【完結】とある科学の超電磁砲 ANOTHER   作:北条 ゆう(いすわーる)

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第一巻 後編 【とある魔術の超電磁砲】

 

「それにしても良かったわね、レベルアッパーの被害者の人達もみんな目を覚ます事が出来て」

 

「そうですわね」

 

 と御坂の発言に返すのは白井 黒子。ただどこか浮かない表情である。

 

「何よ。なにか引っかかる事でもあるの?」

 

「いえ、その……木山はなぜあのような事をしたのかなと思いまして」

 

「何かをシミュレートする為だったんですよね。《樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)》の代わりに」

 

 御坂の横からふっと現われた初春がそんなことを言う。「シミュレーションねぇ~」っと御坂美琴。

 ツリーダイアグラム級の演算を必要とする程の大規模な実験でも行うつもりだったのだろうか。ツリーダイアグラムの使用許可が降りなかったという事には、当然理由がある。研究者として成果を上げられず、追い詰められて非人道的な実験でもしようとしていたのだろうか?

 

「まさか、白井さん。このことを自分で突き止めてやろうとか思ってるんじゃ!」

 

 「やめてくださいよ! ただでさえ白井さんが校外の事件に関わりまくってるせいで、始末書の山が大変なことになってるんですから!」と初春 飾利。彼女は、自分のデスクの横にあるダンボールにつまれた始末書を思い出して言う。

 「いえ、わたくしはただ」と返す白井に対し「駄目です! 駄目です! 絶対駄目です!! 忘れてください。というか、まじもうメンドクてやってらんないです」と初春。「初春、あなたという人は――」とかなんとか言い争いを始める二人。「またか」という感じで苦笑いする御坂。まあまあと言う風に二人を諌めていると、ふと彼女達の後方にいるインデックスが立ち止まったのが目に入った。

 

「あれ、インデックスどうかしたの?」

 

 御坂の呼びかけに対し「あ……あ、うん」と返し「実はさっきの病院で聖書を落としてしまったみたいなんだよ」と続けるインデックス。「じゃあ、一緒に戻って探しましょうか」と御坂。

 しかし、インデックスは「ううん。みこと達は門限とかがあるだろうし、先に帰ってていいよ。私は一人で行くから」と返すと「じゃあね~」と手を振りながら元来た道を走り戻っていく。「私も行きましょうか!」っと初春が叫ぶが、「ひとりで大丈夫なんだよ!」とインデックス。彼女の姿はしばらくすると、交差点の角に消えていった。

 

 

 

―――とある科学の超電磁砲(レールガン) ANOTHER――

 

第一巻 後編 【とある魔術の超電磁砲(レールガン)

 

 

 

 インデックスは、妙に人通りのない大通りの真中に立っていた。本来は車線であるので、そんなところに立っているのはかなり危険なわけだが、周囲から車が来る気配もなく、彼女がそれに警戒している節もない。っと、ふと十字路の横陰から人影が現れる。二メートルに達しようかという身長の大男であったが、顔はまだ少年のようなあどけなさを残しており、歳はインデックスとそれ程変わらないように見える。

 

「なかなか賢い判断だと思うよ」

 

 男は、インデックスに近づきながら言う。雑音が無いせいか周囲に響き渡っている。

 

「るいこ達に手出しはさせないんだよ!」

 

 真剣な表情のインデックスに対し、男は笑う。

 

「勿論さ。君が僕達と共に来てくれるならね、《禁書目録》」

 

「ステイル! その名では呼ばないと約束したはずですが」

 

 と何時の間にか現われたのか、インデックスの数十メートル先に立っている女は、男に向かっていう。「ああ、そうだったね」と返す男。女はインデックスの方に向くと口を開く。

 

「あなたには、すでに名乗っていますがもう一度自己紹介しておきましょうか。私は、神裂 香織。イギリス清教第零聖堂区《必要悪の教会(ネセサリウス)》所属の魔術師です。あなたを保護しに来ました」

 

「ステイル=マグヌス。神裂と同じく君を保護しに来た魔術師だ」

 

「何度も言うけど、私はあなた達のことなんて信じてないんだよ」

 

 そう返すインデックスに「困ったものだ」とステイル。インデックスは回想する。

 実を言うと彼女は、一年前からの記憶がなかった。一年前のあの日、インデックスは地下の牢獄のような場所に入れられるところだった。意識は朦朧としていて、そこがどこなのかも、どうして自分がこんなところにいるのかも良く分からなかった。ただ不安だった。だから、がむしゃらになってそこから逃げ出した。牢獄に入れようとしていたのは、今目の前にいるこの男だった。彼の頭に噛み付き隙を見て逃げ出した。入り口付近に待ち構えていたのは、Tシャツに片足だけ1メートル近く切ったジーンズをはいている女だった。先程、神裂と名乗った女である。神裂は、彼女を見て驚いているようだったが、牢獄近くにいた男と同じく、捕まえようと手を伸ばしてきた。インデックスは、それを振り払うと外に向けて全速力で走り出した。それからは、追いかけ追いかけられの毎日だった。

  《記憶》は失っていた彼女であったが、不思議な事に《知識》は頭の中に残っていた。自分が、イギリス清教第零聖堂区《ネセサリウス》所属の魔道書図書館、禁書目録――インデックス――であり、一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶した世界中の魔術師によって狙われている存在であるという知識が。だからこそ、捕まるわけにはいかなかった。きっと目の前の男と女はイギリス清教の使いなどではない。恐らく、自分を利用しようとしている魔術結社の連中である。捕まれば自分は勿論、世界に対してとてつもない災厄を招いてしまうかもしれない。だけど――

 

「(だけど……ここで、私がこいつらに従わないと、るいこ達に危険が及んでしまう……)」

 

 頭で考えれば答えは出ている。佐天や初春達を見捨てて逃げるのが正しいということぐらい。

 恐らくもし自分が捕まり、魔道図書館としての知識を悪用されれば、世界中に住む何人もの人々が犠牲になる。その中には勿論佐天と同じような年端の行かない少年少女達も含まれているし、もしかしたら、佐天達自身も含まれているかもしれない。

 

「(わたしも自分勝手だな…)」

 

 聖職者としてどんな人にも分け隔てなく接し、救いを与える。それが自分の使命だとインデックスは思ってきた。けど現実には佐天や初春を救うために、他の世界中の人々を危険にさらそうとしている。

 その理由は、自分と親しい人が殺されて欲しくないから。世界に住む見ず知らずの人たちよりも、より自分に近しい人達に生きて欲しいと望んだから。

 

「ほんと、自分勝手なんだよ……」

 

 口からポロっとそんな言葉がこぼれる。無論、ステイルや神裂からすれば自分達のことを言われているのだと思っただろうが、インデックスが思っているのはそんなことではない。私にもっと力があれば……インデックスは思う。そうすれば、こんなやつらなんて一瞬でなぎ倒してるいこ達を守ることが出来――

 

「私の友達になにやってんのよあんた達!!」

 

 突然声が響き渡ると同時にインデックスの横を二本の青白い電撃の槍が通り過ぎ、目の前にいる魔術師に向かっていく。

 

「ふん」

 

 ステイルが体をヒョイと捻り電撃を避ける。神裂も電撃を難なく避ける。インデックスが目の前の光景に驚き後ろを振り返った直後、彼女の手が誰かの手に触れて、次の瞬間インデックスはその場から姿を消した。

 

「まったく、面倒なことをしてくれたね。あれをどこにやったんだい」

 

 「ステイル!」と後ろから声が飛ぶ。インデックスを《あれ》と呼んだことに神裂が怒気を強め言ったのだ。「はいはい、彼女だったね彼女」とステイル。ただ彼の視線が揺らぐ事は無い。ステイルの前方には、一人の少女が立っていた。灰色のプリーツスカートに半袖のブラウス、サマーセーターを着た少女、御坂 美琴である。

 

「そんなこと言うと思う?」

 

「まあ、普通は言わないだろうね」

 

 ステイルは口に咥えたタバコを手に持つと、道路脇に投げ捨てる。

 

「だからまあ、普通じゃない方法を使わせてもらうよ」

 

 

 

 月明かりに照らされた薄暗い工業地帯にインデックスはいた。しかし、そこにはもう一人少女の姿がある。ツインテールの髪をした少女、白井 黒子である。

 インデックスは手を白井に掴まれており、インデックスはそれを振りほどこうとしつつ、「みことが危ないの! 離して!」と叫びどこかに向けて走り出そうとしている。

 

「待ってください! インデックスさん。お姉さまなら大丈夫ですわ!」

 

 白井は足で踏ん張りインデックスの体を止めようと両手で手を掴んでいる。本当は体ごと押さえたいところだったが、インデックスの修道服が高級だからなのか、掴もうにもスルスルと滑ってしまうため、しかたなく手を掴んでいる。

 しばらくは白井に抗いつつ走り出そうとしていたインデックスだったが、数分してテコでも動かないことで諦めたのか、息を切らしつつ足を止める。

 体力を消耗していたのは白井も同じだったようで、インデックスが足を止めると、ふぅ~と息をつき中腰の姿勢になった。

 

「くろこ、あいつらは本当に危ないの。あのままじゃ、みことが殺されちゃう」

 

 切羽詰まった様子でインデックスは訴える。そんな彼女のようすに白井も思わず一瞬怯む。

 

「殺されるって……心配はいりませんわ。お姉さま、私の親愛なる御坂 美琴お姉さまは、常盤台中学が誇る最強無敵の電撃姫。学園都市第三位の超能力者ですの。ですから、そのお姉さまが負けることなんて……」

 

 言いつつ、言葉を重ねるものの次第に不安になってくる白井。冷静に考えれば、この目の前の少女は先のAIMバースト事件の解決者なのだ。彼女とて普通の人間ではない。その彼女がこれほどまでに恐れている二人組。

 確かに警戒するべき相手であることは間違いない。いくらなんでも実力的に御坂が負けていることはないにしても、それこそ油断してあらぬ隙を見せてしまい大怪我をおってしまうこともあるかもしれない。

 

「分かりました。私がお姉さまの様子を見て参りますわ」

 

 ならば警戒するに超したことはない。世の中万が一ということもありうるのだから。インデックスは、自分も行くと言っていたが、それは三〇分して私が帰ってこなかったらと返す。それだけの時間があれば状況を確認し、帰ってくるには十分だ。普通に考えれば御坂が負けるわけがないのだし、どちらかといえばインデックスの行動の方が気がかりなぐらいだ。

 白井は風紀委員の支部に向かっているはずの初春にインデックスの場所と彼女の位置をマークするようにと連絡をしようとし、携帯を手に取り電源をつける。病院に入ったときに電源を切りそのままにしていたのだ。起動してみると着信履歴が何件か入っている。と、数瞬後、着信音が鳴った。初春からだ。ちょうど良いと思いつつ電話にでる。

 

「もしもし、初――」

 

「白井さん! 何で電話に出てくれないんですか!!」

 

 スピーカーから初春の怒ったような声が響く。なんとなく勘に障り「私だって」と言い返そうとした白井に対し、初春が畳み掛ける。

 

「み、みさ、御坂さんが大変なんです!! はやく、早く救援に行ってください!」

 

 初春の声は、震えていた。先の声もよく考えれば怒っていたというよりも、切羽詰まって大声で叫んでいたという感じだった。「どういうことですの?」っととっさに返すも、初春は錯乱してしまっているようで、「はやく、早く行ってください!!」と要領を得ない。とりあえず、インデックスに待っているように言い、御坂の元へと向かう。距離的には、さほど離れてはいない。勿論、それは《直線距離》でという話だが。

 白井黒子、常盤台中学一年生、風紀委員にして学園都市の学生である彼女は、勿論超能力開発を受けた能力者だ。それも六段階にわけられた超能力判定でも上から二つ目、Level4である。そんな彼女の能力は、テレポート。一一次元の空間での演算を必要とする非常に複雑な能力であるものの、Level4である彼女はそれを実用可能なレベルで運用することができるのである。一回にテレポートできる距離が八〇メートルというハンデはあるものの、連続でのテレポートが可能である彼女にとっては、それは大した弱点ではない。

 何十回かのテレポートの後、白井は御坂のいる場所近くにまでたどり着く。どういうわけか、近づけば近づくほどインデックスのところに戻るべきなのではという気持ちが膨らんでくる。勿論、耳元ではスピーカーから錯乱した初春の声が流れ出ているし、さすがにそれが気になり御坂のことが心配になりはするが。しかし、御坂のいる道路に近づくにつれ、その思いが薄れていく。実は、初春は御坂の戦闘をあまり見たことないからヒステリックになってわめき散らしているだけではないのか? そんなことより今すぐインデックスのもとに戻り彼女が下手なことをしないよう見張るべきなんじゃないのか?

