オーバーウォッチ・オンライン~next generations~   作:セラり

7 / 8
遅くなりました。


生死流転

~第1層・迷宮区~

 

 

 

ボスの待ち受ける部屋までの行軍は、静かなものだった。聞こえてくるのは、攻略組が装備する武器や防具のカチャカチャという擦れた音と時折散発的に話されるボソボソとした話声のみ。迷宮区の入り口で士気を高めるためにディアベルが発破をかけたものの、攻略組のメンツの顔は強張った者が大多数だ。

 

これがデスゲームなんかじゃなく、本来のVRMMORPGであれば本当はみんな意気揚々としてるんだろうなぁ。

かくいう俺もだいぶ緊張してるし。レイとかチョウも、普段の明るさは影を潜めている。

 

「最後に、もう一度確認しておくぞ」

 

俺たちは攻略会議から新しくパーティに加わったアスナのために、今までしてきた連携の流れをキリトから再度説明を受けている。

 

「俺たちのパーティは今回のボス戦では露払い、要は雑魚モブのセンチネルを片っ端から処理していくのが仕事だ。敵対するのは雑魚なんだけど、その分数も多い。基本のスタンスは、タンク役のチョウを全面に出して近くから俺とアスナが迎撃。レイはスピードを生かして遊撃兼攪乱。最後衛にヒーラーのクリス。場合によっては前線を押し上げるために俺も前に出るかもしれないから、クリスは常に周囲の警戒も頼む」

 

「了解」

 

「いよいよボス戦だね。私たちのレベルは高い方だとは思うけど、それでもやっぱり不安よね」

 

「ここまで来たんだから、今さら何言っても仕方ないわ。GG(good game)って言えるような戦いをしましょ」

 

「...そうね」

 

俺たちのパーティはこんな感じだ。ボス戦のおいしいところはディアベルたちのパーティに持ってかれるかもしれないけど、それでも死人が出るよりはマシだ。

仮にこの攻略で壊滅するようなことがあったら、それはもうクリアは絶望的とでも言っていい。それだけは避けないといけない。

 

 

 

 

 

 

「みんな聞いてくれ!

この扉が開かれたら、ボスが待ち構えてるはずだ。それでも、臆しちゃダメだ。

始まりの街で待つプレイヤーの希望は俺たちの手にかかっている。ここにいる全員が力を合わせれば、必ずボスを倒すことができるはず!

コボルドの王を倒して、全員で凱旋しようっ!

 

...みんな、勝つぞっ!!!」

 

『おおおおおおおおっっっっ!!!!!!!』

 

両開きの大きな黒塗りの扉がゆっくりと開かれていく。

 

初めは暗闇に包まれていたボス部屋も、攻略組一同がそこに足を踏み入れると徐々に明かりが灯っていき、その全貌が明らかとなる。

 

長方形の大ホールの半分を埋め尽くさんばかりの、軍隊然として並ぶセンチネルたち。

目算でも数百以上の数がいるのは間違いない。

その奥に、殺風景なホールに目立つように置かれた椅子は王座だろうか。そこに鎮座するは、センチネルとは一線を画すその巨体。それが示すのは、このホールのボスであり、俺たちが打倒すべき敵。

 

そいつに焦点を合わせると、こう表示されていた。

 

 

≪Gill Fang The Cobalt Load Type:Roudhog≫

 

 

 

デスゲーム初のボス戦の火蓋が、今ここに切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「各隊、タンクを前線に展開!敵を牽制しつつ、各個撃破するように!

敵のセンチネルは射撃武器を持ってないから、遠距離ではこちらが有利だ!タンクに張り付かれて近接戦闘になる前に片付けよう!」

 

ディアベルの号令の下、俺たちは横並びに隊を展開し、面制圧していくように前進していく。

 

断続的な銃撃音がそこら中から聞こえ始め、敵の前線の何体かがポリゴンと化していく。しかし数が多いため、まだまだコボルドロードの姿は遠目にしか見えない。

 

にしても、タイプ:ロードホッグ?ガイドブックには載ってなかったな。やっぱり、βの時からいろいろと手が加えられてそうだな。

 

今のところ、まだセンチネルと接敵はしていないのでダメージは誰も受けていない。

チョウの体躯には似合わない大きく展開されたエネルギーシールドの後ろからキリトのアサルトライフルを中心に一方的にダメージを与えていく。

他の隊も同じような感じだ。

 

 

 

数十分の戦闘の後、ある程度はセンチネルの数が減ったのか、攻略組はホールの半分ほどまで前線を押し上げていた。

しかし、前線を押し上げるということはその分センチネルとの距離も近づくわけで...

