Love live is SHOWTIME!!   作:ホームズの弟子見習い

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Aqoursミニライブ、昼の部に行ってきました。

最高の思い出です。生Aqoursを見られた感動は一生ものです。

それでは9話目もとい、第8話です。どうぞー。


RING.8:雁字搦めの想い

 

 穂むらでの今後のスクールアイドル活動について話し合いを終えた後、無事に海未とことりを送り届けた陽人は、適当にぶらついていた。送り届けた後はすぐに体を動かそうと思っていたが、海未の代わりに練習メニューを考えておくと言ったため、どんなものにしようかと、あてもなくただ歩いていた。

 

「さて…ああ言った手前、どんなメニューにしておくか…。」

 

 出来れば、足腰と体力を同時に身につけていける案が望ましい。しかし、そんな一石二鳥のメニューは簡単にない。

 

「そんな一挙両得なシチュエーションが味わえる場所なんて…。」

 

 そうそうあるはずがない。そう思っていた陽人だったが、ふと右に顔を向けてみる。

 視線の先にあるのは、神田明神へと続く階段。通称、男坂門だ。

 

「…こいつはいいな。」

 

 足腰も鍛えられて、体力もこの階段を何度か往復すればそれなりに身につくものになるだろう。そうと決まれば話は早い。善は急げだ。陽人はスマートフォンを取り出すと、トークアプリですぐに三人に連絡を入れる。

 

 陽人:明日六時。神田明神にて集合

 ことり:はーい! 了解です(‘◇’)ゞ

 海未:わかりました、六時ですね。

 

 海未とことりは、すぐに返信が来た。穂乃果が遅いのは、相変わらずか。元々時間にルーズな一面をよく見せる穂乃果だから、あまり気にしていない。

 

「んじゃ、あいつの返事が来るまでに…試しに走ってみるか。」

 

 陽人はスマートフォンをしまうと、軽く背伸びをする。背伸びを終えて小さくジャンプをすると、一気に駆け抜け出した。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

 瞬発力を主に重視して駆け上がっているためか、中盤に差し掛かったところで息が上がり始めた。しかし、それでも陽人からすればまだマシな方と言えた。

 

「…っと! 到着。ふぃー…流石に、一気に駆け上がるのはきつかったな…。」

 

 一息ついて、陽人は階段の麓を見下ろす。一気に駆け上がっていて気にも留めていなかったが、それなりに現在地点が高く感じた。

 

「んじゃ、今度は…。」

 

 キョロキョロと辺りを見回し、周囲に誰もいないかを確認する。いるとすれば精々、神主か巫女と言ったところだが、都合のいいことに誰もいなかった。ならば思う存分やらせてもらうとしよう。

 ふう、と大きく深呼吸をする。

 まずは連続バク転を三回。これは陽人としてはほんの肩慣らし程度だ。

 バク転を終えた陽人は、身体を横に向けると、側転を行なった。ただし、ただの側転ではない。手を地面に付けずに行う側転…言うなれば、“エアリアル”というアクロバットの技の一つだ。エアリアルを五連続で繰り返すと、今度は旋風脚を二回繰り出す。仮面ライダーウィザードに変身して、徒手空拳の状況で戦う際は基本的に足技を使うことが多いため、自然と旋風脚を繰り出したり、アクロバットの技に足技を混ぜることが多いせいか、旋風脚の練習は欠かした事がなかった。

 旋風脚に一区切りつくと、今度は身体を抱え込みながら側宙する技、サイドフリップを披露する。三連続の最後の締めに、後ろ向きでの飛び蹴りで終わらせる。

 

「ふぃー…。」

 

 一息つく。すると、パチパチと拍手音が陽人の後ろから聞こえた。振り向くと、神田明神で働いているであろう巫女が、陽人に向けて拍手を贈っていたのだ。その巫女の顔に、陽人は見覚えがあった。

 

「凄いなぁ、こんなアクロバティックな技を見れるなんて思わんかったよ!」

「東條先輩…ですか?」

 

 どこか似非染みた関西弁で評価する巫女に対して、陽人はその名を呼ぶ。東條希。音ノ木坂学院生徒会の副会長が何故ここで巫女の格好をしているのだろう。

 

