ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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あ、あれ……一か月たってる


dai yon jur nana wa 『Goufu』 to ningen no shori

 

 ――東方。

 ――莫大なる穢れを感知。

「それって……グレイブガンド盆地の……!」

 ――スレイ、走ってちゃ遅いから……吹っ飛ばすよ。

「お願い、サムサラ!」

 ――誘惑の罠張り巡らせ、我が懐中に! トラクタービーム!

「ッ……ライラ! ロゼ!」

「はい! 『Pahoes(フォエス)=Melma(メイマ)!』」

「ミクリオ!」

「わかってる! 『Loose(ルズ) low(ロー) save(シヴ)Rorroi(レレイ)!』」

「なんとかできるの、あれを!?」

「出来なきゃ救えねえさ……誰もな! サムサラ、今回アンタは!」

 ――天族の意志でなく、故意にドラゴン化する……私の使命の対象だよ。

「シルバとおんなじか……そいつぁ許せねぇな!」

 ――発射。

 

 

 

 

 

「くそ……」

 

 木立の傭兵団団長、ルーカス。

 負傷した仲間の元に駆け付けたが、そこにあった現実はただ1つ。

 

 死。

 

 死が形となって、文字通り牙を剥いたのだ。

 それはかつて見た導師の力よりも恐ろしく、暴虐で。

 ルーカスの心を折るには十分な存在だった。

 一度は敬遠した自分が導師に縋るなど都合が良いにも程があるが、その縋り得る存在を遠ざけたのも他ならぬ自分。 否、自分達だ。

 

 もしこの事を予見でき得る者が1人でもいれば、ドラゴンの出現という埒外の事態を知り得る者が1人でもいれば、例え団の規律を破る事となったとしても己の頭を地に叩き付け、助力を願っていた事だろう。 

 それほどに恐ろしい存在。 それほどに余りある存在。

 

 だから、悪態を吐いたのは自身に対してだったのだろう。

 だから、すんなりと出てしまった。

 

「ここまでか……」

 

 諦めの、言葉が。

 

 

 

「『うぉぉぉおぉおお!! 諦めるな!!』」

 

 しかし、ルーカスの縋った導師は、諦めさせてくれるような優しい導師ではない。

 優しい故に取り込まれ、穢れ、朽ち果てて行った導師とは違う、ともすれば向かうドラゴンよりも恐ろしい程に、純粋。

 人間界(しぜん)ではあり得ない程に真っ直ぐに育った添え木は、良質な支えとなって折れた心を奮い立たせる。

 

「『走れぇぇ!!』」

 

 その従者の言葉に、ようやく火がついた。

 仲間の肩を支え、無様に足をもつれさせ、転げるようにして逃げる。

 誰かが臆病だと咎めても、誰かが都合が良いと咎めても、今はただ生きる為に。

 導師のくれた、命の為に。

 

 そして見上げる。

 駆け付けた、導師の和。

 一度は折れ、燻った火が、彼らの姿を――戦い続ける彼らを見上げて、心に産むのだ。

 

 美しい炎(Bien feu)を。 勇気(Brave)を。

 

 

 

 

 

 

 

「『しぶとい……!』」

「流石はドラゴン、ってトコだなぁ……」

 ――大地、魂に無上なる祝福を与えたまえ。 ソウルオブアース。

「『助かる! けど……』」

「穢れを食べているのです……自身を恐れる人間たちの」

 

 護法天族・ゴウフウ。

 穢れの坩堝の管理をしていた彼の存在がなったドラゴンだ。 強いのは当たり前。

 けれど同時に、このドラゴン・ティアマットは周囲の穢れに支えられている。

 シルバとは大違いなのだ。

 

「あんた、何を待ってる……? チッ、合わせな! 瞬迅、旋風、業嵐.……来なよ! ホライゾンストーム!」

 ――我が呼びかけに応えよ。 舞い降りし疾風の皇子(みこ)よ、我らに仇為す意思を切り裂かん。 シルフィスティア。

 

 ザビーダに悟られた。

 私が、この期に及んで手を抜いている、という事を。

 先程から使う術は全て一行の使う術に合わせた物ばかりだ。

 

 それは、超常の力だと悟られないため。

 

 スレイだから立ち向かって行けるのだと、彼らに知らせるためだ。

 

「やば……」

 

 打ち上げられたロゼに迫る、穢れを纏った大咢。

 空中では為す術の無い人間を食らうなど、造作もない事だろう。

 間に合わない。 神依ですら間に合わない。

 

 

 ――ほら、起きる時間だよ。

 

 

 帽子から取り出す。

 それは、亡き大魔法使い――そして今代で途絶えた刻遺の語り部の、その初代が私に託した親友の形見。

 

「……そりゃ」

 

 ――おはよう。

 

 勇気の宝珠。

 それが、美しい光と共に煌き――燃え上がる!

