ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題) 作:飯妃旅立
第一話当たりの雰囲気に近いです。
マーリンドに地の主の加護が与えられた。
憑魔と化し、ドラゴンパピーへとその身を転じていたロハンを浄化し、地の主の役割を持たせた。
おかげで私が領域を出す必要もなくなったし、憑魔も綺麗さっぱり鎮められたのだが。
現在私は、マーリンドの大樹の上にいる。
ぽつんと。
1人で。
久しぶりの1人旅状態だった。
というのも、こそこそと私達
『
そう言われてしまえば私は引き下がるしかない。 昔はいばら姫を集りに行ったという前科があるとはいえ、今回のは恐らく……本当に1人で浸りたい目だったと思うから。
まぁ、1000年も一緒に居たワケで。
どうせだから、という理由でを付けて私は、
――じゃ、ここでお別れだね。
と交信してみればあら不思議。
ザビーダは一瞬驚いたような顔をして、次に意を決したような顔をして、最後には神妙な顔つきになって、
『あぁ……世話ンなったな、サムサラ』
と。 それだけ言って、身体を風に包んで去って行ってしまった。
まぁ別れるのはいいんだけど、何故ああも……今生の別れ感を漂わせていたのか、とても気になる次第だ。
回想終了。
とまぁ、こんな
私の眼下にいるロハン……ではなく、『セット』されたらしいアタックに、声を掛けてみる事にした。
――ノルミン・アタック。 ディフェンスと一緒に出てきた世界は、やっぱり辛い事だらけだった?
「!?」
視界の隅で、アタックがガクンと頭を上げる。 あ、ヘルムが地面に刺さった。
あぁいう動きをするからアタマデッカチ族とか言われるんだろうなぁ。
「だ、誰や? ウチの頭の中に話しかけとくるんは……」
「どうしたんだ?」
「誰かが……誰かが頭ン中で声かけてくるん!」
――あれ? ……あぁ、そうか。 あの時は顔合わせしなかったんだっけ。
「ま、またや!」
「……憑魔か?」
さて、無為に脅かしていないで降りるとしよう。
――誘惑の罠張り巡らせ、我が懐中に。 トラクタービーム。
足元と頭上にそれぞれ弱いものと強いものを発生させ、ゆったり降りる。
まぁ身体が軽いからこの程度の高さから落ちた所でどうにもならないのだが、気分と言う奴だ。
「む……? ノルミン、か?」
「はぇ~……お姉さんはん、見たことない顔やけど……」
――1000と少し前、災禍の顕主ご一行がノルミン島に訪れたのは覚えてる?
「ま、また声~!? ……あ、もしかしかてて、お姉さんはんの声なん?」
――そう。 この方法でしか喋れないから、ごめんね。
「そうなんかぁ……。 それで、災禍の顕主ご一行っていうとー、もしかしかてて、ビエンフーはんやグリモ姐さんが来やはった時ですかぁ?」
――うん。 その時に私もいたんだけど……覚えてないかな?
「すんまへん~、覚えておりません~」
――まぁ、直接顔を合わせてないから仕方ないよ。 ……それで、アタック。 ディフェンス達と一挙してノルミン島の外に出てみて……やっぱりあそこに帰りたいと思う?
「……確かに楽しい事やけほななくて、辛い事悲しい事もたんとおしたやけど、やっぱ人間はんの役に立つん好きやし、なんよりうちは芸術が好きですねん。 やさかい、今すぐに帰りたいとは思居りません」
――そう。 なら良かった。 若い子達を守るのは、年長の役目だからね。 あなた達が楽しんでるなら……それでいいよ。
「……お姉さんはんの名前、おせてくれまへんか?」
――サムサラ。 ミヤビより年上……って言ったら、思い出すかな?
「ミ、ミヤビはんより……!? そらフェニックス兄さんと同い――」
――その名前は、禁句。 まぁアイツも旅してるみたいだし……いずれ会わなきゃならないんだろうけどね。
「……アタック。 先程からずっと独り言を言っているみたいだが……どうかなっちまったのか?」
「あれ、ロハンはんには聞こえてないんかぁ~?」
――私の
「サムサラ姉さんが謝る事ないはずや~」
サムサラ姉さん。
懐かしい響きだ。 ビエンフー。 そして、ベンウィックやアイフリード海賊団の仲間達。
確かもっと過去にも、私をそう呼ぶ者がいたような……。
アレは誰だったか……。
「姉さん?」
――何?
