カルデア男子たちの日常   作:3103

7 / 10
今回もちょこっとおまけ書きました。
ぐだ子inカルデアです。よければそちらもどうぞ。



第7話

「ーー遂に来たか。この時が」

 

 俺は静かに息を吐く。

 両手には何時ものようにiTuneカード。ガチャという戦いに出向く為の戦支度を整えた俺は、見慣れた召喚陣の前に立つ。

 

 現在ガチャはイベント『魔法少女紀行〜プリズマコーズ〜』を記念したピックアップ仕様になっている。

 また仕事しないピックアップか。どんなに回してもどうせイリヤたんは出ないんでしょう? こういう時に限って既出の鯖の宝具レベルがゴリゴリ上がるんでしょう?

 

 なんて腐ってはいけない。イベント礼装すら出なくて嘆いてはいけない。貯めといた呼符や無償石が無駄になっても泣いてはいけない。

 なにせ今回は魔法少女イベントという事で、ガチャから出てくるサーヴァントは皆女性限定なのだ。

 繰り返す。女性限定なのだ。女性限定なのだ。この召喚陣からは女の子しか出てこないのだ。光から出てくる雄っぱいは無く、その先にはおっぱいしかあり得ないのだ。

 

「ーー誰だっていい。そう、女の子だったら誰だっていいんだ俺は。可愛くて優しくておっぱいが大きければなお良しだけど」

 

 メディアさんだろうがメドゥーサさんだろうが百ハサだろうが、このカルデアに来てくれれば俺の勝ちなのだ。一般的にはハズレの鯖だろうが俺にとっては大正義なのだ。

 これが約束された勝利のガチャ。我が道に敗北は無い。筋肉だらけでむさ苦しいこのカルデアは今日を以って終了する。

 

「はぁ、はぁ……。待っててね、静謐ちゃん。六章まだクリアしてないけどお迎えするからね。いっぱいキスしようね静謐ちゃん……」

 

 おそらくマシュには絶対見せられない顔をしながら、俺は早速マネーを石に変え召喚を開始する。

 さあ、美人と美少女をお迎えだ。

 高鳴る鼓動を聞きながら、俺は光を放ち出した召喚陣に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「やっほー! ボクの名前はアストルーー」

 

「ーーそんな事だと思ったよ!!」

 

 最早価値を無くし紙くずとなったカードを床に叩きつける。

 最後の10連召喚。もう全て限凸した礼装達に心が折れかけていた俺の召喚に応じ陣の中から現れたのは、金鯖星4ライダーのサーヴァント。

 見た目は美少女理性は蒸発、男の娘十二勇士、アストルフォは激昂している俺を見て、その大きな瞳をきょとんと丸く見開いていた。

 

「どうしたのマスター? いきなりプリプリしてるね。何か嫌なことでもあったの?」

 

「現在進行形で起きてるんですよそれが!! ーーなんで……。なんでこんな時に限って持ってる女鯖がかぶるんだよ!? この前まで一切音沙汰なかった癖に!! 清姫ちゃん出過ぎだよ怖いよ!? もう宝具レベル5だよ!! 種火周回がますます捗りそうで嬉しいけど、これ以上はその愛に応えられないよ!! こんなの絶対おかしいよ!!」

 

「嫌だなーマスター。ボクは清姫じゃないよ。アストルフォだよ」

 

「知ってるよ!! 知ってるからシャウトしてんだよ!! やっと金ライダー来たと思ったらこのザマだよ!! やっとマリキチアサシン黙らせられると思ったのに!! ヴィヴ・ラ・フランス出来ると思ってたのに!! つーかなんでピックアップ中に我が物顔で出てくるんだよ!! お前男だろ!! しれっと特攻つけられるから普通に有り難いけど!! ウチ君合わせて五人しか特攻になる奴いないから!!」

 

 力の限り叫ぶ。

 愛憎入り混じったこの気持ち、どうしてくれようか。

 しかし。俺の全力の叫びを理解出来てなかったのか、きょとんと首をかしげるアストルフォ。

 ちくしょう。もう嫌だ。こんなクソゲー辞めてやる。シャドウ◯ースに切り替えてやる。ウィッチの揺れるおっぱい凝視してやる。

 

「んー、と。マスターがなんで怒ってるのかわからないけど、取り敢えずボクこのサークルから出ていいかな? ひ弱だからずっと立ってると疲れちゃうんだよねぇ。戦いに行く前に一回お茶にしたいかも。……あ、そうだ。マスターお菓子持ってない? ボクカントリー◯ームが食べたいなー」

