インフィニット・ストラトス―失われた未来― 作:レイブラスト
一週間後。クラス代表決定戦が行われる日が訪れた。一夏とセシリアが居る側のピットでは、2人の他に箒とマドカ、簪が応援に駆けつけて来ていた。
「いよいよ奴との試合か……コンディションの方は万全だろうな?」
「勿論だよ箒」
「問題ありませんわ」
「まあ一夏姉さんとセシリアなら大丈夫だろう。相手の機体はブレードが一本だけみたいだし」
i-padに表示された春也専用IS『白式』を見ながらマドカが言う。今日搬入されたばかりだが、どうにかデータを入手できたのだ。
「これが白式……」
画面に映る機体を複雑そうに簪が見る。そんな彼女の表情に、一夏はあることを思い出した。
(そういえば簪のISって、春也の専用機にスタッフを取られたせいで開発が一時期滞っていたんだっけ)
「? 一夏?」
「え、何? 簪?」
「じっとこっち見てたから……どうかしたの?」
「いや、さ……簪の専用機のこと思い出してて。この前あんなことになったんだし、気にしてるんじゃないかなぁって」
見られていることを不思議に思って尋ねた簪に、言葉を選びながら答えると彼女は「ああ、そのことか」と何度か頷いた。
「別に気にしてはいないよ。もう過ぎたことだし、凌馬さんが開発を請け負ってくれたから。ただ……」
「ただ?」
「この子が可哀想だなって。こんなに綺麗な機体なのに、あんな奴に使われることになって」
「それは言えてるな。あんなクズが操縦者ではな……」
同情を含んだ簪の発言に、マドカも嘆息をつきながら機体のデータを眺める。そしてチラッと時計を見てからセシリアを向いた。
「そろそろ試合開始時間だ。お前が先に行く筈だったか?」
「ええ。では行ってきますわ」
「頑張ってね」
「勿論ですとも」
応援の声を掛けた一夏に微笑むと、ブルー・ティアーズを展開してカタパルトに移動する。
「セシリア・オルコット。ブルー・ティアーズ……発進!!」
背面のスラスターを噴かし、セシリアは戦いの場へと躍り出た―――
「? 春也はまだ出てきてないんだ」
「機体の到着が遅れているかもしれん……っと、言ってたら出てきたぞ」
腕組みしながらアリーナが映るモニターを見ていた箒が、出撃してきた白式の姿を視認する。だがその姿にある違和感を彼女は抱いた。
「ん? おいちょっと待て。白式はまだ初期形態のままじゃないか?」
「え!? そんな状態でどうして?」
「時間が無かったんだろうさ。ま、この状況で奴がどう動くかは見物だが」
「あっ、もう始めたみたい。セシリアが先に仕掛けた」
試合展開をいち早く察知した簪により皆がモニターを注視すると、ライフル形態の『スターライトmkⅢ』で牽制を行うセシリアの姿が見えた。
「どうも狙いが本気じゃないな。相手が初期形態だと気づいているのか?」
「多分そうかも。セシリアのことだから、自分と同じ土俵に立たせてから完膚無きまでに叩きのめすんじゃないかな?」
「一夏がそう言うなら、間違ってないと思う」
「だな。一夏姉さんは彼女のことをよく知っているし。……ん、どうやら勝負が動きだしそうだ」
モニターを見るマドカの目には、
(結局ビット兵器は使って来なかったか……何を考えている?)
(何にせよ
原作の一夏は零落白夜を使用した為にエネルギー切れで敗北となってしまった。だが彼はそれを知っているので自滅しない自信があり、勝利できる可能性も考えていた。
その直後、ブルー・ティアーズから四機のビットが分離。春也にレーザーを一斉射してくる。それを回避すると、雪片弐型を振りかぶって接近していく。が……
「ぐわっ!?」
背中に衝撃を感じて思わず振り返る。彼の目にはビット達が動き回りながらレーザーを放ち、更にそれが曲がる光景が見えた。
(な、何だこの動きは!? それに偏向射撃だって!? バカな、タイミングが早すぎる!!)
混乱しかけるが、すぐに頭を冷やしてスラスターを全開にし、スターライトmkⅢによる攻撃もお構いなしに突っ込んで零落白夜を発動―――
「甘い…甘過ぎますわ」
―――したのだが、セシリアはスターライトmkⅢの銃身を分割してマシンガンモードへと切り替え、フルオートでビットと共に撃った。
「なっ、実弾兵器!? 何故そんな隠し球が……うおわぁっ!?」
自分が持つ知識とは異なる現状と本来存在する筈の無い武器に驚愕したまま、春也は撃墜されエネルギーが尽きた。
セシリアとの試合に敗北した春也は、機体のエネルギーを回復させながら試合内容を思い出していた。
(操縦技術は明らかに向上していた……少なくとも束さんが作ったシミュレーターを使い続けている僕以上に、だ。しかもライフルが分割するなんて原作にない。一夏姉さんが関わったことで何かしら変化が起きているんだ、きっと……チッ)
またアイツか―――苛ついて舌打ちするが、すぐに気持ちを切り替えて次の試合へと集中する。
(そうだ。次は一夏姉さんと戦うんだ。そこで今度こそ、再起不能なまでに叩きのめしてやる!)
