ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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実家の栗を出来るだけ身を残して剥く作業が執筆時間を削る。


スキットばっかです。

いつも通り独自解釈が多々あります。


dai jur roku wa gokkan no ti no kessen mae

「四聖主の復活か……確かにそれが叶えば、カノヌシの領域を抑える事が出来るでしょうね」

「カノヌシが封じている聖隷の意思も解放されるかもしれません」

「きっと、対魔士に従わない聖隷も出てくるよ」

「対魔士戦力を大きく削げるわね」

「そもそもカノヌシによる霊応力の増幅が無くなれば、以前のようにほとんどの対魔士は聖隷そのものを認識できなくなるはずじゃ。 儂のように元から特別な才能があれば別じゃがのー」

 

 マギルゥの霊応力は現時点の人間としては恐らく最高峰だろう。 故にメルキオルも彼女に目を付けた。

 

「私も……ライフィセットが見えなくなる?」

「それは……やってみねばわからぬ」

「エレノア……」

「なら、やってみましょう。 どんなことになっても後悔はしません」

 

 エレノアはギリギリだ。 ギリギリ、見えるか見えないかという所。

 元よりの素質は高いが、マギルゥ程ではない。 ただ、ライフィセットの器となった事で、少しは……。

 

「しかし四聖主って神様だろ? 叩き起こして平気なのか?」

「地水火風を司っている奴らじゃ。 大自然のバランスが大きく乱れるやもしれん」

 

 地殻変動。 森林減少。 旱魃(かんばつ)、水没。 嵐に竜巻。

 そうした世界の乱れが起きて、あの未来になる。

 でも、それはどの道起こる事だ。 それを早めただけ。

 

「しかも、復活させる方法は恐らく――」

 

「開門の日と同じだとすれば、緋の夜に地脈点に生贄をささげる事……」

「誰かを殺すの!?」

「殺す事が、生贄の本質じゃないわ。 必要なのは穢れなき魂よ」

 

 生贄が必要な理由。

 生贄に戻ってもらう事で、四聖主がその器を得るためだ。 例え肉体を失っていようと、人間である限りは器がある。

 

「ふむ。 じゃとしたら……ベルベットは生贄を既に持っているのではないか?」

「喰らった対魔士たち!」

「あつらえた様に、お主は喰らった力を撃ち出せる喰魔じゃ。 高位対魔士どもの魂なら、生贄に申し分あるまいて」

「オスカーやテレサの魂で、四聖主を……」

 

 悲痛な声を出すのは何故だろう。

 彼らは戻るだけなのに。 

 

「試してみる価値はある。 次の緋の夜はいつ?」

「暦に依れば降臨の日の三年後……もうすぐよ」

 

 緋の夜……赤色月蝕(ブラッドムーン)。 周期は大体三年毎。

 太陽 私達の星 月が一直線に並ぶ時に起きる現象。

 

「うーん、時間が足りるか? 四聖主は別々の場所で眠ってるんだろ?」

「えぇ。 各々地脈の奥底で眠りに就いているはず……。 でも、地脈浸点を利用すれば、一気に全員を起こせるかもしれないわね」

「地脈浸点?」

「えぇ。 基本的に地脈の流れは水平なんだけど、極稀に縦の流れができることがあるの。 力が地脈の底に潜っていく場所を’地脈浸点’。 逆に、奥底から力が吹き上がって来る場所を’地脈湧点’というのよ」

 

 ちなみにその場所はレアボードに描かれている……が、諸島が中心の時代のモノなので彼女らには意味が無いだろう。 参考にはなるかもしれないが。

 

「ふむ。 その地脈浸点を使えば……地脈の底におる四聖主どもに、一度に生贄を届けられるやもしれんのぅ」

「場所は?」

「ミッドガンド領の北部に浸点が一つ。 最近大きな聖殿が建ったらしいけど」

 

 少し前まではアルディナ草原に湧点が、リオネル島に浸点があったのだが、地脈変動で動いてしまった。

 