 

「うわっ、頼む!こいつを倒してくれ!」

 

どこの隊だろうか、いよいよセンチネルたちの前線とゼロ距離になりダメージを受けるタンクも出てきた。

 

センチネルの主な武装はサーベルなようなもので、タンクがシールドを張っていても、攻撃を受ければダメージは通ってしまう。タンクが張っているエネルギーシールドが弾けるのは銃弾の類だけで、近接攻撃は防ぐことができない。

 

それでもタンクがシールドを展開したままなのは、敵の各所から弓矢が飛来してきているためだ。

 

「ヒーラーはタンクの回復を最優先に!タンクは回復支援を受けつつ、隙を見てシールドダメージの回復をしてくれ!各隊のアタッカーは取りついてくるセンチネルの排除をメインに射撃!」

 

ディアベルも状況を見て大声で指示を出しているが、混戦になってきて統率もままならなくなってきている。

 

「チョウ、まだシールドは余裕か?」

 

「半分くらい持ってかれてるから、そろそろ回復させたいかも」

 

「了解。キリト!チョウのシールドを回復させるから、レイと前にでて牽制してくれ。ヒールはキリトにベタ付けしとくから、心配せずにダメージ食らっていいぞ!」

 

なんだよそれっ!と文句を言いつつも体を張ってくれるあたり、さすがはキリトだ。射撃の腕がいいのか、幸い俺たちのパーティはセンチネルにまだ取りつかれてはいない。

 

「レイ、Ultはどんな感じだ?」

 

「戦闘始まってからずっと撃ってるんだけど、ダメージが低いからそんなに溜まってないよ!50%くらい!」

 

このOWというゲーム、Ultを使うにはゲージを溜めないといけないらしく、アタッカーは主に敵への与ダメによってそのゲージの%は上がっていく。

サポートももちろん与ダメによってゲージは溜まるのだが、サポートの本分は回復のため、味方を回復させてゲージを溜めるのがメインだ。

俺の場合で言えば、回復量の10分の1だけ%を溜めることが出来る。

 

「オッケー、Ultが溜まったとしてもいざというときのために温存しといてくれ」

 

「りょーかいっ!」

 

 

 

 

「ハンマーァァダウンッ!!」

 

戦況も終盤に差し掛かったころ、もの凄い地響きがし、震源を見やるとラインハルトがUltを放っていた。ラインハルトの主装備はハンマーであり、そのハンマーが振り下ろされた先から地面がひび割れ、直線上にいたセンチネルは総じて地面に倒れていた。あのラインハルトのUltには≪スタン≫のデバフも付与されてるのだろうか。

 

ってか、あの人だけ格が違うというかいろいろと特別過ぎる気がするのは気のせいだろうか。

 

敵に回したくないな...

 

「わしが道を開ぁく!総員、ついてこい!正義は我にありっ!」

 

ラインハルトがそのハンマーをぶんぶん振り回しながら、敵陣を進んでいく。ラインハルトの進行方向にいたセンチネルはダメージを負いながらノックバックされ、それをディアベルたちパーティメンバーが仕留めていく。

 

好機は今!

 

誰のセリフだったっけな。とにかく、道が開けてようやくとコボルドロードの姿がお目見えする。

 

ラインハルトはそのままの勢いで殴りかかろうとするが、急にその足を止めシールドを展開する。

 

事前に、いるかもしれないという話だったが、コボルドロードを守るように両脇に偵察型ロボット兵が配置されていた。

 

1人前に飛び出した形となったラインハルトはロボット兵の集中射撃を食らい、展開したシールドはみるみるうちに削られていく。

 

「ぬぉっ、バリアが持たん!援護を頼む!」

 

ラインハルトが蹴散らしたセンチネルの処理をなんとか終えて追いついたディアベルたちだが、弾幕の雨のような銃撃を浴びせ続けるロボット兵を前にひるんでいるのか、援護射撃をしているものの命中率はどうもよくない。

 

