ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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独自解釈があります。 お気を付け下さい。


dai jur san wa kami wo matou mono

「あ、サムサラだー! メディサ、この子はサムサラだよ!」

「え、えぇ……。 初めまして」

 ――サムサラ。 よろしく。

「ッ!? 何……今の」

「サムサラはコウシンジュツ? がないと喋れないんだって!」

 ――驚かせたなら謝る。 1人ずつにしか繋げられないから、そのつもりで。

「……了解したわ」

「メディサ、次はクロガネのとこ行こー!」

「あ、ちょっと……走ると危ないわよ!」

 

 警戒は解かず……か。

 モアナにだけは気を許しているが、それでも戦闘のできる業魔……もとい喰魔として、常に周囲にに気を配っている。 ま、敵の本拠地みたいな場所だ。 仕方ない。

 あとは……。

 そこな鳥さん。 その術式ちょっと介入させてもらうよー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリモワールって、一見やる気無さそうだが、文句言いながらも仕事は早くて確実だし、本音を言いつつ人を傷付けない気配りも出来て、大人の女性としての魅力があるよな」

 

 ピク。

 

「いやいや、お前たちはまだ若いんだし、人生経験の違いがあるのは当然だろう?」

 

 ……。

 

「もっとも、グリモワールは若いころからあんな感じで、しっかりしていたんじゃないかって気がするけどな」

 アイゼンがニヤニヤした表情で寄ってきた。

 

「グリモワールより歳を喰ってるお前は、色気の欠片も無いな」

 ――いつまでも童心を忘れない事が若さの秘訣。

「フ、物は言い様だな?」

 ――アイゼンは1000歳のくせに老けすぎ。

「……」

 ――……。

 

 不毛な争いである。

 

 

 

 

 

 

 一行は、タリエシン港へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧。

 未だ遠いタリエシン港を覆うような霧が発生している。 しかし、明らかに不自然な霧の発生の仕方に気付く者は、例外2人を除いていない。

 

 例外とは私。 そしてビエンフーだ。 まぁマギルゥは元から知っているのだろうが。

 

 この霧は視覚と呼吸、聴覚と嗅覚といった様々な点から他人を幻術に嵌めるメルキオルの使役する特殊な聖隷を使った術。 相手の後悔を取り込み、幸福な夢に閉じ込める。

 この術が効かないのは、術者本人と意思の無い者くらいだろうか。 仕組みを知っていても、幻術そのものには係ってしまう強力な術だから。

 

 だが――。

 

 船が霧の中に入る。 当然、私の身体も霧に晒される。

 と、誰かがマストに登ってきた。 この霧の中、よくやる。 落ちたらよくて甲板で怪我、悪くて海にぽちゃんだろうに。

 

「おぉおったおった。 サムサラ、儂と1つ賭けをせんかえ?」

 ――マギルゥ。 登りきった方がいい。 そこ危ないよ。

「おぉ、魔女を心配してくれるのかぇ?」

 ――人間大のモノが頭の上に降ってきたら危ない。 下にはみんながいる。

「そっちの心配かーい! ……で、賭けには乗るかえ?」

 ――内容を聞いてからじゃないと乗れない。

「堅実じゃのぅ……。 賭けの内容は、ベルベットが折れるか折れまいか、じゃ」

 ――抽象的過ぎ。 期限は?

「儂は折れる方に1000ガルド賭ける。 つまり、ベルベットが折れた時点で儂に1000ガルド入る方式じゃ」

 ――……折れる前に、死んだら?

