ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題) 作:飯妃旅立
調べるの楽しくなって結局変な知識が増えて行きます。
ぴきーん。
ツマミ……沢山のツマミの気配を感知した。
「ん、どうしたんですか姐さん。 そんなに目を見開いて」
――イズルトには……ペンギョンがいる。
「へ? あぁ、そりゃ知ってますけど……」
――ペンギョンの刺身は珍味にして美味。 お酒に合う。
「いや、まぁ獲りたいなら止めませんけど……バレないようにやってくださいね。 船止めの反感を買わない程度でおねがいします」
――勿論。 隠匿の聖隷術はこういう時のためにある。
「ゼッタイ違うでしょソレ!」
南洋の都、イズルトに船は寄港した。
海中の感知範囲を強化して、あるモノを探す。
ペンギョンではない。 それもあわよくば、と願ってはいるが、それよりも大事なものだ。
それは、ジークフリートの解説書。
クィッキー半島から流れ着いたであろう、凄まじい耐水性を持つあの宝箱を攫っているのだ。
しかし、反応はない。 聖殿パラミデスの影響か、地脈の露出部が多すぎて感知を妨害される。 この分だともし私が地脈の内部に入ってしまえば、‘私’としての感知技能は使えなくなると見た方がいいだろう。
ノルミンとしてならば、別なのだが。
む。
対魔士……
「お、ペンギョン」
――網。
「いや、だから手伝いませんって! そりゃ食べたいのはわかりますけど……」
――行ってくる。
「は? ちょ、サムサラ姐さん!?」
身体を宙に躍らせて海に落ちる。
ぬぅ……体が浮く。 軽すぎるのも問題だな……。
ついでに水の気配が邪魔過ぎる。
アメノチ……天之常立は眠っているとはいえ、聖殿の間近だ。
――むぅ。
「サムサラ姐さんって泳げたんスね……。 ペンギョンはいましたー?」
――流石に戦う医学生には勝てないから諦める。
「はい?」
――何か掴まるモノ降ろしてくれるとうれしい。
「自力で上がってこれないのに落ちたんですか!?」
――上がれるけど、やると多分バンエルティア号がダメージを受ける。
具体的には黒水晶化というダメージを。
「どんだけペンギョンに目が無いんですか……網、降ろしますよ」
――ありがとう。
――定時連絡。 ペンギョンが欲しい。
――ダメだ。 欲しかったら自分で獲れ。 バレずにな。
――今どこにいる? 何をしてる?
――マクリル浜にいる。 グリモワールと出会う事が出来た。 サムサラ、グリモワールがノルミン族だという事は知っていたのか?
――うん。 かなり昔からいるノルミン。 ああいう性格の癖に、かなり初期に故郷を出た変わり者。
――それは既に理解した。 お前と親交はあるのか?
――ノルミンとしてなら知っていると思う。 私もそれなりに有名だから。
――お前は古代アヴァロスト語は読めないのか?
