【完結】とある科学の超電磁砲 ANOTHER 作:北条 ゆう(いすわーる)
七月三一日。柵川中学。学園都市第七学区にあるこの中学校の一室にいま佐天 涙子は入ろうとしていた。
というのも遡ること一週間前の七月二四日、あることがきっかけでちょっとしたあるものに手を出してしまった佐天なのだが、それ故の特別補講、つまりは佐天が思うところの『これってお仕置き、いや罰だよね』的なものを受けることになっていたからである。
まあとはいえ、その補講が始まるのは八月一日から、今日はその説明会なわけだが。とにかく補講はまさかの九月の始業式まで続くらしい。「(まあ仕方ないよね)」と佐天。とはいえ「あ~あ、本当は恋に事件に広域社会見学にって楽しい夏休みの予定だったのにな~」と気落ち気味でボヤきながら教室のドアを開ける。部屋の中には……誰もいなかった。
「あれっ? おかしいな? ここであってた筈だよね?」
と佐天。時間も最近家に同居している《妹》こと不思議シスターのせいで、説明会予定開始時刻五分前のギリギリ到着である。と突然後ろから――
「おい佐天! なにやってる。早く席につけ!」
「うわっ!? あっ、あれ先生?」
登場したのは理科教師。佐天のクラスの能力開発学の担当教師でもあり、佐天の能力開発の担当教師でもある、ちょっと……恐めの先生だ。そんな教師の口から発せられたのは。
「お前は個別の特別授業だ! 明日から九月七日まで学園都市から出て合宿にいってこい!」
と、いきなり教師から同意書類の山とパンフレット、そして外出許可証を渡される。「えっ? あの先生これは?」と返す佐天に対し「いや、ホントいい度胸だよな。せっかく教師会の先生達が『やっぱり夏休みをすべて潰してしまうのはかわいそうなのです。あの子たちもある意味追い詰められて、それこそ私達の力不足でこのようなことをしてしまったのも事実。今回は大目にみて一日だけで許してあげましょう!』ってな感じで温情溢れる方針を決めたのに、連絡した七月二八日に、まさかの友達と遊びに出掛ける《最低の生徒》 がいたんだものな。『三一日までは絶対謹慎、家から一歩も出るな!』とあれ程忠告したのにな」いやいや残念だと悩ましそうに手を頭につけ「はぁ~」とため息。でも口が笑ってない……
「せ、先生。その~それには深いわけが……」
そうなのだ。あの日は無事回復を遂げた友人や命の危機から助け出された《妹》のお祝いで町にでかけ――
「ま、とにかくそういうことだから頑張れ! あ、それサボったら、おまえうちの学校《退学》、というか、学園都市永久追放されるから。それじゃあな。頑張れ」
と肩をポンポンと叩き、さっそうと、まさかの鼻唄を歌いながら、いつもは絶対にしないスキップまでして廊下を軽やかに進んでいく教師。あ、あのヤロー
しかし……
「こ、これは……」
そうこれは……
「ふっ――」
紛れもなく……
「不幸だーーーーーーーー!!!」
高らかに、そう宣言する。黒髪にロングヘアーのセーラー服少女:佐天 涙子なのであった。
そして、時は移り九月八日、午前六時、学園都市第七学区のとある学生寮にとある少女が勇み足で駆け込んでくる。エレベーターに飛び乗り、階を指定、扉があくと同時に信じられないくらいの速度で走り出すと、ある部屋の扉の前で立ち止まり『ゴンゴン』とちょっと大きいノックを連続する。
「はいはい。開いてますよ~」という返答と同時に、いやそれよりも少し早めに扉を開ける少女、そして――
「初春っ! わたしやったよ!! わたし能力者になったの!!」
そう頭に花のアクセサリーをつけた少女:佐天涙子は高らかに、誇り高く、そう宣言したのであった。
―――とある科学の
第二巻 前編 【わたし能力者になったんだよ!】
