光の目短編集:もしもの目   作:朝比奈たいら

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『コーンウォリスの目的』

~ETPC IF~

 

 

 

 

 

 

「なぁおい、走りながらで良いから聞いてほしいのだが」

 

アルビオン国、首都ロンドンの路地裏。

本社に向かう為の近道として通ったその場所で、

ETPCタメルラーノ総督であるコーンウォリスは走っていた。

 

タイム・イズ・マネーという言葉はアルビオンが所有する植民地で生まれた言葉だ。

だがこの格言はETPC内でもさほど使われていない。

この会社にとっても時間は金であるが、そんな事は当たり前の事だったからだ。

時間は金であり、金は金であり、金は全てである。

金で表わせられない存在は神とETPC代表のエリザベスだけだ。

最もコーンウォリスは自分もその中に入ると考えているし、

後の戦いで神が資本主義によって破壊される瞬間を目撃する事になるのだが。

 

金は神よりも強し。

しかしながら今現在の彼女は、金の力で脚を速くする事が出来ないのにイラついていた。

酒場の裏にある、何が入っているかも分からないタルを二、三個薙ぎ倒しつつ

コーンウォリスが隣で拳銃を装填する赤服の男性将校に声をかける。

二人で走りながら、将校は背後に向かって発砲した。

弾丸は二人を追っていた影の一つを赤く染める。

 

「走りながらで良いとおっしゃってもあれっすよそもそも走りながら

 喋る事自体俺は嫌なわけですから走りながらで良いといういかにも譲歩して

 やってると言わんばかりの言葉は俺を気遣うそれのまったく正反対なのが

 実際であってもろこしさんが俺に喧嘩を売ってるので

 なければどう考えても言葉選び間違ってますよ」

 

句読点をつけずに、流れる様な喋り方をする将校。

普通ならば聞き取る事すら困難な抑揚の無い台詞を、コーンウォリスはすぐに理解出来た。

将校と一緒になって拳銃を装填しつつ、ふむと唸る。

 

「なるほど、くたばれ」

 

「なんでっす!?」

 

「私はお前の肺が破裂しようがチーズになろうが知った事ではない。

 踏まえて、走りながら聞いてほしいのだが」

 

「ああ、はい」

 

「どうして私がアサシンに狙われなくてはならないんだ?」

 

心底不思議そうな顔をするコーンウォリス。

彼女と副官の将校は、今現在数名の暗殺者に追われていた。

タメルラーノのごたごたを部下のグロスターと現地人のアクバルに任せて、

一旦本国に帰り諸々の報告と仕事を行うつもりで帰還した。

それは良い。

問題なのは、彼女達が新型の蒸気機関車を降りた瞬間に銃撃されたという事だ。

生まれて初めて列車に乗ってはしゃいでいた市民が何人かそのままハッピーエンドを迎え、

とりあえず人気のないところを通って本社へ向かおうとしたら追いつかれる。

仮にも首都の市街で銃撃戦をするハメになったのだが、

コーンウォリス自身はまるで身に覚えの無い話であった。

 

「そりゃあ、暗殺は暗殺する必要があるから暗殺するんじゃないですかね」

 

「エリザベスお姉様ならともかく、何故私が狙われるんだ。

 ここはタメルラーノじゃないんだぞ」

 

「タメルラーノ人じゃなくても、コーンさんに恨みがある人は居るでしょうよ」

 

「は? 何で私が恨まれなくちゃならんのだ。

 東方人ですら本来なら私を敬うべきなのに、

 アルビオンの人間が私を殺そうとするなどまったく理解に苦しむ。

 あいつらはドーフィネの連中だと思うが」

 

「ああ、さいですか」

 

将校は目を細める。

彼女とて半分は理解していようが、もう半分は本気で疑問なのだろうと感じた。

馬鹿ではないから自分が植民地人の反感を買うのは解っている。

解らないのは、植民地を近代化した事そのものに文句を言われる事なのだろう。

彼女から見れば植民地人は死んで良い人間であり、

それが大前提にあるからこそ植民地近代化論が成り立つ。

ただ、将校は最近思うのだ。

この女は祖国の同胞であるアルビオン人も、

上司のエリザベス以外は死んで良い人間だと考えているのではないかと。

そうでなければ今言った様な台詞は出てこない。

少なくともコーンウォリスはアルビオンという国の中で、

自分が殺される事が世界全体の為にならないのだと感じている様子だった。

 

