ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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dai go wa anata no utsuwa ha ?

「そいつはペンデュラムを使ったんだな」

「えぇ。 しかも検問の対魔士を全部吹っ飛ばしました。 アイツなら、船長とも遣りあえますね」

 

 ザビーダだ。

 フェリスが戻って来て、聖寮の検問が襲われている事を伝えてくれた。

 

 喧嘩屋ザビーダ。 今の彼は不殺(ころさず)を流儀としているだろうから、聖寮の対魔士すらも死んではいないのだろう。

 アイゼンはソレを聞いてすぐにその場に向かってしまった。

 ベルベット達もそれを追いかける。

 

 ――アイゼンとペンデュラム使いが接触。 交戦した。

 

 ――ッ!? ……成程、これが交信ね……。 わかったわ。

 

 一応ベルベットに連絡を入れる。 そういえばベルベットにはまだ繋いだことなかった。

 驚かせちゃったかな。

 

 私の交信は、私が気配を感知したことが或る者で且つ意識のあるものであれば、その全てにつなげる事が出来る。

 そして私はザビーダを……彼が彼の愛する者と一緒だった時に感知済みだ。

 

 交信は意思を送らなければストーキング行為として使える。

 ザビーダの位置とアイゼンの位置が重なった事が戦闘開始の合図なのだ。

 

 そこへ、ベルベットも到着した。

 

 うーむ。 一番の戦闘好きであるはずのロクロウが、一番戸惑っているな。

 

 しばらくして、彼らの動きが変化する。

 具体的に言うと聖隷4人が一列に。

 

 そして、膨れ上がるカノヌシの気配。

 結界が割れたようだ。

 

 ――ベンウィック。 出航の準備はしてある?

 

 ――え? してありますけど……なんでまた?

 

 ――恐らく……ううん、確実にこの港へは戻ってこないから。 

 

 ――えぇ!? あー、でも副長が一緒に居るならそれもありえるか……。 

 

 そういう意味ではない。

 遥か未来で導師が地脈間移動を行っていた様に、地脈の裂け目にはできやすい場所とできにくい場所がある。

 できやすい場所とは地脈が飽和、ないしは重なっている場所。

 できにくい場所とは地脈が薄い場所の事だ。

 

 史実通りイボルク遺跡に出る可能性が一番高いのだが、何かの間違いでパラミデスやタイタニア、ともすれば鎮めの森に出る可能性だってある。

 

 バンエルティア号(あし)が迅速に動く必要があるのというわけだ。

 

 

 

 む。 また膨れ上がった。

 結界を着々と崩して行っているようだ。

 

 そして。

 

 

 最後の結界が崩れた。

 途端、溢れ出る剣気と気配。 前者はアルトリウスで、後者はカノヌシか。

 

 この戦いに於いて、私のやるべきことは2つ。

 

 ドクン、と。 聖主の御座の方から聖主カノヌシの力が脈動する。

 

 捉えた。 1つは、このカノヌシの気配を感知する事。

 

 そしてもう1つは――。

 

 カノヌシの付近に、もう一つ強大な力が出現する。

 私のノルミン・――――――としての部分が反応する。

 

 ここ!

 

 

 ドバッと頭に波が押し寄せ、弾かれるように頭を反らす。

 

 だが、口角が少しだけ上がる。

 

 やっと失っていた記憶を思い出せた。

 人間だった頃の記憶ではなく、ノルミンとしてこの世に生まれ出でてからの記憶。

 

 すなわち、地脈に蓄積された記憶だ。

 

 今やった事は、とても単純だ。

 裂けた地脈を狙って、地脈に交信を繋げた。

 地脈とは意識と無意識の集合体。 私の交信が繋がらない道理はない。

 これで私のやりたいことの半分は終了したような物。

 

 さて。

 

 あの場にいたベルベット、ロクロウ、アイゼン、マギルゥ、ビエンフーにライフィセット。 ついでにエレノアに交信を繋げてみようとこ試みたが、繋がらない。

 矢張り普段は地脈とこちらの世界は絶たれているか。

 

 まぁ彼女らならすぐに――って早っ!?

