ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題) 作:飯妃旅立
「……誰よ、あんた」
「おー、初対面なのに敵意バリバリだねェ! でも見てよコレ。 お揃いのストラップ。 これで仲良く出来なーい? な、エドナちゃん」
霊峰レイフォルク。 その中腹。
一見ただの穴のように見える入口を進んだ先にあった、こじんまりとした家。
玄関先に見覚えのある
ここがアイゼンの家だ。
そして、勿論アポイントメントの無い私達の来訪に……家主であるエドナが、武器であるパラソルを此方へと向けて、歓迎してくれた。
「何? ストーカー? それならもう間に合ってるんだけど」
「手厳しいねぇ! いやなに、ここら辺に可憐な花みたいにカワイイ天族が住んでるって聞いてさぁ、つい訪ねてきちゃったわけ!」
「この辺に近づく天族……かめにん? 今度来た時醤油漬けにしてやろうかしら」
濡れ衣だけど、まぁ顧客情報をあんな公でペラッペラ喋るのを反省してくれればいいかな。 後、言い方からしてバレてるよ、フェニックス。
何故目を動かすのだろうか。 バレたいの?
「エドナちゃんもノルミン好きなんだろ? どう、この後どっかでお茶しない?」
「ノープランで女の子をナンパしたって、誰もついてこないわ。 あと好みじゃない」
――フェニックス。 その姿勢辛くないの?
――む、この会話方法も久方ぶり。 我はノルミン界最強の男フェニックス! この程度の苦行、なんということは無い!
「うわひでェ……。 つか、ノルミン関係の事ガン無視? っかしぃなぁ……エドナちゃんはノルミンにただならぬ興味を持ってると思ってたんだが……」
「コレはお守りよ。 大切な人がくれたから付けてるだけ。 別に、コレクトしてるわけじゃない。 というか、そろそろ名乗ったら? じゃなきゃストーカーって呼ぶけど」
――あ、やっぱ苦行なんだ。 ちなみに何年前から?
――友からの頼みを受け、かめにんによって運ばれてから長い年月が過ぎた……。
「大切な人ねぇ……。 あぁ、俺は風のザビーダっての。 気軽にザビーダ兄さんって呼んでくれていいぜ?」
「不愉快ね。 帰って。 すぐ帰って」
――じゃあ500年くらいか。 でも、エドナが寝てる時は夜なべしてるんでしょ?
――何故それを……いや、流石は我が半身と言ったところか……
「おおっと! 天響術の気配! んじゃ、また来るぜ!」
「次に来たら問答無用でぶっ放すから」
――じゃあね、フェニックス。 半身同士、ストラップの身に甘んじよ?
――矢張り我らの辿るは同じ運命か……ッ!
「あれが今の災禍の顕主ね……。 ンで、あっちが今の導師……。 人間はいつまでも同じ事やってンねぇ……」
――閉じてる輪の中じゃ、成長なんかできないよ。 枠組みを破らない限り。
「救われねェ話だ……。 ところでよ、サムサラ。 あの山……前からあったか?」
――ううん。 大陸移動でイーストガンド領がこっち来た時に、イカヅチ諸島とくっついたんだよ。 でも、あの中にいるのは隠居した天族ばっかりだと思うよ?
「あー。 ずっと感じてたメチャクチャでけェ風の気配はそれか……」
――ゼンライっていう、雷を操る天族がいるね。 天界出身の紛れもない天族だよ。
「サムサラは会った事あるのか?」
――ううん。 でも、知ってる。 遥か昔に教えてもらったから。
「アンタが言う遥か昔ってのは……云万年も前の事か?」
――うん。 云万年も前の事。 地脈の中くらいにしか
「はぁ……。 なンとも実感の無ェ話だ」
――そうだね。 私も大半寝てるからそんなに長く感じてないや。
「……ノルミンだったな、そういや」
――ノルミンだよ。 紛れも無く。
「……はぁ。 お、災禍の顕主が……」
――倒されたね。 これでめでたしめでたし。 平和になった人間は、災禍の顕主の存在も導師の存在も忘れてしまうのでした。
「そしてまた繰り返す、か……」
――お別れ、だね。
――ふん。 じゃあな。
――うん。 おやすみ、アイゼン。 必ず戻しに行くよ。
――あぁ……必ず……。
「ン? どうしたよ、サムサ――!?」
――領域、展開。 速めの離脱を推奨する。 エドナはアイツが守ってるから、速く。
「チッ! くそっ、もうかよ……アイゼン!」
――この濃密な穢れは一時的な物。 けど、今コレにザビーダが触れたらザビーダごとドラゴン化する。 戦略的撤退。
「わぁーった! 範囲はどンくらいだ!」
――丁度レイフォルクを覆うくらい。 脱出最優先で。 道中に何かあっても、戦闘行為はご法度。 いいね?
「くそッ!」
ベルベットがいなくなってから、800年。
アイゼンが……ドラゴンと化した。
「一時的じゃなかったのか?」
――もう少しかかるよ。 あそこは地脈点だから、少し長いだけだと思う。
「はぁ……。 速く殺してやンねぇとならねェのに……」
――あ、そこ。 ザビーダそこの木陰。
「ン? あー……レッドサフランか。 薬草集めも大概にしたらどうよ?」
――枯らす方が勿体無い。 それに、この苦味は心水に合うんだよ?
「ツマミかよ! ……あンたは何もおもわねぇの? ずっと仲間だったってのによ」
――仲間だったから、特に何も思わないよ。 来てほしくない時だったとは思っていたけれど……穢れが濃い程、完全に戻るまでに時間がかかるから……やっと来た、って思いはあるかな。
「相変わらずよくわかンねぇな……。 はァ。 うじうじしてても仕方ねェか。 ちょっくら世界でも見て回るかね……」
――15代目バスカヴィルとかに会ってみる? 今はペンドラゴにいるみたいだけど。
「バスカヴィル? ……あぁ、血翅蝶の……15代目? いやどンだけ続いてんだよ!」
――今も血翅蝶かどうかは知らないけどね。 4代目までしか霊応力が呼応しなかったみたいだし。
「んじゃ俺が会いに行っても見えねェだろ……。 というか、俺はそこまで血翅蝶と関わり無かったしよ」
――じゃあローグリンは? そろそろ良い心水が出来てる頃かも。
「……だがよ、結局俺達じゃ盗む事になンねぇか? そんならニャバクラにでも行った方が……」
――あれ、ザビーダ行った事あったんだ。 テオドラが居た時?
「アイツと出会う前さ。 あんないい女置いて酒飲みにいったりしないぜ」
――行くなら一緒に?
「わかってんじゃないの。 ……っはぁ。 どっかにいい女いねェかなぁ……」
――エドナはダメなの?
「いやエドナちゃんは……あと500年くらいだな……。 ちと子供過ぎる」
――グリモワールは?
「大分飛ンだな……。 サウスガンド領は遠すぎるからパス」
――ライラ。
「若い。 けど結構ねらい目」
――私は?
「アンタが断るだろ?」
――うん。 単身で本気のフェニックスに勝つくらいが大前提かな。
「アンタはフェニックスとくっつけば、って痛ェ!?」
――断る。 そもそもノルミンは繁殖不可。
「じゃなンで振ったんだよ!」
――流れ。
「……はぁ」
あの導師が誕生するまで、あと300年。
このSSでは空白期間を1100年としております