「将校、ちょっと私の盾になってくれ、報酬はメシ一回奢りだ」

 

「俺の身体がニシン数匹分の存在価値しか無いっていうのなら、俺の肉を食わせますよ」

 

「ニシンのパイと同じくらいの味しかしなさそうだから、そうなるだろ。

 早くしないなら私が脚を撃ち抜いてやろうか」

 

「鬼か! ……いや、ジパング式の鬼ならまだまともですよ。

 デーモンです、デーモンキングの魔王」

 

「良い事を教えてやろう。

 天国にも地獄にも貨幣というものは存在しない。

 よって私は悪魔ではないし、

 仮に死んで天国や地獄に行ったら私はそこで腹に資本主義を宿す。

 お前はその下準備を整えておけ」

 

「死んだらあんたと一緒のところに行けるんですか? 珍しい」

 

「地獄に行ったらお前を踏み台に天上へ昇るし、

 天国に行ったらお前が地獄に貨幣制度を伝えるんだよ。

 業火の中でも溶けない貨幣をだな」

 

このままでは本当に脚を撃たれて置き去りの囮にされそうだったので、

将校はコーンウォリスの首根っこを掴んで物陰に飛び込んだ。

銃弾が弾ける音を聞きながら、右手でサーベルを抜いて左手でコーンウォリスの肩を叩く。

 

「どの道待ち伏せくらいしてるでしょうから、潔くすぱっと斬られたらどうです」

 

「そうだな、潔く斬られたら良いな、私らがあっちを」

 

「斬った、斬って、斬ってすと、まぁいけるでしょう」

 

「よし、私は援護しろ、トドメはお前が決める」

 

「多い方が奢りですよ、タメル料理の」

 

二人は近づいてくる敵に向け、物陰から飛び出す。

抜刀して反撃してくるとは思っていなかったのか、暗殺者の一人が短刀も抜けずに斬り倒された。

装填の合間を狙った為、敵は即座に銃撃が出来ない。

虎狼の様に飛び掛かったコーンウォリスは装填中の一人を斬り、もう一人を返す刀で突き刺し、

装填の終わった三人目の鼻の穴を早撃ちで三つに増やした。

二人はそれから二十秒も経たないうちにもう四人ほど斬り殺すと、

辺りに動く人間は一人も居なくなった。

 

 

 

ETPC本社の中にある食堂。

そこではタメルラーノから連れてこられた奴隷や料理人が働いており、

東の砂漠から遠く離れたロンドンでも同じ料理を食べる事が出来た。

最も同じなのは料理名だけで、材料はアルビオン製である事により味は本場より劣る。

不味い水と野菜で作られたアルビオン・カリーを食べながら、

頬に絆創膏――この時代はバンドエイドではなく、粘着テープであった――を貼った将校が

痛がる素振りを見せる。

コーンウォリスがそれを見て、ふんと不快そうに鼻を鳴らした。

 

「仮病が上手くなったもんだ」

 

「仮病じゃないっすよ。

 ちょっと擦りむいたんで貼ってるだけです。

 これを見た奴がコーンさんの人使いについてどう思うかは知りやせんけどね」

 

「そうか、良かった」

 

「……一応言っておきますけど、

 私が庇った事にしてETPCは忠誠心厚く勇猛な兵が多い! ってなると思ってます?」

 

「惜しいな、私の副官になれば私を庇って怪我が出来ると評判になるだろうと思っている」

 

「あんた自分を女だと認識してたんだ……」

 

「性別や容姿がどうというよりも、私という生命体は価値のある存在だろう?」

 

将校は黙ってカリーを口に運ぶ。

そういう時、この将校は言外に肯定の意を表しているのだと、コーンウォリスは知っていた。

この二人の付き合いは長くは無いものの、短くも無い。

 

