【完結】とある科学の超電磁砲 ANOTHER   作:北条 ゆう(いすわーる)

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第三巻 後編 【暗黒の夜】

 

―――とある科学の超電磁砲(レールガン) ANOTHER――

 

第三巻 後編 【暗黒の夜】

 

 

 一〇月三日午後七時、学園都市全域に警戒コード:コードレッドが発動される。そして同時に、学園都市の警備・防衛システムがダウン。治安維持を司るアンチスキルの本部もその例外ではなく、学園都市の各部署で混乱が走る。そしてまもなくもたらされる訃報。それは――

 

「各学区に潜伏していたスキルアウトが能力者を襲ってる? どういうことじゃん!!」

 

「知らないですよ! そういう報告が大量に来てるんですから!!」

 

 アンチスキル本部、喧騒のなか黄泉川 愛穂は同僚である鉄装 綴里を怒鳴っている。無論、周囲の他のアンチスキルも同じような状況である。

 

「おいっ! 警備システムはどうなってる! まだ復旧しないのか!?」

 

「無理です! 起動しません!! 全く応答なしです!」

 

「一体何が起きてるんでしょうか……」

 

 呟く鉄装。と一人のアンチスキルが本部へと駆け込んでくる。

 

「学園都市《統括理事長》から命令がきた! 読み上げるぞ!!」

 

 これはいよいよヤバイじゃん……。嫌な胸騒ぎのする黄泉川。

 学園都市統括理事長:アレイスター=クロウリー。かつて魔術の探求のためあらゆる手段を使い、外道の極地を極めたとまで言われたと都市伝説で語られる人物の名である。

 言うまでもなく信憑性の薄い話であるし、仮に事実であったとしても彼は死んでいるはずなので、同姓同名の別人、もしくは何らかの称号であると思われるが、とにかく大物である。

 

「『学園都市統括理事長の名をもって命ずる。アンチスキルは第一種戦闘配備につき、コードレッドを発動させシステムをダウンさせたスキルアウトを発見しだい――』」

 

「『捕縛、もしくは《射殺》せよ』だそうだ! 総員、戦闘配備につけ!!」

 

「ちょ、ちょっと待つじゃん!?」

 

 黄泉川が伝達してきたアンチスキルに声を掛けるも、男は耳に入っていないのか、もしくは構っている暇などないのか、どこかへと走って行ってしまう。

 「しゃ、射殺って……そんな……」とは隣の鉄装の呟きである。黄泉川としても彼女と同じ、いやそれ以上の気持ちである。あの日決めたのだ、私はもう絶対――

 

「何やってる黄泉川、早く準備を急げ!!」

 

「でっ、でも……」

 

 ガタイの良い恰幅のあるアンチスキルの発言に言葉をつまらせる黄泉川。しかし――

 

「もうアイツらは生徒じゃない! 分かるな黄泉川、《もう》生徒じゃないんだ! これはイタズラでも、もっと言えば《犯罪》でもない! 彼らは――」

 

 この先の言葉に黄泉川は顔面を蒼白にさせることになる。男が放ったその言葉に。その言葉とは――

 

「《テロリスト》だ!」

 

 そんな冷たい、冷酷な言葉だった。

 

 

 

 

 

 場所は変わり第七学区《学舎の園》。女子校の学校のみが立地することを許されたまさに《箱庭のお嬢様養成機関》。その名声のごとく厳しい規則と学則で縛られているもののそれゆえ、路地裏に入れば《無事》に出てこれるかは《運》次第とまで言われる、学園都市において唯一、外部である日本と同じように夜間であってもなんの《危険も被る覚悟なしに》夜空のもと散歩することが可能な学園都市きってのセキュリティを誇るここも、午後七時一五分、突如侵入してきたスキルアウトの軍団によってこの学園都市で《最も危険な場所》と化していた。周囲に広がるのは悲鳴と肉塊、血だまりと、そして男たちの下卑た笑い声のみである。

 そしてそんな学舎の園の中でも、さらに厳重な警備網によって守られている、名門《常盤台中学》に今自動小銃(アサルトライフル)散弾銃(ショットガン)で武装したスキルアウトの一団が押し寄せようとしているのであった。

 

「落ち着きなさい! 落ち着いて避難経路に!!」

 

 そう指示しているのは常盤台の教員である初老の女性である。常盤台中学は、超能力レベル3以上しか入学することを許されない《超エリート学校》ではある。

 しかし、かといってそこにいるのはまだ年端もいかない一〇代前半、数年前まではランドセルを背負って《小学校》に通っていた少女たちである。ここ常盤台の図書館において避難経路へと逃げ込もうとする彼女達は半狂乱の状態でとても教師の言葉など耳に入る状況ではない。

 そんな中起きる大爆発。上層へと繋がる大階段とは反対側、無数の本棚が立ち並んでいる側の壁が爆音と、そして大量の瓦礫と共に周囲に撒き散らされる。

 そして、土埃の後現れたのは……

 

「はっはーーー! ここが常盤台! いいねぇ、西洋じみてて、とってもオッシャレー!!」

 

「す、スキルアウト!! もうこんなところまで……早く、早く避難を!!」

 

 突入してくる数人のスキルアウト。手にはアサルトライフルとおぼしき銃を持っている。

 次の瞬間、彼らのそれから目に見えない高速で弾丸が大量に連続して発射される。

 悲鳴と共に、何人もの生徒が倒れ、また飛んでくる血飛沫に狂乱状態に陥る少女達。

 しかし――

 

「あら~ん、せっかくぅ、派閥の子達と勉強会してたのにぃ~一体私のテリトリーでぇなにしてくれてるのかなぁ~~」

 

 そんな少し甘えた口調の声が響いたかと思うと場が一転、先程まで錯乱状態にあった少女達の集団が突然パタリと静まり返る。

 目の前で同じクラスメートや同級生、同輩、先輩、後輩達がバタバタと倒れ、《肉塊へと変わっていくのにも関わらず》である。

 そしてそんな中、少女達が体を反転させ、侵入者達と向き合う。

 

「やっちゃえぇ~~~ゴミ掃除だよぉ~~~」

 

 と階段の中腹、少し広目の広場のようになっているところにいつの間にか現れた少女がそう号令を発すると、少女達が一斉に炎や水、またあるものは突撃し、体術でスキルアウト達をなぎ倒していく。

 もとより彼女らは《エリート》、超能力の使い手である。連携さえすれば、仮に相手が武装した軍人であろうと――

 

「え?」

 