ただ、ここが勝負どころなのは間違いなさそうだ。

 

「レイ、俺たちも援護だ!左の奴を頼む!」

 

「まっかせて!」

 

レイはロボット兵のヘイトを稼いでいるラインハルトの後ろから回り込んで片方のロボット兵に近づき、今まで温存していたUltを使った。

 

「これあげる!」

 

レイはロボット兵に手に持っていた何かを投げつけて急いで戻ってきた。その数秒後、爆音とともにレイに何かを投げつけられたロボット兵は爆発し、自分を構成していた機械部品をまき散らしながらポリゴンとなって四散していった。

 

これが、レイに発現していたUltの≪パルスボム≫だ。UltゲージがMaxになると小型の高性能時限爆弾を携帯できるようなり、粘着性もあるため敵にくっつけることができれば周りの敵を巻き込んでまとめて倒すことが出来るらしい。まだレイ自身のレベルが低いのとパルスボムを使う機会が今までなかったため威力は本来の最低レベルらしいのだが、それでもロボット兵を爆散させられるくらいには凶悪なUltだった。

 

「ぬはは、助かった!お主の母親を思い出すわ!」

 

「ラインハルト、それ内緒!」

 

レイは大げさに身振りでしーっとしながら、きちんとパルスボムを直撃させれたためかかすかに笑顔が見て取れた。

 

 

 

 

 

「全部隊、あと一押しだ!ボスのHPバーももう少しで一本になる!」

 

レイのパルスボムから攻勢が続き、このホールに残る敵もボスを含めて数十匹というところまできた。今はディアベルのパーティを中心にコボルドたちを追い込むようにして半円に陣取り、集中砲火でコボルドロードのHPを削り続けている。

 

残るコボルドを囲むように戦闘をしているため各パーティの距離間隔はかなり縮まり、キリトたちの体力にも余裕があるため俺は全体回復系のヒーラーと一緒に後方で回復支援を行っている。

俺も隙をみて攻撃したいのだが、味方が断続的にダメージを食らっているため中々手が出せないでいる。

 

コボルドロードのHPバーの3本目を削りきり、ラスト1本に入ったところでコボルドロードに変化が見られた。

 

残り少ない取り巻きのセンチネルに向かって会話をするかのように吠えたと思ったら、コボルドロードは後ろへ飛び退き、残りのセンチネルたちがコボルドロードを庇うかのように動き始めた。

 

ちっ、あまり距離を開けられたら銃弾の威力減衰やらであまりダメージが通らなくなるな...。

 

なんとかして前線も距離を詰めようとするのだが、センチネルが死にもの狂いで抵抗するため思うようにいかないでいると、センチネルの後ろに退避したコボルドロードがどこからか小瓶を取り出し、一気に呷りはじめた。

するとたちまち残り1本まで減らしたHPバーが2本目の半ばまで回復したではないか。

 

「こいつ、自己回復持ちかよ!」

 

「これ以上回復されると厄介だ!回復回数の制限があるかも分からない以上ボスを優先して攻撃しよう!俺たちは回り込んでコボルドロードに付くからその間にセンチネルの排除を頼む」

 

ディアベルはそう言い残して他のパーティに前を任せ、裏へ回る動きをみせる。

 

「ヴぉおおおおおおお」

 

とディアベルのパーティが配置につくかどうかというタイミングでコボルドロードが吠えた。

 

「まずい、ハウリングだ!全員、防御姿勢!」

 

ハウリング≪咆哮≫は主に動物系のモンスターがよく使う技で、レベル差があったり、油断して食らってしまうと数秒間の硬直ペナルティを科されてしまう。

 

ディアベルも咆哮に気づくのが早かったが、それでもコボルドロードのハウリングの判定のほうが早かったらしく、今までコボルドロードが使ってこなかったことが災いしてラインハルトを含めほぼ俺たち全員が硬直のペナルティを受けて固まっている。

 

コボルドロードがこの隙を見逃すわけもなく、裏を取ろうと近づいていたディアベルたちに向かってタックルしダメージを負わせる。そして、不敵な笑みを浮かべながら腰にぶら下げていたショットガンを片手に持ち、タックルで吹っ飛ばした中でもディアベルに照準を定める。

 

ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ!!

 

今ディアベルがあのショットガンを食らったらまずい!タックルで受けたダメージと合わせてHPが吹き飛んでしまう!

