ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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瞳にうつるもの編


瞳にうつるもの編
dai goju hachi wa cats fight ha neko mo kuwanai


 

「まったく……我とサムサラは表裏一体。 だが、お前は違うと散々説いた事を忘れたか。赤子の霊魂のまま地脈流で放出される? 愚かにも程がある……このノルミン最強の漢フェニックスのそばにありながら、死のうとしたのだからな」

 ――死のうとしたわけじゃないよ。 ただ、意思を断ち切るモノ(ジークフリート)で撃ち出される輪廻司るモノ(サムサラ)という矛盾概念が地脈流にどんな影響を与えるか知っていただけで、

「ええい、話が長いわ! お前はいつもそうだ。我々の前に表れた時から、小難しい言葉と関係のない話で主張を濁し、煙に巻いて逃げる! 何も成長していないな!」

 ――何言ってるのフェニックス。 死体が成長するわけないじゃん。

「そういう話をしているのではないわ!」

 

「さっきから人の傘でうるさいんだけど。 回すわよ?」

「ぬぉぉおおおおぉぉおぉおおおぉおおお!?」

 ――いつもより多く回しております。

 

 あの後。

 私の真名と共に放たれた、弾丸としての私は、地脈流に決定的な概念を刻み付けた。

 

 それは、ひいては世界に生じた罅に対して、その罅を決して埋まらないモノへと変えた、という事でもある。

 

 その後肉体(サムサラ)を持たないままにフヨフヨ流れていた所を先ほど捕獲(サルベージ)され、ノル様人形の一つに憑依させてもらう形で定着した。 私は天族ではないので、器がどうのとかは関係ないのだ。 動けないけど。

 

「まぁまぁ、いいじゃん。 ようやくサムサラを見つけられて、フェニックスもホッとしてるんでしょ?」

「ぬぉぉおお……お、う、うむ。 このまま憑魔、もしくは霊障にでもなられようものなら余りに寝ざめが悪い故……成仏であるのなら、問題はなかったのだが」

 ――残念ながらこの通りピンピンしております。 人形だけど。

「ふん、誰もお前がいなくならなかったことを残念になどと思っておらんわ。 ……特にサムサラは胸をなでおろしているだろうよ。 アレはああ見えて心配事を忘れられないタイプだ」

「あ、そうだ。 ねぇフェニックス」

「む?」

「帰ってきたサムサラのことは、なんて呼べばいいの? サムサラって、あのアンニュイな人格の名前なんでしょ?」

 

 ちなみに今、導師活動をしているのはスレイではなくロゼだ。

 スレイは眠りに就いているから当たり前なのだけど、従士の器でよくもまぁ、とは思う。

 

 彼女を器にしているのはライラとロゼ。

 ミクリオは遺跡探索の旅へ、ザビーダは流浪の旅へ出ましたとさ。 ロゼが言うにはサムサラ(わたし)を探して旅に出たとか。 それは、なんというか。 ありがとうございます。

 

「ふん、元々此奴に名はない。 我とサムサラで抑え込まなければ散り散りになっていた存在だ。 今でこそその心配はないがな。 真名以外、名らしい名は持っていない」

 ――真名で呼ばれるのは恥ずかしいです。

「わ、久しぶりの交信だ。 やっほーサムサラ。 元気だった? って、あ。 ついサムサラって呼んじゃったね!」

 ――サムサラでいい。 ロゼ、これからよろしく。

「おう!」

 

 そんな三人(四人?)を、見つめる天族が一人。

 少し離れた所を歩いているライラである。

 

 彼女は、少しだけ胸をなでおろしていた。

 スレイが眠りに就いてから――ロゼがすこしだけ、思いつめているようだったから。

 

 それが、サムサラを見つけてから、昔の通りのロゼに戻りつつある。

 