 しかし次の瞬間、指揮をとっていた少女に向かって一発の巨大な何かが落ちてくる。無論、応戦する少女達。だがそれは愚行であった。いくら《軍人級の》力をもっているとはいえ結局のところ指揮を取っていた彼女も、そして彼女に付き従う少女達も《軍人ではない》。

 それゆえに飛んできたグレネード、学園都市製の対能力者、それも《レベル5制圧向け》に開発されたその爆弾を、自らの攻撃により起爆させてしまう。

 結果は言うまでもないだろう……

 

『学園都市レベル5第五位《心理掌握(メンタルアウト)》食蜂 操祈の始末に成功しましたーー!!』

 

 と広間に入ってくるのは、学園都市最新鋭の対レベル5制圧用に作られた《パワードスーツ》。操っているのはスキルアウトの幹部。常盤台襲撃を任された駒場子飼のナンバー5の男である。

 対して『良くやった……』と返ってくる陰気な声。駒場 利徳の声である。

 『少し関係のない《犠牲者》も出てしまいましたがーー』と申し訳なさそうに男

 『必要な犠牲だ。引き続き《我らレベル0の敵》レベル5:御坂 美琴の捜索と事前に渡しておいた《リスト》に従い、目標を駆逐していけ……』

 陰気にしかしはっきりとそういう駒場。

 『了解っ!』そう返すと男は接続を切り、目の前で白目を向き、おかしな支離滅裂な言葉を喋り続けている彼らの敵:《レベル5》とその取り巻きの《高位能力者》に対し大口径のマシンガンを連射し、また彼に続いて現れた一〇台近くのパワードスーツ、そして一〇〇人を越えるであろう武装したスキルアウトにそれに続くよう指令する。

 なぜ彼らがこのような対超能力者向けの《超最新鋭兵器》を手に入れ、また《大量の》パワードスーツを手に入れることが出来たのか、それはまさに彼らにとって《幸運の連続》、彼ら以外のレベル0――少なく見積もっても学園都市に住むレベル0の九五パーセント以上の――そして学園都市に住むほぼすべての人にとっての《不幸の連続》があったからである。

 理由のひとつは、彼らスキルアウトを一九学区にて襲った暗部の装備が《寄せ集め》であったことだ。

 パワードスーツは当然のことながら凄まじく高価な品であるし、また超高性能なものを《少しだけ持っておく》というのが、現代における兵器運用の鉄則である。

 それゆえ学園都市が危機に《陥いるかもしれない》という程度では、これらを余分に所有している学園都市上層部の人間、すなわち《理事》《関連大企業》そして《暗部を管理している人間》に自らの腹を切ってまで《パワードスーツを提供しよう》と思わせることが出来なかったことにある。

 それゆえ、テレスティーナ=木原=LLは本来絶対に手をつけてはいけなかったはずの《研究試作段階にある最新鋭》のパワードスーツを作戦に大量に動員してしまったのである。

 無論、彼女とて命がけであった。

 なにせ最新鋭装備でフル装備した一〇〇人の部隊でその《三〇倍》のフル武装した――旧型で廉価版でも学園都市製の武器で武装した――三〇〇〇人のスキルアウトを《鎮圧》しなければならなかったからだ。

 そしてその結果、本来レベル0相手に意味を持たないはずのパワードスーツまで動員し、電磁パルスを使ったスキルアウトの攻撃で、その最新鋭とはいえ《所詮は試作機》であったパワードスーツを拿捕されてしまったのである。

 加えて――

 

『(それにしてもまさか、第二学区に潜らせていた《特攻部隊》が役に立つとはなーーそのおかげでこうしてパワードスーツを大量に投入することが出来る。世の中何が起こるかはわからねぇよなーー)』

 

 第二学区。風紀委員とアンチスキルの訓練場があるこの学区に彼らが本来送っていた部隊の目的も、そこにいる彼らの敵である風紀委員達に攻撃をしかけることで他の学区への関心を()らし《リスト対象者の抹殺という目的を達成》することあった。

 そして加えて――これは完全におまけであったが――第二学区にある統括理事の一人、兵器・軍事に強い影響力を持つ潮岸にプレッシャーを与えようという目的もあった。

 しかし実際彼の住んでいる《住居》――というのが名目だが地下に存在するまさに《要塞》――まで行ってみるとあるのは地上で分厚いパワードスーツを着つつも前面に《大穴》を空け、お腹の部分を《まるっきりすべて失い》絶命している潮岸の姿があった。

 そして無防備に開かれた要塞。そしてその中に納められていたのは大量の――まぎれもなく学園都市《最新鋭の》――パワードスーツであった。

 この時の時刻はまだ七時一〇数分前。

 コードレッドが発令される前――これまた学園都市の上層部の煮えきらない態度で発動まで三〇分遅れた――である。

 すぐさま駒場に連絡する部隊。そして人員を集めるとそれを動員し、当初の予定よりも数万倍の規模で作戦を実行することを駒場は決定したのである。

 

『すなわちーー当初予定されていた《リスト》の対象人物の抹殺と高位能力者の根絶やしーー駒場の兄貴、やることがデカイねーーさすが俺のみこんだ男ーー!!』

 

 思わず口に出し鼻息混じりに、目の前で地面に倒れこみ錯乱した《レベル5》の頭を踏み潰す男。

 彼らの当初の目的であった《リスト指定の人物達の抹殺》とは能力者達の一部、彼らスキルアウトの《同胞》であるレベル0に対し、暴行、リンチ、レイプ、などを働いていた能力者達の《殺害》を意味している。

 しかしもとより彼らをスキルアウトへと駆り立てたのはそんな《正義の味方じみた思想》ではない。

 すなわち、超能力者達への《ひがみ》。

 この学園都市で、彼らの言う《能力カーストの最上部》に位置し、最底辺にいる《レベル0》を高慢な態度で見下してる彼らに目にものみせてやる、というならず者の復讐じみた思想であるからである。

 

『ひゃっほーーーー! 超サイコーーーーー!! あははっはっは!!! 見ろよこの糞共ーーー!! 俺たちを見下しやがって死ね死ね死ね死ね死ね死ねーーーーー!!!!』

 

 スキルアウトナンバー5。薬物や売春、レイプを禁じる、彼らのなかで言う《良心的な良い奴》である駒場の側近のこの男もそれは例外ではない。

 学舎の園は今まさに絶望の底にあるのであった……

 

 

 

 常盤台の一室。

 ここに今常盤台の四〇人、一クラス分の人数の生徒達が避難している。部活で校内に残っていた生徒である。

 その中の一人:湾内 絹保は今教室の中で息を殺して体を震わせている。隣には彼女と同じ水泳部に所属し、仲の良い親友:泡浮 万彬の姿もある。彼女も、そしてクラスにいるすべての生徒が恐怖に震えていた。教師である顧問の教師もいるが、彼女も「息をころして……見つからないように……」と身を低くしている。