「……! なるほど、そっちは考えておらんかったわ……。 つまりサムサラは折れる折れないの前にベルベットが死ぬと思っておるんじゃな?」

 ――ううん。 死にはしないと思ってる。

「? 不思議な言い回しじゃの~? 何かを知ってるおるのかえ?」

 ――さぁ……。 この霧が聖隷を使った幻術の手順だって事くらいしか知らないよ。

「……ずっと気になっておったんじゃが……お主、実は十二分に戦闘出来るじゃろ?」

 ――いきなりだね。 まぁ、聖隷術はそれなりに使える。 フェニックスやアイフリードみたいな驚異的な生命力の仲間がいないと、巻き込みかねないけど。

「なるほどのぅ……。 つまり、現在ここにいる矮小な者共では話にならんと言うわけか」

 ――そうだね。 否定はしない。 マギルゥ程の霊力で、ロクロウくらいの身体能力があれば及第点かな。

「やけに儂を高評価してくれてるんじゃのぅ? 儂はか弱い魔女だというのにぃ」

 ――私に隠し事してもあんまり意味ないよ。 見えてるから。

「……見えていて、ベルベット達には黙っているのかえ?」

 ――私はアイフリード海賊団。 ベルベット達は協力者だよ。

「なるほどのぅ……。 それで、賭けはどうする?」

 ――折れない方に1万ガルド。 私のノルミンとしての名前を添えて。

「むむむ……それでは1000ガルドと釣り合わないではないか!」

 ――私が勝ったらマギルゥの本当の年齢教えてね。

「ひょえ? 儂はぴちぴちの10代女子じゃぞ?」

 ――教えてくれないならビエンフーかグリモワールに聞くからいいけど。

「ビエンフーならともかくグリモ姐さんは普通に喋りそうじゃのぅ……賭け成立じゃ」

 ――うん。 楽しみにしてる。

 

 

 霧が晴れ、タリエシン港に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サムサラは付いてこないの?」

 ――うん。 いってらっしゃい。

「いってきます!」

 

 

 

 ライフィセット……ベルベット一向を送り出して、バンエルティア号。

「イーストガンド領タリエシン周辺……こんな濃い霧でるのやっぱり初めてだよなぁ」

「あぁ。 何度か来たが……ここまで濃いのは初めてだ。 でもま、副長が乗ってるんだしそういう事もあるんじゃないか?」

「だってのに迷わなかったのは、ベルベット達の悪運のおかげかもな!」

「副長の死神の呪いとベルベット達の悪運がいい具合に相殺してるのか」

「異海探索もかなり上手くいってるし……あいつら相当持ってるぜ」

 

 悪運が強いのは恐らくロクロウだろうなぁ。 名前的にも。

 

「しかし、呑気な街だなぁ。 心無し他の港より活気ある気がするぜ」

「業魔が出ないからだろ? この街はなーんでか業魔が出ないんだったよな」「そうだっけ? なんか特別なモンでもあるのかね。 石材が業魔が嫌う素材とか」

 

 降臨の日に業魔が出た。 しかし、現在業魔は全くいない。 全くでないという知識を覚え込まされている。 街の……否、恐らくイーストガンド領にいる全ての人間が。

 例え濃霧の出る直前の日まで業魔に怯えていようと。 失われたアバルの民の死に咽び泣いていようと。

 今の彼らの記憶の中に、悲劇という2文字は霧がかったように消えているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サムサラ姐さん、そろそろ定時連絡の時間だと思うんですけど……」

 ――繋がらない。 寝てるんじゃない?

「じゃあもうアバルに着いたって事ですかね。 副長が定時連絡の時間に寝るってのは……あんまり考えづらいですけど。 そんだけ長閑(のどか)な村なんすかね」

 ――……そうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サムサラ姐さん、夕刻の定時連絡は……」

 ――繋がらないよ。 そろそろ気づく頃。

「はい?」

 

 穢れが広がる。

 業が満ちる。

 

 ――アイゼン。 起きた?

 

 ――定時連絡を忘れていたわけではなかったのか。 むしろ、眠っていたのは俺の方か?

 

 ――起きながら、行動しながら眠るのは中々出来る事じゃない。 興味深い体験じゃない?

 

 ――二度とごめんだがな。 お前は気付いていたのか?

 

 ――霧が自然由来のモノじゃないのは知ってたよ。 大陸の東側に凄まじい穢れが溜まっているのも。

 

 ――それもお前の流儀、か?

 

 ――ううん。 こっちは誓約。

 

 ――ふん。 ま、いいだろう。 敵だ。 交信を切るぞ。

 

 

 メルキオルの膨大な霊力。

 そして――。

 

 繋がらない、か。

 ジークフリートの転写術式は防いだ。 だが、どういう観点の術式なのか当たりを付けたのだろう。 恐らく劣化しながらも……その術式を完成させたか。 流石だ。

 問題はどこまで再現できているか。

 神依がどうなるかによって……果たして、未来さえも変わってくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルベット達が帰ってきた。 オルとトロスを連れて。

 イヌか……。 イヌ系はなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイタニア。

 

