ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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短いです。
独自解釈・設定があります。


dai jur go wa 『aifread』

 

 カドニクス港からエンドガンド領は、そこまで距離が無い。

 バンエルティア号の速力をもってすれば、すぐに到達し得た。

 

「これは……」

「荒れている……ッ」

 

 史実と違って、組員に犠牲者はいない。

 しかし、いや故に、だろうか。

 リオネル島の桟橋は、凄惨な状態となっていた。 あちらこちらがボコボコである。

 

「サムサラ、アイフリードは!」

 ――島の奥。 私も付いていくよ。 

「あぁ。 島の奥だそうだ。 行くぞ!」

「応!」

 

 交信は繋がらない。

 

 

 

 

 

「あれは!」

「おぉらぁ!」

 

 ザビーダが先行した。 技でもなんでもない、ただの殴りかかり。

 しかし、大角の業魔はそれを避けてザビーダに逆に拳を叩き込む。

 

「ぐぅぅぅぅ!」

「ザビーダ!」

「この拳……間違いねぇ! こいつはアイフリードだ!」

 

 アイフリード。

 

「ぐぁ!?」

「何故やり返さない!」

「こいつには、俺を‘俺’に戻してもらった借りがあるからよ……。 今度は俺が戻してやる番さ」

「業魔はもう人間には戻らん!」

「だからって流儀を変えられるかよ。 なぁ、アイフリ――ガッ!?」

「ウォァァァァァアア!」

 

 アイフリードがザビーダを突き飛ばす。 そして、その拳で――ライフィセットを狙う。

 

 ガッ。

 

「子供まで狙うのか……。 ザビーダは馬鹿だが、仁義を通した。 誰かの流儀を踏みにじる野郎は……てめぇでも許さねえ!」

 

 吹き飛ばされるアイフリード。 彼の吹っ飛んだ場所に、ジークフリートは……無い。

 トラクタービームって便利。

 

「お前には、でかい借りがある。 それを今返すぜ、アイフリードッ!」

「いいのね、アイゼン!」

「あぁ、ケジメをつける!」

「言うても、こやつクソ手ごわいぞ……!」

「当然だ! だからこそ俺がやる!」

 

 ――解き放たれし不穏なる異界の力、目の前に邪悪の裁きを。 ヴァイオレットペイン。

 

「グォォォオ!?」

「五の型!」

灼風(しゃっぷう)狼火(ろうか)!」

 

 いけない。 あまり広範囲の術は巻き込んでしまう……。 シェイドブライトとか使えたらいいのになぁ。

 4対1……否、5対1でも強い。 流石はアイフリードだが、これでもアイフリードとはずっと一緒にいたのだ。 癖くらいはわかる。

 

 ――ロクロウ、左脚払って。

「セイ! 業火(ごうか)炯乱(けいらん)!」

 ――エレノア、弱点は無属性だよ。

六行(むぎょう)六連(りくれん)!」

 

 そして――。

 

 

「ぐぉぉぉぉおおお!」

「くっ!?」

「あぁっ!?」

「フィー!」

 

 ライフィセットを人質に取るアイフリード。

 

「構わないで! 僕はもう、覚悟を決めてるよ!」

 

 ――大地よ、魂に無上の祝福を与えたまえ。 ソウルオブアース。

「何……」

 

「わかった。 家族……仲間……かつて俺が掴もうとしたものは、みんな掌から零れ落ちちまった。 だが、あるバカは『どうせ掴めないなら拳を握って勝ち取れ』と笑っていいやがった」

 

 アイゼンが拳を握りしめる。

 

「この拳で取り戻すぜ……」

 

「お前の言った通りになァ!」

「ふぅっ!」

 

 ライフィセットが後頭部でアイフリードに頭突きをする。

 その怯んだ隙に、アイゼンが――全力の拳を、アイフリードに叩き込んだ。

 

 

 

「あぁ……お前の拳だ……な……悪い……面倒かけちまった……」

「いいさ……親友(ダチ)だからな……!」

「アイフリード……」

 

 力なくアイゼンに凭れ掛かるアイフリード。

 ライフィセットは。

 

「うぁぁぁぁああああああ!」

 

 アイフリードを、白銀の炎で灼いた。

 

「業魔が人間に戻った!?」

 

 すぐさまアイフリードに駆け寄り、傷を癒そうとするライフィセット。

 だが。

 

「サムサラ、手伝って!」

「もういいぜ。 無駄だ」

 

 その傷は、あまりに深い。

 それよりも精神への負担が深すぎた。

 

「ごめん……僕が今の力を……ちゃんと使えれば……」

「泣くな……覚悟、決めたんだろ」

「でも! アイゼンはずっと、アイフリードを探してたんだ……」

「ふっ……苦労性だなぁ。 相変わらず。 ……坊主、良い事を教えてやるよ。 お前の力は、カノヌシの一部なんだとさ。 だからもし、ヤツの領域を封じ込めれば……面白(おもしれ)ぇケンカができるかもな」

「領域を封じる……?」

「地脈に眠る地水火風の四聖主を叩き起こせば……。 急げよ、今アルトリウスとカノヌシは鎮めの儀式とやらで動けねぇ。 出し抜くなら……今だぜ」

「わかったよ……アイフリード」

「ふっ……一緒に行けねぇのが残念だ……面白くなりそうなのに、よ……」

「詫びは言わんぞ」

「当たり前だ。 お前のおかげで、退屈しなかった……また、どっかで会ったら遊ぼうぜ、アイゼン」

 

「あぁ……またな、アイフリード」

 

 

 

 

 

 ――さよなら。 楽しかったよアイフリード。

 

 ――サムサラ……口を動かす力も無ぇ時だけは、便利だな……。

 

 ――あなたは転生しない(・・・・・)。 ううん、その魂は戻るけれど……記憶は引き継がれない。

 

 ――はん、ノルミンとしての……チカラって奴か。

 

 ――そう。 そして、死にゆくあなた(・・・)に、私の真名を。

 

 ――あん?

 

 ――『エヌエス=ジャーニー』。 本当に、この十数年は楽しかった。 ありがとう。

 

 ――あばよ、サムサラ。

 

 

 

 

 

「世話になったな、ザビーダ」

「……可能性はあった。 なのに殺しちまいやがって……」

 

「次に会った時は着けるぜ。 てめぇの流儀との決着をな」

 

「またな、ザビーダ」

 

 ――またね、ザビーダ。

 




サムサラの真名にもしっかり意味はあります。

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