ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題) 作:飯妃旅立
捏造設定・独自解釈過多ですので、お気を付け下さい。
以下注意点
※前話と同じくサブタイに注意です。
――なんだか……不思議な感覚です。 副長も姐さんも見えなくなって……俺はアイフリード海賊団の中で最年長になって……今、こうして姐さんと会話してる。
――うん。
――副長は……多分、もうバンエルティア号には乗ってません。 最後に一瞬見えた気がしたんです。 すぐそばに。
――うん。
――副長達と一緒に居た奴らはもう逝きました。 あとは、俺だけ。 やっぱりわかってたんですか?
――……うん。
――最期に、姐さんと話せて良かった。 ほんとに……楽しかった……です……。
――うん。 さよなら、ベンウィック・アイフリード。
――……へへっ、ベンウィック・アイフリード
「終わったのかよ」
――うん。
あれから更に60年が経った。
ダイル含め、バンエルティア号の船員はどんどん減って行ったらしい。 人間なんだ、当たり前だろう。
「ま、海賊でしかもアイフリード海賊団の船長やってたのに老衰で死ねるなんて、すげーことなんじゃねぇの?」
――だろうね。 お墓はいらないって言ってたし、満足できた人生だったと思うよ。
「アイゼンは?」
――少し前に船を降りて、ベンウィックの死に目だけ見たみたい。 交信を繋げてないから正確な位置はわからないかな。
「なンで繋げねーの?」
――誰だって1人になりたいときが或る、でしょ?
「……それなら仕方ねェか」
そして先程。
ベンウィックが、その生を閉じた。 海賊でありながら100歳を過ぎて老衰という、この世界の人間……誓約をしている者を除けば恐らく最長に近い長寿だっただろう。
何よりもすごい事は、その生に於いて彼は一切の穢れを生まなかった事だろうか。
バン・アイフリード率いたアイフリード海賊団が副長。 現アイフリード海賊団が船長、ベンウィック・アイフリード。
「この穢れは……何ッ!?」
上空を一匹のドラゴンが翔んで行った。
その方向にあるのは、ザマル鍾洞か。
「今のは……」
――ザビーダ。 あそこ。
「ん? ありゃあ……マギルゥか?」
視線の先。
そこには、座り込んだマギルゥの姿が。 あの戦いから90年経つというのに、全く姿が変わっていない。
そこへと歩いていく。
「……渡りに船、という奴かのぅ……久しぶりじゃあ、お主ら」
「ンだよ。 やけに元気ないじゃん? お前、そんなキャラだっけ?」
「儂だって落ち込む事くらいあるわい。 か弱き少女……でもないがの」
――誓約、したんだね。
「……サムサラ。 そうじゃ。
「あり、そういえばビエンフーの奴が居ねえな」
――ビエンフーが限界だった。 違う?
「……当たりじゃあ。 もう大丈夫じゃからノルミン島へ戻れというのに……あやつは全く言うことを聞かんかったわい。 最後にこの帽子を儂に返して、飛んで行きよった」
「はァ!? じゃあ、あれはビエンフーかよ……!」
――ベルベット達と出会った当初から……ううん、もっと前から兆候はあったんでしょ?
「……そこまでわかっとったか。 そうじゃ。 既にあ奴の頭には角が生えていてな。 無理もない。 ずっと穢れの傍にいたようなもんじゃからのぅ……」
「……そこまで分かってて……ベルベットやロクロウと一緒に居たらなおさらじゃねぇか!」
「あ奴の心中なぞ知る由もないわい。 じゃが……戻れと言って聴かなんだ。 儂がけじめをつけねばなるまいて」
――良かった。 ふさぎ込んでるだけじゃなかったんだね。
「今だけは、吟遊詩人メーヴィンでなく大魔法使いマギルゥ様としての姿を取り戻すとするかのぅ」
「俺も行くぜ。 あいつだって、むやみやたらに他人を傷つける存在で居続けるのは嫌だろ」
――勿論、私も。
「素直に助かるわい。 今のあやつは、ちと骨が折れそうじゃからのぅ」
向う先は、ザマル鍾洞。
静かな鍾洞を歩く。 ビエンフーの領域を恐れてか、業魔はほとんどいない。
「ザビーダ。 ちとお願いがあるんじゃが……」
「ン? 何だ?」
「自前の霊力だけでは儂は大きな術を使えぬ。 じゃから……一時だけ、儂と契約して欲しいんじゃ」
そう言って取り出したのは、凄まじいまでの風の霊力が秘められたナイフ。
周囲の霊力をも取り込み、結合の術式が駆けられている。
――もしかして、神器?