「おめでとう御座います! 佐天さん!! 遂に努力が報われたんですね! わたし、ふぁたし、ぶふぇーーー、ふぉんとおに、ふぉんとによかった」
「ふふふ、わたしはるいこなら必ず出来ると思ってたんだよ」
「さすがね! 佐天さん!!」
「まっ、佐天さんなら必ずやり遂げられるとわたくし信じておりましたの」
「なんだか分からないけど、ほんとにおめでとうなの~」
「いや~ほんとにみんなありがとー! いや、それもこれもあの素晴らしいサディ――じゃなかった、生徒思いのあいつ――じゃなかった名教師さまのお陰、ホントよかった~~」
「今日は私の奢りですからなんでも食べてください! あ、そこのお姉さん、パフェとこの店で一番高いやつ、なにか持ってきてください!」と上機嫌な佐天。ちなみにここは柵川中学近くのファミリーレストラン。学校帰り、今日は夏休み明けの《能力検査》――ちなみに佐天は受けてはいない。合宿中に受けたからだ――で午前授業であったので今はまだ午後〇時三〇分。お昼ご飯も兼ねた佐天の(祝)超能力者デビューパーティーの真っ最中なのであった。
「いや~、ホンッットに大変だったんだから。何せ、夏休みなのに朝は毎日七時に――」
と武勇伝を語る佐天。さっそく運ばれてきたパフェを食べながら「あ~、この味、この味だよ初春! なにせあの合宿中は――」と再び武勇伝。
彼女の話は端的にいってこうだ。合宿中は睡眠と入浴以外はずっと勉強となぜか能力開発とは関係ないはずの体力トレーニング、そして能力開発用にと開発されたサプリメントと、どういうわけかほとんど味のしない《能力パン》や《能力ご飯》、そして《能力肉》をひたすら食べ――いや腹に入れ続ける毎日。そんな努力が実り、八月三一日、最終日一週間前の能力検査では遂に念願の《レベル1》に! そんな彼女の話を「よかった、よかった」と一同。ちなみに、彼女が今日まで帰って来なかったのは、特別に一週間の《夏休み》を貰って実家に帰省していたかららしい。《広域社会見学》は流石に疲れていたし「別にどっちでもいい。好きにしろ」と例の教師に言われたので「サボっちゃいました! テヘッ」とかなんとか。
「ホント、最初はあのクソ教師、まじふざけんなっつーの! って思ってたけどさ、『よくやったな、佐天。お前はもう自由だ! 一週間どこでも好きなとこいってこい!』だなんて、何だかんだで《一週間も》夏休みをくれて! もう、あの時は、この涙子ちゃんもコロッといきかけ――」
「ところで佐天さん。実は、私達もこの夏休みに色々あったんです」
と軽快に喋っていた佐天に初春が口を挟む。一同が内心『いやもうそろそろ飽きたわー、てか同じ話の連続……』と思いつつ、であっただけに絶妙なタイミングであったといえるだろう。佐天も一通り話して満足していたのか「ほうほう、それは一体何かな? まさか! まさか初春が恋!? たくっ! この涙子ちゃんがいない間に~。初春は私の嫁に――」とかなんとかいっていた矢先、ドサッ、と何かの紙束が置かれる。ん? 何これ? と当惑気味の佐天。そんな佐天に対し初春が――
「インデックスさんの食費! しめて七八万九六五八円!! 皆で立て替えたので、さっさと支払ってください!! それと、もう面倒見切れないのでさっさと引き取ってください!!」
しばし呆然とする佐天。しばらくして、そっと紙束を手に取る。ペラペラと紙を捲っていく。そして最後の一ページ、一番下に書いてある合計額を見た次の瞬間――
「るいこ~、起きるんだよ~」
「んっ……インデックス」
と目覚める佐天。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。何かとんでもない夢を見ていた気がする。でもどうやら夢だったようだ。ひと安心の佐天。すると……
「そんな…そんなことって……」
目の前に変わらず置かれている紙束。そんな、そんなことって!!
「いやーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
突然そう叫び声をあげると、全力疾走でファミレスを後にする佐天なのであった。
「はぁはぁ、こ、ここまでくれば」
と体を屈め息継ぎする佐天。ちなみにここはとあるホットドッグショップの前、ファミレスからは三キロ程離れた場所である。さすがにここまでは追い付いてこれまい! っと佐天。しかし――
「佐天さん! ちょっと待って!!」
「う、うぇっっ、み、御坂さんっ!?」
そう御坂だ。無論息切れはしている――と思いきや何故か余裕綽々。えっ、なんで? 御坂さんってこんなにアウトドア派の人だったの? 当然焦る、いやもうそれを通り越して顔面真っ青、まるで死人の形相の佐天。一体、一体どうすればこの難局を――
「ごめんなさい!」
と突然御坂が頭を下げる。「?」と佐天。状況が読めない。すると御坂が――
「今のドッキリだったの! インデックスの面倒見てあげたかわりに協力してください! って初春さんに頼まれて……ちょっとした出来心で……とにかく、本当に御免なさい、佐天さん!!」
対して「あははは、なーんだドッキリだったんだ。よかったよかった。本当によか――――」と、今度こそ本当に意識を失う佐天なのであった。
「たくっ! いくらなんでも冗談が過ぎますわよ、初春!」
「す、すいません。まさかあそこまで反応してくれるとは思わなくて……」
と叱りつける白井に、うなだれる初春。インデックスも「そうだよ、いつもわたしには『お金ない!!』って言って《もやし》しか食べさせてくれなかったくせに!! たまには《おすし》とか《やきにく》とかにも行きたかったんだよ!!」と追撃するも「そんなこといったって仕方ないじゃないですかー。わたしだって、お金なくて殆どもやし生活だったんですから! それにたまに春上さんに外食連れていってもらったじゃないですかー」っと初春。「そうなの~」と春上。実際のところ彼女達の食卓事情は、インデックスの胃袋でとんでもないことになっていたのである。
「わたくしだって、たまに奢って差し上げたではありませんの」
と続けて返す白井に対し「あんなのじゃ全然足りないんですよ! 白井さんは、本当のインデックスさんを知らないから、そんなことがいえるんです! あれはもう人間のなせる業じゃじゃありません! きっとあれは―― 」とかなんとか初春。
まあ何にせよ主役がいなくなってしまい、閑散としてしまう(祝)超能力パーティ。
「たくっ! まあもういいですわ。何にせよ、佐天さんを連れてこないことにはどうにもなりませんわね。初春! あなたはそこで反省してなさい!」
と言い残すと次の瞬間白井の姿が消滅する。そうテレポートを使ったのである。
「わたしは悪くないのにーーーーー!!」
そう高らかに宣言する初春飾利なのであった。
「それにしても佐天さんとお姉さまは、どこにいってしまわれたのやら。そんなに遠くにはいっていないはずですけど……」
と白井。なんとなく勢いで出てきてしまったが、実際のところなんの当てもない。どうしようかと、とりあえずファミレスの駐車場を出て大通りの歩道を歩いていると……
「ん? あれは?」
と、目に入ってきたのは――
「(キィィー!! あれはあの憎っくき《ゲコタ》ではありませんの!)」
ファンシーグッズを中心に扱っているらしい店のショーウィンドウに飾られたゲコタ人形であった。「こんなもの、これさえなければ、お姉さまはわたくしの、わたくしのーーーーーー!!」っと声を上げつつウィンドウにへばりつく白井。当然、近くにいた歩行者は「な、なにあの子……」という感じで、関わらないようにとものすごい、可能な限り距離をとりつつ走り去っていく。
