ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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前半シリアス、後半シリアル。
なんとか一月間に合った!

捏造マシマシでお送りいたします。


dai go jur roku wa 『Dragon zombie?』to 『Silve』

 考えていた。

 ずっと考えていた。

 

 史実に於いて、このカースランド島で彼の遺体は導師一行に襲い掛かった。

 だが、私は、サムサラ(わたし)は、彼がしっかりと戻った事をこの目で確認している。

 それはあの刀鍛冶も同じ。

 

 だというのに、あの刀鍛冶も、そしてここにある彼の遺体も、まるで未だにこの世界に残っているかのような、そんな気配や動きを見せてくる。

 

 ドラゴン牧場としての穢れが集い、無機物憑魔になったのかとも考えた。

 鎧を付けたまま死した兵士が、骨や鎧の憑魔に成り果てるというのはよくある事だ。

 無論、生きている者が爬虫類のような憑魔となる方がよっぽど多いのだが。

 

 だが、彼らには意志があった。 私は彼らに心を感じた。

 おかしなことだ。 どんな存在であっても魂はただの一つしか持ち得ない。 それはサムサラ(わたし)にだって言える事。 どちらかが表にいる時は、どちらかがあの狭間の世界にいなければならない。

 有り得ない事だ。

 

 有り得ない事。

 私の常識に、サムサラの知識に無い現象。

 

 あぁ、それは、なんて――素晴らしいのだろう。

 

 そう、素晴らしいのだ。

 だってそれは、()()()()()()()()調()()()()()()()を示しているに等しいのだから。

 私が何万年をかけて創り出した綻び。 私が千年と百年をかけて創り出した罅。

 そして、あの刀鍛冶と、マオテラス……否、ライフィセットの片割れが創り出した捩れが、必ずやこの悲しみの連鎖を、世界のシステムを壊してくれるカギとなるのだろうから。

 

 ベルベット・クラウのような、悲劇に憑かれ、慈愛に疲れてしまった少女や。

 導師スレイのような、未来を見据え、我が身を犠牲にする事を選んだ少年が。

 少年少女が命を賭すような事でしか変えられない世界が、ようやく終わるかもしれない。

 

 希望的観測だ。 全てifの域を出ない事柄だ。

 史実通りに全てが行くなんて思っていない。 スレイが同じ選択をするとは限らない。

 だから、せめてその道先は明るく照らそう。 

 

 私はサムサラ。 輪廻を司るノルミン。 不死鳥のフェニックスの裏側。

 私の流儀は人間や天族の営みを高めない事。 死に纏わるノルミンとして、彼らの生には関与しない。

 

 そして――私の誓約は、史実を大きく歪めない事。

 この世界で目を覚ました私が安直に、愚直に行ったその誓約。 この世界を見つめていなかった私が行った、安易で愚かな誓約によって、私は知識にあらん限りの術を持つようになった。

 これさえなければ、もっと彼女らを助けられたのに。

 彼らを導き、彼らを助け、彼らと共にもっと戦えたのに。

 

 だからこそ、今この状況に感謝しなければいけない。

 刀鍛冶と彼。 この二人の存在が史実を大きく歪める可能性を持っているというのに――私の誓約は失われていない。

 私が千と百年前に行った細工も、誓約に触れなかった。

 

 これはチャンスなのだ。

 表面張力で張りに張った水面を、一気に溢れさせるために。

 ここぞと言う時に、私が――誓約を破れば。

 

 例えこの身、この魂が滅びる事になっても……彼らを救えるかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サムサラ?」

 ――あ、ごめん。 考え事してた。 何? ロゼ。

「いや、元凶はサムサラが知ってるってジェイドが言うから……」

 ――あぁ、うん。 知ってる知ってる。 多分ジェイドも知ってる。

「なんかテキトー!?」

 

 適当なものか。

 私にとっての一大イベントなのだ。

 テキトーに済ませるはずもない。

 

 ――カースランド島の真ん中に、あの子はいるよ。 けど、ちょっとだけ待ってほしい。

「あの子? ……うん、わかった。ちょっと待つよ」

 ――ありがと、スレイ。

 

 スレイにそう告げて、ジェイドとソフィの元へ向かう。

 正確にはソフィの元へ。

 

「おや、てっきり私に用事があるのかと思っていましたが」

 ――うん。 用事はある。 ソフィには霊力が無いから、貴方に口になって欲しかった……けど、やめた。

「おや、それまた何故ですか?」

 ――しっかりそのまま伝えてくれなそうだから。 だから、私が寄る事にした。

 

