ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

17 / 60
独自解釈・独自設定多目です。


dai jur nana wa 『Sigure』 to 『Merchior』

「行くわよ! 特等対魔士を殺し、世界を混乱の炎で包む!」

 

 おー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空も……地面の雪も、みんな緋い……。 これが緋の夜なんだね」

 

 緋の夜。

 空に浮かぶ赤色月蝕(ブラッドムーン)が魔的に輝く。

 3年ごとに起こる星の巡りが引き起こす現象。

 

 地脈の力を吸い上げた月。

 まぁ実際に月に地脈の力が届いているわけではなく、地脈の力が大気中に溢れ出ているだけなのだが。 

 

 時に猟奇的さは想像を膨らませる。 恐怖は妄想を掻き立てる。

 そうしてあることない事が歴史書に描かれていくのだ。

 

 言わずが華、という奴である。

 

 

 

 さて、現在私は1人である。

 

 正確に言えば眼下にベルベット一行がいて、私は天井に居ると言った方がいいだろうか。

 トラクタービームを足元に小規模展開し続ける事で、空中の歩行を可能としている……ッ!

 

 こんなことをしている理由。

 

 まぁ、そこまで大した意味はない。

 ただ、ムルジムと会話したかったのだ。 あの吠える者と。

 

 いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大した奴だ。 自分を刀にしやがるとはなぁ」

「あぁ、その刃はクロガネの数百年そのものだ」

 

 兄弟は向かい合って酒を飲む。

 兄は刀の出来を……その意思を讃え。

 弟は號嵐を倒して刀を完成させると宣言する。

 シグレ・ランゲツは、それを『面白い』と言った。

 

聖隷(たにん)の力を借りる趣味はねえよ!」

「対魔士がよう言うわ。 ネコ聖隷の力を借りとるじゃろが」

 

 違う。

 

「借りてねぇよ、バーカ!」

 

 彼女は吠える者。 予告する者。

 役割は――。

 

「そうよ。 逆にあたしは、頼まれてシグレの霊力を抑え込んでいるのよ」

 

 彼女は枷。 光り輝く者(シグレ)を更に輝かせるための――。

 

 

 

「ムルジム。 枷を外せ」

 

 霊力の鎖が消える。 不可視の鎖は大気に溶けおち……。

 

「うおおおおおおおぁぁぁぁああああああああ!!」

 

 解放された霊力は爆発的な広がりと共に、周囲の空間を揺らした。

 

 

 

 

「さぁ、楽しもうぜ!」

「応! 1013回目の勝負だ!」

「細けぇなてめぇは!」

「負けた数だからな! だが、それも今日で最後だ!」

 

 

 交戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「避ける必要は()ぇ!」

 

『どこにいても、同じだ!』

『嵐月流・荒鷲(あらわし)!』

『嵐月流・絶刑(ぜっけい)!』

 

 秘奥義の相殺。 何百……千に至るほど見続けた太刀筋だからこそ、できる所業。

 

「はは! 俺の一撃を止めるか!」

 

 彼は最初から気付いている。

 自身の裏。 天狼を刺し殺す蠍の存在に。

 

 その上で……その上で、全てを楽しむ。

 

 彼が穢れない理由であり――最も神に近い人間である証明だろう。

 

「震天!」

「裂空!」

「斬光!」

「旋風!」

「滅砕!」

「神罰!」

「割殺!」

「無音!」

 

 怒涛の連撃。 

 奇しくも、この技の原型を初めに使った者も’兄’だった。

 

 

 さぁ、蠍よ。

 天狼を打ち貫いてみせておくれ。

 

「大したモンだな、おまえら……」

「感心するのはまだ早い。 まだ、俺の剣を見せていない」

「お前の剣……? そりゃ、休んでる場合じゃねえな!」

 

 一騎打ち。

 剣閃が輝き渡る。

 

「おぉぉぉぉおおおああああ!!」

「あぁぁあああああぐぅぅぅぅ!!」

 

 拮抗。

 しかし、ロクロウの交差された二刀は、シグレ・ランゲツの一刀を絡め取り――。

 