と、ドアを開け一人の少女が店を出てくる。何か買い物をしたあとのようで大量の荷物を抱えてである。もちろん、出て直後周囲に異様な雰囲気を撒き散らしている白井に気づく。うわぁーという感じで顔をひきつらせる少女。しかし次の瞬間何かに気づいたかのように口を開け「あっ」と声を漏らす。とはいえ白井がそれに気づく節はない。ただショーウィンドウを凝視し「この糞ガエル、絶対、絶対に許しませんの……」などとぶつぶつと呟いている。しばし、何か考えている様子の少女、一度は白井に背を向ける。しかし、ちょっと歩いて唐突に足を止め意を決したように体を反転させると、颯爽と白井のほうへと向かっていく。相変わらずの白井。対して少女は腕を腰にあて「はぁ~」とため息をつきつつ――
「黒子。あんた一体なにしてる訳よ?」
と一言。突然名前を呼ばれ「あぁ!」と顔を歪ませたまま、少女へと顔を向ける白井。しかし、数秒後白井の表情は驚きへと変わり――
「ふ、フレンダ先輩じゃありませんの!? い、一体なぜこんなところに!」
と驚愕を露にし「それはこっちの台詞な訳よ」と呆れたようにフレンダと呼ばれた少女に言い返される。最初は、ぽかん、としていた白井だったが直後、何を言われたのか気づいたようで、「いえっ、そのこれはその……そ、そうですの、この人形可愛いなと、いやーほんと天にも昇る可愛さですわー」と言う白井に対し「いや、それでもヤバいから」と冷静にフレンダが一言。しばし沈黙がながれる。
「で、その~先輩は一体なぜこんなところで?」
と先に沈黙を破った白井が一言「いや、見れば分かるでしょ」と紙袋を掲げる。「ああ、そうでしたわよね~、先輩確かこういう趣味でしたわよね~」と返答。しかし段々と目付きが変わり――
「相変わらずそこは残念なんですわね」
と一言。「全く、なぜわたくしの周りの年上は揃いも揃って……」などと続ける白井に「いや、あんたには言われたくないから」と再び冷静にフレンダが返す。再び二人の間に沈黙が走る。
しばらくして今度はフレンダが「でっ、あんたは結局こんなとこでなにしてたわけ? まさか、その人形見るためにここまで来た訳じゃないわよね?」と少し、いやかなり可哀想なものを見るような目で悲しげな表情で話題を振る。「も、もちろんですの!」と少し慌てつつ「実は――」と話を始める。
「へー。そうなんだ。何だか懐かしいわねそういうの……」
「ですわね」
と白井。
「先輩は優秀だったから《支部のみんな》にお祝いされるのはいつも先輩で……」
「すごく羨ましかったですわ」と何か大切な思い出を思い出すように静かに呟く。フレンダも「そうだったわね」と返ししばし黙りこむ。「そうだ! よかったら先輩もどうです?」と突然思い付いたように白井が「《レベル0からレベル3》までのしあがった先輩の体験談を話していただければ、きっと佐天さんも喜びますわ!」と話すも「う~ん……」と考え込んだのち「やっぱやめとく訳よ。そういうのってやっぱ繊細な問題だし、親交の無い他人がいってもシラけちゃうだけっぽいし」とフレンダ。「そうですの……」と残念そうに白井。
「じゃまあ、私はもう用事はないけど、ちょっと休みたいから帰らせてもらうわ」
しばらくしてフレンダがそう切り出す。「ですの。たまには支部に顔を出してくださいな」と白井、最後に「固法先輩も、同年代の方がみんないなくなってしまって最近は寂しそうですし……」と付け加える。対してフレンダは少し困ったように「う~ん。最近は忙しくて……」とかなんとか呟いた後「ま、気が向いたらいく訳よ!」と最後は元気な様子でそういうと「じゃあ、またね~」と手を振りどこかに逃げるように去っていく。
「それじゃあですの~」
と白井も手を振りつつ返す。少し疲れているような感じもあったが、まああれだ能力のことだろう、そう白井はあたりを付ける。白井自身も長い間フレンダと同じレベル3であり、レベル4の壁にたじろぐ事も何度もあった。今はレベル5を目指す彼女だが、その壁の高さには身近に実際そのレベル5がいることもあって、打ちのめされるばかりだ。恐らく《長点上機学園》に入学している先輩も同じ悩みを抱えているのだろう。
