ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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こういう方針のssです。


dai ni wa senjou de no dekigoto

 

 生前の記憶はない。

 あるのは、Tales of BerseriaとTales of Zestiria、そしてTales of 世界の予備知識のみ。

 恐らく人間だったこと、恐らく女であったこと。 それくらいは覚えているが、自身が何者であったのかはわからない。

 でも、何も問題は無かった。

 

 私が新しく得たこの生に於ける身体には、2つの名前がある。

 1つは対外に名乗っているサムサラという名前。

 もう一つは、凡霊と称される私達の種族がもつ、その生そのものを表す名前だ。

 

 それがあるから、自身が何の役割を持って生まれたのか理解できた。

 

 だから、何も問題は無いのだ。

 

 例えこの世界が、世界のシステムを根本的に変えない限りは永遠に悲しみと苦しみの連鎖が続くという地獄のような場所だとしても。

 

 私は静かに彼らを見守ることができる。

 

 

 

 

「うっはー、本当に業魔の集団だ。 これは使えるかもな!」

 

 ウォーティガン脇の陸地に主人公たちの船を追い込み、囲ませた。 既に彼らには業魔が3匹、聖隷が1匹いると伝えてある。 もう一人の奇抜な女の事は聴かせていないが、どうせ戦わないので問題はないだろう。 

 しかし、なんだ。

 聖隷とはいえ、あそこまで幼少の姿をした少年に無骨な革の首輪、そして鈴。

 なんともまぁ、悪趣味である。

 

「命令よ、二号。 こいつらを蹴散らせ」

 

 長い黒髪の女性が少年に命令を出す。 聖隷術の気配。

 

「おっと! 相手は俺達じゃないぜ」

 

 青年――ベンウィックが腰に手を当て、まるで自身の功績であるかの如く胸を張って……後ろから歩いてきた男に場所を譲る。

 酷く目付きの悪い金髪の偉丈夫。 黒服に身を包んだその様は、しかし陰険さよりも突き抜けた存在を感じさせていた。

 

「俺だ」

 

 その男に向けて、二号と呼ばれた少年が聖隷術によって紙葉を飛ばす。 それを短い詠唱の土の聖隷術で防ぐ男。 あの紙葉、中々に硬いな。

 

「聖隷!?」

 

 長髪の女性が驚いたように言う。 聖隷。 聖主の隷属物。 降臨の日以降は、そのほとんどが対魔士によって使役される――否、強制的に従わされるだけの存在。

 男のように、聖隷自らが1人で戦うというのは相当に珍しいのだろう。

 

「いいや……死神だ」

 

 だが、男は否定する。 一応ことわっておくと、勿論彼は聖隷だ。

 

 

 

 男は身をかがめ、一気に距離を詰める。 聖隷故に、そして先程防いだように聖隷術で来ると思っていたのか、戦闘員3人の内2人は動きの出が遅れる。

 もっとも速く、的確に動いたのは男の業魔。 アルベイン大陸の文化と酷似した文様の着物を身にまとい、背中に太刀を担いだ双刀使いだ。

 常在戦場。 恐らく彼は、どのような場所で、どのような事をしていても今のように即座に対応をするだろう。 それほどまでに、戦いに……斬る事に特化した業魔だから。

 

「ロクロウ! 参る!」

 

 偉丈夫は真っ先に最も厄介な者……つまり聖隷術を扱う二号と呼ばれた少年を昏倒させにかかった。 聖隷術は攻撃にも回復にも対応できる故に、先に潰しておくのが定石だ。

 だが、業魔の男……ロクロウはソレを良しとしない。

 

枝垂星(しだれぼし)!」

 

 拳で殴りにかかった偉丈夫を、ロクロウは宙からの三連斬で止めにかかる。 

 その鋭さは業魔故の身体能力のごり押しではなく、磨き上げられた技術によるものだ。

 このまま殴りかかるのは危険だと判断した偉丈夫は、即座にバックステップ。 先程も使った短い詠唱の地属性聖隷術【ストーンエッジ】を発動させようと試みる。

 

 だが、敵はロクロウだけではない。

 

「なんなの、コイツは!」

 

 詠唱を行おうとした偉丈夫の横合いから、鋭い蹴りが飛んできた。 長髪の女性は文句を言いつつも的確で、ともすれば先の双刀と同程度に鋭い蹴撃を繰り出す。 エッジも仕込んでいるようだ。

 かと思えば唐突に右腕を薙ぐように振り、その篭手に仕込んでいたのであろう、隠しブレードでもって偉丈夫の首を刎ねようとする。

 

