ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題) 作:飯妃旅立
オリ設定出てきます。
湿原と言う名に負ける事の無い、湿気と言う湿気を詰め込んだような湿原に降りる。
こういう、暑苦しさのあるじめじめとした所は実を言えば好きではない。
あくまで私が好きなジメジメは暗い洞窟の奥深くとか、果ての見えぬ裂け目の地下深くとか、そう言う場所。 フェニックスが炎でも、私は水ではなく地なのだ。 属性は無だけど。
既に導師一行の去ったその湿原は、重苦しいまでの静寂を……生弱を見せている。
憑魔が蔓延り、瘴気が蔓延り、戻ることさえできない怨嗟が蔓延しているのだ。
それは、あの風の試練ギネヴィアと同じ。
あそこはワーデルがいたし、場所の性質上力が上へ上へと逃げていたからここまでではなかったけれど……湿気に覆われ、逃げ場の無くなったここは、あそこよりも酷い。
取り出すのは赤葡萄心水。 既に銘柄など解らない程に薄まったソレは、ただの赤葡萄心水とした方が良いだろう。
末女の
長女の
そして、
――酒気は精気。 精気は聖気。
次女の
赤葡萄心水の残り半分を半分になるまで零し、ロディーヌ村の地面に混ぜる。
さぁ、これで彼女達への弔いの
後はもう一度、あの村へ行って……彼女らを出迎えるだけだ。
「サムサラ! ちょっと来て!」
――わー。
一度ローグリンに戻ってきたスレイ達にむんず、ガシィ! と掴まれて、拉致された。
地脈間ワープが使えないので、ドナドナドーナと運ばれる事1時間ちょい。
私の目の前には、何やら曰くあり気な遺跡があるではないですか。
犇めく穢れ、蠢く瘴気、さんざめく悲鳴。
いつぞやの監獄島や第四種管理区域を思い出すその有様は、何を隠そう穢れの坩堝。
「一緒に入ってくれ!」
――え?
やはり口に出さずとも思うだけで災いはやってくるらしい。
事の顛末、なんて面倒な事を言うまでも無く、見つけた穢れの坩堝に誰も反応しなかったのだそうだ。 スレイとロゼ以外。
であればスレイとロゼだけで入ればいいじゃないかと思うのだが、それだと浄化の力が云々かんぬん。
考え方を変えてみようと、つまり地水火風が反応しなかっただけで無属性には反応するんじゃないかと、あぁアイツがいたなと。
さぁて連れてこられました非力なるサムサラちゃん。 穢れの坩堝がどういう役割なのかを知っているだけに、乗り気ではありません。 例えヘルダルフによって良い様に利用されていようとも、ノルミン的使命としてはこの場所便利なのであんまり消費したくないのです。
そもそも。
「え、契約が結べない?」
「一時的でもダメなの? サムサラだって天族でしょー?」
そう、私は彼らと陪神契約も主神契約も従士契約も結べないのです。
何故なら既に主神がいる上に、主神にそんなにキャパシティがないから。
「ところがどっこい! このザビーダ兄さんに任せな! ……コレ、見覚えあるだろ?」
――……それは。
驚いた。
息をしていない私が息を飲んでしまった。
だって、それは……。
「……なにそれ、白い布?」
「……帆船のセイルか? ザビーダ、よくそんなもの……っていうか、どこに持ってたんだ?」
「随分古い布ですわね……しかし、天族の器になれそうな程穢れていません」
「そんなものでどうしようっていうの? このノルの器にでもする気?」
「うわ、これすっごい古い物だよ! 骨董品としてもかなり価値ありそー……布だけど」
十人十色な反応を見せてくれるPTメンバー。
確かにそれ自体はただのセイル。 帆でしかない。
けれど、どの船かと問われれば……。
「そぉ! これは海賊アイフリードが乗っていた海賊船バンエルティア号のセイル! ……の予備だぜ!」
一瞬の静寂。
そして、色めき立つ遺跡馬鹿2人とお兄ちゃん馬鹿1人。
しかし冷静なツッコミたるは流石湖の乙女(後任)。
「あの……結局ソレ、どのように使う気ですの……?」
「ま、これだけじゃあただの清浄な布だ。 例え100年ほどそこのサムサラが居座っていたマストだろうと、な。 そこに、コレがあればどうだ?」
そう言いながら取り出したるは、何処までも黒く、際限なく青い水晶。
風の霊力に包まれ、決して外界に触れないように隔離されたソレは怪しく黒々しく、冷たく光っている。
「いけません! ザビーダさん、それに触れたら水晶化は免れませんよ!?」
「わーぁってるって。 だからこうして隔離してるんだし……」
「……黒水晶? 伝説の内の1つじゃないか……どうしてそんなものをザビーダが?」