 と、教室の面している廊下から男達の声が聞こえてくる。恐怖が教室中を駆け巡る。「わ、わたしやる。殺されるくらいなら、殺してやる……」と呟く生徒も中にはいる。しかし大半の生徒にその気力はない。

 出そうにも《出てこない》。

 彼女達は確かにレベル3以上の超能力者ではある。しかし、仮に万全の状態で戦ったからといって銃、それもアサルトライフルで武装したスキルアウトに対し確実に勝てるか? と聞かれればおそらくイエスとは返せない。瀕死の状態になっても戦う覚悟があれば確かに太刀打ちできるだろうが、一〇と少しの年齢しかない彼女達がその覚悟を抱くのは容易なことではない。

 しかも、実際の相手は《人》ではなく《機械》。パワードスーツである。勝率はさらに低くなる。

 「パパ、ママ……いやだ、いやだよーーー」と誰かが言う。ヒステリーはすぐに集団へと広がる。「落ち着いて、落ち着きなさい」教師がそう忠告してももう耳を貸すものなどいない。

 誰かが立ち上がると、教室のドアに向け走り出す。物音を聞き付けたのか、男達の声が近づいてくる。

 そして――

 

「……物音が、消えた?」

 

 何かが壁に叩きつけられる音がしたかと思うと、声が途端に聞こえなくなる。走り出していた生徒も立ち止まる。次の瞬間、扉が開き――

 

「っ大丈夫か!?」

 

「りょ、寮監!!!」

 

 誰かがそう叫んだ。というのも――

 

「死ねーーーこのクソ尼ーーーーーーー!!」

 

 いつの間にか寮監と呼ばれた女性の背後にショットガンを構えた男が走り込んでいたからだ。ダンッダンッダンッダンと無情にも弾丸が何かにぶつかる音がする。

 そして次の瞬間――

 

「ッツッガ!!!」

 

 銃を射撃したはずの男が、ショットガンを打たれたはずの女性に蹴り飛ばされ壁に叩きつけられる。

 そう彼女は――

 

「甘かったな。悪いがそんな《オモチャ》で倒されるほど、私はヤワじゃない!!」

 

 常盤台寮監。御坂達の下宿している寮の寮監である彼女は――

 

「《鋼鉄装甲(スチィールアーマー)》! レベル4の常盤台寮監をなめるな!!」

 

 教室にいた誰かがそう叫ぶ。対して「静かに」と息をころし教師。

 そう。寮監、御坂達の下宿している常盤台寮監たる彼女は見た目は三〇代間近のベテラン寮監に見える。

 だが、その実二三歳のうら若き乙女、場合によってはまだ大学や大学院に通っているかもしれない学園都市出身の新人寮監なのである。

 

「貴様ら! 何してる!! 立ち上がれ!」

 

 そして寮監は生徒に対して叫ぶ。「貴様らは誇り高き常盤台の生徒! 連携すれば、スキルアウトなど敵ではない! 何のための体術だ、なんの為の能力だ! なんの為の基本修練だ! 思い出せ!!」その言葉に、ハッと目が覚めたような少女達。

 そう確かに、彼女達一人一人が戦うにはパワードスーツは手強い敵である。

 しかし、彼女達が日々積んできた《たしなみ》という名の基本修練、すなわち連携行動と、そして鍛え上げられた体力、加えて体術。それらをもってすればパワードスーツなど実はとるに足らない存在なのである。

 

「肉体強化系能力者は前面に! 水流系、火炎系、電流系能力者は後ろから援護! テレキネシス能力者は、敵の武装を奪い取れ! 準備はいいか!!」

 

「はい!!!」

 

 彼女達は常盤台中学中学生。学園都市のハイパーエリートであり、文武両道・才色兼備をモットウに日々修練、そして勉学に励む紛れもない《世界に誇る》ハイパーエリートなのである。

 常盤台中学の一室。今ここから彼女達常盤台、そして学舎の園、さらには学園都市の《全市民》による反抗作戦が始まるのである。

 

 

 

 

 場所は変わりアンチスキル本部前。

 午後八時、各種緊急連絡網がしかれ、学園都市の治安維持を司る彼らもようやく準備を整える。総勢一〇〇〇〇人。学園都市の教員ほぼ全てを動員し、それらに物資、パワードスーツ、軍用ヘリコプター及び必要な兵装を与え、ようやく彼らの戦いが始まろうとしていたのである。

 

「……本当にやらなきゃいけないんじゃん……」

 

 そんな中に暗い顔を浮かべる女性隊員:黄泉川 愛穂の姿がある。

 情報は彼女の耳にも届いている。第七学区にて能力者に対し銃弾を撒き散らし、そして暴虐の限りを尽くすスキルアウト。

 この機に乗じて強盗や強姦などの犯罪行為に走る学生。

 そんな中連携しながらなんとか安全地帯を確保しようとする各支部の風紀委員、アンチスキル。挙げればキリがない。

 しかし――

 

「わ、わたしは……」

 

 そうもうあれは何年も前のことだ。学園都市の命令を受け《特力研》と呼ばれた秘密組織を討伐する際に彼女は何人もの子供達を殺した。自らの手で、子供達の血飛沫を浴びながらだ。

 あの日彼女は決意したのだ。決して、何があっても、仮にそれで自分が死ぬことになろうとも、決して子供達を手にかけることはしないと――

 なのに――

 

「……かわ、黄泉川!!!」

 

 ハッと気づく。同僚の大半はもうすでに割り当てられた各学区、すなわち《戦場》へと向かっていった。彼女はそんな中残された数人で構成されたチームの一人として今、第七学区のアンチスキル出張所を目指していたのである。

 そして彼女に呼び掛けるのはチームのリーダー。ガタイの良い、本部で黄泉川に『スキルアウトはテロリストである』と諭した、あの男である。

 

「お前は、出張所の中でシステム整備の助力に加われ! 分かったな!!」

 

「そ、そんな!?」

 

 思わず言葉を返す黄泉川。彼女は、戦闘に特化したアンチスキルである。他の分野に関しては大した知識はない。

 しかし――

 

「今のお前に《仲間の命は預けられない!》 中島! サブリーダーはお前だ! 行くぞ!!」

 