「ウチはここでバイトしてるんよ。今日みたいな早朝やったり、生徒会の業務がない日は夕方にもやっとるん。」

 

 言葉にしていないのに自身の疑問に答えてくれた希に、陽人は驚いた。

 

「先輩、よく解りましたね…俺の考えている事。」

「スピリチュアルやろ?」

 

 そう言って、希は一枚のタロットカードを見せる。希が見せたカードは“魔術師”の正位置だった。

 

「まあ、ウチのこの姿を初めて見れば誰だってそう思うかもしれんけどな。」

 

 希の正解同然の推測に、陽人は「確かに」と頷いた。

 直後、ポケットからバイブ音が鳴りだした。取り出すと、穂乃果からのメッセージが来ていた。

 

 ほのか:わかった! がんばって起きてみせるよ!

 

「…いざとなったら、起こしに行くか…。」

「おっ、彼女さんかな~?」

 

 ニヤニヤと笑いながら、希が陽人に茶々を入れる。どう返したらいいのか。陽人としては少々反応に困るものだった。

 

「いや、幼なじみですよ。ちなみに相手は先輩も知ってる顔ですよ。」

 

 少しだけ含みを持たせた返しをする。希は顎に指を当て、考える仕草を見せる。今の姿が巫女であることも相まってか、それなりに画になるものだった。

 

「もしかして、高坂さんかな?」

 

 希の導き出したアンサーに、陽人は「正解」と短く答える。

 

「寝坊助さんなんやね…。」

「まあ、大丈夫だと思いますよ。熱中することが出来たら、あいつは率先してやりますからね。」

 

 陽人の穂乃果に対する信頼を表す言葉に、希は小さく微笑んだ。

 

「良く解っているんやね? 高坂さんの事。」

「そりゃ…ね。っと、俺はそろそろ帰りますんで。それじゃあ、また。」

 

 早々に話題を切り上げた陽人は踵を返し、希に手を振った。希もまた、小さく手を振り返した。

 去って行く陽人が完全に見えなくなる程見届けたのを確認した希は、懐から一枚のタロットカードを取り出す。取り出したのは、女教皇・正位置だった。

 

「秘密…か。」

 

 一言呟くとカードをしまい、また巫女の従事に戻る。

 女教皇・正位置のキーフレーズが表すものは、七つある。

 直観・洞察・秘密・深い理解・客観性・知性・神秘的。この七つである。

 言うまでもなく、陽人が抱えている秘密は仮面ライダーウィザードとして日々戦い続けている事だ。当然、希は知らない。

 

「…一体、どんな秘密なんやろ?」

 

 詮索する気はないと言えば嘘になるが、心の奥底に留めておくことにした。いつか解る日が来るかもしれない…。そんな想いを、希は柄にもなく馳せた。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

「うう~…アニキぃ…。ちょっと早くないすか?」

 

 翌朝午前五時五〇分。俊平は陽人と共に神田明神まで向かっていた。無論、陽人としてもこんな時間に外に出るのは滅多にないし、欲を言えばもう少し寝ていたい。

 

「ふわ…あ。俺だってもうちょっと寝ていたいけどさ? あの時ヘタしたらお前、死んでたかもしれないだろ? もうちょっとうまく立ち回らなきゃ駄目じゃないか…?」

 

 陽人の指摘に、俊平は押し黙り何も言えなくなった。確かに陽人についていっている身としては、多少なりとも、怪人までは倒せないにしろ戦闘員同然のグールはもっと倒せるようにならなければならない。自分の“目的”はただ陽人についていき、サポートするだけではないのだから。

 

「さて、着いたな。準備はいいか?」

「うっし! オッケーっすよ!!」

 

 やがて神田明神に着いた二人は向き合い、構えをとる。正確に言えば構えをとっているのは俊平だけで、陽人は両腕をだらりと下げ、ノーガードの姿勢を見せていた。

 そして訪れるのは静寂。雀の鳴き声や燦々と差し込む陽射しだけがこの空間に響いていた。

 

「りゃっ!」

「ふっ!」

 

