ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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独自解釈多目


dai yon jur roku wa 『maltran』

 

「おーい聞いたか! また戦争だってよ!」

 

 メーヴィンを看取り、さぁ決戦……カムランへ至ろうと、キャメロット大橋を渡っていた最中の事。

 ハイランドとローランスの本気の衝突。

 武器商人は喜び勇み、導師は焦る。

 ローランスの晴嵐騎士団の小競り合い。 一行はラストンベルにいるという増援の白皇騎士団――つまり、セルゲイの元へ会いに行く。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばサムサラはセルゲイと会うのは初めてだよな」

 ――そうだね。 石になった弟なら見た事あるけど。

「そうか……そうだったな」

 

 グレイブガント盆地を抜けて、ヴァーグラン森林を行く一行。

 一時戦争が中断していた時の安穏とした空気は完全に大地から消え去り、人間の少ないこの森の中までもがピリピリと張り詰めた空気に満たされている。

 そして向こうから、よたよたとこちらへ歩いてくるのは。

 

「ごめん頭領……みんなが、ペンドラゴで捕まっちゃった……」

「トル!」

 

 セキレイの羽、もしくは風の骨。

 双子の商人にして暗殺者。 帽子を被っている方、アン・トルメ。

 彼がボロボロの状態で一行の前に現れた。

 

 彼の口から出たのは、ルナールによる謀略で風の骨が捕まったと言う事。

 戦争を止める為にラストンベルへ行くか、風の骨を助ける為にペンドラゴへ行くか。

 ロゼは家族のため、ペンドラゴへと向かう。

 さて、ここは史実でも選択肢となった場所。 果たして。

 

「強いるねぇ……」

 ――残酷だと思う?

「いや……あいつらを思い出すな」

 ――……そうだね。

 

 この世界は本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 悩んだ結果、ハイランド――アリーシャに会う事を優先した一行。

 それはロゼを信じての物であり、同時にセルゲイを信じての事。

 私としてもありがたいことだ。

 何故ならラストンベルの方にはサイモンがいる。 また身を隠さねばならない。

 セルゲイはまぁ……こっちの姿は見えないだろうけど、どっかフェニックスと似ているし。 ロゼの方は、私にできる事は何もないからだ。

 

 さて、ラモラック洞穴を抜けてハイランドを目指す一行。

 道中で出会うのは、マルトラン。 グレイブガント盆地のハイランド陣営にいた。

 

「……」

 

 私は風。 私は空気。 私は世界に流れる不偏の存在。

 故に、私はここにいない。

 

 大丈夫見られてない隠蔽術式は完璧。

 だけど、ロクロウがそうだったように……本物の武術家が感じ得る『気配』というのは侮れない。

 私はそう言う事をしてこなかったから、霊力の感知に比べて生体エネルギーともいうべきか、そういう気配の察知は苦手なのだ。

 だけど何も言ってこない辺り違和感を覚えているだけだろう……と思いたい。

 

 マルトランの視線は、私ではなくフェニックスに行っていると……そう思い込もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レディレイクに到着した一行。

 アリーシャのいるだろう貴族区域を行くと、聞こえてくるのは怒声。

 アリーシャを糾弾する声だ。

 

 急ぎアリーシャの家へ向かうと、そこには憑魔化したハイランド兵3人。

 スレイ、これを浄化した。

 戦闘描写すら必要ない程だ。 なぜなら、既に彼らは秘力をも得た導師なのだから。

 

 だが、アリーシャへと戦争の勅命の事を問うも、帰ってきた答えは「仕方ない」。

 ザビーダの戯言も、彼女には通らない。

 だが、少し頭を冷やした彼女は、その戯言……王の勅命を握りつぶす、という考えを受け入れる事にした。

 

 それがいばらの道であると知った上で。

 

 彼女への牙はもう1つ。

 彼女が頼ると言ったマルトランの正体。 皆が言いあぐねる中、エドナが言い放つ。

 

「無理よ、マルトランは憑魔だもの」

「え?」

「ヘルダルフの配下として戦争を煽った張本人なのよ」

 

