色々動き回って疲れてたんです。
今も眠いです。
「あ、これ無理ぞ」
標的を後方から奇襲し、数を減らしたのち迎撃し各個撃破する……そういう任務だった。しかし彼女は慣れないバックパックVOBの使用に戸惑い、半分も落とせずに空を飛び回る戦闘機を落とすはめになり、自分の愛機でぴょんぴょん跳ね回りながら弾をばらまくことで、半分は落とせたと思ったがいつの間にか損傷度は70%をこえ、回避行動を取りつつ撃ち落としてたが周囲を見なかったのが原因で致命的な一撃をもらい、耐久値が0になりミッションに失敗した。
《馬鹿野郎が》
「ごめん、オペレーターさん……」
『これでもう5度目だぞ? もう一度するのか?』
【もう一回遊べるドン】
いつの間にか前のめりになっていたのでソファにもたれかかり、こめかみをグリグリとほぐす由々香。傍らには前足を交差しその上に顎を乗せくつろぐラーの翼神竜、白い文字を流しその場に漂っている黒い球体こと邪神アバター。外は昼前よりも雨がひどくなり窓を殴りつけるように降り続く。
今やってるゲームはロボットはロボットでも傭兵となって、パーツを組み上げ自分だけの機体を作り依頼をこなしていく鉄と油のにおいのするゲームである。由々香は逆関節と呼ばれる機体を使い、跳ね回りながら楽しんでいたが、ここ最近になって問題が発生した。
「VOBが苦手すぎる……」
『さっきはギガなんちゃらに近づく前に落され、今度は5度も同じ任務に失敗』
「ゲームだし何度でもリトライはできるけど、現実だったら愛想つかされてるよねぇ……」
『違う機体に乗り換えてみるのはどうだ? ほらあのタンクとかどうだ? ゴツイし武装もいっぱい詰めそうだ』
「私はこの逆関節で、この世界を生き抜くって決めたんだ……」
『そうかなら一旦休憩してはどうだ? 疲れているからかもしれんなこれまでの失敗は』
「んじゃ~休憩ー!!」
セーブしゲームの電源を切って、ついでにテレビの電源も切って寝転がる。静かになるリビング、雨音だけが耳に響き渡る。
『我が主よ、私の背に足を乗っけるのはやめていただけないだろうか?』
「えぇ~なんで、もし重いとかだったら泣くよ?」
『重いからに決まってるだろう、ソファは狭いんだ譲り合いの精神と慎みを持ってくれ』
「うーわひど~い、面と向かって言い放ったよこの金ぴか生物は……あぁ私の心はもう砕けた、粉みじんになって砕けた。私の今の気持ちを表現してみてアバター」
【HEYyyyy!! あぁあんまりだぁああ!!】
「お見事」
【恐悦至極】
『我が主と黒いののその連携っぷりは何だ、どこぞで打ち合わせでもしてきたのか』
「ノリ」
【カン】
『うわぁ……』
話にオチが付き静かになるリビング。やがて深く落ち着いた規則正しい息が由々香から漏れ始める。それを察してかラーは起こさないように背中から足をのけ静かに飛翔する。向かう先は主の部屋、そこから毛布を持ってき優しくかぶせる。
『(起きているときはあれほど騒がしい我が主も、寝てしまえば幼子のようにおとなしい……いつのまにか黒いのもおらんようだし、久しぶりと思うほど時は過ぎてはいないが、珍しく静かな一時だ)』
口を開け緩んだ顔で眠りこける主の顔を覗き込み、自分も少し微睡もうかとソファの近くで丸くなり目を閉じる。
『思い知るがイイ!! これが神の力だ!!』
なんて懐かしい夢だろうとラーは思う。こちらの世界に来る前の三幻神として崇め奉られ、畏れ敬われていた時期のことだ。あのころは今から思えばずいぶんと荒れていたなと思っている、たかだか自分のコピーカードを使われた程度でいちいち目くじらを立て、使用者を焼き尽くす。もし今の自分がその場にいたならきっと2、3小言を漏らし『悪用するなよ』と注意を促していただろう、それでも悪事を働く場合は使用者の毛でも焼き尽くして、金輪際生えなくしてやろうかと考え、少し笑みがこぼれる。
『(丸くなったものだな、我も……これもすべては今の我が主のおかげか)』