 地脈の中は時の流れが違うのかな……。 そんな話聞いたことないけど。

 まぁいい。

 感知範囲。 やはりイボルク遺跡に出たようだ。

 

 ――アイゼン。 大丈夫?

 

 ――む……サムサラの交信が繋がるということは、少なくとも地上には出ているようだな。 場所はわかるか。 意匠からして聖主ウマシアの聖殿のようだが。

 

 ――アイルガンド領だね。 カドニクス港にバンエルティア号を向かわせる。

 

 ――頼んだ。

 

 

 

 ベンウィックに指示を出すと、彼はすぐさま他のクルーにも伝達。 バンエルティア号はアイルガンド領に向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明けて。

 

 ――ベンウィック。 船を止めて。

「え? あ、アイマム」

 

 カドニクス港が近くなってきた。 が。

 案の定、聖寮の船が近くにいる。 気配から見て、乗っているのはシグレ・ランゲツ。

こちらの戦力で当たるのはキツイなんてものじゃない。 全滅必至だろう。

 

 普段であれば船止め(ボラード)に頼むという手段を取るのだが、何分現在この船には業魔(ダイル)が乗っている。

 もし万が一、聖寮の聖隷や対魔士に感知されたら色々と厄介な事になってしまうだろう。

 

 ――聖寮の船が近くにいる。 恐らく特等対魔士が乗ってるね。

「えぇ!? そ、それ副長達には伝えたんですか!?」

 ――まだ。 伝えるから切るね。

「そうしてください……」

 

 呆れ声のベンウィック。

 ベルベットの特異な気配と、エレノア・ヒュームの中にいるライフィセットの気配が現在どういう状況なのかを教えてくれているのでそこまで急ぐ必要は無いと思うのだが……。

 その状況というのは、ベルベット及びアイゼンらが固まって一定距離を置いたエレノア・ヒュームを尾行しているという物。 あ、止まった。

 

 この霧のような気配はメルキオル・メーヴィンの術か。

 干渉できない事もないが、確実に感付かれる。 そうなればシグレ・ランゲツがこちらへ向かってきかねない。

 ロクロウの獲物を奪うわけにはいかないというもっともらしい理由8割、ああいうのを相手にするのは非常に面倒という理由2割だ。

 まぁ彼がこちらへ興味を向けるとも思えないのだが、彼の傍には聖隷ムルジムがいる。

 

 あの聖隷はノルミン(わたしたち)とも、アイゼン達とも違う。

 ムルジム――Murzimは、「吠えるもの」「予告するもの」。

 私の存在を勘付かれては少々困るのだ。

 

 さらに言えば、彼女が寄り添うシグレ・ランゲツは気まぐれで且つ、「光り輝く者」「焼き焦がす者」なのだろう。

 色々な意味で私とは相性が悪い。

 天狼を刺し殺すのはサソリの仕事だ。 大人しくロクロウに任せた方がいいだろう。

 

 

 ――定時じゃないけど連絡。 今どこにいる? 何してる?

 

 ――イボルク遺跡を出た所だ。 ライフィセットの器となった対魔士の女を尾行している。 船はどうだ?

 

 ――聖寮の船がカドニクス港にいる。 あと、恐らく特等対魔士が乗ってる。

 

 ――……メルキオルか?

 

 ――ううん。 多分、ロクロウの獲物。

 

 ――そうか。 事が動いた。 交信を切るぞ。

 

 ――うん。 気を付けて。

 

 

 

 

 

 

 強い穢れ。 だけど、非常なまでに純粋な気配。

 これがクロガネか。 なるほど、これは面白い存在だ。

 

 彼は理性を失わないだろう。 恐らく業魔になる前のみ、穢れを生んでいたクロガネだが、業魔になってからはその辺の人間よりも穢れを生まない存在だ。

 恨みが業魔を生むわけではない。 彼が何百年も持ち続けた恨みは彼を生かした。

 その願いを叶えさせるための手段が業魔化だっただけなのかもしれない。

 

 そして、それが今。

 

 極大の気配にかき消されようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――定時連絡。 生きてる?