(何を考えているのやら……どうせ碌でもないことだろうな)
雪片弐型を強く握り締めてニヤリと笑う春也を見て、千冬は深くため息をついた。
「お疲れ、セシリア! カッコ良かったよ」
「ありがとうございます、一夏さん」
ピットに帰還したセシリアはISを解除すると、駆け寄って労いの言葉を掛ける一夏と微笑み合う。
「おいおい、帰ってきて早々にイチャつかないでくれ。周囲の温度が高くなる」
「今更だろ。それより次は一夏と織斑春也の試合だ。気張って行くんだぞ」
「任せて!」
自信満々に頷くと、エネルギーが回復した白式が出撃するのを見計らってアリーナへと歩き始めた。
「待って、変身しないの?」
「ん…折角だからさ。みんなに見せたいと思って。私の―――変身を」
呼び止めた簪に微笑んで言うと、一夏は歩を進めた。
アリーナでISを纏って待機していた春也や、観客達は目を疑った。一夏は生身の状態で歩いて現れたのだ。
「……どういうつもりかな、一夏姉さん。僕と戦う気は無いとでも?」
「違うよ。私の変身、見て欲しいんだ……貴方にも…みんなにも」
春也を見上げながら戦極ドライバーを腰に当てて装着すると、右手に握り締めたオレンジロックシードを解錠する。
『オレンジ!』
解錠と同時に頭上にオレンジアームズが出現し、ゆっくりと降下し始める。その光景は目にした者全てを驚愕させた。
『な、何あれ!?』
『鎧? オレンジ?』
「こ、これは……!」
「行くよ春也……変身!」
『ロック・オン!』
オレンジロックシードを戦極ドライバーの窪みにセットしてロックを掛けると、認証音声と共にホラ貝のBGMが会場中に響き渡る。視線が更に集まってくる中、一夏はカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにする。
『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』
一気にアームズが頭部に被さり、全身をアンダースーツで覆われると同時に展開して鎧になって装着。彼女の姿を仮面ライダー鎧武 オレンジアームズに変えた。
(その姿、やっぱり……!)
「覚悟して。ここからは、私のステージなんだから!」
ISモードに切り替わった鎧武はPICで宙に浮いて、左手に持った大橙丸の切っ先を春也に向ける。これまで感じていた疑念がとある確信へと変わりながら、春也は雪片弐型を握り直す。
「言うじゃないか。一夏姉さんの分際で……調子に乗るな!!」
「それはこっちの台詞!!」
大橙丸で防御され、腰のホルダーから引き抜いた無双セイバーで斬りつけられる。
「ぐっ! この!」
今度は別の方向から攻めたり、急角度で攻め込んで行くがいずれも鎧武には届かない。全て防御されるか受け流され、その度に攻撃を受けていた。
「ええい! だったらこれでどうだ!」
業を煮やした春也は再び
『ソイヤッ! オレンジスカッシュ!!』
「やああああああっ!!」
……鎧武はそれを読んでいたかのように、カッティングブレードを倒し振り向きながら回し蹴りを放つ。
「っ!? ぐほぁあああっ!!」
あまりの反応速度に動きが鈍った春也は必殺の無頼キックをモロに食らって墜落。敗北した。
試合の様子を見ていたセシリア達は、一夏の勝利を喜ばしく思っていた。
「さすが一夏さんですわ」
「エネルギーも最後のキックで使った以外には減っていない。完封勝利だ」
「これで奴も身に染みただろうさ。もう一夏姉さんは、お前なんか怖くも何ともないってことが」
「それより次は一夏とセシリアの試合だけど、どっちが勝つと思う?」
「「どっちがか……むう……」」
顔を見合わせて唸る箒とマドカ。正直なところ予想がつかないのだ。時には一夏が勝利し、時にはセシリアが勝利する。2人の戦いはそんな調子だったのだから。
「そう悩まないで下さいな。私は一夏さんとの勝負なら、勝っても負けても悔いはありませんもの」
「そうは言うが……って、お前何故ISを解除してアリーナへ向かう? まさか……」
「ふふっ。一夏さんと戦うのなら、こちらの方が良いですから」
懐から取り出した戦極ドライバーを見せると、彼女は一夏と同様に歩き出した。