翌日、目を覚ましたウタは、何かがおかしいと思った。
「ふあぁ…寝ちゃった。ってあれ?私、猫耳出して寝たっけ…?それに、ベッドで寝てる?昨日は書斎で寝落ちした気が…あ、メモがある。なんだろう?」
机の上にあったメモに目を通すと、そこにはこう書いてあった。
緑詩へ
ちゃんと散歩は毎日行きなさいよ?
実はあなたの中には私の残留思念とでも言うべきものが少し入っているの。それが呼び起こされる条件は緑詩が忙しくなって散歩に行ってなくなったらって設定してあるんだから。その間は私が緑詩を演じなきゃいけないのよ。まあ忙しくなった時にサポートする為の私みたいなものだから、自業自得なんだけどね。
授業なんて一体何年ぶりだったかしら?懐かしい体験をさせて貰ったことには感謝するわね。
大体の記憶は見せてもらったわ。色々教えてなかったこともあって大変だったわね。隠し書庫に三代勢力の情報とか、龍についての伝承とかそういった裏の話を纏めておいたから、一通り目を通すこと。ミドリカエルオウムなんて間違えてたら恥ずかしいわよ?
あと、新しい魔術の土台を創っておいたけど、未完成にしておいたから自分で考えること。あなたは優秀な子なんだし出来るわよね?
じゃあ、もう一度言うけど、散歩は毎日欠かさず行くこと。私の分も長生きしてね。
かつて君が師と仰いでいた者より
P.S.
同居人がスパイしてたけど、自分の近くに置く人はちゃんと選びなさいよ?寝首を掻かれても後の祭りよ。
「この文面…もしかして、昨日の夢遊病は師匠だったの?術のトリガーも師匠っぽいし。だから昔あんなに散歩行けって言ってたんだ。色々と知りたいことも解りそうだし、師匠には感謝してもしきれないよ。……師匠、ありがとう。」
ポロポロと涙を流し、感傷に浸るウタ。そこに、トントンとドアを叩く音がした。
「…先輩、入りますよ。」
「え、あっ、ちょ、ちょっと待って!今はダメ!絶対ダメだよ!!」
「フリですね、わかりました。入りますよ。」
ウタの制止を無視し、部屋に入った小猫。しかしそこにはウタの姿はなく、近くの部屋からドテンと何かが倒れる音がした。
「…逃げられましたか。何を隠しているんですか、先輩…」
急いで音のした部屋に向かうと、中から「助けて〜、小猫ちゃん〜」というウタの情けない声が聞こえる。ドアを開けるとそこには、ウタが布団にくるまりながら床に倒れていた。
「…何やってるんですか、先輩。」
「いや、風邪ひいたっぽくてさ、うつしちゃ悪いと思って…ゲホッ」
そう言われて小猫がウタの顔を見れば、かなり赤くなっており、呼吸も浅いようだった。
「…そうですか、……(バカは風邪をひかないってよく言いますけど)鼻声でしたし、嘘じゃなさそうですね。私がベッドに運びましょう。今日は安静にしていてください。」
小猫はウタを運んだ後そのまま残念そうに家を出ていく。その日の小猫の朝食はコンビニで買うことになるのだった。
「もう小猫ちゃん行ったかな?まさかこの魔法が役立つ日がくるとはね…」
ウタが使った魔法は自分が風邪をひくという魔法。ウタが初めて創った魔法で、本来なら風邪を治す魔法なのだが、創り方を間違えて風邪をひいてしまった。その後改良して治せるようになったのだが、初めてという事もあって憶えておいたのだ。
「……さて、なんとか誤魔化すことは出来たけど…今日は学校休むとして、何をしようかな?散歩にいって…それから師匠の問題を解く。それぐらいでいいかな。」
今日の予定を決めたので、早速散歩に出かけるウタ。
「この時間だと、まだ登校してくる人もいるかな。コートは目立ち過ぎるから猫耳はダメか…軽めの認識阻害をかけるけどちょっと心配だな。まーでも、要するにバレなきゃオッケーでしょ。」
と、魔術を使い、人のいないところを探していると、見知った魔力を近くに感じた。
「この凄く微弱な魔力は…イッセーか。でも知らない奴も一人いる。そっちは学校の方向じゃないんだけど、イッセーもサボるのかな?ちょっと尾行してみようっと。」
イッセーの魔力がする方へ歩いていくウタ。これも空間を裂いてしまえばいいのだが、ウタ曰く、『こっちの方がリスクがあって楽しいよね!』だそうだ。
「この向こうだな…」
ウタが顔を覗かせると、イッセーが可憐なシスターに何やら話しかけているようだった。
「なっ!!!天誅ぅ!!