紅火刃(こうかじん)!」

 

 更にそのブレードは火を纏い、火は輪状になって偉丈夫に襲いかかった。

 偉丈夫はそれを上体を逸らすことで避ける。 

 

「聖隷が海賊をやっているのか!」

 

 業魔が奇術団に属している事の方が珍しいと思う。 少なくとも、聖隷で海賊をやっている者はここに2人いるから。

 

「剣に双刀に紙葉……ペンデュラム使いはいないようだな」

 

 偉丈夫は彼らを観察しながら言う。 2人の業魔の連撃を避ける間にも、二号と呼ばれた聖隷から大量の紙葉や聖隷術【シェイドブライト】が飛んできているというのに、随分と余裕だ。 まぁ、年季が違うからなのだろうが。

 

「……」

 

 ある程度戦うと、両者は一度距離を取った。 否、偉丈夫が意図的に距離を取らせたというべきか。

 

 

 

「合格だ。 力を貸せ」

 

 その言い方じゃあ伝わらないと思う。

 

「はぁ? 随分勝手な言い草ね」

 

「ヘラヴィーサを燃やした奴らほどじゃない」

 

 彼らの船を追っている時に、どのような構成でどのような経緯であの船に乗っているのかを、まるで感知した風に話してある。 私が伝えずとも、後から来たシルフモドキが彼らに伝えていたかもしれないが。

 

「知ってて試したのか……」

 

「ついでに助けてもいる。 あのまま進めば、ヴォーティガンの海門に潰されていた」

 

 その代り砲弾を当てたのだが。 ここ――バンエルティア号のマスト上から見る限り、甲板やら積み荷やらに焦げ跡及び破壊痕が痛々しくついている。 本当に威嚇射撃だったのだろうか。 沈めるつもりだったのでは。

 

「あんたらミッドガンド領に向かってるんだろ? でも、それにゃこの先の海峡を通らなけりゃならない。 けど、そこは王国の要塞が封鎖してるんだ。 文字通り巨大な門でね」

 

 ベンウィックが丁寧に説明する。 頭の上のシルフモドキも、心なしか凛々しく見える。

 

「そんな要塞が……」

 

「事実なら、借りが出来たな」

 

 思案に耽る女性と肩をすくめる男性。 事実だが、なんだかな……。

 

「俺達も海門を抜けたいが、戦力が足りない。 協力しろ」

 

「海賊のいう事を真に受けるほどバカじゃない」

 

 それはごもっともだ。 アイフリード海賊団は略奪もしっかりやるから。 船長がアレだから、女子供を殺すような事はしなかったけど。

 

「だから自分の目で確かめるか? いいだろう、命を捨てるのも自由だ」

 

 そう言い放つと、偉丈夫は彼女らの方向へ歩き出した。

 身構える業魔一同。 しかし偉丈夫はそれをスルーし、奥……西ラバン洞穴の方へと向かう。

 

「なんじゃ、断ってもいいのか?」

 

 奇抜な格好の、戦闘に参加しなかった女が偉丈夫へと問う。 

 

「お前たちはお前たちで、俺達は俺達でやる。 それだけの事だ」

 

 そんな偉丈夫に、ベンウィックが駆け寄る。

 

「けど副長一人じゃ! やっぱ俺達も一緒に!」

 

「……お前たちは計画通り、バンエルティア号を動かせ。 合図は覚えているな?」

 

「……アイ、サー」

 

 ――船は任せて。 大したことは出来ないけど。

 

 ――俺が早めに済ませればいいだけの話だ。 

 

 交信。 ノルミンとしての力ではなく、私自身のチカラ。 私が繋げた相手とだけ口に出さない会話が可能だが、相手が私につなげる事は出来ない。 でも、シルフモドキよりは速くて確実な手段。 交信を受けた相手の大体の位置がわかる。 霊応力が無い相手とは交信できないけど。 まぁ開門の日以降、人間たちの霊応力は底上げされているので皆無という人間には中々遭遇しなくなっている。

 

「あんたたち、何をするつもりなの?」

 

「言った通り海門を抜けるのさ。 手伝わない奴にこれ以上の事は言えないね」

 

 吐き捨てるようにベンウィックが言う。 目の前にいる業魔は私の手には負えないクラスの物なのだが……。 まぁ、アイフリード海賊団(かれら)にそれを伝えたところで何も動じないのだろう。 それでこそアイフリード海賊団なのだから。

 

「……できるの?」

 