 男は断固とした口調でそういうと出張所へと向かう。そこを経由し問題が起きている箇所に出向きテロリストを制圧していく算段なのである。

 そんな中黄泉川に発せられたのは出張所での待機。しかも防衛でもなく《出張所内での待機》。彼女としては到底納得できない。反論する黄泉川。しかしリーダーの返答は無い。

 

「……こんなこと、こんなことあっていいはずがないじゃんよ」

 

 思わず呟く。学園都市は今未曾有の危機の中にあるのである……

 

 

 

 

「い、インデックス、わたし、私どうしたらいいの?」

 

「落ち着くんだよるいこ。ここはじっとしておくのが正解なの。下手に動いちゃダメ!」

 

 第七学区のとある学生寮の一室。今ここに三人の少女がいる。

 佐天、インデックス、春上である。あの後、三人は初春の帰りを待とうということで、初春が住んでいるこのマンションに来ていたのである。

 なんだかんだでここは学生寮のマンションである。学生はたくさん住んでいるし、そもそも寮というのは密集している。それゆえ仮にアンチスキルが救助に来てくれるとすれば、それはここであり、真っ先に救助されるのもここにいる生徒であると彼女達が踏んでいたからだ。

 しかし―― 

 

「す、スキルアウトだ!!!」

 

 窓からそんな誰かの大声が佐天達のいるところまで響く。ベランダに出て外をみると――

 

「ぱ、パワードスーツ? あれがスキルアウトなの?」

 

 望遠鏡で遠く、まだ一キロ程離れたところにいるパワードスーツを発見し、当然の如く頭の中にハテナマークが浮かぶ佐天。スキルアウトは所詮《路地裏の不良》である。そんな高性能な武器を持っているはずが――

 

「ひっっ! う、射った!?」

 

 数秒後、寮のある地域へと逃げ込もうとしていた学生に向け腕を向けるスーツ。直後学生が倒れこむ。これは!?

 

「るいこ、えりー、逃げるよ!」

 

「っわ、わかったの!」

 

 「るいこ!!」そう呼び掛けるインデックスの声にすぐには反応できない。目の前で、もちろん距離はあるが、見える範囲で、自分の知覚できる範囲で人が《殺された》のだ。冷静でいられるはずがない。足から力が抜けベランダに座り込む佐天。

 「るいこっ!!」声は聞こえても立てない。力が入らないのだ。そして――

 

「きゃあああああ!!」

 

「えりーーーー!!!!」

 

 部屋の入り口が吹き飛ぶ。現れたのは二人の男。一人は手に炎を発生させている。能力者だ。

 

「……なかなか上物の女が揃ってるじゃねぇか? なあ?」

 

 見た目はそこまで不良そうには見えない高校生らしき男が興奮した様子で隣にいた男に問いかける。

 「や、やばいよ。やっぱ止めようぜ、いくらなんでも中学生を――」口論を始める二人。そんな隙をついてインデックスが、近くにあったちゃぶ台を男達に向け投げつける。怯む二人。

 その隙をついて、床に倒れこんでいた春上の襟首を掴みインデックスがベランダに駆け込んでくる。

 「ど、どうしたの!?」なんとか立ち上がりながら佐天。

 しかしインデックスは反論を許さずそのまま佐天を掴みあげると――一体どこにそんな力があるのか――そのまま二人を引き連れベランダから飛び降りる。

 ここは三階の部屋である。高さはそれほど高くはないものの一〇メートル近くはある。飛び降りれば骨折は免れ得ないだろう。

 しかし、地面に激突する直前に自分の背中へと二人を器用に乗せるインデックス。

 そして数瞬後三人は地面へと降り立つ。無傷でである。

 

「《歩く教会》やっぱりすごいの~~」

 

 そんな風に春上。少し目がキラキラしている。もちろん佐天もそれは知っているがそんな余裕はない。というより今自分が死にかけていたのではないかということすら理解出来ていたかどうかすら疑わしい彼女にそこまでの思考を求めるのは苦というものであろう。

 「ここより安全な場所っていうと……初春達のいるところだよね」と冷静な様子でインデックス。いるところとはすなわち、風紀委員第一七七支部のことである。

 「そ、そうね」「そうなの~」と各々返答する。

 

「よし! 今ならまだ大丈夫! 行くよ!」

 

「わかったの~」

 

「……うん……」

 

 インデックスはしっかりとした口調で、春上はいつもの調子で、佐天は少し放心状態でそれぞれ口を開く。三人は支部へと、佐天達の通う柵川中学へと向かうのであった。

 

 

 

 同じ頃、柵川中学風紀委員一七七支部で、アンチスキルと共に避難してきた生徒の対応とシステムの修理に精を入れていたのは、風紀委員柵川中学一年生:初春 飾利である。実は彼女、知る人ぞ知るすご腕の人物なのである。

 《守護神(ゴールキーパー)》と呼ばれ――本人は知らないが――セキュリティシステム構築の天才として凄まじい名声を獲得しているのである。

 そんな彼女が今取り組んでいるのが、学園都市の治安・防衛システムの復旧である。むろん、風紀委員の彼女にそんな権限はないので無許可でというわけであり、大した成果はあげられていなかったが、とある監視カメラを復旧させることに成功する。

 さっそくそれを見た彼女の目に飛び込んできたのは……

 

「ちょっと行ってきます!!」

 

「き、君!?」

 

 行きなり支部を飛び出し、学校の校庭を抜けどこかへと走り抜けていく。

 そう彼女の《同僚》をそのカメラで発見したからだ。事前にある程度のスキルアウトの配置は掴んでいる。ヒョイヒョイと道を進んでいく。そして――

 

「白井さん!!」

 

「う、初春?」

 

 路地裏を右に抜け白井 黒子、彼女の相棒である風紀委員を発見する。顔を綻ばせ突っ込んで行く初春。

 「白井さん! 私安全な道を――」「初春!!」そんな彼女の叫び声が聞こえる。フッと後ろを振り向くと、頭に釘を貫通させた男の姿。

 

「ひ、ヒィィィィ!!」

 

 当然狂乱し、地面に倒れこむ初春。駆け寄る白井。

 「大丈夫ですの!?」「し、白井さんわたし、私……」安全な道を白井さんに教えようと思って、皆がもっと安全に進めるように――そう口にしようとするものの声が出てこない。っとふと、頭から垂れてきているものに気づく。それは――

 

「ち、血!!!?」

 

 きゃあああああ!! っと悲鳴をあげる初春。そうか私、さっき頭を――そう思う初春だがそれはもちろん違う。その血は先程目の前で撃ち抜かれた、白井 黒子がテレポートした釘で撃ち抜かれ《死亡した》男の血である。

