、どこか愛嬌があった。

 

「弓道部や家で日舞をしている私はともかく、穂乃果とことりは楽しく踊れるだけの体力がなくてはいけません。」

「だな。いくら技術や心意気があっても、それを表せる体力がなくちゃ意味がない。」

「そっか…アイドルって大変なんだね。」

「楽するアイドルなんて、何処にもいないだろ。あまりアイドルには興味ないけど、歌って踊れるには相当の努力を積み重ねてきたんだろうってのは分かる。楽して廃校を阻止できるなら、アイドルやるなんて思いつかなかった筈だろ?」

「ハル君…そうだね!」

 

 陽人の言葉に、穂乃果は頷く。

 

「では、明朝から練習を開始します。時間は有限ですから、今の内に体力だけでも増やしておかなければなりませんからね。」

「うう…やっぱり朝練は避けられないよね…。」

「そりゃあな。体力を早いうちにつけるなら、練習量は多い方がいいさ。あ、それと海未。」

「はい、何ですか?」

 

 突然自分が呼ばれたためか、海未はきょとんと目を見開く。

 

「練習メニューは俺で考えておくから、お前は作詞に集中しとけ。仮にも、俺はお前らのマネージャー的な立ち位置なんだからな。」

「陽人君…ありがとうございます!」

 

 礼を言う海未に、陽人は「気にするな」と返す。

 話が一区切りついたところで、陽人達は穂むらかをお暇し、三人は穂乃果と別れ、帰っていったのだった。

 

 

 




次回、Love live is SHOWTIME!!


「…俺は、信じられる性質じゃなくなったんで。」

「お断りします!」

「はっきり言わせてもらうけど、貴方達のやっていることは逆効果になり兼ねないわよ。」

「全力で想いをぶちまける!」


さあ、ショータイムだ!
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