「まっ、わたくしも人のお祝いだけしている場合ではないのかもしれませんわね! 頑張りますわよ!!」
と気合いを入れる白井なのであった……
ちなみに彼女はこの後特に何の成果もあげられずファミレスに戻ることになり「たくっ、相変わらず使えないですね」と不機嫌気味の初春になじられ、ブチキレて彼女の頭の花飾りをムシリまくるという事件が起こるのだが、それはもう少し後の話である。
「ど、どう佐天さん? 落ち着いた?」
「ええ、それはもう! というかここのホットドッグ滅茶苦茶美味しいですね!」
「いや~、世の中にこんなものがあったとは! 学園都市も捨てたもんじゃないな~」とうっとりした目で佐天。あの後、気を失ってしまった佐天――とはいえ数分で意識を取り戻した――を介抱するついでにと、御坂は彼女を近くにあったホットドッグ店のテラスに座らせ、《お祝い》も兼ねてホットドッグを一本奢っていたわけである。というのも……
「(いくらドッキリだったからって気を失うってヤバいわよね。ちょっと今日の佐天さんの様子おかしいし、しばらくここで落ち着かせよう)」
と御坂が思っていたからなわけだが、まあ何にせよ心配事がなくなったからなのか、興奮気味になる佐天。再び合宿先での食事の話を始める。ま、まじかー、と内心思う御坂だが、まあなんというか大人しく聞いておいたほうがよさそうだ、と適当にスルーしつつ話に合わせて頷いておく。
しばらくして、一通り話し終えた佐天が御坂に――
「そういえば、私がいないときってどんな感じでした?」
と話題を振る。「まあ私がいないと――」とかなんとか続けていたが、そこは恒例のスルーで通し、話が終わったのち御坂が八月とここ一週間の出来事を簡単にまとめて佐天に伝える。「へぇ~そんなことが……って、マジですか!!」と再び興奮気味になる佐天。あれ、この話題ヤバいんじゃないっと御坂が思い始めたところで――
「あれ、御坂さんじゃないですか? こんなところで何をされているんですか?」
――と、ここ二週間聞きなれた、いやもうマジで、佐天の合宿の話のほうが、もう比べ物にならないくらいマシな、本当に絶対に聞きたくない声が聞こえてきた。
「あはははは。海原さん、あなたこそこんなところで何してるんですか?」
と頭の上で電流を対流させつつ、顔を笑顔に――いや引きつりすぎてもう笑顔とは呼べない――をその声の主へと向ける。そこにいたのは――
「えっ!? 御坂さん、もしかしてもしかして――」
と佐天。いくらなんでもタイミング悪すぎだろ! と御坂。しかし数秒後、いやと思い直す。たぶん狙ってきたんだろうなこの人、だってこの人――
「御坂さんのカレシさんですか!?」
私の《ストーカー》だから……
「自分が思うに御坂さんはもっと人に対して『好き』と『嫌い』をはっきりいうべきだと思うんですよ」
それから数分後、首尾よく御坂達のテラスに割り込んできた海原はなんかこう、語りだしていた……
「(いや……この人マジなに言ってんの? 言えるわけないじゃん? あんた学園の理事長の孫だから! 言いたくても、怖くて何にも言えないから!!)」と御坂。それに対し「ほうほう成程成程」と真剣な様子な佐天。あの~さてんさ~んと御坂。しかし、そんな御坂の気持ちとは裏腹にさらに海原は続ける。
「正直、御坂さん。自分はあなたの本音というものを聞いた事があるという自信がありません」
「(うん。そりゃそうだよ)」
だって私実際喋ってないし。ここ最近、ずっと喋ってないし。だって怖いもん。
「だから自分みたいな人間がいつまでもいつまでもずるずると追いかけるはめになるんです」
「(え? 何私が悪いの?)」
え、だって喋ってないけど、分からない? 私あなたといるときずっと電流バチバチやってるんですけど? というか、ずっと黙り続けてるんですけど。
「自分だって恐い」
「(いえ、怖いのは私です)」
と御坂。にもかかわらず、うんうん、と両手を胸の前で組んで頷き続ける佐天。その後も、海原は続ける。心が傷つく――とかなんとか。知らないわよ!!