 しかしそれに気づけない彼女は混乱する。「しゅらいさん、しゅふぁいさん、わ、わたし……」口調もおかしくなる。「落ち着いて初春、大丈夫、大丈夫ですわ!」そう言いつつ抱き寄せると、優しく背中を撫で落ち着かせる。

 

「ちょっとそこの方! ねえ、聞こえますか!!」

 

 と初春を路地裏から連れ出し、大通りに出てくるとアンチスキルのパワードスーツの一隊に向け声をかける白井。パワードスーツが彼女達の方を向く。

 「この子を出張所まで届けていただけます?」そう言った白井に「わかった」と野太い男の声。隊の後方にいたスーツを一人呼び寄せると「彼女に預けてくれ。絶対に無事に届けてみせよう」と返す。「お願いしますの!」そう一言返すと「初春、落ち着いたら出張所でシステムの復旧に手を貸しなさい。わたくしはこのまま――」と続け、そのままテレポートでどこかへと消え去っていく。

 初春 飾利は呆然としたまま彼女を見送るしかなかったのであった。

 

 

 

 

「う、うそ……」

 

 そう呟いているのは佐天 涙子。あれから一五分程して彼女達三人組はなんとか柵川中学まで残り一〇〇メートル程の距離まで来ていた。

 しかし彼女達の目に入ってきたのは遠く炎上し、倒壊している校舎とそこから逃げ出してきたらしい生徒や教員達である。

 誰もが必死で逃げ惑っており他人を気にする余裕などないのか、脇目もふらず何処かへと走り去っていく。というのも――

 

「あ、あははっははははははは! マジ最高、マジ最高だわ!! 能力使い放題! 何しても、だーれも来ないマジ最高ーーーー!! あははははっははははは!!!!」

 

 と狂ったように発狂している男。しかも普通の容姿ではない。

 三メートル近い巨体で、おまけに身体中からトゲを出し、それを噴射している。倒れこむ人々。そんな彼らを見つけるといきなり高速で近づいていき接近するとパンチを加える。凄まじい勢いで吹き飛ぶ少年少女。

 

「く、狂ってる……」

 

 ほぼ目前、わずか数一〇メートル程直進したところで繰り広げられる地獄に驚愕し言葉を失う佐天。こんなの、こんなこと許される訳がない!

 

「るいこーーーーーーーー!!」

 

「佐天さん!!!!」

 

 近くに転がっていた鉄パイプを握りしめると男に向けて突っ込んで行く佐天。どういう訳か、男が彼女に気づく気配はない。その背に鉄パイプを能力を使いぶち当てる。吹き飛ぶ男。

 なぜ男が気づけなかったかといえば、佐天が補修中に身に着けた能力が発揮されたからだった。

 レベルがあがる程の成長ではないが、足から空気を噴出することによって高速移動する能力を佐天は九月の補講で身に付けたのだ。

 当然バットの威力も以前より上昇している。

 

「やった、私、やった!!!」

 

 ふふ、やった! こんなふざけたやつ絶対に許すわけにはいかない! ぜったい――

 

「う、うそ……」

 

「ったく、イッテェなぁ! なんだ、なんだ、どこのゴミがこの俺にケンカうってきやがったんだ! アァ!!!!」

 

 数メートル程離れた外壁にぶつかり、コンクリート片から頭を引っこ抜きつつ男。

 こんなの、こんなの無茶苦茶だ!

 

「るいこーーーーーー!!!」

 

 後ろから駆け寄ってくるインデックスと春上の姿。

 直後能力の特性上意識を失ってしまう佐天。

 

「(私、馬鹿だ……)」

 

 意識を失う直前彼女を取り巻いていたのは、そんな無力感と絶望。

 そして再び自分の軽率な行動で友人に迷惑をかけてしまったことに対する自責の念であった。

 

 

 

 

「るいこ、るいこ大丈夫!?」

 

「い、インデックス……こ、ここは……」

 

「アンチスキル出張所じゃん。大丈夫か?」

 

 目を覚ました佐天は、自分が何処かのソファらしき場所に横たえられているのを確認する。

 「よ、よかったの~~」といつの間にか顔の上から覗きこんでいた春上が、目に涙を浮かべながら一言。そのまま地面に崩れ落ち泣き崩れている。

 

「わ、わたし、どうして……?」

 

「あいほ達みたいな人がいっぱい来て助けてくれたんだよ。わたし、一体どうしようかと……るいこの馬鹿! あれほど言ったのにあんな無茶して!! もうちょっとで死んじゃうところだったんだからね!!」

 

「そうじゃん」

 

 黄泉川も「無茶と勇敢さは似てるようで全然違うじゃんよ」と付け加える。

 そっか、私助かったんだ……。ひと安心しつつもまた無力感に打ちのめされる。いけると思ったんだけどな……

 

「……今、何時ですか?」

 

「九時じゃんよ」

 

「ってことは……演算は失敗してたんだ……何やってんだろ私」

 

 学校につきかけていたのはどう見積もっても八時三〇分ぐらいである。わずか三〇分で目覚めたことを考えるとどうやらフルパワーで打てていなかったようだ。

 だからか……なら、もう一度同じ状況になれば私――

 

「イタッ! 何すんのよインデックス!!」

 

「ふざけたこと考えてるのが丸分かりなんだよ! るいこ!! 私が喫茶店で言ったこと忘れてないよね!!」

 

「そんなこともちろん!! だから私――」

 

 とそこまで言って、頬を擦りながらハッとする。そうか私――

 

「るいこ! 地獄に落ちるなっていったけど、今回は《それどころの騒ぎじゃない》んだよ! 分かってるの? 死んじゃったら、何もかもお仕舞いなんだよ……」

 

「いんでっくす……」

 

 そうつまりはそういうことだ。今回のことも、そして喫茶店で携帯をかけようとしたときもそう。私は――

 

「……すぐ周りが見えなくなっちゃう。ううん、自分を見失っちゃう。本当にしたかったことが何なのかすぐに忘れちゃう。そういうことだよね?」

 

「そうなんだよ!! るいこ、確かに正義感は立派な考えだよ。だけどね、るいこ。何から何まで万事が万事ずっーーとヒーローでいることなんて出来ない! そんなことしてたら、いつかとんでもない事になっちゃうんだよ!!」

 

 そこまで聞いて思い出す。インデックスの今までの行動を――

 確かに、彼女の行動はまさに頼れる正義の味方の行動であった。しかし――

 

「絶対に大丈夫だからこそ、あんな無茶が出来た……」

 

 それに「そうなんだよ!」とどうやら佐天の心を読み取ったらしくインデックスがそう答える。

 そうなのだ、彼女は絶対に何があっても死ぬことはないのだ。何故なら――

 