コーンウォリスがジパングで内乱を煽る工作活動をしていた際、

彼女はジパング人という中途半端に未開な存在をどう扱うべきか困っていた。

かの民族はそこらの原住民と比べて遥かに高度な文明を持ち、

アルビオンやそれと敵対するドーフィネと比べて遥かに下等な国家であった。

ある意味ではタメルラーノや仲帝国以上に半端者なジパングで彼女がまずやった事は、

火薬兵器という存在を知らないジパング人に銃を渡す事だった。

 

文明と未開の狭間に位置するジパング人に銃を渡したらどうなるか。

少なくとも彼らが銃を理解し、国産化するとはコーンウォリスも思わなかった。

汚らしい農民兵は初めて見る銃を珍しがり、装填された状態で銃口を覗き込んだ。

早々に事故が起こっては銃の提供に支障が出ると判断したグロスターが、

悪態を吐きながら兵を注意していたのを今でも覚えている。

 

だが、銃という概念を理解する者も現れた。

突然発砲音がしたかと思うと、一人のジパング人が銃を的に向けて発砲していた。

撃ち方を説明する前にだ。

コーンウォリスが興味を持って訊ねると、

寺子屋の教師を名乗るその男は実に理論的な話をし始めた。

理論的、というのはあくまでもジパング人の基準からしてであるが。

 

銃の構造と戦術、及び戦略的な価値。

アルビオン国とコーンウォリス達が乗ってきた軍艦についての感想と評価を述べたその人物は、

コーンウォリスの一言でアルビオン行きの船に乗せられる事となる。

 

「お前、うちに来なさい」

 

「ああ、良いっすね」

 

前時代的な東方人にあって、比較的物分かりの良い人物。

後にコーンウォリスの副官となる将校は、二つ返事で了承した。

彼の寺子屋には助っ人教師として秋穂と成美という女性が居たのだが、

将校はアルビオンの船上から二人に向けて「ちょっと世界の反対側に行ってくる」と言い放った。

秋穂と成美は呆然とした顔でそれを見送っていたと彼は記憶している。

 

その後、アルビオンで教育を受け、陸軍のピクトン中将旗下の大隊長となった。

連隊長を経てETPCの将軍となった彼はドーフィネとの戦いでそこそこの戦功を挙げ、

ETPCが東方への侵略を開始してからはコーンウォリス副官として二人で派手に暴れまわった。

途中で負傷する事もあったが、今では銃だけでなく近接戦もある程度行えるほどになっている。

特に、正気のままコーンウォリスと話し合える人材、というのが最も評価される特技であった。

 

「なぁショウ、私はな、お前と話すのが楽しくてしょうがないんだ。

 お前は50%の確率で私の思考を全力で否定する。

 何度お前をくびり殺したくなった事か。

 そう思っていたら、残りの50%の確率で非常に有意義な議論を仕掛けてくるんだ、お前は」

 

「あんたが50%の確率でおかしな事を言うからでしょう。

 というか、ちゃんと将校って呼んでください」

 

「それだよ、お前のその頑固な態度が半分は気に喰わない」

 

「人には誰しも主義くらいありますよ」

 

将校はスプーンを皿に数回打ち付ける。

彼は自分の事を名前ではなく『将校』と呼んでいたし、周りにもそう呼ばせていた。

彼にも本名はあり自分の名前が嫌いな訳でもない。

ただ、彼にとって『将校』と呼ばれる事は何よりも優先すべき事であるらしかった。

部下にも上司にも、「将校」か「一般将校」と呼ばれないとろくに返事もしない。

だからETPC内では「将校のショウ・コウ」という通り名で通っている。

もちろん本名には掠ってもいない。

 

「俺の主義はどうでも良いじゃないですか。

 それより、報告はどうなったんですか。

 暗殺者の身元は割れたんでしょ?」

 

「ああ、ドーフィネの銃を使っていたが、あれはただ戦場跡で拾っただけらしい。

 実行犯はアルビオン王国残党の王権主義者だと。

 クーデターは失敗したというのにまったく、飽きない奴らだ」

 