「この布とサムサラと関係あんの?」
ある。
どちらも、私に縁深い物だ。
そして、どちらも私に繋がりが深い物だ。
「あぁ! ソレを持っていれば、疑似的なパスが出来ると言う事ですか!?」
「そゆこと。 ま、陪神契約にも満たない微かな繋がりだが……穢れの坩堝に入る瞬間くらいは保つだろうさ。 で、同じ親和性を持つ物は……」
黒水晶をセイルで包むザビーダ。
セイルが黒水晶化する気配は無く、一見すれば白くて丸いだけの物体が完成した。
「これでOK。 スレイ、ほらよ」
「わわっ……! ……凄まじい霊力を感じるんだけど……」
「まぁある種物質化した地脈みたいなもンだからなぁ。 って事で、行ってこい」
「……ああ! サムサラ、俺の肩乗って!」
行く流れらしい。
仕方がない。 私、浄化の力なんて持ってないんだけどなぁとか思わないでもない。
浄化の力がないならロゼと一緒に行っても同じじゃないとか思わない事も無い。
だから、まぁ。
しょうがないから、奥の手を使おう。
――ライラ。 私のいる方向に向かって念を飛ばして。
「!」
――こ、こうですの……?
――うん。 みんなにはあんまり聴かれたくない話。
――……。
――私は浄化の力を使えない。 マオテラスの力も、カノヌシの力も持っていないから。
――……カノヌシ様。
――けれど、神依は使える。
――……それは、でも、浄化の力は使えません。
――だから、あなたの力を貸しなさい。 ライラではなく、カノヌシの力を。
――……。
――フェニックスが活性なら私は鎮魂。 カノヌシと同じ鎮静の力。 似通った力であれば、真似する事が出来る。
――……わかりましたわ。 私は何を?
――1つ。 私からの行為を、抵抗せずに受け入れなさい。
――はい。
「……サムサラ? ライラ?」
――スレイ、一瞬離して。
「え? うん」
降ろされる。
さぁ!
目を瞑ったライラの口に――腕をIN!!!
「――!?」
周囲で息を飲む音が聞こえる。
それはライラも同じで、目を見開いてこちらを見ていた。
「む~~~!?」
――私の血を飲みなさい。
あらかじめ切っておいた腕先の傷口から、ライラの喉に血を垂らす。
味を憶えられてはかなわない。 ただ飲めよ飲めよと口蓋を刺激する。
ごきゅ、と音が聞こえたと同時に私は腕を引き抜いた。
「けほ、けっほ……」
「……えっと、サムサラ?」
「……サムサラって、走れたんだな」
ミクリオがなんか失礼な事言ってるが、これでパスが出来た。
血の契約。 所謂
本来はこの世界の物でも、ましてや物語の歴史の物でもないが故に負担が大きいコレは、私の霊力の大凡5割を持っていく奥の手。 というか禁じ手。
ようはものっそい疲れるのである。
――いこ、スレイ。
「う、うん……」
さぁ……手に入れた浄化の力(薄)で久方ぶりの業魔退治と行きますかね……。
憑魔になってから、結構やきもきはしていたのだ。 デスクラウドなんか人目に見せられないし。
どうせ後は眠るだけ……あと4割使い切ろう。 1割は残さないとリセットしちゃうから……。
さて、穢れの坩堝である。
ティアマットと化してしまった護法天族ゴウフウの封じていた蠱毒の一種であり、異形の宝玉のまた違う形であるこの場所は、闘技場宜しく千切っても千切っても敵が湧いてくる場所だ。
「魔神剣! 地竜連牙斬!」
その中をぴょんぴょんと駆け回って斬り回る導師。
当然その肩にいる私もぐわんぐわん揺れるのだが、別に脳があるわけでも角膜で世界を見ているわけでもないので特にモーマンタイ。
「炎よ燃え上がれ! 氷月、翔閃! 爆炎剣! 雅流炎舞!」
史実と違って連携に縛りがあるわけでもないので、様々な技を様々な場面で使い分けるスレイは見ているだけでもキレイである。
バッタバッタと倒され、浄化される憑魔。 どうにも無足憑魔とか不死者な奴らが多のは無属性が陰湿だとでも言うつもりなんだろうか。 いやまぁしょうがないんだけどさ。
私と闘ってから使える様になったらしい魔神剣も駆使して闘っている姿はもうなんかベルベット。
「呪護暴陣! 戦吼、爆雷! はぁ、はぁ……!」
――大地、魂に無上なる祝福を与えたまえ。 ソウルオブアース。
「ッ! 太刀紅蓮! って、」
そうして眺めつづけていると、まぁ。
至極文句あり気な瞳を向けてくるスレイ。
回復はしていた。 例え1ダメージ程度の怪我でも全回復していた。
しかし、攻撃術は自重していたのだ。 だってスレイ神依してないから。
「サムサラ、ちょっとくらい!」
――巻き込まれたら、死ぬよ?