 気づけばテレポートを止め、とぼとぼと歩いて御坂のいた場所に向かっていた。耳には、初春が監視カメラで状況を見ているのだろうか? 早く御坂のもとに向かうよう煽るような彼女の声が聞こえてくる。しかし、白井にとってそんな初春の言葉は、いまやそこらの雑音程度にしか思えなかった。まったく何を焦っているのか。これだから、花飾りは、一体この私に命令するとは何様のつもりなのか。そんな気分になってくる。いっそ彼女の花をムシリとる為に支部まで戻ろうかとも思う白井だったが、視界の先にある角を曲がれば御坂がいるはずの交差点であることに気づく。まあ、どうせなら初春が言うようにここを確認してやってもいいかもしれない。確認した上であの花飾りをムシりにムシりまくってやればいい。こっちは初春の要求にしたがって無益な徒労につきあわされたことになるのだ。正当な報酬として今日という今日こそは、あの目障りな花飾りをムシりとってやればよいのだ。

 

「たくっ、あの花飾りェ。ホント覚えとくんですの」

 

 思わず口からそんな言葉を溢すと、白井はめんどくさそうに欠伸をしつつ手で口を押さえながら、角を曲がった。

 

 

 

 一瞬、自分の目に映ったものが正しく認識できなかった。

 御坂美琴が、最強であるはずのお姉さまが地面に倒れ付していた。黒い修道服の大男に組伏せられて。

 反射的に白井は御坂の頭上、男の真上に向けてテレポートする。叩き潰す。この高さから男の首めがけて全体重をかければ、簡単に男の首を折ることができる。お姉さまにこのような不埒な行為を働くこの男を一撃で叩き潰すことが。打ち所が悪ければ、男は二度と自力では生きられない体になるかもしれないが、そんなこと知ったことではない。愛しのお姉さまにこのようなことをしたのだ。それぐらいの報いを受けて当然なのだから…

 足を纏める。男が白井へと首を向けようとするが、コンマ数秒、後それだけの時間があれば、足を男の首にぶち当てることが出来る。

 

「(終わりですの)」

 

 そう終わりだ。数瞬後には目の前の男は――

 っと、気づくと空を見上げていた。一体何が? 直後、全身を痛みが走る。脇腹と、そして背中から。

 白井黒子は、コンクリートの上に寝転んでいた。体を起こそうとするもののあまりの痛みで体がうまく動かない。それでも立ち上がろうと体を動かそうとしていると

 

「動かないでください」

 

 視界に一人の女が映る。片手には日本刀を持ち、その剣先を白井の首に突きつけている。ならばと思い頭を、神経を集中させる。彼女のテレポート能力は大量にかつ繊細な演算を必要とする。それゆえ体が負傷するなど強いストレスを受けた状態では能力を行使するのは非常に難しい。しかし、それでも白井は自らの精神を振り絞る。そしてもうすぐでテレポートの演算が完了し終わろうとした瞬間、首筋に痛みが走った。

 

「何もするなと言ったはずです」

 

 首の皮が切られたのに気づいたのは、少ししてからだった。女が刀を白井の首の上に移動させる。冷たい感覚が脳に伝わる。首に刀についた血が垂れ落ちたのだ。

 

「何が起こったのかと思えば、まさか、ことの張本人が来てくれるとはね。よく泥棒は現場に戻るというけれど、まさにこの事か」

 

 男の声だった。顔が動かせないので姿は見えないが、声が大きくなっていることから、男が自分に近づいてくるのは分かった。そして直後―

 

「うぐッ」

 

 脇腹を蹴られた。女が首元に押し当てていた刀の先が少し触れ皮が再び裂かれたのが分かる。

 

「彼女をどこにつれていった! さっさと吐け!!」

 

「ぐッ、うぐッ!!」

 

「ステイルッ!」

 

 二度三度と白井の脇腹を蹴る男、ステイル=マグヌスに女が怒気を込め言う。

 ステイルは、女の方を向くと顔を歪め言う。

 

「善人ぶるなよ神裂。僕たちは彼女を見つけなくてはいけないんだ、多少の、フンッ! 悪行には、目を瞑っててほしいね」

 

 言うとステイルは片手を空にかざす。すると、彼の手のひらの上に突然火の玉が現れる。

 

「のぅ、りょくしゃ」

 

「能力者? そんな下賤なものと一緒にしないで欲しいけど、今は置いておこうか」

 

 白井の呟きに顔をしかめつつ、ステイルは身を屈めると手を白井の顔に近づける。

 

「この炎を使えば君のこの綺麗な顔も黒こげにすることが出来る。勿論、僕はそんなことしないけど。分かるか? 僕だったらそんなことしない、君の皮を少しづつ少しずつ焼き焦がしてやる、きっと今に殺してくれ、いっそ焼き殺してくれとと僕に懇願するだろうね。嘘だと思うかい? なら手始めに―」

 

「いい加減にしなさい!!」

 

 女、神裂 香織は白井に向けていた剣先を今度はステイルに向ける。

 

「何のつもりだ、神裂?」

 

「それはこちらの台詞です、ステイル。私は彼女達からあの子の場所を聞き出すことには賛成しましたが、こんなやり方……まずは話し合いで解決するべきです」

 

 「それに彼女達にとってはあの子は友達を救った恩人でもあるのですから、助けようと思うのは当然でしょう」と続ける神裂。鼻を鳴らし苦笑するステイル。

 

「甘いな、神裂。だけど……」

 

 ステイルがどこかに顔を向ける。

 

「そろそろ《人払いの魔術》の効果も切れる頃だ。この町の警備組織に気づかれても面倒だしね。とりあえず、今はこれぐらいにしておこう。場所を変える必要がある」

 

 勿論《今》はだが、と念を押すように呟くと白井に睨みをきかせステイルは立ち上がる。白井は痛みを堪えつつ、横目で今度は神裂が中腰になるのを確認する。

 

「申し訳ありませんが、失礼します」

 

「ぐッ!!」

 

 次の瞬間、腹に激しい痛みが走り、白井 黒子は意識を失った。

 

 

 

 次に白井の意識が戻ったとき、彼女はロープで腕を後ろで組まされ、何かにもたれ掛かっていた。すでに日が落ちているため、ここがどこなのかは分からないが、どこかの屋内であるようだ。天井近くにある窓から月明かりがうっすらと入っている。目の前には人影があった。

 

「意識が戻りましたか」

 

 白井が起きたことに気づいたようで声と共に人影が近づいてくる。声からも分かっていたが、月明かりに照らされ、人影の正体が神裂であることが分かった。

 

「げほッ、げほッ、ぉ……お姉さまは」

 

 腹を押さえ、咳き込みつつ白井は神裂に問いかける。辺りを見回すも、御坂の姿はどこにも見えなかった。

 

「彼女ならご心配なく、ステイル――私の仲間が彼女の身柄を預かっています」

 

 白井が神裂に対し睨みをきかせる。「彼女の身の安全は保証します。まあ、少し眠って貰っていますが」続ける神裂。「信用できませんの」と白井は返すが神裂は話を続ける。

 

「そうですか……残念ですが、私の口からはそれしかお伝えできません」

 

 しばらくの沈黙が流れる。

 

「私が訊きたいことがなにか分かりますよね?」

 

 沈黙の後、神裂が口を開く。対する白井は口を開かない。「インデックスです」神裂は言葉を続ける。

 

「私達は、彼女の身柄を保護しに来ました。彼女がどこにいるか、教えてはいただけませんか?」

 

「お断りしますの」

 

 きっぱりとそう言い切る白井。対して神裂は、その返答に特に驚きもないのか、落ち着いた様子で話を続ける。

 

「あなたは彼女の素性について何か知っていますか?」

 

 少しの沈黙の後「知りませんの」と一言白井は返す。本当は何か返したいところだが、返しようがなかった。インデックスは確かにAIMバースト事件の解決者であり、友人の恩人でもある。しかし、実際のところ白井は彼女がどこの誰で、どういう人物なのか知らない。インデックスとの会話ではそのような話題にはならなかったし、風紀委員の権限でデータベースを覗いてみたものの分かったのは彼女が、Index-Librorum-Prohibitorum――《禁書目録》さんであり、イギリス出身でゲストIDを付与されて、この学園都市を訪れているということだけだ。外部の人間であるのでそれ以上の追記もなかった。

 とはいえ彼女はAIMバースト事件を解決した。歌を歌って。超能力に関係のないのないただの、本当にただの《一般人》がただ《歌を歌う》ことによってだ。

 

「彼女は普通の少女ではありません」

 

 だからこそ、その返答は意外なもでも何でもなかった。そう彼女がただの《一般人》なわけが無い。

 目の前の女とインデックスがどういう関係なのかは知らないが、インデックス自身、もしくは彼女に付属している何かを目的にし、追跡し、捕縛しようとしている以上、白井よりもインデックスのことを知っているのは間違いない。しかし――

 

「彼女は――」

 

 だからこそ、神裂の返答は――

 

「彼女は魔術師。一〇万三〇〇〇冊の魔導書を納めた魔導書図書館、インデックスです」

 

 白井黒子にとって到底理解の出来るものではなかった。

 

 

 

 しばらくの間、時間が止まり空間が凍結したような感覚に白井は襲われる。この女は何を言っているんだ?