 取り乱すアリーシャ。

 仕方のない事だろう。 彼女にとって、親にも等しい存在なのだから。

 だが、顔を伏せたスレイを見て……彼女は飲み込んだ。

 

 それが真実だとわかってしまった自身を騙すかのように、歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――アリーシャ・ディフダ。 

「……」

 ――選択を迫られて、迷ったままに掴んだ光でも、それはあなたの選択肢。

「……」

 ――いつか大切になるわ。

 

 

 

 

 

 

 さて、ボールス遺跡だ。

 アウトルから奪った槍を掲げ、マルトランが待ち構えるそこ。

 

「で、アンタはまたお留守番……ってか?」

 ――意地の悪い質問をするね。

「そりゃあな。 あんな泣き顔の子供さえ守ってやれない誓約なんざを立ててる最年長者にアタリがきつくなるのは仕方ねえってもんだろ?」

 ――その通りだね。 だからザビーダが守ってあげてよ、私の次の年長者さん。

「ああ、このザビーダ兄さんに任せとけって」

 

 

 

 

 

 

 

 憑魔と業魔。

 ビエンフーがいなくなった今、力自体は憑魔の方が上と言えるだろうが、その本質は同じモノ。

 即ち、魂の表出だ。

 業に塗れ、欲に塗れ、穢れが容量過剰(オーバー)した魂が各憑魔の姿を形取り、本能の赴くままに破壊を行う。

 霊応力のある者にはそれが異形の存在に見え、無い者には気を狂わせた人間や動物、もしくは異常発生した自然物や原理不明のまま動く物に見える。

 

 理性を吹っ飛ばした凡百の憑魔は各地をうろつき、本能のあらん限りを持って人間に襲い掛かるのだが。

 時折……そう、それはロクロウのように本能自体が人の業であり、理性を保っていられる存在になったり、ベルベットたち喰魔のように他の役割を与えられる事で理性を持つ上位存在に至ったりと様々な様相を見せ、その中でも極めて強い穢れを持つ者が、災禍と呼ばれる。

 

 マルトランもまた、そういう例外たる存在の1つだ。

 強靭な理性と意思。 背後を襲われて尚世界を救いたいと言う理想。

 それはかつてのアルトリウスやメルキオルにも匹敵せんという意志故に。

 

 前は変えるための行動を起こしたのが導師で、今回は災禍だったと言うだけの話。

 どちらもが人間であるからの行動と言えるだろう。

 

 変わりたい。 変えたい。

 そのためには元の存在を殺さなければならない。

 それが世界であれ、自分であれ。

 

 それは私の言う戻す、とは違う。

 本当に殺すという事。 存在を消滅させる事。

 ヘルダルフの理想は、アルトリウスの理想は、マルトランの理想は、メルキオルの理想は。

 殺して、一新する。

 鎮めて、一新する。

 

 同じものなのだ。

 

 同じものならば。

 それを打ち崩すのも、同じ。

 

 完璧を崩すのは、いつだって混沌なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女の慟哭が響き渡る。

 エレノアと同じ。 いや、エレノアより遥かに弱いのかもしれない。

 

 やめたい。

 考えるのも、やめてしまいたい。

 もう嫌だから。

 

 辛い思いをするのが嫌で、苦しい思いをするのが嫌。

 民のために、国のために動いても、辛くて苦しい。

 だから、やめてしまいたい。

 

 言葉では彼女はこれほどに後悔している。

 重責を背負い、押し潰され、慕っていた者にも拒絶され。

 

 だというのに、彼女は。

 

 ――フェニックス。 感じる?