「そこは聖主の御座じゃ~! カノヌシがおる本拠地じゃし」

「あら、不味いわねぇ」

「湧点じゃ、ダメかな。 同じように地の底に繋がってるんでしょ? 流れに逆らう事になるけど……」

「押し込んで見せろっていうのね」

「湧点はどこにあるんだ?」

 

「恐らく、キララウス火山あたりだろう」

「アイゼン!」

「大丈夫だ。 話は済んだ」

 

 これで一応、私はアイフリードとの義理を終えたわけで。

 もう、彼らとの(えにし)は無い。

 

 だがまぁ、歩くのも面倒だし。

 もう少しこの船でゆったりさせてもらおう。

 

「キララウスといえば、ノースランドの最北にある火山じゃな。 氷と溶岩の地獄じゃが」

「正に。 キララウス火山こそ、最大の湧点よ」

「ようするに、火山の火口に対魔士共の魂をぶちこんでやればいいんだな?」

「そうすれば四聖主が復活し、カノヌシの領域を封じられる……あくまで推論ですが」

「あたしは賭けるわ」

「僕も」

 

 封じると言うよりは弾く、だが。

 元から相容れぬ聖主だ。 前回は力の弱まりを感じたカノヌシ自身が封印に応じたまでの事。 迎合する事は在り得ない。

 

「ノースガンド領に向かうぞ。 キララウス火山は、ヘラヴィーサの北だ」

 

 メイルシオか……度数の高い心水と、新鮮な魚介の宝庫。

 楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……サムサラ」

 ――お疲れ、アイゼン。

「……何を労われたのかわからんな」

 ――うん。 

「お前、最後にアイフリードと話していたな。 何を言っていた?」

 ――私の真名と……お告げ、かな。

「あの顎鬚に愛の告白か?」

 ――わかってるでしょ? ……最大の親愛だよ。

「フ……。 それで、お前は」

 ――まだ降りないよ。 もう少しのんびり船旅したいし。

「……そうか」

 ――うん。

 

「お前も、アイフリード海賊団の一員だ」

 

 ――うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かが来る!」

「サムサラ!」

 

 ――わかっている。 

 

 領域を展開する。

 

「これは……」

「カノヌシのだ。 でも、素通りした……?」

「サムサラの領域じゃて。 今のは明らかに本気じゃったろうに、涼しい顔をしとる。 ここまでくると、サムサラが何者なのかの方が気になってくるのぅ?」

「今はそんなこと気にしてる場合じゃないわ。 アイゼン!」

「あぁ、近くの港に付ける。 ゼクソン港だ!」

 

 涼しい顔はデフォルトなので勘弁願いたい。

 これでも一度に色々な聖隷術を発動させているのだ。 主に隠匿系の。

 

 領域を球状に展開するだけでも調整が面倒なのに、さらに領域の範囲に被せるように隠匿しなければバレてしまう。 

 そろそろバレてもいいんじゃないかと思えてくるほどにはめんどくさい。

 いけないいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「己が穢れを自覚した者は自ら命を絶つか……。 実に効率的な’(システム)’じゃな」

 

 自死しようとした船止め(ボラード)を見ての、マギルゥの言だ。

 確かに俯瞰で見れば無駄のない理だろう。

 

 しかし、ノルミン(わたし)から見れば非常に迷惑だ。

 

 戻れば戻るほど発つものも多くなるというのに。

 

 実に天族らしい考えというか……やはりカノヌシは降りてきた聖主ではないのだと思い知らされる。 天族連中の中では弁えている方ではあるが、今代は特にひどい。 

 

「まずはこの力の影響範囲を調べる。 サムサラ、アンタはここで領域を維持して。 ベンウィック達は、サムサラの領域から出ないで」

「ローグレスへ向かうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……異様な光景だな、こりゃァ」

「あぁ。 綺麗に整列して……気味がわりぃ」

 

 あの賑やかだったゼクソン港はどこへやら。

 理路整然と並んだ住民と兵士が、直立不動で立っている。

 

「静かだねー」

「えぇ……本当に。 これが聖寮の目指していた世界……なのね」

 

 一度は聖寮に肩入れした者として……思う所があるのだろう。

 もっとも、世界がこうなることを知っていた対魔士が幾人いるのやら、という所ではあるが。

 