 

「失礼、わたくしなにか聞き違いをしてしまっているかもしれませんので、確認の為もう一度。彼女、インデックスさんは一体何者なんですの?」

 

「魔術師です。もっと詳しく言うとイギリス清教第零聖堂区《ネセサリウス》所属の魔導書図書館、禁書目録――通称インデックス」

 

 聞き間違いでも何でもなかった。思わず声をあげて笑いだしてしまう白井。そんな彼女を見つめる神裂。

 

「信じられませんか?」

 

「いいえ、信じますわ。で、その魔術師の彼女を追っていたあなた達の目的はなんですの?」

 

 目尻から涙を溢しつつようやく笑い止んだ彼女は答えた。

 正直に言うと、白井は神裂の言ったことなど一ミリも信じてなどいなかった。ここは科学の町、学園都市。この町で幽霊やオカルト、あまつさえ《魔法使い》などがいるなどと喋るのは、物笑いの種でしかない。あげく《宗教》なんてものにはまってしまうような人間など、現実逃避をした弱い人間だとしか思われない。自らの信じる幻想を信じ、それを現実にする、それがこの町の超能力開発の根幹だ。自ら考えることをやめてどこぞの誰が作ったとも知れない思想や考えを受け入れ自分の考えとするのは、まさに自らを棄てるのと同じこと、自分の人生を自分で決めれないから、他人任せにしてるのと同じことなのだ。

 白井にとって目の前の女は、もはや驚異でもなんでもなかった。女が大きく大人なのは外見だけ、中身はただの子供だと分かったのだから。女は話を続ける。どうやら彼女は、イギリス清教の秘密の部署にいる魔術師で同じ部署から逃げ出した同僚たるインデックスを捕まえにきたらしい。そんな彼女の返答を聞き思わず笑い出しそうになる白井。

 

「(イギリス清教って、イギリス国教会じゃありませんの!? それをこのどうみても日本人の彼女が!! あまつさえ、秘密の部署って!? 笑いが堪えきれませんの!)」

 

 アホ臭いアホ臭さすぎる! 一国家の、世界的にも有名なあの宗教が秘密組織を? いくらなんでも馬鹿馬鹿しすぎる。

 どうせ目の前の女性はどこかの三流の宗教指導者、下手すれば宗教関連ですらない詐欺師にでも引っ掛かった愚か者なのだろう。マインドコントロールでもされて、こんな馬鹿な妄想を信じさせられたのか? 恐らく、インデックスはそんな妄想を信じてしまっていたけど、さすがにそれのアホさ加減に気づいて宗教を抜けようとしたら、その宗教の指導者から「抜けるやつは許さぬ」とか言われて、無理に逃げたら追手としてこの女とあの大男が追ってきたというところだろうか。

 インデックスならまだ分かる。年齢は自分達より少し上だが外部の人間だ。《外》ではまだ宗教を信じている人も多くいるというし、なにより家族ぐるみでそういうのを信じていたとかでそもそも気づいても反論できるような状況ではなかったということも考えられる。問題は目の前のこの女とあの男だ。どうみてもいい年した大人、恐らく二〇代後半の彼らが――恋人とかそんなのなのか?――こんな訳の分からないものに騙されているということだ。ホント、いい年なんだし、気づきなさいな《オジサン》、《オバサン》。

 

「彼女は、完全記憶能力の持ち主なのです。それ故、自身の頭に記憶した魔導書に脳の八五%を圧迫され、一年分の記憶しか脳に記憶できません。私たちは彼女を助けたい。だからこそ彼女を保護し記憶を消さなければならないのです」

 

「(さて、どうしたものでしょう)」

 

 どのように切り返していこうものか。宗教が関わっている以上ここは慎重にいくべきであろう。まあとはいえ、特に迷うこともないかと思い直す白井。なぜなら…

 

「ちょっと失礼しますわ。もし、仮にですわよ。あなたの発言を信じるとすると、完全記憶能力者の方は、長くても六、七歳ぐらいまでしか健常者として生きられないという事になりますわよね?」

 

 そうですね、と返す神裂。さも当然そうですね、という態度にさすがにあきれを隠しきれなくなる白井。神裂が、眉を潜める。

 

「なにかおかしな事でも?」

 

「いや、おかしな事でもって……その……完全記憶能力者って確かに稀有な体質ですけど、別にそれほど珍しい体質ではありませんのよ。学園都市には、能力開発の関係もあってそういう体質をもった方もかなりいらっしゃいますし、外部にも沢山いらっしゃいますわよ。わたくしの記憶が正しければ、たしか九〇歳を越えた完全記憶能力者の方もいらっしゃったかと。勿論、記憶操作など行わずに元気に暮らしておられるとか」

 

「そんな馬鹿なことあるわけないでしょう!!」

 

 激昂する神裂。まあこうなりますわよね、と白井。とはいえ、事実を述べているという確信があるだけに特に動揺はない。

 

「しょ、証拠でもあるんですか?」 

 

 しばらくして、落ち着いてきた神裂が言う。対して白井は落ち着いて

 

「証拠もなにも、インターネットとかで調べたらすぐに出てくると思いますわよ」

 

「イ、インターネット、ですか」

 

 狼狽える神裂に、まあこんなところかなと思う白井。大方、その新興宗教の教祖に、テレビやインターネットをはじめとした情報へアクセスすることを禁じられているのだろう。さて、どうしたものか。

 思い悩む白井。と、神裂がポケットに手をいれるとそこから携帯電話を取り出した。ぎこちない操作の後それを耳元に当てる。どこかに電話をしているらしい。これは案外簡単にいくかもしれない。

 

「一応、調べておいてもいいとは思いませんか?」

 

 電話相手にそう話しかける神裂。それからしばらくして、どうやら電話相手を説得できたらしく、携帯を再びポケットの中にしまう。

 神裂が、本当に先の発言を信じて行動していたということに衝撃を受けつつ、余裕が出てきただけに、他のことにも頭が回ってくる白井。彼女たちの能力のことだ。いくら能力開発を受けている二人組だったとはいえ、なぜレベル5である御坂美琴を倒すことができたのか。能力にもよるとはいえ、目の前の二人はどんなに高く見積もってもレベル4の超能力者。学園都市第3位である御坂美琴に敵うわけが……

 

「それは本当なんですか!?」

 

 と神裂の叫び声にもにた大声にはっと現実に返る白井。どうやら事態は進展したようだ。みるみる内に顔面が蒼白になっていく神裂。多少気の毒に思いつつも、電話を終えた彼女に白井は口を開く。

 

「お分かりいただけまして? 」

 

 対して神裂はというと、衝撃のあまり耳に入っていない様子。

俯きながら「それなら、私達は一体いままで何を……」などと呟いている。

 

「あの神裂さん。お分かりいただけたのでしたらこの縄を」

 

 話しかける白井。しかし、その言葉は彼女には届いていないよう。どうしたものかと思いつつ、縄を外す手段を探そうととりあえず周囲を見回す。どういう訳だか、頭がぼんやりとしていて、演算が上手くできない。これからどうするにしろ、いざという時のためにも縄を外す手段は確保しておきたい。

 しかし、見渡せどあるのは、赤い何やら宗教めいたカード――白井を囲むように配置されている――だけで特に利用できそうなものはない。途方にくれる白井。と、白井から右奥の通路、神裂から見て左側の通路から足音が聞こえてくる。新手だろうかと、身構える白井。足音からして、人数は二人かと見当をつける。数秒後、通路から全身真っ黒の修道服を纏った大男が現れる。インデックス、そして、御坂を襲っていたあの男だ。そして、彼と一緒に現れたもう一人は――

 

「おっ、お姉さま!! ご無事でしたの!」

 

 そう御坂美琴であった。再びの再会にうちひしがれる白井。御坂も「黒子」と目を見開いて驚いた様子。ただ発せられた言葉はそれだけで、視線はすぐに、大男と神裂へと移る。ちょっと寂しい白井。

 

「で、あんた達これからどうするの?」

 

「そうですね。一応、本部に確認を取ろうかと思ってはいるのですが……」

 

 そんな神裂の発言に「正気?」と御坂。まあ当然の反応だと白井も納得する。彼女らを騙したであろう張本人達に確認をとったところでろくな返答が返ってくるはずはないだろう。というより、この期に及んでもまだその教祖さまを信じているとは。

 

「宗教とは、恐ろしいものですわね」

 

 思わず呟く白井。とはいえ、誰の耳にも入っていないのか反応は無い。しばらくして、大男が口を開く。

 

「そうだね。しかし、本部の力を借りる事なしに、《封印》を解くのは難しいだろうね」

 

「この町の技術を使うって考えはないの? ここは科学の町、学園都市よ、手段はいくらでも――」

 

「あの子をサイエンティストどものモルモットにしろっていうならお断りだ!」

 

「しかし、ステイル、それ以外に手がないというなら――」

 

「神裂、頭がイカれたのかい? 仮にマグダラのマリアが神の子の妻だっだとしても、僕は賛成できないね。第一、どうやって彼らに診断させるんだい? 彼らが僕たちの話をまともに聴いてくれるとでも思っているのか?」

 

「でもそれ以外に手段が――」

 

「いっそのこと、聖ジョージ大聖堂まで行ってあの女狐を締め上げて吐かせるってのはどうだい? そうすれば、後はいくらでも――」

 

「それこそ、非現実的でしょう!? ステイル、以前から思っていましたがあなたはあの人を軽く見すぎています。いざとなれば、彼女は、容赦なく私達を始末しますよ」

 

「それならそれで結構じゃないか! あんな老体の腐れババア、僕の相手じゃない!」

 

「ステイル!!」

 

 なんだか話が見えなくなってきた、と白井。彼らは、なんの話をしているのだろう。途方にくれ、同意を求めようと御坂の方を見てみる。としかし、いたって真面目な様子の彼女の姿が目に入る。というより、額からは汗が流れ、むしろ彼ら以上に真剣に、そして焦っているようにすら見える。あれ、どうしたんですのお姉さま?

 

「やっぱり、見せるしかないわよ。うちの学園の医者に」

 

「だから僕は、彼女をモルモットにする気は――」

 

「いつまで逃げてんのよ!!」

 

 声を張り上げる御坂。突然どうしたんですの、お姉さま!?

 

「あんた達は、インデックスを助けたいんでしょ? なら方法はひとつしかない!! あんた達の《魔術》の力は頼れない。じゃあ後は、私たちの《科学》力を借りるしかないでしょ! なんでも自分達の力だけで出来るとでも思ってるわけ? もしそう思ってるなら、言ってあげる、それは間違いよ! 時には、自分の力だけじゃどうにもならない時もある。そんな時は他の誰かに助けを求めるもの! カッコ悪くてもなんでも、それが本当に大切なことならやんなきゃいけないのよ、そうでしょ? それともあんた達のインデックスを助けたいって気持ちはそんなもんな訳? ならいいわ。私はあんた達なんか知らない! 私は私のやり方で何がなんでも彼女を助けてみせるわ!」

 

「(な、長いですわお姉さま……というか一体なんの話ですの!?)」

 

 突然の御坂の言動に呆然とする白井。しかし、対する二人の反応はどうも違う。呆然とはしているものの、それは何かに気づかされたような、そんな顔である。大男――恐らく、ステイルという名の――は、突然地面に伏せると声をあげて泣き始める。「僕だって、僕だって彼女を」そんな感じだ。神裂も、立ち尽くしてはいるが、なにか決意を決めたような顔で「そうですね。あなたのいう通りです」と顔を拭っている。

 

「(どっ、どうしましょう……いきなり過ぎてついていけませんわ……)」

 

 一人取り残される白井。しかし、状況は着々と進んでいく。どうやら御坂には何か策があったようで、《冥土帰し(ヘブンキャンセラー)》っとかなんとか。それってあの都市伝説のお医者さまですわよね、っと思う白井だったが、状況が読めないだけにどうのしようもない。ただただ、目の前の三人が話しているのを呆然と見つめている。

 

「それしかないですね」

 

「そうだね、それが一番いいかもしれない」

 

「じゃあ、それでいくわよ」

 

 どうやら話は纏まったらしい。っと、どういう仕組みなのか、周囲のあの宗教じみたカードが宙に舞い上がると、ステイルの修道服のなかに吸い込まれていく。《テレキネシス》の一種だろうか。それとほぼ同時に、白井をしばっていた縄も、見えない刃物で縄を切られたかのようにプチっときれてスルスルとほどけていく。頭をおおっていたモヤもかき消える。これは一体どんな能力なのだろうか? 疑問に思うものの、完全に自分の存在忘れられているな、と思っていただけに、無事解放され一安心の白井なのであった。

 

 

 

 

「御坂さん、いくらなんでもそれは……」

 

「いえ、すべて事実よ」

 

 風紀委員一七七支部の一室、そこには今六人の人物がいる。その中の一人が、頭にある花飾りがトレードマークの初春 飾利、風紀委員の一員であり情報処理のスペシャリストでもある中学一年生の少女だ。

 御坂の思わぬ発言に対し驚愕を露にしている。

 

「僕たちは、魔術師。ここにいる少女インデックスも、まあちょっと語弊はあるけど、魔術師だ。ちなみに僕の名前はステイル=マグヌス」

 