「あ、サムサラ姐さん丁度いい所に! 姉さんは『海の四大不思議』といえばなんだと思います?」

 ――幽霊船団のフルコースとドラゴン島のドラゴン肉。 アタマデッカチ族と金のペンギョンかな。

「えぇ……アタマデッカチ族しか合ってないじゃないですか……食べ物の事ばっかだし」

 ――そもそもアタマデッカチ族ってノルミンの事だし。

「えぇ!? それは初耳ですわ……」

 ――巨大タチウナギは業魔だから、人間は食べない方がいいと思うよ。

「それも初耳ですぜ……」

 

 

 失礼な話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――前方。 漂流中の船有り。 一等対魔士確認。

「副長! 前方に漂流中の船発見! 聖寮の船です! 救助信号旗を上げてます!」

「わかった。 接舷しろ」

 

 豊穣の女(テレサ)。 史実通り彼女が遭難しているという事は、やはりメルキオルはジークフリートの術式を完成させたという事か。

 基礎すらわからない術式を見た目だけで構築する……執念、そう表現する他ならない。

 

 しかし、こんな地脈円のすぐそばをぐるぐるしてたら壊賊病になるのは自明の理だろうに。 例えテレサの霊応力が一等のソレでも、関係なく。 立って歩けているだけ他よりは高いのだろうが。

 しかしウチの船員もこんな場所をうろうろしていれば再発しかねないな。 しかたない。

 

「む?」

「え?」

「ふむ?」

 

 アイゼンとライフィセットが気付くのはわかるのだが、やはりマギルゥ侮れない。

 こんな薄い膜でも見えるのか、感じるのか。 その割にはビエンフーが一切気付いていないのが面白いのだが。

 

 ――壊賊病に少し対策しただけ。

 

 ――何? 対策法を知っていたのか?

 

 ――疲れるからあんまりやりたくない。

 

 ――……どうやら、お前が知っていて俺が知らない事がごまんとありそうだ。

 

 ――年季の差。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リオネル島。 この島の名前は、未来に於いて特に重要な意味を持つといって過言ではないだろう。 

 何故なら、ここに神の槍(オスカー)がいるのだから。

 

「サムサラ!」

 ――何、アイゼン。

「お前も付いてこい」

 ――うん。 いいよ。

「ライフィセット。 また乗せてやってくれるか?」

「いや自分で歩けよ……」

 ――ロクロウが乗せてくれてもいいよ?

「生憎、戦いの邪魔になるものは付けないからな!」

 ――私もあの速さにしがみついていられるきがしない。

「サムサラ、速く降りて来い」

 ――はーい。

 

 ぽふん、とライフィセットの頭の上に乗る。

 奇異の目線。 テレサか。 一応手を振っておこう。 あ、無視された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝皇震(しょうおうしん)!」

岩斬滅砕陣(がんざんめっさいじん)!」

 ――死の顎門(あぎと)。 全てを喰らいて闇へと返さん。 ブラッディハウリング!

 

 

 ふぅ。 

 

「サムサラお前、結構やるじゃないか」

「ですね。 喋らないから詠唱も悟られませんし……」

 ――ライフィセットに乗ってるからね。 機動力はライフィセット任せ。

「いえいえ、それでも強力無比なことに変わりはありませんよ。 それに、見た事の無い術が多いようですし」

「じゃな。 儂やアイゼン、坊とそれなりに術者が揃っているにも関わらず、知らない術式ばかりじゃて。 無属性というにはおどろおどろしい術ばかりじゃがのー」

「そもそもサムサラって無属性の聖隷なのか? ノルミンに属性があるかは知らんが」

 ――ノルミンにも属性はあるよ。 私は無属性だけど。

「僕も無属性でフ。 というか、ネコ系で属性があるノルミンの話を聞いたことがないでフねぇ」

「イヌ系はあるのか?」

「はいでフ。 多分、最も有名なノルミンといっても過言ではない奴がいましてでフね……」

 ――ビエンフー。 口に出すと来そうだからやめておこうよ。

「びぇ!? そ、そうでフね……まぁ自称最強のノルミンなんで、アイゼンの死神の呪いがあればどこかで鉢合わせるかもでフねぇ」

 ――全力で迎撃する。

「なんでそんなに嫌ってるんでフか……僕も苦手でフけど」

「……2人で話していてよくわからんが、つまり最強と言われるノルミンがいるってことだな!」

 

 真実、アイツは最強だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喰魔ディース。 アルトリウスはコレをここに配置した。 その意味……そして、ディースの意味を知っているのだろうか。