――そもそも古代アヴァロスト語は、グリンウッド語と言語体系が全く違う。 グリンウッド語が文字の組み合わせで意味を形作るのに対して、古代アヴァロスト語は単語と意味を紐づける。 あんな膨大な量の単語を覚える気になれなかった。
――つまり、読めないんだな。
――うん。
――ハリア村に着いた。 交信を切るぞ。
――うん。
正確に言えば、有名ではなく異端。
誠に不本意ながら、私と最も相性が合わないフェニックスと同じ括りに纏められることが多い。
ノルミン族は自然を操る霊力に劣り、他者の力を引き出す能力に秀でる。
私とフェニックスは、それに当てはまらないからだ。
プリペンドやインヴァリドなんかもその括りにされることがあるが、その中でも私とフェニックスは異端だ。 本能的にも性格的にも私はあいつが苦手なのだけれど。
フェニックス側は恐らく苦手意識なんてないのだろうなぁ。
アイゼンにも言ったように、古代アヴァロスト語は非常に覚えるのがめんど……難しい。
感覚と直感。 直覚と語感。 カタチ的には象形文字に近いか。
意味と単語を結びつけるのに一苦労。 結びつけた物を文にするのにまた苦労。 結び方を間違えても文になってしまうし、悪い意味で上手くいけばそのまま1ページが終わってしまう事もある。
恐らく現在グリモワールとライフィセットが古文書を読み解いているのだろうが、本来であれば凄まじい日数がかかるはずだ。
それが史実であそこまでの短時間で済んだのは、グリモワールのノルミンとしての能力故。
他者の能力を引き出す事に秀でたノルミン族。 グリモワールは『助言』のノルミンだ。
傍に居るライフィセットが求める事への助言を出し、元よりの力を高める事で読解を推し進めているのだろう。
八つの首もつ大地の主は。 八は循環。 繁栄、無限と万物を顕す。 つまり、この世界のシステムの事だ。
七つの口で穢れを喰って。 七は独り。 だが、全てと繋がりを持つ数字。 1の最も進化した形でもある。
無明に流るる地の脈伝い。 六は流れ。 物質の流れを顕す数字。 スムーズ、なんて意味合いもある。
いつか目覚めの時を待つ。 五は人間を顕す。 人間の変化や進化、その全てが五となる。
四つの聖主に裂かれても。 四は鎮め。 静寂や穏やかな死、完全。 静かなるモノを示す数字。
御稜威に通じる人あらば。 三は調和。 平定やバランスを司り、対立では為し得ない安定を掴み得る。
不磨の喰魔は生えかわる。 二は対立。 受動性や包容力を顕し、二極でのバランスを見せる。 また、女性を顕す。
緋色の月の満ちるを望み。 一は始まり。 大いなる意思や予兆を顕し、全ての数の元になる。 また、男性を顕す。
忌み名の聖主心はひとつ。 忌み名の聖主体はひとつ。
忌み名とは消えたモノの事。 消さなければならなかったモノの事。
つまり、零。 零は原点。 そして無限。 一と八を内包する数だ。
あの古文書に書かれた数え歌は、真実この世界を顕しているのだろう。
アヴァロンの民がこれを思い描いたのか、はたまたこれを造り出したのかは不明だ。
だが、この数え歌が八までしかない意味。
そう、九つという数字が意味するモノを考えれば、この世界の意味に気付く事が出来るだろう。
九つは、全ての物事を終わらせ、全てを受け入れるという意味だ。
!
喰魔が生まれたか。
聖殿パラミデス。 此度の聖主の御座を中心とした地脈円の、地脈の一つ。
海の名を冠するあの子を喰魔にした聖寮。
理に従っているように見えて、心を押し殺す時点で理から外れているその行為。
アルトリウスやメルキオルはともかく、一般の対魔士ならば穢れが溜まってもおかしくなかっただろう。
余程テレサの愛が深かったのだと窺い知れる。
まぁ、業魔に身を落とす前に死ぬことが出来たのだから業魔には感謝すべきだろう。 月を意味するあの母親によって。
――定時連絡。 ナマコは柚子胡椒、塩漬け、色々出来る。
――ロクロウと繋いでいたのか? まぁいい。 聖殿パラミデスに着いた。 業魔がいるようだな。
――うん。 それは感知してる。 アメノチのせいで捉えづらいけど。
――何……? まるで、聖主を知っているような口ぶりだな。
――知ってるよ。 少し前まで起きてたんだから。 ビエンフーやアイゼンはギリギリ生まれてなかったのかも。