「神裂 香織です」

 

「インデックスなんだよ」

 

 と順番に自己紹介する。ちなみに、残る二人はツインテールのテレポーター少女:白井 黒子とレベル5:エレクトロマスターの御坂 美琴である。

 

「信じられません!? 一体なんの話をしているんですか! そんなことより、早くアンチスキルに連絡しないと!」

 

 携帯を取りだす初春。そんな彼女に対し「ちょっと待って!」と初春の腕を抑える御坂。

 

「離してください! 一体どうしてしまったんですか御坂さん!? 白井さんも何か言ってください!」

 

 同意を求められ「そうですわね……」と、どちらともつかない返答を返す白井。彼女自身、自分の考えを纏められずにいたからだ。最初は荒唐無稽であると思った彼らの話だが、御坂の話や事実彼らが使った正体不明の力《魔術》を実際目の当たりにする内に段々と自分の考えに自信が持てなくなってしまっていた。もしかしたら、とても信じられないが、もしかすると、超能力以外の力、彼ら曰くの《魔術》があるのではないか、少なからず白井にはそう思えてしまっていたのである。

 

「君も見たんだろう。その監視カメラとやらで。なら僕たちの力がどのようなものか分かっているんじゃないかな?」

 

「確かに、それは……」

 

 思わず黙りこくる初春。確かに彼らの力は初春がハッキングしていた監視カメラを通して確認済みだ。光速であるはずの電撃をいとも簡単によけ、磁力攻撃、そしてあのレールガンさえも、ものともせず圧倒したこの男の力を。あれが初春の知る超能力のものではないことは、勿論彼女にも分かっている。しかし、理解はできても頭が追い付いていかない。魔術なんて、そんな馬鹿げた話、だれが信じることができるのか…

 

「かざりは私のことも信用できない?」

 

「インデックスさん……」

 

 と、いつの間に近づいてきたのか、伏せ目がちになっていた初春を覗きこむようにインデックスが下から見上げてくる。

 

「でも、でも私……」

 

「難しいことを頼んでるのは分かってる。でも信じてほしいんだよ」

 

「インデックスさん……」

 

 しばらくして、どうやら彼女も落ち着いてきたらしい。それにインデックスは彼女の親友である佐天涙子を救ってくれた恩人でもあるのだ。次第に、少しではあるが信じてみようかという気になってくる。

 

「分かりました。アンチスキルに連絡をするのはとりあえずは止めます」

 

 と取り出した携帯を再びポケットに戻す初春。ほっと胸を撫で下ろす御坂。

 

「でもまだ完全に信じたわけではないですから。もう一度きちんと説明してください。その……さっきはあまりちゃんと聴いていませんでしたから…」

 

「分かりました」

 

 と神裂。彼女は、一通りの説明を始める。自分達がイギリス清教のネセサリウスという組織に所属していること。なぜインデックスを追っていたのかということ。あと数日のうちに記憶消去しないとイギリス清教により仕掛けられた《呪い》が発生しインデックスの命が失われる可能性があること、そしてこれからどうしようと思っているかということを。

 今度は真剣に真面目に話を聴く初春。暫くして、話が終わると初春が口を開いた。

 

「つまり私にその《ヘブンキャンセラー》がどこにいるのかを探して欲しいってことなんですね?」

 

「はい」

 

「そうなんだよ」

 

 と神裂とインデックス。

 

「でもその《ヘブンキャンセラー》って、都市伝説ですよね? 本当にいるんですか?」

 

「分からないわ……でも探さないと」

 

「分からないって、そんな無茶苦茶な」

 

 思わず声を漏らす初春。いくらなんでも話が現実から飛躍しすぎている。魔術、都市伝説、どちらも良識ある大人、いや人間なら冗談ならともかく関わってはいけない、まともに相手にしてはいけない代物だ。こんなのは相手にしてはいけない。そんなことは分かってる。分かってはいるけど――

 

「分かりました。見つかるかは分からないけど、全力で調べてみます!」

 

「初春さん……」

 

「インデックスさんは、信用できる人です! それに私の親友を助けてくれた大切な友達です! インデックスさんがいうなら私、《魔術》でも《都市伝説》でもなんでも信じます! どんとこいですよ!!」

 

「あっ、ありがとうなんだよ、かざり」

 

 場にいる5人すべてが各々の形で初春に感謝を示す。インデックスは、初春に飛び付く。バランスを崩した初春がそのまま床に転落する。「痛いです」そう呟いた彼女に対し「ごめんなさい」と素直に謝るインデックスなのであった。

 

 

 

「案外簡単に見つかったわね」

 

「そうですわね。わたくしもこんなに早く見つかるとは思いもしなかったですわ」

 

 と会話を交わすのは御坂と白井。あの後、初春の力を借り一時間後、彼女達は都市伝説であったはずの《ヘブンキャンセラー》が実在することを確認し、その詳しい情報も掴むことに成功していた。

 

「すごい! すごいんだよかざり!!」

 

「ふふふ、もっと誉めてくれていいんですよインデックスさん! もっともっと私を誉めてください!!」

 

 と上機嫌の初春とインデックス。

 

「それにしても随分身近なところにいたんですのね《ヘブンキャンセラー》さん。わたくし、本当に驚きましたわ。まさかあの方がそうだったなんて…」

 

 モニター上に表示された写真を見てそう呟く白井。表示されているのは、カエルに似た顔をした初老の男性である。そう、佐天が入院している病院の医者である。「あの方でしたのね……確かに今思うと独特のオーラのようなものがあったような…」と白井。

 

「まあ、何にせよこれで道筋は開けたわ! 明日、この人のところにいってみましょう!」

 

 と御坂。「そんな簡単にいくものでしょうか?」と神裂。「そうだね」とステイル。一体どのように説明をして診察をさせるのか? 当然の疑問が彼らに浮かんでいるのである。ゲストIDが付与されている為、診断自体は受けられるかもしれないが、インデックスにかけられているのは、恐らく魔術を使った封印術の一種、いわゆる《呪い》だ。魔術の術式は必ずアナログな仕組みによりなりたっている為、《治療》も不可能ではないかもしれないが、果たしてどうにかなるものなのか…

 

「でもやるしかない。そうでしょ?」

 

 と御坂。それに彼が本当に噂通りの人物なら見せたところで事態が悪化するようなことはないはず、と付け加える。患者を助けることを第一に、仮に患者が人殺しだろうがテロリストだろうが、たとえ大魔王だろうが助けるというのがこの《ヘブンキャンセラー》だ。事実、初春が探しだしてきた情報もそれを証明していた。

 

「それに、お金ならあるしね!」

 

 などと言い胸を張りつつ学園都市で人気のカエルのキャラクター、ゲコタを模した可愛らしい財布を掲げる御坂。事実、彼女は学園都市の上位3位の超能力者であり、各種研究に自身の生体情報を提供していることもあり莫大な奨学金を得ている為、あながちその言葉も嘘ではないのだが、インデックスや神裂達には知るよしもない。部屋に笑いが広がる。

 とはいえ、勿論同じ学園都市に住む初春や白井はその言葉の意味するところを知っているわけで「いいなぁ、一度はああいうこと言ってみたいです」と初春がボソッと一言。「成金の戯れ言ですわ」と冷たく返す白井に対し「いいじゃないですか、成金!! ぶっちゃけお金さえ手にはいるならなんでもいいです!」と少し熱の入った初春に「全く、初春!! あなたという人は! なんとはしたない! 大切なのはお金ではなく――」などとこの二人に限っては、いつも通りの日常が流れるのであった。

 

 

 

 時は流れ七月二五日の早朝、インデックス達は例の医者に会うため佐天の入院する病院を訪れていた。その佐天はというとまだ就寝中のようで――病院側の説明曰くレベルアッパー使用による脳への負荷の点から念のため自然に起きるまで待つことにしているそう――インデックス達は、面会を諦め直接《ヘブンキャンセラー》のところへと向かった。

 

「で、君たちは結局僕に何をして欲しいのかな?」

 

「カメラで彼女の体内を撮影して欲しいんですの」

 

「内視鏡でということなのかな?」

 

 「そうですの」と白井。昨日、インデックス、神裂、ステイルを交えて話した結論がこれであった。魔術的な仕組みは必ずなんらかの言語体を利用した魔術式によりなる、それはアナログな方式により刻まなくてはならないから、それがあるとしたら、それはインデックスの体内をおいて他にない、これが彼らの結論だった。

 

「まあ彼女とは全く交友無しの無関係というわけではないからね、それぐらいはかまわないけど?」

 

 「一体、どんな症状が出ているんだい? 見たところどこも悪いところはなさそうだけど?」と《ヘブンキャンセラー》。対して「宗教的な問題だから詳しくは話せないんだよ」とインデックスが一言。「そういわれると、僕たち医者としては何も言えなくなってしまうんだね?」とはぁと溜め息をつきつつ、「ついてきなさい?」と診察室を出ていく。インデックス達も後に続く。ちなみに、今インデックスと一緒にいるのは、白井黒子のみである。あまり大所帯でいくのは周囲の目を引く上、ステイルや神裂について言えば学園都市には正式な許可を取り入ってきたわけではないようで、出来るだけ学園の関係者とは関わりを持ちたくないとのことだった。仮に何者かが襲撃してこようとも―インデックスは、魔術業界においてはかなりの重要人物で色々な組織などに追われているらしい―テレポートですぐに逃げれるようにとのことで白井に白羽の矢がたった訳である。

 

「はい、じゃあこれ飲んでくれる?」

 

「わかったんだよ」

 

 別の診察室に移りカプセル状の内視鏡を飲み込むインデックス。白井とインデックスの希望で食堂から腸まで可能な限り撮影することになっている。少々時間がかかるとのことで―といっても30分くらいらしいが―とにかくその間、二人は、病院の待合室で待つことになった。

 

「それにしても、わたくし今だに信じることができませんの」

 

「《魔術》のことかな?」

 

 待合室で切り出した白井に対しそうインデックスは答える。

 

「確かに、インデックスさんやステイルさん、神裂さんと話してそういうものがもしかしたら有るのかもしれないと思うわたくしもいますの。でも《宗教》の話をされると……《神の子》とか《聖母》とか、いくらなんでもついていけないというか…」

 

 話し終えて「申し訳ありませんの」と呟くと手に持っていた缶ジュース――といっても暖かいお汁粉――に口をつける。インデックスはシスターであり、宗教の関係者であることは白井としても分かっているし、自分の発言が相当に失礼、いや場合や人柄によっては争いになっても仕方がないということも分かっている。

 しかし、白井にはとても信じられない、いや正確にいえば信じたくないのだ。そのような《まやかし》、人の弱さにつけこみ、人生を狂わせると思っている《宗教》がそのような力をもっているということが…

 対してインデックスは落ち着いている。そして静かにこう切り出した。

 

「くろこは間違ってないよ」

 

「なぜそういえますの? わたくしはあなたの信じている、一番大切にしているものを否定しておりますのよ! どうしてそんな落ち着いてられますの!?」

 

 突然の怒鳴り声に待ち合い室にいた他の患者やその家族達が一斉に白井の方へと向く。「ごめんなさい」と再び白井。しばらくして、周囲の関心が薄れたのを見計らって白井は再び口を開く。

 

「わたくし、いえ、わたくしたちの学園都市の超能力開発のことはインデックスさんもご存じですわよね?」

 

 「うん」と答えるインデックス。白井は続ける。

 

「今回の佐天さんのこともそうなのですが、超能力開発に行き詰まってしまう学生というのは、たくさんいらっしゃるのですが、それ以上に、わたくしも風紀委員になってから知ったのですが、それを理由に《宗教》に嵌まってしまう方というのが実は結構な数いらっしゃいますの」

 

 「なかには《科学宗教》などと謳って学生の警戒心を削ぎつつ巧みにつけ入ろうとしてくるものもあって、それも《塾》などと騙って、現在、風紀委員もアンチスキルと協力してその対応にあたっているんのですけれど」と語る白井。

 

「つまり何がいいたいのかといいますと、その、これまではそういう《宗教》がただの詐欺集団で、その、中には能力の向上を行うとかそういうことを騙っているものもあって、絶対に本当ではないと確信をもって対応していたのですが、インデックスさん達と触れあっていると、もしかしたらわたくしが間違っていたのではと…そう思ってしまう自分がいるんですの……」

 

 そう言い再びお汁粉に口をつけ黙り込む白井。少し間を開けて、インデックスが口を開いた。

 

「あんまり自分達のことを悪くいうのもあれなんだけど、ここは言っておくね。くろこ、《魔術》って何の為にあると思う?」

 

「何の為って?」

 

 考え込む白井。仮に自分が魔法を使えるとしてとしたら、どんな時に使うのだろうか?