「なッ!?」

 

 上空へと、払い飛ばした。

 

 ロクロウは背中に背負う、大太刀クロガネの柄を両手で……業魔となった半身と、人間である半身でしっかりとつかむ。

 一刀一刀でも二刀でもない。

 

「斬ッッッ!!」

 

 これぞ、ロクロウの剣。

 

「三刀……これが、お前の剣か……」

「そうだ。 シグレ・ランゲツに勝つために、鍛え上げた(わざ)だ」

 

 天狼(シグレ)は、満足した表情をつくり。

 

「やるじゃねえか……」

 

 そのまま、背から倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロガネへの(はなむけ)だ。 號嵐は持って行け。 あとな……ムルジム(このネコ)は、見逃してやってくれ」

「……シグレ」

 

 彼女も、思う所はあるのか。

 

「シグレ……あの上意討ちは」

 

 語られるのは、ロクロウの業。

 しかし、シグレ・ランゲツは全てを受け入れていた。

 

 彼の生は……私と似ているかもしれない。

 全てわかっていたのだろう。

 全て知っていたのだろう。

 

 その上で、更に上を求め続けた。

 

 自己を嫌悪する事なく、飽くなき欲求を持ち続ける純水のような心。

 

 さようなら、シグレ・ランゲツ。

 数千……いや、万の時の中で、最も清い魂よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ムルジム。 久しぶりだね。

「あなた、会うたびに同じ言葉で話しかけてくるわね」

 ――そうだっけ?

「全く……。 あなたが敵に居たんじゃ、感知できないわけね」

 ――ムルジムと私は相性が悪い。 あなたがソッチにいるって知らなかったら、危なかった。

「最年長のノルミンに褒められて、悪い気はしないわね」

 ――天族ムルジムよりは生きてないよ。

「どうだか。 あなたとノルミン・フェニックスは、かなり昔からいる印象だけど?」

 ――少なくとも私は人間と一緒に生まれたから。 天界出身じゃない。

「それだけじゃ、年齢の違いはわからないじゃない。 胡散臭いのは相変わらずね」

 ――ズイフウと最後に会ったのは、いつ?

「……唐突なのも相変わらずね。 随分と懐かしい名前だけど……いつだったかしらね。 あなたがその名前を知っている事の方が驚きなくらい……遥か過去だわ」

 ――そう。 また……1000年後に会おうね、ムルジム。

「具体的ね。 でも、前に会ったのもそのくらい前だったかしら。 意思を封じられて……シグレに解放されるまでの間は、よく覚えていないけど」

 ――ばいばい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理を越えて願い思う‘理想’こそ人の力だ」

 

 先代筆頭対魔士、クローディン・アスガードの言葉。

 ベルベットは詭弁と言ったが……しかし、確かに真理だ。

 

 メルキオル・メーヴィンは、弟子であったマギラニカ・ルゥ・メーヴィンの機転によって……なんともあっけない、最後を迎える。

 

 しかし、その高潔にして純粋な魂は、確かに人間だったと言えるだろう。

 

 彼の誓約は草花とは関係の無いモノ。

 相討ちを狙う局面で、誓約を気にする必要はないから。

 

 でも、自らが踏み潰す事だけは避けたかったのだろう。

 噴火に巻き込まれたとしても、結果は同じ。

 それがわかっていて。

 

 彼は、草花を愛していたのだろう。

 

 

 

 

 

 さぁ。

 

 高潔な魂を糧に、起きろ。

 

 少し忘れられたくらいで眠りに就いた、四聖主共。

 

 彼らを見捨てなかった最後の聖主(ノルミン)は、お前たちを見ていたぞ。

 

 

「四聖主は……災禍の顕主が……叩き起こす!!」

 

 

 ――起きろ。

 

 

 

 

 光が――光の柱が生まれる。

 

 光の柱は半球状のドームを描き、膨らませる。

 それは徐々にカノヌシの領域を押しやり……地上から、宙へと追い出した。

 

 

 

 

 さて、見つからない内にかえろーっと。

 




本編はここで一旦中断し、サブストーリーに移ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。