「同じ訳が分からなくなるのでも、カノヌシに鎮静化されるより心水で記憶飛んだ方が百倍マシだよなぁ」

「そりゃあな。 ……って、もしやこの状況がずっと続いたら心水造りも止められちまうんじゃねぇか?」

「やべえじゃねえか! くっそ、副長やベルベット達に頼るしかない自分が情けねえ……!」

「心水のために決起するってオイ……」

 

 こいつらはいつも通りだなぁ。

 

 本当に。

 

 

 

 あ、帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘラヴィーサへ向かう海上。

 

 領域の展開を終了する。

 

「サムサラ?」

 ――鎮静化の効果は薄れている。 ヘラヴィーサもある程度は無事だと思う。

「ホントに!?」

 ――と言う事で、寝るね。

「何がと言う事でなのかはわからないけど……おやすみ、サムサラ」

 ――うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なるほど。

 

 そこにあったのか。

 

 ずっと探していた癒しの銭湯。

 確か一昔前は温泉街だったメイルシオ周辺。 

 キララウス火山から入れる天への階梯の地脈口に繋がっていた事。

 

 あの銭湯のある場所……それは、キララウス火山の(ふもと)

 現在は雪と溶岩に埋もれた――ガイブルク氷地の最下部だろう。

 

 魂が入れ替わるのも説明が付く。

 あそこは地脈に最も近く、地脈流とマグマの熱で湯を沸かしているのだ。

 

 恐らく経営している者はいないのだろう。

 

 あそこに行くためには……やはり、天への階梯から行くしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベンウィック! 一緒に行って!」

 

 む。

 

「いや、夢だろ? ここから離れちゃ不味いんだって……」

「でも、エレノアが! エレノアが~!」

 ――ベンウィック。 何事。

「あ、サムサラ姐さん起きたんすね。 いや、なんかモアナがエレノアの夢を見たって……」

「サムサラ! エレノアが死んじゃう~!」

 ――死んでないよ? ベルベット達がいるのに、エレノアが死ぬと思う?

「……思えない、ケド……」

 ――でもまぁ、メイルシオまで行こうか。 モアナ、とりあえずローブを持ってきて。

「うん!」

「え、サムサラ姐さん!? 何言ったんですか!?」

 ――メイルシオに向かうよ。 ただ、人目があるから業魔たちにはローブとかフードを被らせてあげて。

「……バンエルティア号はどうするんですか?」 ――隠匿の聖隷術をかけて、停めておく。 それと……。

「俺も連れて行ってくれ。 ロクロウに……届けなければいけないものが或る」

「クロガネ? ……あぁ、もう。 んじゃとっとと行くぞ!!」

 ――殿(しんがり)はクロガネお願い。

「あぁ、了解した。 確実に守り通そう」

 ――先頭はベンウィック。 でも、敵の殲滅は私がする。

「サムサラ姐さんがですか? ……わかりました。 お前ら、もしぼーっとする奴がいたら殴って起こせよ!」

「あいよー。 そうなったら合法的にフェリスを殴っていいんだよな」

「海賊が合法的もクソもあるかよ……。 ま、お前が鎮静化したら飛びあがるくらい殴ってやらぁ」

「……大丈夫そうだな。 モアナ、ローブは……」

「準備できてるよ~! クロガネのは……シーツでいいかなぁ」

「……頭の無い雪だるまみたいだな」

 ――メディサも付いてきて。

「わかったわ」

 ――ダイルは……。

「そこで言い淀むんじゃねぇ! だがま、俺はここでこいつら見張っておくぜ。 俺も業魔だ、こいつらよりは鎮静化? とやらに対抗できるかもしんねぇ」

 ――うん。 みんなを任せるよ。

「応よ!」

 

 ちなみにグリモワールは室内で古文書の理解を深めているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――開口、無窮に崩落する深淵。 グラビティ。

 

 生成された重力球が、ウィンターウルフ6匹を押し潰す。

 