 ほぼ同時に、二人は目の前の相手にめがけて走り出した。だが接近する際の速度はやはり陽人に分があった。俊平は右ストレートを陽人の顔面に喰らわせようとする。陽人は俊平の右ストレートを左手で首を左に傾け、左手で受け流した。

 

「なろっ!」

 

 パンチを受け流された俊平の身体は少しよろめき、陽人はその隙を突いて俊平の腹部に手刀を当てる。手加減しているとはいえ、腹部のダメージは中々にくるものがあった。だがこの一撃で終わるつもりは毛頭ない。俊平は陽人の左腕を掴み、大きくスイングするように振り回した。

 

「うお…っと! やるじゃねえか!」

 

 自身の身体を大きく振り回されて少しだけ浮いた陽人だが、慌てる様子はなかった。綺麗に着地をした陽人は、振り向き様に右脚で上段蹴りをした。目の前には接近しようとして右フックをしようとしていた俊平がいた。

 

「くっ…! いつつ…。」

 

 咄嗟に俊平は左腕で攻撃を庇うものの、防いだ腕は痺れてまともに動けそうになかった。俊平は目の前に向き直ると、陽人が自分の眉間めがけて銃を形取ったポーズを此方に向けていた。

 

「はあ…完敗っす。」

 

 両手をあげて、俊平は無抵抗の意を見せる。俊平の意思を見た陽人はポーズを解き、うんと背伸びをした。

 

「今の蹴りは勢いつきすぎたな…大丈夫か?」

「ちょいと痺れてるくらいなんで、ノープロブレムっすよ!」

 

 手首をプラプラと振り、大丈夫とその身体で俊平は伝える。俊平の様子に、陽人は笑みを小さく浮かべた。

 すると突然、陽人の後ろからパチパチと拍手が聞こえてきた。デジャヴを感じた陽人は振り向くと、そこには昨日の夕方と同じく、巫女服を着た希が拍手をしていた。

 

「希月君って凄いんやねぇ、昨日に続いてこんなアクションが見られるなんて思わなかったよ。」

「東條先輩、お早うございます。」

「うん、おはようさん。」

「え~っと…アニキ? この人が生徒会の副会長さんなんすか?」

 

 挨拶を交わす陽人と希に、慎重に窺うように俊平が割り込んで入ってくる。そういえば俊平はまだ会った事がなかったと陽人は思い返した。

 

「もしかして、もう一人の転入生?」

「ええ、此奴は鹿野俊平。訳あって、俺の住処に厄介になってるんです。」

 

 希の陽人に対する質問に、彼は俊平の紹介も兼ねて答える。俊平は頭を下げ、「よろしくっす!」と元気に挨拶する。

 

「よろしくなあ。ウチは東條希。生徒会の副会長もやってるん。」

 

 どこかマイペースな調子で自己紹介する希だが、俊平は気にする様子を見せなかった。

 

「あ、ハルくーーーーん! おっはよー!」

 

 希の自己紹介の直後、元気な声が神田明神に響いた。声の主は言うまでもなく穂乃果だ。

 

「お早う御座います、陽人君。」

「陽人君、おはよう!」

 

 続いて海未、ことりが陽人に朝の挨拶をする。元気な三人娘に陽人も「おはよう」と短く返した。

 

「ちゃんと起きられたようで、安心したぜ。」

「えっへん! 穂乃果だって、やる時はやるもん!」

「それが毎日続いてくれたらいいんですが…。」

 

 胸を張る穂乃果に、海未のツッコミが冴え渡る。そんな二人に、ことりは苦笑いするしかなかった。

 

「おはようございますっす、高坂先輩!」

「あれ? もしかして俊平君!? おはよう!」

 

 俊平の挨拶に驚いた穂乃果が、挨拶を返す。海未とことりもまた、俊平がいる事に驚きを隠せていない様子だった。

 

「おはようさん、三人とも♪」

「ふ、副会長さん! お、お早う御座います!」

「なんで、ここで巫女さんの格好を…?」

「んー? 巫女さんの格好してここで働いてちゃアカンの?」

 

 驚く二年生三人とそれを見て微笑む希に、陽人は昨日の自分を見ているような気分に駆られた。しかしこのままではいられないため、そろそろ気持ちを切り替えて練習を始めようと、陽人は三人に呼びかける。