「そうじゃ。 だが、対魔士共の使っていた強制させるタイプではないぞ。 聖隷と人間がお互いに同意し合う事によって力を高められる、本来あるべき形の神依を為すための道具じゃ。 ノルミンと出来るようには作っていないが……」
――私とはできないよ。 主神をザビーダとして見るの?
私は既にしているから。
「……どこまで知っとるんじゃ、お主は……。 そうじゃ。 じゃが、これはそこまで大層なものじゃあない。 恐らく2、3度戦闘を熟せば砕けてしまう。 安心せい、聖隷側への負担は出来るだけ無い様に作ってあるでの」
「……ま、良いぜ。 で、何すりゃいいの、俺は」
「お主の真名を教えてくれるだけでいい。 後は、恐らく引っ張り込むような力に抗わない事じゃな」
「ま、マギルゥは『良い女』だしな……。 フィルクー=ザビエ。 それが俺の真名だ」
――見た感じ、この神器が使用に耐えられるのは4回。 だけど、秘奥義レベルの術を使えば1回で壊れちゃうと思うよ。
「お主の名前、しかと覚えた。 そしてサムサラ……忠告、感謝じゃ」
「それじゃ、行こうぜ。 あのお調子者を『戻し』に」
――うん。
ドラゴンパピーという存在がいる。
ドラゴンの幼体とでも言えばいいのか、生体のドラゴンよりかは弱い存在。
私達の目の前にいるのは、そんなドラゴンパピーを……一回り大きくした存在だった。
「こぉらビエンフー! 姿を変えて良いと許した覚えはないぞ!」
マギルゥの軽口に、しかしビエンフーはグルグルと唸るだけだ。
もうビエンフーでは無い。
「マギルゥ、行けるか?」
「誰に物を言うておる! 悪鬼羅刹を討つのが……っ! 大魔法使い、マギルゥ様じゃ!」
――来るよ。
そして、戦闘が始まった。
「『フィルクー=ザビエ』!!」
開幕神依。 リオネル島で見たオスカーのように風のナイフを従えた姿になるマギルゥ。
しかし、感じられる霊力は高まり続け、留まるところを知らない。 同調している証だ。
――死の
「『迅の裂刀!』」
「グォォォオオオオオオオオ!!」
踵落としによる斬り下ろし。 真空刃を纏った一撃は、しかしビエンフーの外皮に阻まれる。 だが、少しは傷が付いている。
「『竜の裂華!』」
――解き放たれし不穏なる異界の力、目の前に邪悪の裁きを。 ヴァイオレットペイン。
蹴り上げに
確実に、
「『千の毒晶!』」
展開した風のナイフの一斉掃射。
――葬送の制裁、蹂躙せしは怒涛の暴風。 テンペスト。
それを追いたてるように横方向に軸を向けた竜巻を発生させる。
加速し、ビエンフーに刺さるナイフ群。
「グォォォオオオアアアアアア!!」
「『嵐界! 霊陣! ラストフレンジー!』」
さらにそのナイフ群から霊力砲の一閃。 そういう使い方をするとは思わなかった。 どちらもが歴戦の猛者であるからだろうか。
硬い外皮の内側から放たれる、霊力のブレード。
――2人とも、隙を創るから行って!
「『応!』」
神依時だからこそ、2人同時に交信が出来る。
そんな少しだけの発見をしつつ、霊力を集める。
ちなみに神依時も私はザビーダの腰に括りつけられているので、見た目的にはマギルゥの本に乗っかっている感じである。
――始まりと終わりを知らず時の狭間に遊べ、ストップフロウ!