「俺らは商い奴らですけどね」

 

「ジパング・ジョークはいい。

 理解出来ん、理解出来ん……絶対王政だぞ。

 王政で啓蒙が出来ると思うのが一般大衆のやり方であったから資本主義が産まれたのだ。

 つまりは古き老害のやる事を新世代がやっている。

 これは退化という人類史に対する冒涜に相違ない」

 

「王政から資本主義が出たって言ってます?」

 

「王とは権力であり、権力は金だと思うだろ?」

 

「つまり金持ちこそが打倒される王って事じゃないっすか。

 ならコーンウォリっさんが狙われるのも当然でしょ」

 

「私は無能な王を討つ事を否定してはいない。

 私は私を討つ事こそが間違いだと言っている。

 あなた達が私以上に儲けられますか? られるっ! 病気ですね!」

 

「ろくに流行って無い精神病の治療法よりも、

 国民の幸福度を上げる事こそが根本的な解決になりますよね」

 

「そうだな。金だな」

 

「豊かさと幸福は比例しないらしいっすよ」

 

「幸福が心の豊かさなら、まず身体の幸福を得る事が大前提のはずだ。

 身体が豊かになれば魂も引っ張られる。

 そもそも劣等人種は本人達がどう思おうが幸福ではない。

 我々が知っている本物の豊かさを知らないのだからな。

 私達が本物の幸福とやらを教えてやりますよ」

 

「感情は皮膚の外側には無い……」

 

「嘘でしょう。それを空気や雰囲気と呼ぶのがジパング人じゃないですか。

 偽りの幸福はあります。

 原始人が原始人として暮らしていた時、そこに本物の幸福はありませんでした。

 彼らが貝殻を物々交換し始めた時から、天と地が形成されたのです。

 文明という光明が集落を繋ぎ、制度という名の宗教が神を作り出したのです」

 

誰か止めろ、と将校は思った。

それが可能なのは自分だけだという事実に気づくまで数秒ほどかかったが、

今こうやって熱弁を振るうコーンウォリスに手出しすると痛い目に遭うのは身に染みて解っている。

自分は50%の人間なのだと。

ならば、彼女が不機嫌にならない話の逸らし方を残りの50%から探すべきだ。

将校は少なくなったライスを多めのルーで喉に流し込む。

 

ふと、コーンウォリスが黙って将校を見つめた。

将校からしても彼女はいつも何を考えているのか分からない女である。

だからこういう時は素直にコミュニケーションを取る事にしていた。

 

「何です」

 

「お前は賢いな……」

 

「な……ん、です急に」

 

「人を見下す立場になるとな、分からなくなるんだ。

 後進国にしろ先進国にしろ、一般大衆は私の予想もつかない馬鹿をやってのける。

 同じ知的生命体なのかを疑うほどだ」

 

「そりゃあ、アホと犯罪者はこの世から無くなりませんよ」

 

「アホと犯罪者を兼ね備えている人間の気持ちが分かるか?」

 

「いいえ、俺はコーンウォリス閣下と同じ知的生命体なもんで」

 

「お前と喋っていると落ち着く。

 馬鹿をやるにしても、私の常識から外れた事はしないからな」

 

将校は食後の紅茶を噴き出しそうになる。

ティーカップを置いて、一度深呼吸をしてから返した。

薄々感づいていた疑問を。

 

「あのー、一応聞くんですけどね。

 それは副官として褒められているって事でよろしいんでしょうか」

 

コーンウォリスは珍しく儚げな顔を見せていたが、将校の言葉に一瞬で真顔になる。

 

「殺すぞ」

 

「はい、サー! 了解しております」

 

将校は安心し、納得もする。

コーンウォリスという人物は、言われているほど気が狂った人間ではない。

人を嫌う事もあれば、好きになる事もある。

ただし将校は、自分が男として好かれている事はありえないとここで確信出来た。

彼女が今欲しているのはそういう存在ではない。

第一、彼女の好きなタイプが男だと明言された事も無い。

 