「けどね、やっぱり――」
そしてこの言葉の続きを聞いたとき――
「無理ですよ――」
御坂の堪忍袋のおも―――
「彼女が泣くと分かっていて、それでもなお彼女を奪おうだなんて考えるだなんて。彼女が《幸せに》ならなければ《きっと何の意味もな――》」
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
切れたのだった。「おっ! どうしたんですか!!」と佐天。そんな彼女にかまわず、テーブルを足で強引に蹴り上げる。
「こっちが大人しく聞いてれば、さっきから勝手なことばっかり!! ホントいい加減にしなさいよ!!」
「おお~!」
と佐天。対して海原は冷静そのものだ。
「……ようやくあなたの本音が聞けますね。ではお願いします、御坂さん、自分と――」
「駄目に決まっ――」
「勝負です!! 勝負!! 決闘をしましょう!!!!!」
と突然佐天が両手を宙にあげそう宣言する。
「私と、この私と戦ってください!! もし私に勝てたら! よしっ! いいでしょう! 御坂さんは差し上げます!!!」
突然の佐天の発言に「え? あの? 佐天さん?」と当惑気味の御坂。対して――
「いいでしょう。受けてたちましょう」
海原は二つ返事で、御坂の反論を許さず、そう答えたのだった……
さすがの超展開にもうついていけず、まあもうなんでもいいやと、と一人むしゃむしゃとホットドッグを買って食べ始める御坂。なんかこう、二人は川辺で戦うことになったらしい。うん……そっか。なんだろうが私にはこの人と付き合う気ないので、どうぞどうぞっとテラス席に座り込む御坂なのであった。
「(といっても気になるわよね)」
と御坂。いま彼女がいるのは川べりだった。無駄な障害物とかない感じの。何やっても言い感じの。
「御坂さん! 自分はこの勝負に勝って必ずやあなたをフィアンセにしてみせます!!」
と海原。ああそっか、もうそこまで来ちゃってるんだ……っとなんかこうもう段々と同情の念すら湧いてくる御坂。
「ふふふっ、そうはさせませんよ! 御坂さんの親友として、いえ、御坂さんの事を愛している《あの友達》の為にも決してこの戦い負けるわけにはいかない!!」
見ててください白井さん! っと佐天。ああうん、あなたはそっちでしたか……でもゴメン、そっちはもっとないです。そっちはもうただの変態、ストーカー、盗撮常習犯。実際、ルームメイトじゃなかったらもうとっくの昔に始末してます、はい。
「はいじゃあ、どうぞ」
と開始の合図を任されていた御坂がやる気のない感じでふわっとした感じで手をあげる。すると次の瞬間――ドバッという音と共に、佐天からみて左奥五メートルくらいにあったドカンが破裂した。水が吹き出す。
「(あ~、なんか危ないな~)」
と御坂。まあいざとなれば私が介入して電気で『焼いちゃう』から大丈夫だよね。テヘッ。
「ふふふっ、どうです自分の力っ! おそろしいでしょう! さあやめるなら今ですよ、今ならまだ間に合います! さっさと認めてしまいなさい! 御坂さんはあなたには相応しくない!!!」
海原が腹を抱えて爆笑しながらそういう。うん、この人もちょっと壊れてきてるな、そう御坂は確信する。対する佐天はというと――
「やりますね海原さん。でもね――」
と余裕綽々。
「私の力の前では――」
佐天さんレベル1だよね? たぶん無理じゃない? と他人目線で御坂。
「あなた程度の能力など――」
海原ってレベルいくつの超能力者だったけ?