「私には《歩く教会》がある! だからあんな無茶が出来る。たった一人でも、るいこやえりーを守る事だって出来る。でも、るいこは違うでしょ? 分かってるよ、るいこが日々努力してること。でも違うでしょ、るいこ? るいこには《まだ》そんなスーパーパワーはないよね?」

 

 聞こえようによっては残酷なそんな言葉。

 しかし佐天はそれをインデックスの優しい言葉として受けとる。そう、そうなのだ。

 こうやって冷静になれば分かる。今の実力では、たとえあんな酷い惨状が広がっていた状況でも《安易に正義感で動くべきでなかった》ことが。

 作戦を練るなり、少なくとも周囲の仲間と協力して行動するべきであったと。

 そして、生きてもっとやりたいことが、守りたい大切なことがあったということが。

 

「私にはまだ……少なくともたった一人でみんなを守って助ける力なんてない。そうだね。インデックスの言う通りだよ……ごめんインデックス、私、また自分を見失ってた……」

 

 そんな言葉に「大丈夫なんだよ」と優しく頭を撫でながらインデックス。何か思うところでもあるのか、微妙に神妙な顔つきの黄泉川。そして「よかった、よかったの」と落ち着きつつも涙を拭いながらそう呟く春上。

 

「生きててよかった……」

 

 そう静かに呟く佐天涙子なのであった。

 

 

 

 

 

 それから一時間が経過し午後一〇時。佐天、春上、インデックスは運ばれてきた病人の看病、物資の運搬などを手伝っている。今ここにいるのは初春である。

 

「どうだ? 復旧できそうじゃん?」

 

 そんな言葉に無言の初春。黙々と作業を続けている。それから三〇分して唐突に顔をあげる。

 

「復旧できます! 後三〇分頂ければ絶対に復旧させられます! 私に任せてください!」

 

「任せるじゃん!」

 

 黄泉川が何処かに連絡しアクションを取ってくれる。予め進めておいた作業をもとに行動を起こす。そして――

 

「で、出来ました!!」

 

「やるじゃん!!」

 

 それから二〇分後、学園都市の警備システムが完全に復旧する。途端にラインがオンになり起動される衛生システムや各学区に配置された警備ロボットからの情報がアンチスキル本部、そして各出張所へともたらされる。

 

「よし! これでいけるじゃん!! ポイントを調べてアイツらに送ってやるじゃんよ!」

 

 黄泉川はそういうと自分の普段使っているデスクに向かうとパソコンを起動し、携帯を持ち、自分の所属するはずだった隊へと支援のため連絡を入れる。

 

「(矛盾だらけだってのも、甘ちゃんなのも、ワガママだってのも分かってる! でもこれがわたしの信念。何があってもこの手で……たとえどんな悪ガキでも、子供達には手をかけない。それがアンチスキル:黄泉川 愛穂の生き様なんじゃん!)」

 

 そう心に思う彼女なのであった。

 現在時刻一〇時五〇分、ようやく警備システムが再起動し、《まともに危機に対処出来るようになった》アンチスキル。

 戦いはこれからである……

 

 

 

 

 

 日付が変わり一〇月四日午前〇時三〇分。アンチスキルの連携が効を奏し、ようやくいくつかの学区でのスキルアウトの殲滅が完了する。

 しかし、第七学区を始めとした彼ら《スキルアウトの拠点学区》では風紀委員支部やアンチスキル出張所以外での安全を確保することが出来ないまま戦闘は泥沼の様相を見せているのであった。

 

「……陣の形成を急がせろ……アンチスキル拠点に対し牽制部隊を組織し送り込め……」

 

「オッケーー駒場の旦那ーー!」

 

 「おい野郎共ーー! これから特攻だーー!! 能力者の狗共を血祭りにあげに行っくぞーー!」と駒場に指令されたナンバー5の幹部の男が、数一〇人のスキルアウトと数体のパワードスーツを連れ何処かへと去っていく。

 ここは第七学区駒場達アンチスキルの古巣。昨日の午後二時にハウンドドッグにより制圧されたあの路地裏である。

 裏の裏をかくということで衛星からの視覚防御設備――建物と建物の間に張り巡らした布――は付け加えることなくわずかに残ったそれの下に今駒場はいる。

 護衛のスキルアウトはいない。もとよりそのようなものは置かない、というのが駒場の主義であるし、また加えて今はそんな余裕などないからだ。

 未だにいくつかの地域ではスキルアウトがその大部分を占拠しているが、ほとんどの場所で劣勢が続いていた。

 「(あと数時間か……)」だからこそ駒場も思う。俺の――

 

「探したぜ、駒場! 懐かしいじゃねぇか」

 

 と隠れるように物陰に潜んでいた駒場に声をかける男。

 距離はある。一〇メートル程だ。

 

「……黒妻か……何のようだ?」

 

「呼び捨てかよ……随分と偉くなったもんだな、《利徳》」

 

「……負け犬の貴方には言われたくないな……」

 

 「はっ! 違えねぇなー」と黒いライダージャケットにジーパン、ボサボサの髪をした男:黒妻 綿流は笑いながらそう答える。

 

「……どうしちまったよ利徳。お前だって《こんなこと》望んじゃいなかったんだろ?」

 

「……何の話だ……」

 

 黙する駒場に「惚けてんじゃねぇよ!」と黒妻。

 

「分かってんだろこの街の状況。これが本当にお前の《やりたかったこと》なのか?」

 

「……リストアップしていた能力者の犯罪者達の殺害は全て《完了した》。これが俺のやりたかったこ――」

 

「そうじゃねぇだろ!! 利徳、あの時のお前は言ってたじゃねぇか! あの日、数年前のあの日、俺がお前に敗れたあの雨の日に!!」

 

「『能力者とレベル0が手を取り合って生きていける世界、そんな世界を俺は作りたい……』お前確かにそう言ってたよな? なのに、なんなんだこの状況は!!」

 

 黒妻が一気に距離を縮める。あと五メートルというところだろうか。立ち上がる駒場。

 

「……止められなかったんですよ。あの時のあなたと同じ様に……結局私もあなたと《同じ》だった。仲間の心を分かってやれず、一人で突っ走っていただけだった……理想は結局ただの《幻想》だった。ならもうやるしかない! アイツらの気持ちを分かってやれなかった以上、この俺も――」

 

「違ぇだろうがっ!!!!!」

 

 怒鳴る黒妻。拳が駒場の頬を捉える。地面に倒れこむ駒場。

 彼の運動能力は、もう生きているだけで限界。というのも

 