 

「おーい、穂乃果、ことり、海未。そろそろ練習始めるぞー。」

「あ、そうだった! じゃあ副会長さん、また!」

「うん、またなあ。」

 

 大きく手を振って別れた穂乃果に、希も小さく手を振った。

 

「じゃあ、紹介するぞ。走り込みだけだが、此奴も加わることになった。」

「えっ!? 俺一切聞かされてないんすけど!」

 

 ポンと俊平の肩を置いて紹介する陽人に、俊平は思わず驚いた。自分がまさか一緒に練習するなんて夢にも思わなかっただろう。

 

「昨夜はお前にそれ言う暇なかったからな。何とか寝る前にいつもより早く起きろって言えただけでも良しとしなきゃ。」

「うう…なんで態々早朝に特訓なんて言い出すのかと思ったら、そういうことだったんすね…。」

 

 しょげる俊平に、海未とことりは何が何だかと言わんばかりの困惑を顔に出していた。

 

「えっと…陽人君、鹿野君とは…?」

「そういえば、まだちゃんとコイツとの関係について話してなかったっけ。まあごく簡単に言えば、一緒に住んでるんだよ。知り合いの店でな。」

 

 陽人のあっけらかんとした声が、朝の神田明神内に響いた。これには当然、海未もことりも驚き、穂乃果も驚愕の色を示した。

 

「と、という事は…同棲!?」

「ど、同棲!? 破廉恥です!! 破廉恥です!!」

「同棲ってことは…。」

 

 姦しい反応を見せる三人に、陽人と俊平は思わず顔を引き攣らせていた。

 

「オイてめえら、つまらねえ事考える位なら俺は帰るぞ…?」

 

 少しだけ怒気を孕ませながら呼びかける陽人に、三人は揃って姿勢よく向き合いだした。相当畏怖を感じたのだろう、俊平は隠れて笑いを堪えた。

 

「じゃあ海未。ストップウォッチは持ってるか? 持ってたら俺に預けてくれ。」

「あ、はい。どうぞ…。」

 

 気を取り直した陽人が手を差し出し、海未は自分の学生鞄から、ストップウォッチを取り出し渡した。

 

「ん、サンキュ。じゃあ四人とも、この階段を往復10セット走って。タイムは俺が計るから。」

「くそお…アニキは走らないんすか…。」

「お、俊平。そんなに走りたいならもう5セット増やしてやるぞ?」

 

 陽人の指令に俊平は小声で愚痴をこぼすが、陽人には聞こえていたのか、わざとらしい爽やかな笑顔で増やすのかどうかを訊いた。

 

「いいえ、10セットでも充分です!」

「よし、じゃあ位置について。…開始!」

 

 陽人を除く四人は階段の前で姿勢をとる。そして陽人のスタートの掛け声により、四人は階段を走り出した。

 

 

 

 

 

 そして数分後。

 

「ふう…意外と早く終わったっすね。」

「私としては、怪物に襲われた時の件といい、今日の走り込みといい…正直、鹿野君自体に不思議に感じますよ…。」

 

 早々に走り終えた俊平と海未は、陽人が用意していたスポーツドリンクを飲みながら会話を交わしていた。

 当初、俊平は穂乃果やことりよりは速く走れるだろうと思っていたし、実際海未もそう思っていた。だが結果は海未には及ばなかったものの、わずか一秒差のタイムでそれぞれゴールしてみせたのだ。

 

「まあ…行く先々で必ずって程じゃないけど、あんな化物に遭遇することはあったので…。」

「行く先々でって…そ、それで良く生き延びられましたね…。」

 

 何度も遭った壮絶な体験を語る俊平に、海未は思わず唖然とした表情になった。

 

「別に俺が毎回被害に遭った訳じゃないすからね? まあでも…化物が出てくる度に、いつも颯爽と現れるんすよねぇ…。」

「それって…もしかして?」

「ええ、ご察しの通り、“仮面ライダー”です。園田先輩達が見たライダーだけじゃなくて、色んなライダーが沢山いて、俺も何人かに会いましたよ。」

 