「いえ、違いますね――」
あれ、レベル4じゃなかったっけ? これヤバいんじゃない? 私これ付き合わないといけなくなっちゃうんじゃない? と今さらの御坂。
ここまで来といてさすがに『いや何の話?』とも言いずらい。いやだって、全部聞いちゃったし
「ここはこういうべきなんでしょうね――」
ヤバい、これヤバい、止めないとヤバい
今更気づいた御坂が声を張り上げようとしたその瞬間――
「私の友達に、ストーカーするなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「ぐはっっっっっ」
海原光貴が、いきなり後方に《二〇メートルほど吹き飛ばされて》その場に倒れこ――いや気絶していた。白い泡をふいて。
対して佐天涙子は余裕の笑み。いつの間にか前方につき出していた手を手前に瞬時に戻し、サッと髮をかきあげ、御坂の方を向きガッツポーズ。そして――
「――疲れた」
地面に後ろ向きで倒れこも――うとしたところを御坂が磁力の力を借りて高速移動し後ろからささえこむ。
どうやら彼女も気絶しているようで――泡とかは吹いていないので意識が飛んでいるだけか?――ぶっちゃけかなり重い。必死に支える御坂。最終的に、自分が足場になる感じでなんとか押さえると、ゆっくりと地面に下ろす。
柵川中学一年、佐天涙子、彼女の能力は――
「それにしてもさっきの力は?」
《
「(あいつの近くに落ちてる、あれは? 《バット?》)」
時速三〇〇キロ超の速さで物体を投げる――
「(でもなんで佐天さん)」
能力ではあるのだが――
「(寝ちゃってるの?)」
使用の度、三時間程度脳を休ませる――すなわち、睡眠を取らなければならない、すごく便利で、でも使用者にはちょっと使い辛い、そんな能力を佐天はこの夏休みで手に入れたのだった……
「(とりあえず、あいつも佐天さんも病院につれてかなきゃ。電話、電話っと)」
しかしそれを知らない御坂は病院へと連絡。
そしてそこから約三時間後、佐天涙子は病院の一室でインデックスに「るいこ~!! 心配したんだよ~~~」と抱きつかれるわけだが、それはまあ、もう少し後の話である。
場所は変わり、ロンドン。その中心地にほど近いところに建つ聖ジョージ大聖堂。
その一角。綺麗に整えられた雄大な庭を視界に納める場所に、いま一人の女性がいる。簡易テーブルにティーセットを置き優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる彼女。そう彼女こそは、イギリス清教のトップ《
そんな彼女の背後に立っているのは赤髮に耳にはピアス、漆黒の修道服に身を包んだ身長二メートルはあろうかという大男:ステイル=マグヌスである。
「お前を呼んだのはほかでもなくてよ」
と紅茶を一口、ケーキをフォークで一欠片切り分けながらローラ。それを口へと運びもぐもぐと動かしながら続ける。
「ふぃふはふぁんふぁふぃふぉ――」
「なに言ってるか聞こえねぇよ」
とステイル。食べ終えたローラが「冷たきことね」と一言。今度は、真面目に続ける。
「実は問題が発生してね。二つあるのだけれど、どちらから聞きたい?」
「良いニュースから聞くのが定石でしょう」と返すステイルに「ぷぷぅーーー、これはどちらとも悪いニュースなのよ。というか、まだ良いも悪いも言うたりていないのに! 全くステイルのお・ば・か・さ・ん、ふふふっ」と彼の唇を押さえようとしてきたローラに青筋を立てつつ、手に炎を出して彼女を脅しつつ、なんとかギリギリのとこで理性を保ちつつ「いいから早く答えろよ」と歯をギリギリと噛み締めながらステイル。「きゃーーーー、恐きこと、恐きことよステイルーーーーーーーー」と両手を頬に当て、キャッキャッキャッキャするローラ。とはいえ、限度は弁えているのか――