 ディースとは運命と戦いを司る戦乙女(ワルキューレ)達の総称。

 その中には、ブリュンヒルデも含まれる。 シグルズと(えにし)の深いブリュンヒルデと。

 

 なるほど、ジークフリートの劣化術式によって強化された神の槍(オスカー)に守らせるのはうってつけとでも言いたいのか。

 聖寮には随分と皮肉な奴がいると見る。

 

 そして。

 

 

 

「ぐぅぅぅうう……あぁ!」

 

 ディースとは、豊穣を司る女神でもあるのだ。

 

「喰魔になった!?」

「違う……融合したんじゃ!」

「全員殺します……オスカーのために!」

 

 喰魔となったテレサが襲い来た!

 

 

「ここまでやるのか……!」

「あの子のためならなんでもないわッ!」

 

 ベルベットがそうであるように。

 彼女もそうなのだろう。

 

散牙(さんが)蛇垂(じゃすい)!」

 

 エレノアの槍が喰魔となったテレサを捉える。

 

(かさ)陽炎(かげろう)!」

 

 ロクロウの二刀小太刀がテレサを斬りつける。

 

「ヴォイドラグーン!」

 

 ライフィセットの発生させた漆黒の沼がテレサを引きずり込む。

 

縛氷(ばくひょう)幻霧(げんむ)!」

 

 ベルベットのブレードが冷気を以て追撃する。

 

 

 どれも、人間に向けるモノではない。 全員が彼女を喰魔として見ている。

 それは正解だ。 やならければやられてしまう。

 

 だが、彼にはどう映るだろうか。

 

 既に意識のある、彼には。

 

 

 

 リオネル島。 この島の名前の意味は、若獅子。

 今、彼の目の前で倒れ行く姉の姿は。

 

 神の如き獅子に、どう映るのか。

 

「これ以上抵抗するなら、手足を喰い千切って大人しくさせる! ――ッ!」

 

 立ちあがったオスカーが、テレサに歩み寄る。

 

 オスカーは姉を諭す。 もういいと。

 

 

 

 そして――彼は、神を(まと)う。

 

 

 

「いざ参る!」

 

 やはり、所々甘い。 未完成にして未熟。 だが、形になっている。

 メルキオル……どれほどの。

 

「うぉぉぉおおおおおお!」

「な、なんじゃこりゃぁ~!?」

「聖隷と一体化した!?」

「これほどの術だったか!」

 

 神依。 遥か未来で、導師が使うその力。

 そして、導師と共に世界を征くのが――神の如き獅子(ミクリオ)だ。

 

 

「『千の毒晶』!」

 

 背中に展開された風のブレードが撃ち出される。

 

「『竜の裂華』!」

 

 蹴りからかまいたちが発生する。

 

 どれもこれも、聖隷術側が不安定。 しかし、扱うオスカーの技術がそれを技へと昇華させている。

 

「ぐぅぅ! まだだ! まだ崩れるな神依!」

 

 やはり、崩壊が早い。

 

 ――開口。 無窮に崩落する深淵。 グラヴィティ。

 

 重力で以て叩き伏せる。

 そろそろか。

 

 

「ぐ……なんという……業魔だ……!」

 

 一度は倒れ掛かるオスカーだが、しかし立ち上がる。

 暴走。 霊力が溢れる。

 未来と違って無理矢理使役しているのだから当たり前だ。

 もし、対話し、理解を得て神依をしていたら……少しは違った可能性もある。

 しかし自壊術式とは……流石メルキオル、といった所か。

 

「ベルベット! 喰らってとめろ!」

「待って、その人は!」

 

 例え喰わらずにとめたとしても、無理だ。

 神依は制御しきれない内に使っていい術式ではないのだから。

 

「ガッ!?」

「……ッ!?」

 

 ベルベットが聖隷を喰らい取る。

 倒れるオスカー。

 

 交信は繋がらない。 当たり前だろう。 魂が融合したのだ。 片方を喰らえば、片方も喰われる。 遥か未来でわけ隔つ事が可能だったのとはわけが違う。

 

 

 

「殺した……な……」

 

 弟を殺された姉は、殺した者を殺しにかかった。

 




本当に喰魔や業魔の配置は皮肉ばっかりです。 関連性あるものをただ配置しただけにしては辻褄が合うっていうか符合が合致する物ばっかりですし……。


開発スタッフに皮肉屋がいるのは間違いない。

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