 ソフィ――プロトス1である彼女の身体からは、微量の光子が発せられている。

 四大の王の精霊術を真似た時のように、その形質を霊力で再現してみる。 私の誓約によるリターンがこれなので、やはりすんなり上手く行った。

 そしてそれを、ソフィへ差し出す。

 

「……? 受け取れば、いいの?」

 

 頷く。

 

 霊力謹製光子にソフィが触れた途端、それはソフィの中へと取り込まれていった。

 

 ――テステス。 マイクのテスト中。

「!? 声が……誰?」

 ――目の前目の前。 藤色の二頭身。

「もしかして、あなたがサムサラ?」

 ――いえすいえす。 そして、ありがとう。

「? 私、何もしてないよ……?」

 ――私の交信はね、例え霊力を注入したとしても、無機物相手には繋がらないの。 貴女は造られた生命なのに、私と交信が出来た。 それは貴方が、魂を持っているから。 私はその事実が欲しかった。

「よく、わからない……けど、どういたしまして?」

 ――うん、じゃ、元凶を断ってくるね。

 

 ただただ利用させてもらった事に少なからず負い目がなかったわけではない。

 後悔はしないが、やり方はもっと他にあったような気もする。 

 だが、これではっきりした。

 

 ただの無機物に交信は繋がらず、魂或る無機物には繋がるのだという事が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「島の真ん中って……まさか、コイツ?」

「なんかヤバイ雰囲気なんですけど……」

「……」

「どうしたんだ、ライラにザビーダまで。 いつもならここでジョークやダジャレの一つでも入れてくるのに」

「いや……気分じゃねえってだけさ。 心配すンなって、戦いはちゃんとやるさ。 ……ちゃんと、な」

「はい……」

 

 全てのカリスにいたドラゴンを倒したスレイ達一向は、カースランド島の真ん中……彼の遺体がある場所へとやってきた。

 各々モチベーションに高低差があれど、戦いに臨む気持ちに憂いは無い。

 

「今回はちゃんとやるってことでいいンだな?」

 ――確約は出来ない。

「……」

 ――顔怖いよ、ザビーダ。 真面目にやらないってわけじゃない。 彼に少しでも意志を感じたら、私は交信を試みたいと思っているの。 その間無防備極まりなくなるから、どっか適当な場所に蹴り飛ばしてくれると嬉しい。

「……ま、手が空いてたらな」

 

 穢れの流入。

 彼の――シルバの遺体(ドラゴンゾンビ)が、のそりと首をもたげた。

 

 先手必勝。

 

 ――原初光明かくありき……万象の死たる燐光。 我が前に、力を示せ! ビッグバン!

 

 ドラゴンゾンビの中に(・・)、まばゆい光が生まれる。

 それは一度限界まで収縮し、零次元へと向かった――その直後。

 

 全方位に、余りにも膨大な熱量と光を解き放つ!

 

「うわっ!?」

「くっ!」

 

 光は島全体、その上空に至るまでにも爆発的な広がりを見せ、至極当然に導師一行をも巻き込んだ。

 

 ――大地、魂に無上なる祝福を与えたまえ。 ソウルオブアース。

 

「ちょっと、味方を巻き込む術やめてくれない?」

「回復したからって許される事じゃないからね」

 

 エドナとミクリオに怒られた。

 ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――シルバ、聞こえる?

 

 ――シルバ。 シルバ、返事をしてほしい。

 

 ――シルバ、ライフィセットを覚えているかな。

 

 ……返事はない。

 無いが、反応はあった。

 

 このドラゴンゾンビが、何のために地脈を歪めているのか。

 

 それはやはり、マオテラスへと流入する穢れの量を少しでも減らそうと言う魂胆なのだろう。 魂胆。 面白い言葉だ。

 タマシイとカラダ。 そのどちらもがキオクを持っているという話をどこかで聞いた。

 

 魂は戻った。

 間違いない。

 

 だから、今この場で彼らと闘っているのは、躰の方なのだろう。

 交信は通じている。 ただ、返事が無い。

 言語を持たないか、正気ではないか。

 

 憑魔――いや、業魔とは、本能だけになった存在の事を言う。

 シルバの躰は、本能からマオテラスを救おうとしているのだ。

 

 

 ならば――この相手は、戻すべき相手であるとサムサラ(わたし)も、私も判断した。

 

 さぁ、加勢しに行こう。

 思いの外物凄い勢いの蹴りで吹っ飛ばされた身体を癒しながら、私は彼らの元へ向かうのだった。

 彼にもういいよ、と。

 おやすみなさい、というために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ォォォオオオオ……。

 