「サムサラすごーい!」

「うむ……聖寮の船を消し飛ばした時も思ったが、お主相当に強力な聖隷のようだな」

 ――照れる。

「無表情で言われてもな」

 ――顔の無い人に言われるとは思わなかった。

「そりゃそうだったな! ……む、フン!」

 

 クロガネが後ろから仕掛けようとしていたスペクターを叩き潰す。

 刀を使わずに、腕で。

 

「しっかし寒いなぁ……えくしっ」

「ベンウィック大丈夫ー? えへへ、モアナがあっためてあげるー! メディサもー!」

「私は……皮膚の温度は低いわよ……」

 

 それに歩き辛そうだ。 ベンウィックの機動力は私の機動力に直結するのだが……。

 

 あ、門が見えた。

 

 ――ベンウィック。 メイルシオ着いたよ。

「へぶしっ! あー……お、本当だ。 門番とかいないんすかね……ってうわ!?」

 

 ダン! と門が開け放たれたかと思えば、中から大勢の人間が南へ……つまり遺跡及びヘラヴィーサの方へ向かって押し寄せてきた。

 

「モアナ!」

「わぷっ!?」

 

 メディサが道脇にモアナを避けさせる。 クロガネとベンウィックも同じように避けた。

 人間の顔は全て恐怖に染まっており、まるで災禍の顕主でも見たかのような怯え方だ。

 

「……行ったな」

「何事だ?」

 ――ベルベット達がメイルシオから人間を退去させたんだと思う。

「なるほどな。 ならば、そのまま突き進んでよいということか」

 ――モアナ、エレノアはもうすぐ会えるよ。 死んでないから安心して。

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイルシオに着き、アイゼン達に事情を説明した。

 

 その中で、クロガネとロクロウは早々にその場を離れた。

 

 

 

 長きを生きる刀鍛冶の……最高の一品。

 

 ――さよなら。

 

 返事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼び出しは届いた様じゃの」

 

 メイルシオの東門。 メルキオルがそこに立っていた。

 

「……四聖主の復活を企んでいるのだな」

「流石、察しが良いのぅ」

「わかっているはずだ。 四聖主が復活すれば、どのような混乱が起きるか」

「カノヌシが増幅していた霊応力が元に戻り、精霊も意思を回復。 多くの対魔士が力を失い、聖寮の管理体制も崩壊するじゃろう」

「業魔の脅威はそのままに、な」

「のみならず、数百年は地水火風の自然バランスが大混乱するはずじゃ。 異常な地殻変動、気候や海面の大変化に火山の爆発……お祭り騒ぎじゃな」

 

 最も、それは繰り返されてきた事なのだが。

 

「文明も大きく後退するぞ? キララウス火山一つとっても、噴火によって炎石が失われれば火薬の製造が不可能になる」

「それも一興。 ま、心配せずとも案外なんとかなるものじゃろうて。 頑張れ人間! じゃよ」

「人を何だと思っている……」

 

「穢れを生む悪の源泉。 故に情を鎮め、理に秩序を齎す。 人が己が罪業(ざいごう)を悔い改め、超越するその日まで……じゃろう?」

 

 超越できないから人間というのだ。 超越した時点で、それは人ではない何かだろう。

 

「そう。 だからこそのカノヌシの覚醒だ」

「我らはそのための捨て石、汚れ役。 救世主たる導師の影……か」

「戻ってくる気はないのか? お前がメーヴィンを名乗った意図は……」

「お師さんらの理想は、退屈過ぎるわい」

「だが、清浄な世界だ」

「造花の箱庭じゃよ。 見てくれだけの紛いモンじゃ」

「正しい理と秩序がある」

「歪んだ理じゃ! 花が枯れねば幸せか? 狼が草を喰えば満足か!」

 

 マギルゥが吠える。

 

「気色悪いわ! そんな世界を願う者も、囲われて満足する奴らも! 毒虫とて喰いたいものを喰うぞ! 名もなき花とて咲きたい場所に咲く! 他人にとってはどーでもいい願いにも、決して譲れぬ、生きる証があるんじゃ!」

 

 マギルゥは続ける。

 

「それを悪と言うなら、儂は悪として生きて、死ぬわい」

「ならば踏み潰すまでだ」

「――どこまでも上から物を言いやがる」

「手を貸すぜ、マギルゥ」

 