「副長ならやってくれる」

 

「随分信頼してるんだな。 あいつは聖隷だろう?」

 

「そんなの関係ない。 副長は、俺達の船長が認めた男なんだ!」

 

 ロクロウや長髪の彼女らからすれば、聖隷とは聖寮に付き従う道具……つまり、敵なのだろう。 そんなのが海賊に身を(やつ)している、ましてや副長と呼ばれているのは信じられないと。

 

「あんたたちなら、海峡を避けて航海できるでしょ」

 

「……今は無理だ。 前の襲撃で、仲間と羅針盤をやられちまったからな。 何より俺達は海賊だ。 行く手を塞がれたからって、大人しく引き下がれるかよ」

 

 そこには同意しよう。

 そも、海路とは……海とは、自由であるべきだから。

 

「それが海賊……か」

 

 

 その後、何かを仲間内で話した後、彼女らは偉丈夫を追うことにしたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ一時(いっとき)世話になるのぅ!」

「あー、俺は業魔だが、アンタらを喰ったりしねぇから安心してくれや」

 

 彼女らを見送った後、当然とも言う顔でバンエルティア号に乗ってきた奇抜な格好の女性。 そして、尻尾の無いトカゲの業魔。

 彼らの乗ってきた船はバンエルティア号の後ろに繋いであり、カルガモの子のように引っ張られている。

 

 私達――というか、ベンウィックらの仕事は合図に合う様にヴォーティガンの海門を通り抜ける事だ。 例え、偉丈夫……副長が乗ってこずとも。 まぁ彼らの脳内に副長――アイゼンが戻ってこないなどという考えはないのだろうが。

 

「変わり身速いな……。 アンタら、名前はなんていうんだ? 俺はベンウィックだ」

「儂はマジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルントゥークじゃ。 長いから縮めてマギルゥと呼べぃ」

「俺ァダイルだ。 生身の時は船乗りだった」

 

 ――10割偽名。

 

 ――ですよねぇ。 王国のお貴族サマだってもっと短い名前してるぜ。

 

「お、およー? なんじゃその冷めた反応は! くっ、人が折角名乗ってやったというのに、やはり冷血な海賊団か!」

「あ、いやぁ……。 えーと、マギルゥって呼べばいいか。 んでダイルだな」

「おう。 ……これでも海の男でな。 アイフリード海賊団には憧れがあったんだ。 出会えて光栄半分、恐怖半分だぜ」

「一緒に協力するんなら攻撃したりしないぜ。 そんなのは俺達の流儀に反するからな」

「儂らも海賊団かえー? 悲しいのぅ。 こんなうら若き乙女に前科を科すなどと……」

「いやあんたらヘラヴィーサ燃やしてきたんだろ? 十二分に立派な犯罪者だって」

 

 ベンウィックのコミニュケーション能力は高い。 いや、誰に対してもあっけらかんと対応するからか。 彼が敬語を使うのは船長とアイゼン、私くらいのもだから。

 

「そういやマギルゥは奇術師かなんかなのか?」

「ほう! よく分かったのぅ。 やはり儂の溢れ出るオーラは隠しきれぬと言う事か……」

「いやみるからな恰好だからだろ」

「くかーッ! お前の肌のように冷たいツッコミじゃあ!」

 

 ――奇術。 興味ない?

 

「なぁ、今なんか簡単に出来ないのか? 鳩を出すとか」

「簡単に言うでないわ! 鳩だって生きとるんじゃぞ!」

「いや関係ねぇだろうよ……」

「全く……」

 

 やれやれと肩を竦め、大仰な手振り素振りで甲板を歩き出すマギルゥ。 その行先にあるのは大砲。

 

「ちょ、それ弄るなよ……?」

「んー? よく聞こえんわい!」

 

 ポン! と大砲の砲身を叩くマギルゥ。 割と暴発の危険性がある……しかも至近距離であればかなり危険だ。 素人が扱うには。

 だが、危惧した事件は起きなかった。 代わりにマギルゥの右手――砲身を叩いた方の右掌が黄色く光り、ぽふんという軽快な音が響く。

 

「おお! すげぇ!」

 

 砲身から出てきたのは真白の鳩。 霊力の反応があったからどうにかやったのだろうが、聖隷を持たない今の彼女がどのような原理でコレを起こしたのかはわからない。

 

「ふふーん、どうじゃ! 見直したか! ならば崇めよこのマギルゥ様を!」

「さっき鳩だって生きてるとか言ってたのはなんだったんだよ……」

「それはそれ、これはこれじゃ! なんなら貴様の尻尾の切り口も鳩にしてやろうか!」

「そ、それは遠慮するぜ……」

 