 ズシン、と音を立てて……その骸は倒れ伏した。

 

「逝けよな……今度こそ」

 ――帰っておいで……貴方も。

 

 結び目が解ける。

 

 地脈の流れは正常に戻り、この地で淀んでいた、留まっていた大地の穢れが正常にマオテラスへと流れ込み始めた。

 ライフィセットのようにカノヌシの片割れでもなく、マオテラスのように五大神としての力を得た訳でもなく。

 ただ、ライフィセットと一緒に使役されていた、というだけのただの聖隷でしかなかった彼が。

 一号という名を捨て、シルバと名付けられて喜んでいた幼い彼が。

 

 その小さな体で、ずっとずっと、千年と百年もの間、ここでマオテラスを、ライフィセットを守っていたのだ。

 

 ――おつかれさま。 そして、お帰りなさい。 大丈夫、マオテラスは必ずスレイが救ってくれるから……ゆっくり休んで。

 

 ――……。

 

 返事があった――それは、文字通り気のせいなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、サムサラ。 別の世界ってどんなところ?」

 ――え、なに。 いきなり何。 というかなんで私に聞くの。

「ジェイドもソフィも別の世界から来たって言ってただろ? それで、サムサラはその世界の事を知ってる。 なら、サムサラに聞くのは当然。 だろ?」

「へぇ、珍しい。 スレイがそんなに論法立てて話せるとは思っていなかったよ」

「スレイも成長しているのよ。 ミボと違って」

 ――えー……どんなところって言われても、いっぱいあるから……いろんなところ、かな?

「いっぱいあるんだ。 あ、それもそうか……ジェイドとソフィも、別々の世界から来た、って言ってたし。 あの二人の世界はどんなところなの?」

「散々僕の事を弄ってくるけど、そういう君はどうなんだ? 天族は精神年齢が見た目に作用する。 君はいつまでたっても子供、って事じゃないのかい」

「別に弄ってないわよ。 事実よ、事実。 私はこの姿を意識的に保っているの。 ミクリオお坊ちゃまと違うのよ。 むしろミクロお坊ちゃまよ」

 ――ジェイドの世界は、音を主体とする世界だよ。 音素っていう、この世界で言う霊力みたいなものが世界にあふれていて、人々はそれを使って生活をしたり争いをしたりしているの。 この大陸にはあまりない街並みが広がっているよ。 

 ――ちなみにだけど、ジェイドの世界の親善大使……こっちでいうアリーシャ的な存在の子が、アリーシャの先祖と同じ技を使えたりするよ。

「へぇ~! って、アリーシャのご先祖様? サムサラ、知り合いなの?」

「誰がミクロお坊ちゃまなのかな……」

「文脈的に貴方しかいないでしょう? もしかして脳までミクロお坊ちゃまなの? ミクリオじゃなくてミクロなの? ミロなの?」

 ――知り合いだよ。 それなりに仲が良かった。 それで、ソフィの世界は……自然の美しい世界だね。 原素っていう、これまた霊力的なものが溢れている世界で……三つの巨大黒水晶みたいな結晶と、巨大な地核で成り立っている惑星。 星全体を人工の遺跡が取り巻いているっていう点では、スレイ達の興味を引きそうだよね。

「星全体を!? そんな巨大な遺跡があるなんて……」

「もう原型がないじゃないか!」

「ミが残っているじゃない。 そんなに言うならミでいいわよミで。 原型しかないわ良かったわねミ」

 ――この星にも、まだまだたくさんの遺跡があるわ。 貴方の想像もしていない遺跡がたくさん、ね。

「……うん。 大丈夫、その(・・)つもりはないよ、サムサラ」

「……わかった。 もうわかった。 じゃあ僕もこれから君の事をエって呼ぶことにするよ。 それが嫌なら――」

「別に、いいわよそれで。 じゃあ今日からよろしく、ミ」

 ――この星にあるのはこの大陸だけじゃないからね。 是非、自分の足で踏破してほしい。 海は私達が貰ったから、陸をお願い。

「あぁ、アイフリード海賊団、だっけ」

「よくない! エもミも呼び辛いし分かり辛いだろう!」

「貴方が言ったんじゃない。 スレイ、今日からミボの事はミ、って呼んであげて」

「え? ミ?」

「……ほら、どっちが呼ばれたかわからないだろ!」

「この流れでそれは最高のボケですわスレイさん……!」

 ――スロラミエザサの提供でお送りいたします。

 











エ? ミ?

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