「なんか悲しそないな顔をしいやおいやしたさかい」
――ふふ、ありがと。 若いナイトさん。
「……ノルミンの表情……。 口元以外での判断方法があるのか……」
――失礼。 目元とか口元以外も、よーくみればみんな違うんだよ?
「ッ!? 声が……!」
「わぁ~、ほんまやぁ~。 ウチには何も聞こえへん~」
「聞こえてないってのか……?」
「姉さんの声は、1人にしか聞こえへんらしいんよ~」
――そう言う事。 初めまして、加護天族ロハン。 昇るモノ。 私はサムサラ。
「サムサラ……。 聞いたことがある……確か……」
お?
もしや、マギルゥが広めたという噂か?
「異海に渡ってはツマミを求め、酒を飲み、数十年は自分で歩かない怠け者……」
ほう。
「その天族の名をサムサラ。 かつてこの世を征した大海賊アイフリード海賊団の食材庫を器にした世界一食い意地の張った天ぞ、」
――始まりと終わりを知らず時の狭間に遊べ、ストップフロウ。
「k……u……」
――アタック。 それじゃ、元気でね。
「はい~、サムサラ姉さんも御達者で~」
――誘惑の罠張り巡らせ、我が懐中へ トラクタービーム。
こちらへ手を振ってくれているアタックに手を振りかえしながら考える。
最後の器のくだり以外合っている辺り、確実にマギルゥの仕業だな……。
ロハンには完全なる八つ当たりだったが、まぁあと1時間くらいしたら解けるから安心してほしい。
仕返しするには……ふっふっふ。
「装備品のスキルについて教えてほしいんだ!」
いや、まぁ。
いつかは相見えるだろうなーとは思っていたけれど。
こんな往来で、人の目のあるところで、天族と会話を始める導師と出会うとは思わなかった。
出会うとはいっても、私は樹の上なんだけど。
ただエドナがキョロキョロしてはたまに私のいる樹を見ている辺り、ノルまっしぐらが働いてるんじゃないかと思う。 ノルまっしぐら……私にも効いたんだなぁ。
相変わらず、というか多分あっちは今生の別れみたいな別れ方をしたと思い込んでいるザビーダは当然帰ってこないし、そろそろトラクタービームで他の街へ行ってみようかなーという所でこのご一行を発見した次第だ。
ザビーダには見せない、つまり私も史実以外では見た事の無い信頼或る毒舌が導師様たちを突き刺していく。
うーむ。
いや、別に特に隠れている意味は無いのだけれど……私のスキルを彼らの付与する事は出来ないワケで。 ついでにぶら下がってるにも拘らずこちらを目線で追ってくるフェニックスにも会いたくないワケで。
どうにかして退散したいのだが、動けば見つかるのが関の山。
御世辞にも私の移動速度は早いとは言えない。 トラクタービームは瞬時の方向転換には向かないし、瞬間出力を上げる事は出来ても射出速度まで上がるワケじゃない。
つまるところ、ミボの矢のようなものが大敵なのだ。 だからライフィセットやザビーダに引っ付いて機動力を補っていたわけだし。
「! 近くにいるわね……!」
わっほい。
ちょっと様子を見ようと思ったら感知された。 おかしいな……史実におけるこんな序盤で、サポートタレントのレベルはそこまで上がっていないと思うのだけれど……。 更に私は隠匿の聖隷術……もとい、天響術を使っているワケで。
それすらをも貫く感知能力だというのだろうか。 ノルまっしぐら……侮れない。
「あれ、ロハンさん?」
「d……e……a……r……」
「であー?」
「であー、ですか? うーん……ここであーったが100年目! であー参ろう! なんて!」
「無理有り過ぎ。 それに、100年は生きすぎ。 30年とかでいいでしょ」
「u……t……o……k」
「うとく?」
「スレイ、何か様子がおかしいぞ。 何かの術がかかっているのかもしれない。 ライラ!」
「うとく……うとく……? あ、はい! なんでしょう、ミクリオさん」
「なんでしょう? じゃなくて! ロハンさんに何か術がかかってないか見てくれ。 あと、エドナはアタックを探してくれ!」