この世界には大量のカードがあふれている。それこそ自分のカードや他の神のカード、世界に1枚しかないと呼ばれるカードが子供の小遣い程度で買えるほどにはあふれている。そんなところへ神のコピーを使うなど許せんっ! と裁きを下していてはキリがない。それに向こうと違いこちらのラーの翼神竜はヲーとかライフちゅっちゅギガントと揶揄されるようなシロモノで、使用者を怒るというよりこんな効果にした会社を怒りたい気分だった。が数は少ないが弱い自分を使ってくれる決闘者を見ると嬉しくなる。
『手札から『オシリスの天空竜』を召喚!! さらに魔法カード死者蘇生を発動!! 甦れ! 『オベリスクの巨神兵』!!』
そういえばそんなこともあったなとラーはぼんやりと考える。神のカードをめぐる争いはいつしか世界に広がり、世界の命運は神のカードを継ぐにふさわしいと断言する男と、成り行きで巻き込まれ傷つきながらも多くの友人に囲まれ戦いを挑んだ優しい少年。激戦を制したのは少年のほうであった。戦略もプレイングも超が付くほどの一流決闘者になぜ少年が勝てたのか? 昔はわからなかったが今はなんとなくわかる気がする。
そのあともややこしい事態に巻き込まれ事件の渦に自ら飛び込んで行き、最終的には三幻神のカードを元の場所に戻し地底深くに沈め、争いが起きないようにと祈られ眠りについた……筈だった。
『33-4……ナンテコッタイ』
なぜ目が覚め、なぜ今の主と共にダラダラと日々を過ごしているのかわからないが。カードの奪い合いや殺し合いとは真逆の今の生活は存外楽しい。我が主としてはいささかデュエルの腕前は弱いが、そんなこと気にならないぐらい最近は楽しい。ご飯を食べて学校へ行って家に帰って、だらけて寝る。その繰り返しを守れるなら邪魔するやつはすべて消し飛ばしてやろうと考える。むろん由々香には内緒でこっそりと。
『むぅ……6時過ぎか』
不意に目が覚めるラー、そろりそろりと歩き戸棚から愛用のマグカップを取り出し、冷蔵庫から出したほうじ茶を注ぎ一息にあおる。何か懐かしい夢を見ていた気がするが、覚えていないので放っておくことに。
『もう少ししたら主を起こして、ご飯を作ってもらおう』
冷蔵庫には色々材料があり、取りあえず一品ぐらいは出来そうであった。足りなければ買い足しに行けばいい、そこまで考えて窓の外を見る、確か雨が降っていたはずだと。
『……小雨か、これなら買い物には行けそうだな』
昼寝をする前に比べたら幾分かの落ち着きを見せ始めている空模様。太陽神としての力をもって、強制的に晴れにしようかと何度か考えたが、雨の日には雨の楽しみ方があるとゲームの最中に、由々香がつぶやいたことを思い出し、やめておこうと泣き続ける空を見て思い直す。
することがなく空を見ていると、後ろで由々香が起きる気配がした。
『おはよう我が主よ、今は6時……半だが、ってどうした我の顔をじっと見つめて』
「チキン南蛮?」
『起きて最初の言葉がそれか我が主よ、われのどこをどう見たらチキン南蛮に見えるのだ』
「夢で、ラーが素揚げされてた……カラッと、ジューシーに」
『寝ぼけているな主よ、素揚げで思ったんだが今日は野菜が食べたい気分でな、何かいい料理はないか?』
「お腹……空いてるんだ、だったら野菜のかき揚げ丼を作ろうか、あでも野菜あったっけ?」
『さっき確認してみたがそこそこあったぞ、かき揚げが出来るほどの量かは不明だが』
「足りなかったら買いに行けばいいし……あぁでも外雨がどしゃ降りだし……」
『今しがた見たが小雨になってたぞ、外を出歩くには大丈夫ってなんだその目は』
「いや今日はやけにグイグイくるなぁと、そんなに食べたいの?」
野菜のかき揚げは興味はあるし食べたい。そこで言われて気づく、なんでこんなにグイグイと行くのだろうかと。ちょっと考え出した結論は––
『さっぱりだな、よくわからん』
「ならまぁいっか、よっしゃーかき揚げだぁ! ヒャアァア!!」
『うぉおぉぉぉおお』
気の抜ける掛け声と、気の抜けた雄たけびが夕飯時の家にこだました。
自分はタンク乗りです、VOBがくっそ苦手。
いつかラーの夢に出てきた優しい少年とか正当後継者の男とか出てくるんだろうか? プロットなしにフラフラと歩き続ける、この小説の行き先はわかりませんのよ。
まぁこれからかもっと賑やかになるし騒がしくなります。