 

「いや自由か。呼び出したのはこっちだけど早速友達の家気分とか、流石に馴染むの早過ぎじゃありませんかねぇ……。ここ一応、人類滅亡の波止場なんですけど。いやまあ、各々割と好き勝手してますけど」

 

「まあまあ。お互い出会ったばかりだし、先ずは親睦を深めようよ。難しい話こそ、リラックスしながらするべきじゃない?」

 

 ぱちり。と長いまつ毛を揺らしてウィンクを飛ばしてくるアストルフォ。

 その端整で本当に女の子にしか見えない顔立ちに、俺の視線が釘付けになる。

 …………。…………やっべ。不覚にも今、めっちゃドキドキした。

 アイツ男なのに。実は女の子でしたー、ってパターン絶対無いの知ってるのに。

 俺はアストルフォにバレない様に深く息を吐き、顔の火照りを抑える。

 

「……ま、まあ。折角来てくれたんだ。歓迎するよ。ようこそ、アストルフォ。歓迎会は夕飯の時でいいか? うちのシェフに腕をふるわせるから料理は期待していいぞ」

 

「やった! ありがとマスター! ワインは赤でよろしくね!」

 

 ニコニコ笑顔で俺に飛びついてくるアストルフォ。

 揺れる三つ編みからは花のような甘い香り。嗅ぎ慣れた金属やオイルや男の汗とは真逆の匂いにまたしても鼓動が早くなる。

 

 ……男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ男だ。

 こいつは男だ。男、なんだ……! 

 

 そう自分に言い聞かせながら、俺はマシュのおっぱいを頭に浮かべて、理性の蒸発をなんとか堪えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 

「……あの。孔明先生。もう少し手心を……」

 

「断る。勝負に情けは無い。これで詰みだ」

 

 画面の向こう。

 俺が操作していた軍勢の最後の一団が、十倍近くありそうな相手の兵達に飲み込まれた。

 文句無しの全滅である。当然結果は俺の負け。

 カルデアの倉庫に眠っていた今時古風なブラウン管テレビには、1PWINと勝利を知らせる文字がテカテカ光っている。

 

 それを見て、少し間を空けて座るキャスターのサーヴァント、依代召喚で現代の誰かに憑依し召喚された三国志でおそらく一番有名な軍師、諸葛孔明(しょかつこうめい)が、眉間に皺を寄せながら鼻を鳴らす。

 

「相変わらず戦術は一向に成長せんな君は。いつまでも初歩の初歩で躓いていてどうする。これでは人理の修復など任せておけんぞ」

 

「……いやいやいやいやいや。ちょっと待って下さいよ。そんな俺が全く成長してないみたいにいいますけどね、孔明先生。貴方に最初から全力出されたら一般人の俺が勝てる訳無いじゃないですか。フツーに全力でしたよね、今。攻めがエゲツなさ過ぎて開始二分で心折れてたんですけど。これが大軍師の究極陣地ってやつなんですか」

 

「自分の無力を棚に上げて言い訳か。あのくらいで音を上げていてどうする。これから先、あれ以上に厳しい戦況が訪れる可能性は充分にあるんだぞ」

 

「……いやそりゃ、確かにそうかもしんないっすけど……。……今の勝負、完全に八つ当たりですよね? この前このゲームでヘクトールさんに滅茶苦茶粘られた上に一瞬の隙つかれて負けた腹いせに雑魚ボコって憂さ晴らししただけですよね? 教育とか全然考えてませんでしたよね?」

 

「……さて。次だ。私に勝てとは言わんがせめて三十ターンは持たせられるようになれ。それが私達の指揮官(マスター)としての最低条件だ」

 

 俺の指摘を無視して、淡々と次の戦(ゲーム)の準備をし出す孔明先生。

 この人ほんとアレだな。普段はクールに振る舞ってるのに、ゲームの事になると一気に大人気(おとなげ)無くなるな。

 と、四章攻略の合間のちょっとした息抜きだった筈のTVゲームに、熱中するロード・エルメロ……、もとい孔明先生に白い目を向ける。

 

「……別のゲームにしません? スマ◯ラとかマ◯オカートとか。もっと動きのある奴に。流石に戦略ゲー三連戦は飽きましたよ。どうせ負けるし」

 

「私に勝てたら考えてやろう。ほら、コントローラーを握れ。始まるぞ」

 