 

「くそ、ロゼ! 魔神剣!」

 

 スレイが咄嗟にはなった魔神剣。

 それを貫く、一本の槍。 槍にかけられた術は、ホーリーヴェイル。

 加速したソレが、ティアマットの翼を貫いた!

 

「グォォォオオオアアア!?」

 

 さらにその槍を蹴って、ロゼが離脱する。

 

「アリーシャ!?」

「スレイ!! 私達も戦う!」

 

 振り返ったスレイの眼下に映るのは、士気を――残った勇気を燃え上がらせた、ハイランドもローランスも傭兵団も正規軍も関係ない「人間」。

 

「恐れるな! ドラゴンなど、」

「でかいトカゲだ!!」

「「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

 勇気は怒声となり、怒号となりて戦場に響き渡る。

 ティアマットが吸収していた穢れもまた、断たれた。

 

 Rising up(立ち上がれ)

 

「あはは……なんか希望見えてきたかも……」

「オレもだ。 もーっちょとだけ……」

「「やってみるか!」」

 

 ――元始にて万物の生たる燐光。 汝が力、我に示せ!

 

「『Pulchri(フィルクー)Zadeer(ザデヤ)!』」

「『Pavitlam(ハクディム)Juve(ユーバ)!』」

 

 ――ビッグバン!

 

 ティアマットの頭上に、純白の輝きが生まれる。

 実はコレ、一応私の秘奥義だったりする。 空中という被害を気にしなくても良い場所で放たれたソレは、いつか聖寮の船を完全に消し去った時と同じく――。

 

 ――片翼、貰った。

 

 ティアマットの右翼をごっそり削り取った。

 

「ゴガァァアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

「これも導師の力か、スレイ! 頼もしい! 獅子戦吼!」

「これは負けていられない……星天裂華!」

 

「放て! ありったけの矢だ! 補給は気にするなよ!?」

「おおおおお――ッ!!」

 

「サムサラ! 僕にも合わせてくれ! 灼熱の赤、極寒の青! 交じりて乱舞せよ! ヴァイオレットハイ!」

 ――我が呼びかけに応えよ! 静かなる意思、粛清の力に変えて! 正義の心、我らに!!  アクアリムス!

 

「これなら……! 参ります! 忌まわしき闇を呑み込む忘却の終焉!!」

 

 沢山の力による連鎖の末に放たれた、ライラの紙葉。

 確かに史実で言う50hitなどとうに超えているだろうこの雨の中であれば発動できるだろう。

 

 ならば、便乗しよう。

 術、借りるよカノヌシ。

 

 ――元素集いて万象果てよ!

 

「サイレント・エンド!」

 ――インサブステンシャル!

 

 光球が、ティアマットの身体を削ぎ――。

 

「スレイ!」

「……」

「スレイ?」

「……ああ!」

 

 ティアマットは、ドラゴンは。

 導師と共に、暗雲と共に。

 

 戦場から、消えた。

 

 

 

「……やった」

「人間の勝利だ!!」

「うぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 国のいがみ合い、関係なく。

 今は肩を組む、人間達。

 ここに勇気は再誕せり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴンは消えたとしても、穢れがすべて消えるわけではない。

 グレイブガント盆地は依然として兵士の憑魔が蔓延る土地となってしまった。

 そしてその中心で、かつてのザビーダが……アイゼンと出会えなかったザビーダを彷彿とさせる、その憑魔が生まれようとしていた。

 

 ゴウフウと共に500年前旅をした彼女は、故に恋人を殺した導師を怨まずにはいられない。 彼女には、ゴウフウが救われたとは思えないのだから。

 

 ――だから私が、あなたの穢れを奪いに来た。

 

 戻ることは何も悪い事ではないと。

 いずれまた、輪廻の果てに出会えると。

 

 置かれた輪廻の龍珠。 天恵の宝珠。 そして、異形の宝珠。

 

 ――ゴウフウに会いたい?

 

 肯定。

 

 ――導師が許せない?

 

 逡巡……肯定。

 

 ――憑魔になってでも、導師を殺したい?

 

 否定。

 

 ――天族として、導師と闘いたい?

 

 肯定。 躊躇。

 

 ――本当に?

 

 ……否定。

 

 ――ゴウフウに、会いたい?

 

 肯定。 肯定。

 

 ――戻りたい?

 

 ――……。 …………はい。

 

 ――おいで。

 

 

 

 

 2つ(・・)の宝珠を拾う。

 さて、ティンタジェル遺跡群へ行こう。

 

 ……おかえりなさい。

 











おはようビエンフー。

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