 メイルシオから出てきますは強面の聖隷と夜叉たる業魔。

 おそろしおそろし。

 

「待った、決着は後じゃ。 こやつは災禍の顕主への供物じゃてな。 メルキオル・メーヴィン。 火山で待っておれ。 案ずるな、お主の最後は……儂が‘看取る’」

「良いだろう。 まとめた方が踏み潰す手間がかからん」

 

 振り返るメルキオル。 足元には、花。

 

「……」

 

メルキオルは花を踏み潰す事なく、歩き去って行った。

 

「変わらんのぅ、 お師さんは」

 

 その声には……少しばかりの、哀愁が混じっていた。 ……かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お主、最初から見ていたじゃろ? 悪いノルミンじゃて」

 ――隠蔽していても、一度覚えた霊力なら判別できる。

「ほぉ……? お師さんでもサムサラには適わんか?」

 ――うん。 あんな静かに燃えてる炎みたいな霊力は、滅多にいないし。

「炎かえ? どちらかといえば雪山に鎮座する氷塊とかのほうがしっくり来ると思うんじゃが……」

 ――炎だよ。 静かに、でも消えることなく燃え続ける炎。 カスパルでもバルタザルでもなく、メルキオルな所も人間らしいよね。

「……誰じゃ?」

 ――黄金を求めるのは人間だけだよ。 聖隷や業魔には必要ないもん。

「っはぁ~。 お主の話はこの大魔女マギルゥ様を以てしても理解し難いわい」

 ――メルキオルに啖呵を切ったマギルゥ、かっこよかったよ。

「……本当に悪いノルミンじゃぁ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~良いお湯ですねぇ~」

 ――そうだね。 バンエルティア号の風呂と違って……広いし、色々効果がありそう。

「はい。 それにしても、最初はサムサラはお風呂嫌いかと思っていましたが、むしろ好きなんですね」

 ――うん。 面倒臭さが勝ってただけ。

「……それもどうかとは思いますが……」

 ――……。

「サムサラは……自己嫌悪というモノを覚えた事はありますか?」

 ――無いよ。 私の生に於いて……自身を嫌悪した事は、一度も無い。

「……すごいですね。 私は、眩しくて純粋なモアナや……ベルベット達を見る度に……苛まれるんです。 自らが――」

 ――エレノアは人間でしょ? なら、それは正常だよ。 ううん、聖隷や業魔でもそう。 理性を失った業魔ですら、死ぬ時に自己を嫌悪する。 アイフリードみたいなのは異常。

「なら、あなたは……自らが異常だと?」

 ――私は特別。 

「特別?」

 ――エレノアは、生まれた時に自らがやるべきこと、為すべきことを自覚していた?

「い、いえ。 むしろ、今でさえ……迷っています。 でも、進むと決めましたから……」

 ――私は知ってた。 私と言う意識が覚醒した瞬間から、私のやるべきことは分かっていた。 

「それは……」

 ――私は最初からこういう性格で……人格形成に他者の影響を受けていない。 私は私個人で完結し、故に自己を嫌悪するとか好むとか、そういう次元にいない。

「……」

 ――なんて。 簡単に言うと、私はまだ赤ちゃんなの。 ばぶー。

「……なら、これから育てて行けばいいじゃないですか。 ふふ、千歳の赤ちゃんですね」

 ――そんなに若くない。

「えぇ!?」

 ――今の歴史書に書いてある歴史なんて、本来の歴史の1割くらいだよ。 本当はもっと長い。

「サムサラは……その全てを知っていると?」

 ――さぁ。 どうだろうね?

「ここまできて誤魔化すんですか!?」

 ――生きるのに必要なのは、C調と遊び心だよ。

「……何故かマギルゥを幻視しました……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「休憩はここまでじゃ。 特等共が来おったぞ」

 

 緋の夜が来た。

 




硬くて薄い殻を剥がして、厚くて脆い殻をはぎ取る……の繰り返し。
必要なのは無心。 そして音楽。

意識を宙に浮かせて――時間を止める様な――ハッ

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