 勿論、身近にも仮面ライダーはいるんですけどね―――。その言葉は、俊平の口には出さずに呑み込む。とは言え、仮面ライダーにも幾人かに遭遇している俊平に、海未はやはり驚きを隠せずにいた。

 

「はあ…はあ…。も、もう無理ぃ~。」

「ぜえ、ぜえ…も、もう足が動かない…。」

「ちゃんと走ったか?」

 

 俊平がそこまで語ったところで、穂乃果とことりが地面に座り込んで息を切らしていた。陽人は二人に完走し切ったかどうかを訊くと、無言でサムズアップやピースを作っていた。それを見た陽人はストップウォッチの計測を止めてタイムを確認する。

 穂乃果とことりのタイムは先にゴールを果たした俊平と海未に比べて、三分の差がある。いきなりこんなにきつい走り込みを始めるのだから、遅いのは仕方がない。とはいえ、彼女達にはもっとタイムを減らして走る量を増やさなければならない。

 

「これから毎日、朝だけではなく夜にもここを走って、基礎体力をつけていくことにするからな。覚悟しておけよ~?」

 

 意地悪げな声色で宣言する陽人に、穂乃果は「一日二回も~!?」と不満を漏らす。

 

「ですが、やるからにはとことんやりましょう。これくらいしなければ、良いライブには出来ません。」

 

 さらに不満を漏らそうとした穂乃果を遮り、海未が陽人の言葉に続いて口に出す。不満を漏らそうとした穂乃果もいつの間にか真剣に聞き取っていた。多少の愚痴は零そうとしてもそれを真剣に聞くあたり、改めて彼女達の本気の度合いが窺えた。

 

「一通り走り終えたし、ほらお前等。スポーツドリンクだ。」

 

 陽人は穂乃果とことりにスポーツドリンクを渡し、二人はそれを受け取った。二人がドリンクを飲む光景を陽人は一瞥すると、空を見上げた。空は青く広がっていた。

 昔、旅をしていた時にある人物が言っていた。どこまでも青い空は広がっている。今、雨が降っている雲の向こうには青空が射し込むと。

 

(綺麗事みたいなのに、なんかズシンって来たんだよな…。)

 

 何故今になって“彼”の言葉が出てきたのかは分からない。多分、“彼”の言葉と今の穂乃果達の状況を重ね合わせているかもしれない。

 穂乃果という、ファントムにとって絶好の餌がある今の状況でも尚、彼女は笑顔を絶やさずにいた。単純に夢でも見ているのかと勘違いしているのか邪推してしまうほどにである。

 

「心だけは妙なところで頑丈だからな…。」

「ハル君、どうかした?」

 

 陽人の呟きが聞こえていたのか、穂乃果が話しかけてきた。突然話しかけてきたことに陽人は驚き、肩を震わせるが、すぐに平静を取り戻す。

 

「何でもねえよ。ちょっと眠気が襲ってきただけだ。」

「えー、ホントにぃ?」

 

 誤魔化す陽人に、穂乃果は詮索を入れる。が、これ以上踏み込まれるのは面倒と陽人は思い、「シッシッ」と除けるように払う。

 

「君達。」

 

 ふと、陽人達を呼ぶ声に向いてみると、希がそこにはいた。一体何の用なのだろうと、陽人は勿論、他の四人もどこか訝しげな反応をしていた。

 

「せっかく階段使わせてもらったんやから、お参りくらいしていき?」

「そうっすね…んじゃアニキ、ちょっとお参りしてきます!」

「おおー、行ってけ行ってけ。穂乃果達もお参りするなら、俺はここで待ってるよ。」

「うん、穂乃果もお参りしてくよ!」

「陽人君はしないのですか?」

「俺はいいよ、こういうの好きじゃないんだ。」

「おや、スピリチュアル好きのウチの目の前でそんな事言うなんて酷いなあ…。」

 

 陽人の言葉に、希が大袈裟に悲しげな仕草をとる。あくまで大袈裟にとっただけなので、陽人はあまり茶々を入れようとはしなかった。

 

「初ライブが成功しますように!」

「上手くいきますように…。」

 

 声に出して願い掛けをする穂乃果達女性陣とは対照的に、俊平は無言で手を合わせて願い掛けをしていた。そんな俊平に、希は少し関心を抱いた。

 