「じゃあいい!!」
私の術は基本的に即死が乗ったり広範囲だったりと面倒なのだ。
フレンドリーファイアの無い世界であればよかったのにと何度思った事か。 そして、喰らっても平然としているフェニックスやジークフリート、普通に避けられるアイフリードのなんと凄い事か。
流石はアイゼンを乗せていて不幸にならなかった男。 即死が一度も発動しなかったのはもう流石としか言いようがない流石。
「感覚的に……あと少し!」
まぁ、スレイにおいて神依に頼り切るという事はないだろうけど、初心に帰ると言う意味では己が肉体のみで戦える機会は結構少ない。
例えここにいる憑魔が無機物だけではない……霊応力の無い者が見れば、狂った人間の収容所であっても。 それを斬り伏せて動けなくしている導師がどう目に映るのだとしても。
浄化は彼の使命であり、鍛錬の為にわざと
神依が使えない状況で、沢山の憑魔を相手取る機会は重要なのだ。
今の状況は、つまるところライラが私に力を貸して、私がその力をスレイに貸している状態。 私は単なる中継ポイントであって、私の変換効率によってスレイの浄化の力も変動する。
逆に言えば、スレイへの供給を全カットすれば私はライラから貸し与えられたカノヌシの力をフルに使える、と言う事である。
――スレイ。 下がれるだけ下がりなさい。
「え? ……わかった!」
入り口付近まで下がるスレイ。
殲滅が止まれば増える増える憑魔の群れ。
なまじ無足と不死者が多い故に連なり重なり群れに群れては海となる。
ぐちゃぐちゃ、べちゃべちゃという不快な音が響き渡る水底。
――その力、穢れ無き澄み渡り流るる……。
そこへ、光が降り注ぐ。
私には似合わない荘厳なる光。
身を贄とした少女の、真の意味での生贄の術。
――魂の輪廻に踏み入ることを許し給え リヴァヴィウサー!
光。
「サムサラ! いい? もうあの術は使わないでくれ! 心臓に悪いから!」
――……使ってみたかったから使った。 反省も後悔もしていない。
「反省はしてよ……」
リヴァヴィウサー。
わが身の命を代償とし、敵には大ダメージ&強制仰け反りと、味方には蘇生&異常回復体力回復の究極自己犠牲術。 勿論使用者は死ぬ。
とはいえ、私は色々な都合によって死なないし、この術だって形だけ肖った偽物。
だからどうなるのかなーって。
結果、私は意識を失った。
眠る以外で意識を失う手段があったとは驚きである。 恐らくこの身体を維持するのに必要な霊力分にまで干渉したからだろう。 多分サムサラが怒ってる。
子供っぽい
お酒が好きなのもオツマミが好きなのも悪戯が好きなのも全部
――……ちょっと反省する。 でも後悔はしないから。
「……ならいいけどさぁ……」
ご迷惑おかけしました。
いつか言った、「私に適応する穢れの坩堝とかあるのだろうか」っていうヤーツね。