 取りつく島もない。

 こりゃ満足してくれるまでサンドバッグになるしかないか。このまま何も出来ずに終わんのも悔しいしな。

 覚悟を決めた俺はコントローラーを握り直し、画面に再び目を向ける。

 

「……そーいや孔明先生、普段は他にどんなゲームするんです? てかこの手のシミュレーション以外に興味あるんですか? 勝手なイメージですけど他のジャンルにあんまり興味無いイメージが」

 

「……アクションやADVはあまりやらんな。だがそれ以外は大抵嗜んでいる。ここに来てからはこのシミュレーションが多いが」

 

「へー。じゃあRPGとかもやるんですね。FFとかドラ◯エですか?」

 

「まあ、そのタイトルは基本だな。どちらとも全シリーズプレイしている。だが最近のアクションに変重したゲームシステムは好かん。やはりあの手のゲームはコマンド入力でないと」

 

 淡々と語りながら我が軍勢を蹂躙していく孔明先生。

 え、ちょ、うそ。……まだ始まったばっかですよね? 別にスタンド攻撃とか受けてないですよね? 普通にこっちも全力だった筈なのにほぼ半数近くやられてるんですけど!?

 

「くそ……。相変わらず容赦無い。ドラ◯エ5で装備や金欲しさに結婚する時フ◯ーラ選ぶタイプの攻め方ですよこれ。残されたビア◯カの事一切無視してさくさくストーリー進めるタイプのエグさですよこれ。あんたは鬼か。人の血が流れてないのか」

 

「ふん。情に流され幼馴染を選ぶなど愚の骨頂。どうせ嫁など子供が生まれてからはパーティーに組み込みにくい性能だ。ならば中盤不足しがちな資金も装備も寄越してくれる相手を選んだ方が効率的だろう」

 

「……じゃあデ◯ラは?」

 

「あれは無い。選んだメリットは同じだがあれは知り合いに似過ぎていてイライラする。却下だ」

 

 雑談を交わしながらも全く衰えぬ果敢な攻めに、俺の軍勢は最早虫の息。風前の灯である。

 ……くそ。気を紛らわそうと話しかけたのに全く効果無かった。

 俺は早くも敗走が決まりそうな画面を見て肩を落とす。

 

「……15ターンか。先程よりはマシになったな。まだまだ素人もいいところだが」

 

「その素人に全力出す超軍師がいるらしい。……ちくしょう、次だ次。次はゲーム変えて勝負だプロフェッサー・カリスマ!!」

 

「……待て。貴様、どこでその名前を知った」

 

「こうなりゃ俺のストリートファイトを見せてやる! 覚悟しとけよグレートビッグベン☆ロンドンスター!!」

 

「フラットか? まさかお前フラットの仲間なのか?」

 

「さあ早く! コントローラーと言う名の剣を握るんだ! 絶対領域マジシャン先生!!」

 

「…………いいだろう。色々聞きたい事が出来たがそれは一旦後回しにしてやる。先ずはお前のその減らず口を閉じてやろう。格闘ゲームであっても私には勝てぬという事を徹底的に教育してやる……!」

 

 俺の煽りに乗った孔明先生は、握り潰さんばかりにコントローラーに力を込める。

 まだ勝負は始まったばかりだ。俺と孔明先生の白熱したゲームバトルは、人理修復という大事を忘れ日付が変わるまで続いたという。

 

 

 





「なんというかさ。ディルムッドって幸せにしてあげたい系のイケメンだよね。同じ幸薄そうイケメンでも、ジークフリートさんとは違うベクトルの」

「お前は何を言ってるんだ」

 真顔で答えられてしまった。
 カルデアの談話室。ふかふかのソファの対面に座るアーチャーのサーヴァント、もふもふした緑髪のアタランテは、手編み中の毛糸のマフラーに編棒を通しながら私の顔を見る。
 私の暇潰しの手芸に付き合ってくれている彼女に、私も手を止めずに答えた。

「いやだからね。ディルムッド見てるとほっとけないというか、私がついてなきゃー、って思っちゃうよね。生前のエピソード知ってるからかもしんないけど。これが母性本能をくすぐられるって奴なのかな? どう思う、アタランテ?」