 

 ――全く感じはしない……素晴らしい魂の少女なり。 余程、良い師(・・・)に育てられたのだろうな。

 

 ――そうだね。

 

 一切の穢れを発する事なく。

 スレイの手を取って、立ち上がる。

 

 何故なら、戦争が起きる事も……自身が止められない事も、嫌だから。

 拒絶の強欲、といった所だろうか。

 全てが嫌だけれど、だからこそ立ち上がる事が出来る。

 

 素晴らしい人間だ。

 

 

 

「信じられるかよ! 勝手な事ばかり言いやがって!!」

 

 ラストンベルについて早々、教会の方から住民らしき男の声が響いた。

 行ってみれば、セルゲイが住民たちに糾弾されているではないか。

 

「一度街を出よう」

 

 スレイに気が付いたセルゲイが言う。

 その背に向かって心無い言葉が投げかけられるが、何故か彼らは追ってこない。

 

 街の外へ出てセルゲイと会話をしようと試みるも、まるで見計らったかのようなタイミングで現れる子供とハイランド兵。 導師が加勢しようとした途端、世界から色が失われた。

 

「これは!」

「邪魔立てしてくれるな……折角お膳立てしたんだ」

「全部お前の仕業か!!」

 

 現れたのは、サイモン。

 刹那的な加護故に、総じてみれば死神の加護にも似た人間を不幸にしてしまうソレを持つ彼女。

 

 現れては消え、現れては消えを繰り返し、導師一行をおびき寄せる。

 

 その彼女を追って行けば、何故か見えたのはセルゲイ達――。

 

 

 と、言ったところだろうか。

 

 私に幻術は効かない。

 それはアバルや、前のペンドラゴでも同じ。

 故に、今回も静観――とは行かない。

 

 折角だ、干渉できる内にセルゲイにホーリーヴェイルをかけて、その戦いを見守るとしよう。

 

 

 

 

 ――大地、魂に無上なる祝福を与えたまえ、ソウルオブアース。

 

「これは……!?」

「この感じ……サムサラ!? って、そういえばさっきから見てない!」

 

 住民と和解したセルゲイ。

 住民が去ったのを見計らって、回復術を使う。

 見事、そう言う他ないだろう。

 ただの人間が憑魔化したハイランド兵を倒しきったのだ。 浄化できずにその命を奪って止めたのだとしても、賞賛に値する。

 故に、まだ息の或るローランス兵を助けるくらいはしよう。

 

「う……」

「傷が……」

 ――守護者の指針(セルゲイ・ストレルカ)

「何!? ……誰だ!」

 ――私はそこの導師の仲間。 サムサラ。

「また唐突に話しかけたんだな……」

「スレイ、サムサラというのは……」

「うん、俺達の仲間だよ」

 ――先を示す者。 あなたを目指し、皆がついてくる。 故にあなたは信仰を集めている。

「……信仰?」

 ――それは、穢れと最も遠い力。 相反する力と言っても過言ではないし、浄化の力の源でもあるもの。

「浄化の力……」

 ――私も保証する。 セルゲイ・ストレルカは穢れない。 穢れを持つ事が出来ない。

「……よくわからないが……スレイと同じく、慰めてくれていると思って良いのか?」

 ――うん。 けど、ガス抜きは必要。 戦争が終わったら一緒に心水でもどう?

「なるほど……確かに導師一行は心水が飲めなそうだ。 飲み仲間が欲しい、そう言う事だな?」

 ――簡単に言えば。

「わかった。 戦争が終わり、国の(まつりごと)にも片が付いた時は、共に飲もう」

 ――うん。 待ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜のペンドラゴ。

 ロゼが出した貼り紙によって、一層静まり返った貴族街を行く。

 と、貴族街の一角から聞こえてくる密会の声。

 

 風の骨を(たばか)ったルナールと、それに手を貸したのであろう貴族の声だ。

 

 明朝、風の骨の処刑を執行するらしい。

 

 屋敷を出て行ったルナールを追う。 が、邪魔をするようにローランス兵の憑魔が彼らの前に立ちはだかった。

 

 ――スレイ、捕捉してある。 存分に。

「ありがとう! 行くぞ、みんな!」

 

 史実と違い、従士がいないからと言って2人で戦わなければいけない、という事はなく。

 

 天族4人と導師1人にかかって、ローランス兵の憑魔は浄化された。

 

 

 

 

 

 

「サムサラ、ここ!?」

 ――うん。 ほら、あそこ。

 

 そこには、縛られた風の骨と、その前に立つルナール。

 そして刃を突きつけるロゼがいた。

 