 

タンクのラインハルトも状況を分かっているのだろう、シールドを展開しようとするがタックルと硬直のペナルティのせいでまだ動けないでいる。

 

 

 

 

-----------------------ドンッ

 

一発の銃声が響く。

 

それは、俺たち攻略組の誰かが放ったものではない。

 

コボルドロードの片手で構えたショットガンから一瞬のマズルフラッシュとともに硝煙が舞い上がるのが嫌でも見えてしまった。

 

そのショットガンから放たれた散弾は、硬直から復帰しディアベルを庇おうとして即座に展開したラインハルトのシールドをすり抜け、命中してしまう。

 

その光景がスローに見えるのは、俺が思考した最悪の展開だったからだろうか。

 

ディアベルのHPバーがイエローゾーンからレッドゾーンに止まることなく突入し、助かる可能性を残すことなくHPを削り取った。

 

硬直のペナルティは終わったはずなのに、誰もが動けないでいる。

 

--------ここまで誰も死ななかったのに。

 

--------こんなのありえない。

 

そういった感情で皆が一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

「小僧っ!!」

 

静寂としていたホールにラインハルトの怒声が響く。

 

「主のアルティメット(Ultimate)今使わんでどうするっ!!」

 

はっとして、その言葉が俺に向けられていることに気づく。

 

 

 

そうだよな、今使わないでどうするクリス・ジーグラー--------。

 

母さんに憧れて、ゲームの中とはいえ奇しくも手にしたこの力----------。

 

 

 

この世界で唯一の俺の力-----------。

 

 

 

俺は今にもデータの欠片となりポリゴン化が進むディアベルに届く効果範囲のギリギリまで近づき----------------

 

 

 

 

 

 

「誰も死なせないっっ!」

 

 

≪リザレクト≫

 

 

その効果は蘇生------------。

 

 

 

 

 

 

ポリゴン化が進んでいたディアベルが天から射す黄金のような光に包まれ、何事もなかったかのように元の姿を形成しはじめる。

 

皆が皆、信じられないといった様子で今起きた現象を呆然と見ていた。

 

良かった、これで誰も死なずにすm...っつ!?

 

ディアベルの姿が形成し終わった瞬間、俺の頭の中に津波のようにナニかが流れ込んできた。

 

 

 

っ...これは・・・絶望?そして、痛み・・・?

 

 

 

止めどなく流れてくるその感情が、クリスの頭を埋め尽くしていく。

 

 

 

今、俺は立っているのだろうか?

 

視界がぐにゃりと歪み、自分が立っているのかどうかさえあやふやになっている。

 

そんな視界の端で、ラインハルトが笑っているのをおぼろげに捉えた。

 

その笑みは俺への賞賛と覚悟を秘めているように見えた。

 

---------覚悟?

 

 

 

 

ラインハルトはおそらくそうなるだろうと予感していた。

むしろ、これが結末として茅場に仕組まれているとすら思えた。

 

「タイプ:ロードホッグてのはとどのつまり、そういうことじゃろ・・・」

 

コボルドロードは今までで一番の獰猛な笑みを浮かべ、どこからか銃を取り出す。

 

機関銃にしか見えないそれを。

 

「こやつの銃弾、わしが全てを引き受けた。たとえこの命に代えようと、残弾尽きるまで受け止めようぞ。全軍・・・fire(撃て)!!!!」

 

 

 

 

 

コボルドロードの手にした機関銃は、ラインハルトの盾を容易く食い破っていく。

 

ラインハルトの声から、攻略組が銃撃を仕掛けるも、コボルドロードはひるむことなく機関銃を撃ち続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらいたっただろうか。

 

ひょっとしたら、数十秒もなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明滅しながらブラックアウトしていく俺の視界の中で、ラインハルトがポリゴンと化すのが見えた------------------。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クリス
【Ult】:リザレクト(Lv.1)
【効果】:回復エネルギーを放射して、近くにいる倒された味方1人を、体力最大の状態で戦線へ復帰させる。
【代償】:???


レイ
【Ult】:パルスボム(Lv.1)
【効果】:オブジェクトの表面や、敵に付着可能な小型爆弾を投げる。投げてから数秒で爆発し、範囲内の敵すべてにダメージを与える。
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