 ノルミン・レインカーナート。

 ノルミン・フェニックスの裏側。 輪廻のノルミン。

 果たしてその力は、今は地中深くで眠っているらしいサムサラという名のノルミンの持つ物であり、目の前で会話を繰り広げている(だろう)ノル様人形はその契約者に過ぎなかった、という話だが。

 

「……どちらも、サムサラさんに変わりはありませんものね」

 

 それは多分、ロゼが口に出さずとも辿り着いていたコタエなのだろう。

 ようやく、一つの形を以て。

 

 導師一行改め従士一行は、また歩き出した――。

 

 

 ――あ、ザビーダ。 おはよう。

 ――おはようじゃねェよ! こっちがどンだけ探したと思って、

 

 通話、終了。 ぶちぃっ。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ラストンベルの宿屋で休息を取っている時だった。

 元からいつにない速足でラストンベルを目指していたけれど、まさかこんなに早く出て行こうとするとは。

 

「さって、そろそろ出発しないとね。 こわーいお姫様が追ってくるからさ」

 ――それがアリーシャの事であれば、時すでに時間切れ。

 

 バタン! と大きな音を立てて、彼女が入ってくる。

 アリーシャ・ディフダ。

 

「あ、アリーシャ……こんなに早く……」

「ロゼ!」

 

 アリーシャはつかつかとロゼに歩み寄り、スレイの事を話せと糾弾する。

 しかしロゼはどこ吹く風だ。

 

 まぁ、その辺りの痴話喧嘩は私達の興味のある所ではないし、当人以外が口を出しても話がこじれるだけだ。

 しばらく、キャットファイト……というには結構な威力のビンタの応酬が続くのを、私達は少し離れた所で見ていた。

 

「どれだけ不器用なの、この二人」

「止めます? エドナさん」

「ふむ……美しき友情。 しかし針の上か……」

 ――今気づいたんだけど、人形(この体)だとオツマミ食べられなくない?

「コイツの言う通り、この二人はどうせ、無二の親友になるか心底疎み合う関係になるかしか道はないわ。 どちらの味方をしてもしなくても、私にメリットがない」

「確かに……」

「でも正直意外ね。 この二人がこんなになるなんて」

 ――そう? でも、この場にスレイがいたらきっとこう言うよ。 二人が仲良くしてくれて俺は嬉しいよ、って。

「……そうね。 それでどうせ、この二人が『仲良くない』、って叫ぶ」

 ――容易に想像できるよね。 ところでエドナ。 物は相談なんだけど。

「イヤよ。 そういうのはそっちに頼みなさい」

「?」

 

 でも今は、そんな繋ぐ者がいない。

 不器用な二人では、素直になりきれないのだ。

 

 さて。

 アイゼンとエドナには申し訳ないけれど、こんなノル様人形より……目の前に、一時的とはいえライフィセットを宿した器の子孫がいるのです。

 私は天族ではないけれど。

 ではないけれど。

 

 親和性は、うん。 やっぱり。

 

「む……待て、何をしている」

 ――ちょっと小細工。 後々のためにね。

「お前は……はぁ」

 ――フェニックスのため息は珍しいね。

 

 ひと段落ついたのだろう。

 アリーシャが宿屋を出ていく。

 

 直後、穢れの気配。

 

「言わんこっちゃない……」

 ――誘惑の罠張り巡らせ、我が懐中へ。 トラクタービーム。

「っと、とと、わっ! ……早く行け、って?」

 ――うむ。

「口調、フェニックスに似てきてるよ、っとと、おい、なんで出力さげてんだ!?」

 ――ロゼが嫌な事いうから。

「謝るから! ほら、すぐに行くよ!」

 ――ふへーい。

 

 あぁ、なんだろ。

 まだふわふわしてるなぁ。 

 

 

 

 

 

「従士、やる?」

「やる!」

 

 虎祭兄貴の緋凰絶炎衝さながらライダーキックで反休戦派の憑魔を仕留めたロゼが、アリーシャに手を差し出す。

 これにアリーシャは即答で是を返した。

 

「ライラ!」

「はい。 エドナさん、足止めをお願いできますか?」

「しょうがないわね」

 ――フェニックス、私達も参加する?