「彼は言葉にしないんやね。」

「最終的には、自力で願いを果たしたいでしょうからね。」

「ん、陽人君は知ってるん? 彼の願い。」

「一応知ってはいますけど、教えませんよ。」

「ケチやねえ、まあ深く訊くつもりはないけどなあ。」

 

 はぐらかす陽人に、希は少しだけ皮肉を投げかける。尤も、彼女の言葉通り深く詮索するつもりは無いようで、陽人は内心ほっとした。

 

「陽人君はしないんやね、願い掛け。」

「…俺は、信じられる性質じゃなくなったんで。」

 

 違和感の残した陽人の返しに希は不審に思ったが、穂乃果達が戻ってきたため、今はその考えを頭の片隅に追いやることにした。

 

「じゃあ、東條先輩。またあとで。」

「うん、ほなまたなあ。」

 

 陽人達は希と別れ、それぞれ自分達の住処に足を運んだ。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 無事に学校に着き、滞りなく授業も進め、休み時間を迎えた頃。穂乃果達は一年生の教室に出向いていた。理由は言うまでもなく、西木野真姫に作曲を頼むためである。

 

「失礼します!」

「失礼しまーす…。」

 

 元気よく教室に入ってきた穂乃果とは対照的に、陽人・海未・ことりは気が進まない様子だった。そもそも自分から頼みに行くのはいいとしても、彼女の所在は俊平に訊けばいい話なのだから、全員で行くのは多少気が引けると言うものだ。

 

「あ、アニキ…? 一体どうしたんすか?」

 

 教室の入り口から問いかけたのは、俊平だった。陽人はほっとした。もし俊平が来なかったら絶対に恥ずかしい思いをしていたに違いない。女子の一部がひそひそと小声で顔を赤らめながら話しているのはあえて気にしないことにした。

 

「あ、俊平君! あの子いる? 赤い色の髪の…。」

「ああ…西木野の事っすよね? 今はどこにいるのか分からないんすよね…。あ、小泉!」

「ヒャアッ! え、えっと…どうしたの? 鹿野君…。」

 

 俊平に呼ばれた小泉という眼鏡をかけた女生徒が、驚きながらも反応する。名字とはいえ、まだ碌な交流もないのに既に呼び捨てで女子生徒の名を呼ぶ俊平は、中々の度胸があると言えよう。

 

「西木野がどこにいるか、知ってる?」

「に、西木野さんなら…音楽室にいるんじゃないかな…?」

「そっか、サンキューな!」

 

 明るい笑顔で礼を言う俊平に、小泉と呼ばれた女生徒は恥ずかしそうにしながらも「ど、どう致しまして…」と応える。

 

「よっしゃ、音楽室に行きますか!」

「お前のコミュ力にはほとほと呆れるよ…あ、教えてくれてどうもね、小泉さん。」

「ありがとう! それじゃあ、失礼しました!」

 

 穂乃果の退室を皮切りに、他の三人も一年生の教室から出て行き、俊平の後をついていった。

 

 

 

 

 

「お断りします!」

「ええっ!? そんなあ!」

 

 拒絶の声と、それに対する困惑の声が音ノ木坂学院の屋上に響いた。断りの台詞を入れたのは西木野(にしきの)真姫(まき)で、困惑の声を出したのは穂乃果だ。

 音楽室に穂乃果達五人は向かうと、そこでは真姫が弾き語りをしていた。曲の内容は最初に聴いた時と同じようだが、変わらないハイクオリティに五人は自然と聞き惚れていた。そして演奏に一区切りをつけた真姫が、キラキラと目を輝かせ拍手する穂乃果に驚くのは前回と同じだった。

 そして屋上にて作曲を頼もうとしたのだが、結果はというとこの有様であった。

 

「まさか西木野に作曲を頼むとは…。」

 

 事の顛末を知らなかった俊平がぽつりと呟く。俊平の呟きに、陽人は苦笑した。

 

「もしかして、歌うことは出来るけど作曲は出来ないとか…?」

「な…っ! 出来ますよそれくらい! でも興味ないんです!」

 