 

「簡単にいうとね、くろこ、魔術は《才能の無い人》の為にあるものなんだよ」

 

「それは一体どういう事ですの? 才能が無いって、実際ステイルさんは魔術を使ってお姉さま、学園都市で最強の超能力者の一人である御坂美琴お姉様をいとも簡単に倒していましたわ。それで才能がないなどと言われても…」

 

 やっぱり言い方が悪かったかもなんだよと、少し反省した様子のインデックス。

 

「つまりね、魔術師の使う魔術は、本当はこの世界の力じゃないんだ、私たちが住んでる世界とは別の世界から《テレズマ》っていう力の一部を引っぱてきて使うものなの。それも、自分自身の力じゃなくてこの世界のマナの力を借りて、他の誰かが使った力の名残を利用して発動するものなの」

 

「それでね、どういう仕組みかは分からないんだけど、くろこ達超能力者、いやるいこみたいな人も含めてだから厳密にはそう呼ばないのかもしれないけど、とにかく、くろこみたいな人達はどういう訳だか分からないけど、自分自身の力で、所謂私たち魔術師が使ってる由縁とか歴史とかの《他者》の力を借りずに、この世界とは違う場所から力を引っ張ってきて使ってるの」

 

「それはつまり?」

 

「簡単にいうと、もしくろこ達が私達と同じやり方で《力》を使おうとしても上手くいかないだろうし、仮に上手くいったとしても体がボロボロになっちゃうんだよ」

 

 言い切るインデックス。

 

「それは確かなんですの?」

 

「絶対なんだよ。私が記憶した一〇万三〇〇〇冊と、それ以上に私自身に誓って言える、くろこは間違ってなんか無いし、これからもいままで通り頑張るんだよ!」

 

 ホッと溜め息をつく白井。ここまでハッキリとインデックスがいうのだ。恐らく間違いはないんだろう。と「ただね」とインデックスが口を開く。

 

「その…これは、完全にわたしの意見だし、その、くろこには受け入れ難いかもしれないんだけど、その……宗教を嫌いにならないんで欲しいんだよ!!」

 

 「確かに宗教っていうと、政治とかと癒着したり、表では綺麗事いうくせに裏ではみたいなこともあるけど、元々は人々の幸福を願って、皆が幸せになって欲しいなって思って作られたものでね、わたし自身もーー」とインデックス。目は時折、泳いでいるものの必死な様子で、白井に訴えかけるように話している。

 

「(そうですわよね。インデックスさんは、決して現実から逃げているわけでもないし、弱いわけでもない。むしろ、周囲の人を元気づけていますものね)」

 

 と思う白井、確かにそうだ。最近は風紀委員の仕事をこなす上で少し固くなになってしまっていたところもあったと思う。白井とて、学園都市に来るまでは、何度か元旦などに神社やお寺に参拝することもあったし、そこにいる参拝者や巫女、神主、僧侶なども見てきた。果たして彼らが、それほどまでにおかしな人々であっただろうか

 

「今度家に帰省したら久しぶりに家族と一緒に神社かお寺にでもお参りにいきますわ」

 

 そう返すと、インデックスはパッと表情を明るくして「ぜひそうして欲しいんだよ!」と返したのだった。

 

 

 

 

「アフリカ、古代ガーナ文字にシュメール文字、アラビア文字に……色々だね」

 

「読めそうかい?」

 

「まあね、後は術式の構成しだいだけど……」

 

 時は移り、再び風紀委員177支部。そこに再びあの6人が集まっている。時刻は、昼を少し回った程度、病院から帰った白井達はそこで撮影してきた画像を整理しているところだった。とはいえ、魔術とは無関係である白井や御坂は、基本的にかやの外、昼御飯を食べつつ事態の進展を見守るという感じではあった。

 

「それにしても幸いだったのは、まさかあの固法先輩が夏風邪でということですわね。実際、どうしたものかと思っていたのですが」

 

 対して御坂は、「こらっ、人の不幸を喜ばない!」と返すものの、「でもまあ僥倖だったわよね」と一言。やはり何か行動を起こす上で、拠点があるというのは、動きやすいものである。

 さてそれからさらに、三時間程経った昼過ぎ、どうやら事態が進行したようで、ステイル、神裂、それにインデックスが白井達に状況の説明をする。どうやら解決策は見つけられたらしい、それでなるべく人気の少なく、雨風にもさらされない、広めの場所を教えて欲しいとのことだった。どうやら、呪いを解く術式は―想像していた通りらしいが―かなり大規模なものになるらしく、その為であるらしい。

 

「第一九学区がいいんじゃないでしょうか? 使われていない研究所とか。機械を運び出せば広さも確保できると思いますし」

 

 初春の提案に「ですわね」と白井。彼女の能力を使えば機器の運び出しもそれほど時間はかからない。ただ問題があるとすれば……

 

「でも第一九学区って、確かに寂れているとはいっても、人は住んでるし、場所によっては《スキルアウト》みたいな、ならず者の縄張りにもなってたわよね? 本当に大丈夫なの?」

 

 と御坂。彼女の発言にも一理ある、と白井は思う。確かに、第一九学区は通称《見捨てられた学区》と言われるだけあり、廃棄された工場や研究所の密集地であるため基本的に人の往来は少ない。とはいえ、元々は学生も多く住んでいた学区であり、現在でもいくらかの学生寮は存在しているし、それ以上に人がいないというのを利用して、《スキルアウト》――能力開発に行き詰まったレベル0を中心に結成されている無法者集団の総称――がその一部を溜まり場のようにしてしまっている。果たして安全と言えるだろうか?、御坂が疑問に思うのも当然といえる。とはいえ、魔術サイドからするとあまり障害にならないと考えたらしく「まあ、ある程度なら《人払いのルーン》があるから問題ないと思うけど」とステイル。まあよく分からないが、彼らが大丈夫というなら恐らく大丈夫なのであろう、そう思い白井達も第一九学区を利用することで同意したのであった。

 

 

  

 その後、白井と御坂、魔術サイドの三人は、呪いの解除の《儀式場》にふさわしい場所を探しに一九学区へ、初春は、支部でアシストということになった。途中、佐天が支部を訪れるということもあったらしいが、面倒なことになっても、ということで魔術関連については何も話さないということになり、初春が適当に対応しつつ、夕方六時頃までには、目星となる『儀式場』を確保することに成功していた。その後は、御坂が寮に帰る帰らないでもめたり―御坂は帰らないといい張ったが、白井の説得でなし崩し的に帰ることに―風紀委員としての仕事で今日は門限までに寮に帰れないと常磐台の寮監に伝えたり、というようなことがあったわけだが、深夜一二時までには、大方の準備は終わり、儀式場としての土地を確保することが出来ていた。

 

「まあ後は、術式を書いてという感じかな」

 

 そう言うステイルに対し「いつ頃までに書き終えられますの?」と白井。「結構な分量だからね」とステイル、少し考え込み「明後日の昼頃までにはなんとか書き終えられるかなと一言」、ただ一応念には念をいれたいからとのことで時間がずれ込むかもしれない、とは付け加える。「分かりましたの」と白井。その後、彼女も寮に戻る。それから日は流れ七月二七日、午後五時頃、ステイルから儀式の準備が整ったとの連絡が白井に入れられる。ファミレスで談話中だった白井達四人組――御坂、白井、初春、佐天――は、白井の「そろそろ下校時刻ですし寮に帰りませんと!」との掛け声により解散することになり、佐天は帰宅、御坂も帰宅し、寮監に寮にいると見せかけて午後八時半頃に白井の協力で寮を外出、初春は、固法を上手い感じで帰宅させ、支部で待機という感じで、午後一〇時までには、各々が、それぞれの配置につくことになったのだった。

 

 

 

 第一九学区のある廃棄された研究所に白井達5人が集まっている。部屋の隅々に紙が規則正しく並べられており、そこには色々な言語で書かれた『術式』が記述されている。中央にはインデックスが横たわることを想定された横一メートル、縦二メートル半ほどのチョークで四角く区切った領域があり、そこから術式の書かれた各紙――山のように積まれた――へとこれまたチョークで書かれた線が伸びている。

 

「術は、今夜午前〇時きっかりに発動する。完全に終わるまでは、一時間といったところかな。一応、君たち超能力者には、術に影響を与えて貰っては困るから、ここではなくあの展望スペースにいてもらう。無事に終わったら僕から連絡しよう。何か質問はあるかな?」

 

 「特にはありませんの」と白井。御坂もそれに続く。今度は、インデックスの方へと顔を向ける。

 

「君は何か思い残した事とかはあるかな?」

 

 「まあといっても君が紡ぎあげた術式だから要らぬ心配かもしれないが」と付け加えるステイル。

 

「そうだね、こんなに、ゲフッ、美味し、ゲフ、グフッ、物をいっぱい食べさせてもらっ、ゲフッ、ゴホッ、たから後悔なんてあるわけないってかんじだけど」

 

 「ちょっと大丈夫?」と御坂。「だ、大丈夫なんだよ」と随分と大きくなったお腹を押さえながらインデックス。今までの謝罪を込めてということで、神裂とステイルに大量の食べ物を頼み食べたらしく、しかしどうやら欲張りすぎたようで、多少顔が青白くなっているが、本人的には満足らしく満ち足りた声でそう返す。

 

「ただその……最後にるいこと話しておこうかなって。あの後、結局なんだかんだで一度も会ってないし…」

 

 と付け加えるようにインデックス。レベルアッパー事件が解決して3日。呪いの解析や術式の組み上げに忙しくなんだかんだで、佐天と病院であったきりになっていたのである。無論、白井達のファミレスなどでの会話の際もインデックスの話題は上がってはいたがその度に、適当にはぐらかすという感じになっていた。もう一度ちゃんと話しておきたいというのがインデックスの希望であった。

 

「なら私の携帯使って。佐天さんの番号入ってるから」

 

 と御坂が携帯――緑色のカエルキャラクター:ゲコタを模した――を取り出すと、操作し佐天に電話をかけインデックスに手渡す。どうやら携帯になれていないようで、おっかなびっくりな動作でそれを受けとると、恐る恐るという感じで耳に当てる。

 

「もしもし、るいこかな?」

 

『ん? あれ? 御坂さん?』

 

 とスピーカー越しに佐天の声が響く。対して「インデックスなんだよ。今みことのけーたいを借りて電話してるの」と返答する。

 

『あれっ、インデックス! もうなんで連絡くれなかったの!? 御坂さん達ともずっとその事について話してたんだよ!』

 