「へぇ〜、アーシアって言うんだ。俺の名前は兵藤一誠。イッセーって呼んでグホァ!!」
イッセーの姿を見るや音速に近い速度で近づき、ドロップキックからのバック宙を決めた。隣を歩いていたアーシアから見たら、自己紹介していたイッセーが一瞬の間で女子に変わっっていたという驚くべき光景が繰り広げられていた。
「大丈夫だった!?怪我は?変なことされてない?」
「…?〜〜〜〜!!」
「あー、言葉がわかんないのか。…じゃあ、これならどうだろ?」
ウタが魔法を唱えてアーシアに「わかる?」と話しかけると、コクリと頷いた。
「そう?よかった。私は緑野 詩。ウタって呼んでね。」
「は、はい!えっと、私はアーシア・アルジェントです!よろしくお願いします。…それで、イッセーさんはどこに行ってしまったのでしょう?」
アーシアに問われたウタは前を指差す。20m程前に出来ていたブロック塀の瓦礫の中からイッセーが這い出てきた。
「いってーなおい!誰がこんな…ってウタかよ!何しやがるんだ!」
「やーやー、イッセー。こんな朝から学校にも行かずにナンパとは、随分と偉くなったね〜、イッセーのくせに。」
「なっ、それを言ったらお前だって学校いってねーじゃんか!それにナンパじゃなくて、道案内してたんだ!」
「そんなこと言って、道案内するフリをして人気の無い所に連れ込むつもりなんでしょ!」
「…あの〜。」
喧嘩を始めた二人にオロオロするアーシア。それに気がついたウタはため息をつきつつ、停戦を提案する。
「はぁ、仕方がない。私も監視として付いていくからね。」
「何もしねえってば。まったく、俺の事を何だとおもってるんだよ。どうせただの変態とかだろうけど。」
「違うよ。とんでもない変態だよ。」
「自分の欲望に正直なのはいいことだろ!…それより、俺を出してくれね?体が痛くてうまく力がはいらないんだよ。」
「まあ、大変です!直ぐに治療しますから!」
アーシアはイッセーをみてすぐに駆け出す。確かに、イッセーの顔や腕に擦り傷や打撲が沢山ある。ウタも流石にやり過ぎたとは思っているので、壊したブロック塀を直すためアーシアについていく。アーシアが、イッセーの元に辿り着くと同時にイッセーに手を翳す。すると、アーシアの手から淡い緑色の光が出てきた。
「これは…すげーな。(アーシアも神器を持ってるのか?)」
「これは、神様から貰った傷を治す力なんです。イッセーさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。おかげですっかり良くなったよ。ありがとな、アーシア。」
「いえ、これもこの素晴らしい力をくれた神様のおかげで、私は全然…」
照れるように、しかし少しだけ寂しそうに言うアーシア。それに気付かずイッセーは「さ、行こーぜ」とアーシアの手を引く。
「因みにアーシアは何処に行きたいの?」
「はい、ここの教会に赴任して来ました。ですが道がわからないので、連れて行ってもらおうとしてたんです。」
「え…二人とも。特にイッセー、本気?」
二人に対して疑問が募ったウタ。その疑問に対して不思議そうに頷く二人。ウタはイッセーの前に行くと、アーシアに聞こえないようイッセーの腕を掴み抱き寄せ、アーシアに聞こえないようイッセーの耳元で小声で呟く。
「おい、イッセー、イッセーは遂に頭が変態+馬鹿になったのか?可哀想に。」
「は、はぁ!?なんでだよ!」
イッセーの方が背が高いので若干背伸びする形になるウタ。急に近づかれて顔を赤らめるイッセーだが、馬鹿にされたことで少し落ち着いて返答する。
「はぁ、馬鹿なイッセーにもわかりやすく言うと、あの子はシスターでイッセーは悪魔。さすがに敵対していることはわかる?」
「あ…確かに。」
「そんなイッセーが敵の拠点に丸腰で行ったらどうなるかわかるよね?」
「いやでも、俺だって悪魔に…」
「さっきの蹴りに気がつけなかった様じゃ駄目だよ。ここは私が行くから、イッセーは今から学校に行ってね。あとイッセー、これはまだ注告だよ。出来れば脅迫はしたくないなぁ。ふふっ、別にいいけど。」
蹴りに関しては、並みの上級悪魔でも反応することが出来ないくらいなのだが、そうでなくとも今のイッセーでは文字通り手も足も出ないのでそれを引き合いに出し
「あれ、ウタも悪魔じゃないのか?」
「え…私は悪魔じゃないし悪魔になる予定もないよ?」
「え、マジで?それで木場に勝ったのか…すげーな、ウタって。」
「ふふ、褒めても何も出ないって。さぁ、行った行った。あ、私は風邪ひいてることになってるから学校では気をつけてね!」
イッセーを回れ右させて背中を叩くウタ。バシン!といい音をたて、イッセーは少し痛そうに背中をさすりながらもアーシアに手を振ってこの場から去って行く。
「ごめんね、アーシア。イッセーってば用事があるのに忘れてたっぽいからさ。私が…ってあれ?アーシア、顔押さえてどうした?怪我してたの?」
振り向いてアーシアの方を見ると顔を両手で押さえてこっちを見ていた。
「い、いえ、違いますよ!…ウタさんは、イッセーさんとそう言う関係なんですか?さっきもその、キ、キスとかしてましたし…」
「え?…………え、ええええぇぇぇぇぇ!!!!ないないない!!いくら彼氏が欲しいからってあれに手を出したら女として終わるから!!」
あまりの発言に全力で否定するウタ。アーシアは「そうですか…」と若干引きつつどこか安心した表情で答える。
「あ、あんまり遅くなっても悪いし早く行こうか!(まったく、私がイッセーととか…うん、ないな、絶対ない。まったく、失礼しちゃうな…アーシアだから許すけど。)」
少し強引にアーシアの手を引きつつ、ウタは教会へと進んでいった。
今回ギリギリなので誤字、脱字が多いかもしれません…
感想などお待ちしております。