カノヌシの行動すらをも封じた術。 聖隷術ではないこの術が、ビエンフーの動きを止める。
――今。
「『風神招来! 我が翼は碧天! 天を覆うは処断の翠刃! シルフィスティア!!』」
天から、竜を叩きつける風の刃が降り注いだ。
「ビエンフー!!」
手を伸ばし、マギルゥが跳ね起きる。
既にビエンフーの体は無い。 ただ、美しい色をした宝珠がそこに転がっていた。
「……そうじゃった、の……」
「よっこいせっと」
その宝珠を拾い上げたザビーダ。 それをマギルゥの所まで持ってくる。
「どうよサムサラ。 ビエンフーはちゃんと戻ったか?」
――うん。 ビエンフー’’は’’戻ったよ。
「……? なら良かった。 んじゃ、マギルゥ。 コレ持っときな」
「……ビエンフーの形見、という所かえ? 儂がそんなものを大事にするように見えるか?」
「見えるさ。 アンタもビエンフーも大切なものはずっと取っておくタイプだろぅ?」
「……ハッ。 良い男が聞いてあきれるわい。 女を見る目が……無さ過ぎじゃあ!」
「涙声で言われてもなァ」
神器だったナイフは砕けている。 修復には時間がかかりそうなほどに。
「……儂が死ぬまでに、これを永遠に使えるモノにまで仕立てあげる。 それで借りはチャラじゃ」
「別に貸しだなんて思ってねェけど? つか、それ俺にそこまで関係ねーじゃん」
「良いな! それと、サムサラ!」
――何?
「お主の事も面白おかしく語り継いでやるでの! 吟遊詩人メーヴィンを甘く見るでないわ!」
――別に甘く見てないよ。 今だって葛藤して、泣き喚きたいのに……
「うるさあああああい! ふん! またの!」
「じゃあな、マギルゥ」
――さよなら、マギルゥ。
「……最後まで、ノリの悪い奴らじゃあ……」
「ビエンフーが残した宝珠……アレはなんだったんだ?」
――あれは勇気の宝珠。 人間が変わるための一歩を踏み出す力の塊。
「……?」
――私達ノルミンは、それぞれ司っているものがある。 アタックなら他者を攻撃する意欲。 マインドなら集中するという意欲。 そして、ブレイブなら勇気そのもの。
「……」
――現時点により、ただの人間は霊応力が有っても業魔を倒すことが不可になった。 どころか、なんでもない無機物すらも業魔になる。 今までビエンフーが存在しているだけで周囲にまき散らしていた『勇気』が固まってしまった。 よって、人々の欲望は……踏み留まる勇気が限りなく少なくなり、増大する。 私達聖隷でさえも、特別な力が無ければ倒しきれない程、強力に。
「……特別な、力だと?」
――例えば、ライフィセットの使っていた白銀の炎。 元々はカノヌシの力。 例えば、ベルベットのような喰魔の力。 それもカノヌシの力だね。 そして、コレ……ジークフリートのような、断ち切る力。 これはブリュンヒルデとジークフリート、ミヤビの力。
「それって……ヤバイんじゃねぇの?」
――ヤバイ、なんてものじゃないだろうね。 とはいえ、マオテラスの力で業魔の数は減り、霊応力が戻った事で業魔自体を視認できる人間も減った。 業魔って存在を知らない人間が多くなれば業魔は業魔としてではなく、悪魔憑きとか鬼憑きとか、変なものが憑りついた存在だって認識されるようになるんじゃないかな。
「だが、そりゃあ……何も変わってねーだろ?」
――そう。 何も変わってない。 これから起こるであろう大規模な地殻変動により、業魔がいたという事実はさらに失われていく。 何も変わらずに、危機だけが人類の首を絞めたまま動いていく。 そして、その災禍が集えば……。
「災禍の顕主が生まれる……」
――呼応するように導師も現れるんじゃないかな。 ほら、感じない?
「……? 何がだ?」
――カノヌシの残滓が、起きたよ。
完全に捏造設定です。