「頼みごとばかりね、ミボ。 でも自分は何もしないのね、ミボ。 良い御身分ね、ミボ」
「そういう意味じゃない! どうして君はそうやってすぐに曲解するんだ!」
「自分の説明下手を私のせいにするのね、ミボ。 ま、いいわ。 優しい私が探してあげる。 あなたはそこで何もしないで腕を組んで足を組んで座ってるといいわ」
「僕も探すよ! 探せばいいんだろ!!」
「ライラ、どう?」
「コレは……無属性の天響術ですわ。 それも、相当高位の術者がかけた……。 時間を遅くする術ですね」
「時間を!? そんな術があるの?」
「はい。 今は失われた術です。 でも、アイテムのアワーグラスでも同じような事ができますよ」
「へぇ~……ライラは物知りだなぁ」
「いえ、それほどでも……。 しかし、この術をロハンさんに掛けた理由がわかりません。 この術は本来、敵の動きを止めてその隙に攻撃・回復を行うための術なのですが……」
ハッ。
エドナがいない今なら、逃げられるじゃないか。
しかしコレ、ロハンのストップフロウが切れるまで居座られたらどうなるんだろう。
犯人が私だとわかったとして……追われるのだろうか。
や、まぁ……それは特に問題ではないのだけれど。
ただ、まぁ。
私もノルミンとして、はんなりほちゃほちゃ生きていたいと言う欲求はあるわけで。
追われ続けるのは嫌だなぁ。
いっそのこと捕まっちゃう――のは、ダメなんだった。
むーん。 どうしたものか。
「連れて来たわよ。 あら、どうしたのミボ。 手ぶら?」
「仕方ないだろ! 僕にはノルミンの位置なんてわからないんだから!」
「また言い訳? ねぇ、言い訳なの、ミボ」
「言い訳していいわけ? なんちゃって!」
「ハハ……2人とも、そのくらいで抑えて抑えて。 それでアタック。 ロハンさんがこうなった理由、わかる?」
「スルーされました……」
――アタック。 私の名前を出さない感じでお願い。 あと体色もダメだから。
「へぇっ!? あ……」
「どうしたんだ? 急にキョロキョロしだして」
「敵か? スレイ、穢れの気配は?」
「え? いや……特に増えてはいないけど」
「敵が憑魔とは限らないわ、ミボ。 ザビーダみたいなのだっているんだから」
「……まともな事も言うんだな」
「それで……アタックさん、理由を教えて頂けませんか?」
「えっと……えとな? ロハンはんが、通りかかった天族はんに、『世界で一番食い意地の張った天族』なんて失礼なコト言いはってな?」
「まぁ……」
「しかもそん人はおなごはんやったさかい、余計に怒ったんやと思う……」
「それは因果応報ね。 コイツが悪いわ」
「うーん……それは俺も擁護できないかなぁ。 ハハ、食い意地の張ったは言い過ぎだと思う……っていうか、聞こえてないのか」
「女性にそんなことをいったら怒られて当然ですわ! スレイさん? あなたはそういう人にならないでくださいね?」
「うん。 ジイジに女の子には優しくしろってキツく言われてたし……。 もし間違ってることが在ったら、しっかり教えてね、ライラ、エドナ!」
「ふふ……やっぱりスレイさんは純粋な心をお持ちですわ」
「そうね。 少し馬鹿すぎるキライはあるけど……少なくとも、ミボよりは純粋だわ」
「やっぱり飛び火するのか……来ないと思ってたら」
「何? 待ってたの? Mなの? ドMなの? 実はドMってドミボの略なの?」
「違う! あーもう!」
一行は騒ぎながら村の南口の方へと歩いて行った。
ロハンは完全に濡れ衣感あるけど、噂とはいえ女性に食い意地の張ったなんて言っちゃいけないと言う事を学べたよね。
――アタック。 パーフェクトだよ。 お礼に、君に良い物をあげよう。
「そないなこと言われても、うちは正直に話どしたやけど?」
――その純粋さを捨てなければ、もう大丈夫だよ。 それじゃ、ありがとね。
ダムノニア美術館に1つ。
グリュウネのミヅガメを、送っておいた。
かめにん郵送で。