「……どうでもいい。それよりマスター。編み物に集中しろ。汝が言い出したことだろう。ちゃんとやれ。形がぐちゃぐちゃになってきているぞ」

 おっといけない。つい妄想の世界に入ってしまった。
 赤い毛糸達の形を修正する為に、手元に意識を集中する。
 ……よし。なんとか修正完了。これで体勢は立て直せたな。
 私はふぅと息を吐き、茶色の毛糸を器用に形にしていくアタランテに話しかける。

「上手いね、アタランテ。こういうの得意なの? なんか一応経験者の私より正確に指が動いてる気がするんですけど」

「……まぁ。これに近いかはわからんが、生前は自分の衣服を自分で作ったりしていたからな。こうして被服を作るのは、慣れているといえば慣れている」

「ああそっか。森の中で狩人やってたんだもんね。服なんか買いにいけないよね。そりゃ私より上手いわけだ」

 負けてられないぞこりゃ。と、気合を入れ直して毛糸を縫う。
 その指先を、今度はアタランテの目がじっと見つめてきた。

「どったの? 毛糸無くなっちゃった?」

「いや、毛糸はまだある。そうではなくてだな……。……その、マスターが作っているのはなんなのだ? 腕につける飾りか?」

「ああ、これ? これはねぇ……。……あ、ちょっとミスった。……ごめん、もうちょっと私目にお時間を下さい。もうすぐ完成するから」

「わざわざ完成品を見せなくても、口頭で説明してくれれば充分なのだが……」

「まーまー。どうせなら実物見た方がいいでしょ。すぐ作っちゃうからさ。もうちょい待っててよ」

「む、むぅ……。そこまで言うなら……」

 私の顔を見て首をかしげるアタランテ。
 神話の時代の美人さんだけあって、同性の私から見ても見惚れてしまう程の整った顔立ちだ。
 こりゃ確かに、色んな人から求婚されちゃうわけだ。モテモテになっちゃう訳だ。ちくしょうちょっと羨ましいぞ。アタランテ的には迷惑以外の何者でもなかったらしいけど。
 私だったらニヤニヤしちゃうな。止めて私の為に争わないで! とか言っちゃうな。くふふ……。

「マスター、また顔が物凄く気持ち悪い事になってるぞ」

「おっといけない。 ……集中集中、っと。……よし、出来た。アタランテ、ちょっと髪触るよ。いい?」

「あ、ああ。別に構わんが……。何をする気だ、マスター?」

「まあまあ。変なことはしないから。リラークス、リラークス」

「む、むぅ……」

 後ろに立った私の指が、アタランテのサラサラとした髪に触れる。
 ……おおう。物凄いキューティクルや。シャンプーもリンスも私と同じの使ってる筈なのになんでこんなに綺麗な髪なのだ。この子は。
 そう羨ましさを感じながら出来上がったばかりのソレで、彼女の下ろしていた髪を軽く纏めあげる。
 ……よし。こんなとこかな。我ながら中々どっちもいい出来だ。
 髪を触られるのに慣れてないのかそわそわソファに座るアタランテに、私はあらかじめ用意しておいた手鏡をそっと差し出す。
 アタランテは不思議そうに鏡面を覗くと、頭の後ろでピコピコと揺れるポニーテールと、それを留める赤い毛糸のシュシュを見て、少しだけ目を見開いた。

「これは……。髪留め、だったのか」

「そーそー。ざっつらーい。正確にはシュシュって名前なんだけど。……んじゃあ、これ。アタランテにプレゼント。どうか有意義に使ってやって欲しい」

「……わ、私にくれるのか? ……どうして? 汝が作ったものなのに」

「いやー、どうしてって言われてもなぁ……。それ最初から君にくれるつもりで作った奴だし。ほら、アタランテって髪長いじゃん? そんでいつも弓の手入れとか作業してる時に邪魔そうにしてたから、纏めてみるのはどうかなーって、作ってみたんだ。どう? 気に入った? 気に入っちゃった?」

 私が尋ねると、ぽかんと口を開いたアタランテ。
 が、少し間を空けると堪え切れない、と言わんがばかりに笑い出した。

「ふ、ふふっ……。く、ふふふっ……。……そうか。そうだったな。マスターはそんな奴だったな。……うん。気に入った。ありがとうマスター。大事にするよ」

「どういたしまして。じゃあまだ毛糸もあるし、他の人の分も作りますかね。……一人だけに作ると、後々怖い事になりそうだし」

「それがいい。きっとみんなも喜ぶだろう」

 そう笑顔で言うアタランテの顔は、なんだかとっても優しくて心がぽかぽかする様な優しい笑顔であった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。