 「ごめんなんだよ」とインデックス、病院で別れた際、佐天から携帯の電話番号とメールアドレスを渡されていたのだ。『それに、私を差し置いて御坂さんのところにいくなんて!! お姉さん超嫉妬しちゃうぞ!』と佐天。「わ、わたしの方が年上だし、るいこより全然お姉さんかも!」と返すインデックスに対して『ぷぷぷ、そんな言葉使いじゃまだまだだよ、『全然』って単語はそういう時使っちゃいけないんだぞ~』と佐天。「わたしは、イギリス人だからいいんだもん! そういうるいこだって――」っと何とはない会話を繰り広げる二人。それから数十分後、話が一通り落ち着いて来たところで、インデックスが口を開いた。

 

「あのね、るいこ。わたしあの時、道端で倒れてたあの時、るいこに声かけて貰えてすごく嬉しかったんだ」

 

 『完全に不審者だったからね。ぶっちゃけあの時は私も声かけるべきか、迷った迷った』と佐天。「むぅ」と小さく唸るもどうやら話を先に進めたいらしく、反応はそれだけである。再度インデックスが口を開く。

 

「実は、わたし、それまで人に優しくしてもらった経験があんまりなかったんだよ。色々な事情があったりして、人に追われたり、騙されたりってことばかりだったから、ちょっと人間不信みたいなことになってたりもして……だからるいこに声をかけてもらった時はすごく嬉しかったし、その後食事を食べさせてくれたことは、わたしにとっては大切な、すっごく大切なかげがえのない思いでなんだ」

 

『インデックス……』

 

「つまりね、その、るいこは凄くいい女の子できっとすごく楽しい人生を送れるから、自信をもってこれから先、生きていってほしいなって! きっと《ちょうのうりょく》のことだってなんとかなるし、うんめいのひととも出会えて、すっごく幸せな人生を過ごしていけると思うんだよ」

 

『……ありがとう』

 

「わたしもうすぐ、ここを、学園都市を離れなきゃいけなくなるんだ。今度は、いつここに来れるか分からないんだけど、もしもう一度帰ってこれたら、またるいこの家に行っていいかな?」

 

『もちろん! というかインデックスどこか行くの? だったら私インデックスのことお見送りしに――』

 

「それじゃあなんだよ。またね、るいこ」

 

 と耳から携帯を離し電源を切るインデックス。直後、携帯が鳴るがそのまま御坂に渡す。「出なくていいの?」と御坂、しかしインデックスは「あんまり話してるとやめ時がなくなっちゃうからね、これでいいの」と返す。

 

「さて、そろそろ最終の調整を始めようか。君たち二人は、あの場所で頼むよ」

 

 とステイル。研究所の上方、展望スペースに顔を向けながら言う。

 

「ええ、わかった」

 

 と御坂も返し、部屋から出ていく。携帯を耳に当てていたので、佐天に何らかの対応をとっているのかもしれない。

 

「ありがとね、すている」

 

 御坂と白井がいなくなってからインデックスは言う。対してステイルは「なに、僕は本当に確認をしようと思っただけだよ。万が一の万が一があっては取り返しがつかないんだから」といたって冷静に返すと、近くにあった紙の術式の確認を始めるのだった。

 

 

 

「うん、それじゃ」

 

 展望室で御坂はそういい携帯の通話モードを切る。「上手くいきました?」という白井に対し「どうだろ、一応大丈夫だとは思うんだけど…」と御坂。時刻はもう一一時半。儀式の時間までもう間もなくである。

 

「インデックスさん、この後どうされるんでしょうね?」

 

 展望スペースから進められる作業を見つつ黒子が呟く、「さあね、でもまあ、あの二人がついてるなら大丈夫なんじゃないの」と御坂。教会のトップが仕組んでいたと思われるだけに、あの二人とて無事では済まないような気もする白井だったが、しかしまあ悩んだところでどうなるというのか? 彼らは決断し、インデックスもまた決断した。これから何が起こるにせよ、それは彼らの問題であり、彼ら自身が解決していかなければならない問題なのだ。部外者が安易に口を挟むべき事ではないだろう。

 

「皆が笑い合える、そんな未来がくるといいですわね」

 

 そう呟いた白井に、そうね、と静かに同意する御坂。時間は刻々と進んでいく。一一時五九分、〇時まで一〇秒前、九、八

 

「いよいよね」

 

七、六、五

 

「上手くいってくれると信じて」

 

三、二、一

 

「準備はいいですか、ステイル」

 

 

「ああ、勿論だ」

 

そして、運命の歯車は回りだす……

 

 

 

「順調だな」

 

「ええ」

 

 古びた研究所の一室で、ステイルと神裂は言葉を交わす。すでに作業から五〇分が経過していた。首尾は順調で予定通りに事は進んでいる。部屋の中央にいるインデックスは、《眠り》についている。といっても実際は眠りについているわけではない、魔術的な仕組みによって体を固定しているのである。

 

「まあ、魔術のプロフェッショナル、一〇万三〇〇〇冊を記録してるわたしが、かんしゅうした《術式》だからね。とうぜんと言えばとうぜんの結果なんだよ!」

 

 と自慢げなインデックス。あくまで固定しているのは体だけなので、口は自由に動かせるのだ。

 

「それもそうだね」

 

 とステイル。「ですが、なにが起こるかは分かりません、慎重にいきましょう」と神裂、「かおりは心配性だな~」と返すものの「わかったんだよ」と真剣な口調で返すインデックス。再び場が静まり返る。

 

「インデックス、これが終わって何かしたいことはありますか?」

 

 としばらくして神裂が口を開いた。「そうだな」と考えるインデックス。

 

「食べ物はいっぱい食べたし、とりあえずは特に無いかな」

 

「そうですか」

 

 少しの沈黙の後、神裂は再び口を開く。

 

「私達は、今更こんなことをいっても仕方ないのかもしれませんが、数々の過ちを犯してきました。もう何年もの間です……。今回だって彼女達に会えなければ、再び過ちを繰り返すところでした……」

 

 「もうその話はいいんだよ」とインデックス。「しかし!?」と続ける神裂に対し今度は、インデックスが口を開く。

 

「あなた達がわたしのことを思って行動してくれていたのは分かったし、もし立場が違ったらわたしだって同じことをしていたと思う。だから謝らないで欲しいんだよ」

 

「やさしいですね、あなたは、いつも……」

 

「私はそんなあなたにいつも何も返すことが出来ない。貰うばかりで…与えられるばかりで。そんな自分がとても……情けないです……」

 

「じゃあさ」

 

 インデックスが続ける。

 

「これが終わったら。わたしと《友達》になって欲しいんだよ。それで教えて欲しいな。昔のわたしがどんな人で、そしてかおりがわたしにとってどんな《親友》だったかを。そしたらきっと昔みたいに、ううん、昔以上にきっとしあわせな関係になれるはずだよ。《家族》みたいな、そんな関係に」

 

「インディ……あ、ありがとう、ありがとう」

 

 声をあげ涙声になりながら答える神裂。

 

「もちろんあなたともなんだよ、すている。わたしはあなたのこともっともっと知りたいな」

 

「そうだね。これが終わったらね」

 

 とこちらはやはり冷静にステイル。時間は0時58分、いよいよラストスパートである。

 

「何にせよ最後まで気を抜かずにいこう。それからのことはそれから決めればいい」

 

 「そうだね」「そうですね」とインデックス達。そうもう間もなくなのだ…

 〇時五九分五〇秒、五一、五二、五三、五四

 

「(上手くいってくれよ!)」

 

 五五、六六

 

「(神よ。どうか…どうか!!)

 

 五七、五八、五九

 

「(わたしの術式に不可能はないんだよ)」

 

 0

 

『―――警告、第三章第三節。Index-Librorum-Prohibitorum―――禁書目録の首輪、最終第零から第三までの全結界の貫通を確認。再生準備……現在時刻より一二時間後に首輪の自己再生が可能と判断。現状の把握……確認。一〇万三〇〇〇冊の保護のため、侵入者の迎撃を優先します』

 

 そして、運命は動き出す――

 

 

 

 

「さて、時間ですわね」

 

 と展望スクリーンへと近づく白井。時間は、七月二八日午前一時〇〇分三〇秒、予定通りならば儀式は終了している筈である。儀式場を見ると、ステイルと神裂、そして彼らに向かい合うようにインデックスが立つ―いや浮かんでいた。

 いまいち状況が読めない。まだ終わっていないのだろうか? と、インデックスが唐突に視線を白井の方へと向ける。とりあえず反射的に手を振ろうとして、違和感に気づく。

 

「(何かおかしいですわね? 表情がないというか、何となく視線が冷たいような?)」

 

 口を開き何か喋っているようだが、ここと儀式場との音声のアクセスは切ってある。とりあえず、システムを動かし、音声のラインを開ける。すると――

 

『hくにん、戦闘能力情報の収集のため、高速詠唱での簡易術式を発動します≪神よ、異教のものに天の――≫』

 

 聞き取ったのはそこまで、瞬時に部屋のベンチで仮眠していた御坂の元に瞬間移動、彼女の服の襟を掴むと、今度はステイルと神裂のいる儀式場にテレポートする。

 

「何が起こったんですの!?」

 

 と白井が口にした瞬間、展望室で大爆発が起こる。

 

「なっ、何!?」

 

 御坂も意識を回復する。割れた硝子の破片が儀式場へと降り注ぐ。それに対し放心した様子のステイルと神裂。目の前の状況を受け入れられないという様子である。

 

「いっ、一体どういうことですか? なぜ彼女が魔術を……」

 

 対してステイルは突然笑いだす。

 

「そうか、そうだよな……あの女狐のすることだものな! これくらいはあって当然か!」

 

「何にせよ、このままというわけにはいきませんわね!」

 

 どうやら失敗したようだ、いやそれも悪い方向に失敗したようだが、とにかくこれ以上インデックスに魔術を使わせるわけにはいかない。白井は、足に仕込んでいた釘を数本取り出す。瞬間移動させ、修道服を床に張り付ける算段である。

 しかし、テレポートさせた釘は……

 

「どっ、どういうことですの!」

 

 釘は確かに修道服を貫くように狙ったはずであった。しかし、釘はインデックスの服に刺さることはなく、真っ二つに切り裂かれ床に落ちる。

 

「無駄だよっ!」

 

 とステイル。

 

「彼女が着ている《歩く教会》は、《法王級》――物理、魔術を問わず、すべての攻撃を受け流し、吸収する! 無敵の防御結界なんだよ! もう終わりさ、すべて終わりっ!」

 

『敵の攻撃の解析を開始……』

 

「分かってたんだよ! あいつはさっ! 僕たちがこうすることも含めて! ぜーんぶっ!! だから泳がしてたんだ! 」

 

『……解析不能。状況判断より瞬間移動の一種と推定。対策術し―』

 

「こんなことなら、こいつらの話なんか聞くんじゃなかった! 僕は別に良かったんだよ、この子に嫌われたって! 敵だって思われたってっ! この子と《一緒にいられたんだからっ!》。もう終わりだっ! あいつは決して《僕》を許さないっ! もう終わりだ! もうあの子には一生会えないっ! あの――」

 

「甘ったれた事いってんじゃないわよ!!」

 

 突如、御坂の怒声が響き渡る。

 

「なんかおかしいと思ってたのよ。あんた達の話。だってそうでしょ? 一五パーセントしか記憶を溜め込めないなんて、ちょっと考えれば、少し行動してみれば、すぐ分かったはずじゃない、そんなのおかしいって! でも出来なかった、小学生だってそれくらいのこと頑張ったら出来るはずなのに!!」

 

『――術式構成完了、第二章第――』

 

「結局あんた達は怖かったんでしょ? あんた達のボスが! あんた達は、本当はインデックスなんてどうでもいい! ううん、正確にいえば《インデックスの幸せ》なんてどうでもいい!」

 

「っっ――お前に何が分か―――」

 