 ――ふん、お前に加減というものが出来るのならば、な。

 ――それは無理でござんす。

「我とサムサラは人間同士の諍いに介入するつもりはない。 エドナの身の危険となれば話は別だが、他の事柄は汝らでなんとかするのだな」

「どうせサムサラが加減できないとかそういう理由でしょ」

「む……むぅ。 まぁ、そうなのだが」

 

 エドナがあくせく壁を作っている間に、主神(ライラ)による従士契約が執り行われていく。

 ふふーふ。

 

「覚えよ! 汝の真名は――」

イスリウィーウェブ=アメッカ(そぞろ涙目のアリーシャ)!」

「ええっ!?」

 ――励起せよ――ホーリーヴェイル!

「えええっ!?」

 

 is real we have=o muqa……ま、それはそれとして。

 いつぞや、彼女にかけていたホーリーヴェイル。

 

 今ここに励起させよう。

 そして。

 

「……お久しぶりです、ライラ様。 エドナ様。

 そして……」

 ――ハロー、アリーシャ。 間借りさせてもらうよ。

「さ、サムサラ様? どこに……」

「主神契約に……割り込み……そんなことが可能だなんて……」

 ――君の身体の中。 安心して、手は出さないからさ。

 

 うーん、清浄なる身体はやっぱり居心地がいいね。

 私のガイコツよりは下とはいえ、流石エレノアの血を引くモノ。 人間らしい呼気を持っている。

 

「さ、アリーシャ。 やってみせてよ」

「……わかった!」

 

 ふふーふ。

 これで味もわかる……一石二鳥とは之この事なり。

 

 なお、戦闘は特筆すべき点のないものだった。

 ヒト型憑魔など、現時点のアリーシャの敵ではないのだ。 単一で浄化が出来ないだけで。

 

 

 

 

 

「おやすみ!!」

 

 顛末として。

 和解とは至らなかったアリーシャとロゼは、別々の方向に歩いていく。

 それは偶然、正反対の道ではなかったが……。

 

 また、当然のことながら。

 

「あ、あの……不思議な感覚なのですが」

 ――何が?

「いえ、自分の内側に誰かがいて、自分の内側から声が聞こえるという現状が……その」

 ――スレイはずっとこうだったのです。 

「スレイが……」

 ――確かにもどかしいかもしれませんが、スレイは全く気にした素振りを見せていませんでしたよね。

「う……そう、ですね」

 ――そうです。 ならばあとは、わかりますね。

「……これからよろしくお願いします、サムサラ様。 おやすみなさい」

 ――おやすみ、アリーシャ。

 

 おやすみなさい。

 

 

《サブスキット》「一方その頃、グリモ姐さんと……」

 

「ふぅ……」

「はぁ……」

「うぅん……」

「はふぅ……」

「……ねぇ、アナタ。 呼吸、しないんじゃなかったの?」

「そうよ? 貴女の真似をしていたのよ……もしくはあの子の真似かしら?」

「ふぅん。 ま、どうでもいいけどね……。 それより、こんなところで何をしているの?」

「地中深くに出るつもりだったのだけどねぇ。 あの子の嗜好が移って、暖かいところに来てしまったみたい」

「元サウスガンド領の、この南国へようこそ……と言いたい所だけど……気のせいでなければ、アナタ」

「ええ……沈んでいるわね」

「冷静なのね。 ふぅ。 まぁ、元々が地脈と区別のつかないようなカラダみたいだし……そういうこともあるのかも、ね」

「それじゃあ、グリモワール。 また会いましょうね。 今度は、何万年後か、わからないけど……」

「はぁい。 ……まぁ、無事でなにより、と」

 


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