「それでねステイル。まずきことというのは……」
と急に真面目になると語り始めるローラ。
「神裂とそしてあの――糞野郎――もう名前も呼びたくないけれど、土御門元春のやつについてなのよ」
とローラ。「ほう」とステイル。
「土御門の方は……まあ分かっているとは思うけど《シェリー》についてのことよ。九月一日からこの方、シェリーが《学園都市》に侵入してから一週間も経っているといいけるのに、今だに捕まえることが出来ていなきようなの」
シェリー――《シェリー=クロムウェル》。ステイルと同じくイギリス清教第零聖堂区ネセサリウスに所属する魔術師である。
「まあいい気味とは思いけるわ。絶対許すまじなのよ!」と再び少々ふざけた様子でローラ。ステイルが聞いた話によると、土御門がローラに今彼女が喋っている《何だかわけの分からない。ステイル曰くの聞いているだけで無性に腹が立ってくる》日本語を教えたらしく、それに気づいた彼女が――神裂に指摘されたようだ――まあなんというかちょっとキレているらしい。まあどうでもいいが……
「とにかく」と続ける。「これをどうにかしなければならないのが一つ、それと――」
「後はあの《神裂》のことなのだけれど――」
とそこからはステイルにとっても新しい情報だ。
話を聞くにどうやら神裂の行方が分からなくなっているらしい。加えて――
「神裂が元々所属していた組織《天草式》というたかしらね。そこが《ローマ正教》と少々いざこざを起こしているようなのよ」
「《ローマ正教》ですか……」
ローマ正教とは、旧教の最大宗派にして十字教勢力。しかもステイル達のいる裏世界:《魔術サイド》の重要な一角。つまりは、この世界の最強勢力のひとつだ。
ちなみに表世界は《科学サイド》と呼ばれていて、そのリーダーが学園都市である。
ローラが話を続ける。どうやら《法の書》と呼ばれる魔導書――強大な力を持つ魔導書で読み解ければ世界を一変させる力をもつらしい――が天草式に盗まれたらしい。同時にそれを解読できる《オルソラ=アクィナス》という修道女も同じく天草式に誘拐された。それゆえローマ正教が血眼になって天草式を探している。そして、そのニュースを恐らくどこかから聞き付けたと思われる神裂が行方不明になっている。彼女の話はこんなところだった。
「それでねステイル。お前には、この二つの事件を《どちらとも》収束させてきてほしいのよ」
「冗談でしょう?」
とステイル。どちらも一筋縄ではいかない問題だ。前者は《科学サイド》と《魔術サイド》、後者はもはや世界を巻き込んだ大問題だ。とてもステイル個人で対処できる問題ではない。対し「前者は土御門と後者なら禁書目録と協力しなさい」と続けるローラ。
「方法はいずれでも構わないわ。なんとかして事態を収束させてきなさい。あ~あとそれと――」
冷たく言い放ちそして――
「私の寛容を安くみないでね。禁書目録の今後については、ステイル、今回の成り行きで決めようかとも思いているから」
と振り向き笑顔でそう言ったのだった。
・あとがき
作者の《いすとわーる》です。
この話を後で読んだ時に『エツァリさんには可哀想な事をしたな』と思った思い出があります。
そういう点では、後で救済話があるのでご安心ください。
いよいよタグに書いた登場人物も出揃い、物語は動き始めます。
感想など頂ければ、嬉しいです。
それでは、またお会いできる日を心待ちにしております。
二〇一六年九月一〇日