「他人に与えられた《現実》なんかに満足してんじゃないわよ!!」

 

『≪神よ異教の者に――≫』

 

「あんただって、本当は分かってんでしょ! こんなんじゃ駄目だって!! だって、良いわけないじゃない! 大好きな人に《敵》呼ばわりされて! ちゃんと相手にしてもらわずに、逃げられてばっかで!!  そんなの耐えられるわけない!!!!」

 

『発動まで一〇びょ――』

 

「なら抗ってみせなさいよ!! もがいてみなさいよ!! もうゴールは目の前じゃない! ちょっとくらいの障害で諦めてんじゃ無い!! それくらいの現実自分自身で勝ち取れ! 自分の望む幻想を自分自身で掴み取れ!! それが出来ないってんなら――」

 

『術式発――』

 

「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろ、ヘタレ魔術師!!」

 

「――Fortis931」

 

 直後、インデックス周囲から断面一〇メートルはあろうかという巨大な氷の固まりが大量に、四方八方に吹き出してくる。しかし、白井達がそれに押し潰されることは無い。なぜなら――

 

「勘違いするなよ、短髪女」

 

 ステイルのルーンにより発動された―――

 

「僕は、お前の青臭い発言に心動かされたわけじゃない」

 

 重油により生まれた巨大な―――

 

「ただ僕は――」

 

 炎の巨人――

 

「あの女の《脂肪の塊》なんぞに口をあてたくないだけなんだからなっ!!」

 

 《魔女狩りの王(イノケンティウス)》が白井達を守るように覆い被さったからである。「たくっ、こんな時に、笑わせてんじゃないわよ」と苦笑いしながら御坂。しかし、ステイルはいたって真面目に、なんのことだい? とぽかんとした表情。まあいいわ、と御坂。数秒後には、魔術により生み出されたすべての氷が溶け去った。

 

『新たな敵戦力を確認、曲解した十字教をモチ――』

 

「Salvare000」

 

 再び響く怒声。次の瞬間、インデックスの前面まで一気に距離を詰めた神裂が、その拳を修道服に叩き込む。二人の間に爆風が発生しそして――

 

『さらなる敵戦力を確認。《歩く教会》の防御、ゲホッ、能力を超えた攻撃力……《聖人》級の力を確認。防御術式の構ち――』

 

「そんな暇は、与えません!!」

 

 とさらなる攻撃を加える神裂。徐々に徐々にだが、後退していくインデックス。完全に神裂が押している。

 

「いけるんじゃありませんの!」

 

 と白井。しかし、ステイルの表情は険しい。

 

「いや、恐らく――」

 

『防御術式の発動は困難と、グフッ、判断、回復術、ゲホッ、式へと切り替えます。第三章第一二節≪神よ、従順なる子羊に寛容なるお恵みを≫発動まで一五秒』

 

「間に合わない」

 

 数秒後、ステイルの予言通りインデックスの周囲を暖かく、目にするものすべてを包み込むような光が発生し、同時にインデックスの吐血も収まる。

 

「クッ」

 

 苦悶する神裂。勿論彼女の攻撃が止むことはない。しかし……

 

「消耗戦か……問題は、彼女の魔力量と神裂の魔力量、どちらが多いかだが……」

 

 しかし彼の懸念の通り、先程よりは拳のさえが鈍っているようにも見える。

 

「くっ、イノケンティウス!!」

 

 と遅ればせながらステイルも戦闘に参加する。私もいくわよ!! と言わんばかりに、御坂も突撃していく。しかし……

 

『≪神よ、従順なる子羊に寛容なるお恵みを≫発動まで――』

 

「(これでは……)」

 

『三、二、一、術式完全発動。生体機能の全回復を確認。平行して、術式のこ――』

 

「勝てないっ……」

 

 と白井。彼女がこの場から動かないのは、臆病さからではない。冷静な判断からだった。蛮勇だけで、すべてが上手くほど現実は甘くはない。それは、白井が今までこなしてきた風紀委員の仕事のなかで身をもって体験――いや目の当たりにしてきたことだ。レベル0の無法者集団、スキルアウトとの戦いのなかでだ。

 

「(今の私たちは彼らと同じ、このままでは勝利など……)」

 

 もしこの三人が、日々修練を共にしてきた戦友どうしであったなら、確かに勝機も掴めたかもしれない。しかし、現実は違う。気合いだけでどうにもならないこともある。つまるところ、三人の連携は最悪だった。神裂のサポートに回っているはずのステイルと御坂だが、上手く隙をつけず、むしろ彼女の攻撃の邪魔になっていることのほうが多い。恐らく、白井がこのまま戦闘に突入しても、戦場をさらに混乱させることになるだろう。このままでは、決して勝利を掴むことは出来ない……

 

「どうすれば、どうすればいいんですの!?」

 

 と思わず座り込んで頭を抱え込む白井。タイムリミットは着々と迫ってくる。考えなくては、考えなくては!

 

「黒子!! 危ない!!」

 

「お姉さま?」

 

 御坂の叫び声にふと、顔を上げる白井。と前方からコンクリートの破片が迫ってくる、驚きのあまり反射的に手を上げ適当な演算でそれを飛ばしてしまう。

 

「戦う気がないならどこかに消えろ! 腐れミュータント!!」

 

 とステイル。わたくしだって! っと再び戦場へと視線を向ける白井。と、ちょうど、うっ、とうずいたようによろめくインデックスが目にはいる。口から、何かが飛び出ている。あれは!!

 

「(そうですわ! 体内に直接テレポートすればいいんじゃありませんの!!)」

 

 と白井。冷静に考えればそうだったと思う、いつも仕事中に言っていたではないか! 「これ以上暴れたら直接体内におみまいしますわよ!」と。

 無論、危険だからと一度も使ったことは無かったが、今はそんなことをいっている暇はない、そこらへんのコンクリートを直接インデックスの――

 

「って、何言ってますの!? わたくしは、インデックスさんを殺したいわけではないでしょう!!」

 

 近くにあった直径一メートルほどの何かの残骸を手で掴みつつ、冷静になる白井。こんなものテレポートすれば、動きは止められても、インデックスは破裂して即死である。ダメだ……もうダ――

 

「ってそうでしたの! わたくし、緊急用に《睡眠誘導剤》を先端につけた針も用意してたんでしたの!! 確かあれは……」

 

 一体どこに置いていたのか……え~と、確かあれは……

 

「そう、そうですわ!! 確か支部に、支部にあったはず!! お姉さま! わたくし、いい策を思い付きましたの! しばらくここお任せしますわね!」

 

 と数秒後、テレポートで戦場から白井の姿は消えたのだった。

 

 

 

 

「初春! わたくしの睡眠誘導針ってどこだったか覚えてます!?」

 

 風紀委員一七七支部。あれから数分後、白井はこの場所に立っていた。テレポートを使えば、この程度容易いことなのだ。とりあえずと初春を呼び出そうとする白井だったが、反応が無い。

 

「まさか、トイレですの? 全く、こんな時に限って……」

 

 まあ自分で探すしかないかとデスクを漁り始める。だが……

 

「 な、無いですの……お、おかしいですわね、確かこのへんに……」

 

 とデスクのすべての引き出しを開け調べ始める。だが無い、見つからない

 

「そ、そんな馬鹿なことが……」

 

 もはや手段を選ぶ暇はないと初春や固法の引き出しもテレポートを使い徹底的に調べる。しかし無い。どこにも無い。

 

「ま、待ち合い室、いやトイレ、トイレだったかもしれないですわ! きっとそこに……」

 

 トイレ、その単語で思い出す。トイレといえば初春だ。一体、彼女はどこにいるのだ? 「初春! 初春っ! どこですの!!」と叫ぶ白井。

 ――しかし返事は無い。

 

「まさか……逃げた?」

 

 いやいやそんな馬鹿なと白井。しかし、自分が支部に来てから果たして一体どれくらいの時間が経ったのか? 携帯を取りだし時間を確認する。

 

「一時四二分」

 

 それが現在の時刻だ。まさか、三〇分近くも経っていたとは……これは確実に逃げたなと白井、まったくあの腹黒の臆病者、と心の中でなじる。

 

「たくっ、学園都市の治安を守るものとしての自覚が……」

 

 とそこまで言ったところで、ふと気づく。自分は何をやっているのだ?

 

「いやいや、だから《針》を――」

 

 本当にそんなものあったのか?

 

「なっ、そ、そんなわけが――」

 

 逃げたかっただけなんじゃないのか?

 

「お、お姉さまを残してそんな――」

 

 あの御坂がお前と一緒に逃げるとでも? 間違いなく彼女はこう言うだろう「逃げたいなら勝手にすれば?」と冷たい目で、汚いものでもみるような氷のように冷たい目で……

 

「まさか……まさか……そんな! そんなこと――」

 

 そう結局のところ――

 

「いえ、そんなわけありませんの!! わたくしは、風紀委員の白井 黒子! お姉さまの露払いにして、学園都市の守護者、ジャッジメントですの!! 何を臆病風に吹かれてますの! しっかりしなさい!!」

 

 そうだ! そんなわけが無い! お姉さまは確かに勇敢な人だけど、それは自分に対して厳しいだけ、仮に白井が逃げるといっても決してそんな態度は取らないだろう。初春だってそうだ! 確かに口は悪いけれど、根はこっちが心配になるほど正義感が強くて、優しくて純粋な子。それに、わたくしの大事な数少ない、かけがえの無い親友。仮に逃げていたとしても、どうして攻められようか!!

 

「思い出しなさい黒子。針は、針は確かにあったはず。あれは――」

 

 確か一ヶ月前に確認した時はあった! 二週間、二週間前も……そう確認した! そうだ、あの時まではあった! そして一週間、一週間前は……

 

「そう! あの場所、あそこですの!!」

 

 と思わずテレポートで自分のデスクへと瞬間移動する。そうあの場所だ! とデスク下に座りこむとそこから何かを引きずり出す白井、出てきたのは――

 

「バッグ、バッグにしまったんですの! 確かあの日……」

 

 そう一週間前の七月二一日。支部に訪ねてきた佐天が何を思ったのか、白井のデスクを漁っていたのだ、友達の家に来たらガサ入れが基本だとかなんとか……、それでここは家じゃありませんの!、とかなんとか返していたら、佐天が「あれ? これって睡眠薬? それに針? 白井さん、これって一体!?」とか「な、何か思い悩んでるんですか!? 駄目です! まずは友達に相談が基本です!! 何、何ですか? まっ、まさか恋の悩みとか!? うっ、初春!! 白井さんが――」みたいなことになって……

 

「そうでしたの。いつでも隠せるように手元に置いておこうと……そうでした、そうでしたわね……」

 

 と白井。常盤台指定のバッグをみると、透明なビニールに睡眠誘導剤と針を入れてある裁縫セットが目にはいる。

 

「よっ、よかった! 本当に、よ、よがぁったでぅの、うぅぅぅ」

 

 思わず涙が出てくる白井。だがこんなところで泣いている場合ではない! そう思うと手で涙を拭い、睡眠誘導剤と裁縫セットを掴む。無論、針には睡眠誘導剤を仕込ませ済みである。

 

「待っててくださいですの! ジャッジメント白井黒子、今まいりますの!!」

 

 自分を奮い立たせつつ、テレポートする白井。そうもうすぐ、もうすぐですの!