「……黒妻《さん》、俺を殺しにきたのなら、その必要は《ありませんよ》。私はもうすぐ死ぬんですから……」

 

 そう言って、着ていたジャケットを脱ぎ、シャツを脱ぎ、裸になる駒場。黒妻が見たものは――

 

「ハードテーピングか……お前……」

 

「そう、この《テロ》を成功させるため俺が使える唯一の財産、命を使わせてもらったんです。爆発的な運動能力を手に入られる、しかしその副作用として体はボロボロ。黒妻さん、俺はもうすでに死に体。何時間も前から死ぬことが決まった運命に囚われているんですよ。もういいんです。結局俺の理想は――」

 

「違ぇだろうがっ!!!!」

 

 ボロボロの、部下の為自身の命をなげうち、彼ら路地裏の不良が大事にする仁義の鏡のような男に、だがそれでも黒妻は強く、自らの信念をぶつける。つまり――

 

「そんなのリーダーのありかたじゃねぇ! 分かってんだろ駒場、舎弟が道を誤ったなら、それを正してやるのが俺たち親分、ボスの役目だろうがっ!! それをお前は――」

 

「私はそんなに強くない!!!!」

 

 声を張り上げる駒場。彼は続ける。

 

「俺だって本当は分かってた、こんなことやってたって《意味がない》って! こんな理論は、学園都市の路地裏の理論は、世界中の《どこに行ったって通用しない!!》  ここの《路地裏》でしか意味を持たない、とんでもない馬鹿な夢想だってこと、そんなこと分かってます!! っでも、でもどうしろって言うんですっ!」

 

「俺は、どんなに馬鹿だって思っても、ここから出ることは《出来ない》!! 俺が引きづりこんだアイツらも、もう普通の生活には《戻れない》!」

 

「だったら……だったら俺たちにはこうするしか――」

 

「駒場、歯ぁ食いしばれぇぇぇぇ!!!!」

 

「グホッ!!」

 

 そんな声と共に再び顔を殴られ、地面に倒れこむ駒場。黒妻は吠える。

 

「逃げてるのはお前だろうが!! 確かに俺たちはもう今更《表の世界(あの場所)》には戻れねぇよ、だけどな利徳! お前がやってんのは、アイツらを、かつては俺の舎弟だったアイツらを、さらに《底の底まで》叩き落としてるだけじゃねぇか! もうアイツらに待ってるのは死しかねぇ! 分かってんのか、利徳っ!!!!!!!!」

 

 「……じゃあ俺はどうすればいいんです……」「分かってんだろ、んなことぁ! 今すぐアイツらに一報いれて戦闘を中止させろ、そうすりゃ――」とそこまで言い終えて、半身起き上がっていた駒場が突然バタリと横に倒れこむ。というのも――

 

「利徳、おいっ、利徳、くそっ! 何処のどいつだ、出てこい!! こいつは、こいつは俺の――」

 

 眉間に銃弾が当たり、脳を吹き飛ばされ、その体が地面に倒れたのだ。「誰だ! 誰がやりやがった!!!!」当然そう叫ぶ黒妻だが返答などない。

 一〇月四日、午前〇時五〇分。こうして学園都市を恐怖のどん底へと突き落としたテロリスト《駒場 利徳》その生涯を悔いのみを残したまま去ることになったのであった。

 

 

 

 

 

 同じ時間、上空軍事ヘリコプターにて――

 

「ターゲット《駒場 利徳》の始末に成功しました」

 

 そう口元にあるマイクに向かって喋りかけているのは砂皿 緻密。その道では有名な名うてのスナイパーである。今彼は、アンチスキルと共にスキルアウトの幹部達を探しだし射殺して回っている。

 何度もいうように彼らスキルアウトは所詮は路地裏の不良。リーダー達がいなくなれば戦線を維持することなど不可能であるからだ。そして今、彼らスキルアウト連合の最高司令官であった駒場がこの世を去った。

 崩壊は近い。スキルアウトも、そして――

 

「次の目標へと向かう。ヘリを出してくれ」

 

「了解」

 

 ヘリは次のリーダーがいるポイントへと飛び立っていく。そう崩壊は近いのだ。スキルアウトも《学園都市》も……

 

 

 

 

 

 一〇月四日午前一〇時、全てのスキルアウトを鎮圧することにようやく成功する学園都市。

 死者一〇万人。死傷者、行方不明者、強姦等の犯罪被害者しめて二三〇万人。すなわち全ての学園都市市民を巻き込んだ、この後に《スキルアウト戦争》と呼ばれるこの事件は発生から一五時間でようやく終息する。しかし――

 

『やりましたな、《教皇猊下》』

 

「いえいえ、これも貴国方の協力のおかげ。私一人の力ではとてもとても……」

 

『ご謙遜なされますな。この計画を主導なさったのは間違いなく猊下。我らはそれに少しばかりの《援助》をさせて頂いたまでのこと。いやはや、感服いたしました。まさか《裏から手を引く》だけで学園都市を崩壊させてしまうとは……これこそまさに神のご加護ということでありましょう』

 

「有り難う御座いますフランス大統領閣下、そしてドイツ首相閣下。では、私もやらねばならぬことがありますので、これで……」

 

『ですな』

 

『ではではまた。今度はあの《キャリーサ王女(イギリスの小娘)》をどう踊らせていただけるのか。楽しみに待っていますぞ。それでは、近いうちに……』

 

 ここはイタリア、ローマ教皇庁の一室、今ここでフランス、そしてドイツを含めたヨーロッパ連合(EU)諸国首脳と会話していたのはローマ正教教皇:マタイ=リースである。

 

「……しかし思いの外、いや想像通りか。脆かったな、《学園都市》は……」

 

 静かに呟く。そうこの一連の事件を引き起こした張本人、それが今ここにいるローマ正教教皇なのである。

 彼は立ち上がると、ドアを開け外に出る。廊下を歩く。実際やらねばならぬことがあるからだ。油断は大敵である。最後の最後まで気を抜かず……

 

「それにしても見事だったなぁ、教皇猊下。私はもう感服しちゃったよ!」

 

「《前方のヴェント》か……なんの用だ?」

 

「つれないわねぇ、私はスッゴクアンタのこと気に入ったてのに。枢機卿の爺共が担ぎ上げたボンクラかと思ったけどさぁ、やるじゃない、アンタ……じゃなかった、猊下!」

 

「ふん」

 