 ――私が風の骨を助けてあげる。 スレイはロゼと一緒にルナールを。

「うん、行くぞ!」

 

 ルナールの青い焔を避けたロゼの元に、スレイ達が駆けつける。

 私はトラクタービームで浮いたまま、風の骨の元へ行く。

 エギーユとアン・フィルは霊応力が高く、私のいる場所を見て首をかしげた。

 まぁ今は隠蔽術式使ってないからね。

 

 全ての風の骨を解放すると、丁度ケリがついた。

 

 スレイが浄化の炎でルナールを焼く。

 だが。

 

「ククク……灼けないねぇ、導師ィ……!!」

「これは!」

「枢機卿と同じ……」

 

 そもそも、浄化の炎は『元の自分に帰りたい』という意思が欠片でもなければ浄化できない。 強制的に姿を変化させるのであれば、それはもう浄化とは言えないのだから。

 故に、枢機卿も、マルトランも、そしてルナールも。

 力を得るために、そして理想を、野望を叶えるために。

 戻りたいなどと、微塵も考えてはいないのである。

 

「私の仕事」

 

 ロゼが寄る。

 ルナールは身内だから、自らの手で。

 けれど。

 

「眠りよ……康寧(こうねい)たれ」

「……ざけん、じゃねぇ……安らぎもクソもあるか……」

 

 その目が、ロゼを見て。

 私を見る。

 私は強く見返す。

 

「カッコつけようが人殺しだ……ただの……!!」

「わかってる」

「カゾクゴッコの建前の……癖に……!」

「だったら?」

 

 その口角が、上がる。

 強い、強い、強い強い強い意思がロゼを貫いた。

 

「きめぇんだよぉ!!」

「あっ!?」

 

 それは、最早穢れとさえも呼べない感情の露出。

 その色は今もなお地脈に生成される黒水晶にも似て、しかしシグレ・ランゲツやアルトリウス・コールブランドの放つ魂の呼気にまで匹敵する力の奔流。

 

「死ぬほどなぁ!!」

 

 その力は、穢れとも信仰とも気ともとれるそれはルナールの身体を灼き尽くす。

 スレイの浄化の炎よりも深い。 ライフィセットの白銀の炎よりも暗い。

 分類できない憑魔。 唯一となった憑魔。

 ルナール。 

 

「サムサラ」

 ――戻ってないよ。 ルナールは、戻っていない。

「何だと……?」

 ――狐は強欲の動物。 その魂すらも、手放す事はしない。

「じゃあ、奴は……」

 ――自身の感情を発露した事で力を失った……けれど、どこかでまた力を取り戻して復活する。

「……なンで止めねえ?」

 ――止まらない。 彼はもう概念化したと言っても良い。 謂わば、私やフェニックス、そしてビエンフーと同じく……ううん、ノルミンですらない。 

 

 

ルナールは1人で生きてきた人間。 それはもはや、独善……いや、独悪の概念そのものと言っても過言ではない。 

 ヘルダルフにかけられた孤独の呪い。

 それを自ら進んで被り、さらに昇華させたような……アレこそが、本当の意味での災禍の顕主。

 人間のためなんて事は微塵も思っていない、世界を変えようとさえ思っていない、自己の為だけの悪魔。

 ルナール。 その名は狐を意味するRenardではない。

 確かに彼は狐の憑魔だが、その綴りはLunarre。

 Lunar re(月の王)

 赤き月は地上側の地脈の変化によってこの数百年起こっていない。

 だからもし、彼が力をつけ……赤い月がまた顔を出した時。

 

 全てが起こる……のかもしれない。

 史実より先は、わからないままだから。

 











ザクロス見ない・やらない理由の内でも大きいのがコレですね……。
ルナール改心って聞いて絶対見ないって思いましたわ。
彼の青い炎はマルトランやヘルダルフをも凌ぐ、美しいとさえ思える色味をしていましたし、ライラも分類できない憑魔!? なんて言っていましたし、私としても彼は好きなので、本当に改心しないでほしかった。

改良だの改善だのと騒がれていますが、私はゲーム版の世界が好きなので、やっぱりザクロスは書きません。

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