――少し前……一体何年前の事だ。
――数千年くらい? アイゼンは何歳だっけ。
――……俺は、まだ千歳程だ。 そんなに歳を喰っていない。
――あれ、なんか貫禄あったからつい。
――聖主は存在した、か……。
聖寮の結界が消えた。
穢れは流れ、口は静まる。
そして――
彼女たちが、帰ってきた。
港でアイゼンとグリモワール。 そしてベルベット達が業魔について話している。
世界の仕組みの
業魔病の真実。 穢れとはなんなのか。
それでも、彼女は前に進む。 何故なら彼女は
「穢れを生まないようにする方法はないの?」
「ヒトがヒトである限り、ないわ。 言った通り、穢れは感情から生まれるものだから」
「あんたたちはなんらかの対応をしているはずよ。 聖隷にも、感情も心もあるんだから」
「聖隷は穢れを生むことはないのよ。 人と違ってね……」
人間は生まれた時から器を持っている。 それが、感情と心から穢れを排出する媒体になる。 重要なのは生まれた時から器を持っているという点。
「嘘ね。 あたしは聖隷が業魔化するのを見た」
「それは、外部の膨大な穢れに晒されたからよ。 だから聖隷は正常な存在を器にして、身を守る必要がある。 もっともそれも万全じゃないけどね」
そう、ノルミンでさえ業魔化するのだ。 遥かな未来、ノルミン・アタックのように。
凡霊として、凡百の霊として司るモノと、嗜好。 それが穢れの一因。
「器が穢れたら……聖隷も業魔化する」
「ご名答」
チラりとグリモワールがこちらを見る。
「エレノアが穢れたら、ライフィセットも業魔化する……」
「その通りよ。 小さな心の綻びが大きな志を砕く事はよくある……ピュアピュアな対魔士のお嬢さんを、余り虐めちゃだめよ……」
「忠告として聞いておくわ」
「アナタの事はたまに耳にするわ……わたしはグリモワール。 よろしく、ね」
――サムサラ。 よろしく。 私もあなたの事は知っている。
「これが交信術……慣れない感覚ね」
――グリモワール。 『助言』のノルミンとして、私に何か告げてくれる事は無い?
「あらやだ、知ってたの……? でも、無いわね。 アナタ、他人の助言なんて聞く気ないでしょう……?」
――うん。
「そういえば、アナタのノルミンとしての名前は知らないけれど……聞いたら教えてくれるのかしら?」
――教えない。 私が名前を教えたのは、世界で2人だけだから。
「へぇ……? ロマンチックな話ねぇ。 誰なのか聞いても?」
――アイフリードと、フェニックス。
「アイフリードっていうのは……この船の船長だったかしら。 そしてフェニックス。 ノルミン・フェニックスの事で合ってる?」
――うん。 あのオレンジ色の奴。
「アナタ、ネコ系でしょう? イヌ系のフェニックスに教えるなんて、珍しいわね」
――私もアレは苦手。 だけど、
「仕方が無かった、ね……。 気になる表現だけど、問い詰めないでおくわ」
――うん。 聞きたいならフェニックスから聞いて。
「会いたくもないわねぇ……」
「サムサラ!」
――何? ライフィセット。
「サムサラは、古代アヴァロスト語は読めるの?」
――極僅かなら。 グリモワールほどは読めない。
「でも、読めるんだね……! どこかで勉強したの?」
――物語の歴史を紐解けば、自ずと正解が見える。
「かっこいい……。 あ、ここってわかるかな……ユーカリミイラの意味がわかんなくて……」
――魔神の魂に触れられない。
「魔神の魂? どうやって読んだらそうなるの?」
――その文の最後の空白、痛んでいて消えているけど『ル』が入る。 並べ替えて、カイルユーリミラ。
「ほんとだ……! でも、魔神って何だろう……。 聖主とは違うのかな」
――そこはあまり気にしなくていいと思う。 重要なのは、その後のグシン……シングが抜け駆けをしたって事だから。
「抜け駆け? もしかして何かを奪い合ってるの?」
――ある種のステータスだと思えばいい。 ベルベットは持っているから。
「ベルベットが? 今度、聞いてみようかな……」
――今はわからないけど、いずれ、だね……。
「副長、王都にいる血翅蝶から
「丁度いい。 離宮にいた奴が喰魔かどうか確認したいし、向かうと伝えて」
「血翅蝶なら他の喰魔の位置も知っているかもしれんしな。 向うとするか」
魔王炎撃波は魔神剣の派生技ですから。