 

 ――どんな連絡だ。 現在はクロガネという業魔の刀鍛冶の元にいる。

 

 ――そう。 カドニクス港はもう住民が避難してもぬけの殻。 いるのは聖寮の対魔士とシグレ・ランゲツだけ。 シグレ・ランゲツはアルトリウス・コールブランドの用心棒だって。

 

 ――待ち構えている、という事か……。 バンエルティア号は感付かれているか?

 

 ――相手の聖隷の感知範囲に入らないようにしてるから大丈夫。 あ、一等対魔士がそっちへ行ったみたい。 エレノア・ヒュームを粛正するんだって。

 

 ――わかった。 このまま繋げておいてくれ。 合図をしたら、バンエルティア号を港に付けるように伝えてくれ。

 

 ――うん。

 

 

 

 

 

 

 

 ――聖寮の船は居なくなった。 バンエルティア号を寄越してくれ。

 

 ――うん。 生きてる?

 

 ――じゃあいまお前と話している俺はなんなんだ?

 

 ――……死神。

 

 

 軽口を叩いてから交信を切り、ベンウィックに出発の意を伝える。

 動き出す船。 まぁ岩陰に隠れて聖隷術でちょちょっと隠していただけなのですぐに向えるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、ミッドガンド領にいたはずの副長達がアイルガンド領にいるって聞かされて驚きましたよ。 副長の死神具合にもそろそろ慣れてきたつもりだったんですけどねー」

「……聞かされた?」

「えぇ。 サムサラ姐さんがいなかったらシルフモドキに負担をかけていたでしょうね」

「アイゼン。 どういう事?」

「どうもこうも、地脈から出た時点で俺がサムサラと交信をしていた。 それだけだ。

 サムサラが俺達の位置を特定し、バンエルティア号を向かわせた。 聖寮の船のせいで海のど真ん中で立ち往生してたみたいだがな」

「いきなり船を止めろって指示された時のベンウィックの顔の呆け具合、みせてやりたいくらいでした」

「あぁ……その交信とかいう術は、位置を探れるんだったわね」

「もしこの術が無ければ、そうだな……ビエンフーあたりに偵察を任せていただろう」

「びええええええ!? ぼくでフか~!?」

「体が小さくて、空を飛べる。 体色が暗色なのも良い。 カモフラージュになる」

「明らかに帽子が目立つでしょ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、アイゼンの聖隷としての器はその幸運のコイン……なんだよな?」

「そうだが……なんだ、急に」

「いや、少し気になってな。 ライフィセットの器はエレノアで……ビエンフーの器はなんなんだ?」

「ボクはマギルゥ姐さんの式神を器にしてるんでフよー。 だから、マギルゥ姐さんが式神を変えるたびにぼくは器を替えなきゃで……」

「そこはどうでもいいんだが……じゃあサムサラは何が器なんだ?」

「びえええええ!? 話を振っておいてどうでもいいんでフか~!?」

「サムサラの器……? そういえば、気にしたことはなかったな」

 

 どうなんだ? という視線を向けてくるアイゼン。

 こんなにわかりやすく見せているというのに、何故気付かないのだろうか。

 

 ――コレ。

 

 丸い手で頭を指す。

 そう。 コレ。

 海賊帽。 コレが私の今の器だ。 より正確に言うなら、海賊帽の中にあるモノ、なんだけど。 まぁ海賊帽含めて、ということで。

 