 そう鼻息を漏らすと彼女を無視し歩き出そうとする教皇。彼女、舌にピアスを開けそこからのびる十字架のアクセサリーをブラブラ揺らしながら歩く女。彼女こそは、ローマ正教が誇る最終兵器《前方のヴェント》である。それ故に態度も大きく教皇に対する言葉遣いもローマ正教徒であるにも関わらず乱暴な口調なわけである。

 

「こちとらアンタを見込んで一人《裏切り者》を潰してきてやったってのにさぁ!」

 

「なんだと? いったい何の――」

 

 そう返した教皇に対し紙の束をバサッと叩きつけるヴェント。顔をしかめながらも目を通す。

 

「これは一体!?」

 

「分かってんでしょ? アイツよ、《右方のフィアンマ》よ。世界の悪意がどうとか言ってたけど、まあ私の《天罰術式》の前じゃ、むしろ好都合って感じよね」

 

「何ということだ! これは一体どういうことなのだ!!」

 

 そう教皇が叫んでいるのはフィアンマの行く末や彼女の行動についてではない。彼を驚愕させていたのは……

 

「EU、加えてロシア成教とまで密約結んでたなんて。ホントなに考えてたんだかねぇ、あの坊っちゃんは」

 

 「なんと愚かな、こいつは一体なにをしようとして……」紙を読み進めつつ教皇。そこに書かれていたのはこうだ。

 『俺様は――フィアンマの一人称である――近々イギリス、学園都市に対し戦争を仕掛けようと思っている。さしあたって物資の供給と根回しをお願いしたい。要請を聞いてもらえたなら――』

 

「『(サン=)ピエトロにある聖遺物、霊装のすべてを各々方に分配しようと思っている』っだと、ふっ、ふざけるな! こいつ一体何を――」

 

「つまりはこういうことでしょうよ。『教皇なんざ《いつでも》殺せる。実権を握った後はローマ正教の財産は《すべて》くれてやる。その代わり、そのなんだっけ? 《新しい世界?》を作るための土台を整えさせてくれ』なんか良く分かんないけどさぁ、つまりはそういうことなんでしょうよぉー」

 

「さっぱり分からない。何のことなのだこれは?」

 

 そう、その書類に書かれていたのはなんだか良く訳が分からない、世界の構成がどうの、理想の世界を俺様が作るだの、完全に頭のイカれた廃人が書いたとしか思えない文章。そしてそれに同意した《EU首脳達のサイン》であった。

 

「……適当に対応した後、利権だけ奪い取る算段だったのだろうが……こんなことが起こっていたとは……」

 

 とても正気とは思えない、と思う教皇だが恐らくそれは首脳達とて同じだっただろう。

 だが何より恐ろしいのはこれが、教皇の学園都市崩壊計画と同平行に進められていたことだ。一歩間違えば、世界が崩壊していたかもしれないという事実に心落ち着かせるよう自分に言い聞かせるが、体は冷えきっていく。

 

「裏切り者と言えばこちらも一人始末してきましたよ」

 

「《左方のテッラ》!! 手に持っているそれは!?」

 

「はい、神の右席にも関わらず、ローマ正教を裏切ろうとしてたんですねー。つまりはイギリスに降ろうとねー。許せませんねーこの《後方のアックア》……いえ、ゴロツキ風情は!」

 

「イギリスに降るだと……そうか、そういえばコイツは……」

 

 《後方のアックア》。かつてイギリスで王直属の騎士だったというこの男、成程何処からか私の計画を聞き付けてイギリスに密告を――いや違うな恐らく――

 

「傭兵崩れだとかなんとか言っても結局は《騎士》だったみたいですねー。何の警戒も抱かず私を部屋までいれて。まあ、正面から戦ったところで私の《光の処刑》の前では《聖人》だったとしても、まー勝てなかったでしょうけどねー」

 

 その騎士道故に私の作戦が気に入らなかったのであろう。そう思う教皇。

 つまるところ彼がしたのは《内部工作》だ。資金を学園都市の反乱分子《スキルアウト》に流し、また各国首脳の協力のもと《学園都市から買い付けた大量の兵器》を彼らスキルアウトに流す。それによって、内部から学園都市を崩壊させる。

 きっと騎士道精神溢れるアックアはそれが許せなかったに違いない。しかし――

 

「(正面切っての戦いであれば犠牲者の数は《今回の比ではない!》 なぜそれが分からんのだ!)」

 

 そう、そういうことなのだ。別にこの教皇:マタイ=リースは世界制服やローマ正教の勢力を、すなわち世界宗教としての地位や利権を拡大することを目的としていたのではない。

 

「ま、とにかくこれであの《科学宗教都市》もこれで終わりね。ようやく枕を高くして寝れるねぇ!」

 

「その通りですねー。でもまあ後は《裏切り者》であるイギリス清教の始末も残っていますしねー。油断は禁物ですよ」

 

 そうただ《世界の平和》、そして神の作った《この世界の安定》を求めて今回の行動を起こしたまでなのだ。

 学園都市、科学の集積地であるが、一方で《神ならぬ身にして天上の意思にだどりつくもの》を科学で作り上げる、などと戯言を抜かし、世界を混乱へと導こうとしていた《学園都市統括理事長:アレイスター=クロウリー》の野望を止めに。世界に住むローマ正教徒、そして異教も、無宗教者も含めたこの地上に住むすべての人の《日常》を守ること。それが彼の、二〇億人のローマ正教徒により信任された教皇たるものとしての責任。そう思ったからこその行動であったのだ。

 にも関わらず――

 

「(いや理解など求める必要はないか……私は私の信じる信念を貫くのみ!)」

 

 すべての人の理解を得るなど土台不可能なことなのだ。ならば貫くしかない、自らが信じる《幻想こそが世界を平和へと導くのだと》。

 

「準備を開始しろ。《イギリス侵攻》はもう間もなくだ」

 

「了解!」

 

「分かりました」

 

 そんな掛け声と共にどこかへと去っていく二人の神の右席。そうもうまもなくだ。あの女狐さえ倒せば、すべて終わる――世界は平和と安定へと向かうのだから……

 

 

 

「ふふふっ、学園都市が墜ちたとは……油断しましたわね、《お父様》」

 

 そう深夜、イギリス清教聖ジョージ大聖堂最大主教室にて不敵な笑みを浮かべるアークビショップ:ローラ=スチュアートなのであった。

 

 

 

 

TO BE CONTINUED

 




・あとがき

 作者の《いすとわーる》です。

 次回からいよいよ最終巻に突入します。
 最後までよろしくお願いします。

 感想など頂ければ、嬉しいです。

 それでは、またお会いできる日を心待ちにしております。

 二〇一六年一〇月一日
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