 鳩を尻に宿すトカゲの業魔……。 見てみたいと思ったのは私だけだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 少しして、和気藹々? とマギルゥの奇術でベンウィック達が盛り上がっていると辺りを揺らすほどの大きな爆発音が響き渡った。

 

「ベンウィック!」

「わかってる! 速度をあげるぞ! 何があっても突っ切る!」

「応!」

 

 今までゆるゆるとヴォーティガンの海門に向かっていたバンエルティア号と一隻の船が、急激に速度を上げて進み始める。 異大陸の技術によって為されるその推進力は、海峡の水を押し退けて行く。

 

「おや、存外早かったのう。 ……いひひ」

「これがバンエルティア号の推進力……それに、この海流の嵐を抜けきる航海術か。 やっぱりすげぇ……」

 

 閉じきった海門にある程度近づいたと思えば、ギギギギギと轟音を立ててヴォーティガンの海門が開き始める。 海流が変わる。 しかしベンウィックも慣れた物。 海流を利用し、渦を利用し、反流で推進力を得て突っ切る。

 

「おいおい、波止場は業魔だらけだぞ!? どうすんだぁ!?」

「このまま突っ切るよ。 そういう作戦だ。 副長たちは海門の上から飛び下りてくる」

「なんつー無茶な……」

「それが俺達アイフリード海賊団の流儀さ。 サムサラ姐さん! マスト広げるぜ!」

 

 ――わかった。 業魔が飛び移りそうになったら弾くから、ベンウィック達は突っ切ることに専念して。

 

 ――アイマム!

 

「ダイル、マギルゥ、しっかり捕まってろよ……って! 大砲を弄るな!」

「援護射撃という奴じゃよー。 えーと……これに火を付ければいいんじゃよな」

「ちょ、誰かあの人止めろ! ろくに照準も合わせないで撃ったら――」

 

 

 どーん。

 

 

「……」

「……」

 

 轟音。 これがするということは、少なくともどこかに着弾したということ。 恐らく海門のどこか……上かな。 これも死神の呪いだとしたら、もういう事はない。

 

「大当たり~!」

 

 マギルゥだけが軽快な声色で歓声を上げる。

 よくよく確認してみれば、海門上にいた業魔に直撃したようだ。 哀れこの門の責任者。

 

 

 

「よっ」

「ふん」

 

 私のいるマストの両側のロープをロクロウとアイゼンが渡る。 うぅむ、流石に様になる。 さらに上からは二号と呼ばれる少年の、最初に見た時よりも感情が芽生えたような悲鳴をまき散らしながら長髪の女性と(くだん)の少年が降ってきた。

 少年の腕には羅針盤。 航海では大切なものだ。

 

 降りてくる――否、落ちてくる少年と一瞬だけ目が合う。 もっとも落ちる速度が速度なので、こちらを完全に認識しきることなく少年と女性はそのまま甲板の方へ降りて行った。

 

「御見事!」

 

 戻ってきた面々にベンウィックが駆け寄る、 やはり彼らは奇術団なのかもしれない。

 

「まずは命の恩人への感謝が欲しいのぅ?」

「いやいや、弄るなって言ったのに勝手に大砲着火させて暴発させたんでしょ!」

「そうじゃが~、アレはいい暴発じゃよー?」

 

 物は言い様だった。

 

「ごめんなさい……」

 

 二号と呼ばれていた聖隷の少年が長髪の女性に頭を下げている。 首輪を付けた少年が長身の女性に……おっと。

 

「ちゃんと持ってなさい。 そんなに大事なら」

 

 長髪の女性は屈み、少年に視線の高さを合わせてから頭を撫でた。 優しい声だ。

 

「貸せ、進路を出す」

 

 そんな少年に、アイゼンが羅針盤を要求する。 

 だが少年はコレは自分のものだとばかりに羅針盤を渡さなかった。

 アイゼンは少年のその態度に一瞬呆け、その後ニヤリと笑う。 あぁ、これは気に入ったな。

 

「じゃあ、お前が進路を決めろ」

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

「ただし、読み間違えたらサメの餌にするからな」

「!?」

「……しっかりね」

 

 

 船はゼクソン港へと向かう。

 




このように、原作をおいつつも描写されなかった部分(主にバンエルティア号関連)の描写をしていきます。


雑談の方が多いかも。 主人公が見ている時なら、戦闘も描写しますが。

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