「……」

「ん、どうしたアイゼン。 あぁ、交信中か?」

「いや……サムサラの頭に乗っている海賊帽。 あれが器らしい」

「……アレ、なのか……。 風で飛ばされたりしないのか?」

「知らん。 俺もサムサラがあの海賊帽を脱いだ所は見たことが無い。 むしろ、そういうことはビエンフーに聞いた方がいいんじゃないか?」

「それもそうだな。 なぁビエンフー。 ノルミンの帽子って、取れないのか?」

「そうでフねー。 ノルミン族は帽子に拘りがあるんでフ。 だから、特殊な方法以外では取れない様に、ちょっとした聖隷術で止めてあるんでフよ~」

「特殊な方法を使ったら取れるのか?」

「はいでフ。 ぼくはずっとこの帽子でフが、ノルミンによっては流行に合わせて帽子を替えたり、奇抜な物を目指したりするのもいるんでフよ~」

 ――可愛い帽子、だね。

「ソーバーッド! なんで知ってるんでフか~!? って、アレ?」

 ――真名のほうじゃなくて、単純に褒めただけ。

「そ、それはありとうでフ~。 って……。 今のが交信でフか!?」

 ――そう。 よろしくね、ビエンフー。

「ソーグーッド! よろしくでフ~!」

 

 

「いきなりおかしくなったのかと思ったぞ」

「サムサラの交信は1人にしか使えない。 傍からいれば、独り言を呟いているように見えるのは仕方ないだろう」

「便利なように見えて、所々不便な術じゃの~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺ァダイルってんだ。 海のトカゲさ」

「俺はクロガネだ。 刀鍛冶をしている」

 

 トカゲ男と首の無い鎧が向かい合って話し合う姿。

 なかなか見れるものではない。

 

「なーんか海賊ってより、サーカスみたいになってきたな」

 

 その様子を傍から眺めていたライフィセットにベンウィックが話しかけた。

 サーカスか。 火の輪はライフィセットが出すとして、誰がくぐるんだろう。

 くぐれそうなのは……ロクロウあたりか?

 

「ベンウィックは……怖くないの? その、業魔とか」

「関係ないさ。 バンエルティア号に乗ったからには、人間も業魔も聖隷も、動物だって海賊。 それが俺達の流儀だからな。 ま、船長や副長の受け売りなんだけど」

「船長……アイフリードって、どんな人なの?」

「そうだな……一言で言うと、この「海」みたいなアゴヒゲ男かな」

 

 うむ。

 相違なし。

 

「海みたいな……アゴヒゲ?」

「俺達はさ、みんな世の中から爪弾きにされたはみ出し者ばかりだ。 そんな俺達を脛の傷までひっくるめて受け入れてくれたのがアイフリード船長なのさ」

「……うーん、優しいってこと?」

 

 アレを優しいと表現するのなら、そこら中に聖人君子が湧いて出そうだ。

 

「海って優しいだけじゃないだろ? 傷が或る時に海に飛び込んだらどうなる?」

「しみるし痛い……かな」

「穏やかな日もあれば、荒れる日もある。 浅い所もあれば深い所もある。 船を沈めちまう渦巻だってある」

「怖いし……不思議」

「そう。 厳しいけど不思議で……果てしない。 だから命を張ってでも飛び込みたくなっちまう。 大海賊バン・アイフリードは……そういうデッケェ男なんだよ」

 

 人の身としてみるなら、恐らく最高峰。

 それこそ先程彼女らが相見(あいまみ)えたシグレ・ランゲツと同格……もしかすれば、それ以上かもしれない男。

 ジークフリートさえなければ、その身を堕としきる事はなかっただろう男だ。

 

「うーん……ベルベットみたいな人、かな?」

「なんでそうなるんだよ! 俺か!? 俺の説明が悪いのか!?」

 

 ベルベット・クラウ。

 確かに彼女も海のような人間(・・)だ。

 包み込むような、彼女の根幹にある愛。 そして、それを覆い隠し荒れる波のような憎。

 抑えきれぬ激情に身を焦がしたかと思えば、他者を思い遣る心も持っている。

 

 彼女にとっては業魔も喰魔も一部にすぎないのだろう。 彼女本人が気付いているかは別とするが。

 

「ベンウィック。 進路変更だ。 レニード港へ向かえ」

「え、副長。 どうしたんですか急に」

 

 

 

 

「……壊賊病だ。 下で三人倒れた」

 




なんでシグレが一番でムルジムがいるのか、なんでロクロウは6で太刀と二刀小太刀なのか。

この関係も結構面白いですねー。 あと聖隷の名前の違いとかも調べるの楽しいですねーホント。


グリンウッド語変換と日本語・英語翻訳が開きっぱなしですわ……。

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