 現在の時刻は午前二時ジャスト。白井が戦場を去ってからほぼ一時間が経過していた。

 

 

 

 

「(もうすぐですわね)」

 

 支部を出発して数分後。白井は、御坂達がいる研究所の数十メートル前までたどり着いていた。次のテレポートで現場につくことが出来る。そして、最後のテレポートを発動する。

 

「(着きましたの! っこ、これは!?」

 

 彼女の目に飛び込んできたのは、一時間前とはまるで違う光景。もはや研究所は建物の原形を残していなかった。あるのは骨組みとただの瓦礫の山。そしてその中心にいるのは――

 

「(でもまあ目標ははっきり分かりますの! 一撃で決めわすわよ!)」

 

 そうインデックスである。どういうわけか首を空へと向けている。動いてもいないので標的としても狙ってくださいと言わんばかりの状況だ。

 用意していた針を掴むと、しかしそれでも慎重に演算しテレポートさせる。数瞬後、インデックスが瓦礫の中に倒れこむ。

 

「やったっ!? やりましたわ!!」

 

 と白井。数秒間待ち安全を確認した彼女がインデックスのもとへと瞬間移動する。

 

「ちゃんと効いたみたいですわね。よかった……」

 

 一応初春で実験――むろん何の許可を取らずに――はしていたものの、初の実戦使用だっただけに少し不安もあった白井であったが、どうやら杞憂で終わったようだ。ほっとしてか、思わず足から力が抜け地面に座り込む。

 

「(そういえばお姉さまはどこかしら?)」

 

 と白井。そういえば付近に姿がない。いざとなれば自分の身は守れる御坂だ。どこかに身を隠しているのかもしれない。と――

 

「くっ、黒子ーーー!!!」

 

「お、お姉さま!!」

 

 声のする方向へと首を向けると全速力で――おそらく磁力のスピードをかりて――自分のほうへと向かってくる御坂の姿。

 

「まっ、まあお姉さまったら!! くろこが、そんなに黒子のことがっ!!」

 

 感激する白井。何か喋っているようだ。随分距離はあるが相手は親愛なる《お姉さま》である。口の動きから言葉を読み取るなど造作もない。

 

「うえ、上ですの! 上に何かあるんですのね」

 

 と白井。花束、いえ、まさか! もしかしたら勝利を祝しての結婚指輪!

 

「あぁん!! お姉さまっ!!」

 

 なんて素敵なプロポーズ! 黒子、この身を一生――っと上方を見上げる白井。そこにあったのは――

 

「(羽根? 青い羽根? なんですのこれ?」

 

 耳に御坂の叫び声が聞こえる。羽根へと手を伸ばす白井。そして――

 彼女の、白井黒子の意識はそこでぷっつりと途絶えたのだった……

 

 

 

 

 病室、白い壁の病室に一人の少女の姿がある。清楚な印象のツインテールに髪を結んだ少女だ。ベットの上で上半身だけ体を起こし上品に本を読んでいる。今そこにまた一人、少女が入ってくる。灰色のプリーツスカートに半袖のブラウス、サマーセーターを着た少女である。

 

「あら? どなたですの?」

 

 とベットにいる少女が部屋に入って来た少女に声をかける。

 

「く、黒子……」

 

「どなたですの? すいません実はわたし……」

 

 

 

 ―――数分前、ある診察室にて――

 

「――記憶破壊といった方がいいかな。とにかく彼女は記憶を――」

 

 

 

 

 病室に入って来た少女、御坂美琴がカエル顔の医者《ヘブンキャンセラー》に受けた説明がこれだった。 

 ベットで寝ている少女、白井黒子、彼女は―――

 

「くろこ、あんた……」

 

 無言でベッドに近づいていく御坂。対して「すいません。もしかして病室を間違えておられるのでは?」とキョトンとした様子で、いやむしろ不審者を怖がるように身を引きつつ、声を震わせ言葉を返す白井。そんな彼女の前に立った御坂は――

 

「くろこ」

 

「すいません、あの~」

 

「ふざけてんのかっっっ!!!!!!!!」

 

「ゲブッッツボッッッ!!!!!」

 

 といきなり白井の頬に平手、いや全力のグーパンチをお見舞いする御坂。衝撃で頭を壁に激突させる白井。しかしあくまで冷静に

 

「っっっあ、あの~一体これはどうい――」

 

「ふざけてんのかっっっ!!!!!!!!」

 

 再びのパンチを繰り出す御坂、対して白井は再び壁に激突し「ブッッッツボフッッッッ、お、お姉さまいったいなn――」と言ったところで、ハッ、っとなにかに気づいたかのかのように口を押さえつつ、そして、青ざめる。

 そう、話には続きがあったのだ……

 

 

 

 

―――数分前、診療室にて――

 

「――と言ってくれと本人に言われたけど、彼女はいたって健康。軽い脳震盪を起こしてたけど別にどうってことないね? ……それよりも、一体どういうことなんだい? 『真夜中に野球の練習で≪金属バットを振り回してたら、間違って飛ばしてしまい彼女の頭にぶつけてしまいました≫』なんて。ちょっと話が出来すぎじゃないかな? 念の為、学園都市のいじめ防止委員会にも連絡をいれようかと――」

 

 

 

 

「て、言われてもね……いくら患者のためとはいえ嘘をつくわけには……」

 

「こっ、このっっ裏切り者ーーーーー!! 許しませんわ!! 後で絶対に――」

 

 と返す白井に「あんたってやつはっっっ!!!!!」と拳を握りしめ今度は頭上で電流をバチバチと対流させながら御坂。「いや、あの~お姉さま、ここは病院ですし……あの~、その~~」と白井。

 

「本当ですよ、白井さん!? 私本当に心臓が止まるかと思ったんですから!! 『私の人生ここで終わった~~』って!!!」

 

「さっ、佐天さん! いやあのこれはその~~ーー」  

 

「くろこ、世の中にはついていい嘘と悪い嘘が――」

 

「ひっ、ひらいさん!! わたし、わたしもう、ふぉんとうににどうしようかって!」

 

 「う、初春! そ、それに皆さんも……」と病室に次々と入ってくる面々に対し「あの、その、わたくし、その~~~今日は健気な感じでいこうかな~~と。なんというか出来心というか? その~~~」と顔をぴくぴくと痙攣させながら――

 

「ホントに申し訳ありませんでした!!!!!」

 

 頭を下げる――いや、ゴンゴンと頭をベッドに叩きつける白井なのであった。

 

 

 

 

 

 あの時、瓦礫の山の中で頭上に手を伸ばした白井。彼女がその視線に捉えていたのは、『《竜の吐息(ドラゴンブレス)》』の残骸である。聖人である神裂を消し飛ばす為に、一〇万三〇〇〇冊の魔導書より導き出されたインデックス最強魔法の残り香、それであったのだ。

 とうの神裂はというと、それを避けきり遥か上空。インデックスは《ドラゴンブレス》を発動し終わり顔を上方へと向けたまま。そんな時白井は、あの場所にたったのだ。ドラゴンブレスが恐ろしいとされるのは、その威力もさることながら、術の発動後にその軌道上に発生する《純白の羽根》にある。その一枚一枚が、ドラゴンブレスと同じだけの威力を持ち、それにたったの一瞬触れただけでも、対象を塵のごとくまで粉砕する。確かに、あのまま手を伸ばし白井がそれに触れていたのなら、彼女の記憶、いや命すらなかったかもしれない。しかしそうはならなかった、なぜならそれは――

 

「いや~、あの時の私の投げた《金属バット》の軌道の鮮やかさ!! ホント、白井さんにも見せてあげたかったなぁ~!! ほんとーにすごかったんですから! ああいうのを奇跡っていうんだろうな! 皆さんもそう思いますよね!」

 

 黒髪にロングの中学一年生、佐天涙子の投げた金属バット、それが白井の頭にクリーンヒット! 体勢を崩した白井を御坂がギリギリ救出、それとほぼ同時に空中から帰還した神裂が、インデックスと彼女たちと拾い上げ、そのまま戦線離脱というような奇跡――実際、佐天の位置から白井の位置までは一〇メートル以上はなれていた――の連続があったからなのである。ちなみに、なぜその時、佐天が儀式場になっていた研究所にたどり着けたかというと……

 

「も~、たまたまなんとか上手くいったとはいえ、あの時は大変だったんですから! 支部にやってきた佐天さんが『なんかインデックスの様子がおかしいんだけど――ってなにこれ? インデックス? 初春一体これって!?』みたいなことになって『なんで私に話してくれないの!! こんなおもし――じゃなかった!! 大変で深刻な事態になってるのに! っと、ここはインデックスの姉である私の出番ね! いくよ! 初春!!』ってな感じで無理矢理支部から連れ出されちゃって! ちゃんとインデックスさんが佐天さんに説明しないから」

 

 という初春に対し「ごめんなんだよ」とインデックス。「まあ上手くいったんだし良かったじゃない」と御坂。

 

「あっ、そういえば白井さん!」

 

 と今度は佐天がすこし興奮した様子で――

 

「あの人たちと話し合った結果、なんと~~~~!! インデックスは私が預か――いえ、育てることになりました!!! 私昔から妹が欲しかったんです! ということで、次からインデ――じゃなかった《妹》に会いに来たかったら是非家に来てください! 大歓迎しますよ~!」

 

 わーい、わーいとジェスチャーまでつけて幸せそうな笑顔。「な、なに訳の分からないいい間違いをしてるんだよ! だいたいるいこよりわたしのほうが――」とかなんとかインデックスがそれに対して反論している。

 

「ほらほら君達、そろそろ完全下校時刻だよ? 特に常盤台の君、さっさと帰らないと、いやもう無理かな? とにかく大変なことに事になっちゃうんじゃないかな?」

 

 といつの間にか部屋から出て、そしていつの間にか部屋に戻ってきたヘブンキャンセラーが言う。そう、時はもう夕暮れ時、午後六時四八分だ。「しっ、しまったーーーー!!!」と御坂。急いで荷物をまとめると「それじゃっ! あと黒子、今回みたいな嘘は二度と許さないから!!」と言い残し凄まじい速度で去っていく。

 

「じゃ、私たちも帰りましょうか!」

 

 との初春に「そうだね。それじゃ! 白井さんまた!」「こんどは、るいこのうちでね~」とインデックス。病室には、医者と白井のみが残る。

 

「それにしても――」

 

 しばらくして、医者は言う。

 

「君達も変わった子だね?」

 

「?」

 

 という様子の白井に対して

 

「さっきの子達も含めてだよ? どうして彼女を救ったんだい?」

 

「別に君達は彼女の家族でも恋人でもなく、親友でもない? ましてや話を聞いたら数日前にあっただけというじゃないか?」

 

「にも関わらず、命をはって助けるなんて? 正気の沙汰じゃないと思うな?」

 

「もし僕が君達の親だったら間違いなく止めるだろう?」

 

「お前達の命をかけてまですることではないってね?」

 

「そうですわね」

 

 対して白井は落ち着いた様子で答える。

 

「確かにわたくしも自分が子を持つ父や母でしたなら、きっと同じことをいうと思いますわ」

 

「なら、なぜ君た――」

 

「でもね先生」

 

 白井は続ける。強い声で、信念を込めた強い気持ちをこめて

 

「わたくし――」

 

 そうわたくし白井 黒子は――

 

「ジャッジメントですの!!!!!」

 

 左手で右腕の裾を引っ張りそう強く、力強く、誇り高く宣言するのであった。

 

 

 

TO BE CONTINUED

 

 




・あとがき

 ここまで読んでくださって有り難う御座います。作者の《いすとわーる》というものです。
 楽しんでいただけたでしょうか? もしそうでしたら、とてもうれしいです。

 ところで、この小説を書き始めたキッカケは『佐天さんに焦点を当てた物語を書きたいな』ということでした。小説を最後まで書き上げることが中々出来ないタイプの人間だったので、佐天さんには感謝しなければいけませんね。

 さて、次巻からいよいよタグに書いたフレンダも登場します。ご期待ください。
 
 感想など頂ければ、嬉しいです。

 それでは、またお会いできる日を心待ちにしております。

  二〇一六年九月三日
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