「ちっ……どいつもこいつも……」

 

「えっ、どいつもこいつもって言うほど言い寄られてるんですか? あるわけないじゃないですか」

 

将校がわざとらしく言った直後、テーブルに置いた彼の手にフォークが突き立てられた。

割と深かったので、悲鳴を上げて手を押さえる。

周りの社員達が何事かと振り返ったが、コーンウォリスの姿を見てそのまま360度回頭した。

 

「暗殺者からの攻撃よりひでぇ怪我だぞ……」

 

「予想出来た返しだったが、むかついたので刺した。

 反省はお前がしろ」

 

「はーっ……何でもいいですけどね。

 こういう事してると本当に暗殺されますよ」

 

「言うだけなら金はかからん。

 私は役割を果たすまでは死なないし、死んではいけない」

 

将校は手に赤い物が滲むのを眺めながら、

以前からコーンウォリスに聞きたかった事を聞くチャンスだ、と思う。

再度傷口を刺されない様に隠しつつ、慎重に言葉を選んだ。

 

「ええとですね……コーンさんの役割って何です?」

 

「ETPCだが」

 

「そうじゃなくてですね。

 何というか、人生の目標、っていうのがあるじゃないですか。

 いっつもあなたが何を考えて、何を目標にして生きているのかが気になったんです。

 生きる目的、と言うのかな……」

 

持っていたフォークを皿に戻し、ふむと唸るコーンウォリス。

彼女にとってこの質問は予想外の物であった様子だ。

考える素振りを見せるが、十秒と経たずに憮然とした顔になる。

 

「目的なんて決まっているでしょう。

 ETPCの将軍という先進的尖兵として東方に神勅をもたらし、

 文化的停滞から東方人を解放するのが役割です。

 後、お金と資源」

 

「いえ、そういうのではなくて、本音というかあなた自身の目的です」

 

「私は常に本音で喋っているつもりですよ。

 個人的な目的というのならこういう風に生きている事が目的ですかね」

 

将校は驚く。

聞き間違いでなければ、コーンウォリスは非常に俗っぽい発言をしていたからだ。

 

「目的が人生?」

 

「命が惜しいかと言われれば、まぁそれなりには惜しいですよ。

 それよりも自分のやりたい事の方が優先されるのは当然だ。

 確かにエリザベスお姉様は命よりも大事な人だが、それも私が好意を持ちたいからこその話だろう。

 つまり自分を優先しているだけで、それは自然な事だ。

 まぁ東方人のそれは単なる停滞なので破壊するがな」

 

何となく。

何となくではあるが、将校はETPCの将軍であり問題児筆頭のコーンウォリスではなく、

たった一人の人間であるコーンウォリスの欠片を見つけられた気がした。

それは自分の思っていた以上に嬉しい事で、

腹と胸から湧き上がってくる血の巡りと高揚感に顔がにやけてしまう。

 

当のコーンウォリスは失言をしたと言わんばかりの苦い表情で舌打ちをした。

蹴とばす様に席を立ち、皿を下げて食堂を出る。

絶対人の居ない所で面白い顔をしている! と思った将校はすぐに追いかけた。

 

「コーン!」

 

廊下を走る。

何回か曲がり角を曲がった時、足下に何かを引っ掛けられて将校は派手に転んだ。

床に打ち付けた顔面に手をやろうとして、その手を押さえつけられる。

自分の手が革靴に踏まれているのだ、と知った将校はもう片方の手を降参の形に挙げた。

 

「そうそう、お礼を忘れていた」

 

「……カリーを一皿奢ったら、踏みつけてくるのがコーンウォリス式ですか」

 

「もう一つあるぞ、護衛のお礼だ」

 

――ETPCの幹部は大抵頭がおかしい。

その噂が本当である事は、本社を見学すれば誰にでも分かる。

しかしながら、その頭のおかしい者達も一人の人間だという事は、

ETPCに長く務めた者でないと納得できないと言われている。

 

彼女達は今日も、人間らしく生きていた。

 

 

 

 


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