 悪気はないのだろうが、穂乃果の煽りともとれる言葉に真姫は怒りに任せて言葉を連ねる。

 

「その歌で生徒が集まるかもしれないんだよ! そうすれば…」

「もう一度言いますけど…興味、無いんです。」

 

 真姫はきっぱりと言い切ると、屋上を後にした。陽人はチラリと俊平を見る。陽人の視線に気付いた俊平は、何を言いたいのかまた視線で応える。陽人は小さくOKの形を右手で作り、俊平に見せる。陽人の意図を理解した俊平は、首を振った。それを見た陽人は頷き、溜め息を吐いた。

 しかし、これで完全に作曲の当ては無くなったと言っていいだろう。俊平も作曲・編曲には実は興味があるのだが、あくまでも興味があるというだけで、技術自体はない。

 

「お断りします! って…海未ちゃんみたい。」

「あれが普通の反応なんです!」

「折角、海未ちゃんが良い歌詞を作ったのになあ…。」

 

 そう言って、穂乃果はポケットから四つ折りの紙切れを取り出した。まさか練習メニューを考案した後に一晩で完成させたのか。もしそうだとしたら相当の速筆だと陽人は思う。

 

「な…か、返してください!」

「えー、いいじゃん! どうせライブで披露するんだし!!」

「だ、ダメなものはダメなんです!!」

「穂乃果、パス!」

「はいっ、ハル君!」

 

 紙切れの取り合いになりそうなところで、陽人が穂乃果に自分に渡すよう指示を出す。その指示を聞いた穂乃果はすかさず陽人に紙切れを渡した。それを見た海未は陽人に駆け寄り奪い取ろうとするが、結局紙切れを開けられてしまい、海未の詞は日の目を見ることとなった。

 

 ―――産毛の小鳥達もいつか空に羽ばたく。

 

 ―――明日よ変われ、希望に変われ。

 

 ―――またひとつ、夢が生まれ…。

 

「おいおい…中々にハイセンスな詞じゃねえか!」

「そ、そうでしょうか…?」

 

 陽人の称賛に、海未は自信なさげな反応だった。だがこの歌詞は素人目で見ても響くものがあった。俊平とことりも横から覗き込んで見ているが、その反応は両者ともに上々のものだった。俊平は目を見開いて輝かせ、ことりは感動したのか声を漏らすほどであった。

 

「こいつは凄いっすよ、園田先輩! 俺、感動したっす!!」

「うん、こんなの見せられたら、ことりも衣装作り頑張らなくちゃって思うよ!!」

 

 俊平も彼なりの言葉で海未の詞を褒め、ことりは詞を見た事で衣装作りに刺激を受けたようだ。

 

「そ、そうですか…ありがとうございます…!」

 

 俊平とことりにも称賛されたことで、海未も自分が書いた詞にようやく自信を持てたようだ。それを見た陽人と穂乃果はお互いを見合い、小さく笑い合った。

 

「ようしっ! やっぱりもう一度、西木野さんに見てもらおう!」

「貴方達…。」

 

 穂乃果が意気込んで再度、真姫に頼み込もうとした矢先。

 現れたのは、絢瀬絵里だった。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 休み時間を終えて現在、現代文の授業。真面目に先生の話を聴いている者もいれば、逆に話が単調気味なためか眠くなり睡魔と闘っている生徒もいれば、窓の向こう側の景色を眺めて黄昏る生徒もいるし、全く授業に上の空な生徒もいる。

 その上の空な生徒とは、穂乃果だった。

 

『はっきり言わせてもらうけど、貴方達のやっていることは逆効果になり兼ねないわよ。』

 

 穂乃果は、絵里の言葉に対して考え事をしていた。

 

『スクールアイドルが今まで無かったこの学院で、やってみたけど結局駄目でしたってなったらどうするの?』

 

 海未もことりも、先生の話を聴いたりノートをとったりしているものの、実際は先程の絵里の言葉を考えていた。

 

『私もこの学院は無くなって欲しくない。本当にそう思っているから、簡単に考えて欲しくないのよ。』

 

 一方的な意見の押しつけともとれる絵里の言葉に、穂乃果達は頭にガツンと衝撃を受けたような気がした。絵里を含めた穂乃果達の様子を、陽人と俊平は傍観することにした。俊平は状況が理解できないと言うのもあったが、陽人は啖呵を切った手前、静観することにしたのだ。

 

 

 

 

 

「やっぱり…簡単に考えすぎてたのかなあ…。」

 

 昼休みを迎え、穂乃果は絵里に言われた事を気にしているのか、彼女らしくない弱気な発言が零れ出た。

 

「やっと気付きましたか…。」

「でもふざけてやろうなんて思ってないよ。ハル君が考えてくれたメニュー、ちゃんとやるように心がけてるし…。」

「ですが、生徒会長の言ってる事はしっかりと受け止めなくてはいけませんよ。」

「別に気にする事はないけどな。」

 

 陽人のマイペースな発言に、穂乃果達の視線が陽人に集まった。

 

「あの時言っただろ? 俺達は俺達で、生徒会は生徒会で廃校阻止を目指せばいいんだって。」

「あ…っ!」

 

 陽人の言葉に、穂乃果達は思い出した。部活動申請書の際の、陽人と絵里のやり取りを。

 

 ―――人生なんて選択肢の連続。それはどんなに些細な事だったり、受験勉強や就活みたいに自分の未来を決める途轍もなくデカいものだったり。

 

 ―――まあ要するに、ここから先は俺達でやらせてもらうって事で。こんな道を選択したんだ、茨の道だってことはこいつ等も承知してるはずですよ。

 

「そういえば、そうだったね…。」

「うーん…あの時のハル君はカッコよかったねぇ…。」

「どこを思い出しているのですか…。」

 

 穂乃果の回想にツッコミを入れる海未に、陽人は苦笑いした。

 絵里の考えは陽人にも理解は出来なくはなかった。だが彼女の考えは、どちらかというと保守的すぎるのだ。世の中、失敗なくして成功は生まれない。だからこそ陽人は穂乃果達によるスクールアイドルの活動をサポートすることにしたのだ。

 

(あの会長の場合、別の理由でスクールアイドル活動を認めない気がするけどな…。)

 

 それも個人的な感情を優先して認められないような。陽人はそんな気がしてならなかった。

 

「でも、もう宣伝もしたし講堂の使用許可も得ている。ライブまではあと一ヶ月もないぞ。」

 

 陽人の示した現実に、穂乃果達も気を引き締める表情になった。

 

「せめて一曲は、歌う曲を決めないとね…。」

「ですがもう断られてしまった以上、歌う曲はほかのスクールアイドルの曲をコピーするしか…。」

「やっぱり…そうなるのかなぁ…。」

 

 ことりの沈んだ言葉を最後に、静かな雰囲気が四人に流れ始める。だが、そんな重暗い雰囲気を良しとしない男がいた。

 

「まあ、まだ諦めるには早いんじゃないか?」

「えっ…ハル君?」

 

 突然立ち上がり何を言い出すのかと思えば、彼なりの激励なのか、穂乃果は少しだけ唖然とした表情になっていた。

 陽人の一考察だが、恐らく西木野という女子生徒は“本当の自分”を抑え込んでいるのではないか。故に、放課後の音楽室でただ一人、弾き語りをしていたのかもしれない。

 

「穂乃果…もう一回、頼んでみるか?」

「うん、勿論!」

「は、陽人君!?」

 

 陽人のリベンジの持ちかけに穂乃果は当然乗り、海未は戸惑う。

 

「頼むって言っても、さっきみたいに生半可に行けば断られるのがオチだ。」

「え? じゃあどうするの?」

 

 ことりの問いかけに、陽人は大袈裟なくらいに笑みを浮かべた。

 

「全力で想いをぶちまける!」

 

 まさかの根性論に、穂乃果は目を輝かせ、海未はため息を吐き、ことりはパチパチと瞬きをしながら口をポカンと開くのだった。

 

 

 

 




次回、Love live is SHOWTIME!!


「今日から私達は…“μ's”だ!」

「好きな事をやれるのなんて、今のうちだけだから…さ。」

「望みは捨てなくても大丈夫。大きくなる可能性はある。」

「私たちの曲が、出来たんだよ!!」


叶え、私たちの夢―――!
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